Appendix D 代表的な時空の曲率量:公式集¶
前回までのあらすじ: Appendix C までで、テンソル解析の計算技法と微分形式の道具立てを整備した。ここまでの本編で、Schwarzschild (シュヴァルツシルト) 時空、一般球対称時空、Friedmann-Robertson-Walker (フリードマン-ロバートソン-ウォーカー, FRW) 宇宙モデルなど、多くの具体的な時空を扱ってきた。しかし、各章に散らばった結果を毎回探し直すのは大変だ。
この章のゴール
- これまでの全章で登場した代表的な時空について、計量・Christoffel 記号・Riemann 曲率テンソル・Einstein テンソルを一覧表として整理する
- 今後の応用や演習で「辞書」として繰り返し参照できる公式集を完成させる
🟡 リナ: さて、二人とも。ここまで長い旅だったわね。特殊相対論から始まって、曲がった時空、測地線、ブラックホール、宇宙論、そして Einstein 方程式——膨大な内容を学んできた。
🔵 カイ: 正直、もう頭がパンクしそうです……。Schwarzschild の Christoffel 記号とか、FRW の Einstein テンソルとか、「あれ何だっけ?」ってなるんですよ。
⚪ メイ: 私もよ。毎回ゼロから計算し直すのは現実的じゃないわ。
🟡 リナ: だからこそ、この章を作るの。数学の公式集を試験に持ち込むのと同じ感覚で、一般相対論の辞書として使ってほしい。計算の「結果」をまとめるだけじゃなく、各量の物理的意味も確認しながら進めていくわよ。
D.1 基本定義の確認¶
🟡 リナ: まず、公式集に登場するすべての幾何学量の定義を一か所にまとめておくわ。本編の第 4 章以降で学んだ内容の要約でもある。この章で扱う 3 つの主要な計量の全体像は 図 D.1「主要な計量の比較」 を見てね。Minkowski(平坦)、Schwarzschild(球対称真空)、FRW(一様等方宇宙)——この 3 つが一般相対論で最も基本的な計量よ。
図 D.1: 主要な計量の比較。Minkowski、Schwarzschild、FRW の 3 つの主要な計量。
D.1.1 計量テンソル(metric tensor)¶
🟡 リナ: 計量テンソル \(g_{\alpha\beta}\) は、時空の「ものさし」。2 点間の線素を
と定める。平坦な Minkowski 時空では \(g_{\alpha\beta} = \eta_{\alpha\beta} = \mathrm{diag}(-1, +1, +1, +1)\)。重力がある場合は \(g_{\alpha\beta}\) が座標の関数になる。
🔵 カイ: 計量テンソルが「重力場そのもの」を表しているんでしたよね。
🟡 リナ: その通り。Newton のモデルでは重力ポテンシャル \(\Phi\) が重力場を表したけど、Einstein のモデルでは計量テンソル \(g_{\alpha\beta}\) がその役割を担う。
D.1.2 Christoffel 記号¶
🟡 リナ: 定義式を見れば分かるように、\(\nu\) と \(\sigma\) を入れ替えても右辺は変わらない。つまり下添字について対称:\(\Gamma^\mu{}_{\nu\sigma} = \Gamma^\mu{}_{\sigma\nu}\)。これで独立成分の数が半分近くに減るわ。
⚪ メイ: 定義式の構造から自動的に従う性質なのね。
🟡 リナ: 物理的には、測地線方程式
に登場する量。「曲がった時空で真っ直ぐ進む」とはどういうことかを教えてくれる。
D.1.3 Riemann 曲率テンソル¶
🔵 カイ: 4 階のテンソルって、式を見ただけだと何を表しているのか全然ピンとこないんですけど……。これが潮汐力に関係するって、どういう意味ですか?
🟡 リナ: 直感的に言うとね、近くを並んで自由落下する 2 つの粒子が、互いに近づいたり離れたりする——その「相対加速度」を決めるのが Riemann テンソルなの。地球の近くで上下に並んだ 2 つのボールを落とすと、下のボールの方が重力が強いから間隔が広がるでしょう?あれが潮汐力で、その大きさと方向を正確に記述するのが Riemann テンソルの役割よ。
さて、4 階のテンソルだから、各添字が 0〜3 の 4 通りをとって、成分は全部で \(4^4 = 256\) 個ある。でも対称性により、独立成分は 20 個だけ。数え方の概略を示すわね:
- \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} = -R_{\beta\alpha\gamma\delta}\)(第 1・第 2 添字の反対称性)
- \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} = -R_{\alpha\beta\delta\gamma}\)(第 3・第 4 添字の反対称性)
- \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} = R_{\gamma\delta\alpha\beta}\)(前半と後半の対の交換対称性)
- \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} + R_{\alpha\gamma\delta\beta} + R_{\alpha\delta\beta\gamma} = 0\)(第 1 Bianchi (ビアンキ) 恒等式:第 2〜4 添字の巡回和がゼロ)
最初の 2 つの反対称性から、\([\alpha\beta]\) の組は \(\binom{4}{2} = 6\) 通り、\([\gamma\delta]\) の組も 6 通り。つまり \(6 \times 6 = 36\) の独立な組み合わせがある。さらに 3 番目の対称性(前半と後半の交換)により、\([\alpha\beta]\) と \([\gamma\delta]\) を入れ替えても値が同じ。ここで、独立な成分を数えるために便利なテクニックを使うわ。4 階テンソルの成分 \(R_{\alpha\beta\gamma\delta}\) は添字が 4 つあって複雑だけど、反対称性のおかげで \([\alpha\beta]\) のペアと \([\gamma\delta]\) のペアをそれぞれ「1 つのラベル」とみなせるの。ペアは 6 通りだから、\(R_{\alpha\beta\gamma\delta}\) の独立な成分を \(6 \times 6\) の表(行列)に並べ替えられる。\([\alpha\beta]\) の 6 通りを行番号、\([\gamma\delta]\) の 6 通りを列番号とする \(6 \times 6\) 行列を考えるの。具体的には、6 つの反対称ペアに \([01], [02], [03], [12], [13], [23]\) のように番号 \(i = 1, 2, \ldots, 6\) を振って、\(M_{ij} = R_{[\alpha\beta]_i [\gamma\delta]_j}\) という行列を作る。例えば \(M_{12} = R_{0102}\)(ペア \([01]\) とペア \([02]\) の組み合わせ)、\(M_{21} = R_{0201}\)(ペア \([02]\) とペア \([01]\) の組み合わせ)で、交換対称性 \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} = R_{\gamma\delta\alpha\beta}\) から \(M_{12} = M_{21}\) が従う。一般に、この交換対称性は行列の対称性 \(M_{ij} = M_{ji}\) に対応する。
🔵 カイ: なるほど、4 階テンソルを 2 階の行列に「圧縮」して見通しをよくするんですね。対称行列なら独立成分の数え方は分かります。
🟡 リナ: その通り。対称行列では \((i,j)\) 成分と \((j,i)\) 成分が等しいから、独立な成分は「対角成分」と「対角線より上の成分」だけ。\(6 \times 6\) 行列なら対角成分が 6 個、対角線より上の非対角成分が \(5 + 4 + 3 + 2 + 1 = 15\) 個(1 行目は自分より右に 5 個、2 行目は 4 個、……と減っていく)。合わせて \(6 + 15 = 21\) 個。これは一般に \(n \times n\) 対称行列の独立成分数 \(n(n+1)/2\) で \(n = 6\) とした結果ね。
⚪ メイ: ここまでで 21 個ね。でもさっきの対称性リストにはもう 1 つあったわよね?
🟡 リナ: よく覚えていたわね。そう、Bianchi 恒等式がまだ使われていないの。\(R_{\alpha\beta\gamma\delta} + R_{\alpha\gamma\delta\beta} + R_{\alpha\delta\beta\gamma} = 0\) ——これが新しい制約を与えるのは 4 つの添字がすべて異なる場合だけなの。添字に重複があると、反対称性から各項がゼロになるか互いに打ち消し合って、恒等式は自明に成立してしまう。
🔵 カイ: 具体的にはどういうことですか?
