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第 2 章 旅の設計図 — テンソルと Einstein 方程式の全体像

前回までのあらすじ: 第 1 章で Newton の重力モデルを「場の理論」の言葉で書き直し、二つの限界——水星の近日点移動と、Poisson 方程式の時間微分が欠落する構造的問題——を見た。特殊相対論の「光速を超える信号は存在しない」という原理と矛盾するこの問題を解決するには、Newton モデルの土台にある「絶対時間」と「絶対空間」を見直す必要がある。

この章のゴール

  • 特殊相対論から一般相対論へ至る長い旅の設計図を、先に広げておく章
  • 個々の数式の導出はこの先の章で一歩ずつ進めるが、その前に「どこに向かうのか」の全体像を掴んでおくと、途中の山道で迷わない
  • この章では、座標系に依存しない物理法則を書くための道具——テンソル——を導入し、Einstein の重力モデルが粒子の運動方程式(測地線方程式)場の方程式(Einstein 方程式) の二本柱で構成されることを俯瞰する
  • 次の章からは、この設計図の最初のピース(0 階テンソル=時空間隔 \(ds^2\))から具体的に構築していく

2.1 スカラー、ベクトル、テンソル

🟡 リナ: まず、相対性理論を学ぶうえでの最も重要な考え方から始めるわ。物理のモデルは、座標系の選び方に依存してはいけない。東京を原点にしようがパリを原点にしようが、物理法則は同じ形をとるべき——これが相対性原理の要求よ。

🔵 カイ: でも座標の成分 \((x, y, z)\) は原点や軸の向きで変わりますよね。例えば、教室の角を原点にするか、教卓を原点にするかで、同じ机の位置が \((3, 2, 0)\) になったり \((1, -1, 0)\) になったりする。

🟡 リナ: そう。でも、2 つの机の間の距離は、原点をどこに置いても、座標軸をどう回しても変わらないわよね?

🔵 カイ: 確かに。座標の成分は変わるけど、距離は変わらない。

🟡 リナ: じゃあ、ベクトルはどうかしら? 高校の物理でも、ベクトル(矢印)の成分 \((v_x, v_y, v_z)\) は座標軸の向きで変わるけど、矢印そのものは同じだったわよね。

⚪ メイ: そうね。距離もベクトルも、共通しているのは「成分は座標系で変わるけど、量そのものは変わらない」ということ——座標の選び方に依存しない本質的な何かがあるのね。

🟡 リナ: その通り。整理すると、

  • 距離のように、値そのものが座標変換で変わらない量 → スカラー(不変量)
  • 矢印のように、成分は変わるけれど、変わり方のルール(回転行列をかける、など)が決まっている量 → ベクトル

これらを一般化したものがテンソル (tensor)——座標変換に対して、決まったルールで成分が変わる量の総称よ。「決まったルール」の具体的な中身は第 6 章で正式に学ぶから、今は「成分の変わり方に法則がある量」とだけ思っておいて。

🔵 カイ: つまり、スカラーもベクトルもテンソルの仲間で、違いは「ルールを適用する回数」ってことですか?

🟡 リナ: そう、まさにそれ。ざっくり言えば、スカラーは変換しても値が変わらない、ベクトルは座標変換のルールを 1 回適用して成分が変わる、2 階テンソルは同じルールを 2 回(各添字に 1 回ずつ)適用して成分が変わる——添字の数だけルールを適用する回数が増えるの。

⚪ メイ: 添字が増えるほど変換が複雑になるけど、発想は同じなのね。

🟡 リナ: 例えば、座標軸を 30° 回転させたとき、ベクトルの各成分は回転の行列を 1 回かけて新しい成分に変わる。2 階テンソルは \(4 \times 4\) の表の各成分に対して、行と列の両方に回転の行列をかける——つまり 2 回適用する。座標軸を回転させたとき、各階数のテンソルがどう振る舞うか、イメージを図にしておくわ(図 2.1「座標変換(回転)に対する各階数テンソルの振る舞い」)。

座標変換に対するテンソルの振る舞い

図 2.1: 座標変換(回転)に対する各階数テンソルの振る舞い。左 — 0 階(スカラー):2 点間の距離は座標軸をどう回しても値が変わらない。中 — 1 階(ベクトル):成分 \((v_x, v_y)\) は座標軸の向きで変わるが、矢印そのものは同じ。右 — 2 階テンソル:成分は座標変換を「2 回」適用して変わる。

テンソルで書かれた方程式は、ある座標系で成り立てば、すべての座標系で同じ形で成り立つ。

✅ 理解度チェック: テンソルで書かれた方程式が物理法則の記述に適しているのはなぜでしょうか?

答え

テンソルで書かれた方程式は、ある座標系で成り立てば、すべての座標系で同じ形で成り立つから。これにより、座標系の選び方に依存しない物理法則を表現できる。

🔵 カイ: テンソルって、具体的にはどういうものですか?

🟡 リナ: テンソルには「階数」(rank) があって、持っている添字の数で分類される。

🔵 カイ: 添字って、\(U^\mu\)\(\mu\) みたいなやつですか?

🟡 リナ: そう。添字は「成分を指定するラベル」よ。例えば 3 次元のベクトル \(\vec{v}\)\((v_x, v_y, v_z)\) の 3 つの成分を持つでしょう? これを \(v^i\)\(i = 1, 2, 3\))と書けば、添字 \(i\) が「どの成分か」を指定する。相対論では空間 3 次元に時間 1 次元を加えた 4 次元時空を考えるから、添字は \(\mu = 0, 1, 2, 3\) の 4 つの値を取り、\(0\) が時間、\(1, 2, 3\) が空間に対応する。添字が 1 つなら 4 成分、2 つなら \(4 \times 4 = 16\) 成分、という具合に増えていく。

表 2.1: テンソルの階数と具体例

階数 添字の数 名前 身近な例 この先で登場する例
0 階 なし スカラー(不変量) 2 点間の距離 時空間隔 \(ds^2\)(第 3 章〜)、固有時間 \(d\tau\)
1 階 1 つ ベクトル \(\vec{F}\)、速度 \(\vec{v}\) 4 元速度 \(U^\mu\)、4 元運動量 \(p^\mu\)
2 階 2 つ 2 階テンソル (高校では登場しないが、\(4 \times 4\) の表=行列のようなもの。物理の例:物体の各方向の伸び縮みを表す応力など) 計量 \(g_{\mu\nu}\)(第 6 章〜)、\(T_{\mu\nu}\)(第 14 章〜)

⚪ メイ: つまり、スカラーもベクトルもテンソルの一種なのね。

✅ 理解度チェック: テンソルの「階数」(rank) は何で決まるでしょうか?

答え

持っている添字の数で決まる。0 階(添字なし)がスカラー、1 階(添字 1 つ)がベクトル、2 階(添字 2 つ)が 2 階テンソル。

📝 練習問題:

2.2 Newton の運動方程式から 4 元ベクトルへ

🟡 リナ: 身近な例で言えば、Newton の運動方程式 \(\vec{F} = m\vec{a}\) はベクトル(1 階テンソル)で書かれた方程式。座標軸をどう回転させても同じ形が成り立つ——ベクトルで書いてあるから、不変性が自動的に保証されるの。

🔵 カイ: 高校でも運動方程式を \(x\) 成分、\(y\) 成分に分けて \(F_x = ma_x\), \(F_y = ma_y\) って書きましたよね。でもあのとき、座標軸の向きを変えたら \(F_x\) の値が変わる、なんて意識したことなかったな。

🟡 リナ: そこがポイント。高校では座標軸を 1 つ決めたらそのまま計算を進めるから、「別の座標系だったらどうなるか」を考える必要がなかった。でも相対論では、異なる慣性系 (inertial frame) の間で物理法則が同じ形をとることを要求する。

🔵 カイ: 慣性系って何ですか?

🟡 リナ: 加速も回転もしていない座標系のこと。直感的に言えば、「何も力を受けていない観測者から見た視点」ね。電車でたとえると、等速で走っている電車の中と、停車場のホームの上——どちらも慣性系。加速中の電車や急カーブを曲がっている電車は慣性系ではない。

ちょっと物理的に言い換えると、力が働いていない物体が等速直線運動を続ける座標系。Newton の第一法則——慣性の法則——がそのまま成り立つ系だから「慣性系」と呼ぶの。逆に、加速している電車の中では、力を受けていない物体(例えば座席の上に置いた缶コーヒー)が勝手に動き出すように見える——これは慣性系ではない。そして、ある慣性系に対して等速直線運動している別の座標系も慣性系になる。慣性系は一つではなく、無数にあるの。図にまとめるとこうなるわ(図 2.2「慣性系と非慣性系の違い」)。

慣性系と非慣性系の比較

図 2.2: 慣性系と非慣性系の違い。左・中 — ホームと等速の電車はどちらも慣性系:力を受けていない物体は静止または等速直線運動を続ける。右 — 加速中の電車は非慣性系:力を受けていない缶コーヒーが勝手に動き出すように見える(慣性の法則が成り立たない)。

🔵 カイ: なるほど、等速で走っている電車の中もホームも慣性系で、加速中の電車は慣性系じゃない。力を受けていない物体が等速直線運動を続けるかどうかで判定するんですね。

🟡 リナ: その通り。そして、\(\vec{F} = m\vec{a}\) がベクトル形式で書かれているから、座標軸をどう回転させても方程式の形は変わらない——ベクトルが自動的に不変性を保証してくれるの。

⚪ メイ: さっきのテンソルの話と繋がるのね。ベクトルは 1 階テンソルだから、座標変換のルールに従って成分が変わっても、方程式の形は保たれる。

🔵 カイ: 回転だけじゃなくて、原点をどこに置いても同じなんですか?

