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第 4 章 Minkowski 時空の数学 — 計量・4 元ベクトル・テンソル

前回までのあらすじ: 第 3 章で、相対性原理と光速不変の原理から時空間隔 \(ds^2 = -(cdt)^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\) を導き、\(ds^2\) を保つ座標変換として Lorentz 変換を得た。そこから同時性の相対性・時間の遅れ・長さの収縮という物理的帰結を引き出し、特殊相対論の「物理」は一通り組み上がった。しかし一般相対論に進むには、この物理を座標系に依存しない形の数式で書き直す必要がある。

この章のゴール

  • 第 3 章で得た特殊相対論の物理を、一般相対論に進むための数学の言葉で整備する
  • 具体的には、自然単位系(\(c = 1\))、添字記法と Einstein の縮約規則、Minkowski 計量 \(\eta_{\mu\nu}\)、4 元ベクトル(反変・共変)、そしてテンソルの初歩までを揃える
  • これで「曲がった時空」を扱う準備が整う

4.1 Minkowski 時空と計量テンソル

🟡 リナ: 第 3 章のセクション 3 の冒頭で「1 階テンソル(4 元ベクトル)は後回し」と言ったわよね。Lorentz 変換とその物理的帰結を先に片付けたから、いよいよテンソル階層の続き——1 階テンソル(4 元ベクトル)と 2 階テンソル(計量 \(\eta_{\mu\nu}\))——に進みましょう。まずは準備として、自然単位系と添字記法を導入するわ。その前に、Minkowski 時空の全体像を 図 4.1「Minkowski 時空の光円錐」 で確認しておきましょう。

Minkowski 時空の光円錐

図 4.1: Minkowski 時空の光円錐。各事象から見て、光線が張る円錐の内部が未来・過去(時間的に接続可能)、外部が空間的(因果的に分離)。\(ds^2 = -(c\,dt)^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\)(この章では \(c = 1\) として \(ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\))の符号で領域が決まる(\(< 0\):時間的、\(= 0\):光的、\(> 0\):空間的)。青線は物質粒子の世界線(必ず光円錐内部に収まる)。

🔵 カイ: 図 4.1「Minkowski 時空の光円錐」 を見ると、光円錐の内側が「因果的に接続可能」で、外側は「因果的に分離」……つまり光より速く情報は伝わらないから、光円錐の外の事象には影響を及ぼせないんですね。

🟡 リナ: そう。そして物質粒子の世界線(図の青線)は必ず光円錐の内部に収まる——光速を超えられないから。\(ds^2\) の符号がこの構造を数学的に表現しているの——\(ds^2 < 0\) なら時間的(光円錐の内側)、\(ds^2 = 0\) なら光的(光円錐の表面)、\(ds^2 > 0\) なら空間的(光円錐の外側)。

\(c = 1\) の単位系(自然単位系)

🟡 リナ: ここから先は、数式を見やすくするために \(c = 1\) の単位系を使うわ。これは「自然単位系 (natural units)」と呼ばれる単位系の一種で、光速 \(c\) を 1 にすることで時間と空間を同じ単位で扱う流儀よ。

🔵 カイ: 光速を 1 にするって、どういうことですか?

🟡 リナ: 時間を「メートル」で測るの。「1 メートルの時間」とは、光が 1 メートル進むのにかかる時間——つまり \(1/c \approx 3.3\) ナノ秒のこと。すると

\[ c = \frac{1\;\text{m}}{1\;\text{m の時間}} = 1 \]

逆に、時間を秒で測り、長さを「光秒」(光が 1 秒で進む距離 \(\approx 3 \times 10^8\) m)で測っても \(c = 1\) になる。要は時間と長さを同じ単位で測るということ。

⚪ メイ: 具体的にどう書き換わるの?

✅ 理解度チェック: 自然単位系(\(c = 1\))とはどのような単位系でしょうか? また、そのメリットは何でしょうか?

答え

光速 \(c\) を 1 とすることで、時間と空間を同じ単位で扱う単位系。数式から \(c\) の因子が消えてシンプルになり、「\(c\) をどこに置くべきか悩まなくていい」のがメリット。SI 単位に戻したいときは次元解析で \(c\) を復元すればよい。

🟡 リナ: いくつか並べてみるわ。

表 4.1: SI単位系と自然単位系での物理式の比較

SI 単位 自然単位系(\(c=1\)
\(E = mc^2\) \(E = m\)
\(\tau = t\sqrt{1 - v^2/c^2}\) \(\tau = t\sqrt{1 - v^2}\)
\(\gamma = 1/\sqrt{1 - v^2/c^2}\) \(\gamma = 1/\sqrt{1 - v^2}\)
\(ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\) \(ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\)
\(v/c\)(無次元の速度) \(v\)(光速を単位とする速度、\(0 \le v \le 1\)

🔵 カイ: エネルギーと質量が同じ量になるんですか?

🟡 リナ: そう。質量 \(m\) kg の静止エネルギーは \(E = mc^2\) ジュールだけど、自然単位系では単に \(E = m\)。質量もエネルギーも同じ単位(例えば kg、あるいは eV)で測れると思えばいい。

💡 慣れるまでのコツ: 「質量を kg で測り、エネルギーも kg で測る」と言われると最初は混乱するかもしれない。でも「エネルギーと質量は本質的に同じもの(\(E=mc^2\) で交換可能)」という見方をすれば自然な選択。素粒子物理では、逆に質量もエネルギーも eV で測るのが普通で、例えば「電子の質量は 511 keV」と書く(正確には \(511\ \mathrm{keV}/c^2\) だが、自然単位系では \(c\) を省く)。相対論の計算では「単位を気にしなくていい」のが最大のメリット。

⚪ メイ: つまり、SI 単位に戻したいときは次元解析で \(c\) を復元すればいいのね。

🟡 リナ: その通り。例えば \(E = m\) なら、エネルギーの次元 \([\text{kg}\cdot\text{m}^2/\text{s}^2]\) と質量の次元 \([\text{kg}]\) を合わせるために \(c^2\)(次元 \([\text{m}^2/\text{s}^2]\))をかけて \(E = mc^2\) に戻す。自然単位系は「\(c\) をどこに置くべきか悩まなくていい」のがメリット。式を書くときは \(c = 1\) でシンプルに書き、最後に SI 単位での数値が必要なら次元解析で \(c\) を復元する。相対論の計算ではこの流儀が標準的よ。

関連する単位系

  • 自然単位系 (natural units): \(c = 1\)。相対論で使う。この章で採用。
  • 幾何学的単位系 (geometrized units): \(G = c = 1\)。Newton の万有引力定数も 1 にする。一般相対論では第 8 章以降で使うことが多い。
  • Planck 単位系 (Planck units): \(G = c = \hbar = 1\)。量子重力で使う(第 25 章で登場)。
  • 素粒子物理の自然単位系: \(\hbar = c = 1\)。量子力学・場の量子論で使う。

この本では各章の冒頭に「この章の単位系」を明記するので、混乱しないように注意してね。

🟡 リナ: 自然単位系では Lorentz 変換が

\[ t' = \gamma(t - vx), \qquad x' = \gamma(x - vt) \]

とすっきり書ける。時空間隔も

\[ ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 \]

この後の章では、特に断らない限り自然単位系(\(c = 1\))を使っていくわ。必要に応じて幾何学的単位系(\(G = c = 1\))に切り替えることもあるから、各章冒頭の「この章の単位系」を確認してね。

📝 練習問題:

座標の番号づけ

🟡 リナ: ここで、4 つの座標をまとめて扱う記法を導入するわ。

\[ x^0 = t, \quad x^1 = x, \quad x^2 = y, \quad x^3 = z \]

上付きの数字はべき乗ではなく添字 (index) よ。4 つの座標をまとめて \(x^\mu\)\(\mu = 0, 1, 2, 3\))と書く。なぜ上付きかというと、後で学ぶように、添字には「上付き」と「下付き」の 2 種類があって、それぞれ変換のされ方が違うの。座標の微小変位 \(dx^\mu\) は Lorentz 変換で \(\Lambda\) をかけて変換される量で、こういう量を「反変ベクトル」と呼び、上付き添字で書く約束になっている——だから座標は上付きが自然な位置なの。「反変ベクトル」の正確な意味はセクション 2 で定義するから、今は「座標は上付き添字で書く」という約束だけ覚えておいて。

🔵 カイ: \(x^2\) が「\(x\) の二乗」なのか「\(y\) 座標」なのか、紛らわしくないですか?

🟡 リナ: 最初は紛らわしいけど、文脈で区別できるようになるわ。見分け方のコツを教えると——添字として使うときは、\(x^\mu\) のようにギリシャ文字 \(\mu, \nu, \alpha, \beta, \ldots\) が添えられているのが目印。数字が直接ついている場合(\(x^2\) など)は、前後の文脈で「座標成分を列挙している」なら添字、「計算の途中」ならべき乗。この本では、べき乗と紛らわしい場合は \((x)^2\)\(x^2\)(斜体なし)のように書き分けることもあるわ。

記法の約束: - ギリシャ文字の添字(\(\mu, \nu, \alpha, \beta, \ldots\))は \(0, 1, 2, 3\) を走り、時空の全 4 成分を指す - ラテン文字の添字(\(i, j, k, \ldots\))は \(1, 2, 3\) を走り、空間の 3 成分のみを指す

Einstein の縮約規則

🟡 リナ: 添字記法を導入したところで、一般相対論を学ぶ上で最も重要な記法の約束を紹介するわ。

Einstein の縮約規則 (Einstein summation convention): 一つの項の中で、同じ添字が上と下に一つずつ現れたら、その添字について 0 から 3 まで和をとる。和の記号 \(\sum\) は省略する。

🔵 カイ: 具体的にはどういうことですか?

🟡 リナ: まず一番シンプルな例から。4 元ベクトル \(A^\mu = (A^0, A^1, A^2, A^3)\) があるとき、\(A^\mu\) の添字 \(\mu\) に具体的な値を入れると各成分が出てくる。では、\(A^\mu\)(上付き添字)と別の量 \(B_\mu\)(下付き添字)を掛けて \(A^\mu B_\mu\) と書いたら? ここで \(B_\mu\) の添字が下付きになっているのに気づいたわよね。\(B_\mu\) の正確な定義はセクション 3 で導入するけど、今は「上付きとは別の種類の 4 成分の量で、やはり 4 つの数の組 \((B_0, B_1, B_2, B_3)\)」とだけ思っておいて——例えば \(B_\mu = (5, 2, 0, 3)\) のように、具体的な数が 4 つ並んでいるだけ、と思えば OK。なぜ上付きと下付きを区別するのかは後で分かるから、今の段階では「上と下に同じ添字が出たら和をとる」というルールだけ覚えておいて。実際に展開してみると、\(\mu\) が上(\(A^\mu\))と下(\(B_\mu\))に一つずつ現れているから、\(\mu = 0, 1, 2, 3\) を代入して足す:

\[ A^\mu B_\mu = A^0 B_0 + A^1 B_1 + A^2 B_2 + A^3 B_3 \]

4 つの項の和。\(\sum\) を書かなくても、添字の位置だけで「足す」ことがわかるでしょう?

🔵 カイ: おお、\(\sum_{\mu=0}^{3}\) を省略しているだけなんですね。

🟡 リナ: そう。もう一つ例を見てみましょう。Lorentz 変換を添字記法で書くと \(x^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,x^\nu\) となる。ここで \(x^{\mu'}\) は変換後の慣性系 \(S'\) の座標で、添字にプライム(\('\))をつけて「\(S'\) 系の量」であることを示しているの。\(x^\nu\) は元の慣性系 \(S\) の座標。\(\Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\) は変換行列の \(\mu'\)\(\nu\) 列の成分——上付きの \(\mu'\) が「変換先(\(S'\) 系)の成分番号」、下付きの \(\nu\) が「変換元(\(S\) 系)の成分番号」を表しているわ。\(\nu\) が上(\(x^\nu\))と下(\(\Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\))に一つずつ現れているから、縮約規則で和をとる:

\[ x^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,x^\nu = \Lambda^{\mu'}{}_{0}\,x^0 + \Lambda^{\mu'}{}_{1}\,x^1 + \Lambda^{\mu'}{}_{2}\,x^2 + \Lambda^{\mu'}{}_{3}\,x^3 \]

⚪ メイ: どちらの例も、1 つの添字について 4 項の和をとる——同じパターンね。

🟡 リナ: そう。そしてこの「成分を 1 つずつ掛けて足す」構造は、高校で習った内積と同じ形よ。添字が 1 つの縮約は、本質的に内積と同じ操作なの。

🔵 カイ: 内積の一般化みたいなものなんですね。

🟡 リナ: その通り。では次に、添字が 2 つある量——計量テンソル \(\eta_{\mu\nu}\)——を使って時空間隔を書き直してみましょう。

✅ 理解度チェック: Einstein の縮約規則とは何でしょうか?