🟡 リナ: 一番分かりやすい例を 1 つだけ見せるわね。\(\alpha = \beta\) なら、第 1 項は \(R_{\alpha\alpha\gamma\delta} = 0\)(前 2 添字の反対称性で同じ添字が並ぶとゼロ)。残りの項も同様にゼロになるから \(0 + 0 + 0 = 0\) で自明ね。他の重複パターン(例えば \(\gamma = \alpha\))でも同様に自明に成立することが確認できるわ——興味があれば練習問題として試してみて。
⚪ メイ: つまり、本当に新しい情報を与えるのは 4 つの添字がすべて異なる場合だけなのね。
🟡 リナ: その通り。4 次元で 4 つの値 \((0,1,2,3)\) をすべて使う場合を考えましょう。Bianchi 恒等式は第 2〜4 添字の巡回和だから、第 1 添字 \(\alpha\) を固定して残り 3 つ \((\beta,\gamma,\delta)\) を巡回させる形になっている。\(\alpha\) の選び方は 4 通りあるけど、実はどの \(\alpha\) を選んでも同じ式に帰着するの。具体的に見てみましょう。\(\alpha = 0\) を選ぶと \(R_{0123} + R_{0231} + R_{0312} = 0\)。次に \(\alpha = 1\) を選ぶと \(R_{1023} + R_{1230} + R_{1302} = 0\)。ところが対称性を使うとこの式は \(\alpha = 0\) の場合と同じ内容に帰着するの。
🔵 カイ: えっ、\(\alpha\) が違うのに同じ式になるんですか?
🟡 リナ: そう。例えば \(R_{1023}\) は前 2 添字の反対称性 \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} = -R_{\beta\alpha\gamma\delta}\) から直接 \(R_{1023} = -R_{0123}\) と分かる(添字 1 と 0 を入れ替えるだけ)。\(R_{1230}\) も同様に、前後ペアの交換対称性 \(R_{\alpha\beta\gamma\delta} = R_{\gamma\delta\alpha\beta}\) を使うと \(R_{1230} = R_{3012}\)、さらに前 2 添字の反対称性で \(R_{3012} = -R_{0312}\) となり、\(\alpha = 0\) の式の第 3 項に帰着するの。\(R_{1302}\) も同じ手順で \(\alpha = 0\) の式の第 2 項に帰着する(残りの \(\alpha = 2, 3\) も同様に確認できるわ——練習問題として試してみてね)。だから独立な Bianchi 恒等式は 1 本だけ。結局 \(21 - 1 = 20\) 個が独立成分になるの。
⚪ メイ: 対称性を 1 つずつ使って 256 → 36 → 21 → 20 と絞り込んでいくのね。きれいな構造だわ。
D.1.4 Ricci テンソルとスカラー曲率¶
🟡 リナ: Riemann テンソルは 4 階で情報が多すぎるから、添字を 1 組つぶして(縮約して——つまり、1 つの上添字と 1 つの下添字を同じ文字にして和をとる操作ね)2 階テンソルにしたのが Ricci テンソル \(R_{\mu\nu}\)。定義式 \(R_{\mu\nu} = R^\rho{}_{\mu\rho\nu}\) を見ると、もとの Riemann テンソル \(R^\alpha{}_{\beta\gamma\delta}\) の第 1 添字(上付きの \(\alpha\))と第 3 添字(下付きの \(\gamma\))を同じ文字 \(\rho\) にして \(\rho = 0, 1, 2, 3\) の和をとっているわ。残った第 2・第 4 添字が Ricci テンソルの \(\mu\), \(\nu\) になるの。Riemann テンソルが「方向ごとの潮汐力」を全部記録しているのに対して、Ricci テンソルはそれを「ある方向に沿った体積変化」にまとめたものなの。具体的には、自由落下する小さな球が、周囲の物質の重力で潰されたり引き伸ばされたりして体積が変わる——その変化率を表す量よ。
🔵 カイ: 「方向ごとの潮汐力」を足し合わせると「体積変化」になるっていうのは、どういうイメージですか?
🟡 リナ: いい質問ね。例えば、小さな球を考えて。Riemann テンソルは「\(x\) 方向に潰される」「\(y\) 方向に引き伸ばされる」「\(z\) 方向に潰される」……と、各方向の変形を個別に記録している。Ricci テンソル \(R_{\mu\nu}\) の縮約は、これらの変形を全方向について足し合わせる操作に対応するの。全方向の変形を合計すれば、球全体の体積が増えるか減るかが分かるでしょう?だから縮約が体積変化に対応するのよ。さらにそのトレース(全方向の平均)がスカラー曲率 \(R\)。Einstein テンソルはこの 2 つから作られる。
⚪ メイ: Riemann が「方向ごとの潮汐力」で、Ricci がその「まとめ」——全方向の変形を足し合わせた結果ね。
🟡 リナ: その通り。
D.1.5 Einstein テンソル¶
🟡 リナ: Einstein 方程式は(幾何学単位系 \(G = c = 1\))
左辺 \(G_{\mu\nu}\) が時空の曲がり具合、右辺 \(T_{\mu\nu}\) がエネルギー・運動量の分布。なぜ \(R_{\mu\nu}\) ではなく \(G_{\mu\nu}\) が左辺に来るかというと、\(G_{\mu\nu}\) には \(\nabla^\mu G_{\mu\nu} = 0\) という恒等式(Bianchi 恒等式から導かれる)が自動的に成り立つの。ここで \(\nabla_\mu\) は共変微分——普通の偏微分 \(\partial_\mu\) に Christoffel 記号による補正項を加えた、曲がった時空での微分演算子よ(本編 第 12 章 で詳しく学んだわね)。直感的には「座標系の曲がりに惑わされずに、テンソルの本当の変化率を取り出す微分」と思ってくれればいいわ。\(\nabla^\mu\) は \(g^{\mu\alpha}\nabla_\alpha\) の略記で、共変微分の添字を計量で上げたもの。\(\nabla^\mu G_{\mu\nu} = 0\) の意味を具体的に言うと、\(\nabla^\mu\) の \(\mu\) と \(G_{\mu\nu}\) の最初の \(\mu\) が同じ文字で上下に現れているから、Einstein の縮約規則で \(\mu = 0, 1, 2, 3\) の和をとるの。つまり \(\nabla^0 G_{0\nu} + \nabla^1 G_{1\nu} + \nabla^2 G_{2\nu} + \nabla^3 G_{3\nu} = 0\) が各 \(\nu\) について成り立つ——これが「共変的な発散がゼロ」という意味よ。
🔵 カイ: 普通の「発散」みたいなものだけど、曲がった時空用に補正が入っているんですね。
🟡 リナ: その通り。普通の偏微分 \(\partial^\mu\) で同じことをやると「普通の発散」になるけど、\(\nabla^\mu\) は Christoffel 記号による補正が入っているから「曲がった時空でも正しい発散」になるの。構造としては上の和の形だけど、各項の中身が偏微分より少し複雑——それだけの違いよ。この恒等式が右辺のエネルギー保存則 \(\nabla^\mu T_{\mu\nu} = 0\) と整合するから、方程式として無矛盾になる。つまり右辺の物質分布が左辺の曲率を決定し、逆にその曲率が測地線を通じて物質の運動を決める。Wheeler (ホイーラー) の名言で言えば:「物質が時空に曲がり方を命じ、時空が物質に動き方を命じる」('Matter tells spacetime how to curve, and spacetime tells matter how to move')。
⚪ メイ: エネルギー保存則と幾何学的な恒等式が自動的に整合する——だから Einstein テンソルが方程式の左辺にふさわしいのね。
D.1.6 正規直交基底(テトラド)¶
🟡 リナ: ここで「正規直交基底」を導入する理由を先に言っておくわね。座標基底で書いた Riemann テンソルや Einstein テンソルの成分は、座標の取り方に依存して複雑な因子がつく。でも正規直交基底で書けば、各成分が局所的な物理量(潮汐力の大きさ、エネルギー密度、圧力など)に直接対応するの。だからこの公式集では、曲率量を正規直交基底成分で載せている箇所が多いわ。
🟡 リナ: 思い出してほしいのだけど、計量テンソル \(g_{\alpha\beta}\) は 2 つのベクトルの内積を計算する道具だったわね。高校で習ったベクトルの内積 \(\mathbf{u} \cdot \mathbf{v} = u_x v_x + u_y v_y + u_z v_z\) を一般化したもので、曲がった時空では \(g(\mathbf{u}, \mathbf{v}) = g_{\alpha\beta}u^\alpha v^\beta\)(同じ添字 \(\alpha\), \(\beta\) が上下に現れているので、それぞれ 0〜3 の和をとる——Einstein の縮約規則ね)と書ける。平坦な空間なら \(g_{\alpha\beta}\) が単位行列になって、高校の内積公式に戻るの。ここで「帽子付き添字」\(\hat{\alpha}\) を導入するわ。これは正規直交基底の添字であることを示す記号で、座標基底の添字 \(\alpha\) と区別するためのものよ。帽子付き添字 \(\hat{\alpha}\) で表す基底 \(\mathbf{e}_{\hat{\alpha}}\) が、
