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Appendix C テンソルと微分幾何の基礎


前回までのあらすじ: 第 6 章で Einstein 方程式 \(R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}g_{\mu\nu}R = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}\) が登場し、第 13 章以降では弦の世界面に計量 \(h_{ab}\) を導入した。これらの式に現れる「テンソル」「添字の上下」「共変微分」「曲率」の体系は、「一般相対論」編の第 4 章〜「一般相対論」編 第 8 章・第 12〜14 章・Appendix B で詳細に扱われている

この章のゴール

  • 「一般相対論」編で学んだテンソルと微分幾何の道具を「使う側」として一覧化し、弦理論固有の文脈——世界面の 2 次元計量 \(h_{ab}\)、Polyakov 作用、2 次元時空での曲率——への橋渡しを行う
  • 一般的なテンソル解析の詳細(座標変換、Christoffel 記号の導出、測地線方程式の変分、Riemann テンソルの対称性、Einstein 方程式の導出)は 「一般相対論」編 に委ね、重複を避けて弦理論で新しく必要になる要素に集中する

🟡 リナ: 「一般相対論」編を既読の人は、この付録は軽く要点を確認するだけで十分。弦理論固有の部分は C.3 と C.4 だけだから、そこに絞って読んでもらっていい。

🔵 カイ: 「一般相対論」編で色々やりましたよね。添字の上下とか、曲がった空間での微分とか……結構たくさんあった記憶があります。

🟡 リナ: そう。計量テンソル、Christoffel 記号、測地線、Riemann テンソル、Einstein 方程式——一通りやったわね。ここでは重複を避けて、弦理論で新たに必要になる部分——「弦の世界面という 2 次元時空の幾何学」——に集中する。2 次元はちょっと特殊で、一般相対論と違う振る舞いを見せるの。


C.1 「一般相対論」編の要点サマリ

🟡 リナ: 本付録で使う道具を一覧にしておくわ。詳細な導出・証明・計算例はすべて「一般相対論」編にあるから、そちらを参照してね。

テンソルの基礎(「一般相対論」編 第 04 章, Appendix B)

  • 反変ベクトル \(A^\mu\)(上付き添字)と共変ベクトル \(A_\mu\)(下付き添字)は座標変換で互いに逆の変換則に従う:
  • \(A'^\mu = \frac{\partial x'^\mu}{\partial x^\nu}A^\nu\)(反変)
  • \(B'_\mu = \frac{\partial x^\nu}{\partial x'^\mu}B_\nu\)(共変)
  • Einstein の縮約規則: 同じ添字が上下で 1 回ずつ現れたら和を取る
  • テンソル積 \(\otimes\) で高階テンソルを構成
  • 物理法則をテンソル方程式で書くと座標系によらない形(一般共変性)になる

計量テンソル(「一般相対論」編 第 06 章, ch07)

  • 時空の線素は \(ds^2 = g_{\mu\nu}\,dx^\mu dx^\nu\)
  • Minkowski 計量: \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(-1, +1, +1, +1)\)(「一般相対論」編・「量子重力問題への挑戦」編を通じた規約。「場の量子論」編では逆の \((+,-,-,-)\) を使用。第 5 章で光錐座標を導入した際にもこの規約を確認した)
  • 逆計量 \(g^{\mu\nu}\)\(g^{\mu\alpha}g_{\alpha\nu} = \delta^\mu_\nu\) を満たす
  • 添字の上げ下げ: \(A_\mu = g_{\mu\nu}A^\nu\), \(A^\mu = g^{\mu\nu}A_\nu\)
  • 代表例: Schwarzschild 計量(球対称・静的)、FRW 計量(宇宙論)

共変微分と Christoffel 記号(「一般相対論」編 第 12 章)

  • 普通の偏微分 \(\partial_\mu V^\nu\) はテンソルではない(座標変換で余分な項が出る)
  • 共変微分 \(\nabla_\mu V^\nu = \partial_\mu V^\nu + \Gamma^\nu_{\mu\rho}V^\rho\) はテンソル
  • Christoffel 記号: 計量適合 \(\nabla_\alpha g_{\mu\nu} = 0\) と捩れなしから
\[ \Gamma^\rho_{\mu\nu} = \frac{1}{2}g^{\rho\sigma}\left(\partial_\mu g_{\nu\sigma} + \partial_\nu g_{\mu\sigma} - \partial_\sigma g_{\mu\nu}\right) \]

計量の 1 階微分から機械的に計算できる。

平行移動と測地線(「一般相対論」編 第 08 章, ch12)

  • ベクトル \(V^\mu\) を曲線 \(x^\mu(\lambda)\) に沿って平行移動: \(\frac{dV^\mu}{d\lambda} + \Gamma^\mu_{\nu\rho}\frac{dx^\nu}{d\lambda}V^\rho = 0\)
  • 測地線方程式(曲線を「まっすぐ」たどる粒子の運動方程式):
\[ \frac{d^2 x^\mu}{d\lambda^2} + \Gamma^\mu_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\lambda}\frac{dx^\beta}{d\lambda} = 0 \]

変分原理(作用 \(S = \frac{1}{2}\int d\lambda\, g_{\mu\nu}\frac{dx^\mu}{d\lambda}\frac{dx^\nu}{d\lambda}\) の停留)から導かれる。

曲率テンソル(「一般相対論」編 第 13 章)

  • Riemann 曲率テンソル(共変微分の交換子から):
\[ [\nabla_\mu, \nabla_\nu]V^\rho = R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}V^\sigma \]
  • Ricci テンソル: \(R_{\mu\nu} = R^\alpha{}_{\mu\alpha\nu}\)
  • スカラー曲率: \(R = g^{\mu\nu}R_{\mu\nu}\)
  • 幾何学的意味: 閉じた経路に沿った平行移動で生じる向きのずれ

Einstein 方程式(「一般相対論」編 第 14 章, Appendix G)

\[ \boxed{R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}g_{\mu\nu}R = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}} \]
  • 左辺は時空の曲がり(純幾何学)、右辺は物質・エネルギーの分布(物理)
  • Bianchi 恒等式から \(\nabla^\mu G_{\mu\nu} = 0\)、これがエネルギー運動量保存 \(\nabla^\mu T_{\mu\nu} = 0\) と整合する

🟡 リナ: ここまでの道具は全部、計量 \(g_{\mu\nu}\) から出発して計算できる——計量 → Christoffel → Riemann → Ricci → Einstein 方程式というパイプラインだったわね。そしてこのパイプラインは、世界面の計量 \(h_{ab}\) にもそのまま適用できるの。

⚪ メイ: つまり \(g_{\mu\nu}\)\(h_{ab}\) に置き換えるだけで、同じ手順が使えるということね。

🟡 リナ: そう。それを C.3 と C.4 で具体的に見ていくわ。


C.2 練習問題のマップ

🟡 リナ: この付録の練習問題は、「一般相対論」編の内容を弦理論の文脈で復習・確認するものよ。

表 C.1: 付録C練習問題のトピックと参照先

練習問題 トピック 参照
C.1–C.3 添字の上下、Einstein の縮約 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 4 章, Appendix B
C.4–C.6 計量テンソルの具体例(球面・極座標・Schwarzschild) 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 6 章, ch07
C.7–C.9 Christoffel 記号・測地線方程式 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 8 章, ch12
C.10 Einstein テンソルの保存則 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 14 章, Appendix G

