Appendix A — 解析力学の道具箱:汎関数・場の Lagrangian・場の正準量子化¶
前回までのあらすじ:
第 24 章では、場の量子論の枠組みで重力を量子化しようとすると「くりこみ不可能」という壁にぶつかることを確認し、弦理論への橋渡しを行った。ここからは本編を支える数学的道具を、必要十分な範囲で整理する Appendix に入る。
この章のゴール
- 場の量子論の基礎となる「解析力学」の道具立てのうち、場に固有の要素に絞って整理する
- 粒子の解析力学(Lagrangian・Hamiltonian・Poisson 括弧・正準量子化)そのものは、読了順を想定している読者には量子力学 Appendix D で既習のはずなので、ここではその簡潔なレビューに留め、(1) 汎関数と汎関数微分、(2) 場の Euler-Lagrange 方程式、(3) 場の正準量子化、(4) 作用原理の経路積分的理解、という QFT 固有の 4 点に焦点を絞る
- 本編第 3〜11 章で繰り返し使われた道具の出自を明確にする
A.1 粒子の解析力学(復習)¶
🟡 リナ: この Appendix は 「量子力学」編 Appendix D「Lagrangian・Hamiltonian 形式と正準量子化」を既読という前提で進めるわ。読了順で来ていない方、あるいは忘れてしまった方は、まず 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D に目を通してね。
🔵 カイ: 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D で学んだのは何でしたっけ?
🟡 リナ: 要点はこの 1 つの表に凝縮されるわ。
表 A.1: 古典力学と量子力学の対応関係
| 古典力学 | 量子力学 |
|---|---|
| 物理量 \(A(q, p)\)(数) | 演算子 \(\hat{A}\)(Hilbert 空間上) |
| Lagrangian \(L(q, \dot{q}) = T - V\) | — |
| 作用 \(S[q] = \int L\,dt\)(汎関数) | 経路積分の重み \(e^{iS/\hbar}\) |
| Euler-Lagrange 方程式 \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\) | — |
| 正準運動量 \(p = \frac{\partial L}{\partial\dot{q}}\) | 演算子 \(\hat{p}\) |
| Hamiltonian \(H(q,p) = p\dot{q} - L\) | 演算子 \(\hat{H}\) |
| Hamilton の方程式 \(\dot{q} = \frac{\partial H}{\partial p}\), \(\dot{p} = -\frac{\partial H}{\partial q}\) | Heisenberg 方程式 \(\frac{d\hat{A}}{dt} = \frac{1}{i\hbar}[\hat{A},\hat{H}]\) |
| Poisson 括弧 \(\{A, B\} = \frac{\partial A}{\partial q}\frac{\partial B}{\partial p} - \frac{\partial A}{\partial p}\frac{\partial B}{\partial q}\) | 交換子 \(\frac{1}{i\hbar}[\hat{A}, \hat{B}]\) |
| \(\{q, p\} = 1\) | \([\hat{q}, \hat{p}] = i\hbar\) |
| 正準量子化の処方箋 | \(\{A, B\} \to \frac{1}{i\hbar}[\hat{A}, \hat{B}]\) |
🟡 リナ: 表の流れを上から下に辿ると——Lagrangian \(L = T - V\) から作用 \(S\) を作り、\(\delta S = 0\) から Euler-Lagrange 方程式が出て、\(H = p\dot{q} - L\) で Hamiltonian 形式に移り、Poisson 括弧を交換関係に置き換えて量子化する。
⚪ メイ: つまり、この表が粒子力学の全体像を1枚にまとめたものなのね。
🟡 リナ: その通り。この Appendix では、これを場に拡張する部分だけに集中するわ。まず必要になる道具が、汎関数と汎関数微分よ。
A.2 汎関数 — 「関数を食べて数を返す機械」¶
🟡 リナ: まず、「汎関数 (functional)」という概念を導入するわ。これは本編の第 10〜11 章(経路積分)で中心的な役割を果たした概念よ。
🔵 カイ: 「関数」と何が違うんですか?
🟡 リナ: 対比して整理するとこうなるわ。
表 A.2: 関数と汎関数の比較
| 関数 (function) | 汎関数 (functional) | |
|---|---|---|
| 入力 | 数 | 関数 |
| 出力 | 数 | 数 |
| 記号 | \(f(x)\) | \(F[f]\) |
関数は「数を入れたら数が返ってくる機械」。汎関数は「関数を丸ごと入れたら数が返ってくる機械」なの。
🔵 カイ: 関数を丸ごと……? 具体例が欲しいです。
🟡 リナ: いくつか見てみましょう。
例 1: 定積分は汎関数よ。
ここに \(f(x) = x^2\) を入れると \(F[f] = \int_0^1 x^2\,dx = \frac{1}{3}\)。\(f(x) = x^3\) を入れると \(F[f] = \frac{1}{4}\)。入れる関数が違えば返ってくる数も違う——これが汎関数。
🔵 カイ: なるほど、関数の「形」が変われば数も変わるんですね。
🟡 リナ: 例 2: もう少し複雑な形。
\(f(x) = x^2\) を代入すると \(G[f] = \int_0^a 5x^4\,dx = 5\cdot\frac{a^5}{5} = a^5\)。
⚪ メイ: 記号の約束として、丸括弧 \(F(x)\) は「数 \(x\) を入れた」、角括弧 \(F[f]\) は「関数 \(f\) を入れた」ということね。
🟡 リナ: その通り。この約束は本編でも一貫して使ってきたわね。
🔵 カイ: 本編の第 10 章で出てきた経路積分 \(\int \mathcal{D}\phi\,e^{iS[\phi]/\hbar}\) の \(S[\phi]\) も汎関数ですよね。場の配位 \(\phi\) という「関数」を入れたら、作用という「数」が返ってくる。……でも待ってください、経路積分の \(\int \mathcal{D}\phi\) は「すべての関数について足し上げる」わけですよね。汎関数をさらに積分するって、どういう意味なんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。でもそれは本編第 10 章で詳しく扱った話だから、ここでは深入りしないわ。今は「\(S[\phi]\) が汎関数である」という点だけ確認しておけば十分。作用 \(S[\phi]\) は場の量子論で最も重要な汎関数よ。
✅ 理解度チェック: 関数と汎関数の違いを、「入力」と「出力」の観点から説明してみましょう。
答え
関数は「数を入力すると数が出力される」対応関係である。一方、汎関数は「関数を丸ごと入力すると数が出力される」対応関係である。記号上は関数を \(f(x)\)、汎関数を \(F[f]\) のように角括弧で区別する。
例 3 (少し特殊): Dirac のデルタ関数を使うと、関数の「特定の点での値を拾い出す」汎関数が作れるわ。
🔵 カイ: デルタ関数は量子力学で散々使いましたね。\(y = x\) のところだけ「無限大」で、積分すると 1 になるやつ。
🟡 リナ: そう。デルタ関数の最重要性質をもう一度確認しておくわ:
積分の中で \(f\) の「\(x\) での値」だけを拾い出す。この性質はこの先何度も使うから、しっかり覚えておいてね。
✅ 理解度チェック: Dirac のデルタ関数を用いた汎関数 \(F[f] = \int f(y)\,\delta(y - x)\,dy\) は、入力された関数 \(f\) に対してどのような値を返すでしょうか?
答え
デルタ関数の「拾い出し」性質により、\(F[f] = f(x)\) となる。すなわち、関数 \(f\) の点 \(x\) での値をそのまま返す汎関数である。
✅ 理解度チェック: 汎関数 \(M[f] = \int_0^2 [f(x)]^3\,dx\) に \(f(x) = x\) を代入したとき、\(M[f]\) の値はいくつでしょうか?