を満たすとき——つまり、基底ベクトル同士の内積が Minkowski 計量 \(\eta_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = \mathrm{diag}(-1,+1,+1,+1)\) になるような基底を「正規直交基底」と呼ぶの。局所的に特殊相対論が成り立つ「自由落下エレベーター」の基底に対応する。対角計量 \(ds^2 = g_{00}(dx^0)^2 + g_{11}(dx^1)^2 + \cdots\) の場合、各基底ベクトルは計量成分の絶対値の平方根の逆数をとるだけで得られるわ。ここで \((\mathbf{e}_{\hat{\alpha}})^\mu\) という表記は「基底ベクトル \(\mathbf{e}_{\hat{\alpha}}\) の \(\mu\) 方向の座標成分」を意味する。対角計量の場合、\(\hat{\alpha}\) 番目の正規直交基底は \(\hat{\alpha}\) と同じ座標方向だけに成分を持つの。具体例を先に見せるわね。\(\hat{\alpha} = \hat{r}\) なら、基底ベクトル \(\mathbf{e}_{\hat{r}}\) は \(r\) 方向だけに成分を持ち、その値は \(1/\sqrt{|g_{rr}|}\)。他の方向(\(t\), \(\theta\), \(\varphi\))の成分はすべてゼロ。これを一般的に書くと \((\mathbf{e}_{\hat{\alpha}})^\mu = \delta^\mu_\alpha / \sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) となる。ここで \(\delta^\mu_\alpha\) はクロネッカーのデルタと呼ばれる記号で、\(\mu = \alpha\) のとき 1、\(\mu \neq \alpha\) のとき 0 になるもの。つまり「\(\alpha\) 方向だけに成分を持つ」ことを数式で表しているの。1 つ注意してほしいのは、この式の \(\alpha\) は「\(\hat{\alpha}\) に対応する座標方向」を指す固定されたラベルであって、Einstein の縮約規則で和をとる添字ではないということ。普段は同じ文字が上下に現れたら和をとるけど、ここでは「\(\hat{r}\) に対応する方向は \(r\)」のように、\(\hat{\alpha}\) ごとに 1 つの方向を指定しているだけなの。見分け方のコツを教えるわね:\(\delta^\mu_\alpha\) は「\(\mu = \alpha\) なら 1、\(\mu \neq \alpha\) なら 0」という数値の表であって、\(\alpha\) について和をとる指示ではないの。ここでの \(\alpha\) は「どの正規直交基底ベクトルの話をしているか」を指定する固定ラベル——例えば \(\hat{r}\) の基底を書くなら \(\alpha = r\) と固定して、\(\mu\) だけが \(t, r, \theta, \varphi\) を走る。結果として \(\mu = r\) の成分だけが \(1/\sqrt{|g_{rr}|}\) で、残りはゼロになるの。実用上は、一般式を覚えなくても「\(\hat{\alpha}\) 方向の基底ベクトルは、対応する座標方向に \(1/\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) の成分を持つ」と覚えておけば十分よ。具体的に全部書き出すと:\(\hat{t}\) なら \(t\) 方向に \(1/\sqrt{|g_{tt}|}\)、\(\hat{r}\) なら \(r\) 方向に \(1/\sqrt{g_{rr}}\)、\(\hat{\theta}\) なら \(\theta\) 方向に \(1/\sqrt{g_{\theta\theta}}\)、\(\hat{\varphi}\) なら \(\varphi\) 方向に \(1/\sqrt{g_{\varphi\varphi}}\)——それだけのことよ。
そして、テンソルの成分を正規直交基底に変換するときは、基底ベクトルの成分を使って \(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = (\mathbf{e}_{\hat{\alpha}})^\mu (\mathbf{e}_{\hat{\beta}})^\nu T_{\mu\nu}\) と計算するの。対角計量の場合、これは単に「各添字について \(\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) で割る」ことに帰着する——基底ベクトルの成分が \(1/\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) だからね。この変換則は D.3.3 で具体的に使うわ。
🔵 カイ: ちょっとイメージしにくいです。基底ベクトルの成分を掛けるっていうのは、要するに「座標基底の目盛りの大きさを正規化する」ってことですか?
🟡 リナ: そうね、いい言い方だわ。座標基底は場所によって「1 目盛りの長さ」が違うでしょう?正規直交基底はそれを長さ 1 に揃えた基底だから、テンソルの成分を変換するときに「目盛りの大きさ」で割る——それが \(1/\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) を掛ける操作に対応するの。具体的にはどうなるか見てみましょう。
🟡 リナ: 例えば Schwarzschild 時空の \(g_{rr} = (1-2M/r)^{-1}\) なら、\(|g_{rr}|^{1/2} = (1-2M/r)^{-1/2}\) で、その逆数 \((1-2M/r)^{1/2}\) が \(\hat{r}\) 方向の基底ベクトルの \(r\) 成分になる。D.2.3 で全成分を一覧にしてあるから、そこで確認してね。
⚪ メイ: つまり、どんな曲がった時空でも、局所的には特殊相対論の Minkowski 計量 \(\eta_{\hat{\alpha}\hat{\beta}}\) に見える基底が取れるということね。
✅ 理解度チェック: Riemann 曲率テンソルの独立成分が 4 次元時空で 20 個に減る理由は何でしょうか?
答え
Riemann テンソルには複数の対称性がある。第 1・第 2 添字の反対称性、第 3・第 4 添字の反対称性、前半と後半の対の交換対称性、そして第 1 Bianchi 恒等式(第 2〜4 添字の巡回和がゼロ)。これらの制約により、もとの \(256\) 成分のうち独立なものは 20 個だけになる。
D.2 Schwarzschild 時空¶
🟡 リナ: 自転していない球対称な質量 \(M\) のまわりの真空時空。太陽系の惑星運動、光の曲がり、最も基本的なブラックホールモデル——すべてここから導かれる。図 D.2「天体の質量-半径関係とシュワルツシルト半径」 を見てごらん。地球から銀河中心ブラックホール(Sgr A*)まで、さまざまな天体の質量と半径を両対数プロットで比較しているわ。黒線が Schwarzschild 半径で、幾何学単位系(\(G = c = 1\)、詳しくは D.6 参照)では \(r_s = 2M\)、SI では \(r_s = 2GM/c^2\)。天体の半径がこれより小さくなるとブラックホールになる。図を見ると、中性子星は黒線のすぐ上にあって、Schwarzschild 半径の数倍しか余裕がない——つまりコンパクトネス \(GM/(Rc^2)\)(天体の半径 \(R\) が Schwarzschild 半径 \(2GM/c^2\) にどれだけ近いかを測る無次元量、本編 第 18 章 参照)が非常に高いことが一目で分かるわね。
図 D.2: 天体の質量-半径関係とシュワルツシルト半径。天体の質量-半径関係と Schwarzschild 半径 \(r_s = 2GM/c^2\)(幾何学単位系では \(r_s = 2M\))。地球、木星、太陽、白色矮星、中性子星、恒星質量ブラックホール、銀河中心ブラックホール(Sgr A)を両対数プロットで比較。黒線より下の領域(\(R < r_s\))はブラックホール。*
D.2.1 計量¶
🔵 カイ: \(r = 2M\) で \(g_{tt} = 0\) になって \(g_{rr}\) が発散しますよね。これって本当に「壁」があるんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。\(r = 2M\) は事象の地平面だけど、座標特異点にすぎない。Riemann テンソルはそこで有限だから、物理的には何も特別なことは起きていない。本物の特異点は \(r = 0\) の方よ。
✅ 理解度チェック: Schwarzschild 時空において、\(r = 2M\) と \(r = 0\) の特異点の違いは何でしょうか?