答え

一つの項の中で同じ添字が上と下に一つずつ現れたら、その添字について 0 から 3 まで和をとる。和の記号 \(\sum\) は省略する。

用語の整理: 縮約規則で和をとられる添字(同じ文字が上下に現れる添字)をダミー添字 (dummy index) と呼ぶ。ダミー添字はどの文字を使っても結果は同じ。たとえば \(A^\mu B_\mu = A^\nu B_\nu\)。一方、和をとらない添字を自由添字 (free index) と呼ぶ。

Minkowski 計量 \(\eta_{\mu\nu}\)

🟡 リナ: 次は、時空間隔を添字記法で書き直したいの。\(ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\) には 4 つの座標の微小変位が入っているけど、これを \(ds^2 = \eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu\) と一発で書けたら、座標が何個あっても同じ形で扱える。そのために必要なのが「計量」(metric) という概念よ。まず直感をつかんでおきましょう。

🔵 カイ: 計量って、何ですか?

🟡 リナ: 一言で言えば「ものさし」——空間(や時空)の中で「2 点間の距離をどう測るか」のルールを教えてくれる道具よ。3 つの例で段階的に見てみましょう。まず全体像を 図 4.2「計量の 3 つの例」 にまとめておくわ。

計量の3つの例

図 4.2: 計量の 3 つの例。左: 平面(計量は定数 \(\mathrm{diag}(1,1)\))。中: 球面(計量が座標 \(\theta\) の関数 — 場所によって「ものさしの目盛り」が変わる)。右: 時空(時間の項にマイナス符号がつき、Euclid 幾何とは異なる構造を持つ)。

例 1:平らな紙の上

普通の平面では、2 点間の距離は三平方の定理で決まる:

\[ d\ell^2 = dx^2 + dy^2 \]

この「\(dx^2\) の前に 1、\(dy^2\) の前に 1、交差項なし」という情報が、平面の計量。行列で書くと

\[ g_{ij} = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \]

単位行列——これが「平らな空間」の計量よ。

例 2:地球の表面(曲がった面)

🟡 リナ: 次に、地球の表面を考えてみて(図 4.2「計量の 3 つの例」 の中央)。地球上の位置を指定するのに、2 つの角度を使うわ。1 つ目は極角 \(\theta\)(シータ)——北極を \(\theta = 0\) として、そこから南に向かって測った角度。北極が \(\theta = 0\)(= 0°)、赤道が \(\theta = \pi/2\)(= 90°)、南極が \(\theta = \pi\)(= 180°)。地理で使う「緯度」は赤道を 0° として北を正・南を負にとるけど、物理の極角は北極を 0 として南に向かって増える——向きが逆なので注意してね。2 つ目は経度 \(\phi\)(ファイ)——東西方向の角度で、\(0\) から \(2\pi\)(= 360°)の範囲をとる。地理の経度(\(-180°\)\(+180°\))と向きは同じだけど、始点と範囲が少し違うわ。この 2 つの角度を使うと、地球表面上の微小距離は

\[ d\ell^2 = R^2\,d\theta^2 + R^2\sin^2\theta\,d\phi^2 \]

なぜこうなるか直感的に言うと——緯度方向(南北)に \(d\theta\) だけ動くと、半径 \(R\) の大円(地球の中心を通る断面の円)に沿って \(R\,d\theta\) だけ進む。経度方向(東西)に \(d\phi\) だけ動くと、その緯度での「小円」(緯線の円)の半径は \(R\sin\theta\) だから、\(R\sin\theta\,d\phi\) だけ進む。なぜ \(R\sin\theta\) かというと、地球の自転軸から緯線の円までの距離が \(R\sin\theta\) だから——北極(\(\theta = 0\))では \(\sin 0 = 0\) で半径ゼロ(点)、赤道(\(\theta = \pi/2\))では \(\sin(\pi/2) = 1\) で半径 \(R\)(最大)になるわ。そしてこの 2 方向(南北と東西)は球面上で互いに直交している——地球儀を見ると、経線と緯線は常に直角に交わっているわよね。微小な範囲では曲面も平面と見なせるから(地球の表面が局所的には平らに見えるのと同じ)、直交する 2 方向の微小変位に三平方の定理を適用すると

\[ d\ell^2 = (R\,d\theta)^2 + (R\sin\theta\,d\phi)^2 = R^2\,d\theta^2 + R^2\sin^2\theta\,d\phi^2 \]

となるわ。

🔵 カイ: ちょっと待ってください。\(R\sin\theta\) が緯線の円の半径になるのは、なぜですか? 地球の半径は \(R\) なのに、なぜ \(\sin\theta\) がかかるんですか?

🟡 リナ: いい質問。地球の断面図を想像してみて。自転軸から緯線の円までの水平距離は、三角関数で \(R\sin\theta\) になるの——北極(\(\theta = 0\))では自転軸上だから距離ゼロ、赤道(\(\theta = \pi/2\))では自転軸から最も離れて距離 \(R\)。つまり \(\sin\theta\) は「自転軸からどれだけ離れているか」の割合を表しているのよ。

🔵 カイ: あ、なるほど。だから \(\sin^2\theta\) が入っていると、場所によって経度方向の「1 度あたりの距離」が変わるんですね。赤道付近(\(\theta \approx \pi/2\))では \(\sin^2\theta \approx 1\) で大きいけど、極付近(\(\theta \approx 0\))では \(\sin^2\theta \approx 0\) でほぼゼロ。

🟡 リナ: その通り。場所によって「ものさしの目盛り」が変わる——これが計量が座標の関数 \(g_{ij}(\theta)\) になるということ。

\[ g_{ij} = \begin{pmatrix} R^2 & 0 \\ 0 & R^2\sin^2\theta \end{pmatrix} \]

例 1 の単位行列と違って、対角成分が場所(\(\theta\))に依存しているわよね。

🔵 カイ: 平面の計量は定数行列で、球面の計量は座標の関数……ということは、計量が座標に依存するかどうかで「平ら」か「曲がっている」かが分かるんですか?

🟡 リナ: いい着眼点だけど、実はそう単純ではないの。平面でも極座標 \((r, \theta)\) を使えば計量は \(d\ell^2 = dr^2 + r^2 d\theta^2\) で座標の関数になる。「計量が座標の関数 = 曲がっている」とは限らないの。本当に曲がっているかどうかを判定するには、もっと精密な道具(曲率テンソル、第 12 章で登場)が必要。でも今の段階では「計量が定数でない → 曲がっている可能性がある」くらいの直感で十分よ。

例 3:時空

🟡 リナ: そして時空(図 4.2「計量の 3 つの例」 の右)。第 3 章のセクション 2 で導いた時空間隔

\[ ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 \]

も、実は計量で書ける。空間だけなら全部プラスだけど、時間の項にマイナスがつく。これが「時空は普通の空間とは違う幾何学を持つ」ことの核心で、第 3 章のセクション 2.3 で光速不変から導いた結論よ。

🔵 カイ: つまり計量は「距離の測り方」を決めるだけじゃなくて、空間の性質そのものを表しているんですね。

🟡 リナ: まさにそう。そして一般相対論では、この計量が場所によって変わる \(g_{\mu\nu}(x)\) になる——地球の表面で \(\sin^2\theta\) が場所によって変わったのと同じ構造よ。Newton の重力ポテンシャル \(\Phi\) の役割を、一般相対論では計量テンソル \(g_{\mu\nu}\) が担う。計量が「ものさし」であると同時に「重力場そのもの」でもある——これが一般相対論の核心的なアイデアなの。でもそれは先の話。まずは平坦な時空の計量を添字記法で書いてみましょう。

⚪ メイ: 3 つの例で段階的に難易度が上がっていったわね——定数の計量、座標に依存する計量、そして符号が混在する計量。

🟡 リナ: そう。そして特殊相対論では 3 番目——符号が混在するけど定数の計量——を扱う。縮約規則を使って、時空間隔を添字記法で書き直しましょう。\(ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\) は、

\[ ds^2 = \eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu \]

と書けるの。ここで \(\eta_{\mu\nu}\)(エータ)Minkowski 計量 (Minkowski metric) と呼ばれる量で、成分を \(4 \times 4\) の行列として並べると

\[ \eta_{\mu\nu} = \begin{pmatrix} -1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \]

🔵 カイ: \(\eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu\) は、\(\mu\)\(\nu\) がそれぞれ 0 から 3 まで走るから……全部で 16 項の和ですよね?

🟡 リナ: そう。式 \(\eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu\) をよく見て——\(\mu\) という文字が 2 回出ているわよね。1 回目は \(\eta_{\mu\nu}\) の中で下付き、2 回目は \(dx^\mu\) の中で上付き。上と下に 1 つずつ出ているから、縮約規則で \(\mu = 0, 1, 2, 3\) の和をとる。\(\nu\) も同様に、\(\eta_{\mu\nu}\) の中で下付き、\(dx^\nu\) の中で上付き——だからこちらも和をとる。結果として \(\mu\)\(\nu\) の二重和で \(4 \times 4 = 16\) 項。でも \(\eta_{\mu\nu}\)対角行列——つまり行番号と列番号が違う成分(\(\mu \neq \nu\))はすべてゼロ。例えば \(\eta_{01} = 0\), \(\eta_{12} = 0\) など。だから 16 項のうち \(\mu \neq \nu\) の 12 項は消えて、残るのは \(\mu = \nu\) の 4 項だけ:

\[ \begin{aligned} &\eta_{00}\,dx^0\,dx^0 + \eta_{11}\,dx^1\,dx^1 + \eta_{22}\,dx^2\,dx^2 + \eta_{33}\,dx^3\,dx^3 \\ &= (-1)\,dt^2 + (1)\,dx^2 + (1)\,dy^2 + (1)\,dz^2 \\ &= -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 \quad \checkmark \end{aligned} \]

🔵 カイ: おお、12 項が一気に消えて 4 項だけ残る! 対角行列だと話が簡単ですね。

⚪ メイ: つまり、\(\eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu\) という書き方一つで「どの成分の 2 乗にどの符号をつけるか」が全部決まる——計量さえ指定すれば、時空間隔の式が自動的に出てくるのね。

🟡 リナ: その通り。この \(\eta_{\mu\nu}\) が、Minkowski 時空の「ものさし」——計量テンソル——よ。一般相対論では、これが場所によって変わる \(g_{\mu\nu}(x)\) に置き換わる。それが「時空が曲がる」ことの数学的な表現なの。

📝 練習問題:

この本の記法の約束

ここまでに色々な記号が出てきたので、一度整理しておくわ。4 元ベクトルか行列(テンソル)か、3 次元か 4 次元か、文字の種類で見分けられるようにしてある。

種類 記号
4 元ベクトル(ギリシャ添字 \(\mu,\nu,\ldots\) 大文字ラテン \(A^\mu\), \(B_\mu\), \(V^\mu\), \(U^\mu\)(4 元速度)
2 階テンソル(計量) 小文字ギリシャ \(\eta_{\mu\nu}\), \(g_{\mu\nu}\)
2 階以上のテンソル(その他) 大文字ラテン \(T^{\mu\nu}\), \(R_{\mu\nu\rho\sigma}\)
変換行列 大文字ギリシャ \(\Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\)(Lorentz 変換)
座標・変位 伝統的な小文字 \(x^\mu\), \(dx^\mu\)
3 次元ベクトル 小文字 + 矢印 \(\vec{v}\), \(\vec{r}\), \(\vec{p}\), \(\vec{F}\)
3 次元ベクトルの成分(ラテン添字 \(i,j = 1,2,3\) 小文字 \(v^i\), \(v^x\), \(v^y\), \(v^z\)

ざっくり言うと「4 元ベクトルは大文字、計量は小文字ギリシャ、3 次元は矢印」。ただし一つだけ例外があるの——4 元運動量 \(p^\mu\) だけは歴史的慣習で小文字を使うわ。物理の教科書では普遍的にこう書かれているので、そのまま採用する。


4.2 4 元ベクトル

なぜ 4 元ベクトルが必要か

🟡 リナ: Newton 力学では、位置 \((x, y, z)\) や速度 \((v_x, v_y, v_z)\) は 3 成分のベクトルだった。でも特殊相対論では時間と空間が混ざり合う。だから、物理量を時間成分を含む 4 成分のベクトル——4 元ベクトル (four-vector) ——として表す必要があるの。

🔵 カイ: 具体的にはどういうものですか?

変位 4 元ベクトル

🟡 リナ: 最も基本的な 4 元ベクトルは、二つの事象の間の微小変位

\[ dx^\mu = (dt,\, dx,\, dy,\, dz) \]

これが Lorentz 変換でどう変わるかを添字記法(成分表示)で書くと、

\[ dx^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,dx^\nu \]

🔵 カイ: これは行列の式とは違うんですか?