答え
\(M[f] = \int_0^2 x^3\,dx = \left[\frac{x^4}{4}\right]_0^2 = \frac{16}{4} = 4\)
A.3 汎関数微分 — 「関数をちょっとずらしたら何が起こるか」¶
🟡 リナ: 次に、汎関数の「微分」を定義するわ。普通の微分と対比して考えましょう。図 A.1「通常の微分と汎関数微分の対比」 を見て——左側が普通の微分で、数 \(x\) を微小量ずらしたときの関数値の変化率(接線の傾き)。右側が汎関数微分で、関数 \(f(x)\) を特定の点 \(x_0\) の近傍で微小に変形したとき、汎関数 \(F[f]\) がどう応答するかを見ているの。
図 A.1: 通常の微分と汎関数微分の対比。左 — 通常の微分:数 \(x\) を微小量ずらしたときの関数値 \(f(x)\) の変化率(接線の傾き)。右 — 汎関数微分:関数 \(f(x)\) を点 \(x_0\) の近傍で微小に変形したとき、汎関数 \(F[f]\) がどう応答するか。
🔵 カイ: 図 A.1「通常の微分と汎関数微分の対比」 の左側は見慣れた普通の微分ですね。「入力の数をちょっとずらしたとき、出力がどれだけ変わるか」——接線の傾き。
右側は……関数のグラフの一点だけをちょんと押し上げている絵ですね。それが汎関数微分のイメージか。
🟡 リナ: その通り。汎関数微分 (functional derivative) は、「入力の関数をちょっとずらしたとき、出力がどれだけ変わるか」を調べるものよ。定義を書く前に記号の約束をしておくわね。\(x\) は「関数のどの点を変化させるか」を指定する固定された点、\(x'\) は関数 \(f\) の引数を表す変数よ。定義はこう:
たとえば \(F[f] = \int g(f(x'))\,dx'\) のような積分型の汎関数なら、\(x'\) は積分の中を走るダミー変数になるわ。イメージとしては、関数 \(f\) のグラフを思い浮かべて、横軸の \(x\) の位置だけを指でちょんと押し上げる感じ。押し上げ幅が \(\epsilon\) で、「その点だけ」を押すためにデルタ関数を使っているの。汎関数の値がその押し上げにどう応答するかを見ているのが汎関数微分よ。
🔵 カイ: 「指でちょんと押し上げる」——直感的ですね。でもなんでデルタ関数でずらすんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。「点 \(x\) のところだけ」をずらしたいからよ。デルタ関数 \(\delta(x' - x)\) は \(x' = x\) でだけ値を持つから、\(f(x')\) に \(\epsilon\,\delta(x' - x)\) を足すと、\(x' = x\) の近傍だけが変化する。こうすることで「関数のどの点を変えたら汎関数の値がどう反応するか」が分かるの。普通の微分との対応を表にまとめておくわね。
表 A.3: 普通の微分と汎関数微分の対応
| 普通の微分 | 汎関数微分 | |
|---|---|---|
| 入力 | 数 \(x\) | 関数 \(f(x)\) |
| 出力 | 数 \(f(x)\) | 数 \(F[f]\) |
| ずらし方 | \(x \to x + \epsilon\) | \(f(x') \to f(x') + \epsilon\,\delta(x'-x)\) |
| 記号 | \(\frac{df}{dx}\) | \(\frac{\delta F}{\delta f(x)}\) |
⚪ メイ: こうして並べると、構造が完全に対応しているのがよく分かるわね。
🟡 リナ: そう。では具体的に計算してみましょう。
✅ 理解度チェック: 汎関数微分の定義において、入力関数を \(\epsilon\,\delta(x' - x)\) でずらす理由は何でしょうか?
答え
デルタ関数 \(\delta(x' - x)\) は \(x' = x\) でだけ値を持つため、\(\epsilon\,\delta(x' - x)\) を足すと関数の「点 \(x\) の近傍だけ」が変化する。これにより、関数のどの点を変えたときに汎関数の値がどう反応するかを、点ごとに調べることができる。
計算例 1¶
🟡 リナ: \(I[f] = \int_{-1}^{1} f(y)\,dy\) の汎関数微分を求めてみるわ。
定義に従って、\(f(y) \to f(y) + \epsilon\,\delta(y - x)\) と置き換えて(\(y\) が積分変数、\(x\) が「どの点を変えるか」を指定する固定点):
角括弧の中で \(\int f(y)\,dy\) の部分が前後で打ち消し合うから、残るのは:
⚪ メイ: きれいに \(\epsilon\) が消えるのね。
🟡 リナ: デルタ関数の積分は、\(x\) が積分範囲 \([-1, 1]\) 内にあれば \(1\)、外にあれば \(0\) だから:
🔵 カイ: 直感的にも分かります。\(I\) は \([-1,1]\) で \(f\) を積分したものだから、この範囲内で \(f\) をちょっと変えれば \(I\) も変わるし、範囲外で変えても影響しない。
計算例 2¶
🟡 リナ: もう少し実践的な例をやるわ。
ここで \(\varphi(y)\) は何か決まった関数(重み関数)で、\([a, b]\) は適当な区間(あるいは \((-\infty, \infty)\))よ。
🔵 カイ: 計算例 1 では積分範囲 \([-1, 1]\) が結果に効いていましたよね。今回は省略していいんですか?
🟡 リナ: いい質問ね。今回は計算の途中で被積分関数に \(\delta(y-x)\) が掛かる形になるの。デルタ関数の「拾い出し」性質 \(\int f(y)\,\delta(y-x)\,dy = f(x)\) により、\(y = x\) の値だけが拾われて他は消える。だから \(x\) が積分範囲内にありさえすれば、範囲が \([a, b]\) でも \((-\infty, \infty)\) でも答えは同じなの。逆に \(x\) が範囲外なら結果は \(0\)——計算例 1 と同じ理屈ね。以降は \(x\) が積分範囲内にあると仮定して、積分範囲を省略して書くわ。汎関数微分を計算するわよ。
\(f(y) \to f(y) + \epsilon\,\delta(y - x)\) として:
\([f(y) + \epsilon\,\delta(y-x)]^p\) を \(\epsilon\) の 1 次まで展開するわ。\(g(\epsilon) = (a + \epsilon b)^p\) という関数を \(\epsilon = 0\) のまわりで Taylor 展開すると、\(g(0) = a^p\)、\(g'(\epsilon) = p(a+\epsilon b)^{p-1}\cdot b\) だから \(g'(0) = pa^{p-1}b\)。よって 1 次まで \(g(\epsilon) \approx a^p + pa^{p-1}\cdot b\cdot\epsilon\) となるの。高校で習った \((1+x)^n \approx 1 + nx\)(\(|x| \ll 1\))と同じ発想——微小量の 1 次だけ残す近似よ。
🔵 カイ: ここでは \(b = \delta(y-x)\) というちょっと特殊なものが入っていますけど、形式的に同じ展開をすればいいんですね。
🟡 リナ: その通り。あくまで「\(\epsilon\) についての形式的な 1 次展開」として計算しているの。デルタ関数は単独では普通の数ではないけれど、最終的にこの展開結果は積分 \(\int (\cdots)\,dy\) の中に入るわ。そして積分の中では \(p[f(y)]^{p-1}\cdot\epsilon\,\delta(y-x)\cdot\varphi(y)\) という形になるから、デルタ関数の「拾い出し」性質 \(\int g(y)\,\delta(y-x)\,dy = g(x)\) がそのまま使えて、well-defined な有限の値 \(p[f(x)]^{p-1}\,\varphi(x)\cdot\epsilon\) が得られるの。つまり、途中の各ステップでは形式的に見えても、最終結果は数学的にきちんと意味を持つ——\(\epsilon\) の 1 次の項を取り出す操作として正当化されるのよ。ここで \(a = f(y)\)、\(b = \delta(y-x)\) として:
🔵 カイ: ちょっと待ってください。2 次の項には \(\epsilon^2[\delta(y-x)]^2\) みたいなものが出てきませんか? デルタ関数の 2 乗って意味あるんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。実は \([\delta(y-x)]^2\) は数学的には厳密な意味を持たない「病的な」対象なの。でも心配しなくて大丈夫——汎関数微分の定義を見返してみて。\(\frac{\delta F}{\delta f(x)} = \lim_{\epsilon \to 0}\frac{F[f + \epsilon\delta] - F[f]}{\epsilon}\) だから、分子を \(\epsilon\) で割った後に \(\epsilon \to 0\) とするの。つまり \(\epsilon\) の 1 次の係数だけが生き残り、2 次以上の項(\(\epsilon^2[\delta]^2\) など)は \(\epsilon \to 0\) で消えるわ。だから「\([\delta]^2\) に意味があるか」を心配する必要はない——そもそもその項は最終結果に寄与しないの。
代入して \([f(y)]^p\) の項を打ち消すと:
最後にデルタ関数の「拾い出し」性質を使えば:
⚪ メイ: 普通の微分で \(\frac{d}{dx}x^p = px^{p-1}\) となるのと全く同じパターンね。「べき乗を 1 つ下げて係数を前に出す」。
🟡 リナ: そう! 汎関数微分は「関数版の微分」だから、多くの計算規則が普通の微分と同じ形になるの。
✅ 理解度チェック: 汎関数 \(K[f] = \int_0^1 [f(x)]^3\,dx\) の汎関数微分 \(\frac{\delta K}{\delta f(x_0)}\)(\(0 \leq x_0 \leq 1\))を求めてください。
答え
計算例 2 で \(p = 3\)、\(\varphi(y) = 1\) とすればよい。\(\frac{\delta K}{\delta f(x_0)} = 3[f(x_0)]^2\)。
📝 練習問題:
- 汎関数と汎関数微分の計算練習 → 問題 B-4. デルタ関数を用いた汎関数微分
A.4 場の Euler-Lagrange 方程式¶
🟡 リナ: 粒子の Euler-Lagrange 方程式は 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D で学んだ通り:
ここでは、これを「粒子 \(q_i(t)\)」から「場 \(\phi(t, \mathbf{x})\)」に拡張する部分を整理するわ。本編第 3 章で Klein-Gordon 方程式を導出したときに使った枠組みの出自よ。
A.4.1 粒子 → 場への対応¶
🟡 リナ: 粒子力学と場の理論の対応関係を表にまとめると:
表 A.4: 粒子力学から場の理論への対応
| 粒子力学 | 場の理論 |
|---|---|
| 一般化座標 \(q_i(t)\)(有限個) | 場 \(\phi(t, \mathbf{x})\)(連続無限個) |
| Lagrangian \(L(q, \dot{q})\) | Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi)\) |
| 作用 \(S = \int dt\,L\) | 作用 \(S = \int d^4x\,\mathcal{L}\) |
🔵 カイ: 添字 \(i\)(離散的)が座標 \(\mathbf{x}\)(連続的)に置き換わっていますね。でも、なぜ時間の 1 階微分 \(\dot{q}\) が 4 次元微分 \(\partial_\mu\phi\) になるんですか? 時間だけじゃなく空間の微分も入っていますよね。
🟡 リナ: いい質問ね。2 つの理由があるわ。まず物理的には、場は空間に広がっているから、「隣り合う点の場の値の差」がエネルギーに寄与するの——バネで繋がった質点の列を思い浮かべると、隣同士の変位の差がバネのポテンシャルエネルギーを生むでしょう? それが空間微分 \(\nabla\phi\) として Lagrangian に入る理由よ。
🔵 カイ: あ、連続体の極限ってことですね。隣同士のバネの伸びが空間微分に対応する。
🟡 リナ: そう。そしてもう一つ、特殊相対論では時間と空間を対等に扱うから、時間微分 \(\dot{\phi}\) と空間微分 \(\nabla\phi\) をまとめて 4 次元の微分 \(\partial_\mu\phi\) と書くの。そして作用 \(S = \int d^4x\,\mathcal{L}\) は場の配位 \(\phi(x)\) という関数を入れると数 \(S\) が返ってくる——典型的な汎関数よ。
A.4.2 変分と場の Euler-Lagrange 方程式¶
🟡 リナ: 粒子の場合と同じ手順を踏むわ。\(\delta\phi(x)\) は「場 \(\phi\) の各時空点での値を微小量だけ変える」ことを表す記号よ——粒子力学で \(q(t) \to q(t) + \delta q(t)\) としたのと同じ。作用 \(S\) が停留する条件 \(\delta S = 0\) を、任意の \(\delta\phi(x)\) について成り立たせる。
(ここで \(\mu\) について \(0, 1, 2, 3\) の和をとっているわ——Einstein の縮約規則よ。本編第 3 章で導入した約束ね。)
まず \(\delta(\partial_\mu\phi) = \partial_\mu(\delta\phi)\) を使うわ。これは「変分 \(\delta\) と微分 \(\partial_\mu\) の順序は交換できる」ということよ。
🔵 カイ: ちょっと待ってください。なぜ順序を入れ替えていいんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。\(\delta\phi\) は「\(\phi\) を \(\phi + \delta\phi\) に置き換えたときの差分」よ。\(\partial_\mu(\phi + \delta\phi) - \partial_\mu\phi = \partial_\mu(\delta\phi)\) だから、\(\delta(\partial_\mu\phi) = \partial_\mu(\delta\phi)\) になるの。ここで使ったのは微分の「線形性」——つまり \(\partial_\mu(A + B) = \partial_\mu A + \partial_\mu B\) という性質だけよ。差分をとってから微分しても、微分してから差分をとっても同じ——粒子力学で \(\delta\dot{q} = \frac{d}{dt}(\delta q)\) としたのと全く同じ理屈よ。
🔵 カイ: なるほど、微分の線形性から来ているんですね。次は部分積分ですか?
🟡 リナ: そう。粒子力学では \(\int \frac{\partial L}{\partial\dot{q}}\frac{d}{dt}(\delta q)\,dt\) を部分積分して \(-\int \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q}}\cdot\delta q\,dt\)(+境界項)としたわね。4 次元でも同じことをするの。
ポイントは 2 つ。
- \(\int d^4x = \int dt\,dx\,dy\,dz\) は多重積分だから、各 \(\mu\) 方向ごとに 1 変数の部分積分を行うだけ——たとえば \(t\) 方向の部分積分をするとき、\(dx\,dy\,dz\) の積分は「外側にかぶさっている」だけで影響しないから、\(\int dx\,dy\,dz\left[\int dt\,(\cdots)\right]\) の内側の \(\int dt\) だけに注目すればいいの
- 第 2 項には \(\mu\) についての和(\(\mu = 0, 1, 2, 3\))が隠れているから、各 \(\mu\) の項を独立に部分積分する
つまり、新しい技法は何もなくて、高校で習った 1 変数の部分積分を 4 方向それぞれで 1 回ずつ行うだけよ。
⚪ メイ: 多重積分でも、注目する変数以外は「外側で待っている」だけだから、1 変数の操作で済むのね。
🟡 リナ: 具体的に \(\mu = 0\)(時間方向)の項を取り出してみるわ。\(\int d^4x = \int dt\,dx\,dy\,dz\) だから、\(t\) 以外の積分(\(dx\,dy\,dz\))はそのまま残して、\(t\) 方向だけに注目するの。第 2 項の \(\mu = 0\) の寄与は \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)}\,\delta(\partial_0\phi)\) で、先ほど確認した \(\delta(\partial_0\phi) = \partial_0(\delta\phi) = \frac{\partial}{\partial t}(\delta\phi)\) を使うと、被積分関数は \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)}\cdot\frac{\partial}{\partial t}(\delta\phi)\) という形になるわ。これは「何か \(\times\) \(\delta\phi\) の \(t\) 微分」だから、1 変数の部分積分がそのまま使えるの:
\(\mu = 1\)(\(x\) 方向)でも全く同じ要領で:
\(\mu = 2, 3\) も同様ね。4 つの方向それぞれで部分積分した結果を並べると:
- \(\mu = 0\): \(-\frac{\partial}{\partial t}\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)}\right)\delta\phi\)
- \(\mu = 1\): \(-\frac{\partial}{\partial x}\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_1\phi)}\right)\delta\phi\)
- \(\mu = 2, 3\) も同じ形
これら 4 つの項を足し合わせたものが、Einstein の縮約規則で \(\mu\) について和をとった形:
に他ならないわ。
🔵 カイ: おお、4 方向バラバラに部分積分しても、最後は \(\partial_\mu\) 一つにまとまるんですね。縮約規則の威力だ。
🟡 リナ: その通り。粒子力学では「始点と終点を固定する」(\(\delta q(t_1) = \delta q(t_2) = 0\))と仮定したわね。場の理論でも同じ発想で、「時空の無限遠で場の変分はゼロ」(\(\delta\phi \to 0\) as \(|x| \to \infty\))と仮定するの。物理的には、「無限に遠い場所や無限の未来・過去での場の値は変えない」——つまり、場の変化は有限の時空領域に限られるという自然な条件よ。この仮定のもとで境界項はすべて消えて:
\(\delta\phi\) は時空の各点で自由に選べる任意の関数だから、背理法で考えてみましょう。もし角括弧の中身がどこかの点 \(x_0\) でゼロでなかったとするわ。角括弧の中身は \(\phi\) と \(\mathcal{L}\) が滑らかなら連続関数だから、\(x_0\) のすぐ近くの点でも急にゼロにはならない——つまり \(x_0\) を含む小さな領域で、角括弧の中身はゼロでない値を保つの。そこで、その小さな領域の中だけで \(\delta\phi \neq 0\)、それ以外ではゼロ、という \(\delta\phi\) を選んでみて。すると積分 \(\int [\cdots]\delta\phi\,d^4x\) は、角括弧の中身がゼロでない領域で \(\delta\phi\) もゼロでないから、積分結果はゼロにならない——つまり \(\delta S \neq 0\) になってしまう。これは「あらゆる \(\delta\phi\) に対して \(\delta S = 0\)」という条件に矛盾するわ。
⚪ メイ: 背理法ね。「もし一点でもゼロでなかったら、そこだけつつく \(\delta\phi\) を作れてしまうから矛盾する」——粒子のときと同じ論法だわ。
🟡 リナ: そう(これは 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D で粒子の場合に使ったのと同じ論法よ)。したがって、角括弧の中身はすべての点でゼロでなければならない:
項の順序を入れ替えると(\(A - B = 0\) は \(B - A = 0\) と同じ)、粒子力学の Euler-Lagrange 方程式 \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\) と同じ「微分項が先」の形になるわ。教科書ではこちらの形で書くのが慣例よ。これが場の Euler-Lagrange 方程式:
⚪ メイ: 粒子力学の「時間微分 \(\frac{d}{dt}\)」が、場の理論では「4 次元微分 \(\partial_\mu\)」に置き換わるのね。時間と空間が対等。
✅ 理解度チェック: 粒子の Euler-Lagrange 方程式と場の Euler-Lagrange 方程式の主な違いは何でしょうか?
