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第 2 章 電気と磁気は統一できないか? — 電磁気学の誕生


前回までのあらすじ: 第 1 章で、Newton が万有引力という一つのモデルから、惑星の軌道・潮の満ち引き・砲弾の弾道を統一的に説明できることを見た。海王星の発見は、数式による定量的予測の威力を劇的に示した。しかし Newton のモデルには「なぜ引き合うのか」を説明できない、「重力が瞬時に伝わる」という問題が残された。この章では、Newton とは別の領域——電気と磁気——で起きた、もう一つの統一の物語を見ていく。

この章のゴール

  • 「別々の現象に見えるものが、実は一つのモデルで記述できる」という統一の威力を体験する
  • Maxwell が電気と磁気を 4 つの方程式に統一し、その副産物として「光の正体は電磁波である」という予言を導いた物語を追う
  • さらに、電磁ポテンシャルとゲージ変換を学び、統一が新たな謎——光速の不変性——を生むことを確認する

2.1 動機:電気と磁気は別の現象なのか?

🟡 リナ: 第 1 章では Newton が重力のモデルを作った話をしたわね。今日は別の領域——電気と磁気の話。

🔵 カイ: 電気と磁気って、高校では別々に習いますよね。静電気の Coulomb の法則と、磁石の話と。

🟡 リナ: そう。18 世紀までは、電気と磁気は全く別の現象だと考えられていた。電気は琥珀をこすると起きるもの、磁気は磁鉄鉱が持つ性質。関係があるとは誰も思っていなかった。

🔵 カイ: 電気と磁気に関係があるって、いつ分かったんですか?

🟡 リナ: 1820 年に Ørsted が「電流の近くで方位磁針が動く」ことを発見した。電気が磁気を生むことが分かったの。そしてその逆——磁気が電気を生む——を発見したのが Faraday。1831 年の電磁誘導の発見ね。磁石をコイルの中で動かすと電流が流れる。

⚪ メイ: つまり、電気→磁気と磁気→電気の両方向が実験で確認されたのね。

🔵 カイ: モーターと発電機の原理ですよね。

🟡 リナ: そう。ここまでは実験事実。でも、「なぜ電気が磁気を生み、磁気が電気を生むのか」を一つのモデルで統一的に説明したのが Maxwell なの。

⚪ メイ: 第 1 章で Newton が「リンゴの落下」と「月の公転」を統一したのと同じ構造ね。

🔵 カイ: Newton のときは海王星が予言されましたよね。Maxwell の統一からも何か予言が出てくるんですか?

🟡 リナ: まさにそれを今から見ていくわ。Maxwell の統一は、Newton の統一と同じくらい——いや、ある意味ではそれ以上に——衝撃的な予言を生むことになる。この流れを年表にまとめたから見て(図 2.1「電磁気学の統一に至る歴史」)。

電磁気学の統一に至る歴史

図 2.1: 電磁気学の統一に至る歴史。Coulomb の静電気の法則(1785)から Hertz による電磁波の実験確認(1888)まで、実験事実の蓄積と Maxwell による理論的統一、そして予言の実証に至る流れ。

✅ 理解度チェック: 1820 年に Ørsted が発見した現象は何でしょうか?

答え

電流の近くで方位磁針が動くこと(電気が磁気を生むこと)。

✅ 理解度チェック: Faraday が 1831 年に発見した「電磁誘導」とはどのような現象でしょうか?

答え

磁石をコイルの中で動かすと電流が流れる現象。磁気が電気を生むこと。


2.2 Faraday の「場」というアイデア

🟡 リナ: Maxwell の仕事を理解するには、まず Faraday のアイデアを知っておく必要がある。

🔵 カイ: Faraday って、どんな人なんですか?

🟡 リナ: 正規の大学教育を受けていない、製本屋の見習いから独学で科学者になった人物よ。でも、実験の天才だった。そして、物理学の歴史を変える概念を生み出した。場(field)という考え方。

🔵 カイ: 場? 第 1 章で重力ポテンシャルのところに出てきましたよね。

🟡 リナ: そう。Newton の重力では「離れた物体が直接引っ張り合う」と考える——遠隔作用(action at a distance)ね。でも Faraday は違う見方をした。「空間そのものに力の場が広がっていて、物体はその場を通じて力を受ける」と。これを近接作用(local action)と呼ぶ。

🔵 カイ: 磁石の周りに鉄粉を撒くと模様ができる実験、高校でやりましたよね。あれが「場」ってことですか?

🟡 リナ: そう、まさにそれが Faraday の「場」の直感的なイメージよ。Faraday は数式を書けなかったけど、「場」という概念を導入した。そして、その概念を数式で定式化したのが Maxwell。この二人のリレーは、物理学史の中でも最も美しいものの一つよ。遠隔作用と近接作用の違いを図にまとめたから見てみて(図 2.2「遠隔作用と近接作用の比較」)。

遠隔作用と近接作用の比較

図 2.2: 遠隔作用と近接作用の比較。Newton の遠隔作用(左)では物体が直接引き合う。Faraday の近接作用(右)では空間に場が広がり、物体は場を通じて力を受ける。

🔵 カイ: 第 1 章の重力ポテンシャル \(\Phi(\mathbf{r})\) も「場」の一種だったんですね。

🟡 リナ: そう。重力ポテンシャルは各点に一つの数値を割り当てるスカラー場だった。電磁気学では、各点にベクトルを割り当てる場が登場する。次のセクションで整理しましょう。

✅ 理解度チェック: Faraday が導入した「場(field)」とはどのような考え方でしょうか?

答え

空間そのものに力の場が広がっていて、物体はその場を通じて力を受けるという考え方(近接作用)。

✅ 理解度チェック: Faraday の「場」の概念を数式で定式化したのは誰でしょうか?

答え

Maxwell。


2.3 スカラー場とベクトル場

🟡 リナ: Maxwell 方程式に入る前に、一つ大事な区別を説明しておくわね。第 1 章で重力ポテンシャル \(\Phi(x,y,z)\) を導入したでしょう? あれは各点に一つの数値を割り当てる関数——スカラー場だった。

🔵 カイ: 温度の分布図みたいなものでしたよね。

🟡 リナ: そう。でも電場 \(\mathbf{E}\) は違う。各点に向きと大きさを持つ矢印(ベクトル)を割り当てる——ベクトル場なの。磁場 \(\mathbf{B}\) も同じ。

🔵 カイ: ベクトルは高校で習いました。力とか速度とか。でも、電場って目に見えないのに「向き」があるって、どうやって確かめるんですか?

🟡 リナ: いい質問。小さな正の試験電荷をその点に置いたとき、電荷が受ける力の向きと大きさ——それが電場の向きと大きさよ。電場 \(\mathbf{E}\) は 3 つの成分 \((E_x, E_y, E_z)\) を持つベクトル。この本では、ベクトルを太字\(\mathbf{E}\))で表すわ。スカラー(普通の数値)は普通の字体(\(\Phi\))。

⚪ メイ: まとめると:

種類 各点に割り当てるもの
スカラー場 数値 1 つ 温度 \(T(\mathbf{r})\)、重力ポテンシャル \(\Phi(\mathbf{r})\)
ベクトル場 ベクトル(向き+大きさ) 電場 \(\mathbf{E}(\mathbf{r})\)、磁場 \(\mathbf{B}(\mathbf{r})\)

表 2.1: スカラー場とベクトル場の比較

🔵 カイ: 重力ポテンシャルはスカラー場で、電場と磁場はベクトル場——成分の数が違うんですね。

スカラー場とベクトル場の可視化

図 2.3: スカラー場とベクトル場の可視化。左:スカラー場(各点に数値を割り当て、等高線で表示)。右:ベクトル場(各点に矢印を割り当て)。

🟡 リナ: 図 2.3「スカラー場とベクトル場の可視化」 を見ると、スカラー場は等高線で、ベクトル場は矢印で表現されているのが分かるわね。これから使う微分演算子——\(\nabla\)(ナブラ)、\(\nabla \cdot\)(発散)、\(\nabla \times\)(回転)——の定義は Appendix A にまとめてあるから、必要に応じて参照してね。\(\nabla\) は「空間的な変化の方向と大きさ」を表すベクトル演算子で、3 次元では \(\nabla = \left(\frac{\partial}{\partial x}, \frac{\partial}{\partial y}, \frac{\partial}{\partial z}\right)\) と書ける。これを使った物理的意味だけ簡単に言っておくと(図 2.4「発散と回転の直感的イメージ」 も参照):

  • \(\nabla \cdot \mathbf{F}\)(発散):ベクトル場 \(\mathbf{F}\) がその点から「湧き出している」度合い
  • \(\nabla \times \mathbf{F}\)(回転):ベクトル場 \(\mathbf{F}\) がその点の周りで「渦を巻いている」度合い
  • \(\nabla^2 f\)(ラプラシアン):スカラー場 \(f\) の「ある点の値が周囲の平均からどれだけずれているか」を表す量(2.5「光の正体 — Maxwell 方程式からの予言」の波動方程式で中心的な役割を果たす)。具体的には \(\nabla^2 f = \frac{\partial^2 f}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 f}{\partial z^2}\)。ベクトル場 \(\mathbf{F}\) に対しては、各成分 \(F_x, F_y, F_z\) はそれぞれ独立なスカラー場だから、各成分にそれぞれ \(\nabla^2\) を適用したもの \(\nabla^2 \mathbf{F} = (\nabla^2 F_x,\; \nabla^2 F_y,\; \nabla^2 F_z)\) として定義する(つまり「各方向の電場が空間的にどう曲がっているか」を方向ごとに調べる操作)

🔵 カイ: 「湧き出し」「渦」「周囲との平均のずれ」——全部空間の中での変化を表す道具なんですね。

発散と回転の直感的イメージ

図 2.4: 発散と回転の直感的イメージ。左:発散(div)が正の点では場が湧き出す。右:回転(rot)がゼロでない点では場が渦を巻く。

✅ 理解度チェック: スカラー場とベクトル場の違いは何でしょうか?