🟡 リナ: 違うの。これは行列そのものではなく、ある 1 つの成分を表した式よ。\(\mu'\) は成分番号(0, 1, 2, 3 のどれか)を抽象的に表していて、例えば \(\mu' = 0\) を代入すれば \(dt'\) の式、\(\mu' = 1\) を代入すれば \(dx'\) の式が出てくる。1 本の式で 4 つの成分をまとめて書いているの。

🟡 リナ: ここで \(\Lambda\)(ラムダ)は Lorentz 変換の行列で、\(\Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\) はその \((\mu', \nu)\) 成分。\(x\) 方向に速度 \(v\) のブースト (boost) の場合、

\[ \Lambda = \begin{pmatrix} \gamma & -\gamma v & 0 & 0 \\ -\gamma v & \gamma & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \]

🟡 リナ: 例えば \(\mu' = 0\) の成分を計算してみて。縮約規則で \(\nu\) について和をとるから——

🔵 カイ: えっと、\(\nu = 0, 1, 2, 3\) を代入して足すと……\(\Lambda^{0'}{}_{0}\,dx^0 + \Lambda^{0'}{}_{1}\,dx^1 + \Lambda^{0'}{}_{2}\,dx^2 + \Lambda^{0'}{}_{3}\,dx^3\)。行列の成分を入れると \(\gamma\,dt - \gamma v\,dx\)

⚪ メイ: つまり \(dt' = \gamma(dt - v\,dx)\)——先ほどの Lorentz 変換と一致するわね。

4 元ベクトルの定義

🟡 リナ: いま見た \(dx^\mu\) は、Lorentz 変換で \(dx^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,dx^\nu\) という形で混ざり合ったわよね。実は、物理に登場する量の中には、\(dx^\mu\) とまったく同じ混ざり方をするものが他にもたくさんある——速度、運動量、電流密度……。そこで、この「混ざり方のルール」を共有する量をまとめて名前をつけておくと便利なの。

🔵 カイ: 「同じ混ざり方をする」って、具体的にはどういうことですか?

🟡 リナ: 4 つの量の組 \(V^\mu = (V^0, V^1, V^2, V^3)\) があったとして、慣性系を \(S\) から \(S'\) に乗り換えたとき、変換行列 \(\Lambda\)(ラムダ)を使って

\[ V^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,V^\nu \]

と書ける——つまり \(dx^\mu\)同じ行列 \(\Lambda\) で変換される。この性質を持つ量を反変ベクトル (contravariant vector) と呼ぶの。さっきの \(dx^\mu\) 自身が、反変ベクトルの最初の例よ。

🔵 カイ: この式をもう少しかみ砕いてもらえますか?

🟡 リナ: いいわ。\(V^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,V^\nu\) を読み解いてみましょう。\(\nu\) が上(\(V^\nu\))と下(\(\Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\))に出ているから、セクション 1.3 の縮約規則で和をとる。つまりこの式は

\[ V^{\mu'} = \sum_{\nu=0}^{3} \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,V^\nu = \Lambda^{\mu'}{}_{0}\,V^0 + \Lambda^{\mu'}{}_{1}\,V^1 + \Lambda^{\mu'}{}_{2}\,V^2 + \Lambda^{\mu'}{}_{3}\,V^3 \]

の省略形。4 項の和ね。\(\mu'\) に具体的な値(0, 1, 2, 3)を入れれば、\(S'\) 系の各成分が出てくる。

🔵 カイ: さっきメイが \(dx^{0'} = \gamma\,dt - \gamma v\,dx\) を計算したのと同じ構造ですね。

🟡 リナ: その通り。直感的に言うと、この式は「\(S\) 系の成分 \(V^0, V^1, V^2, V^3\) を、\(\Lambda\) という換算ルールで混ぜ合わせて、\(S'\) 系の成分 \(V^{\mu'}\) を作る」ということ。3 次元のベクトルを座標回転したとき、\((v_x, v_y, v_z)\) が回転行列で混ざり合うのと同じ構造よ。成分の数値は変わるけど、ベクトルそのもの(物理的な中身)は変わらない

🔵 カイ: つまり、\(\Lambda\) をかけて計算した \(V^{\mu'}\) の各成分が、\(S'\) 系で実際に測定した値と一致していれば反変ベクトル、ということですか?

🟡 リナ: まさにそう。4 つの数の組があれば \(\Lambda\) をかける計算自体はいつでもできる。でも、計算結果が \(S'\) 系での正しい値と一致するとは限らない。実は、座標の変換と「同じ向き」に成分が変わる量と、「逆向き」に変わる量がある——これが「共変ベクトル」と「反変ベクトル」の区別で、詳しくはセクション 3 で扱うわ。今の段階では「上付き添字(反変)と下付き添字(共変)で変換の仕方が逆」とだけ覚えておいて。

🔵 カイ: 「\(\Lambda\) をかけて正しい答えが出る」かどうかが、反変ベクトルかどうかの判定基準なんですね。

🟡 リナ: そう。\(\Lambda\) の逆行列で変換される量(下付き添字 \(V_\mu\))を共変ベクトル (covariant vector) と呼ぶ。名前の由来は co =「一緒に」、contra =「逆らう」。何に対して「一緒」「逆らう」かというと——座標の目盛りの変化に対してよ。目盛りを大きくする変換で成分も大きくなるのが共変(co = 一緒に変わる)、成分が小さくなるのが反変(contra = 逆らって変わる)。次の具体例で感覚をつかんでね。共変ベクトルの代表例は勾配——あるスカラー場(例えば重力ポテンシャル \(\Phi\) のような、時空の各点で値が決まる量)の偏微分 \(\partial\Phi/\partial x^\mu\) は共変ベクトルになるの。これは後の章で正式に導出するけど、今は「変位 \(dx^\mu\) が反変の代表、勾配が共変の代表」とだけ覚えておいて。直感的に言うと——座標の目盛りを 2 倍に引き伸ばす変換を考えてみて。

具体例を出すわ。数直線を思い浮かべて。1 次元で、ある棒の長さが元の座標で \(\Delta x = 3\) 目盛りだったとする。目盛りの間隔を 2 倍に引き伸ばす——つまり新しい 1 目盛りは元の 2 目盛り分の物理的長さに対応する。物理的な位置は変わっていないのに、目盛りが大きくなったから、同じ位置を新座標で読むと数値は半分になる——座標で書くと \(x' = x/2\)。すると同じ棒を測り直すと \(\Delta x' = 3/2 = 1.5\) 目盛りしかない——目盛りが大きくなった分、変位の数値は半分になった。基底(目盛りの単位ベクトル)が「大きく」なる変換なのに、変位の成分は「小さく」なる。これが「反変 = 基底の変換と逆向きに変わる」の意味。

🔵 カイ: あ、ものさしが伸びると数値は縮むんですね。目盛りと逆向きだから「反変」。

一方、坂道の傾き(勾配)を考えてみて。元の座標で「1 目盛り進むと高さが 4 m 上がる」とする。目盛りを 2 倍に伸ばすと、新しい 1 目盛りは元の 2 目盛り分の距離に対応する。だから新座標で「1 目盛り進む」と、実際には元の 2 目盛り分だけ進んでいるので、高さは \(4 \times 2 = 8\) m 上がる——勾配の数値は2 倍になる。座標が「大きく」なる変換で、勾配も「大きく」なる。これが「共変 = 座標変換と同じ向きに変わる」の意味。

まとめると——同じ「目盛りを 2 倍に伸ばす」変換に対して、変位の成分は半分(逆向き = 反変)、勾配の成分は 2 倍(同じ向き = 共変)。変換を記述する行列が違う\(\Lambda\)\(\Lambda^{-1}\) か)——それが本質的な区別よ。

🔵 カイ: 今の例は 1 次元でしたけど、4 次元時空でも同じ考え方が成り立つんですか?

🟡 リナ: そう。4 次元でも本質は同じ——座標の目盛りの変え方(\(\Lambda\))に対して、成分が逆向きに変わるのが反変、同じ向きに変わるのが共変。具体的な変換式と使い方はセクション 3 で詳しくやるから、今は「上付きと下付きで変換の仕方が逆」とだけ覚えておいて。反変ベクトルと共変ベクトルを合わせて 4 元ベクトル (four-vector) と総称するわ。

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flowchart TB
    all["<b>4 成分の数の組</b><br/>例: (t, x, m, 0) など何でも"]
    all -->|"Λ または Λ⁻¹ で変換"| four["<b>4 元ベクトル</b>"]
    all -->|"変換則を持たない"| not4["4 元ベクトルではない<br/>例: (t, x, m, 0)"]
    four --> contra["<b>反変ベクトル</b> Vᵘ(上付き添字)<br/>Λ で変換<br/>例: dxᵘ, Uᵘ, pᵘ"]
    four --> co["<b>共変ベクトル</b> V_μ(下付き添字)<br/>Λ⁻¹ で変換<br/>例: 勾配 ∂φ/∂xᵘ"]

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    style four fill:#d1ecf1,stroke:#0c5460
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    style contra fill:#d4edda,stroke:#155724
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図 4.3: 4元ベクトルの分類と変換則の関係

🟡 リナ: 図 4.3「4元ベクトルの分類と変換則の関係」 に整理したように、大事なポイントを強調しておくわ。4 つの数を並べただけでは 4 元ベクトルとは限らない——Lorentz 変換で正しい変換則に従うものだけが 4 元ベクトルよ。そして 4 元ベクトルには 2 種類ある——上付き \(V^\mu\)(反変)と下付き \(V_\mu\)(共変)。

⚪ メイ: つまり、変換則を持つかどうかが本質で、持つ場合にも \(\Lambda\) で変換されるか \(\Lambda^{-1}\) で変換されるかで 2 種類に分かれるのね。

🟡 リナ: そう。なぜ 2 種類あるのか、具体的にどう使い分けるのかはセクション 3 で詳しくやるわ。今はまず、\(dx^\mu\) と同じ変換則に従う反変ベクトルに集中しましょう。

🔍 Dive Deep:「共変性」と「共変ベクトル」は別の意味

第 2 章で「物理のモデルがすべての座標系で同じ形をとる」ことを共変性 (covariance) と呼んだ。一方、このセクションで出てきた共変ベクトル (covariant vector) は「\(\Lambda\) の逆行列で変換される量」。同じ「共変」という言葉だけど、意味が違う。

  • 共変性 (covariance):方程式のが座標系によらない、という性質
  • 共変ベクトル (covariant vector):特定の変換則に従うベクトルの種類

紛らわしいけど、歴史的にこう呼ばれているので慣れるしかない。大事なのは、反変ベクトルも共変ベクトルも、どちらも「共変性を持つ方程式」を書くための道具だということ。

では、反変ベクトルの具体例を見ていきましょう。

4 元速度

🟡 リナ: 具体例を見ましょう。粒子の4 元速度 (four-velocity) \(U^\mu\) は、世界線に沿った座標 \(x^\mu\) の微分で定義される。ただし、微分のパラメータとして座標時間 \(t\) ではなく、固有時間 (proper time) \(\tau\)(タウ)を使うの。

🔵 カイ: 固有時間って何ですか?

🟡 リナ: 粒子自身が持ち歩いている時計が刻む時間のこと。図で比べてみましょう。

固有時間の直感的理解

図 4.4: 固有時間の直感的理解。左 — \(S\) 系(観測者)から見ると、粒子は速度 \(v\) で動いているので世界線が斜めに傾く。右 — 粒子自身の静止系 \(S'\) から見ると、自分は常に原点 \(x' = 0\) にいて、\(c\tau\) 軸に沿ってまっすぐ進むだけ。この \(\tau\) が固有時間。

🟡 リナ: 図 4.4「固有時間の直感的理解」 の右側を見て。粒子自身の静止系 \(S'\) では、粒子は動いていない——空間座標は常にゼロで、ただ時間だけが進む。その「自分自身の時計が刻む時間」が固有時間 \(\tau\) よ。

⚪ メイ: なるほど、\(S\) 系から見ると世界線が斜めに傾くけど、粒子自身から見れば自分はまっすぐ時間方向に進んでいるだけ——その時間が \(\tau\) なのね。

🟡 リナ: そう。そして大事なポイントは、どの観測者も、この粒子の固有時間 \(\tau\) を使って速度などの物理量を定義するということ。なぜなら、座標時間 \(t\) は慣性系ごとに違う値をとるけど、固有時間 \(\tau\) は不変量——どの慣性系から計算しても同じ値になるから。不変量で割れば、結果も不変量(あるいは正しい変換則に従う量)になる。

🔵 カイ: 「不変量で割れば結果も正しい変換則に従う」って、もう少し具体的に言うとどういうことですか?