📝 全練習問題Appendix C 練習問題


C.3 弦理論のための 2 次元計量と世界面

🟡 リナ: ここからが弦理論固有の部分よ。弦の世界面は時間パラメータ \(\tau\) と空間パラメータ \(\sigma\) の 2 次元的な広がりを持つ。世界面上の「距離」を測るのに 2 次元の計量 \(h_{ab}(\tau, \sigma)\) を使うの。添字 \(a, b\) は世界面の座標を走り、\(a, b \in \{0, 1\}\)\(\sigma^0 = \tau\), \(\sigma^1 = \sigma\) と対応させる。2 次元の積分測度は \(d^2\sigma \equiv d\sigma^0\,d\sigma^1 = d\tau\,d\sigma\) と書く(ここでの \(d^2\sigma\) は「2 つの座標 \(\sigma^a\) についての積分」の略記であって、\(\sigma\) の 2 乗ではない)。なお、\(\sigma\) という文字が「空間パラメータ」と「座標全体の略記 \(\sigma^a\)」の両方に使われるけど、添字がついていれば座標全体、ついていなければ空間パラメータと読み分けてね。

世界面計量と Polyakov 作用

🟡 リナ: Polyakov 作用は世界面の計量を明示的に含む形:

\[ S_P = -\frac{T}{2}\int d^2\sigma\,\sqrt{-h}\,h^{ab}\,\partial_a X^\mu\,\partial_b X_\mu \]

ここで \(T\) は弦の張力(第 13 章で導入した \(T = \frac{1}{2\pi\alpha'}\))、\(h = \det(h_{ab})\)\(h_{ab}\) の行列式(2×2 行列なら \(h = h_{\tau\tau}h_{\sigma\sigma} - h_{\tau\sigma}^2\))、\(h^{ab}\)\(h_{ab}\) の逆計量よ。\(X^\mu(\tau, \sigma)\) は弦上の各点が時空のどこにあるかを与える関数で、\(\mu = 0, 1, \ldots, D-1\) は時空の座標。\(\partial_b X_\mu\) の下付き \(\mu\) は時空計量で添字を下げたもの、つまり \(\partial_b X_\mu \equiv \eta_{\mu\nu}\partial_b X^\nu\)(平坦時空の場合)で、Einstein の縮約規則により \(\partial_a X^\mu \partial_b X_\mu = \eta_{\mu\nu}\partial_a X^\mu \partial_b X^\nu\) と同じ意味よ。

🔵 カイ: 世界面計量 \(h_{ab}\) と時空計量 \(\eta_{\mu\nu}\)(または一般の \(g_{\mu\nu}\))、2 つの計量が登場するんですね。

🟡 リナ: そう。この構造を混同しないことが重要。\(h_{ab}\)世界面上の計量で、\(\tau, \sigma\) の関数。一方 \(g_{\mu\nu}(X)\)時空上の計量で、弦が住んでいる背景時空の計量よ。弦理論を平坦時空で扱うときは \(g_{\mu\nu} = \eta_{\mu\nu}\) だけど、曲がった時空を弦が伝播する場合は \(g_{\mu\nu}(X)\) が座標依存になる。

世界面計量の成分

2 次元対称行列だから独立成分は 3 個:

\[ h_{ab} = \begin{pmatrix} h_{\tau\tau} & h_{\tau\sigma} \\ h_{\tau\sigma} & h_{\sigma\sigma} \end{pmatrix} \]

ここで \(\det(h_{ab}) = h_{\tau\tau}h_{\sigma\sigma} - h_{\tau\sigma}^2\)。世界面が時間方向 \(\tau\) と空間方向 \(\sigma\) を持つとき、計量の符号構造は \((-,+)\) になる(これを Lorentz 的 (Lorentzian) と呼ぶ)。このとき \(\det(h_{ab}) < 0\) だから、作用に現れる \(\sqrt{-h}\) は実数になる。

Weyl 変換とゲージ自由度

🟡 リナ: 2 次元計量の非常に重要な性質として、Weyl 変換のもとでの自由度がある:

\[ h_{ab}(\tau, \sigma) \to e^{2\omega(\tau, \sigma)}h_{ab}(\tau, \sigma) \]

任意の関数 \(\omega(\tau, \sigma)\) で計量全体をスケーリングする操作よ。驚くべきことに、Polyakov 作用はこの変換のもとで不変

🔵 カイ: 不変って、\(\sqrt{-h}\)\(h^{ab}\) も変わるのに全体で打ち消し合うってことですか? どうして?

🟡 リナ: その通り。具体的に確認しましょう。\(h_{ab} \to e^{2\omega}h_{ab}\) のとき、各成分が同じ因子 \(e^{2\omega}\) 倍されている。\(n \times n\) 行列の全成分を同じ値 \(c\) 倍すると行列式は \(c^n\) 倍になる。なぜかというと、\(2 \times 2\) の場合で具体的に見てみよう。\(\det\begin{pmatrix} ca & cb \\ cc & cd \end{pmatrix} = (ca)(cd) - (cb)(cc) = c^2(ad - bc) = c^2 \det\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\)——各項が 2 個の成分の積だから、全成分を \(c\) 倍すると各項が \(c^2\) 倍になるの。一般の \(n \times n\) でも同じ論理で \(c^n\) 倍になる(行列式は各項が \(n\) 個の成分の積だから、全成分を \(c\) 倍すると各項が \(c^n\) 倍になる)。ここで \(c = e^{2\omega}\) は座標 \((\tau, \sigma)\) の関数だけど、行列式の計算は各点 \((\tau, \sigma)\) ごとに独立に行うもの。ある 1 点に注目すれば \(e^{2\omega}\) はただの定数だから、「全成分を同じ定数倍すると行列式は \(c^n\) 倍」という性質がそのまま使える。2×2 なので \(\det(e^{2\omega}h_{ab}) = (e^{2\omega})^2\det(h_{ab}) = e^{4\omega}\det(h_{ab})\)。よって \(\sqrt{-h} \to \sqrt{e^{4\omega}}\sqrt{-h} = e^{2\omega}\sqrt{-h}\)。そして逆計量は \(h^{ab}h_{bc} = \delta^a_c\) を保つ必要があるから、\(h^{ab} \to e^{-2\omega}h^{ab}\) になる。

⚪ メイ: \(\sqrt{-h}\)\(e^{2\omega}\) 倍、\(h^{ab}\)\(e^{-2\omega}\) 倍——掛け合わせるとちょうど打ち消し合うのね。

🟡 リナ: そう。\(\partial_a X^\mu\) は計量に依存しないから変わらない。全部合わせると \(e^{2\omega} \cdot e^{-2\omega} = 1\) で、積全体が不変になる。

🔵 カイ: なるほど、指数の肩が \(+2\omega\)\(-2\omega\) で足すとゼロ——だから打ち消し合うんですね。でもこれって 2 次元だから成り立つんですか? 3 次元だったら \(\sqrt{-h}\) の変換が変わりそうですけど。

🟡 リナ: 鋭い。3 次元なら \(\sqrt{-h} \to e^{3\omega}\sqrt{-h}\) になるから \(e^{3\omega} \cdot e^{-2\omega} = e^{\omega} \neq 1\) で打ち消し合わない。Weyl 不変性は 2 次元に特有の性質なの。この Weyl 対称性が弦理論の基盤で、第 14 章で詳しく扱う共形場理論 (Conformal Field Theory, CFT) の出発点になるの。

✅ 理解度チェック: Weyl 変換 \(h_{ab} \to e^{2\omega}h_{ab}\) のもとで Polyakov 作用が不変になる理由を、\(\sqrt{-h}\)\(h^{ab}\) の変換性から簡潔に説明してみましょう。

答え

2次元では \(\sqrt{-h} \to e^{2\omega}\sqrt{-h}\)(行列式が \(e^{4\omega}\) 倍になるため)、逆計量は \(h^{ab} \to e^{-2\omega}h^{ab}\) と変換する。\(\partial_a X^\mu\) は計量に依存しないので不変。これらを掛け合わせると \(e^{2\omega} \cdot e^{-2\omega} = 1\) となり、作用全体が不変になる。