答え

スカラー場は各点に一つの数値を割り当てる関数(例:重力ポテンシャル \(\Phi\))。ベクトル場は各点に向きと大きさを持つベクトルを割り当てる関数(例:電場 \(\mathbf{E}\))。


2.4 Maxwell 方程式 — 電気と磁気の統一

🟡 リナ: Maxwell は 1860 年代に、電気と磁気に関する全ての実験事実を4 つの方程式にまとめた。

🔵 カイ: たった 4 つ?

🟡 リナ: たった 4 つ。一つずつ、式と意味をセットで見ていきましょう。

第 1 式:Gauss の法則

\[\nabla \cdot \mathbf{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}\]

🟡 リナ: \(\rho\)(ロー)は電荷密度——空間の各点にどれだけ電荷があるか。\(\varepsilon_0\)(イプシロン・ゼロ)は真空の誘電率——電気に関する真空の性質を表す定数。\(\nabla \cdot\)(ナブラ・ドット)は「発散」(Appendix A 参照)——ベクトル場がその点から湧き出しているかどうかを表す。

🟡 リナ: つまりこの式は、電荷 \(\rho\) があるところから電場の線(電気力線)が湧き出すことを言っている。正の電荷からは外向きに、負の電荷には内向きに。

✅ 理解度チェック: Maxwell 方程式の第 1 式(Gauss の法則)\(\nabla \cdot \mathbf{E} = \rho/\varepsilon_0\) は物理的に何を意味するか?

答え

電荷があるところから電場の線が湧き出すことを意味する。正の電荷からは外向きに、負の電荷には内向きに電場の線が出る。

第 2 式:磁気の Gauss の法則

\[\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\]

🟡 リナ: \(\mathbf{B}\)磁場(磁束密度)。こちらもベクトル場。右辺がゼロということは、磁場の線には「湧き出し」がない。つまり、磁気の N 極だけ、S 極だけという「磁気単極子」は存在しない。磁力線は必ずループを描く。

🔵 カイ: 磁石を割っても必ず N 極と S 極がセットで出てくるのって、この式が言っていることなんですね。

🟡 リナ: そう。どんなに小さく割っても単極にはならない——それがこの式の物理的内容よ。

第 3 式:Faraday の法則

\[\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\]

🟡 リナ: \(\nabla \times\)(ナブラ・クロス)は「回転(rot)」(Appendix A 参照)——ベクトル場がその点の周りで渦を巻いているかどうかを表す。右辺の \(\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\) は「位置を固定して、その点の磁場が時間とともにどう変化するか」を表す——各成分 \(B_x, B_y, B_z\) をそれぞれ時間で微分したベクトルよ。

🟡 リナ: つまり、磁場 \(\mathbf{B}\) が時間変化すると、電場 \(\mathbf{E}\) の渦が生まれる。これが電磁誘導——Faraday が発見した現象の数式表現。

✅ 理解度チェック: Maxwell 方程式の第 3 式(Faraday の法則)は、電場の渦がどのような条件で生じることを述べているでしょうか?

答え

磁場 \(\mathbf{B}\) が時間変化するとき、電場 \(\mathbf{E}\) の渦が生じる。これは Faraday が発見した電磁誘導の数式表現である。

第 4 式:Ampère-Maxwell の法則

\[\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \mathbf{j} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\]

🟡 リナ: \(\mathbf{j}\)(ジェイ)は電流密度——空間の各点でどの方向にどれだけ電流が流れているか(ベクトル場)。\(\mu_0\)(ミュー・ゼロ)は真空の透磁率——磁気に関する真空の性質を表す定数。

🟡 リナ: 電流 \(\mathbf{j}\) が流れると磁場の渦が生まれる(Ampère の法則)。そして——ここが Maxwell の天才的な貢献なんだけど——電場が時間変化しても磁場の渦が生まれる

🟡 リナ: この最後の項 \(\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\) こそが、Maxwell が追加した部分なの。

🔵 カイ: 実験で見つけたんじゃなくて、数式の辻褄を合わせるために追加した?

🟡 リナ: そう。具体的になぜ辻褄が合わないのかを見せてあげる。これが「変位電流」の導出よ。でもその前に、4 つの式を一覧にまとめておきましょう。全体像を見てから、第 4 式の修正がなぜ必要かを確認するわ。

表 2.2: Maxwell 方程式の 4 式とその物理的意味

数式 物理的意味
第 1 式(Gauss) \(\nabla \cdot \mathbf{E} = \rho/\varepsilon_0\) 電荷から電場が湧き出す
第 2 式(磁気 Gauss) \(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\) 磁気単極子は存在しない
第 3 式(Faraday) \(\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\) 磁場の変化→電場の渦
第 4 式(Ampère-Maxwell) \(\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \mathbf{j} + \mu_0\varepsilon_0\frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\) 電流+電場の変化→磁場の渦

🟡 リナ: ここまでの 4 つの式が表す物理的状況を図で確認しておきましょう(図 2.5「Maxwell方程式の物理的意味」)。

Maxwell方程式の物理的意味

図 2.5: Maxwell方程式の物理的意味。Maxwell 方程式の各式が表す物理的状況の模式図。

変位電流の必要性 — 電荷保存からの導出

🟡 リナ: 電荷保存則——「電荷は生まれも消えもしない」——を数式で書いてみましょう。ある小さな領域を考えて。その領域から電流が流れ出すと、中の電荷が減るわよね?

🔵 カイ: はい。水がバケツから流れ出たら、中の水が減るのと同じですよね。

🟡 リナ: そう。\(\nabla \cdot \mathbf{j}\) は電流密度の発散——ある点から電流がどれだけ「流れ出しているか」を表す。電流が流れ出す(\(\nabla \cdot \mathbf{j} > 0\))ということは、その場所から電荷が去っていくということ。つまり電荷密度 \(\rho\) は時間とともに減る(\(\frac{\partial \rho}{\partial t} < 0\))。

🔵 カイ: 流出量が正なのに、電荷の変化率が負……符号が逆になるんですね。

🟡 リナ: そう。カイが言ったバケツの例で言えば、水の流出量(\(\nabla \cdot \mathbf{j}\))が正のとき、バケツの中の水の量の変化率(\(\frac{\partial \rho}{\partial t}\))は負——つまり符号が逆。だから \(\nabla \cdot \mathbf{j} = -\frac{\partial \rho}{\partial t}\)。これを移項すると連続の方程式

\[\frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla \cdot \mathbf{j} = 0\]

⚪ メイ: つまり「ある領域から電荷が流れ出した分だけ、その領域の電荷が減る」ということね。

🟡 リナ: そう。では、もし第 4 式が元々の Ampère の法則——つまり \(\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \mathbf{j}\) だけ——だったとしたら、何が起きるか見てみましょう。両辺の発散 \(\nabla \cdot\) を取ると:

\[\nabla \cdot (\nabla \times \mathbf{B}) = \mu_0 \nabla \cdot \mathbf{j}\]

🟡 リナ: 左辺は、ベクトル解析の恒等式(Appendix A 参照)から常にゼロ

\[\nabla \cdot (\nabla \times \mathbf{B}) = 0 \quad \text{(任意のベクトル場で成立)}\]

したがって:

\[0 = \mu_0 \nabla \cdot \mathbf{j}\]
\[\nabla \cdot \mathbf{j} = 0\]

🔵 カイ: あれ? これだと「電流の発散がゼロ」——つまり「電荷が溜まったり減ったりしない」ことになりますよね。

🟡 リナ: その通り。でも連続の方程式は \(\nabla \cdot \mathbf{j} = -\frac{\partial \rho}{\partial t}\) と言っている。電荷が時間変化する状況(例えばコンデンサーの充電中)では \(\frac{\partial \rho}{\partial t} \neq 0\) だから、\(\nabla \cdot \mathbf{j} \neq 0\)矛盾する

⚪ メイ: つまり、元の Ampère の法則だけでは電荷保存と整合しないのね。

🟡 リナ: そこで Maxwell は、第 4 式に項を追加して整合性を回復した。第 1 式 \(\nabla \cdot \mathbf{E} = \rho/\varepsilon_0\) の両辺を時間微分すると:

\[\nabla \cdot \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} = \frac{1}{\varepsilon_0}\frac{\partial \rho}{\partial t}\]

連続の方程式 \(\frac{\partial \rho}{\partial t} = -\nabla \cdot \mathbf{j}\) を代入すると:

\[\nabla \cdot \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} = -\frac{1}{\varepsilon_0}\nabla \cdot \mathbf{j}\]

整理すると:

\[\nabla \cdot \left(\mathbf{j} + \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\right) = 0\]

🔵 カイ: おお、\(\mathbf{j}\) だけだと発散がゼロにならないけど、電場の時間変化を足すとゼロになるんですね!

🟡 リナ: そう。つまり、\(\mathbf{j}\) 単独では発散がゼロにならないけど、\(\mathbf{j} + \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\) なら発散がゼロになる。だから Ampère の法則を:

\[\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \left(\mathbf{j} + \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\right)\]

と修正すれば、\(\nabla \cdot (\nabla \times \mathbf{B}) = 0\) と矛盾しなくなる。

⚪ メイ: 数学的整合性だけから、追加すべき項の形が一意に決まるのね。

🟡 リナ: そう。この追加項 \(\varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\)変位電流(displacement current)と呼ぶ。Maxwell はこの項を「実験で発見した」のではなく、電荷保存という原理から論理的に導いたの。コンデンサの充電回路で、変位電流がなぜ必要かを図にしたから見て(図 2.6「変位電流の概念図」)。

変位電流の概念図

図 2.6: 変位電流の概念図。コンデンサの充電中、極板間に電流は流れないが電場が時間変化する。元の Ampère の法則ではどの面を選ぶかで結果が変わってしまう(左)。変位電流 \(\varepsilon_0 \partial_t E\) を追加すれば矛盾が解消する(右)。

🟡 リナ: そしてこの小さな修正が、とんでもない予言を生むことになる。

✅ 理解度チェック: Maxwell 方程式の第 2 式 \(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\) は物理的に何を意味するでしょうか?