🟡 リナ: 例えば \(dx^\mu\) は反変ベクトル——Lorentz 変換で \(\Lambda\) をかけて変換される量よね。これを \(d\tau\)(スカラー、つまり変換で値が変わらない量)で割ると、分子だけが \(\Lambda\) で変換されて分母は不変だから、結果 \(dx^\mu / d\tau\) もやはり反変ベクトルの変換則に従う。もし座標時間 \(dt\) で割ると、\(dt\) 自体が慣性系ごとに変わるから、結果が反変ベクトルにならないの。

⚪ メイ: だから座標時間 \(t\) ではなく固有時間 \(\tau\) で割る必要があるのね。変換則を壊さないために。

🟡 リナ: では、固有時間を数式で定義するにはどうすればいいか? 「粒子の静止系での時間」だから、粒子の静止系(\(dx = dy = dz = 0\))で \(d\tau = dt\) になるような量が欲しい。しかも、どの慣性系から計算しても同じ値になる(不変量である)必要がある——そうでないと「粒子自身の時計」という意味が座標系に依存してしまうから。

🔵 カイ: 不変量……あ、\(ds^2\) ですか?

🟡 リナ: そう。第 3 章のセクション 2 で、\(ds^2\) はすべての慣性系で同じ値をとる不変量であることを導いたわよね。2 つの近接する事象の間の「時空的な距離」を座標の微小変位から直接計算できる不変量が \(ds^2\) よ。そこで、粒子の静止系——つまり粒子自身と一緒に動いている慣性系——で \(ds^2\) を計算してみましょう。この系では粒子は動いていないから、空間座標は変化しない。だから \(dx = dy = dz = 0\)。代入すると \(ds^2 = -dt^2 + 0 + 0 + 0 = -dt^2\)。ここで「静止系の \(dt\)」は、粒子と一緒に動いている時計——つまり粒子のすぐ隣に置いた時計——が刻む時間そのものよ(図 4.4「固有時間の直感的理解」 の右側で、粒子が動かずに時間軸に沿って進んでいる、あの時間)。マイナスがついているから \(ds^2 < 0\) ね。そして \(ds^2\) は不変量だから、別の慣性系で \(ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\) を計算しても、同じ数値が出る——静止系で得た \(-dt^2\) と一致するの。

🔵 カイ: \(ds^2\) が負……時間の 2 乗なのにマイナスって、大丈夫なんですか?

🟡 リナ: いい疑問。まさにそこがポイントよ。私たちがやりたいのは「粒子自身の時計が刻む時間 \(d\tau\)」を定義すること——つまり実数の時間を得たい。だから \(d\tau^2\) は正の量でなければ困る。ところが \(ds^2\) は負になってしまう。なぜ負かというと——静止系(\(dx = dy = dz = 0\))では \(ds^2 = -dt^2 < 0\)。そして \(ds^2\) は不変量だから、静止系で負なら他のどの慣性系でも負。

🔵 カイ: つまり、光速未満で動く粒子なら、どの慣性系で計算しても必ず \(ds^2 < 0\) になると。

🟡 リナ: その通り。一般の慣性系でも直接確認できるわ——粒子の速さは \(v^2 = (dx^2 + dy^2 + dz^2)/dt^2\) だから、\(v < 1\)(光速未満)なら \(v^2 < 1\)。両辺に \(dt^2 > 0\) をかけると \(dx^2 + dy^2 + dz^2 < dt^2\)、よって \(ds^2 = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 < 0\)

さて、\(ds^2 < 0\) だと平方根をとって実数の「時間」を得られない。解決策は単純——マイナスをつけて \(-ds^2 > 0\) とする。静止系では \(-ds^2 = -(-dt^2) = dt^2\)——まさに「粒子自身の時計の時間の 2 乗」。しかも \(ds^2\) が不変量だから \(-ds^2\) も不変量。そこで固有時間を

\[ d\tau^2 \equiv -ds^2 = dt^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2 \]

と定義するの。

🔵 カイ: マイナスをつけるだけで解決するんですね。符号の約束って大事だなあ。

🟡 リナ: この定義なら、静止系(\(dx = dy = dz = 0\))では \(d\tau^2 = dt^2\)、つまり \(d\tau = dt\)——ちゃんと「粒子自身の時計」に対応している。そして \(ds^2\) がすべての慣性系で同じ値をとる不変量だったから(第 3 章のセクション 2 で導いたわよね)、\(-ds^2\) も当然不変量——符号を反転しただけだから。よって \(d\tau\) は不変量で、どの慣性系から計算しても同じ値になるわ。

🔵 カイ: なるほど、静止系で \(d\tau = dt\) になるように逆算して定義を作ったんですね。\(ds^2\) が負だからマイナスをつけて正にする——それで \(d\tau\) が実数になると。

🟡 リナ: その通り。

補足: この定義は \(ds^2 < 0\)(時間的)のときのみ \(d\tau^2 > 0\) となり、\(d\tau\) が実数として意味を持つ。つまり固有時間は、光速未満で動く粒子——因果的に到達可能な経路——の世界線に沿ってのみ定義される。光(\(ds^2 = 0\))や光速を超える仮想的な経路には固有時間を定義できない。

⚪ メイ: 粒子の静止系では \(dx = dy = dz = 0\) だから \(d\tau = dt\)。つまり固有時間は「粒子と一緒に動いている時計の時間」。

🔵 カイ: じゃあ、粒子が動いている \(S\) 系から見たら \(d\tau\) はどうなるんですか? \(dx \neq 0\) だから \(d\tau < dt\) になる?

🟡 リナ: その通り。\(S\) 系では粒子が動いているから \(dx^2 + dy^2 + dz^2 > 0\) で、\(d\tau^2 = dt^2 - (dx^2 + dy^2 + dz^2) < dt^2\)——\(d\tau > 0\), \(dt > 0\)(未来に向かって進む)だから \(d\tau < dt\)。動いている粒子の固有時間は、\(S\) 系の座標時間より短い。これは第 3 章のセクション 4.2 で見た「動いている時計は遅れる」と同じことよ。具体的にどれだけ短いかは、今から計算するわ。

🟡 リナ: 4 元速度の定義は

\[ U^\mu \equiv \frac{dx^\mu}{d\tau} \]

\(d\tau\) はスカラー(不変量)で、\(dx^\mu\) は反変ベクトル。さっき説明したように、スカラーは Lorentz 変換で値が変わらないから、\(dx^\mu / d\tau\) の変換則は分子 \(dx^\mu\) の変換則そのもの——つまり \(\Lambda\) が 1 つかかる反変ベクトルの変換則に従う。よって \(U^\mu\)反変ベクトルになる。

🔵 カイ: 具体的に成分を計算するとどうなりますか?

🟡 リナ: 定義 \(U^\mu = dx^\mu / d\tau\) に従って、各成分を座標時間 \(t\) で表してみましょう。まず \(d\tau\)\(dt\) で書き換える必要がある。さっきの定義 \(d\tau^2 = dt^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2\) の右辺を \(dt^2\) でくくると、

\[ d\tau^2 = dt^2\!\left(1 - \frac{dx^2 + dy^2 + dz^2}{dt^2}\right) \]

ここで \(dx^2/dt^2\) という書き方は紛らわしいけど、\((dx)^2/(dt)^2 = (dx/dt)^2\) のこと——微小量の 2 乗の比は、微分の 2 乗と同じよ。

🔵 カイ: えっと、\(dt^2\) でくくるって、具体的にはどういう計算ですか?

🟡 リナ: \(d\tau^2 = dt^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2\) の右辺 4 項すべてを \(dt^2\) で割って、外に \(dt^2\) をくくり出すの。\(dt^2/dt^2 = 1\), \(dx^2/dt^2 = (dx/dt)^2\), \(dy^2/dt^2 = (dy/dt)^2\), \(dz^2/dt^2 = (dz/dt)^2\)。だから \(d\tau^2 = dt^2\bigl(1 - (dx/dt)^2 - (dy/dt)^2 - (dz/dt)^2\bigr)\)。3 次元速度の 2 乗 \(v^2 \equiv (dx/dt)^2 + (dy/dt)^2 + (dz/dt)^2\)\(c = 1\) の単位系だから \(0 \le v < 1\))を使えば、 $$ d\tau^2 = dt^2(1 - v^2) $$

平方根をとると(\(dt > 0\), \(d\tau > 0\) なので正の根をとる)\(d\tau = dt\sqrt{1 - v^2}\)、つまり

\[ \frac{dt}{d\tau} = \frac{1}{\sqrt{1 - v^2}} = \gamma \]

🔵 カイ: あ、\(\gamma\) が出てきた! 固有時間と座標時間の比がまさに Lorentz 因子なんですね。

🟡 リナ: そう。よって、\(\tau\) による微分を \(t\) による微分に書き換えると(連鎖律 \(dx^\mu/d\tau = (dx^\mu/dt)(dt/d\tau)\) を使う)、

\[ U^\mu = \frac{dx^\mu}{d\tau} = \frac{dx^\mu}{dt}\cdot\frac{dt}{d\tau} = \gamma\frac{dx^\mu}{dt} = \gamma\!\left(\frac{dt}{dt},\, \frac{dx}{dt},\, \frac{dy}{dt},\, \frac{dz}{dt}\right) = \gamma(1,\, v^x,\, v^y,\, v^z) \]

ここで \(v^i = dx^i/dt\) は通常の 3 次元速度。括弧内の時間成分が 1 になるのは \(dx^0/dt = dt/dt = 1\) だから(それに \(\gamma\) がかかって \(U^0 = \gamma\))。

🔵 カイ: この \(U^\mu\) の「大きさ」はどうやって計算するんですか? 3 次元なら \(|\vec{v}|^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) ですけど。

🟡 リナ: 4 次元時空では、ベクトルの「大きさの 2 乗」に相当する量——ノルム (norm) と呼ぶ——を計量 \(\eta_{\mu\nu}\) を使って計算するの。3 次元の \(|\vec{v}|^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) に対応するのが

\[ \eta_{\mu\nu}\,U^\mu\,U^\nu \]

よ。セクション 1.3 の縮約規則で展開すると \((-1)(U^0)^2 + (U^1)^2 + (U^2)^2 + (U^3)^2\)。3 次元と違って時間成分にマイナスがつくから、ノルムが負の値をとることもある——3 次元の「長さの 2 乗」は必ず正だったけど、時空では符号が物理的な意味(時間的・空間的・光的)を持つの。実際に \(U^\mu = \gamma(1, v^x, v^y, v^z)\) を代入してみて。

⚪ メイ: 代入すると、

\[ \eta_{\mu\nu}\,U^\mu\,U^\nu = \gamma^2(-1 + v^2) = -\gamma^2(1 - v^2) = -\gamma^2 \cdot \frac{1}{\gamma^2} = -1 \]

🔵 カイ: 4 元速度の大きさは常に \(-1\) 速さに関係なく一定なんですね。

🟡 リナ: そう。これは固有時間の定義から自動的に従う性質よ。ノルムが \(-1\)(マイナス)というのは、4 元速度が時間的ベクトル (timelike vector) ——つまり \(\eta_{\mu\nu} V^\mu V^\nu < 0\) を満たすベクトル——であることを意味している。第 3 章のセクション 2.3 で \(ds^2 < 0\) の間隔を「時間的」と呼んだのと同じ分類を、ベクトルにも適用しているの——ベクトルのノルムが負なら時間的、ゼロなら光的、正なら空間的。時間的ベクトルは光円錐の内側を向いている。

🔵 カイ: ノルムが \(-1\) で一定ということは、4 元速度の「大きさ」は変えられないんですか?

🟡 リナ: そう。直感的に言うとこういうこと——粒子の静止系では \(U^\mu = (1, 0, 0, 0)\)。つまり時間方向に「速さ 1」(= 光速)で進んでいる。空間方向には動いていない。

⚪ メイ: 別の慣性系から見ると \(U^\mu = \gamma(1, v, 0, 0)\) で、空間成分が出てくる。でもノルムは \(-1\) のまま。

🟡 リナ: そう。4 元速度ベクトルは、ノルム(大きさ)を保ったまま、\(t\)-\(x\) 平面で傾くだけ——第 3 章のセクション 3.7 で見た双曲線回転と同じ構造よ。空間方向に速く動くほど、時間成分 \(\gamma\) も大きくなって、ノルムが \(-1\) に保たれる。

🔵 カイ: ……ということは、空間方向に速く動くほど時間成分も大きくなってノルムが保たれる。なんだか、誰もが時空の中を「光速」で進んでいて、その方向が時間寄りか空間寄りかの違いだけ——みたいなイメージが浮かぶんですけど、これって正しいんですか?

🟡 リナ: 面白い直感ね。ただし注意が必要——「光速で進む」というのはあくまで比喩で、正確には「4 元速度のノルムが \(-1\)\(c\) を復元すれば \(-c^2\))で一定」ということ。光子のノルムは 0 だから、質量を持つ粒子と光子は同じ意味で「光速で進んでいる」わけではないの。この比喩は一般向けの本でよく使われるけど、数式の意味とは少しずれるから、試験で書いたら減点されるかもしれないわよ(笑)。

🔵 カイ: じゃあ正確にはどう言えばいいんですか?