🟡 リナ: そうよ。\(\vec{F} = m\vec{a}\) は位置そのものではなく加速度(位置の 2 階微分)の式だから、原点をずらしても影響しない。つまり空間の回転にも平行移動にも不変ね。

🔵 カイ: 座標軸の目盛りを変える——例えばメートルからセンチメートルにする——場合はどうなんですか?

🟡 リナ: \(\vec{F} = m\vec{a}\) は両辺の次元(単位)が同じだから、メートルをセンチメートルに変えても両辺が同じ倍率で変わって、等式はそのまま成り立つ。だから拡大・縮小に対しても不変よ。

🔵 カイ: じゃあ、加速している座標系ではどうなるんですか?

🟡 リナ: 特殊相対論の段階では、慣性系(等速直線運動する座標系)の間で形が変わらない方程式を立てる。加速する座標系を扱うには、一般相対論の枠組みが必要になる。一般相対論では、加速していても回転していても、任意の座標系で同じ形の方程式が書けるの。この先の章で段階的に見ていくわ。

🔵 カイ: 任意の座標系で同じ形って、すごいですね。でもそれって、特殊相対論で慣性系に限定していた理由は何だったんですか? 最初から一般相対論で書けばよかったのでは?

🟡 リナ: 一般相対論は数学的な道具立てが格段に複雑になるの。まず慣性系だけで成り立つ特殊相対論を理解して、そこから一歩ずつ一般化していく——その方が物理の本質が見えやすい。実際、この先の旅もその順番で進めるわ。

🔍 Dive Deep:テンソルで書けばすべての座標変換に対して不変では?

(この補足はやや先取りした内容を含む。難しければ飛ばして、後の章で戻ってきても大丈夫。)

「テンソルで書いた方程式はどんな座標変換でも形が変わらないはずなのに、なぜ特殊相対論は慣性系に限定されるのか?」と疑問に思うかもしれない。

実は、テンソル方程式のは確かにどんな座標変換でも変わらない。問題は形ではなく、方程式に含まれる物理的な仮定の方にある。

特殊相対論では、時空が平坦であることを仮定している。「時空がどう測られるか」を決める道具——計量テンソル——が、慣性系では決まった形の定数行列になる(具体的な中身は第 4 章で導入する)。この仮定が成り立つのは慣性系だけ。加速する座標系に移ると、計量テンソルの成分が場所や時間によって変わってしまい、「平坦な時空」では記述できなくなる。

一般相対論では、最初から場所ごとに変わる一般の計量テンソルを使って方程式を書く。だから任意の座標系で同じ形が成り立つ。これを一般共変性 (general covariance) と呼ぶ。今の時点では「一般相対論では慣性系以外でも方程式が同じ形で成り立つ」とだけ頭に入れておけば十分。具体的な計量テンソルの姿は第 4 章、一般の座標変換は第 6 章以降で詳しく学ぶ。

🟡 リナ: さっきの説明と Dive Deep の補足を合わせると、特殊相対論は慣性系の間だけ、一般相対論は任意の座標系で方程式の形が変わらない——守備範囲が広がるの。表にまとめるとこうなるわ。

表 2.2: 特殊相対論と一般相対論が扱う座標変換の範囲

特殊相対論 一般相対論
不変が保証される変換 慣性系間の変換(Lorentz 変換) 任意の座標変換
時空の仮定 平坦(加速度・重力なし) 曲がっていてもよい
扱えない状況 加速する座標系、重力 なし(全て扱える)
計量テンソル 定数行列(場所によらない) 場所ごとに異なる

🔵 カイ: \(\vec{F} = m\vec{a}\) はベクトル(テンソル)で書かれているから、もう座標系に依存しない形になっていますよね。これで十分じゃないですか?

🟡 リナ: 「空間の」回転や平行移動に対してはね。でも特殊相対論では、光速に近い速度で動く観測者から見ると時間と空間が混ざり合った時空という概念で考える——これは第 3 章で詳しく見るわ。\(\vec{F} = m\vec{a}\)\(\vec{F}\)\(\vec{a}\) は 3 次元の空間ベクトルだから、空間の回転には対応できるけど、慣性系の乗り換え(時間と空間が混ざる変換)には対応できないの。この違いを図にすると(図 2.3「3 次元ベクトルと 4 元ベクトルの対応範囲」)、

空間回転と Lorentz 変換の比較

図 2.3: 3 次元ベクトルと 4 元ベクトルの対応範囲。左 — 空間の座標回転では、3 次元ベクトルの成分が変わるだけで方程式の形は保たれる。右 — 慣性系の乗り換え(Lorentz 変換)では時間軸と空間軸が混ざり合うため、3 次元ベクトルでは記述できない。時間成分を加えた 4 元ベクトルが必要になる。

だから、時間成分を加えた 4 次元のベクトル——4 元ベクトル(1 階テンソル)——に拡張する必要がある。Newton の運動方程式の相対論版は

\[ f^\mu = m\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} \]

🔵 カイ: おお、Newton の式とすごく似ていますね。\(\vec{F}\)\(f^\mu\) に、\(\vec{a}\)\(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}\) に変わっただけ?

🟡 リナ: そう、Newton の \(\vec{F} = m\vec{a} = m\frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}\) と見比べてみて。力 \(\vec{F}\) が 4 元力 \(f^\mu\) に、加速度 \(\frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}\)\(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}\) に対応している——3 次元の位置 \(\vec{r}\) が 4 次元の座標 \(x^\mu\) に、絶対時間 \(t\) が固有時間 \(\tau\) に置き換わっただけ。添字 \(\mu\)(ミュー)は \(0, 1, 2, 3\) の 4 つの値をとる。\(x^1, x^2, x^3\) が空間座標 \(x, y, z\) に対応し、\(x^0\) が時間に関する座標(具体的な定義は第 3 章で導入する)。つまり、この 1 本の式が時間と空間の 4 つの方程式をまとめて表している。そしてこの式は、慣性系を変えても形が変わらない。

記号の補足: 分母の \(\tau\)(タウ)は固有時間 (proper time) ——粒子自身と一緒に動く時計が刻む時間。Newton 力学では時間は観測者によらず同じ(絶対時間)なので \(t\) しかなかったが、特殊相対論では観測者ごとに時間の刻み方が違うので、粒子自身の時計の時間 \(\tau\) と、ある慣性系から見た座標時間 \(t\) を区別する必要がある。厳密な定義と \(t\) との関係は第 3 章で導入するので、今は「Newton の \(t\) を相対論的に書き直したもの」と思っておいて。

✅ 理解度チェック: Newton の運動方程式を 4 元ベクトルに拡張する必要があるのはなぜでしょうか? 3 次元のベクトル形式 \(\vec{F} = m\vec{a}\) では何が不十分なのでしょうか?

答え

3 次元ベクトルは空間の回転に対しては不変だが、特殊相対論では時間と空間が混ざり合う慣性系の乗り換え(Lorentz 変換)に対応できない。時間成分を加えた 4 元ベクトルにすることで、慣性系を変えても方程式の形が変わらなくなる。

🔵 カイ: \(\mu = 1, 2, 3\) は Newton の \(F_x = ma_x\) とかに対応するのは分かります。でも \(\mu = 0\) の時間成分って何を表すんですか?

🟡 リナ: \(\mu = 0\) の成分はエネルギーに関する式になるの。4 元力の時間成分が、粒子のエネルギーの変化率——つまり仕事率——に対応する。詳しくは第 4 章で 4 元ベクトルを学ぶときに導くから、今は「3 次元を 4 次元に拡張すると、運動の法則とエネルギーの法則が一つの式にまとまる」とだけ覚えておいて。

⚪ メイ: つまり、\(\mu = 1, 2, 3\) が空間方向の運動の式で、\(\mu = 0\) がエネルギーの式——一本の式の中に両方が入っているのね。

🟡 リナ: そう。時間と空間が一体になることで、運動の法則とエネルギーの法則が一つの式にまとまる——これが特殊相対論の美しさよ。\(E = mc^2\) もこの構造から自然に出てくるの。

🔵 カイ: \(E = mc^2\) が自然に出てくるんですか! それはどうやって……?