答え

磁場の線には湧き出しがなく、磁気単極子(N 極だけ・S 極だけ)は存在しないことを意味する。

✅ 理解度チェック: 第 4 式(Ampère-Maxwell の法則)で Maxwell が追加した項 \(\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\) は、何に基づいて導入されたでしょうか?

答え

電荷保存則(連続の方程式)との数学的整合性の要請から導入された。元の Ampère の法則だけでは電荷保存と矛盾するため。


2.5 光の正体 — Maxwell 方程式からの予言

🟡 リナ: Maxwell 方程式の第 3 式と第 4 式を組み合わせると、こういうことが分かる。電場の変化が磁場を生み、その磁場の変化がまた電場を生み……という連鎖が起きて、電磁場の波が空間を伝わっていく。

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flowchart LR
    E1["電場 E の変化"] -->|"第4式:磁場の渦を生む"| B1["磁場 B の変化"]
    B1 -->|"第3式:電場の渦を生む"| E2["電場 E の変化"]
    E2 -->|"第4式"| B2["磁場 B の変化"]
    B2 -->|"第3式"| E3["…"]

図 2.7: 電場と磁場の相互誘導による電磁波の伝播

🔵 カイ: 波? 水面の波みたいなものですか?

🟡 リナ: 似ているけど、水面の波は水という媒質が振動する。電磁波は媒質なしで、電場と磁場が互いを生み出しながら伝わる。具体的に導出してみましょう。

波動方程式の導出

🟡 リナ: 真空中(電荷も電流もない:\(\rho = 0\), \(\mathbf{j} = \mathbf{0}\))の Maxwell 方程式を書き出すと:

\[\nabla \cdot \mathbf{E} = 0 \tag{I}\]
\[\nabla \cdot \mathbf{B} = 0 \tag{II}\]
\[\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t} \tag{III}\]
\[\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} \tag{IV}\]

🟡 リナ: 電場 \(\mathbf{E}\) だけの方程式を作りたい。第 3 式 (III) には \(\mathbf{B}\) が含まれているけど、第 4 式 (IV) は \(\nabla \times \mathbf{B}\)\(\mathbf{E}\) の時間微分で表している。だから、第 3 式の両辺にもう一度 \(\nabla \times\) を作用させれば、左辺に \(\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E})\) が出て、右辺に \(\nabla \times \mathbf{B}\) が現れる——そこに第 4 式を代入すれば \(\mathbf{B}\) が消えるはず。やってみましょう:

\[\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E}) = \nabla \times \left(-\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\right)\]

🔵 カイ: \(\nabla \times\) をもう一回かけて \(\mathbf{B}\) を消すんですね。代入のための「足場」を作る感じだ。

🟡 リナ: そう。右辺で、\(\nabla \times\)\(\partial/\partial t\) の順序を交換する。\(\nabla \times\) は空間座標 \((x,y,z)\) に関する微分、\(\partial/\partial t\) は時間に関する微分で、互いに別の変数についての微分だから順序を入れ替えても結果は変わらない(\(\frac{\partial}{\partial t}\frac{\partial f}{\partial x} = \frac{\partial}{\partial x}\frac{\partial f}{\partial t}\) が成り立つ):

\[\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E}) = -\frac{\partial}{\partial t}(\nabla \times \mathbf{B})\]

🟡 リナ: 右辺の \(\nabla \times \mathbf{B}\) に第 4 式 (IV) を代入する:

\[\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E}) = -\frac{\partial}{\partial t}\left(\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\right)\]

整理すると:

\[\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E}) = -\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \mathbf{E}}{\partial t^2}\]

🔵 カイ: 左辺の \(\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E})\) って、回転の回転ですよね。これってどう計算するんですか?

🟡 リナ: いい質問。ベクトル解析の恒等式(Appendix A で証明してある)を使う:

\[\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E}) = \nabla(\nabla \cdot \mathbf{E}) - \nabla^2 \mathbf{E}\]

🔵 カイ: うーん、左辺は「渦の渦」ですよね。右辺の 2 つの項はそれぞれ何を意味するんですか?

🟡 リナ: 右辺の第 1 項 \(\nabla(\nabla \cdot \mathbf{E})\) は「電場の湧き出しの強さが場所によってどう変わるか」を表す量、第 2 項 \(\nabla^2 \mathbf{E}\) は「電場の各成分が空間的にどう曲がっているか」を表すラプラシアンね。でも今の導出で大事なのは、この恒等式の物理的意味を深く理解することではなく、真空中では第 1 項がまるごと消えるという事実なの。なぜなら、真空中では第 1 式 (I) から \(\nabla \cdot \mathbf{E} = 0\)(電荷がないから湧き出しがない)だから、\(\nabla(\nabla \cdot \mathbf{E}) = \nabla(0) = \mathbf{0}\) で第 1 項が消えるの。恒等式自体の証明は成分を書き下して確認できる(Appendix A 参照)けど、今は「こういう分解ができる」という結果だけ使うわ:

\[\nabla \times (\nabla \times \mathbf{E}) = -\nabla^2 \mathbf{E}\]

⚪ メイ: 真空という条件が効いて、きれいに簡単になるのね。

🟡 リナ: これを代入すると:

\[-\nabla^2 \mathbf{E} = -\mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \mathbf{E}}{\partial t^2}\]

両辺に \(-1\) をかけて:

\[\boxed{\nabla^2 \mathbf{E} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \mathbf{E}}{\partial t^2}}\]

🟡 リナ: ここで \(\nabla^2 \mathbf{E}\) は、2.3「スカラー場とベクトル場」で説明した「ベクトル場のラプラシアン」——各成分 \(E_x, E_y, E_z\) にそれぞれスカラーのラプラシアン \(\nabla^2\) を適用したもの、つまり \((\nabla^2 E_x,\; \nabla^2 E_y,\; \nabla^2 E_z)\) よ。

⚪ メイ: \(\mathbf{B}\) が完全に消えて、\(\mathbf{E}\) だけの方程式になったわね。

🔵 カイ: 左辺が空間の 2 階微分で、右辺が時間の 2 階微分……。でも、これが「波」と何の関係があるんですか?

🟡 リナ: いい質問。左辺の \(\nabla^2\)ラプラシアンと呼ばれる演算子で、空間に関する 2 階微分の和よ。具体的には:

\[\nabla^2 = \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}\]

直感的には、「ある点の値が周囲の平均からどれだけずれているか」を表す。電場で言えば、「電場が空間的にどう曲がっているか」ということね(詳しくは Appendix A 参照)。右辺の \(\partial^2/\partial t^2\)時間に関する 2 階微分——「電場が時間的にどう加速しているか」を表す。

🔵 カイ: これは電場の波動方程式ですよね。磁場はどうなるんですか?

🟡 リナ: いい質問。同じ手順を磁場 \(\mathbf{B}\) に対してもやれば、同じ形の波動方程式が出る。第 4 式 (IV) に \(\nabla \times\) を作用させて同じ計算をすると:

\[\nabla^2 \mathbf{B} = \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial^2 \mathbf{B}}{\partial t^2}\]

電場も磁場も、同じ形の波動方程式を満たす。

🔵 カイ: 同じ形の式になるんですね。じゃあ、電場の波と磁場の波は、別々に伝わるんですか? それとも一緒に?

🟡 リナ: 一緒よ。第 3 式と第 4 式で互いに結びついているから、電場だけの波や磁場だけの波は存在しない。常にセットで伝わる——だから「電磁波」と呼ぶの。

⚪ メイ: なるほど。第 3 式が「磁場の変化→電場の渦」、第 4 式が「電場の変化→磁場の渦」だから、どちらか一方だけでは成り立たないのね。

🔵 カイ: でも、水面の波なら水が上下に動いているのが見えますよね。電磁波って、何も「揺れている物質」がないのに波が伝わるんですか? それってすごく不思議じゃないですか?

🟡 リナ: まさにそこが 19 世紀の物理学者たちも悩んだ点なの。「光を伝える媒質(エーテル)があるはずだ」と考えた人が多かった。でもエーテルは見つからなかった——この話は 第 5 章 で詳しく扱うわ。

🔵 カイ: 当時の人たちも同じ疑問を持ったんですね。じゃあ今は「場そのものが振動する」と考えるってことですか?

🟡 リナ: そう。電場と磁場という「場」が実体として空間に存在し、それ自体が振動して伝わる——Faraday の「場」の概念がここで効いてくるの。

波動方程式と波の速さ

🟡 リナ: さっき導いた式を、もっと一般的な波の方程式と見比べてみましょう。物理で「波」が伝わるとき、その方程式は次の形になる:

\[\nabla^2 f = \frac{1}{v^2}\frac{\partial^2 f}{\partial t^2}\]

ここで \(v\) は波の伝播速度。

🔵 カイ: なんでこの形が「波」なんですか? 見た目だけだと分からないんですけど……。

🟡 リナ: いい質問。まず 1 次元の場合で具体的に見せるわね:

\[\frac{\partial^2 f}{\partial x^2} = \frac{1}{v^2}\frac{\partial^2 f}{\partial t^2}\]

任意の形の関数 \(g\) に対して、\(f(x,t) = g(x - vt)\) はこの方程式の解になる。確認してみましょう。\(u = x - vt\) と置くと、\(x\) で微分するとき \(\frac{\partial u}{\partial x} = 1\) だから \(\frac{\partial f}{\partial x} = g'(u)\)、もう一度微分して \(\frac{\partial^2 f}{\partial x^2} = g''(u)\)。一方、\(t\) で微分するとき \(\frac{\partial u}{\partial t} = -v\) だから \(\frac{\partial f}{\partial t} = -v\,g'(u)\)、もう一度微分して \(\frac{\partial^2 f}{\partial t^2} = v^2 g''(u)\)。したがって \(g''(u) = \frac{1}{v^2} \cdot v^2 g''(u)\) で確かに成り立つ。これは「形 \(g\) がそのまま速さ \(v\) で右に移動していく」ことを表している——だから「波の方程式」なの。

🔵 カイ: なるほど、波形がそのまま横にスライドしていくイメージですね。でも、具体的にどんな形の波が伝わるんですか?