🟡 リナ: 正確に言い直すと——すべての質量を持つ粒子の 4 元速度のノルムは変えられない。空間方向に速く動くと、その分だけ時間成分 \(U^0 = \gamma\) が大きくなってノルム \(-1\) を保つ。結果として固有時間の進みが遅くなる——これが第 3 章のセクション 4.2 で見た「動いている時計は遅れる」の 4 元速度による言い換えなの。

🔵 カイ: じゃあ光子の場合はどうなるんですか? 質量ゼロだと \(U^\mu = dx^\mu/d\tau\)\(d\tau\) がゼロになって定義できなくなりませんか?

🟡 リナ: 鋭い。その通りで、光子には固有時間が定義できない(\(ds^2 = 0\) だから \(d\tau = 0\))。だから光子に 4 元速度は使えないの。じゃあ光子の運動はどう記述するのか?——それは 4 元運動量を導入した後の「質量ゼロの粒子」で扱うわ。

✅ 理解度チェック: なぜ 4 元速度の定義で、座標時間 \(t\) ではなく固有時間 \(\tau\) で微分するのでしょうか?

答え

座標時間 \(t\) は慣性系ごとに異なる値をとるが、固有時間 \(\tau\) は不変量(どの慣性系から計算しても同じ値)だから。不変量で割ることで、結果が正しい変換則(反変ベクトルの変換則)に従うことが保証される。

4 元運動量

🟡 リナ: 4 元速度ができたら、4 元運動量 (four-momentum) \(p^\mu\) も自然に定義できる。

\[ p^\mu \equiv mU^\mu = m\gamma(1,\, v^x,\, v^y,\, v^z) = (\gamma m,\, \gamma m v^x,\, \gamma m v^y,\, \gamma m v^z) \]

ここで \(m\) は粒子の(静止)質量。

🔵 カイ: 空間成分 \(p^i = \gamma m v^i\) は……あ、低速だと \(\gamma \approx 1\) だから Newton の運動量 \(mv^i\) に戻るんですね。じゃあ時間成分 \(p^0 = \gamma m\) は何を表しているんですか?

🟡 リナ: \(c = 1\) の単位系では \(p^0 = \gamma m = E\)——エネルギーと同じ値よ。SI 単位系に戻すには、セクション 1.1 で学んだ次元解析を使う。\(p^\mu = (p^0, p^1, p^2, p^3)\) の空間成分 \(p^i = \gamma m v^i\) は運動量の次元 \([\text{kg}\cdot\text{m/s}]\) を持つ。

🔵 カイ: 時間成分 \(p^0\) も同じ次元じゃないとまずいんですか?

🟡 リナ: そう。Lorentz 変換 \(p^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu} p^\nu\) を展開すると、右辺は \(p^0, p^1, p^2, p^3\) の足し算になる。足し算するからには、全成分が同じ次元でなければ物理的に意味がない——「3 kg·m/s + 5 ジュール」は足せないわよね。

🔵 カイ: あ、確かに。足し算できるのは同じ次元の量だけですね。

🟡 リナ: そう。SI では空間成分 \(p^i = \gamma mv^i\)\(v^i\) は m/s の次元)は運動量の次元 \([\text{kg}\cdot\text{m/s}]\) を持つ。だから時間成分も同じ次元でなければならない。自然単位系では \(p^0 = \gamma m\) だったけど、SI に戻すとどうなるか? セクション 1.1 の次元解析を使うわ。自然単位系の式で \(c = 1\) と置いて消えた \(c\) を復元するの。\(\gamma m\) の次元は \([\text{kg}]\) で、空間成分の次元 \([\text{kg}\cdot\text{m/s}]\) より \([\text{m/s}]\) が足りない。だから \(c\)(次元 \([\text{m/s}]\))を補って、SI での正しい表現は \(p^0 = \gamma mc\)——これで \([\text{kg}\cdot\text{m/s}]\) になる。一方、エネルギーの SI 表現は \(E = \gamma mc^2\)(次元:\([\text{kg}\cdot\text{m}^2/\text{s}^2]\))。すると \(E/c = \gamma mc\)(次元:\([\text{kg}\cdot\text{m/s}]\))——空間成分と同じ次元になるわ。つまり SI 単位系では \(p^0 = E/c\) と書けば全成分の次元が揃う。

補足: 教科書によっては、最初から時間座標を \(x^0 = ct\)(長さの次元)と定義して全成分の次元を揃える流儀もある。その場合 \(U^0 = dx^0/d\tau = c\,dt/d\tau = \gamma c\), \(p^0 = mU^0 = \gamma mc = E/c\) となり、結論は同じ。この章では \(c = 1\) で統一しているので、\(p^0 = E\) とシンプルに書ける。

まとめると——この章(\(c = 1\))では \(p^0 = E\)。SI 単位に戻すと \(p^0 = E/c\)。SI での具体的な数値が必要になったら、セクション 1.1 で学んだ次元解析で \(c\) を復元すればいいわ。低速で展開すると \(E \approx m + \frac{1}{2}mv^2\)\(c = 1\))、\(c\) を復元すれば \(E \approx mc^2 + \frac{1}{2}mv^2\)——静止エネルギーと運動エネルギーの和。この展開の導出はすぐ後の「低速極限と Newton 力学との接続」で詳しくやるわ。

🟡 リナ: 4 元運動量の不変ノルムを計算してみましょう。\(p^\mu = mU^\mu\) だから、

\[ \eta_{\mu\nu}\,p^\mu\,p^\nu = m^2\,\eta_{\mu\nu}\,U^\mu\,U^\nu = m^2 \cdot (-1) = -m^2 \]

成分で書けば \(-(p^0)^2 + |\vec{p}|^2 = -m^2\)\(c = 1\) では \(p^0 = E\) だから \(-E^2 + |\vec{p}|^2 = -m^2\)、つまり \(E^2 = |\vec{p}|^2 + m^2\)。これが \(c = 1\) でのエネルギー・運動量の関係式よ。

🔵 カイ: おお、ノルムの不変性を使うだけでエネルギーと運動量の関係が出てくるんだ!

🟡 リナ: \(c\) を復元するには、セクション 1.1 の次元解析を使う。\(c = 1\) の式 \(E^2 = |\vec{p}|^2 + m^2\) の各項は、SI では異なる次元を持つ——左辺 \(E^2\) はエネルギーの 2 乗で次元 \([\text{kg}^2\cdot\text{m}^4/\text{s}^4]\)\(|\vec{p}|^2\) は運動量の 2 乗で次元 \([\text{kg}^2\cdot\text{m}^2/\text{s}^2]\)\(m^2\) は質量の 2 乗で次元 \([\text{kg}^2]\)。各項を左辺の次元 \([\text{kg}^2\cdot\text{m}^4/\text{s}^4]\) に揃えるには——\(|\vec{p}|^2\) には \([\text{m}^2/\text{s}^2]\) が足りないから \(c^2\) をかけ、\(m^2\) には \([\text{m}^4/\text{s}^4]\) が足りないから \(c^4\) をかければよい。よって

\[ E^2 = |\vec{p}|^2 c^2 + m^2 c^4 \]

⚪ メイ: ノルムの不変性から、エネルギーと運動量の関係が一発で出るのね。

🔵 カイ: \(\vec{p} = 0\)(静止)のとき \(E^2 = m^2 c^4\)、つまり \(E = mc^2\) になる——\(E = mc^2\) はこの式の特殊な場合だったんですね! でもちょっと待ってください。逆に \(m = 0\) を入れると \(E = |\vec{p}|c\) で、質量ゼロなのにエネルギーを持てることになりませんか? それって変じゃないですか?

🟡 リナ: いい質問ね。その通り、質量ゼロでもエネルギーと運動量を持てる。光子がまさにそう。これは少し先のセクション 2.7 で詳しく扱うから、少し待ってね。

🔵 カイ: あと、さっき「低速で展開すると \(E \approx m + \frac{1}{2}mv^2\)」って言っていましたよね。Newton の運動エネルギーが出てくるのは直感的に分かるんですけど、\(\gamma m\) からどうやってその近似が出るのか気になります。それと、4 元運動量って何の役に立つんですか? Newton 力学では運動量保存とエネルギー保存は別々の法則でしたけど……。

🟡 リナ: 低速展開の導出はいい質問ね——次のセクション(「低速極限と Newton 力学との接続」)で丁寧にやるから少し待ってて。先に「4 元運動量が何の役に立つか」に答えておくわ。例えば粒子の衝突や崩壊。2 つの粒子がぶつかって別の粒子が生まれるとき、反応の前後で \(p^\mu_{\text{total}}\) が保存される——つまりエネルギーと運動量が同時に保存される。Newton 力学では運動量の保存とエネルギーの保存は別々の法則だったけど、時間と空間が一体になった相対論では、4 元運動量 \(p^\mu = (E, \vec{p})\) という一つの 4 元ベクトルの保存として統一されるの。

🔵 カイ: Newton 力学では 2 つの別々の法則だったものが、相対論では 1 本の式にまとまる……。でも待ってください、Newton 力学では運動量保存は作用・反作用の法則から出ましたよね。相対論では作用・反作用の法則がそのまま使えるとは限らないはずだけど、4 元運動量が保存されるって、何から導けるんですか?

🟡 リナ: いい質問ね。第 1 章のセクション 5 で「対称性と保存量」の関係を見たわよね——時間並進の対称性がエネルギー保存を、空間並進の対称性が運動量保存を保証する。相対論では時間と空間が一体になるから、この 2 つの保存則も時空の並進対称性による 4 元運動量の保存として統一される。厳密な導出は後の章で場の理論の文脈で再訪するわ。

✅ 理解度チェック: \(E^2 = |\vec{p}|^2 c^2 + m^2 c^4\) から、質量ゼロの粒子(光子)についてどのような結論が得られるでしょうか?

答え

\(m = 0\) を代入すると \(E = |\vec{p}|c\) となり、質量ゼロでもエネルギーと運動量を持てる。さらに、質量を持つ粒子の速さは \(v = |\vec{p}|c^2/E\) で与えられる(\(\vec{p} = \gamma m\vec{v}\), \(E = \gamma mc^2\) から導ける)。\(m \to 0\) の極限で \(E = |\vec{p}|c\) を代入すると \(v = |\vec{p}|c^2/(|\vec{p}|c) = c\) となるので、質量ゼロの粒子は必ず光速で運動する。

低速極限と Newton 力学との接続

🔵 カイ: さっきリナさんが「低速で展開すると \(E \approx mc^2 + \frac{1}{2}mv^2\)」と結論だけ言っていましたよね。これ、どうやって導くんですか?

🟡 リナ: いい着眼点ね。実際に計算してみましょう。\(E = \gamma mc^2\)\(\gamma\)\(v \ll c\) で近似すればいい。高校で習う近似公式 \((1 + x)^n \approx 1 + nx\)\(|x| \ll 1\))を、\(x = -v^2/c^2\), \(n = -1/2\) に適用すると、

\[ \gamma = \left(1 - \frac{v^2}{c^2}\right)^{-1/2} \approx 1 + \frac{1}{2}\frac{v^2}{c^2} \]

これを \(E = \gamma mc^2\) に代入:

\[ E \approx \left(1 + \frac{1}{2}\frac{v^2}{c^2}\right)mc^2 = mc^2 + \frac{1}{2}mv^2 \]

⚪ メイ: 第 1 項が静止エネルギー、第 2 項が Newton の運動エネルギー。きれいに分離するのね。

🟡 リナ: そう。そして大事なのは、\(v \ll c\) のとき第 2 項が第 1 項に比べて極めて小さいこと。\(v = 100\,\text{m/s}\)(新幹線よりやや速い程度)でも \(v^2/c^2 \sim 10^{-13}\) だから、静止エネルギー \(mc^2\) に比べて運動エネルギーは 13 桁も小さい。

🔵 カイ: 13 桁も違うなら、Newton の時代に気づけるわけないですね。でも逆に言うと、核反応で質量がほんの少し減るだけで莫大なエネルギーが出るのは、この \(mc^2\) が巨大だからですか?