答え
粒子の場合は時間に関する全微分 \(\frac{d}{dt}\) が現れるのに対し、場の場合は時空の4次元偏微分 \(\partial_\mu\) が現れる。これは特殊相対論で時間と空間を対等に扱うことに対応している。また、Lagrangian \(L\) が Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}\) に、作用の時間積分 \(\int dt\) が時空積分 \(\int d^4x\) に拡張される。
A.4.3 具体例:Klein-Gordon 方程式¶
🟡 リナ: 本編第 3 章で扱った Klein-Gordon 場の Lagrangian 密度:
に場の Euler-Lagrange 方程式を適用してみるわ。その前に記号を確認しておくと、ここでは本編第 2 章で導入した QFT 流の符号規約(mostly-minus)を使っているわ。\(\partial^\mu\phi \equiv \eta^{\mu\nu}\partial_\nu\phi\) は Minkowski 計量 \(\eta^{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) で添字を「上げた」微分よ(本編第 3 章で導入済み)。つまり \(\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi = \eta^{\mu\nu}\partial_\mu\phi\,\partial_\nu\phi = (\partial_0\phi)^2 - (\partial_1\phi)^2 - (\partial_2\phi)^2 - (\partial_3\phi)^2\) ね(同じ添字が上下に現れたら \(\mu = 0, 1, 2, 3\) について和をとる——Einstein の縮約規則よ。本編第 3 章で導入したわね)。
🔵 カイ: 時間成分だけプラスで、空間成分がマイナスなんですよね。
🟡 リナ: そう。Euler-Lagrange 方程式に必要な \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\) を求めるために、この \(\frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi\,\partial_\beta\phi\) の部分を \(\partial_\mu\phi\) で偏微分してみるわ。\(\partial_0\phi, \partial_1\phi, \partial_2\phi, \partial_3\phi\) を互いに独立な変数とみなすの——粒子力学で \(q\) と \(\dot{q}\) を独立変数として扱ったのと同じ発想よ。
🔵 カイ: ちょっと待ってください。\(\phi\) が決まれば \(\partial_0\phi\) も \(\partial_1\phi\) も全部決まりますよね? なのに「独立な変数」として扱っていいんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。ここでの「独立変数とみなす」は、Lagrangian の中の偏微分を計算するときだけの約束事なの。粒子力学で \(L(q, \dot{q})\) を \(\dot{q}\) で偏微分するとき、\(q\) と \(\dot{q}\) は「\(L\) の引数として独立」と扱うでしょう? 実際には \(\dot{q} = \frac{dq}{dt}\) だから \(q(t)\) が決まれば \(\dot{q}\) も決まるのに、偏微分の計算では「もう一方を固定して片方だけ動かす」と考える。場の理論でも全く同じで、\(\mathcal{L}(\phi, \partial_0\phi, \partial_1\phi, \partial_2\phi, \partial_3\phi)\) の各引数を偏微分の計算上は独立に扱うの。運動方程式を導いた後で初めて、\(\phi\) と \(\partial_\mu\phi\) の関係が動的に決まるのよ。
🔵 カイ: 粒子力学の \(q\) と \(\dot{q}\) の関係と同じなんですね。……でもちょっと確認させてください。粒子力学では \(q\) と \(\dot{q}\) の 2 つだけが「独立」でしたけど、場の理論では \(\phi\) と \(\partial_0\phi, \partial_1\phi, \partial_2\phi, \partial_3\phi\) の 5 つが独立ってことですか? 変数の数が増えていますよね。
🟡 リナ: いい確認ね。その通りよ——場の Lagrangian 密度は \(\mathcal{L}(\phi, \partial_0\phi, \partial_1\phi, \partial_2\phi, \partial_3\phi)\) という 5 つの独立な引数を持つの。粒子力学の \(L(q, \dot{q})\) が 2 引数だったのに対して、時空の次元分だけ増えているわ。\(\partial_0\phi, \partial_1\phi, \partial_2\phi, \partial_3\phi\) を独立変数として扱っているから、たとえば \(\partial_1\phi\) を \(\partial_2\phi\) で偏微分すれば \(0\)、\(\partial_1\phi\) を \(\partial_1\phi\) で偏微分すれば \(1\) よね。これを一般的に書くと \(\frac{\partial(\partial_\alpha\phi)}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \delta_\alpha^\mu\) になるわ。\(\delta_\alpha^\mu\) は Kronecker デルタ——\(\alpha = \mu\) のとき \(1\)、\(\alpha \neq \mu\) のとき \(0\) を返す記号よ(本編で何度も使ってきたわね)。Dirac のデルタ関数 \(\delta(x)\) とは名前が似ているけれど全く別の対象だから混同しないでね——Kronecker デルタは離散添字用、Dirac デルタは連続変数用よ。
⚪ メイ: つまり \(\frac{\partial(\partial_\alpha\phi)}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \delta_\alpha^\mu\) は、「5 つの独立変数のうち同じものを微分したら 1、違うものなら 0」という当たり前のことを添字で書いただけね。
🟡 リナ: その通り。これを使って \(\frac{\partial}{\partial(\partial_\mu\phi)}\left(\frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi\,\partial_\beta\phi\right)\) を計算するわ。\(\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi\,\partial_\beta\phi\) は \(\partial_\alpha\phi\) と \(\partial_\beta\phi\) の「積」だから、積の微分法則(\(\frac{\partial(AB)}{\partial C} = \frac{\partial A}{\partial C}\cdot B + A\cdot\frac{\partial B}{\partial C}\))で \(\alpha\) 側と \(\beta\) 側からそれぞれ 1 項ずつ出るの。具体的には、\(\alpha\) 側を微分すると \(\frac{\partial(\partial_\alpha\phi)}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \delta_\alpha^\mu\) が出て、\(\beta\) 側を微分すると \(\frac{\partial(\partial_\beta\phi)}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \delta_\beta^\mu\) が出るわ。
🔵 カイ: 積の微分で 2 項出てくるのは普通の \(\frac{d}{dx}(fg) = f'g + fg'\) と同じですね。
🟡 リナ: そう。ここで Kronecker デルタの性質を使うの。\(\eta^{\alpha\beta}\delta_\alpha^\mu\) には \(\alpha\) について \(0, 1, 2, 3\) の和が隠れているわ(Einstein の縮約規則)。\(\delta_\alpha^\mu\) は「\(\alpha = \mu\) のときだけ 1」だから、和の中で \(\alpha = \mu\) の項だけが生き残る。つまり \(\sum_\alpha \eta^{\alpha\beta}\delta_\alpha^\mu = \eta^{\mu\beta}\) ね。同様に \(\eta^{\alpha\beta}\delta_\beta^\mu = \eta^{\alpha\mu}\) よ。
🔵 カイ: ちょっと確認させてください。\(\eta^{\alpha\beta}\delta_\alpha^\mu\) で \(\alpha\) の和をとると、\(\alpha = \mu\) の項だけ残って \(\eta^{\mu\beta}\) になる——これは「\(\delta\) が添字を置き換える」みたいな働きをしているんですね。
🟡 リナ: まさにその通り。Kronecker デルタの最も重要な役割は「添字の置き換え」よ。結果は \(\frac{1}{2}(\eta^{\mu\beta}\partial_\beta\phi + \eta^{\alpha\mu}\partial_\alpha\phi)\) になるの。\(\eta^{\mu\beta}\partial_\beta\phi = \partial^\mu\phi\) で、\(\eta^{\alpha\mu}\partial_\alpha\phi\) も添字の名前が違うだけで同じく \(\partial^\mu\phi\)。だから \(\frac{1}{2}(\partial^\mu\phi + \partial^\mu\phi) = \partial^\mu\phi\) となるわ。つまり \(\frac{\partial(x^2)}{\partial x} = 2x\) で \(\frac{1}{2}\) と打ち消し合うのと同じ要領ね:
⚪ メイ: \(\frac{1}{2}\) と積の微分の 2 項がちょうど相殺して、すっきり \(\partial^\mu\phi\) だけが残るのね。
🟡 リナ: これを場の Euler-Lagrange 方程式 \(\partial_\mu\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\right) - \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi} = 0\) に代入すると、\(\partial_\mu(\partial^\mu\phi) - (-m^2\phi) = 0\) だから:
ここで \(\partial_\mu(\partial^\mu\phi)\) は \(\partial_\mu\partial^\mu\phi\) と書いても同じよ。成分で書けば \(\partial_\mu\partial^\mu = \frac{\partial^2}{\partial t^2} - \frac{\partial^2}{\partial x^2} - \frac{\partial^2}{\partial y^2} - \frac{\partial^2}{\partial z^2}\) で、これが本編第 3 章で導入したダランベール演算子 \(\Box \equiv \partial_\mu\partial^\mu\) そのものね(QFT流の mostly-minus 規約)。まとめると:
あるいは添字を明示して \((\partial_\mu\partial^\mu + m^2)\phi = 0\) とも書くわ。
🔵 カイ: Klein-Gordon 方程式だ。本編第 3 章で Lagrangian から導出した——その導出の文法をここで確認しているわけですね。
✅ 理解度チェック: Lagrangian 密度 \(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi - \frac{m^2}{2}\phi^2 - \frac{\lambda}{4!}\phi^4\) から場の運動方程式を導け。
答え
\(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi} = -m^2\phi - \frac{\lambda}{3!}\phi^3\), \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \partial^\mu\phi\)。 運動方程式: \(\partial_\mu\partial^\mu\phi + m^2\phi + \frac{\lambda}{3!}\phi^3 = 0\)。 (\(\phi^4\) を \(\phi\) で微分すると \(4\phi^3\) が出て、\(\frac{1}{4!}\times 4 = \frac{1}{3!}\) となる。)
📝 練習問題:
- 様々な Lagrangian からの Euler-Lagrange 方程式の導出 → 問題 B-5. Euler-Lagrange 方程式の適用(1 次元調和振動子)
A.5 場の正準量子化¶
🟡 リナ: 粒子の正準量子化は 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D の「3 ステップ」で整理したわね。Poisson 括弧を交換関係に置き換えるレシピよ。ここではそれを場に拡張する。本編第 4 章で「スカラー場に正準交換関係を課して量子化する」と書いたときの、背後にある構造よ。
A.5.1 場の正準運動量密度¶
🟡 リナ: 粒子の正準運動量 \(p_i = \frac{\partial L}{\partial\dot{q}_i}\) に対応するのが、場の正準運動量密度 (canonical momentum density):
🔵 カイ: 添字 \(i\) が空間座標 \(\mathbf{x}\) に置き換わっていますね。「\(\mathbf{x}\) 番目の自由度の運動量」という感じ。
🟡 リナ: そう。例えば Klein-Gordon 場では、A.4.3 の \(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi - \frac{m^2}{2}\phi^2\) を時間成分と空間成分に分けてみるわ。計量 \(\eta^{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) を使うと \(\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi = (\partial_0\phi)^2 - (\partial_1\phi)^2 - (\partial_2\phi)^2 - (\partial_3\phi)^2 = \dot{\phi}^2 - (\nabla\phi)^2\) だから、\(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\dot{\phi}^2 - \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 - \frac{m^2}{2}\phi^2\) となるわ。ここから \(\pi = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}} = \dot{\phi}\) ね。
A.5.2 Hamiltonian 密度¶
🟡 リナ: 粒子の Hamiltonian \(H = p\dot{q} - L\) に対応するのが Hamiltonian 密度 (Hamiltonian density):
(ここで \(\dot{\phi}\) を \(\pi\) と \(\phi\) の関係式を使って消去すれば、\(\mathcal{H}\) は \(\phi, \pi, \nabla\phi\) の関数になるわ。)
🟡 リナ: 「密度」だから、全体の Hamiltonian を得るには空間で積分するの:
$$ H = \int d^3\mathbf{x}\;\mathcal{H} $$ ⚪ メイ: 粒子力学では \(H\) がそのままエネルギーだったけれど、場では各点のエネルギー密度を空間全体で足し上げるのね。
🟡 リナ: Klein-Gordon 場の場合、\(\pi = \dot{\phi}\) と \(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\dot{\phi}^2 - \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 - \frac{m^2}{2}\phi^2\) を代入すると:
括弧を外すとき、マイナスが全体にかかるから各項の符号が反転して:
\(\pi = \dot{\phi}\) だから \(\frac{1}{2}\dot{\phi}^2 = \frac{1}{2}\pi^2\) と書き換えて:
🔵 カイ: 全部が二乗の和——エネルギー密度が必ず \(0\) 以上になるんですね。安心感がある。
🟡 リナ: そう、全部が二乗の形で非負——これがエネルギー密度が正値であることを示しているわ。
A.5.3 場の Poisson 括弧と正準量子化¶
🟡 リナ: 粒子の Poisson 括弧 \(\{q_i, p_j\} = \delta_{ij}\) に対応するのが、場の Poisson 括弧よ。A.4.1 の対応表で見たように、粒子力学の離散添字 \(i\) が場の理論では連続座標 \(\mathbf{x}\) に置き換わるの。だから「\(i\) 番目の自由度と \(j\) 番目の自由度が同じかどうか」を表す \(\delta_{ij}\) も、「点 \(\mathbf{x}\) と点 \(\mathbf{y}\) が同じかどうか」を表す連続版——\(\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{y})\)——に変わるわ。結論を先に書いておくと、場の Poisson 括弧の基本関係式は:
これらは場の Poisson 括弧の定義から導かれる結果よ——定義そのものはこの後すぐ示すわ。両辺に同じ時刻 \(t\) が入っていることに注目してね。これらは同じ時刻 \(t\) で評価した「等時刻 Poisson 括弧」(equal-time Poisson bracket) よ。Poisson 括弧は古典力学の道具だから \(\hbar\) は含まれないわ——\(\hbar\) が登場するのは、この後の正準量子化で交換関係に置き換えるときよ。異なる時刻の場同士の関係は、運動方程式で決まるの。
⚪ メイ: Kronecker のデルタ \(\delta_{ij}\) が Dirac のデルタ関数 \(\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{y})\) に置き換わっているのね。
🔵 カイ: えっ、なんで Kronecker デルタじゃダメなんですか? 同じ点かどうかを判定するだけなら \(\delta_{ij}\) でもよさそうですけど。
🟡 リナ: いい疑問ね。離散的な添字 \(i, j\) が連続的な座標 \(\mathbf{x}, \mathbf{y}\) になるから、「\(i = j\) のときだけ 1」という Kronecker デルタでは連続的な座標を扱えないの。代わりに「\(\mathbf{x} = \mathbf{y}\) のところだけ鋭いピーク」を持つ Dirac デルタに自然に置き換わるのよ。ここで \(\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) は 3 次元版の Dirac デルタ関数——1 次元の \(\delta(x)\) を 3 方向に拡張したもので、\(\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y}) = \delta(x_1-y_1)\,\delta(x_2-y_2)\,\delta(x_3-y_3)\) と書けるわ。「拾い出し」性質も自然に拡張されて \(\int f(\mathbf{y})\,\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\,d^3\mathbf{y} = f(\mathbf{x})\) よ。
🔵 カイ: 離散 → 連続で \(\delta_{ij} \to \delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\)。……ということは、次元も変わりますよね? \(\delta_{ij}\) は無次元だけど、\(\int \delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\,d^3\mathbf{y} = 1\) が成り立つなら、\(d^3\mathbf{y}\) が \([L^3]\) だから \(\delta^{(3)}\) は \([L^{-3}]\) の次元を持つはず。交換関係の両辺の次元は合っているんですか?
🟡 リナ: いい着眼点ね。結論から言うと、ちゃんと合っているわ。確認してみましょう。まず粒子力学の \(\{q_i, p_j\} = \delta_{ij}\) を見ると、右辺の \(\delta_{ij}\) は無次元だから、左辺も無次元でなければならないわ。実際、Poisson 括弧の定義 \(\{A, B\} = \frac{\partial A}{\partial q}\frac{\partial B}{\partial p} - \cdots\) では分母に \(q\) と \(p\) の次元が入るから、\(\{q, p\}\) は \(\frac{[q]}{[q]}\cdot\frac{[p]}{[p]} = 1\)(無次元)になって整合するの。
場の場合を見てみましょう。\(\{\phi(\mathbf{x}), \pi(\mathbf{y})\} = \delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) の右辺は、\(\int \delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\,d^3\mathbf{y} = 1\) から分かるように、次元が \([L^{-3}]\)(長さの \(-3\) 乗)よ。左辺も同じ次元を持つ必要があるわね。
🔵 カイ: 粒子のときは無次元だったのに、場では \([L^{-3}]\) になるんですか? Poisson 括弧の定義自体が変わるってことですか?