🟡 リナ: 4 元運動量というベクトルの「長さ」を計算すると出てくるの。具体的な導出は第 4 章でやるから、楽しみにしておいて。

🔵 カイ: ベクトルの「長さ」……3 次元だと \(|\vec{v}| = \sqrt{v_x^2 + v_y^2 + v_z^2}\) ですけど、4 次元だと時間成分も入るから何か違うんでしょうね。楽しみにしておきます。……でも気になるのは、この 4 元ベクトルの式 \(f^\mu = m\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}\) は「力が与えられたら動きが分かる」という構造ですよね。重力を \(f^\mu\) に入れようとしたら、結局 Newton の重力を 4 次元に書き直すだけになりませんか? それで第 1 章の問題は解決するんですか?

🟡 リナ: いい問いかけね。実は、重力を扱うにはもう一段の飛躍が必要なの。次のセクションで見ていくわ。

✅ 理解度チェック: Newton の運動方程式 \(\vec{F} = m\vec{a}\) を特殊相対論に拡張するとき、3 次元ベクトルを 4 元ベクトルにする必要がある。追加される \(\mu = 0\) の成分は物理的に何に対応するでしょうか?

答え

エネルギーに関する式(仕事率)に対応する。時間と空間が一体になることで、運動の法則とエネルギーの法則が一つの式にまとまる。

📝 練習問題:

2.3 重力は力ではなく時空の曲がり

🔵 カイ: じゃあ、これで解決じゃないですか? Newton の運動方程式を 4 元ベクトルで書き直せば、相対論と矛盾しない重力の方程式になるのでは?

🟡 リナ: いい質問だけど、実はそれでは足りないの。この方程式は「力 \(f^\mu\) が与えられたとき、粒子がどう動くか」を決める方程式。問題は、左辺の力に重力をどう入れるか

🔵 カイ: Newton の重力 \(F = -GMm/r^2\) をそのまま \(f^\mu\) に入れればいいんじゃないですか? 形を 4 元ベクトルに書き直すだけで。

🟡 リナ: それが自然な発想よね。でも第 1 章で見たように、Newton の重力は「瞬時に伝わる遠隔作用」だった。形を 4 元ベクトルに書き直しても、伝播の仕組み自体は変わらない——重力を「力」として扱う限り、「その力がどう伝わるか」という問題がつきまとう。ここが Einstein の革命的な洞察なの。

⚪ メイ: つまり、力の形を相対論的に書き直すだけでは、構造的な問題は消えないのね。

🟡 リナ: その通り。そこで Einstein の答えは、重力を力ではなく時空の曲がりとして記述すること。時空の曲がりは場の方程式(Einstein 方程式)で決まり、その方程式は特殊相対論と整合する——つまり、時空の曲がりの変化は光速 \(c\) 以下で伝播する。これが重力波よ。「瞬時に伝わる」問題は、重力を場の方程式で記述することで自然に解消されるの。

そして曲がった時空では、粒子は力を受けずに測地線(曲がった時空の中での「まっすぐな経路」)を進むだけ。重力は力ではなく、時空の幾何学に吸収される。

補足: 「測地線」を「最短経路」と説明する教科書もあるが、正確には停留経路——経路を少しだけ変えても、ある量の変化がゼロになる経路——である。第 1 章で学んだ最小作用の原理を思い出して:作用 \(S\) の変分 \(\delta S = 0\) を満たす経路が実現する経路だった。測地線も同じ構造で、「固有時間の変分がゼロになる経路」。高校数学で \(y = f(x)\) の極大・極小を学んだと思うが、あれは「微分がゼロになる点——つまり \(x\) を少しずらしても \(y\) の変化がゼロになる点」だった。ここでは同じ発想を「経路」に適用する:「経路を少しだけ変えても、固有時間の変化量が(1 次の精度で)ゼロになる経路」が測地線。第 1 章で学んだ最小作用の原理と同じ構造ね。空間だけの幾何学では測地線は最短経路になるが、時空の幾何学では事情が異なり、質量のある粒子の測地線は固有時間を極大にする経路になる。直感的には、「寄り道するほど固有時間が短くなる」ので、まっすぐ進む測地線が極大になる。「寄り道すると時間が短くなる」のは日常の感覚に反するが、これは特殊相対論の「時間の遅れ」と同じ現象——動いている時計はゆっくり進む、つまり余分に動き回る(寄り道する)ほど粒子自身の時計が刻む時間(固有時間)は短くなる——第 3 章で詳しく学ぶ。

🔵 カイ: 力がないのに粒子が曲がって動くんですか?

🟡 リナ: それを理解するために、時空図という見方を紹介するわ。横軸に空間 \((x, y)\)、縦軸に時間をとった図よ。時空図上で物体が描く軌跡を世界線 (world line) と呼ぶ——止まっていても動いていても、時間は流れるから、すべての物体は図の上方向(未来の方向)に軌跡を伸ばしていくの。

🔵 カイ: 縦軸が \(ct\) になっていますけど、なぜ \(t\) ではなく \(ct\) なんですか?

🟡 リナ: 空間の軸はメートルなのに、時間の軸が秒だと次元が違って同じ図に描けない。そこで時間 \(t\) に光速 \(c\) をかけた \(ct\) を使う。\(c \times t\) は「光が \(t\) 秒間に進む距離」だから、単位はメートル——空間と同じ次元になるの。図を見てみましょう(図 2.4「平坦な時空と曲がった時空の測地線」)。

平坦な時空と曲がった時空の測地線

図 2.4: 平坦な時空と曲がった時空の測地線。縦軸は時間 \(ct\)、横の 2 軸 \((x, y)\) が空間。左 — 平坦な時空では、力を受けない粒子は時空の中で直線的な世界線を描く。これは等速直線運動に対応する。右 — 天体の周りの曲がった時空では、力を受けていなくても世界線が曲がる。これが測地線——曲がった時空の中での「まっすぐ」。黄色の破線は光の世界線(光円錐の断面、45°の直線)で、質量のある粒子の世界線はこれより立っている(光速を超えない)。

🟡 リナ: 大事なポイントは、すべての物体は時間方向(\(ct\) 軸の上方向)に否応なく進んでいくということ。止まっていても、動いていても、時間は流れる——時空図では、それが物体の軌跡が \(ct\) 方向に伸びていくことに対応するの。

⚪ メイ: 静止している物体の世界線は \(ct\) 軸に沿って真上に進む。等速直線運動している物体は、空間方向にも一定の割合でずれるから、斜めの直線になるのね。

🟡 リナ: その通り。図の左側がまさにそれ。青い直線が等速直線運動する粒子の世界線——時間が経つにつれて空間位置が一定の割合でずれていくから、斜めの直線になる。力が働いていないから、世界線は曲がらない。

🔵 カイ: 右側はどう読むんですか?

🟡 リナ: 右側は時空が曲がっている場合。粒子は力を受けていなくても、\(ct\) 方向に進むうちに空間方向にずれていく——世界線が曲がる。曲がっているのは粒子の軌道ではなく、時空そのもの。粒子は曲がった時空の中でまっすぐ(測地線に沿って)進んでいるだけ。地球の表面を「まっすぐ」歩いても、地球が丸いから軌跡は曲線になるのと同じ発想よ。

それから、図の黄色い破線に気づいた? あれは光が進む軌跡——光の世界線。空間軸と \(ct\) 軸の単位が同じだから、光は 45° の直線を描く。質量のある粒子は光より遅いから、世界線は 45° より立った(\(ct\) 軸に近い)方向に進む。この 45° の線が作る円錐を光円錐 (light cone) と呼ぶの。詳しくは第 3 章で学ぶわ。

🔵 カイ: 曲がった時空の中を「まっすぐ」進むって、数式ではどう書くんですか?

🟡 リナ: Newton の運動方程式で力がゼロ \(\vec{F} = 0\) のとき、\(\vec{a} = 0\) ——つまり等速直線運動になるわよね。これは「平坦な空間でのまっすぐ」。4 次元に拡張すると \(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} = 0\) ——加速度ゼロ。でも時空が曲がっていると、「まっすぐ」の意味自体が変わる。曲がった時空では、座標上の加速度がゼロでも本当にまっすぐとは限らないし、逆に座標上は加速しているように見えても時空の中ではまっすぐかもしれない。

🔵 カイ: 座標上は加速しているのに本当はまっすぐ……? なんだかパラドックスみたいですね。

🟡 リナ: 例えば、自由落下するリンゴは地上の座標系では加速度 \(g\) で落ちているように見えるけど、Einstein の見方では力を受けていない——曲がった時空の中をまっすぐ進んでいるだけ。逆に言えば、地面に立っている私たちの方が、地面からの力(垂直抗力)を受けて加速している——つまり「曲がった時空の中でのまっすぐな経路」(測地線)から外れている側なの。

だから、曲がった時空で「本当にまっすぐ進んでいるか」を判定するには、座標の加速度 \(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}\) だけでは足りない——座標系自体の曲がりや歪みを補正する項が必要になる。その補正項は粒子の速度(どの方向にどれだけ速く進んでいるか)に依存するの。

地球の表面で考えてみて。赤道上を東に歩くと緯線に沿って進むから、地図上では直線に見えるけど実際には曲がっている。一方、同じ場所から北に歩くと経線に沿って進む——こちらは曲がり方が違う。つまり「どの方向に進むか」で補正の仕方が変わるの。さらに、北東に斜めに歩く場合は、北方向の成分と東方向の成分の両方が効いてくる——補正は「北方向にどれだけ進んでいるか」と「東方向にどれだけ進んでいるか」の組み合わせで決まるのよ。