🟡 リナ: そう。日常の運動では \(\frac{1}{2}mv^2\) だけが目に見えて、その背後にある巨大な \(mc^2\) は完全に隠れていた。相対論が「質量にはエネルギーが蓄えられている」ことを暴いて初めて、核反応——\(mc^2\) のほんの一部を解放するだけで莫大なエネルギーが出る——が理解できるようになったの。

質量ゼロの粒子

🟡 リナ: そしてもう一つ重要な帰結。質量ゼロの粒子(光子)を \(E^2 = |\vec{p}|^2 c^2 + m^2 c^4\) に入れると、

\[ E = |\vec{p}|\,c \]

質量ゼロでもエネルギーと運動量を持てる。そして \(E = \gamma mc^2\)\(m = 0\) かつ \(E \neq 0\) を実現するには \(\gamma \to \infty\)、つまり \(v = c\) でなければならない——質量ゼロの粒子は必ず光速で運動する。光子も、後の章で登場する重力子(第 25 章で議論する、まだ未発見だけど理論的に予想されている粒子)も、この関係を満たすと考えられているわ。

✅ 理解度チェック: 4 元速度 \(U^\mu\) の不変ノルム \(\eta_{\mu\nu} U^\mu U^\nu\) の値はいくつでしょうか?

答え

\(-1\)\(c = 1\) の単位系)。速さに関係なく常に一定で、これは固有時間の定義から自動的に従う。

📝 練習問題:


4.3 上付き添字と下付き添字——共変ベクトル

添字を下げる操作

🟡 リナ: ここまで \(A^\mu\)(上付き添字)の話をしてきたけど、下付き添字 \(A_\mu\) も導入する必要がある。定義は

\[ A_\mu \equiv \eta_{\mu\nu}\,A^\nu \]

🔵 カイ: 計量 \(\eta_{\mu\nu}\) をかけて縮約するんですね。具体的にはどうなりますか?

🟡 リナ: \(\eta_{\mu\nu}\) は対角行列で \(\eta_{00} = -1\), \(\eta_{11} = \eta_{22} = \eta_{33} = 1\) だから、

\[ A_0 = \eta_{0\nu}\,A^\nu = \eta_{00}\,A^0 = -A^0, \qquad A_1 = \eta_{1\nu}\,A^\nu = \eta_{11}\,A^1 = A^1 \]

同様に \(A_2 = A^2\), \(A_3 = A^3\)。(ここで \(\nu\) について和をとると、\(\eta_{1\nu}\)\(\nu = 1\) 以外ゼロだから \(\eta_{11}\,A^1\) の 1 項だけが残る。)

⚪ メイ: つまり、時間成分だけ符号が反転して、空間成分はそのまま。\(A^\mu = (A^0, A^1, A^2, A^3)\) なら \(A_\mu = (-A^0, A^1, A^2, A^3)\)

🟡 リナ: その通り。この「添字の上げ下げ」の関係を 図 4.5「添字の上げ下げの操作」 に図式化しておくわ。

添字の上げ下げ

図 4.5: 添字の上げ下げの操作。計量 \(\eta_{\mu\nu}\) をかけて反変ベクトル \(A^\mu\) から共変ベクトル \(A_\mu\) を作る(添字を下げる)。逆行列 \(\eta^{\mu\nu}\) で戻す(添字を上げる)。Minkowski 計量では時間成分だけ符号が反転する。

🟡 リナ: \(A^\mu\)反変ベクトル (contravariant vector)、\(A_\mu\)共変ベクトル (covariant vector) と呼ぶ。「反変」「共変」という名前は、座標変換に対する変換則の違いに由来するの。

なぜ二種類のベクトルが必要か

上付きと下付きの添字を組み合わせて縮約すると、Lorentz 不変なスカラー量が得られる。\(A_0 = -A^0\), \(A_i = A^i\)\(i = 1, 2, 3\))を使って実際に展開すると、

\[A_\mu B^\mu = A_0 B^0 + A_1 B^1 + A_2 B^2 + A_3 B^3 = -A^0 B^0 + A^1 B^1 + A^2 B^2 + A^3 B^3\]

時間成分だけマイナスが残るのは、\(A_0 = -A^0\) の符号反転のせい。これは Lorentz 変換で値が変わらない。この「上下の添字を組み合わせてスカラーを作る」構造が、一般相対論の計算の基本になる。

⚪ メイ: あ、セクション 2.4 で計算した \(\eta_{\mu\nu}\,U^\mu\,U^\nu = -1\) って、もしかしてこの「添字を下げる」操作と関係がある?

🟡 リナ: いい気づきね。まさにそう。\(\eta_{\mu\nu}\,U^\mu\,U^\nu\) は、\(\eta_{\mu\nu}\)\(U^\mu\) の添字を下げて \(U_\nu = \eta_{\nu\mu} U^\mu\) を作り、それと \(U^\nu\) の内積をとっている——つまり \(U_\nu\,U^\nu = U_\mu\,U^\mu\)。書き方は違うけど、全部同じ計算よ(\(\eta_{\mu\nu} = \eta_{\nu\mu}\) だから添字の順番は入れ替えても同じ)。

添字を上げる操作

🟡 リナ: 逆に、下付き添字を上付きに戻すには、\(\eta^{\mu\nu}\)\(\eta_{\mu\nu}\) の逆行列)を使う。

\[ A^\mu = \eta^{\mu\nu}\,A_\nu \]

Minkowski 計量の場合、\(\eta^{\mu\nu}\)\(\eta_{\mu\nu}\)同じ行列(対角成分が \(-1, 1, 1, 1\))になる。

🔵 カイ: なぜ逆行列と元の行列が同じなんですか?

🟡 リナ: \(\eta_{\mu\nu}\) は対角行列で、対角成分が \(-1, 1, 1, 1\)。対角行列の逆行列は、各対角成分の逆数を並べた対角行列よ。\((-1)^{-1} = -1\), \(1^{-1} = 1\) だから、逆行列の対角成分も \(-1, 1, 1, 1\)——元と同じになる。これは Minkowski 計量の特別な性質で、一般の計量 \(g_{\mu\nu}\) では逆行列 \(g^{\mu\nu}\) は元と違う成分を持つ。

⚪ メイ: 自分自身が逆行列って、ある意味で \(\eta_{\mu\nu}\) はとても扱いやすい計量ね。

✅ 理解度チェック: 反変ベクトル \(A^\mu = (A^0, A^1, A^2, A^3)\) から共変ベクトル \(A_\mu\) を作ると、どの成分の符号が変わるでしょうか?

答え

時間成分だけ符号が反転する。\(A_\mu = (-A^0, A^1, A^2, A^3)\)。これは \(\eta_{00} = -1\), \(\eta_{ii} = 1\) による。


4.4 テンソルの初歩

テンソルとは何か

🟡 リナ: いよいよテンソル (tensor) の一般的な話に入るわ。実は 4 元ベクトルも「添字が 1 つのテンソル」(1 階テンソル)なの。ここでは「添字が 2 つ」の 2 階テンソルに拡張して、変換則と縮約の仕組みを理解するわ。

🔵 カイ: \(\eta_{\mu\nu}\) も添字が 2 つありますよね。あれもテンソルですか?

🟡 リナ: まさにそう。セクション 2.3 で、反変ベクトルは \(V^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}\,V^\nu\)——添字が 1 つだから \(\Lambda\) が 1 つかかる、という話をしたわよね。では、添字が 2 つある量 \(T^{\mu\nu}\) はどう変換されるか? 答えは単純——添字 1 つにつき \(\Lambda\) が 1 つかかる。添字が 2 つだから \(\Lambda\) が 2 つ:

\[ T^{\mu'\nu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\alpha}\,\Lambda^{\nu'}{}_{\beta}\,T^{\alpha\beta} \]

この変換則の構造を 図 4.6「テンソルの座標変換の幾何学的イメージ」 に図示しておくわ。

テンソルの座標変換と基底ベクトル

図 4.6: テンソルの座標変換の幾何学的イメージ。左: 同じ物理的ベクトル \(\mathbf{V}\) でも、基底 \(\mathbf{e}_i\)(青)か \(\mathbf{e}'_i\)(赤)のどちらで展開するかで成分が変わる。右: 反変・共変・2 階テンソルの変換則——添字 1 つにつき変換行列(特殊相対論では Lorentz 変換 \(\Lambda\)、一般には座標変換の行列 \(\partial x'^\mu/\partial x^\nu\))が 1 つかかる。物理量自体は座標系に依らないため、成分の変換則は「同じ物を違う座標で見るとどうずれるか」を記述している。

🔵 カイ: あ、パターンが見えました(図 4.6「テンソルの座標変換の幾何学的イメージ」 の右側がまさにそうですね)。1 階(ベクトル)は \(\Lambda\) が 1 つ、2 階は 2 つ。3 階なら 3 つ……。つまりベクトルのときと同じで、テンソル自体は座標系によらない物理量で、成分だけが座標の取り方で変わるんですね。でも、パターンは見えたんですけど、\(\Lambda\) が 2 つかかるって具体的にどういう計算になるのか、まだイメージが湧かなくて。展開して見せてもらえますか?

✅ 理解度チェック: 2 階テンソル \(T^{\mu\nu}\) の変換則で \(\Lambda\) が 2 つ必要な理由は何か?

答え

\(T^{\mu\nu}\) には添字が 2 つ(\(\mu\)\(\nu\))あり、慣性系を変えるときそれぞれの添字を独立に変換する必要がある。1 つ目の添字の変換に \(\Lambda\) が 1 つ、2 つ目の添字の変換にもう 1 つ、合計 2 つ必要。\(\Lambda\) が 1 つだけでは片方の添字しか変換されず中途半端になる。

🟡 リナ: いいわ。\(T^{\mu'\nu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\alpha}\,\Lambda^{\nu'}{}_{\beta}\,T^{\alpha\beta}\) を読み解いてみましょう。まず、\(\alpha\)\(\beta\) がダミー添字(上下に出てくるから和をとる)。つまりこの式は

\[ T^{\mu'\nu'} = \sum_{\alpha=0}^{3}\sum_{\beta=0}^{3} \Lambda^{\mu'}{}_{\alpha}\,\Lambda^{\nu'}{}_{\beta}\,T^{\alpha\beta} \]

の省略形よ。\(4 \times 4 = 16\) 項の和。

🔵 カイ: 1 階のときは \(V^{\mu'} = \sum_{\nu} \Lambda^{\mu'}{}_{\nu} V^\nu\) で 4 項の和だったから、添字が 1 つ増えるごとに和が 1 重増えるんですね。

🟡 リナ: そう。例えば \(\mu' = 0\), \(\nu' = 1\) の成分を知りたければ、\(\alpha\)\(\beta\) をそれぞれ 0 から 3 まで走らせて全 16 項を足し上げる。ただし \(x\) 方向ブーストの \(\Lambda\)「変位 4 元ベクトル」で書いた行列を見て)では、\(y, z\) 方向に関わる成分 \(\Lambda^{0'}{}_{2} = \Lambda^{0'}{}_{3} = \Lambda^{1'}{}_{2} = \Lambda^{1'}{}_{3} = 0\)(行列の \(\mu' = 0\) の行と \(\mu' = 1\) の行で、\(\nu = 2, 3\) の列がゼロ)だから、\(\alpha, \beta = 0, 1\) の 4 項だけが生き残る:

\[ T^{0'1'} = \Lambda^{0'}{}_{0}\,\Lambda^{1'}{}_{0}\,T^{00} + \Lambda^{0'}{}_{0}\,\Lambda^{1'}{}_{1}\,T^{01} + \Lambda^{0'}{}_{1}\,\Lambda^{1'}{}_{0}\,T^{10} + \Lambda^{0'}{}_{1}\,\Lambda^{1'}{}_{1}\,T^{11} \]

一般の Lorentz 変換(回転を含む場合など)では 16 項すべてが残ることもあるけど、構造は同じ——1 階のベクトルの変換を「2 回繰り返す」イメージね。

🔵 カイ: つまり、\(S\) 系の成分 \(T^{\alpha\beta}\)\(\Lambda\) を 2 つかけて計算した値が、\(S'\) 系で実際に測定した \(T^{\mu'\nu'}\) と一致する——それがテンソルの条件ということですか?

🟡 リナ: まさにそう。セクション 2.3 で「\(\Lambda\) をかけて正しい答えが出る量が反変ベクトル」と言ったのと同じ構造よ。\(\Lambda\) を 2 つかけて正しい答えが出る量が 2 階の反変テンソル。

🔵 カイ: なぜ \(\Lambda\)2 回かけるんですか? 1 回じゃダメなんですか?

🟡 リナ: \(T^{\mu\nu}\) には添字が 2 つあるわよね。\(\mu\)\(\nu\)。慣性系を変えるとき、それぞれの添字を独立に変換する必要がある。1 つ目の添字 \(\mu\) を変換するのに \(\Lambda\) が 1 つ、2 つ目の添字 \(\nu\) を変換するのにもう 1 つ。だから合計 2 つ。

🔵 カイ: あ、なるほど。もし \(\Lambda\) を 1 回しかかけなかったら、片方の添字だけ \(S'\) 系に変換されて、もう片方は \(S\) 系のまま——中途半端な状態になるんですね。具体例で見せてもらえますか?