答え
\(r = 2M\) は座標特異点であり、適切な座標変換で除去できる。実際 Riemann テンソルはそこで有限の値をとる。一方 \(r = 0\) は本物の(物理的な)特異点であり、曲率不変量(例えば Kretschner スカラー \(R_{\alpha\beta\gamma\delta}R^{\alpha\beta\gamma\delta}\))が発散する。
D.2.2 Christoffel 記号(非ゼロ成分)¶
⚪ メイ: 下添字の対称性で \(\Gamma^t{}_{rt} = \Gamma^t{}_{tr}\)、\(\Gamma^\theta{}_{\theta r} = \Gamma^\theta{}_{r\theta}\) なども得られるわね。
🟡 リナ: \(\Gamma^r{}_{tt}\) を見てごらん。遠方 \(r \gg 2M\) では \((1 - 2M/r) \approx 1\) だから \(\Gamma^r{}_{tt} \approx M/r^2\)。これは Newton 重力の加速度 \(GM/r^2\) そのもの(\(G = 1\))。測地線方程式に代入すると、Newton の運動方程式が再現される。
📝 練習問題:
- \(\Gamma^r{}_{tt}\) の導出 → 問題 B-1. Schwarzschild の \(\Gamma^r_{\ tt}\)、\(\Gamma^r{}_{rr}\) の導出 → 問題 B-2. Schwarzschild の \(\Gamma^r_{\ rr}\)、正規直交基底の確認 → 問題 B-6. Schwarzschild 正規直交基底の確認、一般球対称計量との対応 → 問題 B-7. 一般球対称の Christoffel 確認
D.2.3 正規直交基底¶
🔵 カイ: \(g_{tt} = -(1-2M/r)\) だから、\(|g_{tt}|^{1/2} = (1-2M/r)^{1/2}\)。その逆数が \(\hat{t}\) 方向の基底ベクトルの \(t\) 成分になるんですね。……でも待ってください、\(r = 2M\) だと \((1-2M/r)^{-1/2}\) が発散しますよね?正規直交基底が作れなくなるんですか?
🟡 リナ: 鋭いわね。座標 \(t\) に基づく正規直交基底は \(r = 2M\) で確かに破綻する。これは座標特異点の反映で、地平面を横切るには別の座標系(例えば自由落下する観測者の固有時を使った座標)に切り替える必要があるの。
D.2.4 Riemann 曲率(正規直交基底成分)¶
🟡 リナ: これが独立な非ゼロ成分のすべて——6 個ね(一般の 4 次元時空では最大 20 個だけど、球対称性が強い制約を課すの)。しかも球対称性のおかげで \(\theta\) 方向と \(\varphi\) 方向が同格だから、上の式で等号で結ばれているペアがある。独立な「値」としては実質 4 種類(\(\pm 2M/r^3\) と \(\pm M/r^3\))だけよ。他の非ゼロ成分は対称性から決まるわ。例えば \(R_{\hat{t}\hat{r}\hat{r}\hat{t}}\) は第 1・第 2 添字の反対称性から \(R_{\hat{t}\hat{r}\hat{r}\hat{t}} = -R_{\hat{r}\hat{t}\hat{r}\hat{t}} = 2M/r^3\) と分かる。また、異なる角度方向が混ざった成分(例えば \(R_{\hat{t}\hat{\theta}\hat{r}\hat{\varphi}}\))は球対称性からゼロになるの。直感的には、球対称な時空では \(\theta\) 方向と \(\varphi\) 方向は「同格」だから、一方だけが特別に他と結合する理由がない——だから混合成分はゼロにならざるを得ないのよ。すべて \(M/r^3\) を基本スケールとして、係数が \(\pm 1\) か \(\pm 2\) になっているだけ。Newton 的な潮汐力と同じ \(r^{-3}\) 依存性ね。
🔵 カイ: 全部 \(r^{-3}\) に比例しているんですね。じゃあ \(r = 2M\)(地平面)ではどのくらいの大きさになるんですか?
🟡 リナ: 例えば \(R_{\hat{\theta}\hat{t}\hat{\theta}\hat{t}} = M/r^3\) に \(r = 2M\) を代入すると \(1/(8M^2)\) で有限。超大質量ブラックホールほど \(M\) が大きいから、地平面での潮汐力はむしろ弱い。でも \(r = 0\) では発散する——これが本物の特異点よ。
⚪ メイ: \(1/(8M^2)\) だから、\(M\) が 10 倍になれば潮汐力は 100 分の 1 になるのね。超大質量ブラックホールの地平面が「穏やか」な理由がよく分かるわ。
🔵 カイ: 遠方 \(r \to \infty\) で全成分がゼロに近づくんですね。つまり遠くでは平坦な時空に戻るってことですか?
🟡 リナ: その通り。それを漸近的平坦性(asymptotic flatness)と呼ぶの。孤立した天体のまわりの時空に期待される性質ね。ちなみに、Riemann テンソルは非ゼロだけど、Ricci テンソルは全成分ゼロよ。真空だから \(R_{\mu\nu} = 0\)。
🔵 カイ: \(R_{\mu\nu} = 0\) と D.2.5 の \(G_{\mu\nu} = 0\) って、同じことなんですか?
🟡 リナ: そう、4 次元では同値なの。\(G_{\mu\nu} = R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}g_{\mu\nu}R\) の両辺に \(g^{\mu\nu}\) を掛けて縮約(トレース)をとると、\(g^{\mu\nu}R_{\mu\nu} = R\)(これは \(R\) の定義そのもの)、そして \(g^{\mu\nu}g_{\mu\nu} = \delta^\mu{}_\mu = 4\)(\(\delta^\mu{}_\mu\) は \(\mu = 0,1,2,3\) の 4 つの 1 を足すから 4)を使って \(g^{\mu\nu}G_{\mu\nu} = R - \frac{1}{2} \cdot 4 \cdot R = R - 2R = -R\) になる。だから \(G_{\mu\nu} = 0\) ならトレースから \(R = 0\)。これを \(G_{\mu\nu} = R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}g_{\mu\nu}R = 0\) に戻すと \(R_{\mu\nu} = 0\) も従う。逆に \(R_{\mu\nu} = 0\) なら \(R = g^{\mu\nu}R_{\mu\nu} = 0\) だから \(G_{\mu\nu} = R_{\mu\nu} = 0\)。練習問題で実際に確認してみてね。
⚪ メイ: トレースをとることで \(R\) と \(G\) の関係が出て、それを元の式に戻すと同値性が示せるのね。きれいな論法だわ。
🔵 カイ: うーん……真空では \(R_{\mu\nu} = 0\) と \(G_{\mu\nu} = 0\) が同じってことは分かりました。でも Riemann テンソルは非ゼロなんですよね?ってことは「曲率ゼロ」と「Ricci ゼロ」は全然違う話じゃないですか。じゃあ逆に、物質がある場合は \(R_{\mu\nu} = 0\) と \(G_{\mu\nu} = 0\) は同値じゃなくなるんですか?
🟡 リナ: いい質問ね。物質がある場合は \(G_{\mu\nu} = 8\pi T_{\mu\nu} \neq 0\) だから、そもそもどちらもゼロにはならない。でも「\(R_{\mu\nu} = 0\) と \(G_{\mu\nu} = 0\) が同値」という関係自体は、右辺がゼロかどうかに関わらず成り立つ数学的事実よ。そしてさっき確認したように、真空(\(R_{\mu\nu} = 0\))でも Riemann テンソルは非ゼロ——つまり「物質がなくても時空は曲がれる」のが一般相対論の面白いところなの。
✅ 理解度チェック: Schwarzschild 時空の Christoffel 記号や Riemann テンソルは、何から機械的に計算できるでしょうか?
答え
計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) とその偏微分から機械的に計算できる。Christoffel 記号は計量の 1 階微分、Riemann テンソルは Christoffel 記号の 1 階微分と 2 次の積から構成される。
📝 練習問題:
- Riemann テンソルの対称性 → 問題 B-8. Riemann テンソルの対称性の適用、Ricci テンソル \(R_{\hat{t}\hat{t}} = 0\) の確認 → 問題 B-9. Schwarzschild の \(R_{tt} = 0\)、Kretschmann スカラーの計算 → 問題 M-3. Schwarzschild の Kretschmann スカラー、測地線方程式と Newton 極限 → 問題 M-1. Schwarzschild 測地線の Newton 極限、円軌道と潮汐力 → 問題 A-1. Schwarzschild 円軌道と潮汐力
D.2.5 Einstein 方程式¶
🟡 リナ: 真空解。物質のない領域での方程式の解。質量 \(M\) は境界条件として計量に入る。
D.3 一般球対称時空¶
🟡 リナ: 時間依存性も許した、より一般的な球対称時空。星の重力崩壊やブラックホール形成過程を記述する。
D.3.1 計量¶
🔵 カイ: なぜ \(e^{\nu}\) のように指数関数で書くんですか?普通に \(f(r,t)\) じゃダメなんですか?