🟡 リナ: そう、定義が変わるの。粒子力学では \(\{A, B\} = \sum_i\left(\frac{\partial A}{\partial q_i}\frac{\partial B}{\partial p_i} - \frac{\partial A}{\partial p_i}\frac{\partial B}{\partial q_i}\right)\) と、全自由度 \(i\) について和をとったわね。ここで \(A = q_k\)、\(B = p_l\) を代入すると \(\{q_k, p_l\} = \sum_i\left(\frac{\partial q_k}{\partial q_i}\frac{\partial p_l}{\partial p_i} - 0\right) = \sum_i \delta_{ki}\delta_{li} = \delta_{kl}\) と確認できるわ。場の理論では自由度が連続座標 \(\mathbf{z}\) でラベルされるから、この和 \(\sum_i\) が空間積分 \(\int d^3\mathbf{z}\) に置き換わるの。そして偏微分 \(\frac{\partial}{\partial q_i}\) も汎関数微分 \(\frac{\delta}{\delta\phi(\mathbf{z})}\) に変わるわ——粒子力学では「\(i\) 番目の座標 \(q_i\) で微分する」だったのが、場の理論では「点 \(\mathbf{z}\) での場の値 \(\phi(\mathbf{z})\) で微分する」に変わるの。A.3 で学んだ汎関数微分がまさにその操作よ。
⚪ メイ: \(\sum_i\) が \(\int d^3\mathbf{z}\) に、偏微分が汎関数微分に——粒子から場への置き換えが徹底しているのね。
🟡 リナ: つまり、一般の汎関数 \(A[\phi,\pi]\), \(B[\phi,\pi]\) に対する場の Poisson 括弧は: $$ {A, B} = \int d^3\mathbf{z}\left[\frac{\delta A}{\delta\phi(t,\mathbf{z})}\frac{\delta B}{\delta\pi(t,\mathbf{z})} - \frac{\delta A}{\delta\pi(t,\mathbf{z})}\frac{\delta B}{\delta\phi(t,\mathbf{z})}\right] $$
と定義されるわ。ここに \(A = \phi(t,\mathbf{x})\)、\(B = \pi(t,\mathbf{y})\) を代入すると: $$ {\phi(t, \mathbf{x}), \pi(t, \mathbf{y})} = \int d^3\mathbf{z}\left[\frac{\delta\phi(t,\mathbf{x})}{\delta\phi(t,\mathbf{z})}\frac{\delta\pi(t,\mathbf{y})}{\delta\pi(t,\mathbf{z})} - \frac{\delta\phi(t,\mathbf{x})}{\delta\pi(t,\mathbf{z})}\frac{\delta\pi(t,\mathbf{y})}{\delta\phi(t,\mathbf{z})}\right] $$
ここで \(\sum_i \to \int d^3\mathbf{z}\) の置き換えで \([L^3]\) の次元が入るから、結果が \([L^{-3}]\) になるの。
🔵 カイ: なるほど、和が積分に変わった分だけ次元がずれるから、右辺も Dirac デルタになって辻褄が合うんですね。
🟡 リナ: その通り。実際に計算してみましょう。ここで少し視点を変えるわ。\(\phi(\mathbf{x})\) は「場 \(\phi\) の点 \(\mathbf{x}\) での値」——つまり特定の数よね。でも汎関数微分 \(\frac{\delta\phi(\mathbf{x})}{\delta\phi(\mathbf{z})}\) を計算するには、\(\phi(\mathbf{x})\) を「場の配位 \(\phi\) 全体(つまり関数)を入力として受け取り、その中から点 \(\mathbf{x}\) での値という数を返す」ものとして見る必要があるの。
🔵 カイ: えっ、\(\phi(\mathbf{x})\) って「ある点での場の値」ですよね? それが汎関数だって言われると混乱するんですけど……。
🟡 リナ: 気持ちは分かるわ。たとえ話で考えてみて。クラス全員のテストの点数が並んだ表があるとするわね——これが「場の配位 \(\phi\) 全体」に対応するの。「太郎の点数を教えて」と聞くのは、表全体(関数)を入力として受け取り、太郎の欄の数値(数)を返す操作——これが汎関数よ。\(\phi(\mathbf{x})\) は「場の配位全体の中から、点 \(\mathbf{x}\) の値を拾い出す」操作なの。これは汎関数の定義そのものよ——A.2 の例 3 を思い出して。あそこで \(F[f] = \int f(y)\,\delta(y-x)\,dy = f(x)\) だったわね。「関数 \(f\) を入れたら、点 \(x\) での値 \(f(x)\) を返す」汎関数。今の \(\phi(\mathbf{x})\) も全く同じ構造なの——3 次元版で書けば \(\phi(\mathbf{x}) = \int \phi(\mathbf{z})\,\delta^{(3)}(\mathbf{z} - \mathbf{x})\,d^3\mathbf{z}\) よ。
🔵 カイ: なるほど、「表全体を見て特定の欄を読む」操作が汎関数……。確かに例 3 と同じ構造ですね。
🟡 リナ: そう。だから汎関数微分の定義に直接当てはめてみましょう。\(\phi(\mathbf{x}) = \int \phi(\mathbf{z})\,\delta^{(3)}(\mathbf{z} - \mathbf{x})\,d^3\mathbf{z}\) という形は、A.3 の計算例 2 で \(p = 1\)(つまり \([f(y)]^1 = f(y)\))、重み関数 \(\varphi(y) = \delta^{(3)}(\mathbf{z} - \mathbf{x})\) とした場合に対応するわ。計算例 2 の結果 \(\frac{\delta J}{\delta f(x)} = p[f(x)]^{p-1}\varphi(x)\) で \(p = 1\) とすると \(\varphi(x)\) がそのまま残るから、\(\frac{\delta\phi(\mathbf{x})}{\delta\phi(\mathbf{z})} = 1 \times \delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{z}) = \delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{z})\) が得られるの。
⚪ メイ: 前に導いた公式がそのまま使えるのね。道具を積み上げてきた甲斐があるわ。
🟡 リナ: 同様に \(\frac{\delta\pi(\mathbf{y})}{\delta\pi(\mathbf{z})} = \delta^{(3)}(\mathbf{y} - \mathbf{z})\)。一方、\(\phi\) は \(\pi\) に依存しないから \(\frac{\delta\phi(\mathbf{x})}{\delta\pi(\mathbf{z})} = 0\)。同様に \(\pi\) は \(\phi\) に依存しないから \(\frac{\delta\pi(\mathbf{y})}{\delta\phi(\mathbf{z})} = 0\)。したがって第 2 項は消えて:
最後のステップを丁寧に見てみましょう。被積分関数に \(\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{z})\) が含まれているわね。「拾い出し」性質 \(\int g(\mathbf{z})\,\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{z})\,d^3\mathbf{z} = g(\mathbf{x})\) を使うの。ここで \(g(\mathbf{z}) = \delta^{(3)}(\mathbf{y} - \mathbf{z})\) と見なせば、積分の結果は \(g(\mathbf{x}) = \delta^{(3)}(\mathbf{y} - \mathbf{x})\) になるわ。そして \(\delta^{(3)}(\mathbf{y} - \mathbf{x}) = \delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{y})\)(デルタ関数は偶関数だから)。こうして右辺の \(\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{y})\) が自然に出てくるわ。要するに、離散 → 連続の移行で \(\delta_{ij}\)(無次元)が \(\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\)(次元 \([L^{-3}]\))に変わる分だけ、Poisson 括弧の定義にも空間積分が入って次元が整合するのよ。
🔵 カイ: ちょっと整理させてください。粒子力学では \(\{q_i, p_j\}\) の定義に \(\sum_i\) があって、結果は無次元。場の理論では \(\sum_i\) が \(\int d^3\mathbf{z}\) に変わるから、\([L^3]\) の次元が余分に入る。その分だけ右辺も \(\delta_{ij}\)(無次元)から \(\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\)(\([L^{-3}]\))に変わって辻褄が合う——ということですね。……ところで、\(\phi\) と \(\pi\) の次元自体はどうなるんですか? 粒子の \(q\) や \(p\) とは違いますよね?
🟡 リナ: いい質問ね。自然単位系(\(\hbar = c = 1\))では、作用 \(S = \int d^4x\,\mathcal{L}\) が無次元になるように設計するの。本編第 2 章で学んだように、自然単位系ではすべての物理量の次元が質量 \([M]\) のべき乗で表せるわ。ここで使う対応だけ復習しておくと:\(c = 1\) から長さと時間が同じ次元になり \([L] = [T]\)、さらに \(\hbar = 1\) から \([L] = [M^{-1}]\)(長さは質量の逆数の次元)よ。最後の関係は \(\hbar = 1\) と \(c = 1\) を組み合わせると出るの——\(\hbar c\) は「エネルギー \(\times\) 長さ」の次元を持つから、\(\hbar c = 1\) とすると \([\text{長さ}] = [\text{エネルギー}]^{-1} = [M]^{-1}\) になるわ。直感的には、\(\hbar c \approx 200\,\text{MeV}\cdot\text{fm}\) だから、\(\hbar = c = 1\) とすると「1 GeV\(^{-1}\) ≈ 0.2 fm」——つまり質量が大きい粒子ほど小さい(短い波長を持つ)という対応ね。忘れた人は第 2 章を見直してね。
🔵 カイ: なぜ作用が無次元なんですか?