共形ゲージ

🟡 リナ: さっき見たように独立成分は 3 個。一方、座標変換 \(\tau \to \tau'(\tau, \sigma)\), \(\sigma \to \sigma'(\tau, \sigma)\) で 2 つの任意関数を使えるから、計量の 2 成分を好きな形に固定できる。さらに Weyl 変換で残り 1 成分も固定できる。合計 \(3 - 2 - 1 = 0\) で、計量を完全に固定して平坦な形にできる:

\[ h_{ab} = \eta_{ab} = \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \]

これを共形ゲージ (conformal gauge) と呼ぶ。ここで \(\eta_{ab}\) は 2 次元の Minkowski 計量(\(a, b \in \{\tau, \sigma\}\))で、C.1 で出てきた 4 次元の \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(-1,+1,+1,+1)\) の 2 次元版よ。このゲージで Polyakov 作用は

\[ S_P = -\frac{T}{2}\int d^2\sigma\,\eta^{ab}\,\partial_a X^\mu\,\partial_b X_\mu \]

\(\eta^{ab}\)\(\eta_{ab}\) の逆行列だけど、対角行列の逆行列は各対角成分の逆数を並べたもの(\((-1)^{-1} = -1\), \((+1)^{-1} = +1\))だから \(\eta^{ab} = \mathrm{diag}(-1, +1)\) で元と同じ形になる。Einstein の縮約規則で \(a, b\) について和を取ると、\(\eta^{ab}\partial_a X^\mu \partial_b X_\mu = \sum_{a}\sum_{b}\eta^{ab}\partial_a X^\mu \partial_b X_\mu\)\(\eta^{ab}\) は対角行列だから非対角成分 \(\eta^{\tau\sigma} = \eta^{\sigma\tau} = 0\) で、対角成分だけが生き残る:\(\eta^{\tau\tau}\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X_\mu + \eta^{\sigma\sigma}\partial_\sigma X^\mu \partial_\sigma X_\mu = (-1)\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X_\mu + (+1)\partial_\sigma X^\mu \partial_\sigma X_\mu\)

🔵 カイ: 対角成分だけ残って、あとは符号を代入するだけですね。

🟡 リナ: そう。前の \(-T/2\) と合わせると \(S_P = -\frac{T}{2}\int d^2\sigma\,[(-1)\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X_\mu + (+1)\partial_\sigma X^\mu \partial_\sigma X_\mu]\)\((-T/2) \times (-1) = +T/2\)\((-T/2) \times (+1) = -T/2\) だから

\[ S_P = \frac{T}{2}\int d^2\sigma\,(\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X_\mu - \partial_\sigma X^\mu \partial_\sigma X_\mu) \]

となる。

⚪ メイ: 結局、共形ゲージに固定すると \(\sqrt{-h}\)\(h^{ab}\) も消えて、\(\tau\) 微分と \(\sigma\) 微分の差だけが残る——すっきりした形ね。

⚠️ 2 つの計量を混同しないこと: ここで \(\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X_\mu = \eta_{\mu\nu}\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X^\nu = -(\partial_\tau X^0)^2 + (\partial_\tau X^1)^2 + \cdots + (\partial_\tau X^{D-1})^2\) であり、時空計量 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(-1,+1,\ldots,+1)\) の符号により時間成分 \(X^0\) の寄与が負になる。したがって \(\partial_\tau X^\mu \partial_\tau X_\mu\) は正とは限らない。直前に出てきた \(\eta_{ab} = \mathrm{diag}(-1, +1)\)世界面の計量(添字 \(a, b\))であり、ここでの \(\eta_{\mu\nu}\)(添字 \(\mu, \nu\))は時空の計量——住んでいる空間が違うので混同しないように。

🔵 カイ: この形、なんか見覚えがあります。\(\tau\) 方向の微分の 2 乗と \(\sigma\) 方向の微分の 2 乗の差……波動方程式の作用版みたいな感じですか?

🟡 リナ: いい直感ね。実際、力学で「運動エネルギー \(-\) ポテンシャルエネルギー」がラグランジアンだったのと似た構造で、\(\tau\) 微分が「運動エネルギー的」、\(\sigma\) 微分が「ポテンシャル的」と読めるの。ここから運動方程式を導こう。力学では作用 \(S = \int dt\,L\) を停留させて運動方程式 \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\) を得たわね。場の理論では「粒子の位置 \(q(t)\)」の代わりに「場 \(X^\mu(\tau, \sigma)\)」があり、独立変数が \(t\) の 1 個から \((\tau, \sigma)\) の 2 個に増える。作用は \(S = \int d\tau\,d\sigma\,\mathcal{L}\) と書かれ、\(\mathcal{L}\)ラグランジアン密度と呼ぶ。

🔵 カイ: 力学のラグランジアン \(L\) と何が違うんですか?

🟡 リナ: 力学では \(S = \int dt\,L\) で時間だけの積分だったわね。場の理論では空間方向にも積分するから \(S = \int d\tau\,d\sigma\,\mathcal{L}\) になる。\(\mathcal{L}\) は各点 \((\tau, \sigma)\) ごとに定義される「密度」よ。

⚪ メイ: つまり \(L\) が「系全体でひとつ」だったのに対して、\(\mathcal{L}\) は「各点ごとにある」——積分して初めて全体の作用になるのね。

🟡 リナ: そう。力学では \(q(t)\) を少しだけずらして \(q(t) + \delta q(t)\) としたとき作用の変化がゼロになる条件から運動方程式を導いたわね。場の理論でも同じことをする——\(X^\mu(\tau, \sigma)\) を少しずらして \(X^\mu + \delta X^\mu\) とし、作用の変化 \(\delta S = 0\) を要求する。力学では部分積分で \(\frac{d}{dt}\)\(\delta q\) に移したけど、今は独立変数が \(\tau\)\(\sigma\) の 2 つあるから、それぞれの方向で部分積分が必要になる。結果として、力学の \(\frac{d}{dt}\)\(\sum_a \partial_a\)\(a = \tau, \sigma\))に置き換わった形の Euler-Lagrange 方程式が得られる:

\[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial X^\mu} - \sum_a \partial_a\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_a X^\mu)} = 0 \]

\(a = \tau, \sigma\) で和を取る。力学では \(\delta q\) に掛かる \(\frac{d}{dt}(\cdots)\) を部分積分で 1 回移したけど、今は独立変数が \(\tau\)\(\sigma\) の 2 つあるから、\(\delta X^\mu\) に掛かる \(\partial_\tau(\cdots)\)\(\partial_\sigma(\cdots)\) をそれぞれ部分積分で移す——だから \(\sum_a \partial_a\) が現れるの。導出の詳細は「一般相対論」編の変分原理の章も参照。)

⚪ メイ: さっき梨奈先生が書いた力学版 \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} = \frac{\partial L}{\partial q}\) と見比べると、\(\frac{d}{dt}\)\(\sum_a \partial_a\) に、\(L\)\(\mathcal{L}\) に置き換わった形ね。

🔵 カイ: あ、でも一つ確認させてください。力学では \(q\) で微分するのと \(\dot{q}\) で微分するのは別物でしたよね。場の理論だと \(X^\mu\) で微分するのと \(\partial_a X^\mu\) で微分するのが別物ってことですか? \(\partial_a X^\mu\) って \(X^\mu\) の微分なのに、独立な変数として扱っていいんですか?

🟡 リナ: いい質問。力学でも \(q\)\(\dot{q}\) は「時刻 \(t\) を決めた瞬間の位置と速度」として独立に扱ったわね。場の理論でも同じ——\(X^\mu\)\(\partial_a X^\mu\) は「ある点 \((\tau, \sigma)\) での場の値とその勾配」として独立な変数と見なすの。変分法の枠組みでは、\(X^\mu\) を少しずらしたとき \(\partial_a X^\mu\) も連動して変わるけど、Euler-Lagrange 方程式を導く段階では形式的に独立として偏微分を取る——結果として正しい運動方程式が出てくるのよ。

🔵 カイ: なるほど、力学のときと同じ「形式的に独立として扱う」ルールがそのまま使えるんですね。じゃあ実際にこの式を今の作用に適用するとどうなるんですか?