🟡 リナ: いい質問ね。D.1.1 で確認したように、私たちの符号規約は \((-,+,+,+)\)——つまり \(ds^2\) の式で時間方向にマイナス、空間方向にプラスが付く約束だったわね。だから \(g_{tt}\) は負、\(g_{rr}\) は正でなければならない。\(g_{tt} = -e^{\nu}\)、\(g_{rr} = e^{\lambda}\) と書けば、\(\nu\) と \(\lambda\) がどんな実数値をとっても \(e^{\nu} > 0\)、\(e^{\lambda} > 0\) が保証されて、符号が自動的に正しく保たれる。さらに、Christoffel 記号には計量の微分が入るでしょう?\(g_{rr} = e^{\lambda}\) を微分すると \(\partial_r g_{rr} = \lambda' e^{\lambda}\) となって、\(g^{rr} = e^{-\lambda}\) と掛けたときに \(e^{\lambda}\) が消えて \(\lambda'\) だけが残る。だから Christoffel 記号の式がすっきりするの。ちなみに Schwarzschild 解は \(e^{\nu} = e^{-\lambda} = 1 - 2M/r\)(時間に依存しない)という特殊な場合よ。つまり \(\nu = -\lambda\) で、しかも \(r\) だけの関数になっている。
⚪ メイ: 一般の場合は \(\nu\) と \(\lambda\) が独立な関数だけど、Schwarzschild ではその制約が入るのね。
D.3.2 Christoffel 記号(非ゼロ成分)¶
ドット \(\dot{}\) は \(\partial/\partial t\)、プライム \('\) は \(\partial/\partial r\) を表す。
🔵 カイ: これって Schwarzschild の場合と比べられますか?\(\dot{\nu} = \dot{\lambda} = 0\) にして、\(e^{\nu} = 1 - 2M/r\) とかを入れたら D.2.2 と一致するのかな……。
🟡 リナ: その通り。実際に 1 つ代入して確認してみましょう。例えば \(\Gamma^r{}_{tt} = (\nu'/2)\,e^{\nu - \lambda}\) に Schwarzschild の値を入れるわね。\(e^\nu = 1-2M/r\) だから \(\nu = \ln(1-2M/r)\) で、\(r\) で微分すると \(\nu' = \frac{2M/r^2}{1-2M/r}\)。また \(e^{\nu-\lambda} = e^\nu \cdot e^{-\lambda} = (1-2M/r)(1-2M/r) = (1-2M/r)^2\)。これらを代入すると \(\frac{\nu'}{2}e^{\nu-\lambda} = \frac{M/r^2}{1-2M/r} \cdot (1-2M/r)^2 = \frac{M}{r^2}(1-2M/r)\)。D.2.2 と一致するわね。あとで D.3.3 の Einstein テンソルの式に Schwarzschild の値を代入して \(G_{\hat{t}\hat{t}} = 0\) になることも確認できるわ——これは練習問題として試してみて。
D.3.3 Einstein テンソル(正規直交基底成分)¶
以下は時間依存を無視できる場合(\(\dot{\nu} = \dot{\lambda} = 0\))の対角成分である。一般の時間依存がある場合には \(\dot{\lambda}\), \(\dot{\nu}\) を含む追加項が現れるが、ここでは静的な星の内部構造で最も重要な成分に絞って示す。
🔵 カイ: これも Schwarzschild で \(0\) になるか確認できますか?
🟡 リナ: やってみましょう。\(e^{-\lambda} = 1-2M/r\)、\(e^\lambda = (1-2M/r)^{-1}\)、\(\nu' = \frac{2M/r^2}{1-2M/r}\) を代入するわ。\(\nu' r = \frac{2M/r}{1-2M/r}\)。\(G_{\hat{r}\hat{r}}\) の括弧の中を通分するわね。3 つの項を分母 \((1-2M/r)\) で揃えると:
分子を展開すると \(2M/r + 1 - 2M/r - 1 = 0\)。だから括弧全体がゼロになって \(G_{\hat{r}\hat{r}} = 0\)。真空解と整合するわね。
⚪ メイ: きれいに消えるわね。\(G_{\hat{t}\hat{t}}\) の方も確認してみたいわ。
🟡 リナ: 同様に \(G_{\hat{t}\hat{t}}\) についても確認しましょう。Schwarzschild では \(\nu = -\lambda\) だから、両辺を \(r\) で微分して \(\nu' = -\lambda'\)、つまり \(\lambda' = -\nu' = -\frac{2M/r^2}{1-2M/r}\) よ。\(r\lambda' = -\frac{2M/r}{1-2M/r}\) を \(G_{\hat{t}\hat{t}}\) の括弧に代入すると:\(-\frac{2M/r}{1-2M/r} - 1 + \frac{1}{1-2M/r} = \frac{-2M/r - (1-2M/r) + 1}{1-2M/r} = \frac{-2M/r - 1 + 2M/r + 1}{1-2M/r} = 0\) となり、\(G_{\hat{t}\hat{t}} = 0\) も確認できるわ。
🔵 カイ: おお、こっちもきれいにゼロになるんですね!
🟡 リナ: また、時間依存がある場合に非ゼロとなる非対角成分も 1 つ載せておくわ。D.3.2 の Christoffel 記号を使って Ricci テンソルを計算し、Einstein テンソルを構成すると、座標基底での結果は \(G_{tr} = \dot{\lambda}/r\) になるの(導出は長いので結果だけ載せるわ)。これを正規直交基底に変換しましょう。D.1.6 で学んだ変換則 \(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = (\mathbf{e}_{\hat{\alpha}})^\mu (\mathbf{e}_{\hat{\beta}})^\nu T_{\mu\nu}\) を思い出して。対角計量では基底ベクトルが 1 方向にしか成分を持たないから、これは単に各添字について \(\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) で割ることに帰着するの:\(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = T_{\alpha\beta}/(\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\sqrt{|g_{\beta\beta}|})\)。ここでは \(\alpha = t\), \(\beta = r\) だから、\(\sqrt{|g_{tt}|} = e^{\nu/2}\) と \(\sqrt{g_{rr}} = e^{\lambda/2}\) で割る。つまり \(G_{\hat{t}\hat{r}} = G_{tr}/(e^{\nu/2} \cdot e^{\lambda/2}) = (\dot{\lambda}/r) \cdot e^{-(\nu + \lambda)/2}\) となるわ:
これはエネルギー流束(熱流など)に対応する。静的な場合(\(\dot{\lambda} = 0\))にはこの成分はゼロになり、エネルギーの流れがないことと整合する。
🔵 カイ: 角度方向の成分 \(G_{\hat{\theta}\hat{\theta}}\) は載せないんですか?
🟡 リナ: 式が長くなるから省略したけど、物理的には接線方向の圧力 \(p_\perp\) に対応する成分ね。必要になったら Christoffel 記号から計算できるわ。
🟡 リナ: ここに載せた 3 成分の物理的意味をまとめるわね。本編第 14 章で学んだように、Einstein 方程式 \(G_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = 8\pi T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}}\) の右辺にエネルギー運動量テンソルを置くと:\(G_{\hat{t}\hat{t}} = 8\pi \rho\)(\(\rho\) はエネルギー密度)、\(G_{\hat{r}\hat{r}} = 8\pi p_r\)(\(p_r\) は動径方向の圧力)よ。
🔵 カイ: \(\rho\) がエネルギー密度で \(p_r\) が圧力……つまり Einstein テンソルの各成分が、流体の物理量に 1 対 1 で対応しているんですね。
🟡 リナ: その通り。完全流体(粘性や熱伝導がなく、等方的な圧力 \(p\) だけで特徴づけられる理想的な流体——本編第 14 章参照)の場合は \(p_r = p_\perp = p\) となる。つまり動径方向も接線方向も同じ圧力ね。より一般には異方的圧力を持つ流体も考えられ、その場合 \(p_r \neq p_\perp\) になるわ。\(\rho\) は流体の単位体積あたりのエネルギー、\(p_r\) は動径方向に面を押す力(単位面積あたり)よ。
🔵 カイ: さっきの非対角成分 \(G_{\hat{t}\hat{r}}\) の変換で、対角成分と同じように「\(\sqrt{|g_{\alpha\alpha}|}\) で割る」のが使えるのはなぜですか?非対角成分でも同じ規則なんですか?