🟡 リナ: 典型的なのは周期的な波ね。\(f(x,t) = f_0 \sin(kx - \omega t)\) という形。\(f_0\)振幅——波の山の高さを表す定数。新しい記号が 2 つ出てくるから、一つずつ説明するわ。

🟡 リナ: まず \(k\)波数)。波長 \(\lambda\)(波の山から次の山までの距離)を使うと \(k = 2\pi/\lambda\)。なぜ \(2\pi\) が入るかというと、\(\sin\) 関数は引数が \(2\pi\) 変わると 1 周期分振動するでしょう? 距離 \(\lambda\) 進んだとき \(kx\) の変化が \(k\lambda = 2\pi\) になるように \(k\) を定義しているの。\(k\) が大きいほど波長が短くて細かい波ということ。

🟡 リナ: 次に \(\omega\)角振動数)。振動数(1 秒あたりの振動回数)を \(\nu\) とすると \(\omega = 2\pi \nu\)。こちらも同じ理由で、1 周期(\(1/\nu\) 秒)経ったとき \(\omega t\) の変化が \(2\pi\) になるように定義している。\(\omega\) が大きいほど速く振動する波ね。

🔵 カイ: つまり \(k\)\(\omega\) は「\(\sin\) の引数に直接入れられる」ように \(2\pi\) を吸収した量ってことですか?

🟡 リナ: そう。なぜ \(\sin\) を試すかというと、さっき \(g(x - vt)\) が一般解だと分かったから、その中で最も基本的な周期的な波——つまり一定の波長で繰り返す波——を選んでいるの。\(\sin\) は「一定の波長で滑らかに繰り返す」最もシンプルな関数でしょう? そして実は、どんな複雑な波形でも \(\sin\) 波の重ね合わせで書けることが数学的に証明されている(Fourier 分解と呼ばれる——詳しくは 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix C 参照)。だから、\(\sin\) 波の性質を調べれば十分なのよ。

⚪ メイ: \(k\) が大きいほど波長が短くて細かい波、\(\omega\) が大きいほど速く振動する波ということね。

🟡 リナ: そう。実際にこの \(f = f_0\sin(kx - \omega t)\) を波動方程式に代入して確認してみましょう。\(x\) で 1 回微分すると \(\frac{\partial f}{\partial x} = k f_0\cos(kx - \omega t)\)、もう 1 回微分すると \(\frac{\partial^2 f}{\partial x^2} = -k^2 f_0\sin(kx - \omega t) = -k^2 f\)。同様に \(t\) で 2 回微分すると \(\frac{\partial^2 f}{\partial t^2} = -\omega^2 f\)

🔵 カイ: 左辺が \(-k^2 f\) で、右辺が \(\frac{1}{v^2}(-\omega^2 f)\) だから……等しくなるには \(k^2 = \omega^2/v^2\)、つまり \(v = \omega/k\) ですね! でも、この \(v\) って \(k\)\(\omega\) の値によって変わったりしないんですか? 波長が短い波も長い波も同じ速さで伝わるってことですか?

🟡 リナ: いい質問。この波動方程式の場合はそう——\(v\) は方程式の中で定数として決まっているから、\(k\)\(\omega\) によらず一定。つまり、どんな波長の波でも同じ速さで伝わる。こういう性質を「分散がない」と言うの(逆に、波長によって速さが変わる場合を「分散がある」と言う——プリズムで白色光が虹色に分かれるのは、ガラスの中で波長ごとに速さが違うから)。電磁波は真空中では分散がなく、どの波長の光も同じ速さ \(c\) で伝わる。直感的には、「空間的な曲がり具合(左辺)が大きいほど、時間的な変化(右辺)も激しい」という関係が波を生むの。詳しくは Appendix A を参照してね。

🟡 リナ: Maxwell の方程式から出てきた波動方程式と比較すると:

\[\frac{1}{v^2} = \mu_0 \varepsilon_0\]

したがって、電磁波の速さ \(c\) は:

\[\boxed{c = \frac{1}{\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}}}\]

🔵 カイ: 波の速さが \(\mu_0\)\(\varepsilon_0\) だけで決まってしまうんですね。

🟡 リナ: 電磁波がどのように伝わるかを 図 2.8「電磁波のEとBの直交振動」 に示したわ。電場と磁場が互いに直交し、進行方向にも直交して振動しながら伝わっていく。

電磁波のEとBの直交振動

図 2.8: 電磁波のEとBの直交振動。電磁波では電場 E と磁場 B が互いに直交し、進行方向にも直交して振動しながら伝わる。

光速の数値計算

🟡 リナ: \(\mu_0\)\(\varepsilon_0\) は電気と磁気の実験から独立に測定できる定数よ。値を代入してみましょう:

\[\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7} \;\text{T·m/A}\]
\[\varepsilon_0 = 8.854 \times 10^{-12} \;\text{C}^2/(\text{N·m}^2)\]

積を計算すると:

\[\mu_0 \varepsilon_0 = (4\pi \times 10^{-7})(8.854 \times 10^{-12})\]
\[= 4\pi \times 8.854 \times 10^{-7} \times 10^{-12} = 4\pi \times 8.854 \times 10^{-19}\]
\[\approx 4 \times 3.14 \times 8.854 \times 10^{-19} = 12.56 \times 8.854 \times 10^{-19} \approx 111.3 \times 10^{-19}\]
\[= 1.113 \times 10^{-17} \;\text{s}^2/\text{m}^2\]

🔵 カイ: 単位が \(\text{s}^2/\text{m}^2\) になるのはどうしてですか?

🟡 リナ: 単位を確認してみましょう。\(\mu_0\) の単位は \(\text{T·m/A}\)。テスラ(T)は磁束密度の単位で、基本単位に分解すると \(\text{T} = \text{kg/(A·s}^2\text{)}\)(これは \(\mathbf{F} = q\mathbf{v} \times \mathbf{B}\) の力の式から導ける)。これを代入すると \(\text{T·m/A} = \frac{\text{kg}}{\text{A·s}^2} \cdot \frac{\text{m}}{\text{A}} = \text{kg·m/(A}^2\text{·s}^2\text{)}\)\(\varepsilon_0\) の単位は \(\text{C}^2/(\text{N·m}^2)\)。ここで \(\text{C} = \text{A·s}\)(クーロン=アンペア×秒)、\(\text{N} = \text{kg·m/s}^2\) だから、\(\text{C}^2/(\text{N·m}^2) = (\text{A·s})^2/(\text{kg·m/s}^2 \cdot \text{m}^2) = \text{A}^2\text{·s}^4/(\text{kg·m}^3)\)。掛け合わせると \(\mu_0\varepsilon_0\) の単位は \(\frac{\text{kg·m}}{\text{A}^2\text{·s}^2} \times \frac{\text{A}^2\text{·s}^4}{\text{kg·m}^3} = \frac{\text{s}^2}{\text{m}^2}\)。つまり \(1/\sqrt{\mu_0\varepsilon_0}\) の単位は \(\text{m/s}\)——速さの単位になるの。単位変換の全ステップは Appendix A に載せてあるから確認してみてね。

🔵 カイ: \(\text{N}\) をキログラムとメートルに分解するところがポイントなんですね。

⚪ メイ: 単位が速さになるのは確認できたわね。あとは数値ね。

平方根の逆数を取ると:

\[c = \frac{1}{\sqrt{1.113 \times 10^{-17}}} \approx \frac{1}{3.34 \times 10^{-9}} \approx 3.0 \times 10^8 \;\text{m/s}\]

🔵 カイ: ……それって光の速さじゃないですか! でも、なんで電気と磁気の定数を組み合わせただけで光の速さが出てくるんですか? 光って電気や磁気と関係あったんですか?

🟡 リナ: そこが衝撃的なところなの。Maxwell 自身もこう書いている。「この速度は光の速度と非常に近いので、光が電磁気的な現象であるという強い理由がある」と。つまり、光は電場と磁場の波——電磁波——だったということ。

⚪ メイ: 電気と磁気を統一したモデルが、光の正体は電磁波であるということを予言したのね。

🔵 カイ: 海王星のときと同じだ……。目的とは別のところから、思いもよらない発見が出てくる。

🟡 リナ: そう。これが「モデルの予言」の威力なの。Maxwell は光を研究していたわけではない。電気と磁気の統一を追求していたら、副産物として光の正体が判明した第 1 章で Newton のモデルから海王星が予言されたのと同じ構造ね。

📝 練習問題:

✅ 理解度チェック: Maxwell 方程式から導かれる電磁波の速さ \(c\)\(\mu_0\)\(\varepsilon_0\) で表す式は何でしょうか?

答え

\(c = \frac{1}{\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}}\)

✅ 理解度チェック: Maxwell のモデルが「光の正体」について予言した内容は何でしょうか?