⚪ メイ: つまり、補正の大きさは「進む方向」と「進む速さ」の両方で変わるのね。

🟡 リナ: その通り。4 次元時空でも同じで、\(\alpha\) 方向の速度と \(\beta\) 方向の速度のすべての組み合わせ(\(\alpha, \beta\) がそれぞれ \(0, 1, 2, 3\) を走る)が補正に寄与する。なぜ「掛け合わせ」なのかを直感的に言うと、北東に斜めに歩く場合の補正は「北方向にどれだけ進んでいるか」と「東方向にどれだけ進んでいるか」の両方に同時に比例する——片方がゼロなら斜め方向の補正も消えるから、足し算ではなく掛け算の形になるの。例えば、北方向の速度が \(v_N\)、東方向の速度が \(v_E\) のとき、斜め方向特有の補正は \(v_N \times v_E\) に比例する。真北に歩く(\(v_E = 0\))なら斜め補正はゼロ、真東に歩く(\(v_N = 0\))でもゼロ——両方が同時にゼロでないときだけ効いてくるの。もちろん、真北に歩くときにも北方向自体の補正(\(v_N \times v_N\) に比例する項)はある——\(\alpha\)\(\beta\) が同じ方向の場合も含めて、すべての組み合わせを足し合わせるのよ。

🔵 カイ: なるほど、同じ方向同士の積も、異なる方向同士の積も、全部含まれるんですね。4 次元だと組み合わせがたくさんありそうですけど……。

🟡 リナ: そう、\(\alpha\)\(\beta\) がそれぞれ \(0, 1, 2, 3\) を走るから \(4 \times 4 = 16\) 個の項の和になる。数式で書くと \(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau}\) という形(\(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) は「場所ごとの補正の強さ」を表す係数——中身はすぐ後で説明するわ)。\(\Sigma\)(シグマ)記号を使って明示的に書けば \(\sum_{\alpha=0}^{3}\sum_{\beta=0}^{3}\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau}\) という意味よ。相対論ではこの \(\Sigma\) を省略して、「同じ添字が上と下に現れたら和をとる」という約束で書くの——この省略記法(Einstein の縮約規則)はもう少し後で正式に説明するわ。

🔵 カイ: え、地面に立っている人が加速しているんですか? 動いていないのに?

🟡 リナ: 日常の感覚では変よね。でも思い出して——加速度計(スマホの中にもある)を持って自由落下すると、加速度計はゼロを示す。なぜかというと、加速度計の中のバネやセンサーも一緒に落ちているから、バネが縮まない=力を検出しないの。逆に地面に立っているとき、加速度計は上向きに \(g\) を示す——地面がセンサーを押し上げているから。つまり「本当に力を受けていない(加速度ゼロ)」のは落下中のリンゴの方で、地面に立っている人は垂直抗力で常に押し上げられている——これが Einstein の見方。ここで言う「加速」は、測地線(曲がった時空でのまっすぐな経路)から外れているという意味——地面に立っている人は、垂直抗力によって自由落下の経路から逸らされ続けているの。詳しくは等価原理を学ぶ第 5 章で掘り下げるわ。今ここで大事なのは、地上の座標系で「リンゴが加速している」ように見えるのは、座標系自体が(地面に押されて)加速しているせいだということ。その補正を担うのが \(\Gamma\) の項。結果として、曲がった時空での「まっすぐ」——測地線方程式——はこうなるの。

\[ \frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + \Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau} = 0 \]

🔵 カイ: この式の各項は何を表しているんですか?

🟡 リナ: 第 1 項 \(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}\) は粒子の加速度——Newton の \(\vec{a}\) に相当するもの。第 2 項の \(\frac{dx^\alpha}{d\tau}\) は粒子の速度(4 元速度)——Newton の \(\vec{v}\) に相当するもの——で、Newton 力学では位置を時間 \(t\) で微分して速度 \(\frac{dx}{dt}\) を得たけど、相対論では粒子自身の時計 \(\tau\) で微分するの。\(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau}\) 全体は、時空の幾何学——曲がりと座標系の選び方の両方——が粒子の運動に与える効果を表す。

🔵 カイ: \(\alpha\)\(\beta\) が両方とも \(0, 1, 2, 3\) を走るってことは、速度の成分同士のすべての組み合わせが入っているんですか?

🟡 リナ: そう。\(\alpha\) 方向の速度 × \(\beta\) 方向の速度のすべての組み合わせが足し合わされている——なぜ「足し合わせる」と読むのかのルールはすぐ後で説明するわ。物理的な意味としては、粒子がどの方向にどれだけ速く動いているかによって、幾何学的効果の受け方が変わるの。さっき言った地球の表面の例と同じで、時空の中でどの方向にどれだけ速く進んでいるかで、軌道の曲がり方が変わる。

🔵 カイ: \(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) って何者なんですか?

🟡 リナ: \(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\)(ガンマ、接続係数)は計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) とその微分——つまり \(g_{\mu\nu}\) が座標 \(x\)\(y\) に沿ってどう変化するかの変化率——から決まる量よ。計量テンソルとは、時空の各点で「距離の測り方」を決める 2 階テンソル——前のセクションの表で見た「\(4 \times 4\) の表」の形をした量のこと。

⚪ メイ: 地図の縮尺が場所によって違う、みたいなイメージかしら。

🟡 リナ: まさにそう。たとえて言えば、地図の縮尺が場所によって違うようなもの——平坦な時空ではどこでも同じ縮尺だけど、曲がった時空では場所ごとに「1 メートル」の意味が変わる。その「場所ごとの縮尺表」が計量テンソル。\(\Gamma\) は「縮尺が場所によってどう変わるか」——つまり縮尺表の変化率——を表す量だと思えばいいわ。この章の最後に出てくる時空間隔 \(ds^2\) の式が、計量テンソルの最も簡単な姿——後の章で詳しく導入するわ。「接続」という名前は、曲がった時空の異なる点でベクトルを比較する(つなぐ)ための道具、という意味から来ている。

⚪ メイ: 「つなぐ」ってどういうこと?

🟡 リナ: 例えば地球の表面で、北極にいる人と赤道にいる人がそれぞれ「北向き」の矢印を持っていたとして、その 2 本の矢印を比べようとすると、球面が曲がっているせいで単純には比較できない——その「つなぎ方のルール」を与えるのが接続係数。詳しくは第 8 章で学ぶわ。それから、\(\Gamma\) はギリシャ文字のガンマで、アルファベットの大文字 \(T\) と形が似ているけれど、この先で出てくるエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu}\) とはまったく別物だから注意してね。

測地線方程式の各項の意味を整理しておくわ(図 2.5「測地線方程式の各項の役割」)。

測地線方程式の構造

図 2.5: 測地線方程式の各項の役割。第 1 項は粒子の加速度(Newton の \(\vec{a}\) に相当)、第 2 項は時空の幾何学が粒子の運動に与える効果(重力がここに吸収される)、右辺がゼロは重力以外の力がないことを表す。

それから、第 2 項で \(\alpha\)\(\beta\) が上と下の両方に現れているでしょう? 具体的に見ると、\(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) では \(\alpha\) が下に、\(\frac{dx^\alpha}{d\tau}\) では \(\alpha\) が上にある。

🔵 カイ: 待ってください。\(x^\alpha\) って、\(x\)\(\alpha\) 乗じゃないんですか?

🟡 リナ: いい質問。高校では \(x^2\) は「\(x\) の 2 乗」だけど、相対論では座標の成分ラベルを右肩に書く慣習なの。だから \(x^2\) は「座標の第 2 成分(\(y\) 方向)」という意味。べき乗と紛らわしいけど、文脈で区別する——相対論の式で添字が \(\mu, \nu, \alpha, \beta\) のようなギリシャ文字なら、まず間違いなく成分ラベルよ。数字の場合も、テンソルの式の中では成分ラベルと読む。

🔵 カイ: 慣れるまで混乱しそうですけど、了解です。それと、添字が上にあるのと下にあるのとでは何が違うんですか?