🟡 リナ: いい質問ね。D.1.6 の変換則 \(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = (\mathbf{e}_{\hat{\alpha}})^\mu (\mathbf{e}_{\hat{\beta}})^\nu T_{\mu\nu}\) は対角・非対角に関係なく成り立つ一般的な式よ。対角計量では基底ベクトルが 1 方向にしか成分を持たないから、\(\hat{t}\) と \(\hat{r}\) の組み合わせでも \((\mathbf{e}_{\hat{t}})^t (\mathbf{e}_{\hat{r}})^r T_{tr}\) の 1 項だけが生き残る。結果として \(G_{\hat{t}\hat{r}} = (1/\sqrt{|g_{tt}|})(1/\sqrt{g_{rr}}) \cdot G_{tr}\) になるの。対角成分のときと全く同じ規則が、添字の組み合わせが違うだけで使えるのよ。
🔵 カイ: なるほど、対角計量だから混ざる項がないんですね。
🟡 リナ: 一方、非対角成分 \(G_{\hat{t}\hat{r}} = 8\pi q\)(\(q\) はエネルギー流束密度、つまり単位面積・単位時間あたりに流れるエネルギー)は、熱伝導などがある不完全流体で非ゼロになる。
⚪ メイ: 対角成分が「その場にあるエネルギーと圧力」、非対角成分が「エネルギーの流れ」に対応するのね。静的な星なら流れがないから非対角成分はゼロ——さっきの \(\dot{\lambda} = 0\) の条件と整合するわ。
🟡 リナ: 完璧な整理ね。星の内部構造の方程式はこれらから導かれる。特に \(G_{\hat{t}\hat{t}} = 8\pi\rho\) を積分すると「質量関数」\(m(r) = 4\pi\int_0^r \rho(r')\,r'^2\,dr'\) が定義でき、これは半径 \(r\) 内に含まれるエネルギー(質量)を表すの。@exercise: 質量関数 \(m(r)\) の導出 → 問題 M-4. 質量関数の導出
D.4 Friedmann-Robertson-Walker (FRW) 宇宙モデル¶
🟡 リナ: 一様等方な宇宙を記述する計量。宇宙論の基本モデルね。
D.4.1 計量¶
🟡 リナ: \(a(t)\) がスケール因子(scale factor)で宇宙の大きさの時間変化を表し、\(k = +1, 0, -1\) が空間曲率パラメータ。
🔵 カイ: \(k\) の値で宇宙の形が変わるんでしたよね。
🟡 リナ: そう。\(k = +1\) は閉じた宇宙(球面的)、\(k = 0\) は平坦、\(k = -1\) は開いた宇宙(双曲的)。
✅ 理解度チェック: FRW 計量のパラメータ \(a(t)\) と \(k\) はそれぞれ何を表しているでしょうか?
答え
\(a(t)\) はスケール因子で、宇宙の空間的な大きさが時間とともにどう変化するかを表す。\(k\) は空間曲率パラメータで、\(k = +1\) が閉じた宇宙(球面的)、\(k = 0\) が平坦な宇宙、\(k = -1\) が開いた宇宙(双曲的)に対応する。
D.4.2 Christoffel 記号(非ゼロ成分)¶
ドット \(\dot{}\) は \(\partial/\partial t\) を表す。
🔵 カイ: \(\Gamma^r{}_{tr}\)、\(\Gamma^\theta{}_{t\theta}\)、\(\Gamma^\varphi{}_{t\varphi}\) が全部 \(\dot{a}/a\) ですね。これって本編で出てきた Hubble パラメータ \(H\) そのものじゃないですか!
🟡 リナ: その通り。\(H = \dot{a}/a\) は宇宙の膨張率。空間方向の Christoffel 記号に \(H\) が現れるのは、膨張する宇宙で「真っ直ぐ進む」ことの幾何学的な意味を反映しているの。
✅ 理解度チェック: FRW 時空の Christoffel 記号 \(\Gamma^r{}_{tr}\)、\(\Gamma^\theta{}_{t\theta}\)、\(\Gamma^\varphi{}_{t\varphi}\) がすべて \(\dot{a}/a\) に等しいことの物理的意味は何でしょうか?
答え
\(\dot{a}/a\) は Hubble パラメータ \(H\) そのものであり、宇宙の膨張率を表す。空間方向の Christoffel 記号にこの量が現れるのは、膨張する宇宙において「測地線に沿って真っ直ぐ進む」ことが膨張の効果を受けることを幾何学的に反映している。
D.4.3 Einstein テンソル(正規直交基底成分)¶
🟡 リナ: Einstein 方程式 \(G_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = 8\pi T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}}\) に完全流体 \(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = \mathrm{diag}(\rho, p, p, p)\) を代入すると、Friedmann (フリードマン) 方程式が得られる。第 1 式は \(\hat{t}\hat{t}\) 成分 \(G_{\hat{t}\hat{t}} = 8\pi\rho\) から直接得られる:\(3(\dot{a}^2 + k)/a^2 = 8\pi\rho\) を \(3\) で割れば第 1 Friedmann 方程式よ。
🔵 カイ: じゃあ第 2 式は空間成分 \(G_{\hat{r}\hat{r}} = 8\pi p\) から出すんですか?
🟡 リナ: その通り。第 1 Friedmann 方程式 \((\dot{a}/a)^2 = 8\pi\rho/3 - k/a^2\) を移項すると \((\dot{a}^2 + k)/a^2 = 8\pi\rho/3\) になるわね。これを \(-(2\ddot{a}/a) - (\dot{a}^2 + k)/a^2 = 8\pi p\) に代入して \((\dot{a}^2 + k)/a^2\) を消去すると \(-2\ddot{a}/a - 8\pi\rho/3 = 8\pi p\)。\(8\pi\rho/3\) を右辺に移項して整理すると \(-2\ddot{a}/a = 8\pi p + 8\pi\rho/3\)。
⚪ メイ: 右辺をまとめると \(\frac{8\pi}{3}(\rho + 3p)\) の形になるのね。
🟡 リナ: その通り。右辺を \(8\pi\) でくくると \(8\pi(p + \rho/3) = \frac{8\pi}{3}(\rho + 3p)\) ね。よって \(-2\ddot{a}/a = \frac{8\pi}{3}(\rho + 3p)\)。両辺を \(-2\) で割って \(\ddot{a}/a = -\frac{4\pi}{3}(\rho + 3p)\) が導かれるわ。まとめると:
🔵 カイ: おお、Einstein テンソルから Friedmann 方程式が出てくるの、初めて全部追えました。
🟡 リナ: 宇宙定数 \(\Lambda\) を含める場合は、\(\Lambda/(8\pi)\) を実効的なエネルギー密度として扱い、第 1 式の右辺に \(\Lambda/3\) の項を加えればよい(本編 第 21 章 参照)。すると第 1 式は \(H^2 = 8\pi\rho/3 - k/a^2 + \Lambda/3\) となる(ここで \(\rho\) は物質・放射のエネルギー密度)。
🔵 カイ: 第 1 式が膨張速度、第 2 式が加速・減速を決めるんでしたよね。でも第 2 式を見ると……\(\rho + 3p\) って、なんで密度だけじゃなく圧力も入ってくるんですか?しかも 3 倍で。Newton 力学だと重力源は質量だけですよね?
🟡 リナ: いい疑問ね。一般相対論では圧力もエネルギーと同様に重力源になるの。完全流体のエネルギー運動量テンソルは \(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}} = \mathrm{diag}(\rho, p, p, p)\) だったわね。\(x\), \(y\), \(z\) の 3 方向それぞれに圧力 \(p\) が入っているから、合計で \(3p\) が加わる。式を見れば分かるように、\(\rho + 3p > 0\) なら \(\ddot{a} < 0\) で減速膨張、逆に \(\rho + 3p < 0\) なら加速膨張になる。
🔵 カイ: えっ、圧力が重力源になるんですか……Newton 力学とは全然違う。でも考えてみると、圧力があるってことは粒子が運動しているってことで、運動エネルギーもエネルギーだから、それも重力を生むってことですか?
🟡 リナ: 直感的にはそういうこと。もう少し正確に言うと、圧力は「運動量の流れ」——つまり粒子が壁を押す力——を表しているの。Newton 力学では質量(静止エネルギー)だけが重力源だったけど、一般相対論ではエネルギー運動量テンソル \(T_{\hat{\alpha}\hat{\beta}}\) のすべての成分が重力源になる。対角成分にエネルギー密度も圧力も入っているでしょう?だから圧力も重力を生むの。
⚪ メイ: 式の符号から読み取ると、右辺にマイナスが付いているから \(\rho + 3p\) が正なら \(\ddot{a}\) は負——つまり減速。加速膨張には \(\rho + 3p < 0\) が必要ね。
🔵 カイ: \(\rho + 3p < 0\) って、圧力が負ってことですよね?そんな物質あるんですか?