🟡 リナ: やってみましょう。ラグランジアン密度は \(\mathcal{L} = \frac{T}{2}(\partial_\tau X^\nu \partial_\tau X_\nu - \partial_\sigma X^\nu \partial_\sigma X_\nu)\) よ。まず \(X^\mu\) 自体は \(\mathcal{L}\) の中に直接現れていない(現れるのは微分 \(\partial_a X^\mu\) だけ)から、\(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial X^\mu} = 0\)。次に \(\partial_\tau X^\mu\) による微分を計算する。\(\partial_\tau X^\nu \partial_\tau X_\nu = \eta_{\rho\lambda}\partial_\tau X^\rho \partial_\tau X^\lambda\)\(\partial_\tau X^\mu\) で微分しよう。これは \(\eta_{\rho\lambda} \cdot (\partial_\tau X^\rho) \cdot (\partial_\tau X^\lambda)\) という形で、\(\partial_\tau X^\mu\) は 2 箇所に現れる——\(\rho = \mu\) のときの \(\partial_\tau X^\rho\) と、\(\lambda = \mu\) のときの \(\partial_\tau X^\lambda\)。積の微分法則(\((fg)' = f'g + fg'\))と同じ要領で、\(\rho = \mu\) の項からは \(\eta_{\mu\lambda}\partial_\tau X^\lambda\) が、\(\lambda = \mu\) の項からは \(\eta_{\rho\mu}\partial_\tau X^\rho\) が出る。\(\eta\) は対称(\(\eta_{\mu\lambda} = \eta_{\lambda\mu}\))でダミー添字の名前は自由に付け替えられるから、2 つの寄与は同じもので、合わせて \(2\eta_{\mu\lambda}\partial_\tau X^\lambda = 2\partial_\tau X_\mu\) となる。\(T/2\) を掛けて \(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\tau X^\mu)} = T\,\partial_\tau X_\mu\)

🔵 カイ: \(\sigma\) の方も同じ要領ですか? 符号だけ変わる?

🟡 リナ: そう。\(\mathcal{L}\)\(\sigma\) 部分は \(-\frac{T}{2}\partial_\sigma X^\nu \partial_\sigma X_\nu\) で、\(\tau\) のときと全く同じ要領で \(\partial_\sigma X^\nu \partial_\sigma X_\nu\)\(\partial_\sigma X^\mu\) で微分すると \(2\partial_\sigma X_\mu\) が出る。前の係数 \(-T/2\) を掛けて \(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\sigma X^\mu)} = -\frac{T}{2} \times 2\partial_\sigma X_\mu = -T\,\partial_\sigma X_\mu\)\(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial X^\mu} = 0\) だったから、Euler-Lagrange 方程式は \(\sum_a \partial_a\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_a X^\mu)} = 0\) に簡略化される。これに代入すると、\(\partial_\tau(T\,\partial_\tau X_\mu) + \partial_\sigma(-T\,\partial_\sigma X_\mu) = 0\)、すなわち \(T(\partial_\tau^2 - \partial_\sigma^2)X_\mu = 0\) となる。平坦時空では \(\eta_{\mu\nu}\) が定数だから添字を上げても同じ方程式が成り立ち、Appendix A.3 で見た 2 次元波動方程式 \((\partial_\tau^2 - \partial_\sigma^2)X^\mu = 0\) が得られる。 ✅ 理解度チェック: 2次元世界面計量の独立成分は3個あるが、共形ゲージで \(h_{ab} = \eta_{ab}\) に完全固定できるのはなぜでしょうか? どのような対称性を使っているでしょうか?

答え

座標変換(微分同相変換)で2つの任意関数を使い2成分を固定し、さらに Weyl 変換で残り1成分を固定する。合計 \(3 - 2 - 1 = 0\) で独立成分がなくなり、計量を平坦な \(\eta_{ab} = \mathrm{diag}(-1, +1)\) に完全に固定できる。

🔵 カイ: 計算のステップは多かったけど、最終的にただの波動方程式 \((\partial_\tau^2 - \partial_\sigma^2)X^\mu = 0\) に落ちるのは分かりました。でも気になるのは、ゲージを固定して \(h_{ab}\) の情報を全部捨てたわけですよね? 何か見落としている条件はないんですか?

🟡 リナ: 鋭い。実はゲージ固定前の \(h_{ab}\) の運動方程式が拘束条件として残るの。これが Virasoro 拘束条件で、第 14 章で詳しく扱うわ。

⚪ メイ: つまり、波動方程式だけでは不十分で、追加の条件を満たす解だけが物理的に許される——ということね。

🔵 カイ: 拘束条件って、具体的にはどんな形の式になるんですか? 波動方程式の解のうち「許されないもの」ってどういうやつなんだろう……。

🟡 リナ: いい疑問ね。具体的な形は第 14 章で導出するけど、直感的には「エネルギーと運動量の配分に制限がかかる」というイメージよ。弦の各振動モードにどれだけエネルギーを割り振れるかに制約がつくの。楽しみにしておいて。

🔵 カイ: 振動モードごとに制約……でも正直、「エネルギーの配分に制限がかかる」って言われても、それが何を意味するのかまだピンと来ないです。第 14 章で具体的な式が出てくるまで待つしかないですか?

🟡 リナ: そうね、具体的な形は第 14 章で導出するから今は予告だけ。ただ一つだけ喩えを出すと——弦の各振動モードにエネルギーを自由に配分できるように見えるけど、実は「左向きに進む波のエネルギー」と「右向きに進む波のエネルギー」が等しくなければならない、というような制約がかかるの。これがレベルマッチング条件と呼ばれるもので、Virasoro 拘束条件の一部よ。そしてさらに驚くべき帰結として——Virasoro 拘束条件が量子レベルで無矛盾に成り立つ条件を調べると、弦が住んでいる時空の次元が特定の値——臨界次元——に決まってしまうの。

🔵 カイ: え、弦の振動の条件から時空の次元が決まる? なんで振動の話が次元に影響するんですか?

🟡 リナ: 量子力学では確率の合計が必ず 1 にならないといけないわよね。ところが弦を量子化すると、時空の次元が特定の値でないと確率の合計が 1 からずれてしまったり、確率が負になる状態が消えてくれなかったりする——物理として許されない病的な振る舞いが出てしまうの。それを避ける条件が次元を決める——詳細は第 14 章でね。


C.4 2 次元時空の曲率の特殊性

🟡 リナ: 2 次元時空は 4 次元時空と比べて特殊な性質を持つの。これが弦理論で重要になる。

2 次元では Einstein テンソルが恒等的にゼロ

🟡 リナ: 4 次元では Riemann テンソルの独立成分は 20 個、Ricci テンソルは 10 個、Einstein 方程式 \(G_{\mu\nu} = 8\pi G T_{\mu\nu}\) は非自明な方程式だった。しかし 2 次元では独立成分がずっと少ない。

🔵 カイ: なんで 2 次元だと独立成分が減るんですか?

🟡 リナ: Riemann テンソル \(R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}\) の添字はそれぞれ次元数 \(n\) の値を取るから、次元が小さいほど組み合わせが減る。さらに Riemann テンソルには「添字ペアの反対称性」「ペア同士の交換対称性」「第一 Bianchi 恒等式」という対称性があって(「一般相対論」編第 13 章参照)、これらが成分間の関係式を生む——たとえば反対称性 \(R_{abcd} = -R_{bacd}\) は「\(ab\) を入れ替えると符号が変わる」という関係だから、\(R_{0101}\)\(R_{1001}\) は独立ではなく片方が決まれば他方も決まるの。こうした関係式を全部考慮すると独立成分数は \(\frac{n^2(n^2-1)}{12}\) に絞られる(導出は「一般相対論」編第 13 章参照)。\(n = 4\) なら \(\frac{16 \times 15}{12} = 20\) 個、\(n = 2\) なら \(\frac{4 \times 3}{12} = 1\) 個。

🔵 カイ: たった 1 個! ということは曲率の情報がほとんどない?