🟡 リナ: 量子力学で経路積分の重みが \(e^{iS/\hbar}\) だったでしょう? 指数関数の中身は無次元でなければならないから、\(S/\hbar\) が無次元——つまり \(S\) は \(\hbar\) と同じ次元を持つの。自然単位系では \(\hbar = 1\)(無次元)だから、\(S\) も無次元になるのよ。
⚪ メイ: 指数の中身が無次元——そこから全部の次元が芋づる式に決まるのね。
🟡 リナ: この単位系で次元を追ってみましょう。\([L] = [M^{-1}]\) だから、\(d^4x\) は「長さ 4 つ分」で次元 \([M^{-1}]^4 = [M^{-4}]\) ね。\(S = \int d^4x\,\mathcal{L}\) が無次元になるには \(\mathcal{L}\) は \([M^4]\) でなければならない。Klein-Gordon 場の \(\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2\) を見ると、\(\partial_\mu = \frac{\partial}{\partial x^\mu}\) は「長さで割る」操作だから次元は \([L^{-1}] = [M^1]\) よ。\(\mathcal{L}\) が \([M^4]\) で、\((\partial_\mu\phi)^2\) も \([M^4]\) でなければならないから、\(\partial_\mu\phi\) は \([M^2]\)。つまり \(\phi\) は \([M^{2-1}] = [M^1]\) ね。そして \(\pi = \dot{\phi} = \partial_0\phi\) だから、\(\pi\) の次元は \([\partial_0]\times[\phi] = [M^1]\times[M^1] = [M^2]\) よ。
🔵 カイ: なるほど。じゃあ Poisson 括弧の次元も確認できますか?
🟡 リナ: ええ。ここからは自然単位系(\(\hbar = c = 1\)、長さの次元が \([M^{-1}]\))で確認するわね。この単位系では \([L^{-3}] = [M^3]\) だから、先ほど「\(\delta^{(3)}\) の次元は \([L^{-3}]\)」と言ったのは \([M^3]\) と同じことよ。先ほど計算したように \(\frac{\delta\phi(\mathbf{x})}{\delta\phi(\mathbf{z})} = \delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{z})\) で、\(\delta^{(3)}\) の次元は \([M^3]\)(\(\int \delta^{(3)}\,d^3\mathbf{z} = 1\) で \(d^3\mathbf{z}\) が \([M^{-3}]\) だから)。同様に \(\frac{\delta\pi(\mathbf{y})}{\delta\pi(\mathbf{z})} = \delta^{(3)}(\mathbf{y}-\mathbf{z})\) も \([M^3]\)。\(\int d^3\mathbf{z}\) が \([M^{-3}]\) だから、全体は \([M^{-3}]\times[M^3]\times[M^3] = [M^3]\)。右辺の \(\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) も \([M^3]\) で整合するの。
🔵 カイ: なるほど、作用が無次元という条件から全部決まるんですね。……ということは、もし作用に \(\hbar\) を残す単位系(SI 単位系とか)で書いたら、\(\phi\) や \(\pi\) の次元も変わって、交換関係の右辺にも \(\hbar\) が出てくるわけですか?
🟡 リナ: その通りよ。自然単位系では \(\hbar = 1\) だから交換関係は \([\hat{\phi}(\mathbf{x}), \hat{\pi}(\mathbf{y})] = i\,\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) と書けるけれど、\(\hbar\) を残す単位系では右辺に \(i\hbar\) が明示的に現れるの。この Appendix では途中の計算は自然単位系で簡潔に進めて、最終的な boxed の式で \(i\hbar\) を明示しておくわね。
⚪ メイ: つまり、本編で \(\hbar = 1\) と書いていた式の「本来の姿」が boxed の式で確認できるのね。
✅ 理解度チェック: 粒子の正準量子化で Kronecker デルタ \(\delta_{ij}\) が現れる箇所が、場の正準量子化では Dirac デルタ関数 \(\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{y})\) に置き換わる理由を説明してみましょう。
答え
粒子力学では自由度が離散的な添字 \(i, j\) でラベルされるため、「同じ自由度かどうか」を Kronecker デルタ \(\delta_{ij}\) で表す。場の理論では自由度が連続的な空間座標 \(\mathbf{x}, \mathbf{y}\) でラベルされるため、「同じ空間点かどうか」を Dirac デルタ関数 \(\delta^{(3)}(\mathbf{x} - \mathbf{y})\) で表す必要がある。
🟡 リナ: そして正準量子化のレシピ——Poisson 括弧を交換関係に置き換えるとき \(\hbar\) が登場するの——\(\{\ ,\ \} \to \frac{1}{i\hbar}[\ ,\ ]\) を適用すると:
これが本編第 4 章の出発点、場の等時刻交換関係よ。「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D で見た \([\hat{q}, \hat{p}] = i\hbar\) の場版。本編第 4 章では自然単位系 \(\hbar = 1\) を使っていたから \([\hat{\phi}, \hat{\pi}] = i\,\delta^{(3)}\) と書いていたけれど、ここでは \(\hbar\) を明示しておくわ。
A.5.4 対応関係のまとめ¶
🟡 リナ: 粒子と場の対応を一覧にすると:
表 A.5: 粒子と場の正準量子化の対応一覧
| 粒子力学 | 場の理論 |
|---|---|
| 一般化座標 \(q_i(t)\) | 場 \(\phi(t, \mathbf{x})\) |
| Lagrangian \(L(q, \dot{q})\) | Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi)\) |
| 正準運動量 \(p_i = \frac{\partial L}{\partial\dot{q}_i}\) | 正準運動量密度 \(\pi = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}}\) |
| Hamiltonian \(H = p_i\dot{q}_i - L\) | \(H = \int d^3\mathbf{x}\,\mathcal{H}\) (\(\mathcal{H} = \pi\dot{\phi} - \mathcal{L}\)) |
| \(\{q_i, p_j\} = \delta_{ij}\) | \(\{\phi(\mathbf{x}), \pi(\mathbf{y})\} = \delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) |
| 正準量子化: \([\hat{q}_i, \hat{p}_j] = i\hbar\,\delta_{ij}\) | \([\hat{\phi}(\mathbf{x}), \hat{\pi}(\mathbf{y})] = i\hbar\,\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) |
🔵 カイ: こうして並べると、粒子力学で覚えた道具がそのまま場に使えるんですね。……でも逆に、この対応が崩れるケースってあるんですか? たとえばゲージ場とか。
🟡 リナ: いい着眼点ね。実はゲージ場では「拘束条件」があるために、素朴な正準量子化がそのままでは使えないの。本編第 7 章で「ゲージ固定」が必要だった理由がまさにそれよ。でもこの Appendix の範囲を超えるから、ここでは「スカラー場のような単純な場ではこの対応がそのまま成り立つ」と理解しておいてね。
⚪ メイ: この Appendix の核心はこの表ね。粒子と場で、道具の構造が全部対応している——少なくとも拘束のない場については。
🟡 リナ: そう。「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D で学んだ粒子の正準量子化を、連続無限自由度に拡張したのが場の量子論——道具は同じ、適用する対象が違うだけなの。
📝 練習問題:
- 場の正準運動量と Hamiltonian 密度の計算 → 問題 M-2. 場の正準運動量と Hamiltonian 密度
A.6 なぜ自然は作用原理に従うのか?¶
🟡 リナ: 最後に、一つだけ深い問いに触れておくわ。「なぜ粒子(あるいは場)は作用が停留する経路(配位)を選ぶのか?」——これは 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D でも問いとして提示したけれど、場の量子論になった今、もう少し踏み込んで答えられるわ。
🔵 カイ: 高校で習ったフェルマーの原理のときに感じた「光が一番速い経路を知っている」みたいな不思議ですね。
🟡 リナ: 古典力学の範囲では、これは「そういう原理だから」としか言えない。でも量子力学・量子場理論が答えを与えてくれるの。
本編第 10〜11 章で学んだ Feynman の経路積分を思い出して。経路積分の核心は、量子論では粒子(あるいは場)が「あらゆる可能な経路(配位)を同時に通る」と考え、各経路に作用 \(S\) から決まる位相因子 \(e^{iS/\hbar}\) を重みとしてつけて、すべてを足し合わせるというものだったわね。古典的極限(\(\hbar \to 0\))では、\(S\) が停留しない経路は位相 \(S/\hbar\) が激しく振動して互いに打ち消し合う。\(S\) が停留する経路の近傍だけが生き残る——だから古典的な粒子は \(\delta S = 0\) の経路を「選ぶ」ように見えるの。
⚪ メイ: つまり作用原理は、量子論の経路積分の古典的極限として説明されるのね。
🟡 リナ: そう。フェルマーの原理も同じ。光の波動性を考えれば、位相が揃う(=光路長が停留する)経路だけが強め合って生き残る。変分原理は「波の干渉の古典的極限」なのよ。
🔵 カイ: 「なぜ自然は最小作用に従うのか」という問いが、「あらゆる経路の重ね合わせ」という量子論の構造から自然に出てくるんですね。でもちょっと確認させてください——「停留しない経路は打ち消し合う」って、具体的にはどのくらいの精度で消えるんですか? 完全にゼロになるわけじゃないですよね?