🟡 リナ: 今の段階では「上にある添字と下にある添字は、座標変換に対する変わり方のルールが違う」とだけ思っておいて。上付き添字を反変 (contravariant)、下付き添字を共変 (covariant) と呼ぶのだけど、その正確な意味は第 6 章で学ぶわ。今ここで大事なのは、同じ添字が上と下に 1 回ずつ現れたら、その添字について和をとるというルール——これを Einstein の縮約規則 (summation convention) と呼ぶの。\(\alpha = 0, 1, 2, 3\) のすべてについて足し合わせるという意味よ。\(\beta\) も同様——\(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) の下添字 \(\beta\) と、\(\frac{dx^\beta}{d\tau}\) の上添字 \(\beta\) が対になっているから、\(\beta = 0, 1, 2, 3\) についても足し合わせる。つまり \(4 \times 4 = 16\) 個の項の和になっている。和の記号 \(\sum\) を省略する書き方で、この先ずっと使うわ。

簡単な例を挙げると、\(A^\alpha B_\alpha\) と書いたら \(A^0 B_0 + A^1 B_1 + A^2 B_2 + A^3 B_3\) という意味。高校で習うベクトルの内積 \(\vec{A} \cdot \vec{B} = A_x B_x + A_y B_y + A_z B_z\) の 4 次元版だと思えばいいわ。図にまとめておくわね(図 2.6「Einstein の縮約規則のイメージ」)。

Einstein の縮約規則

図 2.6: Einstein の縮約規則のイメージ。同じ添字が上と下に 1 回ずつ現れたら、その添字について \(0\) から \(3\) まで和をとる。\(\sum\) 記号を省略する書き方で、相対論の全ての式で使われる。 {: #fig-gr-ch2-summation-convention } 🟡 リナ: そして右辺がゼロ——つまり力がない。Newton の \(\vec{F} = m\vec{a}\) と比べてみて。重力という「力」が右辺から消えて、代わりに \(\Gamma\) の項が左辺——加速度の側——に入っている。さっき言った「重力は力ではなく時空の曲がり」が、数式の上でもはっきり見えるでしょう?

⚪ メイ: なるほど。Newton では右辺に重力が「力」として入っていたのに、Einstein では左辺の \(\Gamma\) に吸収されて右辺がゼロになる——構造がまったく変わったのね。

🔵 カイ: 世界線と測地線って、どう違うんですか?

🟡 リナ: 世界線はすべての物体が時空図上に描く軌跡の総称。重力以外の力を受けていても受けていなくても、あらゆる物体の軌跡が世界線よ。測地線はそのうち、重力以外の力を受けていない物体の世界線——つまり世界線の特別な場合。

🔵 カイ: 「重力以外の」って、重力は力じゃないんですか?

🟡 リナ: そこが Newton と Einstein の決定的な違いなの(図 2.7「Newton と Einstein の重力観の比較」)。

Newton と Einstein の重力観の比較

図 2.7: Newton と Einstein の重力観の比較。左 — Newton の見方:平坦な空間の中で、リンゴは重力という「力」に引っ張られて落ちる。右 — Einstein の見方:地球の質量が時空を曲げ、リンゴは力を受けずに曲がった時空の中を測地線に沿って「まっすぐ」進んでいるだけ。

  • Newton の見方: リンゴは「重力という力」に引っ張られて落ちている
  • Einstein の見方: リンゴは何の力も受けていない。曲がった時空の中をまっすぐ(測地線に沿って)進んでいるだけ

Einstein の枠組みでは、重力は力ではなく時空の曲がりに吸収されている。だから「重力だけが働いている」ではなく、「重力以外の力が働いていない = 何の力も働いていない」——これが測地線の意味よ。右辺がゼロの式だけを「測地線方程式」と呼ぶのも、測地線が幾何学の用語で「曲がった空間での極値経路」を意味するからなの。世界線と測地線の区別を時空図で描いておくわね(図 2.8「世界線と測地線の違い」)。

世界線と測地線の区別

図 2.8: 世界線と測地線の違い。左 — 測地線:重力以外の力を受けない物体(自由落下するリンゴ)の世界線。運動方程式の右辺 = 0。右 — 一般の世界線(非測地線):ロケット噴射など重力以外の力を受けている物体の軌跡。右辺 ≠ 0。

✅ 理解度チェック: 世界線と測地線の違いは何でしょうか?

答え

世界線はすべての物体が時空図上に描く軌跡の総称で、力を受けていてもいなくても世界線と呼ぶ。測地線はそのうち、重力以外の力を受けていない物体の世界線——つまり世界線の特別な場合。

🔵 カイ: じゃあ逆に、電磁気力で加速されている荷電粒子は測地線じゃないってことですか?

🟡 リナ: その通り。電磁気力は重力と違って時空の曲がりには吸収されないから、力として残る。

🔵 カイ: その場合の運動方程式はどうなるんですか?

🟡 リナ: 測地線方程式の右辺に「重力以外の力」を足すだけよ。ただし、測地線方程式はそのままだと「加速度 = 0」の形——右辺に力を足すなら「質量 × 加速度 = 力」の形に揃えたい。だから左辺に質量 \(m\) を掛けて、右辺に力を書くの。例えば電荷 \(q\) の粒子が電磁場の中を動く場合の電磁気力(Lorentz 力の 4 元版)を加えると

\[ m\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + m\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau} = qF^{\mu}{}_{\nu}\frac{dx^\nu}{d\tau} \]

ここで \(\frac{dx^\nu}{d\tau}\) は粒子の 4 元速度(さっき出てきた速度の 4 次元版)。この式の右辺の詳細は今は追わなくて大丈夫——大事なのは構造だけ。\(F^{\mu}{}_{\nu}\) は 2 階テンソルで、上付き添字 \(\mu\) と下付き添字 \(\nu\) を 1 つずつ持っている。添字が離れて書かれているのは「1 番目が上、2 番目が下」という順番を明確にするためだけど、今は深入りしなくて大丈夫よ。そして \(\nu\)\(F^{\mu}{}_{\nu}\) の下と \(\frac{dx^\nu}{d\tau}\) の上に 1 回ずつ現れているから縮約(和をとる)。一方、\(\mu\) は左辺でも右辺でも上付きだけに現れている——「上と下に 1 回ずつ」というペアになっていないから、和はとらない。こういう添字を自由添字 (free index) と呼ぶの。

🔵 カイ: ちょっと整理させてください。縮約添字 \(\nu\) は和をとって消える。自由添字 \(\mu\) は残っていて、\(\mu = 0\) を選べば時間方向の式、\(\mu = 1\) なら \(x\) 方向……って、つまりこの 1 行が実は 4 本の方程式を同時に表しているんですね?

🟡 リナ: その通り。1 行で 4 本分——添字記法の便利さはそこにあるの。整理すると、添字には 2 種類ある:

  • 縮約添字(ダミー添字):同じ添字が上と下に 1 回ずつ → その添字について \(0\) から \(3\) まで和をとる(添字が消える)
  • 自由添字:各項の中で上下のペアになっていない添字。等式の両辺に同じ位置(上なら上)で現れ、和はとらない。「\(\mu = 0, 1, 2, 3\) のどれを選んでも等式が成り立つ」という意味で、4 本の方程式をまとめて 1 行で書いている

例えば \(\mu = 1\) を選べば \(x\) 方向の式、\(\mu = 2\) を選べば \(y\) 方向の式、という具合にね。右辺の \(F^{\mu}{}_{\nu}\)電磁場テンソル——高校で習う Lorentz 力 \(\vec{F} = q(\vec{E} + \vec{v} \times \vec{B})\) を 4 次元に拡張したもの。\(F^{\mu}{}_{\nu}\) は 2 階テンソルで、上付き添字(反変)と下付き添字(共変)を 1 つずつ持っている——添字の上下の意味は第 6 章で正式に学ぶから、今は気にしなくて大丈夫。具体的な中身は「場の量子論」編で扱うわ。ちなみに、左辺の \(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) も添字を持っているけれど、実はテンソルではない——座標変換に対する変わり方のルールがテンソルとは異なるの。この区別は第 8 章で学ぶから、今は気にしなくて大丈夫よ。

記号の補足(先取り): \(F^{\mu}{}_{\nu}\) の添字の上下の意味は第 6 章で正式に導入するので、今は読み飛ばして構わない。

左辺が「曲がった時空での加速度 × 質量」——重力は \(\Gamma\) の項に吸収されている。右辺が電磁気力。右辺に力がある式は「測地線方程式」ではなく単に「運動方程式」と呼ぶ。力で経路が曲げられたら、もう測地線ではないからね。

🔵 カイ: なるほど。右辺に力がなければ両辺 \(m\) で割れて、元の測地線方程式に戻る……あ、ちょっと待ってください。\(m\) で割れるってことは、測地線方程式には質量 \(m\) が出てこない——質量が違っても同じ軌道を描くってことですか? ガリレオがピサの斜塔で(伝説では)やった実験と同じことを言っている?

🟡 リナ: まさにそう。ガリレオの「重い物も軽い物も同じように落ちる」が、Einstein の枠組みでは「すべての物体は質量によらず同じ測地線に沿って進む」として自然に組み込まれている。これは慣性質量と重力質量が等しいこと(等価原理)の数学的な表現になっているの。第 5 章で詳しく見るわ。

✅ 理解度チェック: 測地線方程式に粒子の質量 \(m\) が現れないことは、物理的にどのような原理と結びついているでしょうか?

答え

慣性質量と重力質量が等しいこと(等価原理)と結びついている。質量が方程式に現れないため、すべての物体は質量によらず同じ測地線に沿って進む。

🔵 カイ: ところで、左辺の時空がどう曲がるかは誰が決めるんですか?