🟡 リナ: いいわ。一番わかりやすい 2 階テンソルは、2 つのベクトルの成分をすべての組み合わせで掛けた \(T^{\mu\nu} = A^\mu B^\nu\) よ。例えば \(T^{01} = A^0 B^1\), \(T^{23} = A^2 B^3\) のように、\(4 \times 4 = 16\) 個の成分を持つ量。\(S'\) 系では \(A^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\alpha} A^\alpha\)\(B^{\nu'} = \Lambda^{\nu'}{}_{\beta} B^\beta\) だから、

\[ T^{\mu'\nu'} = A^{\mu'} B^{\nu'} = \left(\Lambda^{\mu'}{}_{\alpha} A^\alpha\right)\left(\Lambda^{\nu'}{}_{\beta} B^\beta\right) = \Lambda^{\mu'}{}_{\alpha}\,\Lambda^{\nu'}{}_{\beta}\,A^\alpha B^\beta = \Lambda^{\mu'}{}_{\alpha}\,\Lambda^{\nu'}{}_{\beta}\,T^{\alpha\beta} \]

\(A\) を変換するのに \(\Lambda\) が 1 つ、\(B\) を変換するのにもう 1 つ。合わせて 2 つ。もし \(\Lambda\) を 1 回しかかけなかったら、\(A\) だけ \(S'\) 系に変換されて \(B\)\(S\) 系のまま——\(A^{\mu'} B^{\nu}\) という意味不明な量になってしまう。

⚪ メイ: 2 つのベクトルの積で考えると、\(\Lambda\) が 2 つ必要な理由がすごく明快ね。

🟡 リナ: ベクトル \(V^\mu\) は添字が 1 つだから \(\Lambda\) は 1 回。テンソル \(T^{\mu\nu}\) は添字が 2 つだから 2 回。添字の数 = \(\Lambda\) の数、これがテンソルの変換則の本質よ。この変換則に従う量をテンソルと呼び、階数 (rank) は添字の数で決まる。

表 4.2: テンソルの階数・添字数・変換則の対応

階数 添字の数 \(\Lambda\) の数 名前
0 0 0 スカラー(不変量) \(ds^2\), \(m\)
1 1 1 4 元ベクトル \(V^\mu\), \(U^\mu\), \(p^\mu\)
2 2 2 2 階テンソル \(\eta_{\mu\nu}\), \(T^{\mu\nu}\)

🔵 カイ: でも、なぜこの条件が大事なんですか?

🟡 リナ: セクション 2.3 でベクトルについて話したのと同じ理由よ。成分の数値は慣性系ごとに変わるけど、物理的な中身は変わらない。変換式は「同じ物理量を別の慣性系で見たときの成分の換算ルール」。テンソルで方程式を書けば、すべての慣性系で同じ形になる——これが一般相対論の基本よ。

🔵 カイ: ところで、\(\eta_{\mu\nu}\) がテンソルだと言うには、何を確認すればいいんですか?

🟡 リナ: 厳密には、\(\eta_{\mu\nu}\) は下付き添字 2 つの共変テンソルだから、変換則は反変の場合と少し違う——\(\Lambda\) の代わりに \(\Lambda\)逆行列 \(\Lambda^{-1}\) が 2 つかかる形になるの。反変テンソル(上付き添字)が \(\Lambda\) で変換されるのに対し、共変テンソル(下付き添字)は \(\Lambda^{-1}\) で変換される——ちょうど反変ベクトルと共変ベクトルの関係と同じ構造よ。具体的な変換式と計算は練習問題に回すわね(→ 問題 M-2. Lorentz 変換による計量の保存条件)。結論だけ言うと、\(\eta_{\mu'\nu'}\) を計算すると元の \(\eta_{\mu\nu}\) と同じ値になる——つまり Minkowski 計量はすべての慣性系で同じ成分を持つ。反変と共変で変換が逆向きになる理由は、セクション 4.4 で「上下ペアで \(\Lambda\)\(\Lambda^{-1}\) が打ち消し合う」ところで詳しく見るわ。ここでは、\(\eta_{\mu\nu}\) が持つとても特別な性質を見てみましょう。

\(\eta_{\mu\nu}\) はすべての慣性系で同じ

\(S\) 系で

\[ ds^2 = \eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu = -(dt)^2 + (dx)^2 + (dy)^2 + (dz)^2 \]

\(S'\) 系でも光速不変から同じ形が成り立つ:

\[ ds'^2 = -(dt')^2 + (dx')^2 + (dy')^2 + (dz')^2 \]

🔵 カイ: \(S'\) 系でも係数は \((-1, 1, 1, 1)\) のまま……つまり \(\eta_{\mu'\nu'}\) も対角成分が \((-1, 1, 1, 1)\) の行列——\(S\) 系と同じですね。でもちょっと待ってください。テンソルって「座標変換で成分が変わる量」ですよね? なのに成分が変わらないって、矛盾しませんか?

🟡 リナ: いい疑問ね。まず一つ訂正——テンソルの定義は「成分が変わる量」ではなく、「特定の変換則に従う量」よ。変換則に従って計算した結果、成分が変わることもあれば、たまたま元と同じ値になることもある。\(\eta_{\mu\nu}\) は後者で、これは偶然ではなく、Lorentz 変換の定義そのものから来ているの。第 3 章で、Lorentz 変換を「\(ds^2\) を保つ変換」として定義したわよね。\(ds^2 = \eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu\) が不変ということは、変換後も同じ \(\eta\) の成分で書けるということ。つまり Minkowski 計量の成分は、すべての慣性系で対角成分 \((-1, 1, 1, 1)\) のまま——これは Lorentz 変換の定義から必然的に従う性質なの。

⚪ メイ: つまり「\(ds^2\) を保つ変換」として Lorentz 変換を定義したから、その変換で計量が不変になるのは当然——トートロジーに近いのね。

🟡 リナ: ただし、これは特殊相対論(平坦な時空)ならではの性質よ。一般相対論では、計量 \(g_{\mu\nu}\) は座標変換で成分が変わる——それが「時空が曲がっている」ことの数学的な表現なの。

縮約 — 上下の添字をそろえて足す

🟡 リナ: 後の章で頻繁に使う操作を紹介するわ。テンソルの階数を下げる操作——これを縮約 (contraction) と呼ぶの。第 12 章では 4 階のテンソルから 2 階のテンソルを作り、さらにスカラーを作る——この「階数を下げる」操作が Einstein 方程式の構築に必須になるわ。

🔵 カイ: 4 階テンソルとか、まだ先の話ですよね? 今の僕たちにも関係あるんですか?

🟡 リナ: 実は、みんなはすでにこの操作を使ったことがあるの——名前を知らなかっただけ。

🔵 カイ: え、どこで?

🟡 リナ: セクション 3.1 で出てきた内積

\[ A_\mu B^\mu = A_0 B^0 + A_1 B^1 + A_2 B^2 + A_3 B^3 \]

これが縮約の最も基本的な例。上付き添字 \(\mu\)\(B^\mu\))と下付き添字 \(\mu\)\(A_\mu\))がペアで現れて、\(\mu = 0, 1, 2, 3\) を代入して足す——この操作を「\(\mu\) について縮約する」と言うの。

⚪ メイ: あ、なるほど。セクション 1.3 で習った Einstein の縮約規則(同じ添字が上下に現れたら \(\sum\) を省略する)を、意味のある操作として捉え直したものなのね。

🟡 リナ: その通り。記法としての規則(セクション 1.3)と、操作としての縮約(今やっていること)は同じ \(\sum\) の計算を指しているけど、視点が違う——前者は「書き方の約束」、後者は「テンソルに対する演算」。

用語の整理:「縮約規則」と「縮約」

  • Einstein の縮約規則 (convention):\(\sum\) を省略する記法の約束
  • テンソルの縮約 (contraction):上下の添字をペアにして和をとることで階数を下げる演算

名前が似ているけど、片方は書き方、もう片方は操作。ただし計算の中身は同じ \(\sum\)

ベクトル 2 本の場合(内積)

🟡 リナ: 内積 \(A_\mu B^\mu\) で、縮約が何をしているか図で見てみましょう。添字 \(\mu\) が 0, 1, 2, 3 と動くから、\(A\) の成分と \(B\) の成分の組み合わせは全部で \(4 \times 4 = 16\) 通りある:

\[ \begin{array}{c|cccc} & B^0 & B^1 & B^2 & B^3 \\ \hline A_0 & \underline{A_0 B^0} & A_0 B^1 & A_0 B^2 & A_0 B^3 \\ A_1 & A_1 B^0 & \underline{A_1 B^1} & A_1 B^2 & A_1 B^3 \\ A_2 & A_2 B^0 & A_2 B^1 & \underline{A_2 B^2} & A_2 B^3 \\ A_3 & A_3 B^0 & A_3 B^1 & A_3 B^2 & \underline{A_3 B^3} \end{array} \]

縮約 \(A_\mu B^\mu\) は、この 16 個の組み合わせのうち「対角成分」の 4 個(下線部)だけを足す操作:

\[ A_\mu B^\mu = A_0 B^0 + A_1 B^1 + A_2 B^2 + A_3 B^3 \]

🔵 カイ: 16 個中 4 個だけを選んで足すんですね。対角線を抜き出すイメージだ。

2 階テンソルの場合

🟡 リナ: 次に、対象を 2 階テンソルに広げてみるわ。\(T^\mu{}_\nu\)(添字 2 つ、16 成分)で、\(\nu\)\(\mu\) と同じ文字にして \(T^\mu{}_\mu\) と書くと——上と下に同じ \(\mu\) が出ているから、セクション 1.3 の縮約規則で和をとる:

\[ T^\mu{}_\mu = T^0{}_0 + T^1{}_1 + T^2{}_2 + T^3{}_3 \]

\(\mu\) を 0, 1, 2, 3 と走らせて対角成分の 4 個だけを足す。これは行列の跡 (trace) そのもの

⚪ メイ: 構造は内積のときとまったく同じね。対象が「ベクトル \(A\) とベクトル \(B\)」から「1 つの 2 階テンソル \(T\)」に変わっただけで、「上下ペアの添字を走らせて和をとる」操作は共通している。

🟡 リナ: そう。演算そのものは一本化できるの。では、この統一的な視点をもう少し掘り下げてみましょう。

縮約の一般定義

縮約(contraction): テンソルに上付き添字と下付き添字が 1 つずつあるとき、両者を同じ文字にして \(0, 1, 2, 3\) を代入し、和をとる操作。上下 1 組の添字が消えるので、階数は 2 つ下がる

表 4.3: 縮約操作の具体例と結果の階数

元のテンソル 縮約の書き方 結果
\(A_\mu\)\(B^\mu\)(ベクトル 2 本) \(A_\mu B^\mu\) スカラー(0 階)= 内積
\(T^\mu{}_\nu\)(2 階テンソル 1 つ) \(T^\mu{}_\mu\) スカラー(0 階)= 跡 (trace)
\(R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}\)(4 階テンソル、第 12 章で登場) \(R^\mu{}_{\sigma\mu\nu} = R_{\sigma\nu}\) 2 階テンソル(Ricci テンソル)

🔵 カイ: 同じ「添字ペアで足す」だけなのに、対象によって「内積」「跡」「Ricci テンソル」と違う名前がつくんですね。

🟡 リナ: 呼び名は歴史的な都合で違うけど、操作は統一されている。これが添字記法の強みよ——どんなテンソルにも同じ規則で縮約を適用できる。

縮約の規則:なぜ上下ペアでなければいけないか

🔵 カイ: ひとつ質問です。上と下の添字でペアを作るって言うけど、上同士や下同士ではダメなんですか? 例えば \(A^\mu B^\mu\) みたいに「両方上」で足し算しても同じことじゃ——

🟡 リナ: それはダメ。理由は結果がスカラーにならない——つまり慣性系を変えると値が変わってしまうから。

具体的に見てみましょう。セクション 3.1 で学んだように、上付き成分と下付き成分の関係は \(A_\mu = \eta_{\mu\nu} A^\nu\) で、時間成分だけ符号が反転したわよね:\(A_0 = -A^0\), \(A_i = A^i\)。そこで、もし \(A^\mu B^\mu\) のように両方上の添字で無理やり \(\mu = 0, 1, 2, 3\) で足したとすると

\[ A^0 B^0 + A^1 B^1 + A^2 B^2 + A^3 B^3 \quad \text{(全部プラス符号)} \]

一方、正しい縮約 \(A_\mu B^\mu\)

\[ A_\mu B^\mu = A_0 B^0 + A_1 B^1 + A_2 B^2 + A_3 B^3 = -A^0 B^0 + A^1 B^1 + A^2 B^2 + A^3 B^3 \]

時間成分だけマイナス。このマイナス符号こそが Lorentz 不変性の鍵なの。

⚪ メイ: ちょっと待って。なぜそのマイナス符号が Lorentz 不変性と関係するの?