🟡 リナ: いい質問ね。厳密にはゼロにはならないわ——\(\hbar\) が有限だから、古典経路の近傍に幅 \(\sim\sqrt{\hbar}\) の「量子的なぼやけ」が残るの。でも巨視的な物体では \(S/\hbar\) が天文学的に大きいから、停留点から少しでもずれると位相が猛烈に振動して、実質的に完全に消えると見なせるのよ。
🔵 カイ: なるほど。じゃあ逆に言えば、経路積分がなかった時代の物理学者は「なぜ作用原理が成り立つのか」を説明できなかったってことですか?
🟡 リナ: その通りよ。Euler や Lagrange の時代には、作用原理は「経験的に正しい公理」として受け入れるしかなかった。Feynman が 1948 年に経路積分を定式化して初めて、「なぜ自然は作用を停留させるのか」に物理的な説明がついたの。そして場の量子論においても全く同じ構造が成り立つわ。場の古典運動方程式(Klein-Gordon、Maxwell、Einstein)はすべて、対応する場の量子論の古典極限として理解できる。「なぜ作用原理か?」という問いは、「すべての可能な場の配位の量子的重ね合わせの古典極限」として自然に答えられるの。
🔵 カイ: 公理だと思っていたものが、もっと深い理論の帰結だったんですね。
🟡 リナ: つまり、古典力学では作用原理は「公理」——証明なしに受け入れる出発点だった。でも量子論の経路積分から見れば、それは「導かれる結果」に変わるの。公理の数が減って、より少ない仮定から多くのことが説明できるようになる——理論が深くなるとはそういうことよ。
⚪ メイ: 作用原理の地位が「仮定」から「帰結」に変わるのね。
🔵 カイ: ということは、「なぜ」の階層が一段下がっただけですよね。作用原理の「なぜ」は経路積分が答えた——でも、じゃあ経路積分そのものの「なぜ」は? 「なぜあらゆる経路を重ね合わせるのか」は、さらに深い理論が答えてくれるんですか?
🟡 リナ: 鋭い問いね。現時点では経路積分の構造自体が量子論の基本原理——つまり「公理」の位置にあるわ。将来もっと深い理論が見つかれば、それも「導かれる」ものになるかもしれない。でも今はここが最も深い層よ。
🔵 カイ: でもそうすると、経路積分の重み \(e^{iS/\hbar}\) の「\(S\)」自体が Lagrangian から作られていますよね。循環していませんか?
🟡 リナ: いい指摘ね。でも循環ではないの。経路積分では \(S\) が停留するかどうかに関係なくすべての \(S\) の値を使う——\(\delta S = 0\) を仮定していないわ。結果として古典極限で \(\delta S = 0\) が「出てくる」のであって、入力として仮定しているわけではないの。
🔵 カイ: なるほど……入力は「\(S\) の定義」だけで、「\(\delta S = 0\)」は出力なんですね。仮定していないのに出てくる——それは確かに循環じゃない。
⚪ メイ: ここまでの論理を整理すると——経路積分は「すべての配位に \(e^{iS/\hbar}\) をつけて足す」だけで、\(\delta S = 0\) は仮定していない。でも古典極限で停留位相だけが生き残るから、結果として \(\delta S = 0\) が「出てくる」。入力と出力の区別がポイントね。
🔵 カイ: でもそうすると、次の疑問が出てきます。\(S\) の形を決める原理って何なんですか?
🟡 リナ: 対称性(Lorentz 不変性やゲージ不変性)が \(S\) の形を強く制約するの——本編第 7 章で見たように。でも「なぜその対称性なのか」はさらに深い問いになるわね。
🔵 カイ: 結局「なぜ」を一段掘ると、また新しい「なぜ」が出てくるんですね……。でも少なくとも、作用原理の「なぜ」には経路積分が答えてくれた。それだけでも一段深くなった感じがします。
⚪ メイ: もう少し整理させて。この章で見た構造を一言でまとめると——古典力学では作用原理は「公理」、量子論では経路積分の古典極限として「導かれる」。そして経路積分自体は現時点では公理。つまり「より深い理論が、浅い理論の公理を帰結に変える」という階層構造ね。Newton力学が相対論の極限として「導かれる」ものになったのと同じパターン。
🔵 カイ: 物理学って終わりのない階段みたいですね。でもその階段を一段降りるたびに、前の段が「説明される」ものに変わるのは気持ちいい。……もし将来「経路積分のなぜ」に答える理論が見つかったら、そのときは経路積分自体が「導かれるもの」に格下げされるわけですね。でもそうなったら、その新しい理論にもまた「なぜ」が残る?
🟡 リナ: おそらくね。でもそれは物理学の弱さではなく強さよ——常に次の問いが残るからこそ、探求が続くの。
✅ 理解度チェック: 経路積分の観点から、古典的な粒子が作用 \(S\) の停留する経路を「選ぶ」ように見える理由を説明してみましょう。
答え
量子論ではあらゆる経路に重み \(e^{iS/\hbar}\) がつく。古典的極限(\(\hbar \to 0\))では、作用 \(S\) が停留しない経路は位相 \(S/\hbar\) が激しく振動して互いに打ち消し合う。\(S\) が停留する経路の近傍だけが位相が揃って生き残るため、古典的には \(\delta S = 0\) の経路だけが実現するように見える。
まとめ¶
🟡 リナ: この Appendix で整理した道具を一覧にしておくわ。
表 A.6: 本Appendixの道具と本編での使用箇所
| 道具 | 定義・公式 | 本編での使用箇所 |
|---|---|---|
| 汎関数 | \(F[f]\): 関数 → 数 | 第 3 章以降全般(特に第 10〜11 章の経路積分) |
| 汎関数微分 | \(\frac{\delta F}{\delta f(x)}\) | 第 11 章(生成汎関数) |
| 場の Euler-Lagrange 方程式 | \(\partial_\mu\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\right) - \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi} = 0\) | 第 3 章(古典場の理論) |
| 場の正準運動量密度 | \(\pi = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}}\) | 第 4〜6 章(正準量子化) |
| Hamiltonian 密度 | \(\mathcal{H} = \pi\dot{\phi} - \mathcal{L}\) | 第 4〜6 章 |
| 場の正準交換関係 | \([\hat{\phi}(\mathbf{x}), \hat{\pi}(\mathbf{y})] = i\hbar\,\delta^{(3)}(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) | 第 4〜6 章 |
粒子の解析力学(Lagrangian・Hamiltonian・Poisson 括弧・正準量子化そのもの)は 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D に委ね、場に固有の拡張に絞った。これで本編の第 3 章以降で使ってきた道具の出自は、すべて 「量子力学」編 「量子力学」編 Appendix D + 本 Appendix A で辿れる。
次章予告¶
Appendix B: Lorentz 群の表現とスピノル — 本 Appendix では「場」を量子化する枠組みを整備した。次は「場がどのような表現空間に住むか」を問う。Lorentz 変換のもとで場がどのように変換されるか——スカラー、ベクトル、そしてスピノル——を数学的に分類し、本編で Dirac 場や Weyl スピノルを扱った際の「なぜ 4 成分なのか」「なぜ \(\gamma\) 行列が必要なのか」という問いに、表現論の言葉で答える。
参考文献¶
- Quantum Field Theory for the Gifted Amateur (Lancaster & Blundell) 第 2 章「Lagrangian mechanics」、第 6 章「A first stab at relativistic quantum mechanics」
- 場の量子論 — 不変性と自由場を中心にして(坂本眞人、裳華房) 第 9 章「解析力学の復習と場のラグランジアン形式」
- QM Appendix D「Lagrangian・Hamiltonian 形式と正準量子化」(粒子の解析力学の詳細)
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