🟡 リナ: それを決めるのが Einstein 方程式——この先のゴールよ。

\[ G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}\,T_{\mu\nu} \]

左辺の \(G_{\mu\nu}\)(Einstein テンソル)は時空の曲がり具合、右辺の \(T_{\mu\nu}\)(エネルギー運動量テンソル)は物質とエネルギーの分布。つまり、物質とエネルギーがどう分布しているかによって、時空の曲がり具合が決まる——これがカイの質問への答えよ。そして両辺が同じ種類のテンソル(2 階)だから、どの座標系でもこの形が成り立つ。

🔵 カイ: 物質が時空の形を決めて、時空の形が物体の動きを決める——お互いに影響し合っているんですね。……でもいくつか疑問があります。まず、左辺の \(G_{\mu\nu}\) と右辺の \(G\)(万有引力定数)って関係あるんですか?

🟡 リナ: まったくの別物よ。\(G_{\mu\nu}\) は添字が付いたテンソル(時空の曲がりを表す量)、\(G\) は添字なしのただの定数(Newton の万有引力定数 \(\approx 6.67 \times 10^{-11}\))。たまたま同じアルファベットを使っているだけで、物理的には無関係。文脈と添字の有無で区別してね。

🔵 カイ: 次に、\(\frac{8\pi G}{c^4}\) の「\(8\pi\)」って何ですか? なぜ \(8\) とか円周率 \(\pi\) が出てくるんですか? あと、\(c^4\) で割っているのも気になります。

🟡 リナ: あの係数は Einstein が自由に選んだ数字ではなく、Newton の Poisson 方程式 \(\nabla^2 \Phi = 4\pi G\rho\) と整合するように決まるの。弱い重力・遅い速度の極限で Einstein 方程式が Poisson 方程式に帰着する条件から、\(8\pi G/c^4\) でなければならない。\(4\pi\) の由来は第 1 章で見た通り、球を囲む全立体角 \(4\pi\) ステラジアンから来ている。\(8\pi\)\(4\pi\) の 2 倍)になる理由は、Einstein テンソル \(G_{\mu\nu}\) の定義に含まれる因子から来るのだけど、今の段階では導出できないから、第 14 章で実際に計算して確かめるわ。

🔵 カイ: Newton の極限で一致するように決まるんですね。じゃあ \(c^4\) は?

🟡 リナ: \(c^4\) が分母にあるのは次元を合わせるため。\(T_{\mu\nu}\) は「単位体積あたりのエネルギーや運動量」を表す量で、エネルギー密度——つまり J/m³(ジュール毎立方メートル)——の次元を持つ。一方、\(G_{\mu\nu}\) は計量テンソルの 2 階微分から作られる量で、1/m²(長さの逆 2 乗)の次元を持つ。直感的には、高校で \(y = f(x)\) を微分したとき、\(x\) の単位がメートルで \(y\) が無次元なら、\(\frac{d^2 y}{dx^2}\) の単位は \(1/\text{m}^2\) になるわよね。計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) は(後の章で見るように)無次元の量で、座標 \(x^\mu\) は長さの次元を持つ。だから \(g_{\mu\nu}\) を座標で 2 回微分すると 1/m² の次元になる——\(G_{\mu\nu}\) はそこから作られるから同じ次元を持つの(厳密な確認は第 14 章で行う)。左辺が 1/m² で右辺が J/m³ だと次元が合わないから、間に定数を挟んで次元を揃える必要がある——その役割を果たすのが \(G/c^4\) よ。具体的な次元の確認は第 14 章で行うから、今は「Newton の極限と整合する唯一の値」とだけ覚えておいて。

🔵 カイ: それから、さっきの測地線方程式にも \(\Gamma\) という「時空の曲がり」が出てきましたよね。\(\Gamma\)\(G_{\mu\nu}\) はどう違うんですか?

🟡 リナ: いい質問。物理的な因果関係で言うと、こういう順番になるの。フローチャート(図 2.9「一般相対論の基本構造と諸量の関係」)を見ながら聞いてね。

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flowchart LR
    T["物質・エネルギー<br/>T_μν"] -->|"Einstein 方程式"| g["計量テンソル<br/>g_μν"]
    g -->|"1階微分"| Γ["接続係数<br/>Γ^μ_αβ"]
    g -->|"2階微分"| R["Riemann テンソル<br/>R^μ_ναβ"]
    Γ -->|"測地線方程式"| orbit["粒子の軌道"]
    R -->|"縮約"| Ric["Ricci テンソル<br/>R_μν"]
    Ric -->|"さらに縮約"| G["Einstein テンソル<br/>G_μν"]

図 2.9: 一般相対論の基本構造と諸量の関係

まず、物質とエネルギーの分布 \(T_{\mu\nu}\) が与えられる。例えば「半径 \(R\)、質量 \(M\) の一様な球形の星がある」とか「宇宙全体に密度 \(\rho\) のガスが一様に広がっている」といった設定を、数学的に \(T_{\mu\nu}\) の形で書き下すの。Newton の Poisson 方程式で右辺の質量密度 \(\rho\) を指定するのと同じ発想よ。

次に Einstein 方程式 \(G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\) を解いて、計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) が決まる——つまり時空の形が決まる。フローチャートで \(T_{\mu\nu}\) から \(g_{\mu\nu}\) に矢印が伸びているのはこの意味よ。

🔵 カイ: ちょっと待ってください。方程式の左辺は \(G_{\mu\nu}\) なのに、なぜ \(g_{\mu\nu}\) が求まるんですか?

🟡 リナ: \(G_{\mu\nu}\)(Einstein テンソル)は \(g_{\mu\nu}\) とその微分から作られる量なの。だから Einstein 方程式は、実質的には \(g_{\mu\nu}\) に対する微分方程式。Newton の Poisson 方程式 \(\nabla^2 \Phi = 4\pi G\rho\)\(\Phi\) に対する微分方程式であるのと同じ構造よ。

\(g_{\mu\nu}\) が決まったら、それを微分して接続係数 \(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) が決まる。最後に測地線方程式で粒子の軌道が決まる。

ここで、\(G_{\mu\nu}\)\(\Gamma\) もどちらも \(g_{\mu\nu}\) から作られるけど、微分の回数が違う。

  • \(g_{\mu\nu}\)1 階微分\(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\)(接続係数)→ 測地線方程式で粒子の軌道を決める
  • \(g_{\mu\nu}\)2 階微分 → Riemann テンソル \(R^\mu{}_{\nu\alpha\beta}\)(時空の曲がりを完全に記述する量、添字 4 つの 4 階テンソル)→ 縮約 → Ricci テンソル \(R_{\mu\nu}\)(2 階テンソル)→ さらに縮約 → Ricci スカラー \(R\)(0 階テンソル)→ \(R_{\mu\nu}\)\(R\) を組み合わせて \(G_{\mu\nu}\)(Einstein テンソル)→ Einstein 方程式で物質との関係を決める

🔵 カイ: フローチャートで \(g\) から \(R\) に直接矢印が出ていますけど、\(\Gamma\) を経由する矢印もありますよね。実際の計算はどっちの道を通るんですか?

🟡 リナ: 実際の計算は必ず \(g \to \Gamma \to R\) の順番で進む——まず \(g\) を 1 回微分して \(\Gamma\) を作り、次に \(\Gamma\) をさらに微分して \(\Gamma\) 同士の積と組み合わせることで \(R\) を得るの。\(g\) から \(R\) への矢印は「最終的に \(R\)\(g\) の 2 階微分で決まる」という依存関係を示しただけで、\(\Gamma\) を飛ばせるという意味ではないわ。混乱するなら、\(g \to \Gamma \to R\) という一本道だけを覚えておけば十分よ。……さて、フローチャートに「縮約」という言葉が出てきたわね。

🔵 カイ: そう、「縮約」って何ですか?

🟡 リナ: さっき学んだ Einstein の縮約規則を思い出して。\(A^\alpha B_\alpha = A^0 B_0 + A^1 B_1 + A^2 B_2 + A^3 B_3\) ——上下に揃った添字 \(\alpha\) について和をとると、\(\alpha\) が消えてスカラー(添字なし)が残ったわよね。

🔵 カイ: はい、2 つのベクトルの内積みたいなやつですね。

🟡 リナ: そう。あれは 2 つのベクトル(1 階テンソル)の間で添字を揃えた例だったけど、同じ発想を1 つのテンソルの中でもできる——テンソルが持つ添字の一組(上に 1 つ、下に 1 つ)を揃えて和をとる操作を縮約と呼ぶの。例えば 2 階テンソル \(M^\mu{}_\nu\)\(M\) は何でもいい——一般的な 2 階テンソルの例として書いている)で \(\mu\)\(\nu\) を揃えて和をとると \(M^0{}_0 + M^1{}_1 + M^2{}_2 + M^3{}_3\) ——添字が全部消えてスカラーが残る。

🔵 カイ: あ、\(4 \times 4\) の表で対角線上の成分だけを拾って足す感じですか?