🟡 リナ: 正確に言うと「圧力が負」だけでは不十分で、\(p < -\rho/3\) ——つまり圧力の絶対値がエネルギー密度の 3 分の 1 を超えるほど強く負でなければならないの。その代表が暗黒エネルギーよ。宇宙定数の場合は \(p = -\rho\) だから余裕で条件を満たす。本編の第 22–23 章で学んだわね。
🔵 カイ: ああ、前に出てきた宇宙定数って \(w = -1\) でしたよね。あのときは「そういうものか」って受け入れたけど……ここで式の構造を見ると、「なぜ負の圧力が加速を生むか」が分かるんですね。でも逆に言うと、\(w = -1/3\) ちょうどが加速と減速の境目ってことですか?
🟡 リナ: その通り。\(w = -1/3\) が分岐点。\(w < -1/3\) なら加速、\(w > -1/3\) なら減速。式の構造を理解していれば、「加速膨張には負の圧力が必要」という結論が天下りではなく必然だと分かるわね。
⚪ メイ: 通常の物質(ダスト \(w = 0\)、放射 \(w = 1/3\))はどちらも \(w > -1/3\) だから必ず減速。加速膨張には本当に「普通じゃない」成分が必要なのね。
✅ 理解度チェック: Friedmann の第 2 式 \(\ddot{a}/a = -4\pi(\rho + 3p)/3\) において、宇宙の膨張が加速するための条件は何でしょうか?
答え
\(\ddot{a} > 0\)(加速膨張)になるためには \(\rho + 3p < 0\) が必要である。通常の物質では \(\rho + 3p > 0\) なので減速膨張になるが、暗黒エネルギーのように \(p < -\rho/3\) を満たす成分が支配的になると加速膨張が実現する。
📝 練習問題:
- FRW の Christoffel 記号 → 問題 B-4. FRW の \(\Gamma^r_{\ tr}\), 問題 B-5. FRW の \(\Gamma^t_{\ \theta\theta}\)、Einstein テンソルのトレースとスカラー曲率 → 問題 B-10. FRW のスカラー曲率、Friedmann 方程式の導出 → 問題 M-2. FRW と Friedmann 方程式・保存則、宇宙定数と de Sitter 時空 → 問題 A-2. de Sitter と宇宙定数
D.5 平坦時空(Minkowski 時空)¶
🟡 リナ: 参照のために、最も単純な場合も載せておくわ。
D.5.1 計量(直交座標)¶
D.5.2 計量(球座標)¶
D.5.3 Christoffel 記号¶
直交座標ではすべてゼロ。球座標では:
🔵 カイ: 平坦なのに Christoffel 記号がゼロじゃない!
🟡 リナ: そう。Christoffel 記号は座標系の選び方にも依存する。曲がった座標を使えば平坦な空間でも非ゼロになる。曲率の有無を判定するには Riemann テンソルを見なければならない。
🔵 カイ: つまり、Christoffel 記号が非ゼロでも「重力がある」とは限らないんですね。見かけの力みたいなもの?
🟡 リナ: まさにそう。回転座標系で遠心力やコリオリ力が現れるのと同じ構造よ。
⚪ メイ: 整理すると、Christoffel 記号は「座標系の曲がり」と「時空の曲がり」の両方を含んでいて、本物の曲率だけを取り出すには Riemann テンソルを見る必要があるのね。
✅ 理解度チェック: 平坦な Minkowski 時空でも球座標を使うと Christoffel 記号が非ゼロになる。では、時空が本当に曲がっているかどうかを判定するにはどの量を見ればよいでしょうか?
答え
Riemann 曲率テンソルを見る。Christoffel 記号は座標系の選び方に依存するため、非ゼロであっても曲率があるとは限らない。Riemann テンソルが全成分ゼロであれば時空は平坦であり、非ゼロの成分があれば本物の曲率(重力)が存在する。
📝 練習問題:
- 球座標の Christoffel 記号 \(\Gamma^\theta{}_{\varphi\varphi}\) → 問題 B-3. Minkowski 球座標の \(\Gamma^\theta_{\ \varphi\varphi}\)
D.5.4 Riemann 曲率¶
⚪ メイ: さっきリナ先生が言った通りね。実際に全成分ゼロになっていることが確認できた。
D.6 単位系の変換規則¶
🟡 リナ: この公式集では幾何学単位系 \(G = c = 1\) を使っているけど、本編では章によって単位系が異なるわ。ここで変換規則をまとめておくから、迷ったときはここに戻ってきてね。
D.6.1 なぜ \(c = 1\) にするのか¶
🔵 カイ: そもそも、なぜ光速を 1 にするんですか?
🟡 リナ: 特殊相対論では時間と空間が混ざり合う。\(c\) は「時間と空間の換算レート」にすぎないの。\(c = 1\) にすると、時間も空間も同じ単位(例えばメートル)で測れるようになって、式がすっきりする。例えば \(E = mc^2\) は \(E = m\) になる。第 4 章で導入したわね。
⚪ メイ: なるほど、エネルギーと質量が同じ次元になるのね。
D.6.2 \(c = 1\) の変換規則¶
🟡 リナ: \(c = 1\) の単位系では、時間・長さ・質量・エネルギーの次元が以下のように統一される。
表 D.1: \(c=1\) での次元統一と換算
| SI での次元 | \(c = 1\) での次元 | 換算 |
|---|---|---|
| 時間 \([\text{s}]\) | 長さ \([\text{m}]\) | 時間 \(1\,\text{s}\) は長さ \(c \times 1\,\text{s} = 3.0 \times 10^8\,\text{m}\) に対応 |
| 速度 \([\text{m/s}]\) | 無次元 | \(v/c\) が「速度」になる |
| エネルギー \([\text{J}]\) | 質量 \([\text{kg}]\) | \(E = mc^2 \to E = m\) |
| 運動量 \([\text{kg}\cdot\text{m/s}]\) | 質量 \([\text{kg}]\) | \(c = 1\) とすると速度 \(v\) は「光速の何倍か」を表す無次元量になる(例えば光速の半分なら \(v = 0.5\))。相対論的運動量 \(p = m\gamma v\)(\(\gamma = 1/\sqrt{1-v^2}\) は Lorentz 因子、本編 第 3 章 参照)の次元は \([\text{kg}] \times [1] \times [1] = [\text{kg}]\) となり、運動量が質量と同じ次元になる。SI の \(E^2 = p^2c^2 + m^2c^4\) が \(E^2 = p^2 + m^2\) に簡略化される |
🔵 カイ: SI に戻すにはどうすればいいんですか?