🟡 リナ: そう。2 次元で実際に確認すると、添字 \(a, b\) がそれぞれ 0 か 1 しか取れないから、反対称性 \(R_{abcd} = -R_{bacd} = -R_{abdc}\) により \(ab\)\(cd\) のペアはそれぞれ \((01)\) の 1 通りしかなく、独立成分は \(R_{0101}\) の 1 個だけ——公式と一致するわ。たった 1 個だから、スカラー曲率 \(R\) だけで Riemann テンソルが完全に決まってしまう。

具体的には、2 次元では Riemann テンソルが

\[ R_{abcd} = \frac{R}{2}(g_{ac}g_{bd} - g_{ad}g_{bc}) \]

と書ける(\(R_{abcd}\) は全添字が下付きの形で、C.1 の「添字の上げ下げ」と同じ要領で \(R_{abcd} = g_{a\rho}R^\rho{}_{bcd}\) と定義される——上付きの \(\rho\) を計量 \(g_{a\rho}\) で下げて \(a\) にしたもの)。ここから Ricci テンソルを計算してみましょう。C.1 の定義 \(R_{\mu\nu} = R^\alpha{}_{\mu\alpha\nu}\) を世界面の添字で書くと \(R_{ab} = R^c{}_{acb}\)\(\alpha \to c\), \(\mu \to a\), \(\nu \to b\) と読み替えたもので、上付きの第 1 添字と下付きの第 3 添字がともに \(c\) となり縮約される)。公式 \(R_{abcd} = \frac{R}{2}(g_{ac}g_{bd} - g_{ad}g_{bc})\) は全添字が下付きの Riemann テンソルに対するものだから、まず \(R^c{}_{acb}\) を全添字下付きの形に書き換えたい。全添字下付きの Riemann テンソルとの関係は \(R_{eacb} = g_{e\rho}R^\rho{}_{acb}\) で定義される(\(\rho\) はダミー添字)。両辺に \(g^{ce}\) を掛けて \(e\) について縮約すると、左辺は \(g^{ce}R_{eacb} = g^{ce}g_{e\rho}R^\rho{}_{acb}\)。ここで C.1 の逆計量の定義 \(g^{\mu\alpha}g_{\alpha\nu} = \delta^\mu_\nu\) を使う——この式は「どんな添字の文字を使っても成り立つ」という意味の恒等式よ。\(\mu, \alpha, \nu\) はただの名札だから、\(\mu\)\(c\) に、\(\alpha\)\(e\) に、\(\nu\)\(\rho\) に書き換えても同じ関係式が成り立つ。つまり \(g^{ce}g_{e\rho} = \delta^c_\rho\) が得られる。よって \(g^{ce}g_{e\rho}R^\rho{}_{acb} = \delta^c_\rho R^\rho{}_{acb} = R^c{}_{acb}\)\(\delta^c_\rho\)\(\rho = c\) のときだけ 1 で他は 0 だから、和の中で \(\rho = c\) の項だけが生き残る)。したがって \(R^c{}_{acb} = g^{ce}R_{eacb}\) と書ける。

⚪ メイ: 逆計量を掛けて添字を上げ直す操作ね。あとは公式を \(R_{eacb}\) に適用すればいいわけだ。

🟡 リナ: ここで公式を \(R_{eacb}\) に適用したい。公式の左辺の添字位置と \(R_{eacb}\) の添字位置を対応させよう。公式 \(R_{abcd} = \frac{R}{2}(g_{ac}g_{bd} - g_{ad}g_{bc})\) の添字 \((a,b,c,d)\) は「第1, 第2, 第3, 第4 スロット」を表すダミーラベルにすぎない。今やりたいのは「\(R_{eacb}\) の具体的な形を知ること」——そのために公式の左辺 \(R_{abcd}\) の各スロットに \(R_{eacb}\) の添字を順番に当てはめるの。公式の第1スロットに \(e\)、第2に \(a\)、第3に \(c\)、第4に \(b\) を入れる:

公式 \(R_{abcd}\) の添字スロットと今回の対応

公式のスロット 第1 第2 第3 第4
今回入れる添字 \(e\) \(a\) \(c\) \(b\)

公式の右辺を見てみよう。\(g_{ac}g_{bd}\) は「第1と第3の添字を持つ \(g\)」×「第2と第4の添字を持つ \(g\)」、\(g_{ad}g_{bc}\) は「第1と第4の添字を持つ \(g\)」×「第2と第3の添字を持つ \(g\)」という構造ね。表に従って各スロットに添字を代入すると:

  • 第 1 項 \(g_{ac}g_{bd}\): 第1→\(e\), 第3→\(c\)\(g_{ec}\)、第2→\(a\), 第4→\(b\)\(g_{ab}\)。合わせて \(g_{ec}g_{ab}\)
  • 第 2 項 \(g_{ad}g_{bc}\): 第1→\(e\), 第4→\(b\)\(g_{eb}\)、第2→\(a\), 第3→\(c\)\(g_{ac}\)。合わせて \(g_{eb}g_{ac}\)

よって

\[ R_{eacb} = \frac{R}{2}(g_{ec}g_{ab} - g_{eb}g_{ac}) \]

🔵 カイ: 表に当てはめるだけで機械的にできるんですね。あとは \(g^{ce}\) を掛けて縮約すれば Ricci テンソルが出る?

🟡 リナ: その通り。

\[ R_{ab} = g^{ce}R_{eacb} = \frac{R}{2}\,g^{ce}(g_{ec}g_{ab} - g_{eb}g_{ac}) \]

第 1 項: \(g^{ce}g_{ec} = \delta^c_c\)(逆計量の定義 \(g^{c\alpha}g_{\alpha c} = \delta^c_c\) から)。ここで \(\delta^c_c\) は Einstein の縮約規則で \(c\) について和を取るから \(\delta^c_c = \delta^0_0 + \delta^1_1 = 1 + 1 = 2\)(2 次元では添字が 0 と 1 の 2 つだけ)。よって第 1 項全体は \(\frac{R}{2} \cdot 2 \cdot g_{ab}\)。 第 2 項: \(g^{ce}g_{eb} = \delta^c_b\) だから \(g^{ce}g_{eb}g_{ac} = \delta^c_b g_{ac} = g_{ab}\)、第 2 項全体は \(\frac{R}{2} \cdot g_{ab}\)

まとめると

\[ R_{ab} = \frac{R}{2}(2g_{ab} - g_{ab}) = \frac{R}{2}g_{ab} \]

⚠️ 間違いやすいポイント: 公式の添字対応を \((a,b,c,d) \to (e,a,c,b)\) ではなく直感的に当てはめると、\(g^{ce}g_{ea}g_{cb}\) のような項が現れて「\(R_{ab} = 0\)?」という誤った結果に至りやすい。ポイントは \(R_{eacb}\) の 4 つの添字を公式の左辺 \(R_{abcd}\)正確に対応させること。特に第 1 項で \(g^{ce}g_{ec} = n\)(次元数)が出てくるのが 2 次元の鍵。

🔵 カイ: 添字の読み替えが結構ややこしいですね……。でも要するに、2 次元だと \(g^{ce}g_{ec} = 2\) になるのが効いて、最終的に \(R_{ab} = \frac{R}{2}g_{ab}\) という比例関係に落ちるってことですか?