答え

光の正体は電磁波であるということ。電磁波の速さが光速と一致することから導かれた。


2.6 電磁ポテンシャルとゲージ変換

🟡 リナ: ここで、電場と磁場をポテンシャルで書き直しておきましょう。第 1 章で Newton の重力をポテンシャル \(\Phi\) で書き直したのと同じ発想。電磁場にもポテンシャル \((\Phi, \mathbf{A})\) を導入できる。

ポテンシャルの導入

🔵 カイ: 電場と磁場にもポテンシャルがあるんですか?

🟡 リナ: そう。出発点は Maxwell の第 2 式 \(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\)。これは「磁場に湧き出しがない」ことを言っている。ベクトル解析には次の恒等式がある:

\[\nabla \cdot (\nabla \times \mathbf{A}) = 0 \quad \text{(任意のベクトル場 $\mathbf{A}$ で成立)}\]

🟡 リナ: つまり、\(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\) が成り立つなら、\(\mathbf{B}\) を何かの回転として書ける:

\[\boxed{\mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A}}\]

この \(\mathbf{A}\)ベクトルポテンシャルと呼ぶ。

🔵 カイ: 「湧き出しがない」ということは「何かの回転で書ける」——論理的に導かれるんですね。

🟡 リナ: そう。次に、これを第 3 式 \(\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\) に代入する:

\[\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial}{\partial t}(\nabla \times \mathbf{A}) = -\nabla \times \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}\]

移項すると:

\[\nabla \times \left(\mathbf{E} + \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}\right) = \mathbf{0}\]

🟡 リナ: 「回転がゼロ」のベクトル場は、何かのスカラー場の勾配として書ける(証明は Appendix A 参照):

\[\nabla \times \mathbf{F} = \mathbf{0} \quad \Longrightarrow \quad \mathbf{F} = -\nabla \Phi\]

(マイナスは慣習)。直感的には、「渦を巻いていない流れ」は必ず「高いところから低いところへ下る」ような構造を持つ——つまりポテンシャルの坂を下る方向を向いている、ということ。したがって:

\[\mathbf{E} + \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t} = -\nabla \Phi\]

整理すると:

\[\boxed{\mathbf{E} = -\nabla\Phi - \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}}\]

⚪ メイ: \(\Phi\) はスカラーポテンシャル(第 1 章の重力ポテンシャルと同じ種類)、\(\mathbf{A}\) はベクトルポテンシャルね。

🟡 リナ: そう。まとめると:

\[\mathbf{E} = -\nabla\Phi - \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}, \qquad \mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A}\]

この書き方の利点は、Maxwell の第 2 式 \(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\) と第 3 式 \(\nabla \times \mathbf{E} = -\partial_t \mathbf{B}\)自動的に成り立つこと。4 つの方程式のうち 2 つがタダで手に入る。

🔵 カイ: 4 つのうち 2 つが自動的に! 半分をタダで得られるのは大きいですね。

📝 練習問題:

ゲージ変換 — 物理を変えない「書き換え」

🔵 カイ: ポテンシャルって一意に決まるんですか? 🟡 リナ: 鋭い質問。実は決まらない。次の変換を考えてみて:

\[\Phi \to \Phi' = \Phi - \frac{\partial \Lambda}{\partial t}\]
\[\mathbf{A} \to \mathbf{A}' = \mathbf{A} + \nabla \Lambda\]

ここで \(\Lambda(\mathbf{r}, t)\)任意のスカラー関数。この変換をゲージ変換(gauge transformation)と呼ぶ。

⚪ メイ: 任意の関数で変換しても大丈夫なの?

🟡 リナ: 大丈夫。なぜなら、物理的に観測できるのは \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) であって、\(\Phi\)\(\mathbf{A}\) そのものではないから。実際に確認してみましょう。

🟡 リナ: まず磁場。変換後の \(\mathbf{B}'\) を計算する:

\[\mathbf{B}' = \nabla \times \mathbf{A}' = \nabla \times (\mathbf{A} + \nabla \Lambda)\]
\[= \nabla \times \mathbf{A} + \nabla \times (\nabla \Lambda)\]

🟡 リナ: ベクトル解析の恒等式 \(\nabla \times (\nabla \Lambda) = \mathbf{0}\)(任意のスカラー場の勾配の回転はゼロ)を使うと:

\[\mathbf{B}' = \nabla \times \mathbf{A} = \mathbf{B}\]

磁場は変わらない。✓

🟡 リナ: 次に電場:

\[\mathbf{E}' = -\nabla\Phi' - \frac{\partial \mathbf{A}'}{\partial t}\]
\[= -\nabla\left(\Phi - \frac{\partial \Lambda}{\partial t}\right) - \frac{\partial}{\partial t}(\mathbf{A} + \nabla \Lambda)\]

展開すると:

\[= -\nabla\Phi + \nabla\frac{\partial \Lambda}{\partial t} - \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t} - \frac{\partial}{\partial t}(\nabla \Lambda)\]

🔵 カイ: 第 2 項と第 4 項が、符号は同じで……相殺する?

🟡 リナ: そう。ここで \(\nabla\frac{\partial \Lambda}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial t}(\nabla \Lambda)\)(空間微分と時間微分の順序交換)だから、第 2 項と第 4 項が打ち消し合う:

\[\mathbf{E}' = -\nabla\Phi - \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t} = \mathbf{E}\]

電場も変わらない。✓

🔵 カイ: おお! \(\Lambda\) が何であっても、\(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) は不変なんですね。

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flowchart TD
    A["ポテンシャル (Φ, A)"] -->|"E = -∇Φ - ∂A/∂t"| C["電場 E"]
    A -->|"B = ∇×A"| D["磁場 B"]
    B["ポテンシャル (Φ', A')"] -->|"E = -∇Φ' - ∂A'/∂t"| C
    B -->|"B = ∇×A'"| D
    A <-->|"ゲージ変換\nΦ→Φ−∂ₜΛ\nA→A+∇Λ"| B
    style C fill:#f9f,stroke:#333
    style D fill:#f9f,stroke:#333

図 2.9: ゲージ変換とポテンシャルの非一意性

🟡 リナ: そう。ポテンシャル \((\Phi, \mathbf{A})\) には冗長性(redundancy)がある。同じ物理(同じ \(\mathbf{E}\), \(\mathbf{B}\))を記述するポテンシャルが無数に存在する。この冗長性をゲージ自由度と呼ぶ。

✅ 理解度チェック: 「ゲージ自由度」とは何でしょうか?

答え

同じ物理的状況(同じ \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\))を記述するポテンシャル \((\Phi, \mathbf{A})\) が無数に存在するという冗長性のこと。任意のスカラー関数 \(\Lambda\) によるゲージ変換で異なるポテンシャルが得られるが、物理的に観測可能な量は変わらない。

🔵 カイ: でも、冗長なら何のためにわざわざポテンシャルを使うんですか? 直接 \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) で書けばいいのに。

🟡 リナ: いい質問。理由は二つある。第一に、ポテンシャルを使うと Maxwell 方程式の半分が自動的に満たされて計算が楽になる。第二に——これがもっと深い理由なんだけど——量子力学では \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) ではなくポテンシャル \(\mathbf{A}\) が直接物理に効く場面がある(Aharonov-Bohm 効果、「量子力学」編 「量子力学」編 第 26 章参照)。

⚪ メイ: 「冗長に見える記述」が、実はより深い物理を記述するのに必要なのね。

🟡 リナ: そして、このゲージ自由度は単なる数学的な便宜ではなく、自然界の根本的な対称性を反映している。第 9 章で学ぶゲージ対称性と標準模型、そして Part IV の弦理論に至るまで、ゲージ変換の概念は繰り返し登場するわ。

科学哲学メモ: ゲージ変換は「物理的に観測できない自由度」を含む記述法を使っている。これは「モデルの記述と物理的実在の区別」という哲学的問題を提起する。ポテンシャルは「実在」なのか、それとも便利な計算道具にすぎないのか? この問いに対する答えは、量子力学の登場後に変わることになる。自分で判断する材料は、この本を読み進めるうちに揃っていくはずよ。

✅ 理解度チェック: 電磁ポテンシャル \((\Phi, \mathbf{A})\) から磁場 \(\mathbf{B}\) を求める式は何でしょうか?

答え

\(\mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A}\)

✅ 理解度チェック: ゲージ変換 \(\Phi \to \Phi - \partial_t \Lambda\), \(\mathbf{A} \to \mathbf{A} + \nabla\Lambda\) のもとで、\(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) はどうなるでしょうか?

答え

どちらも不変(変化しない)。物理的に観測可能な量はゲージ変換で変わらない。


2.7 Lagrangian 形式(発展)

🟡 リナ: ここからは少し発展的な内容——このセクション全体は、初読では飛ばして 第 3 章 に進んでも構わないわ。次章以降でこのセクションの内容を前提とする箇所はないから安心して。第 5 章で特殊相対論を学んだ後に戻ってくれば、4 次元の記法がすんなり理解できるようになる。ただ、読んでおくと「Maxwell 方程式の 4 つの式がバラバラに見えるけど、実は一つの作用から全部出てくる」という統一の深さが分かる——この章のテーマ「統一」の最も美しい表現がここにあるの。第 1 章で「作用原理」を紹介したわね。Newton の運動方程式が作用 \(S\) の停留条件から導けるという話。同じことが Maxwell 方程式にもできる。

🔵 カイ: Maxwell 方程式も作用原理から出てくるんですか?

