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第 6 章 電磁場の量子化 — ゲージ自由度との格闘

前回までのあらすじ:

第 5 章では Dirac 場を量子化し、フェルミオンの反交換関係 \(\{a_{\mathbf{p},s}, a_{\mathbf{q},r}^\dagger\} = (2\pi)^3 \delta^3(\mathbf{p} - \mathbf{q})\delta_{sr}\) がスピン・統計定理を自然に実現すること、そして反粒子が正エネルギー解として現れることを確認した。これでスピン 0(スカラー場)とスピン 1/2(Dirac 場)の量子化が完了した。

この章のゴール

  • 電磁場(スピン 1)を量子化し、ゲージ対称性という「記述の冗長性」が量子化に深刻な困難を引き起こすことを理解する
  • Coulomb ゲージと Lorenz ゲージという 2 つの処方で困難を乗り越え、最終的に物理的な光子は 2 つの横偏光のみであることを導く

6.1 Maxwell 場の Lagrangian——出発点

🟡 リナ: さて、スカラー場、Dirac 場と量子化してきたわね。残る主役は光子——スピン 1 の粒子よ。光子は電磁場を量子化すると現れる。でも、ここには前の 2 つにはなかった根本的な困難が待っている。

🔵 カイ: どんな困難ですか?

🟡 リナ: それを理解するには、まず電磁場の Lagrangian を書き下すところから始めましょう。第 3 章で学んだように、場の理論は Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}\) から出発する。電磁場の場合、ソース(電荷や電流)がない自由場では

\[ \mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} \tag{6.1} \]

よ。係数の \(-1/4\) は、ここから Euler-Lagrange 方程式を導いたときに正しい Maxwell 方程式が出るように選ばれた規格化定数——後で確認するわ。\(F_{\mu\nu}\)場の強さテンソル (field strength tensor) と呼ばれる量で、

\[ F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu \tag{6.2} \]

と定義される。\(A_\mu\)4 元ポテンシャル (four-potential) ね。

🔵 カイ: \(A_\mu\) って何の成分を持つんですか?

🟡 リナ: 4 つの成分を持つ 4 元ベクトルよ。

\[ A_\mu = (A_0,\, A_1,\, A_2,\, A_3) \]

\(A_0\) は高校で習った電位(スカラーポテンシャル)に対応し、\(\mathbf{A} = (A^1, A^2, A^3)\)(反変成分)がベクトルポテンシャル。計量 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) のもとで \(A^i = -A_i\) であることに注意してね(空間成分は上付きと下付きで符号が反転する。この章では物理的な電場・磁場を表すときは反変成分 \(A^i\) を使い、正準形式の議論では共変成分 \(A_i\) を使うことが多いわ)。電場 \(\mathbf{E}\) と磁場 \(\mathbf{B}\)

\[ \mathbf{E} = -\nabla A_0 - \frac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}, \qquad \mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A} \tag{6.3} \]

で与えられる(自然単位系 \(c = 1\) を使っているから、Gauss 単位系の式 \(\mathbf{E} = -\nabla\Phi - \frac{1}{c}\frac{\partial\mathbf{A}}{\partial t}\) から \(c\) が消えた形よ)。つまり、電場と磁場は \(A_\mu\) から導かれる「二次的な量」なの。そして定義 (6.2) を見ると、\(\mu\)\(\nu\) を入れ替えたら引き算の順序が逆になるから \(F_{\mu\nu} = -F_{\nu\mu}\)——反対称テンソルよ。対角成分 \(F_{\mu\mu}\) は自動的にゼロね。

⚪ メイ: なるほど、反対称で対角がゼロということは、独立な成分は上三角部分だけ……\(4 \times 3 / 2 = 6\) 個ね。

🟡 リナ: そう。そしてその 6 つが電場 3 成分と磁場 3 成分にちょうど対応するの。

🟡 リナ: そう。添字を上げた \(F^{\mu\nu} = \eta^{\mu\alpha}\eta^{\nu\beta}F_{\alpha\beta}\) を具体的に書くと

\[ F^{\mu\nu} = \begin{pmatrix} 0 & -E_x & -E_y & -E_z \\ E_x & 0 & -B_z & B_y \\ E_y & B_z & 0 & -B_x \\ E_z & -B_y & B_x & 0 \end{pmatrix} \tag{6.4} \]

🔵 カイ: この行列の成分はどうやって導くんですか? 例えば \(F^{0i} = -E_i\) になる理由は?