🟡 リナ: そう。4 次元なら \(g^{ce}g_{ec} = 4\) になって結果が変わるから、\(R_{ab} = \frac{R}{2}g_{ab}\) は 2 次元固有の恒等式なの。

これで正しい結果が得られた。本「一般相対論」編で採用している規約 \(R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}\)(第1添字が上)と \(R_{\mu\nu} = R^\alpha{}_{\mu\alpha\nu}\) のもとで、2 次元の恒等式は:

  • Ricci テンソル: \(R_{ab} = \frac{1}{2}g_{ab}R\)(恒等式)
  • Einstein テンソル: \(G_{ab} = R_{ab} - \frac{1}{2}g_{ab}R = \frac{1}{2}g_{ab}R - \frac{1}{2}g_{ab}R \equiv 0\)(常にゼロ)

⚪ メイ: \(R_{ab}\)\(\frac{1}{2}g_{ab}R\) が完全に同じだから、引き算すると何も残らない——きれいに消えるのね。

(出発点の公式 \(R_{abcd} = \frac{R}{2}(g_{ac}g_{bd} - g_{ad}g_{bc})\) の証明は「一般相対論」編第 13 章の練習問題を参照。)

🔵 カイ: え、2 次元では Einstein 方程式の左辺が常にゼロ? じゃあ 2 次元で重力理論を作ろうとしたらどうなるんですか?

🟡 リナ: 2 次元では Einstein-Hilbert 作用 \(S = \int d^2\sigma\sqrt{-h}\,R\)トポロジカルな量——つまり曲面を連続的に変形しても値が変わらない量——になってしまうの。これは Gauss-Bonnet の定理と呼ばれる結果で、境界のない 2 次元曲面では、Gauss-Bonnet の定理は本来 Euclid 的(符号が \((+,+)\))な計量に対して証明される定理よ。Lorentz 的な世界面計量 \((-,+)\) に適用するには、Wick 回転と呼ばれる操作を使う。目的は「時間方向のマイナス符号をプラスに変えて \((+,+)\) にすること」——そのために時間座標を \(\tau = -i\tau_E\)\(i\) は虚数単位、\(i^2 = -1\))と形式的に置き換えるの。\(\tau_E\) を少しだけ変えたとき \(\tau\) がどれだけ変わるかを見ると、\(-i\) は定数だから \(d\tau = -i\,d\tau_E\) となる(\(y = cx\) なら \(dy = c\,dx\) と同じ要領)。線素の時間部分を計算すると \(-d\tau^2 = -(-i\,d\tau_E)^2\)。ここで \((-i)^2 = (-1)^2 \cdot i^2 = 1 \cdot (-1) = -1\) だから、\(-(-i\,d\tau_E)^2 = -((-1)\,d\tau_E^2) = +d\tau_E^2\) と符号が反転し、計量の符号構造が \((-,+)\) から \((+,+)\) に変わる——狙い通りね(詳細は第 14 章で扱う)。

🔵 カイ: ちょっと待ってください。時間を虚数にするって……そんなことしていいんですか? 物理的に何が起きてるんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。「虚数の時間」に物理的実体があるわけではないの。動機を先に言うと、Gauss-Bonnet の定理——「曲率の積分がトポロジーだけで決まる」という強力な定理——は、計量の符号が \((+,+)\)(Euclid 的)の場合に証明されているの。私たちの世界面計量は \((-,+)\)(Lorentz 的)だから、そのままでは定理が使えない。そこで Wick 回転という数学的なトリックを使って、一時的に符号を \((+,+)\) に変えて定理を適用し、結論だけ持ち帰るの。計算結果(Euler 数が整数になること)は符号に依存しない幾何学的事実だから、この「行って帰ってくる」操作は正当化される。

⚪ メイ: つまり「定理が使える世界に一時的に移動して結果を得る」というテクニックね。

🟡 リナ: そう。具体的には、Wick 回転で得られる Euclid 的計量を \(g_{ab}^{(E)}\) と書く。このとき行列式が正になるので \(\sqrt{-h}\) の代わりに \(\sqrt{g^{(E)}}\) と書ける。この Euclid 的計量 \(g_{ab}^{(E)}\) から計算されるスカラー曲率を \(R^{(E)}\) と書くと、Gauss-Bonnet の定理により

\[ \frac{1}{4\pi}\int d^2\sigma\,\sqrt{g^{(E)}}\,R^{(E)} = \chi \quad (\text{Euler 数}) \]

が成り立つ。これは「曲面全体の曲がり具合を足し合わせると、曲面の形(トポロジー)だけで決まる整数になる」という驚くべき定理よ。Euler 数 \(\chi\) とは曲面の形(トポロジー)だけで決まる整数で、曲面に「取っ手」が何本ついているかで決まる。取っ手のイメージは、コーヒーカップの持ち手を思い浮かべて——球面(風船の表面)に取っ手を 1 本つけるとドーナツ(トーラス)の形になる。取っ手の数を \(\mathfrak{g}\)種数、genus と呼ぶ。計量の行列式 \(g\) と区別するためにドイツ文字(フラクトゥール体)で書く)とすると \(\chi = 2 - 2\mathfrak{g}\)。球面(取っ手なし、\(\mathfrak{g} = 0\))なら \(\chi = 2\)、トーラス(取っ手 1 つ、\(\mathfrak{g} = 1\))なら \(\chi = 0\)、二重ドーナツ(取っ手 2 つ、\(\mathfrak{g} = 2\))なら \(\chi = -2\)

🔵 カイ: へぇ、曲率を全部足し上げると整数になるんだ。曲面の形だけで値が決まるって、曲げ方とか伸ばし方には依存しないってことですよね?

🟡 リナ: その通り。式の前の \(1/(4\pi)\) は、球面(\(\chi = 2\))で左辺がちょうど \(2\) になるように定めた規格化定数よ。直感的には、球面はどこも外向きに曲がっているから曲率の合計は正の値になり、鞍型の面は負の曲率を持つ——これらを全部足し上げると、曲面をどう変形しても(穴を開けたり閉じたりしない限り)合計値が変わらないの。重要なのは、計量をどう変えても \(\chi\) は変わらないということ。思い出してほしいのだけど、運動方程式は「作用を変数で微分してゼロとおく」ことで得られるわね(力学なら \(\delta S/\delta q = 0\))。重力理論では計量 \(h_{ab}\) が変数だから、運動方程式は \(\delta S/\delta h_{ab} = 0\) の形になる。ところが作用の値がトポロジー(\(\chi\))だけで決まって計量の具体的な形に一切依存しないなら、計量をどう変えても作用は変化しない——つまり \(\delta S/\delta h_{ab}\)どんな \(h_{ab}\) に対してもゼロになってしまう。これは「方程式 \(0 = 0\)」と同じで、\(h_{ab}\) に何の制約も課さない。だから素朴な 2 次元重力理論には動力学的自由度がないの。

✅ 理解度チェック: 2次元で Einstein テンソル \(G_{ab} = R_{ab} - \frac{1}{2}g_{ab}R\) が恒等的にゼロになることは、弦理論の世界面計量 \(h_{ab}\) の物理的役割にどのような帰結をもたらすでしょうか?

答え

Einstein テンソルが恒等的にゼロであるため、2次元の Einstein-Hilbert 作用はトポロジカルな量(Euler 数)になり、\(h_{ab}\) の変分から動力学的な運動方程式が出ない。したがって \(h_{ab}\) は物理的な自由度ではなくゲージ自由度(記述の冗長性)にすぎず、Weyl 変換と座標変換で完全に除去できる。

🔵 カイ: Euler 数って、ドーナツの穴の数で決まるってことですか? 穴が増えるほど Euler 数が下がる?

🟡 リナ: 「穴」というより「取っ手」と言った方が正確ね。さっき説明した通り、取っ手の数 \(\mathfrak{g}\) が増えるほど \(\chi = 2 - 2\mathfrak{g}\) で Euler 数が下がる。弦理論では、弦の相互作用を「世界面のトポロジーが変わる」と捉えるから、この Euler 数が摂動展開のパラメータになるの——第 14 章以降で出てくるわ。

🔵 カイ: 「トポロジーが変わる」って、弦が分裂したり合体したりすると世界面に取っ手が増えるってことですか?