🟡 リナ: そう。そのためには、まず電磁場テンソル \(F_{\mu\nu}\) という道具を導入する必要がある。これは「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 3 章で学ぶ 4 元ベクトルの言葉を使うわ。

4 元ポテンシャルと電磁場テンソル

🟡 リナ: このサブセクションのゴールは、「電場と磁場が実は一つのオブジェクト(テンソル)の異なる成分である」ことを見ること。そのために、時間と空間を統一した 4 次元の記法を導入するわ。

🟡 リナ: 特殊相対論では、時間と空間を統一して 4 次元の座標 \(x^\mu = (ct, x, y, z)\) で書く。同じように、スカラーポテンシャル \(\Phi\) とベクトルポテンシャル \(\mathbf{A}\) を一つにまとめて4 元ポテンシャルを定義する:

🟡 リナ: 反変成分(添字が上)では:

\[A^\mu = \left(\frac{\Phi}{c},\; A_x,\; A_y,\; A_z\right)\]

ここで \(A_x, A_y, A_z\) は前のセクションで使った 3 次元ベクトルポテンシャル \(\mathbf{A} = (A_x, A_y, A_z)\) の成分そのものよ。

🔵 カイ: なんで \(\Phi\) じゃなくて \(\Phi/c\) なんですか?

🟡 リナ: 4 元ベクトルの各成分は同じ次元(単位)を持つ必要があるから。\(\mathbf{A}\) の単位は \(\text{V·s/m}\)\(\mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A}\) から分かる)。\(\Phi\) の単位は \(\text{V}\) だから、\(\Phi/c\) にすると \(\text{V/(m/s)} = \text{V·s/m}\) となって \(\mathbf{A}\) と揃うの。

🔵 カイ: 「反変」「共変」って何ですか? なんで 2 種類の書き方が必要なんですか?

🟡 リナ: いい質問。詳しくは 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 3 章 で学ぶけど、今の段階では「添字が上か下かで空間成分の符号が変わる」という計算のルールだけ覚えておけば大丈夫。理由は 第 5 章 で特殊相対論を学ぶと「ああ、だからか」と腑に落ちるようになるから。

🟡 リナ: なぜ 2 種類必要かを一言で言うと、時間と空間を一つの枠組みで扱うとき、両者を区別するための「重み」が必要になるの。日常的な例で言えば、「北に 3 km 進む」と「3 時間待つ」は同じ「3」でも物理的に全く違うでしょう? 4 次元で時間と空間を並べて書くとき、その違いを符号で表現する——それが計量テンソル \(\eta_{\mu\nu}\)。これは対角線上にだけ値が並ぶ 4×4 の行列で、具体的には \(\eta_{\mu\nu} = \begin{pmatrix} +1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & -1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{pmatrix}\)。つまり時間成分(\(\mu = \nu = 0\))には \(+1\)、空間成分(\(\mu = \nu = 1, 2, 3\))には \(-1\) を掛けるというルールよ。

⚪ メイ: 時間と空間の「重みの違い」を符号で表現するのね。

🟡 リナ: 反変成分(上付き添字)では 3 次元の成分がそのまま入る。共変成分(下付き添字)は \(A_\mu = \eta_{\mu\nu}A^\nu\) で得られる。空間成分に \(-1\) が掛かるから符号が反転するのね:

\[A_\mu = \left(\frac{\Phi}{c},\; -A_x,\; -A_y,\; -A_z\right)\]

🟡 リナ: そして、電磁場テンソルを次のように定義する:

\[\boxed{F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu}\]

ここで \(\partial_\mu = \frac{\partial}{\partial x^\mu}\)。定義式の添字がすべて下(共変)だから、計算には共変成分 \(A_\mu = (\Phi/c, -A_x, -A_y, -A_z)\) を使うことに注意してね。

🔵 カイ: 定義は分かりましたけど、これって具体的に計算すると何になるんですか?

🟡 リナ: \(F_{\mu\nu}\) の成分を書き下すと、電場と磁場が出てくる。例えば:

🟡 リナ: \(F_{\mu\nu}\) の定義式の添字はすべて下(共変)だから、共変成分 \(A_\mu = (\Phi/c, -A_x, -A_y, -A_z)\) を使うわ。\(x^0 = ct\) だから、\(\partial_0 = \frac{\partial}{\partial x^0} = \frac{\partial}{\partial(ct)} = \frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t}\)。同様に \(\partial_1 = \frac{\partial}{\partial x^1} = \frac{\partial}{\partial x}\) よ。\(A_0 = \Phi/c\)\(A_1 = -A_x\) を代入すると:

\[F_{01} = \partial_0 A_1 - \partial_1 A_0 = \frac{1}{c}\frac{\partial(-A_x)}{\partial t} - \frac{\partial(\Phi/c)}{\partial x}\]
\[= -\frac{1}{c}\left(\frac{\partial A_x}{\partial t} + \frac{\partial \Phi}{\partial x}\right)\]

ここで、前のセクションで導いた \(E_x = -\frac{\partial \Phi}{\partial x} - \frac{\partial A_x}{\partial t}\) を思い出すと、両辺に \(-1\) を掛けて \(\frac{\partial \Phi}{\partial x} + \frac{\partial A_x}{\partial t} = -E_x\) だから:

\[F_{01} = -\frac{1}{c}(-E_x) = \frac{E_x}{c}\]

🔵 カイ: テンソルの成分に電場が入ってくるんですね!

🟡 リナ: 同様に計算すると、\(F_{\mu\nu}\) は電場と磁場の成分をすべて含む反対称テンソルになる。つまり、\(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) という 6 つの成分が、一つのテンソル \(F_{\mu\nu}\) にパッケージされている。

🔵 カイ: 電場と磁場が一つのオブジェクトにまとまるんですね。

電磁場テンソルの成分構造

図 2.10: 電磁場テンソルの成分構造。反対称テンソル F_μν の成分に電場と磁場がどのように格納されるかを示す。

🟡 リナ: そう。これが「電気と磁気の統一」の数学的表現よ。Lorentz 変換(「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 3 章参照)で座標を変えると、\(F_{\mu\nu}\) の成分が混ざり合う——つまり、ある観測者にとっての「電場」が、別の観測者にとっては「磁場」の一部に見える。電場と磁場は同じものの異なる側面なの。

ゲージ変換の 4 次元版

🟡 リナ: さっき学んだゲージ変換を 4 次元の言葉で書いてみましょう。ただし、ここで一つ注意。4 元ポテンシャルの共変成分は \(A_\mu = (\Phi/c, -A_x, -A_y, -A_z)\) と空間成分に負号がつくから、3 次元版の符号とそのまま対応させるには少し注意が必要なの。

🔵 カイ: 符号がややこしそうですね……。

🟡 リナ: そうね。実は教科書によって符号の慣習が異なるの。だから今の段階では、本質だけを押さえましょう。本質は「ゲージ変換で電磁場テンソル \(F_{\mu\nu}\) が不変であること」——これだけ。まずそれを確認してから、3 次元版との符号の対応は補足として見るわ。4 次元版のゲージ変換を:

\[A_\mu \to A_\mu + \partial_\mu \chi\]

と書く(\(\chi\) は任意のスカラー関数)。なぜ 3 次元版の \(\Lambda\) と別の記号を使うかというと、4 次元では「共変成分 \(A_\mu\)\(\partial_\mu\chi\) を足す」という形が最もシンプルに書けるから——3 次元版の \(\Lambda\) とは \(\chi = -\Lambda\) の関係になるけど、これは後で確認する。\(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\) に対してこの変換を施すと:

\[F'_{\mu\nu} = \partial_\mu(A_\nu + \partial_\nu \chi) - \partial_\nu(A_\mu + \partial_\mu \chi)\]
\[= \partial_\mu A_\nu + \partial_\mu\partial_\nu\chi - \partial_\nu A_\mu - \partial_\nu\partial_\mu\chi\]

🟡 リナ: 偏微分の順序は交換できる(\(\partial_\mu \partial_\nu \chi = \partial_\nu \partial_\mu \chi\))から、追加項が打ち消し合う:

\[F'_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu = F_{\mu\nu}\]

電磁場テンソルはゲージ不変。✓

🔵 カイ: なるほど、3 次元版と同じ構造ですね——余分な項が打ち消し合って物理量が変わらない。でも、3 次元版のゲージ変換 \(\Phi \to \Phi - \partial_t\Lambda\)\(\mathbf{A} \to \mathbf{A} + \nabla\Lambda\) とはどう対応するんですか?

🟡 リナ: \(\chi = -\Lambda\) と置けば 3 次元版と一致する。なぜ符号が逆かというと、共変成分 \(A_\mu\) の空間部分は \(A_i = -A_i^{\text{(3次元)}}\) と負号がついているから、\(A_i + \partial_i\chi\)\(\partial_i\chi = -\partial_i\Lambda\) が 3 次元の \(\mathbf{A} + \nabla\Lambda\) に対応するの。\(\mu = 0\) 成分を確認すると \(\Phi/c \to \Phi/c + \frac{1}{c}\partial_t(-\Lambda) = \Phi/c - \frac{1}{c}\partial_t\Lambda\)、つまり \(\Phi \to \Phi - \partial_t\Lambda\)。空間成分は \(A_i \to A_i + \partial_i\chi = -A_x + (-\partial_x\Lambda)\)、つまり 3 次元のベクトルポテンシャルとしては \(A_x \to A_x + \partial_x\Lambda\)——確かに \(\mathbf{A} \to \mathbf{A} + \nabla\Lambda\) が再現される。✓

⚪ メイ: つまり、3 次元版と 4 次元版で使う関数の符号が逆なだけで、物理は同じということね。

🟡 リナ: その通り。教科書によって \(\chi\)\(\Lambda\) のどちらを使うか慣習が割れるけど、今の段階で覚えておくべきことは:ゲージ変換で \(F_{\mu\nu}\) は不変——これが本質よ。符号の慣習の詳細は 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 3 章 で改めて整理するわ。

電磁場の Lagrangian 密度

🟡 リナ: 電磁場の作用を書くために、Lagrangian 密度を定義する。ゲージ不変かつ Lorentz 不変な最も単純な量は:

\[\boxed{\mathcal{L}_{\text{EM}} = -\frac{1}{4\mu_0} F_{\mu\nu} F^{\mu\nu}}\]

🔵 カイ: なぜ \(-\frac{1}{4\mu_0}\) がつくんですか?