🟡 リナ: 空間回転とブーストを分けて考えてみて。

  • 空間回転:時間成分 \(A^0, B^0\) は動かず、空間 3 成分だけが混ざる。ピタゴラスの定理と同じで \(A^i B^i = A^1 B^1 + A^2 B^2 + A^3 B^3\) は回転で不変。
  • ブースト:時間軸と空間軸(例えば \(x\) 軸)が混ざり合う(第 3 章のセクション 3.7 の双曲線回転)。

🔵 カイ: ブーストのときに \(-A^0 B^0 + A^1 B^1\) が不変になるのは、どうやって確かめるんですか?

🟡 リナ: 第 3 章のセクション 3.7 で見たように、ブーストはラピディティ \(\varphi\)\(\tanh\varphi = v\))を使って \(t' = t\cosh\varphi - x\sinh\varphi\), \(x' = -t\sinh\varphi + x\cosh\varphi\) という形をしていたわよね。反変ベクトル \(A^\mu\) にも同じ変換がかかるから、\(A^{0'} = A^0\cosh\varphi - A^1\sinh\varphi\), \(A^{1'} = -A^0\sinh\varphi + A^1\cosh\varphi\)\(B^\mu\) も同様)。\(y, z\) 成分は変わらないので省略して、\(A_\mu B^\mu = -A^0 B^0 + A^1 B^1\) が不変かどうかを確かめたい。変換後の \(-A^{0'}B^{0'} + A^{1'}B^{1'}\) に代入してみると、例えば \(A^{0'}B^{0'}\) の部分は

\[ A^{0'}B^{0'} = (A^0\cosh\varphi - A^1\sinh\varphi)(B^0\cosh\varphi - B^1\sinh\varphi) \]

同様に \(A^{1'}B^{1'} = (-A^0\sinh\varphi + A^1\cosh\varphi)(-B^0\sinh\varphi + B^1\cosh\varphi)\) を展開して、\(-A^{0'}B^{0'} + A^{1'}B^{1'}\) を計算すると、\(A^0 B^0\) の項は \(-\cosh^2\varphi + \sinh^2\varphi = -(\cosh^2\varphi - \sinh^2\varphi) = -1\) 倍、\(A^1 B^1\) の項は \(-\sinh^2\varphi + \cosh^2\varphi = +(\cosh^2\varphi - \sinh^2\varphi) = +1\) 倍、交差項(\(A^0 B^1\)\(A^1 B^0\) を含む項)は \(+\cosh\varphi\sinh\varphi - \cosh\varphi\sinh\varphi = 0\) で打ち消し合う——すべて 第 3 章のセクション 3.6 の恒等式 \(\cosh^2\varphi - \sinh^2\varphi = 1\) のおかげ。結果は \(-A^0 B^0 + A^1 B^1\)——元と同じ値ね。完全な展開計算は練習問題 → 問題 A-2. 一般方向の Lorentz ブースト で確認してみて。

🔵 カイ: つまり、\(\cosh^2 - \sinh^2 = 1\) が「時間のマイナス符号」と組み合わさって不変性を保証しているんですね。

🔵 カイ: 逆に、全部プラスで \(A^0 B^0 + A^1 B^1 + \cdots\) とするとどうなるんですか?

🟡 リナ: ブーストで \(\cosh^2\varphi + \sinh^2\varphi \neq 1\) になって値が変わってしまう。時間成分のマイナス符号は、\(ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2 + \cdots\) の符号パターンと同じ起源——Minkowski 計量の性質そのもの。

🔵 カイ: 第 3 章のセクション 2 の \(ds^2\) と同じ仕組みなんですね。時間と空間の符号が違うからこそ、光速不変が保証される。……ということは、もし宇宙が Euclid 的(全部プラス符号)だったら、上下の区別なんて要らなかったってことですか?

🟡 リナ: 鋭いわね。その通り——もし計量が単位行列 \(\delta_{\mu\nu}\)(全部プラス)なら、上付きと下付きの区別は不要で、\(A^\mu B^\mu\) でも不変量になる。Minkowski 時空で上下の区別が必要なのは、まさに時間と空間の符号が違うから。もうもう少し一般的に言うと、Lorentz 変換を \(\Lambda\)、その逆行列を \(\Lambda^{-1}\) と書くと、

  • 上付きベクトル \(B^\mu\)\(\Lambda\) で変換される:\(B^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu} B^\nu\)
  • 下付きベクトル \(A_\mu\)\((\Lambda^{-1})^T\) で変換される:\(A_{\mu'} = (\Lambda^{-1})^{\nu}{}_{\mu'} A_\nu\)

具体的な添字付きの変換式は後の章で導出するから、今は「反変ベクトルが \(\Lambda\) で変換されるのに対し、共変ベクトルは \(\Lambda\) の逆行列の転置で変換される——つまり逆向きの変換を受ける」とだけ覚えておいて。

🔵 カイ: \(\Lambda\)\(\Lambda^{-1}\) で逆向きに変換される……つまり、上と下をペアにして掛けると変換が打ち消し合うってことですか?

🟡 リナ: まさにそう。直感的な理由はこう——\(A_\mu B^\mu\) は時空間隔と同じ構造のスカラー(不変量)だから、\(B^\mu\)\(\Lambda\) で変換されるなら、\(A_\mu\)\(\Lambda\) の逆行列で変換されないと積が不変にならない。数値の比喩で言えば「\(2 \times \frac{1}{2} = 1\)」のように打ち消し合う必要があるの。もう少し具体的に言うと——\(B^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu} B^\nu\)\(B\) の成分が混ざり合うとき、\(A_{\mu'}\) の方は逆向きに混ざり合って、掛けて足したとき(縮約したとき)に \(\Lambda\) の効果が相殺される。だから \(A_\mu B^\mu\) という上下ペアで組み合わせると、変換行列が打ち消し合い、結果がスカラー(不変量)になる。上同士だと \(\Lambda\) が 2 回かかって打ち消されず、下同士だと逆行列が 2 回かかって打ち消されない——どちらも Lorentz 変換で値が変わってしまう。

なぜ反変(上)と共変(下)で変換が逆向きか

直観的に説明すると、座標 \(dx^\mu\)(上付き)が「2 倍」になる変換を考えたとき、同じ物理量を表す共変ベクトル \(A_\mu\) の成分は「1/2 倍」にならないと、内積 \(A_\mu\,dx^\mu\) が同じ値を保てない。だから \(dx^\mu\)\(A_\mu\) は逆向きに変換される。厳密な導出は参考文献(石井『一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する』§3 など)を参照。

⚪ メイ: つまり「上下ペア」という縮約の規則は、単なる記法の約束じゃなくて、Lorentz 不変性という物理を保証するための必須条件なのね。添字の上下は、ちゃんと意味があって分けられている。

🟡 リナ: そう。添字記法は「こう書いたら自動的に Lorentz 不変になる」という物理の保証をコンパクトに表現した記法——これが相対論の計算で添字記法が絶対的に便利な理由よ。

内積と縮約の統一的理解

⚪ メイ: つまり、さっきリナが「みんなはすでにこの操作を使ったことがある」と言っていたのは、内積 \(A_\mu B^\mu\) がまさに縮約だったから——どちらも「上下の添字が一致する 4 通りだけを選んで足す」という同じ操作ね。でも、内積は「2 本のベクトル」の操作で、さっきの跡(trace)は「1 つのテンソル」の操作でしょう? 本当に同じと言えるの?

🟡 リナ: いい疑問ね。実は、2 本のベクトル \(A_\mu\)\(B^\nu\) の成分同士をすべて掛け合わせると、\(4 \times 4 = 16\) 個の成分を持つ 2 階テンソルが作れる——これをテンソル積 (tensor product) と呼ぶの。\(A_\mu B^\nu\) と書いて、例えば \((\mu, \nu) = (0, 1)\) 成分は \(A_0 B^1\) のように、すべての組み合わせを並べた量よ。「テンソルとは何か」でカイが見た「\(T^{\mu\nu} = A^\mu B^\nu\)」と同じ構造——あのとき変換則を満たすことを確認したわよね。その対角成分を足す(\(\mu = \nu\) で縮約する)のが内積 \(A_\mu B^\mu\)。つまり見え方が違うだけで、操作は統一されているの。

🔵 カイ: なるほど、テンソル積→縮約で内積になる。全部つながっているんですね。

🟡 リナ: 一般に、\(n\) 階テンソルを 1 回縮約すると \((n-2)\) 階テンソルになる:

  • 内積:階数 \(1 + 1 = 2\) → 縮約後 0(スカラー)
  • 2 階テンソルの跡:階数 \(2\) → 縮約後 0(スカラー)
  • Riemann テンソル → Ricci:階数 \(4\) → 縮約後 2
  • Ricci → スカラー曲率:階数 \(2\) → 縮約後 0

この「階数を 2 つ下げる」仕組みが、第 12 章で曲率テンソルからスカラー曲率を作るときに活躍するわ。

✅ 理解度チェック: 縮約が「上付き添字と下付き添字のペア」でなければならない理由を一言で述べてください。

答え

上下ペアで縮約すると変換行列 \(\Lambda\) と逆行列 \(\Lambda^{-1}\) が打ち消し合って Lorentz 不変量(スカラー)になるから。上同士・下同士では打ち消されず、慣性系を変えると値が変わってしまう。

📝 練習問題:


4.5 まとめ——Minkowski 時空の全体像

🟡 リナ: この章で構築した枠組みを整理しましょう。

⚪ メイ: 出発点は二つの公理——相対性原理と光速不変の原理。そこから時空間隔

\[ ds^2 = \eta_{\mu\nu}\,dx^\mu\,dx^\nu = -dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 \]

が不変量であることが導かれた。

🔵 カイ: 不変量を保つ座標変換が Lorentz 変換。空間の回転が「距離を保つ変換」だったのと同じ構造。

🟡 リナ: そして、Lorentz 変換のもとで正しく変換される量——4 元ベクトルやテンソル——を使って物理のモデルを書けば、どの慣性系でも同じ形の方程式になる。これが共変性。

⚪ メイ: この章で手に入れた道具を整理すると——

表 4.4: 特殊相対論の基本道具の整理

道具 内容
時空間隔 \(ds^2\) \(-dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2\)。すべての慣性系で不変なスカラー
Lorentz 変換 \(ds^2\) を保つ座標変換。\(t' = \gamma(t - vx)\), \(x' = \gamma(x - vt)\)
Minkowski 計量 \(\eta_{\mu\nu}\) 対角成分 \((-1, 1, 1, 1)\) の行列。平坦な時空の「距離の測り方」
4 元ベクトル \(A^\mu\) Lorentz 変換で \(A^{\mu'} = \Lambda^{\mu'}{}_{\nu}A^\nu\) に従う量
4 元速度 \(U^\mu\) \(\gamma(1, v^x, v^y, v^z)\)。不変ノルム \(U_\mu U^\mu = -1\)
4 元運動量 \(p^\mu\) \((E, \vec{p})\)。不変ノルム \(p_\mu p^\mu = -m^2\)。$E^2 =
添字の上げ下げ \(A_\mu = \eta_{\mu\nu}A^\nu\)。時間成分の符号が反転
Einstein の縮約規則 上下に同じ添字 → 和をとる(\(\sum\) 省略)

⚪ メイ: Minkowski 計量 \(\eta_{\mu\nu}\)平坦な時空の計量ね。セクション 1 でリナが言っていたように、一般相対論ではこれが場所によって変わる \(g_{\mu\nu}\) に置き換わるんだった。

🟡 リナ: そう。そしてそれが「時空が曲がる」ことの数学的な表現。次章ではまさに、加速度と重力の等価性——等価原理 (equivalence principle) ——を議論して、「なぜ計量が場所によって変わるのか」への道を開くわ。


次章予告

第 5 章では、Einstein の等価原理 (equivalence principle) を取り上げる。「等価原理 — 加速と重力の等価性」と題し、エレベーターの思考実験を通じて「加速度と重力場は局所的に区別できない」ことを理解し、これが「時空の計量 \(g_{\mu\nu}\) が場所によって変わる」——つまり時空が曲がる——ことへの第一歩であることを見ていく。


参考文献

  • Hartle, J. B. Gravity: An Introduction to Einstein's General Relativity, Chapters 4–5. Addison-Wesley, 2003.
  • Schutz, B. F. A First Course in General Relativity, 3rd ed., Chapters 1–3. Cambridge University Press, 2022.
  • 佐藤勝彦『相対性理論』岩波基礎物理シリーズ, 第 1–5 章. 岩波書店, 1996.
  • 石井俊全『一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する』第 8–9 章. ベレ出版, 2013.
  • Lancaster, T. and Blundell, S. J. General Relativity for the Gifted Amateur, Chapters 1–2. Oxford University Press, 2014.