🟡 リナ: その通り。これを \(4 \times 4\) の表で見ると、左上から右下への対角線上の成分だけを拾って足し合わせる操作に対応するわ。具体的に書くと、\(M^\mu{}_\nu\) を表にしたとき

\(\nu=0\) \(\nu=1\) \(\nu=2\) \(\nu=3\)
\(\mu=0\) \(M^0{}_0\) \(M^0{}_1\) \(M^0{}_2\) \(M^0{}_3\)
\(\mu=1\) \(M^1{}_0\) \(M^1{}_1\) \(M^1{}_2\) \(M^1{}_3\)
\(\mu=2\) \(M^2{}_0\) \(M^2{}_1\) \(M^2{}_2\) \(M^2{}_3\)
\(\mu=3\) \(M^3{}_0\) \(M^3{}_1\) \(M^3{}_2\) \(M^3{}_3\)

太字の対角成分だけを足す:\(M^0{}_0 + M^1{}_1 + M^2{}_2 + M^3{}_3\)(行列を知っている人は「トレース」と同じだと思えばいいわ)。ただし、これは 2 階テンソル 1 つの中で上下の添字を揃える場合の話——最も単純な縮約の例ね。もっと一般には、さっきの \(A^\alpha B_\alpha\) のように 2 つのテンソルの間で添字を揃えて和をとる場合もあるけど、基本の発想は同じ——「上と下に揃った添字について和をとり、その添字を消す」。1 回の縮約で添字が 1 ペア(2 つ)消えるから、階数が 2 つ下がる。

⚪ メイ: 縮約するたびに階数が 2 つ下がる——情報を圧縮して要約していく操作なのね。

🔵 カイ: なるほど、縮約で階数が下がるのは分かりました。でもこの先、Riemann テンソルとか Ricci テンソルとか一気に名前が出てきて混乱しそうです……全部今覚えなきゃダメですか?

🟡 リナ: 今は名前と「階数が下がっていく流れ」だけ掴めれば十分よ。具体的な中身は後の章で一つずつ学ぶから。流れだけ言うと、Riemann テンソル(添字 4 つ、4 階)を 1 回縮約すると、添字が 2 つ消えて Ricci テンソル(添字 2 つ、2 階)になる。さらに Ricci テンソルを 1 回縮約すると Ricci スカラー(添字なし、0 階)になる。Einstein テンソル \(G_{\mu\nu}\) は Ricci テンソルと Ricci スカラーを組み合わせて作る量——フローチャートでは「さらに縮約」と簡略化しているけど、正確には縮約だけでなく組み合わせの操作も入るの。詳しくは第 14 章で導出するわ。図にするとこういう流れね(図 2.10「テンソルの縮約による階数の低下」)。

テンソルの縮約

図 2.10: テンソルの縮約による階数の低下。4 階の Riemann テンソル(256 成分)を 1 回縮約すると 2 階の Ricci テンソル(16 成分)に、もう 1 回縮約すると 0 階の Ricci スカラー(1 成分)になる。縮約のたびに添字が 2 つ消え、情報が圧縮される。

詳しい計算は後の章でやるから、今は「情報を圧縮する操作」とだけ思っておいて。

つまり \(G_{\mu\nu}\)\(\Gamma\) の微分や積から作られる量なの。

🔵 カイ: 上のルート(\(\Gamma\) → 軌道)だけで粒子の運動は求まりますよね。下のルート(Riemann → \(G_{\mu\nu}\))は何のために使うんですか?

🟡 リナ: 2 つの用途があるの。1 つ目は、そもそも \(g_{\mu\nu}\) を求めること自体に使う。フローチャートの一番左を見て——物質の分布 \(T_{\mu\nu}\) から \(g_{\mu\nu}\) を決めるのが Einstein 方程式で、その左辺が \(G_{\mu\nu}\) でしょう? つまり下のルートは「物質がどう分布しているかから時空の形を決める」ための道具なの。2 つ目は、決まった時空が「どのくらい曲がっているか」を診断する用途。例えば、ブラックホールのある場所で計量の成分がおかしな値になったとき、「本当に時空が壊れているのか、それとも座標の選び方が悪いだけなのか」を判定するには、Riemann テンソルから作った不変量を調べる必要がある。これは第 16 章で詳しくやるわ。粒子の軌道を求めるだけなら上のルートで十分よ。

⚪ メイ: つまり、上のルートは「時空の中で粒子がどう動くか」を決めるもので、下のルートは「時空の形そのものを決める」ためと「曲がり具合を調べる」ためのもの——でもどちらも出発点は同じ計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) なのね。

🔵 カイ: フローチャートで見ると、全部 \(g_{\mu\nu}\) から始まっているのがよく分かります。計量テンソルが本当に主役なんですね。……でも、物質 \(T_{\mu\nu}\) が時空を曲げて、曲がった時空が物質の動きを決めるなら、お互いに影響し合って堂々巡りになりませんか? どうやって解くんですか?

✅ 理解度チェック: 測地線方程式の右辺がゼロであることは、物理的に何を意味するでしょうか?

答え

粒子に(重力以外の)力が働いていないことを意味する。重力は力ではなく時空の曲がりとして左辺の \(\Gamma\) の項に吸収されているため、右辺に現れない。

✅ 理解度チェック: Einstein 方程式 \(G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\) で、左辺と右辺はそれぞれ何を表すでしょうか?

答え

左辺 \(G_{\mu\nu}\)(Einstein テンソル)は時空の曲がり具合、右辺 \(T_{\mu\nu}\)(エネルギー運動量テンソル)は物質とエネルギーの分布を表す。「物質がどう分布しているかが、時空の曲がりを決める」という関係。

📝 練習問題:

🟡 リナ: Newton の枠組みと Einstein の枠組みを並べて比較してみましょう。

表 2.3: Newton力学と一般相対論の対応

Newton Einstein(一般相対論)
粒子の運動 \(\vec{F} = m\vec{a}\)(運動方程式) \(\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + \Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau} = 0\)(測地線方程式。重力以外の力がある場合は右辺に追加)
場の方程式 \(\nabla^2 \Phi = 4\pi G\rho\)(Poisson 方程式) \(G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\)(Einstein 方程式)
重力の正体 \(F = -GMm/r^2\) 時空の曲がり
主役 重力ポテンシャル \(\Phi\)(スカラー) 計量テンソル \(g_{\mu\nu}\)(2 階テンソル)

⚪ メイ: きれいに一対一で対応しているのね。スカラーが 2 階テンソルに、密度がエネルギー運動量テンソルに——階数が上がるだけで構造は同じなのが分かりやすい。

🟡 リナ: Newton にも「場の方程式」はあった——重力ポテンシャル \(\Phi\) を決める Poisson 方程式よ。

\[ \nabla^2 \Phi = 4\pi G\rho \]

Einstein 方程式

\[ G_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}\,T_{\mu\nu} \]

はその一般化で、スカラー \(\Phi\) が 2 階テンソル \(g_{\mu\nu}\) に、密度 \(\rho\) がエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu}\) に置き換わる。実際、弱い重力・遅い速度の極限では Einstein 方程式から Poisson 方程式が導かれる。

🔵 カイ: Newton の理論が Einstein の理論の近似になっているんですね。

🟡 リナ: そう。だから Einstein の枠組みでは、1 階テンソル(ベクトル)だけでは足りず、2 階テンソルまで必要になる。

✅ 理解度チェック: Newton の重力理論から Einstein の一般相対論に移行するとき、主役となる物理量はスカラー \(\Phi\) から何に変わるでしょうか? また、そのテンソルの階数は何でしょうか?

答え

重力ポテンシャル \(\Phi\)(0 階テンソル=スカラー)から計量テンソル \(g_{\mu\nu}\)(2 階テンソル)に変わる。同様に、場の方程式の右辺も密度 \(\rho\)(スカラー)からエネルギー運動量テンソル \(T_{\mu\nu}\)(2 階テンソル)に拡張される。

2.4 この先の旅 — 0 階テンソルから始める

🔵 カイ: Einstein 方程式で時空の形が決まって、その中を粒子が測地線に沿って進む——壮大な枠組みですね。でも、計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) も Riemann テンソルもまだ中身を全然知らない。どこから手をつければいいんですか?