🟡 リナ: 係数 \(-\frac{1}{4\mu_0}\) は、この Lagrangian から Euler-Lagrange 方程式を導いたときに、ちょうど SI 単位系の Maxwell 方程式が出てくるように選んだ規格化よ。自然単位系(\(c = 1\) に加えて \(\mu_0 = 1\) とする——つまり電磁気の単位も「自然な」大きさに取り直す)では単に \(-\frac{1}{4}\) になる。

🟡 リナ: 実際に \(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) を成分で展開すると、電場と磁場の成分の 2 乗の組み合わせになる。ただ、\(c\)\(\mu_0\) をいちいち書くと式が長くなって本質が見えにくくなるの。そこで、計算を簡潔にするために自然単位系\(c = 1\), \(\mu_0 = 1\) とする単位系)を使うわ。さっきの計算では \(F_{01} = E_x/c\) だったけど、\(c = 1\) とすれば \(F_{01} = E_x\) になる——式の見通しが良くなるでしょう?

🔵 カイ: 定数を 1 にしちゃっていいんですか? 物理量の値が変わりませんか?

🟡 リナ: いい質問。これは「定数の値を変える」のではなく、「単位の取り方を変える」ということなの。例えば距離を km で測るか m で測るかで数値は変わるけど物理は変わらないでしょう? 同じように、長さの単位を「光が 1 秒で進む距離」に取れば \(c = 1\) になる。\(\mu_0 = 1\) も同じ発想で、電流の単位を適切に選び直すと \(\mu_0\) が 1 になるの。式の見通しが良くなるだけで、最後に SI 単位系に戻したければ次元解析で \(c\)\(\mu_0\) を復元できる(詳しくは 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 3 章参照)。

⚪ メイ: プログラミングで言えば、定数を変数名に格納して後で参照するようなものね。値自体は変わっていない。

🟡 リナ: この単位系では \(F_{01} = E_x\)(先ほどの \(E_x/c\)\(c=1\))となり、Lagrangian 密度は \(\mathcal{L}_{\text{EM}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) となる。ここで \(F^{\mu\nu}\) は添字を計量で上げたもの:\(F^{\mu\nu} = \eta^{\mu\alpha}\eta^{\nu\beta}F_{\alpha\beta}\)

🔵 カイ: 「添字を計量で上げる」って何ですか?

🟡 リナ: 同じ添字 \(\alpha\) が上と下に 1 回ずつ現れたら、その添字について 0 から 3 まで和を取る——これを Einstein の縮約規則と呼ぶ。例えば \(\eta^{\mu\alpha}F_{\alpha\beta}\)\(\sum_{\alpha=0}^{3}\eta^{\mu\alpha}F_{\alpha\beta}\) の省略記法よ。

🔵 カイ: つまり、\(\alpha\) が上にも下にも出てきたら「\(\alpha = 0, 1, 2, 3\) を全部足せ」ってことですか?

🟡 リナ: そう。具体的に書き下すと \(\eta^{\mu\alpha}F_{\alpha\beta} = \eta^{\mu 0}F_{0\beta} + \eta^{\mu 1}F_{1\beta} + \eta^{\mu 2}F_{2\beta} + \eta^{\mu 3}F_{3\beta}\) ——4 つの項を全部足すの。でも計量 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) は対角行列だから、\(\eta^{\mu\alpha}\)\(\alpha = \mu\) のときだけ値を持ち、それ以外はゼロ。だから和を取っても \(\alpha = \mu\) の項しか生き残らない。結果として「時間成分はそのまま、空間成分は符号を反転させる」という操作になるの。

🔵 カイ: 対角行列だから、実質的にはその成分だけ拾うんですね。

🟡 リナ: そう。具体例を一つやってみましょう。\(F^{01}\) を求めるには \(F^{01} = \eta^{00}\eta^{11}F_{01}\) を計算する(対角行列だから \(\alpha = 0\), \(\beta = 1\) の項だけ生き残る)。\(\eta^{00} = +1\), \(\eta^{11} = -1\) だから \(F^{01} = (+1)(-1)E_x = -E_x\)。つまり「添字を上げる」と空間方向の符号が反転するのね。なぜこの符号規約なのかは 「一般相対論」編 「一般相対論」編 第 3 章 で特殊相対論を学ぶと自然に理解できるから、今は「計算のルール」として受け入れてね。この符号の反転が、\(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) を展開したときに効いてくる。計量 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) を使って全成分を足し合わせると(以下すべて自然単位系 \(c = 1\), \(\mu_0 = 1\)):

\[F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} = 2(\mathbf{B}^2 - \mathbf{E}^2)\]

🔵 カイ: なんで \(\mathbf{E}^2\) に負号がつくんですか? あと、2 はどこから来るんですか?

🟡 リナ: 核心だけ言うわね。添字を計量 \(\eta^{\mu\nu}\) で上げるとき、時間-空間成分(例えば \(F_{01} = E_x\))には \(\eta^{00}\eta^{11} = (+1)(-1) = -1\) がかかる。だから \(F_{01}F^{01} = E_x \cdot (-E_x) = -E_x^2\)——電場の寄与が負になる。一方、空間-空間成分(例えば \(F_{12} = B_z\))には \(\eta^{11}\eta^{22} = (-1)(-1) = +1\) がかかるから、\(F_{12}F^{12} = B_z^2\)——磁場の寄与は正。

🔵 カイ: 計量の符号 \((+1,-1,-1,-1)\) が効いてくるんですね。

🟡 リナ: そう。「2」については具体的に見せるわね。\(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\)\(\mu\)\(\nu\) を 0 から 3 まで全部足す——つまり \(\mu = 0, \nu = 1\) の項と \(\mu = 1, \nu = 0\) の項が両方含まれる。反対称性 \(F_{10} = -F_{01}\) だから \(F_{10}F^{10} = (-E_x)(+E_x) = -E_x^2\) で、\(F_{01}F^{01} = -E_x^2\) と同じ値。つまり同じ物理的成分が 2 回数えられるの。だから独立成分だけで書くと係数 2 が出てくる。展開の全詳細は Appendix A に載せてあるから、興味があれば確認してみてね。

したがって:

\[\mathcal{L}_{\text{EM}} = -\frac{1}{4} \cdot 2(\mathbf{B}^2 - \mathbf{E}^2) = \frac{1}{2}(\mathbf{E}^2 - \mathbf{B}^2)\]

🔵 カイ: 電場の 2 乗マイナス磁場の 2 乗……。第 1 章で出てきた \(L = T - V\) と似た形ですか?

🟡 リナ: いい直感ね。粒子力学の Lagrangian \(L = T - V\)(運動エネルギーマイナスポテンシャルエネルギー)と似た構造でしょう? 電場が「運動的」な部分、磁場が「ポテンシャル的」な部分に対応していると思えばいい。厳密な対応は 「場の量子論」編 「場の量子論」編 第 3 章 で扱うわ。

⚪ メイ: つまり、第 1 章で見た \(T - V\) と同じ「何かマイナス何か」の形が、場の理論でも繰り返されているのね。

作用原理から Maxwell 方程式を再導出(概要)

🟡 リナ: 作用は:

\[S = \int d^4x \; \mathcal{L}_{\text{EM}} = -\frac{1}{4}\int d^4x \; F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\]

ここで \(d^4x = dt\,dx\,dy\,dz\) は時間と空間の全領域にわたる 4 次元積分を表す。座標 \(x^\mu = (ct, x, y, z)\) を使う場合は \(d^4x = \frac{1}{c}dx^0\,dx^1\,dx^2\,dx^3\) と書ける(自然単位系 \(c=1\) ではどちらも同じ)。

🟡 リナ: 第 1 章で、粒子の Euler-Lagrange 方程式 \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\) を学んだわね。場の理論では、粒子の位置 \(q(t)\) の代わりに場 \(A_\nu(x)\) が力学変数になる。対応する場の Euler-Lagrange 方程式は(導出は 「場の量子論」編 「場の量子論」編 第 3 章 で詳しく扱う):

\[\partial_\mu \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu A_\nu)} - \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial A_\nu} = 0\]

🔵 カイ: 粒子のときは \(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\) で「速度で微分する」でしたよね。場の場合の \(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu A_\nu)}\) って何で微分しているんですか?

🟡 リナ: いい質問。粒子力学で \(\dot{q}\)\(q\) とは独立な変数とみなして \(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\) を計算したのと同じ発想よ。場の場合は \(\partial_\mu A_\nu\)(場の各微分成分)をそれぞれ独立な変数とみなして、\(\mathcal{L}\) をそれで偏微分する。ただし場の場合は \(\partial_\mu A_\nu\)\(\mu = 0,1,2,3\)\(\nu = 0,1,2,3\) の組み合わせで複数あるから、「どの \(\mu\), \(\nu\) の組の微分成分で偏微分するか」を指定しているの。

🔵 カイ: 粒子のときは \(\dot{q}\) が 1 つだけだったけど、場だと微分成分がたくさんあるってことですね。

🟡 リナ: そう。具体例を一つ見せるわね。\(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\alpha\beta}F^{\alpha\beta}\) の中に \(F_{01} = \partial_0 A_1 - \partial_1 A_0\) が含まれている。\(\partial_0 A_1\) で偏微分するとき、\(F_{01}\) の中の \(\partial_0 A_1\) だけが反応して 1 を返し、\(\partial_1 A_0\) の部分はゼロになる。結果として \(F^{01}\) に比例する項が出てくる——こういう計算を全ての \(\mu\), \(\nu\) の組について行うの。そして左辺第 1 項の \(\partial_\mu\) は、さっき学んだ縮約規則で \(\mu = 0, 1, 2, 3\) の和を取る——時空の全方向の微分を足し合わせるということ。

⚪ メイ: つまり、粒子力学の \(\frac{d}{dt}\) が時間方向だけだったのに対して、場の理論では全方向の和になるのね。

🟡 リナ: そう。粒子力学の \(\frac{d}{dt}\) が時間方向だけだったのに対し、場の理論では時空の全方向の微分の和 \(\partial_\mu\) になる——これが粒子から場への拡張のポイントよ。

🔵 カイ: 粒子のときは \(q\)\(\dot{q}\) で微分しましたよね。場の場合は \(A_\nu\)\(\partial_\mu A_\nu\) で微分する……「場の値」と「場の空間的・時間的な変化率」が対応しているってことですか?