🟡 リナ: そう。弦が 1 本から 2 本に分裂する過程を世界面で見ると、ズボンの形——「パンツ図」と呼ばれるの——になる。ループ補正が入ると取っ手が増えて \(\mathfrak{g}\) が上がる。\(\mathfrak{g}\) が大きいほど寄与が小さくなるから、Euler 数が摂動展開の次数を制御するの。詳しくは第 14 章でね。

⚪ メイ: 整理すると、2 次元の Einstein-Hilbert 作用は Euler 数 \(\chi = 2 - 2\mathfrak{g}\) というトポロジカルな量を与えるだけで、計量 \(h_{ab}\) の形を制約する運動方程式を生まない——だから \(h_{ab}\) は動力学的自由度ではない、ということね。

🔵 カイ: でもちょっと待ってください。\(h_{ab}\) が動力学的自由度じゃないなら、Polyakov 作用に入っているのはなぜなんですか? 作用に入っているのに物理的に意味がないって矛盾してませんか?

🟡 リナ: そう。Polyakov 作用の中で \(h_{ab}\) は動力学的な変数のように見えるけれど、実はゲージ自由度——つまり記述の冗長性にすぎないの。Weyl 変換と微分同相変換で全ての情報を除去できるから、物理的な自由度は \(X^\mu\)(弦の時空中の位置)だけ。

共形変換の無限次元対称性

🟡 リナ: 共形ゲージに固定したあとも、ゲージ自由度が完全には消えない。残る対称性が共形変換よ。

🔵 カイ: さっき「\(3 - 2 - 1 = 0\) で完全に固定できる」って言いましたよね? なのにまだ対称性が残るってどういうことですか?

🟡 リナ: いい質問。さっきの議論は「局所的に」計量を \(\eta_{ab}\) にできるという話だった。でも座標変換の中には、\(\eta_{ab}\) の形を保ったまま座標を変える変換——つまり \(h_{ab} = \eta_{ab}\) という条件を壊さない座標変換——が存在するの。これが「残余ゲージ対称性」と呼ばれるもの。具体的に見てみましょう。 波動方程式 \((\partial_\tau^2 - \partial_\sigma^2)X = 0\) を解くために、変数 \(\sigma^+ = \tau + \sigma\), \(\sigma^- = \tau - \sigma\) を導入する(Appendix A.3 で導入済み)。ここでは後の議論で使うので因数分解を手短に復習しておこう。\(\sigma^+ = \tau + \sigma\), \(\sigma^- = \tau - \sigma\) とおけば、連鎖律から \(\partial_\tau f = \frac{\partial f}{\partial \sigma^+}\frac{\partial \sigma^+}{\partial \tau} + \frac{\partial f}{\partial \sigma^-}\frac{\partial \sigma^-}{\partial \tau} = \partial_+ f \cdot 1 + \partial_- f \cdot 1\) なので \(\partial_\tau = \partial_+ + \partial_-\)。同様に \(\frac{\partial \sigma^+}{\partial \sigma} = 1\), \(\frac{\partial \sigma^-}{\partial \sigma} = -1\) から \(\partial_\sigma = \partial_+ - \partial_-\)。よって \(\partial_\tau^2 - \partial_\sigma^2 = (\partial_+ + \partial_-)^2 - (\partial_+ - \partial_-)^2\) と書ける。展開すると \((\partial_+ + \partial_-)^2 = \partial_+^2 + 2\partial_+\partial_- + \partial_-^2\)\((\partial_+ - \partial_-)^2 = \partial_+^2 - 2\partial_+\partial_- + \partial_-^2\) だから、差を取ると \(\partial_+^2\)\(\partial_-^2\) が打ち消し合い \(4\partial_+\partial_-\) が残る。波動方程式は \(4\partial_+\partial_- X = 0\) となり、\(4 \neq 0\) で割れるから \(\partial_+\partial_- X = 0\) が得られる。

⚪ メイ: 2 階偏微分方程式が \(\partial_+\partial_- X = 0\) と因数分解されて、解が \(X = f(\sigma^+) + g(\sigma^-)\) という左右独立の波の重ね合わせになるのね。

🟡 リナ: その通り。こうした「波動方程式が最も簡単な形に因数分解される変数の組」を特性座標 (characteristic coordinates) と呼ぶの(偏微分方程式論の用語で、「特性」とは波が伝わる特定の方向を指す——波動方程式の解が \(\sigma^+\) 方向と \(\sigma^-\) 方向に独立に伝播することに対応しているわ)。弦理論ではこれに世界面光円錐座標という名前をつける(まとめると \(\sigma^\pm = \tau \pm \sigma\))。第 5 章で導入した時空の光円錐座標 \(x^\pm = (t \pm x)/\sqrt{2}\) と同じ発想を世界面に適用したものよ。ただし注意してほしいのは、時空の光円錐座標は \(D\) 次元時空の中の座標で添字が \(\mu\) で走るのに対し、世界面光円錐座標は 2 次元世界面の中の座標で添字が \(a\) で走る——住んでいる空間が違うの。

この座標で書くと、共形ゲージの線素は \(ds^2 = -d\sigma^+ d\sigma^-\) という形になる。確認してみましょう。共形ゲージでは \(h_{ab} = \eta_{ab} = \mathrm{diag}(-1, +1)\) だから、線素は \(ds^2 = h_{ab}\,d\sigma^a d\sigma^b = -d\tau^2 + d\sigma^2\)。一方、\(d\sigma^+ = d\tau + d\sigma\), \(d\sigma^- = d\tau - d\sigma\) だから、\(d\sigma^+ d\sigma^- = (d\tau + d\sigma)(d\tau - d\sigma) = d\tau^2 - d\sigma^2\)。よって \(-d\sigma^+ d\sigma^- = -d\tau^2 + d\sigma^2 = ds^2\)。(なお、計量テンソルの成分としては \(h_{+-} = h_{-+} = -\frac{1}{2}\) となる。これは \(ds^2 = h_{ab}\,d\sigma^a d\sigma^b\) の二重和で \(a, b\) がそれぞれ \(+, -\) の値を取るため、\((a,b) = (+,-)\) の項と \((a,b) = (-,+)\) の項の両方が寄与するからよ。微小量の積は順序によらず \(d\sigma^+ d\sigma^- = d\sigma^- d\sigma^+\) だから、2 つの項をまとめると \(ds^2 = (h_{+-} + h_{-+})\,d\sigma^+ d\sigma^- = 2h_{+-}\,d\sigma^+ d\sigma^-\)(最後の等号で \(h_{+-} = h_{-+}\)(計量の対称性)を使った)。\(ds^2 = -d\sigma^+ d\sigma^-\) と一致するには \(2h_{+-} = -1\)、すなわち \(h_{+-} = -\frac{1}{2}\) が必要ね。)ここで重要なのは、\(\sigma^+ \to f(\sigma^+)\), \(\sigma^- \to g(\sigma^-)\) と独立に座標を取り替えたとき、新しい座標での微小変化は \(d\tilde\sigma^+ = f'(\sigma^+)\,d\sigma^+\), \(d\tilde\sigma^- = g'(\sigma^-)\,d\sigma^-\) となる(合成関数の微分)。新座標 \(\tilde\sigma^\pm = (f(\sigma^+), g(\sigma^-))\) での計量は \(ds^2 = -d\tilde\sigma^+ d\tilde\sigma^-\) と同じ形を保つ——新座標から見れば何も変わっていない。

🔵 カイ: 新座標で見れば同じ形……でも旧座標で見たら何が起きてるんですか?