🟡 リナ: いい質問。テンソルの階数を 0 から順番に上げていく道のりを、図で確認しておきましょう(図 2.11「この先の旅のロードマップ」)。

この先のロードマップ

図 2.11: この先の旅のロードマップ。0 階テンソル(時空間隔 \(ds^2\))→ 1 階テンソル(4 元ベクトル)→ 2 階テンソル(計量 \(g_{\mu\nu}\))→ Einstein 方程式と、テンソルの階数を一歩ずつ上げながら構築していく。

🟡 リナ: だからこの旅の最初のピースは、テンソルの中で最も簡単な 0 階テンソル(スカラー)——つまり不変量から始める。2.1「スカラー、ベクトル、テンソル」で見たように、3 次元空間での不変量の代表例は 2 点間の距離だった。これを 4 次元の時空に拡張したとき、不変量はどんな形になるか? 結論だけ先に見せると、

\[ ds^2 = -(cdt)^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 \]

この \(ds^2\) が「どの慣性系から計算しても同じ値になる不変量」であること——つまり 0 階テンソルであること——は、次の第 3 章で光速不変の原理から証明するわ。今は形だけ見ておいて。

🔵 カイ: 空間の部分 \(dx^2 + dy^2 + dz^2\) は三平方の定理みたいですけど、時間の項 \(-(cdt)^2\) にマイナスがついていて不思議ですね。

🟡 リナ: ここで \((cdt)^2 = (c \times dt)^2 = c^2 \cdot dt^2\)(「\(c\) かける \(dt\)」全体の 2 乗)で、\(dx^2\)\((dx)^2\)\(dx\) の 2 乗)の意味——\(d(x^2)\) ではないから注意してね。\(dy^2\), \(dz^2\), \((cdt)^2\) も同じ読み方よ。ちなみに、ここでの \(x, y, z\) は空間座標そのもの(\(x\) 方向の位置、\(y\) 方向の位置、\(z\) 方向の位置)であって、さっき出てきた成分ラベル \(x^1, x^2, x^3\) の「右肩の数字」とは別の意味——紛らわしいけど、\(ds^2\) の式では伝統的にこう書くの。\(dt\), \(dx\), \(dy\), \(dz\) はそれぞれ時間と空間の微小な変化量。高校では 2 点間の距離の 2 乗を \(\Delta x\), \(\Delta y\), \(\Delta z\) を使って三平方の定理 \(\Delta x^2 + \Delta y^2 + \Delta z^2\) と書いたわよね。\(\Delta x\) は「\(x\) の変化量」だった。この \(\Delta x\) を限りなく小さくした極限を \(dx\) と書くの——高校で \(\frac{dy}{dx}\) と書いたときの \(dx\) と同じ記号で、「無限に小さい変化量」を意味する。\(dy\), \(dz\), \(dt\) も同様。\(ds^2\) は「ごく近い 2 つの時空の点の間の間隔の 2 乗」を表す。3 次元空間で 2 点間の距離の 2 乗が \(dx^2 + dy^2 + dz^2\)(三平方の定理の微小版)だったのを、時間方向にも拡張した式だと思えばいいわ。\(dt\) に光速 \(c\) がかかっているのは、さっき時空図で見たのと同じ理由——時間を長さの次元に揃えるため(\(c \times dt\) は「光が \(dt\) の間に進む距離」)。

🔵 カイ: 空間の項は全部プラスなのに、時間の項にマイナスがついてますね。なぜ時間だけマイナスなんですか? それに、これだと \(ds^2\) が負になることもありますよね? 距離の 2 乗が負って、おかしくないですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。\(ds^2\) は普通の意味の「距離の 2 乗」ではないの——時間と空間を合わせた「時空の間隔」だから、正にも負にもゼロにもなりうる。なぜマイナスが必要かの完全な答えは次の第 3 章で光速不変の原理から導くけど、直感だけ先に言うと、光は時間 \(dt\) の間に距離 \(c \times dt\) だけ進むから、\(dx = c\,dt\) となり \(-(cdt)^2 + dx^2 = 0\) になる。

⚪ メイ: 光の場合に \(ds^2 = 0\) になるのは、マイナスの項とプラスの項がちょうど打ち消し合うからなのね。

🟡 リナ: そう。光より遅い粒子は同じ座標時間 \(dt\) の間に光より短い距離しか進めない。つまり、粒子が進んだ距離の 2 乗 \(dx^2+dy^2+dz^2\) は光が進んだ距離の 2 乗 \((cdt)^2\) より小さい——\(dx^2+dy^2+dz^2 < (cdt)^2\) になる(どの方向に動いていても、3 方向の合計が光の距離を超えられない)。式に代入すると \(ds^2 = -(cdt)^2 + (dx^2+dy^2+dz^2)\) で、\((cdt)^2 > dx^2+dy^2+dz^2\) だからマイナスの項が勝ち、全体として \(ds^2 < 0\) になるの。

🔵 カイ: なるほど、光だと \(ds^2 = 0\) で、光より遅いと \(ds^2 < 0\) になるのは分かりました。でも、なぜ時間にマイナスをつけなければならないかの根本的な理由は次の章で分かるんですね。それにしても、\(ds^2\) が負になるって、「2乗なのに負」ってすごく気持ち悪いんですけど……。

🟡 リナ: その気持ち悪さは正しい感覚よ。実は \(ds^2\) という記号は「何かの 2 乗」ではなく、\(ds^2\) 全体で一つの量の名前だと思った方がいいの。普通の距離の 2 乗は必ず正だけど、時空の「間隔」は時間と空間が混ざった量だから、正にも負にもゼロにもなる——だから「距離」ではなく「間隔」と呼ぶのよ。

符号規約の注意: 教科書によっては \(ds^2 = +(cdt)^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2\) と、時間にプラス・空間にマイナスをつける流儀もある。本書では \(ds^2 = -(cdt)^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\)(時間にマイナス、空間にプラス)を採用する。どちらの流儀でも物理的な結論は同じだが、\(ds^2\) の符号の意味が逆になるので、他の教科書を参照するときは注意。

⚪ メイ: つまり、\(ds^2\) の符号で「光より速いか遅いか」が分かるのね。

🟡 リナ: その通り。ちなみに、さっき出てきた計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) との関係を少しだけ先取りすると、この式の各項の係数(時間方向が \(-1\)、空間方向が \(+1, +1, +1\))がまさに \(g_{\mu\nu}\) の成分に対応しているの——詳しくは第 6 章で正式に導入するわ。空間の距離と時空の間隔の違いを図にしてみるわね(図 2.12「Euclid 幾何と Minkowski 幾何の比較」)。

空間の距離と時空の間隔の比較

図 2.12: Euclid 幾何と Minkowski 幾何の比較。左 — 通常の空間では距離の 2 乗は \(\Delta x^2 + \Delta y^2\) で常に正。右 — 時空の間隔は \(ds^2 = -(c\Delta t)^2 + \Delta x^2\) と時間の項にマイナスがつくため、正にも負にもゼロにもなりうる。\(ds^2 < 0\)(時間的)は質量のある粒子が到達可能、\(ds^2 = 0\)(光的)は光が通る経路、\(ds^2 > 0\)(空間的)は到達不可能な関係を意味する。

🟡 リナ: 図にあるように、\(ds^2 < 0\) は質量のある粒子が到達できる関係(時間的)、\(ds^2 = 0\) は光が通る経路(光的)、\(ds^2 > 0\) は光でも到達できない関係(空間的)に対応する。なぜマイナスが必要なのか、それぞれの場合が物理的に何を意味するのか——それを光速不変の原理から一歩ずつ導くのが、次の第 3 章の核心よ。今は「\(ds^2\) が負でも物理的に意味がある——むしろ質量のある粒子にとっては \(ds^2 < 0\) が普通」とだけ覚えておいて。

⚪ メイ: \(ds^2\) の符号で「質量のある粒子が到達できるか、光だけが通れるか、どちらも到達できないか」が分かるのね。次の章で、この 0 階テンソルから出発するのが楽しみだわ。

🟡 リナ: この章で登場した記号が多いから、最後にまとめておくわ。

表 2.4: この章で登場した主な記号一覧

記号 読み方 意味 詳しく学ぶ章
\(\mu, \nu, \alpha, \beta\) ミュー、ニュー、アルファ、ベータ 時空の添字(0, 1, 2, 3) 第 4 章
\(\tau\) タウ 固有時間(粒子の時計が刻む時間) 第 3 章
\(ds^2\) ディーエス二乗 時空間隔(0 階テンソル) 第 3 章
\(g_{\mu\nu}\) ジー・ミュー・ニュー 計量テンソル(時空の形を決める 2 階テンソル) 第 6 章
\(\Gamma^\mu_{\alpha\beta}\) ガンマ 接続係数(計量の 1 階微分から決まる) 第 8 章
\(R^\mu{}_{\nu\alpha\beta}\) リーマン・テンソル Riemann テンソル(時空の曲がりの完全な情報) 第 9 章
\(R_{\mu\nu}\) リッチ・テンソル Ricci テンソル(Riemann の縮約) 第 10 章
\(G_{\mu\nu}\) アインシュタイン・テンソル Einstein テンソル(Einstein 方程式の左辺) 第 14 章
\(T_{\mu\nu}\) ティー・ミュー・ニュー エネルギー運動量テンソル(物質の分布) 第 14 章

次章予告

第 3 章「特殊相対論 — Lorentz 変換と物理的帰結」 では、この設計図の最初のピースを具体的に構築する。Einstein の二つの公理——相対性原理と光速不変——から出発して、最も基本的な 0 階テンソル(不変量)——時空間隔 \(ds^2\)——を導き、そこから Lorentz 変換、時間の遅れ、Minkowski 計量までを一気に構築する。


参考文献

  • Schutz, B. F. A First Course in General Relativity, 3rd ed., Chapter 1. Cambridge University Press, 2022.
  • Lancaster, T. and Blundell, S. J. General Relativity for the Gifted Amateur, Chapter 1. Oxford University Press, 2014.
  • Carroll, S. M. Spacetime and Geometry: An Introduction to General Relativity, Chapter 1. Addison-Wesley, 2004.