🟡 リナ: そう、いい理解ね。粒子力学の式と見比べると、\(\frac{d}{dt} \to \partial_\mu\)\(\dot{q} \to \partial_\mu A_\nu\)\(q \to A_\nu\) という対応になっている。\(\mathcal{L}_{\text{EM}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\)(真空中)は \(A_\nu\) そのものには依存せず \(\partial_\mu A_\nu\) にのみ依存するから、第 2 項はゼロ。第 1 項では \(\mathcal{L}\)\(\partial_\mu A_\nu\) で微分するから、\(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) の中の \(\partial_\mu A_\nu\) を微分することになり、結果として \(F^{\mu\nu}\) が出てくる。計算すると(導出の詳細は「場の量子論」編 「場の量子論」編 第 3 章参照):

\[\partial_\mu F^{\mu\nu} = 0\]

🔵 カイ: たった一行の式に Maxwell 方程式が……!

🟡 リナ: これは真空中の Maxwell 方程式(第 1 式と第 4 式の真空版)を 4 次元の言葉でまとめたものよ。\(\nu\) は 0, 1, 2, 3 の値を取るから、実は 4 つの式を含んでいる。\(\nu = 0\) を取ると \(\partial_i F^{i0} = 0\) で、これが \(\nabla \cdot \mathbf{E} = 0\)(真空中の第 1 式)に対応する。\(\nu = 1, 2, 3\) を取ると \(\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0\varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\)(真空中の第 4 式)に対応するの。電荷・電流がある場合は、Lagrangian に電流との結合項 \(-A_\nu j^\nu\) を追加する。すると \(\mathcal{L}\)\(A_\nu\) にも依存するようになり、Euler-Lagrange 方程式の第 2 項が \(j^\nu\) を生む。SI 単位系に戻すと(\(\mu_0\) を復元すると):

\[\partial_\mu F^{\mu\nu} = \mu_0 j^\nu\]

ここで \(j^\nu = (c\rho, \mathbf{j})\) は 4 元電流密度。

🔵 カイ: すごい。4 つの Maxwell 方程式が、作用原理から自然に出てくるんですね。

🟡 リナ: そう。第 1 章では粒子の運動方程式が作用原理から出てきたでしょう? 今度は場の方程式も同じ原理から出てくる——作用原理は粒子にも場にも使える普遍的な枠組みなの。

⚪ メイ: 同じ構造が繰り返されているのね。粒子でも場でも、Lagrangian を書いて変分すれば運動方程式が出る。

🟡 リナ: そう。そしてこの Lagrangian 形式が重要なのは、場の量子論(「場の量子論」編 「場の量子論」編 第 6 章)で電磁場を量子化するときの出発点になるから。さらに、弦理論(第 13 章以降)でも作用原理が中心的な役割を果たす。ここで見た構造は、ずっと先まで使い続けることになるわ。

科学哲学メモ: Lagrangian \(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) は、「ゲージ不変」「Lorentz 不変」「2 階以下の微分方程式を与える」という条件だけからほぼ一意に決まる。対称性の要請が理論の形を決める——これがゲージ原理の萌芽であり、第 9 章で本格的に展開するテーマよ。

✅ 理解度チェック: 電磁場テンソル \(F_{\mu\nu}\) の定義は何でしょうか?

答え

\(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\)

✅ 理解度チェック: 電磁場の Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}_{\text{EM}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) から Euler-Lagrange 方程式を導くと、何が得られるでしょうか?

答え

真空中の Maxwell 方程式 \(\partial_\mu F^{\mu\nu} = 0\)


2.8 残された問い — 伏線

🟡 リナ: Maxwell のモデルは電気・磁気・光を統一した。でも、新しい謎も生まれた。

🔵 カイ: 何ですか?

🟡 リナ: 光速 \(c\) が「誰から見ても同じ」であるという問題

🔵 カイ: 光速が誰から見ても同じって、どういうことですか? 電車の中でボールを投げたら、地上から見た速さと電車の中から見た速さは違いますよね。

🟡 リナ: そう。普通、波の速さは観測者の運動状態によって変わる。でも Maxwell 方程式から導かれる光速 \(c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}\) には、「誰から見て」という情報が入っていない。\(\mu_0\)\(\varepsilon_0\) は真空の性質を表す定数で、観測者の速度に依存しない。

🔵 カイ: じゃあ、光と同じ方向に走りながら光を見たら、光は遅く見えるはずなのに……Maxwell の式はそうなっていない?

🟡 リナ: そう。Maxwell 方程式は「光速は \(c\)」としか言わない。「誰から見て \(c\) なのか」を指定していない。これは Newton 力学の常識——速度は観測者によって変わる——と真っ向から矛盾する。この矛盾を解決したのが Einstein の特殊相対論(第 5 章)よ。

🔵 カイ: 統一したと思ったら、次の問題が出てくるんですね。終わりがない……。

🟡 リナ: 終わりがないように見えるけど、実はそこにパターンがあるの。

🔵 カイ: パターン?

🟡 リナ: Newton は重力を統一して「なぜ瞬時に伝わるのか」が残った。Maxwell は電磁気を統一して「光速が誰にとっても同じなのはなぜか」が残った。統一するたびに、前のモデルでは見えなかった新しい問いが浮かび上がるの。

🔵 カイ: じゃあ、その「残った問い」を解決したら、また新しい問いが出てくるんですか? 永遠に終わらないとしたら、最終的な統一なんて本当にあるんですか?

🟡 リナ: それこそが物理学の根本的な問いの一つよ。「究極の理論」が存在するのか、それとも無限に続く入れ子構造なのか——この本の最後(Part IV)で、弦理論がその問いにどう答えようとしているかを見ることになるわ。

⚪ メイ: でも少なくとも、統一のたびに「何が分からないか」がクリアになるのは確かね。

🔵 カイ: でも、少なくとも「次に何を問うべきか」は統一のたびにはっきりするんですね。Newton のときは「なぜ瞬時に伝わるのか」が残って、Maxwell のときは「なぜ光速が一定なのか」が残った——どちらも「速さ」に関する問題だ。偶然ですか?

🟡 リナ: いい気づきね。偶然じゃない。統一のたびに、情報の伝わり方に関する問いが先鋭化していく構造がある。そしてその構造自体が物理学を前に進める原動力になっているの。

🟡 リナ: そしてもう一つ伏線を張っておくわ。この章で出てきたゲージ変換の自由度——あれは単なる数学的便宜ではなく、自然界の深い対称性を反映しているの。

⚪ メイ: ポテンシャルの「冗長な記述」に、そんな深い意味があるのね。

🟡 リナ: 第 9 章では、この章で見たゲージ変換が「\(U(1)\) ゲージ対称性」と呼ばれる数学的構造の表れであることを学び、さらにそれを拡張して標準模型に至る道を見ることになるわ(\(U(1)\) などの記号の意味は第 9 章で定義する。詳しくは「場の量子論」編 「場の量子論」編 第 17 章 参照)。

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flowchart TD
    A["電気の法則\n(Coulomb)"] --> C["Maxwell 方程式\n4つの式に統一"]
    B["磁気の法則\n(Ampère, Faraday)"] --> C
    D["電荷保存則"] -->|"変位電流の導入"| C
    C -->|"波動方程式を導出"| E["電磁波の予言\nc = 1/√(μ₀ε₀)"]
    E --> F["光の正体は電磁波"]
    C -->|"ポテンシャル表示"| G["(Φ, A) とゲージ変換"]
    G --> H["ゲージ対称性\n→ 第9章 標準模型"]
    F --> I["光速不変の謎\n→ 第5章 特殊相対論"]
    C --> J["重力との統一は未達\n→ Part IV 弦理論"]

図 2.11: Maxwell方程式から光の予言への論理構造

✅ 理解度チェック: Maxwell 方程式から導かれる光速 \(c = 1/\sqrt{\mu_0 \varepsilon_0}\) が生んだ新しい謎とは何でしょうか?

答え

光速 \(c\) に「誰から見て」という情報が含まれておらず、観測者の運動状態によらず同じ値になるという問題。


次章予告

第 3 章「蒸気機関の効率を上げたい — 熱力学とエントロピーの誕生」 ——Carnot が蒸気機関の効率限界を追求し、Boltzmann がエントロピーの統計的意味を解き明かした物語。「必要性」から始まった探求が、宇宙の根本的な性質に到達する。


参考文献

この章の内容は以下の文献を参考に構成した。

  • David Tong, Lectures on Quantum Field Theory, Ch.2: "Free Fields" — Maxwell 方程式の Lagrangian 形式、場の強さテンソル \(F_{\mu\nu}\)
  • Lee Smolin, The Trouble with Physics, Ch.3: "The World As Geometry" — 統一の歴史的動機と評価基準
  • Lee Smolin, The Trouble with Physics, Ch.4: "Unification Becomes a Science" — ゲージ対称性の伏線、\(U(1)\) ゲージ理論
  • J.D. Jackson, Classical Electrodynamics, Ch.6 — Maxwell 方程式、波動方程式の導出
  • D.J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics, Ch.7 — 電磁波、ポテンシャルとゲージ変換