🟡 リナ: こう考えてみて。まず大事な区別を確認しておくわ。座標変換は同じ幾何学的対象を別の座標で記述し直すだけだから、線素 \(ds^2\) の値自体は変わらない——成分の数値は変わるけど、物理的な「距離」は同じ。一方 Weyl 変換は計量そのものをスケーリングする操作で、線素の値が変わる。この 2 つは本来別物なの。

🔵 カイ: 座標変換は「地図の描き方を変える」だけで地形は同じ、Weyl 変換は「地形そのものを膨らませたり縮めたりする」ってイメージですか?

🟡 リナ: いい喩えね。その通り。さて、ここでの問いは「共形ゲージの形 \(h_{ab} = \eta_{ab}\) を保つ変換は何か?」ということ。もとの座標 \(\sigma^\pm\) で計量成分は \(h_{+-} = -1/2\) だった。新座標 \(\tilde\sigma^\pm\) に移ると、新座標でも \(\tilde h_{+-} = -1/2\) になる(新座標の人から見れば共形ゲージのまま)。しかし旧座標 \(\sigma^\pm\) を使い続ける立場で新座標の線素を旧座標の微分で表すと、\(d\tilde\sigma^+ = f'(\sigma^+)\,d\sigma^+\), \(d\tilde\sigma^- = g'(\sigma^-)\,d\sigma^-\) だから、\(ds^2 = -d\tilde\sigma^+ d\tilde\sigma^- = -f'(\sigma^+)\,g'(\sigma^-)\,d\sigma^+ d\sigma^-\) と書ける。これを旧座標 \(\sigma^\pm\) での計量成分として読むと \(h_{+-}^{\text{new}} = -f'g'/2\) となり、もとの \(h_{+-} = -1/2\) からずれる(ここでの \(h_{+-}^{\text{new}}\) は座標変換で引き戻した計量の成分)。つまり旧座標の人から見ると「計量の成分が変わった」ように見えるの。しかし \(f'g'\) 倍されたものを元に戻すには \(1/(f'g')\) 倍すればよいから、Weyl 変換 \(h_{ab} \to e^{2\omega}h_{ab}\)\(e^{2\omega} = 1/(f'g')\) と選べば \(h_{+-} \to e^{2\omega} \cdot (-f'g'/2) = (1/(f'g')) \cdot (-f'g'/2) = -1/2\) となり、旧座標の成分表示でも \(h_{+-} = -1/2\) に戻せる。つまり「座標変換+適切な Weyl 変換」の組み合わせが、共形ゲージの形 \(ds^2 = -d\sigma^+ d\sigma^-\) を旧座標のまま保つ操作になる——これが共形ゲージ固定後に残る対称性よ。

⚪ メイ: つまり新座標の人は「共形ゲージのまま」と思っているけど、旧座標の人から見ると計量の成分が \(f'g'\) 倍されている——ここで Weyl 変換の出番ということね。

🟡 リナ: その通り。座標変換の部分だけ書くと:

\[ \sigma^+ \to f(\sigma^+), \qquad \sigma^- \to g(\sigma^-) \]

\(f, g\) は任意の関数で、それぞれに対して \(e^{2\omega} = 1/(f'g')\) となる Weyl 変換が自動的に付随する。この「座標変換+Weyl 変換」のペアが 2 次元では無限個のパラメータを持つ対称性になる。つまり、\(f\)\(g\) という 2 つの任意関数がパラメータの役割を果たしていて、関数 1 つの中に無限個の自由度(各点での値)が詰まっているから、対称性のパラメータが無限個あるということよ。比較のために言うと、4 次元時空で「角度を保つ変換」(共形変換)を全部集めても、パラメータは合計 15 個しかない有限次元の群になる(平行移動 4 個+Lorentz 変換 6 個+スケーリング 1 個+特殊共形変換 4 個——内訳は今は気にしなくていい)。ポイントは「有限個」ということ。2 次元ではそれが無限次元に拡大する——これが共形場理論の強力さの源泉よ。

⚪ メイ: 無限個のパラメータを持つ対称性……4 次元の 15 次元と比べると桁違いね。それだけ強い制約が理論にかかるということ?

🟡 リナ: そう。実際、無限次元の対称性があると量子場理論が完全に解けることがあるの。これが弦理論の量子化を可能にしている鍵の一つ。第 14 章〜第 15 章で共形場理論と Virasoro 代数を扱うときに、この無限次元対称性が決定的な役割を果たすわ。

✅ 理解度チェック: 2次元の共形対称性が4次元の共形対称性と決定的に異なる点は何でしょうか? また、それが弦理論にとってなぜ重要でしょうか?

答え

4次元の共形群は15次元(有限次元)だが、2次元では光円錐座標 \(\sigma^+, \sigma^-\) をそれぞれ任意関数 \(f(\sigma^+), g(\sigma^-)\) で再パラメータ化できるため、対称性が無限次元に拡大する。この無限次元対称性により理論に非常に強い制約がかかり、量子場理論が完全に解ける場合がある。これが弦理論の量子化を可能にする鍵の一つである。


まとめ:弦理論での道具の使い方

🟡 リナ: この付録で押さえておくべきポイントをまとめる。

表 C.2: 一般相対論の道具と弦理論での役割

トピック 参照先 弦理論での役割
テンソルの基礎 「一般相対論」編 ch04, Appendix B 時空ベクトル \(X^\mu\)、世界面テンソル \(h_{ab}\) の扱い
計量テンソル 「一般相対論」編 ch06, ch07 世界面計量 \(h_{ab}\)、背景時空計量 \(g_{\mu\nu}\) の 2 層構造
共変微分・Christoffel 「一般相対論」編 ch08, ch12 曲がった背景時空を弦が伝播する場合に必要
Riemann・Ricci・Einstein 「一般相対論」編 ch13, ch14 2 次元では Einstein テンソルが恒等的にゼロ
2 次元の特殊性 本付録 C.3, C.4 Weyl 対称性、共形ゲージ、無限次元共形対称性

⚪ メイ: 整理すると、一般相対論の道具を「弦の世界面」に応用するのが本質で、ただし2 次元は特殊——Weyl 変換という追加の対称性があり、Einstein テンソルが恒等的にゼロ。この 2 点が効いているのね。

🟡 リナ: そう。そしてこの 2 点が弦理論の世界面の扱いを大きく簡単にしているの。

🔵 カイ: 2 次元だからこそ計量を完全に消せて、弦の位置 \(X^\mu\) だけが物理になる——「次元が低い」ことが逆に強みになってるんですね。でも逆に言うと、もし 1 次元の弦じゃなくて 2 次元的に広がったシートみたいな物体だったら? その軌跡はもっと次元が高くなりますよね? そしたらこの特殊性は使えなくなるんですか?

🟡 リナ: その通り。そういう 2 次元的に広がった物体を (membrane) と呼ぶの。膜の軌跡——世界体積 (worldvolume) と呼ぶ——は 3 次元以上になる。そこでは Weyl 変換で計量を完全に消去できなくなるから、弦のときのような簡単化ができない。膜理論が弦理論ほど扱いやすくない理由の一つがまさにそこよ。


次章予告

Appendix D では、物理法則の背後に潜む対称性を体系的に扱う「群論」の基礎を紹介する。回転群や Lorentz 群といった連続群から、弦理論で中心的役割を果たすゲージ群まで——対称性がなぜ保存則や粒子の分類を支配するのか、その数学的骨格を組み立てよう。


参考文献

  • 「一般相対論」編 第 4 章・第 6–8 章・第 12–14 章・Appendix B — テンソル、計量、共変微分、曲率テンソル、Einstein 方程式の自己完結的な解説(全 4 編共通のハブ)
  • David Tong, Lectures on String Theory, Ch.2 — Polyakov 作用、世界面計量、共形ゲージ
  • Barton Zwiebach, A First Course in String Theory, Ch.6–13 — 相対論的弦、Nambu-Goto 作用、Polyakov 作用、共形不変性
  • Joseph Polchinski, String Theory Vol. 1, Ch.1–2 — 古典弦理論、世界面の幾何学(発展的)