🟡 リナ: 次元解析で \(c\) の因子を復元するの。手順はこう:
- 式の各項の SI 次元を確認する
- 次元が合わない項に \(c\) の適切なべき乗を掛けて、次元を揃える
⚪ メイ: 具体例があると分かりやすそうね。
🟡 リナ: じゃあ代表的な式で見てみましょう。
表 D.2: \(c=1\) の式を SI に戻す例
| \(c = 1\) の式 | SI に戻した式 | 復元した因子 |
|---|---|---|
| \(E = m\) | \(E = mc^2\) | \(c^2\) |
| \(ds^2 = -dt^2 + dx^2\) | \(ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2\) | \(c^2\) を \(dt^2\) に |
| \(p^\mu = m\,U^\mu\), \(U^0 = \gamma\) | \(p^\mu = m\,U^\mu\), \(U^0 = \gamma c\) | \(U^0\) に \(c\) |
| \(\tau = t\sqrt{1 - v^2}\) | \(\tau = t\sqrt{1 - v^2/c^2}\) | \(v^2 \to v^2/c^2\) |
D.6.3 \(G = 1\) の変換規則¶
🟡 リナ: さらに \(G = 1\) にすると、質量も長さの次元になる。
表 D.3: \(G=c=1\) での次元統一と換算
| SI での次元 | \(G = c = 1\) での次元 | 換算 |
|---|---|---|
| 質量 \([\text{kg}]\) | 長さ \([\text{m}]\) | 質量 \(1\,\text{kg}\) は長さ \(\frac{G}{c^2} \times 1\,\text{kg} = 7.43 \times 10^{-28}\,\text{m}\) に対応 |
| エネルギー密度 \([\text{J/m}^3]\) | \([\text{m}^{-2}]\) | \(\rho\,[\text{m}^{-2}] = (G/c^4)\,\rho_E\,[\text{J/m}^3]\)(\(\rho_E\) は SI でのエネルギー密度。幾何学単位系の \(\rho\) が Einstein 方程式の右辺に現れる形) |
| 圧力 \([\text{Pa}]\) | \([\text{m}^{-2}]\) | \(p \to Gp/c^4\) |
🔵 カイ: 太陽の質量が「長さ」になるって、不思議ですね。
🟡 リナ: 太陽の場合、\(GM_\odot/c^2 \approx 1.48\,\text{km}\)。だから幾何学単位系では「太陽の質量は約 1.5 km」と言える。Schwarzschild 半径 \(r_s = 2M\)(幾何学単位系)は SI では \(r_s = 2GM/c^2 \approx 3.0\,\text{km}\) になるわ。SI に戻す手順をまとめると——
\(G = c = 1\) → SI の変換手順: 1. 式中の \(M\)(質量)を \(GM/c^2\)(長さの次元)に置き換える 2. 次元解析で残りの \(c\) と \(G\) の因子を復元する
⚪ メイ: つまり、幾何学単位系の式に出てくる \(M\) を見たら \(GM/c^2\) に読み替えて、あとは次元を合わせればいいのね。
✅ 理解度チェック: 幾何学単位系(\(G = c = 1\))で書かれた Einstein 方程式 \(G_{\mu\nu} = 8\pi T_{\mu\nu}\) を SI 単位系に戻すと、右辺にはどのような因子が付くか?
答え
SI 単位系では \(G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4} T_{\mu\nu}\) となる。右辺に \(G/c^4\) の因子が付く。これは次元解析により、Einstein テンソル(次元 \([\text{m}^{-2}]\))とエネルギー運動量テンソル(次元 \([\text{kg/(m·s}^2)]\))の次元を合わせるために必要な因子である。
表 D.4: \(G=c=1\) の式を SI に戻す例
| \(G = c = 1\) の式 | SI に戻した式 |
|---|---|
| \(r_s = 2M\) | \(r_s = 2GM/c^2\) |
| \(\Phi = -M/r\) | \(\Phi = -GM/r\) |
| \(G_{\mu\nu} = 8\pi T_{\mu\nu}\) | \(G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4} T_{\mu\nu}\) |
| \(H^2 = \frac{8\pi}{3}\rho\) | \(H^2 = \frac{8\pi G}{3}\rho\)(\(\rho\):質量密度 \([\text{kg/m}^3]\)。エネルギー密度 \(\rho_E = \rho c^2\,[\text{J/m}^3]\) を使う場合は \(H^2 = \frac{8\pi G}{3c^2}\rho_E\)) |
D.6.4 本編での単位系の使い分け¶
🟡 リナ: 本編では章によって単位系が異なるわ。以下を目安にしてね。
表 D.5: 本編各章の単位系の使い分け
| 章 | 単位系 | 理由 |
|---|---|---|
| 第 0–1 章 | SI(\(c\), \(G\) を明示) | 高校物理との接続。数値計算が多い |
| 第 2 章 | \(c = 1\) を導入 | 特殊相対論の式を簡潔にする |
| 第 3–5 章 | \(c\) を明示 | 等価原理の数値的議論(GPS 等) |
| 第 6–7 章 | \(G = c = 1\)(\(G = 1\) を追加導入) | 計量・測地線の幾何学的議論 |
| 第 8–10 章 | \(c\) を明示(\(r_s = 2GM/c^2\)) | 太陽系実験の数値計算 |
| 第 11–13 章 | \(G = c = 1\) | テンソル計算。\(c\) を書くと式が煩雑 |
| 第 14–17 章 | \(G = c = 1\) | ブラックホールの幾何学 |
| 第 18 章 | \(c\) を明示 | 中性子星の物理量(SI 単位) |
| 第 19–20 章 | \(c\) を明示 | 重力波の観測量(Hz, strain) |
| 第 21–23 章 | \(c = 1\), \(G\) は文脈による | 宇宙論。Friedmann 方程式(幾何学的議論では \(G=1\)、観測量との比較では \(G\) を明示) |
| 第 24–25 章 | \(G = c = 1\) | 微分形式、量子重力 |
🔵 カイ: 章によって違うのは混乱しそうですけど、理由があるんですね。
🟡 リナ: そう。幾何学的な議論では \(G = c = 1\) が自然だし、観測量と比較するときは SI が必要。大事なのは「今どの単位系を使っているか」を常に意識すること。迷ったらこの表に戻ってきてね。
D.7 公式集の使い方ガイド¶
🟡 リナ: 最後に、この公式集を使うときの注意点をまとめておくわ。
表 D.6: 公式集の使用上の注意事項
| 注意事項 | 説明 |
|---|---|
| 単位系 | 幾何学単位系 \(G = c = 1\)。変換規則は D.6 を参照 |
| 対称性 | Christoffel 記号の下添字対称性で得られる成分は省略 |
| 符号規約 | 計量の符号は \((-,+,+,+)\) |
| 帽子付き添字 | 正規直交基底成分を表す |
🔵 カイ: これ、印刷して机に貼っておきます。……でも正直、公式だけ見ても「どれを使えばいいか」迷いそうだな。
⚪ メイ: 私はタブレットにブックマークしておくわ。計量の形を見れば、どのセクションを参照すべきか分かるはずよ。
🟡 リナ: どちらでもいい。大事なのは、公式を丸暗記することではなく、必要なときにすぐ参照できること。そして、各量の物理的意味——計量は「ものさし」、Christoffel 記号は「自由落下の道しるべ」、Riemann テンソルは「潮汐力」、Einstein テンソルは「曲率と物質の橋渡し」——これを常に意識してほしい。
おわりに¶
🟡 リナ: これで公式集は完成よ。本編で新しい計量に出会ったとき、ここに戻って Christoffel 記号や曲率量を確認してね。計算の「辞書」として繰り返し使ってほしいわ。
練習問題¶
📝 練習問題:
- \(\Gamma^r{}_{tt}\) の導出 → 問題 B-1. Schwarzschild の \(\Gamma^r_{\ tt}\)
- \(\Gamma^r{}_{rr}\) の導出 → 問題 B-2. Schwarzschild の \(\Gamma^r_{\ rr}\)
- 正規直交基底の確認 → 問題 B-6. Schwarzschild 正規直交基底の確認
- 一般球対称計量との対応 → 問題 B-7. 一般球対称の Christoffel 確認
- Riemann テンソルの対称性 → 問題 B-8. Riemann テンソルの対称性の適用
- Ricci テンソル \(R_{\hat{t}\hat{t}} = 0\) の確認 → 問題 B-9. Schwarzschild の \(R_{tt} = 0\)
- Kretschmann スカラーの計算 → 問題 M-3. Schwarzschild の Kretschmann スカラー
- 測地線方程式と Newton 極限 → 問題 M-1. Schwarzschild 測地線の Newton 極限
- 円軌道と潮汐力 → 問題 A-1. Schwarzschild 円軌道と潮汐力
- 質量関数 \(m(r)\) の導出 → 問題 M-4. 質量関数の導出
- FRW の Christoffel 記号 → 問題 B-4. FRW の \(\Gamma^r_{\ tr}\)
- FRW の Christoffel 記号 → 問題 B-5. FRW の \(\Gamma^t_{\ \theta\theta}\)
- Einstein テンソルのトレースとスカラー曲率 → 問題 B-10. FRW のスカラー曲率
- Friedmann 方程式の導出 → 問題 M-2. FRW と Friedmann 方程式・保存則
- 宇宙定数と de Sitter 時空 → 問題 A-2. de Sitter と宇宙定数
- 球座標の Christoffel 記号 \(\Gamma^\theta{}_{\varphi\varphi}\) → 問題 B-3. Minkowski 球座標の \(\Gamma^\theta_{\ \varphi\varphi}\)
参考文献¶
- Hartle, J. B. (2003). Gravity: An Introduction to Einstein's General Relativity, Ch. 24. Addison-Wesley.
- Schutz, B. F. (2022). A First Course in General Relativity, 3rd ed., Appendix. Cambridge University Press.
- Misner, C. W., Thorne, K. S., & Wheeler, J. A. (1973). Gravitation. W. H. Freeman.(通称 MTW。公式集として今でも参照される古典的教科書)
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