🟡 リナ: 順を追って見ていきましょう。まず \(F_{0i} = \partial_0 A_i - \partial_i A_0\) を式 (6.3) と比較するわ。式 (6.3) で \(\mathbf{A}\) は物理的ベクトルポテンシャル、つまり反変成分 \(A^i\) のことよ。添字を下げるには計量を使って \(A_i = \eta_{ij}A^j = (-\delta_{ij})A^j = -A^i\)(空間成分は計量のマイナスで符号が反転する)。\(A_i = -A^i\) だから

\[ F_{0i} = \partial_0 A_i - \partial_i A_0 = -\partial_0 A^i - \partial_i A_0 = E^i \]

(確認しましょう。\(A_i = -A^i\) だから \(\partial_0 A_i = -\partial_0 A^i\)。したがって \(F_{0i} = \partial_0 A_i - \partial_i A_0 = -\partial_0 A^i - \partial_i A_0\)。一方、式 (6.3) の \(\nabla A_0\) は各成分が \(\partial A_0/\partial x^i\) のベクトルだから、\(E^i = -(\nabla A_0)_i - \dot{A}^i = -\partial_i A_0 - \partial_0 A^i\)。ここで \(\partial_i A_0 \equiv \partial A_0/\partial x^i\) よ。2つを比較すると \(F_{0i} = E^i\) と一致するわね。)次に添字を上げる。\(F^{\mu\nu} = \eta^{\mu\alpha}\eta^{\nu\beta}F_{\alpha\beta}\) を使って \(F^{0i}\) を求めると、対角計量だから \(\mu = 0\) に対して \(\eta^{0\alpha}\)\(\alpha = 0\) のみ非ゼロ、\(\nu = i\) に対して \(\eta^{i\beta}\)\(\beta = i\) のみ非ゼロ(和を取らない)。したがって

\[ F^{0i} = \eta^{00} \eta^{ii} F_{0i} = (+1)(-1) F_{0i} = -F_{0i} = -E^i \]

(ここで \(\eta^{ii} = -1\)(和の規約なし)を使ったわ。\(F_{0i} = E^i\) だから \(F^{0i} = -E^i\) ね。)反対称性から \(F^{i0} = -F^{0i} = E^i\) ね。行列 (6.4) で確認すると、第 1 行の \(i = 1, 2, 3\) 列目が \(-E_x, -E_y, -E_z\) で、これは \(F^{0i} = -E^i\)\(E^1 = E_x\) 等)と一致しているわ。

🔵 カイ: おお、計量の \(+1\)\(-1\) の組み合わせで符号が決まるんですね。

🟡 リナ: 電場と磁場が 1 つの反対称テンソルに統一されている——特殊相対論の美しさがここに現れているわ。

🔵 カイ: この Lagrangian (6.1) から Maxwell 方程式が出るんですか?

🟡 リナ: ええ。第 3 章で学んだ場の Euler-Lagrange 方程式 \(\partial_\mu \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu A_\nu)} - \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial A_\nu} = 0\) を適用するわ。\(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\)\(A_\nu\) 自体を含まないから第 2 項はゼロ。第 1 項を計算すると \(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu A_\nu)} = -F^{\mu\nu}\) となるので(\(-1/4\) の係数と反対称性に由来する因子 4 が相殺する)、結果は

\[ \partial_\mu F^{\mu\nu} = 0 \tag{6.5} \]

これは真空中の Maxwell 方程式の共変形よ。\(\nu = 0\) を取れば Gauss の法則 \(\nabla \cdot \mathbf{E} = 0\)\(\nu = i\) を取れば Ampère-Maxwell の法則 \(\nabla \times \mathbf{B} = \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}\) になる。

⚪ メイ: 残りの 2 つの Maxwell 方程式——\(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\) と Faraday の法則——は?

🟡 リナ: それらは \(F_{\mu\nu}\) の定義 (6.2) から自動的に成り立つ恒等式(Bianchi 恒等式)よ。4 つの Maxwell 方程式の由来を整理しておくわね。

表 6.1: Maxwell 方程式の共変形式と由来

Maxwell 方程式 成分 共変形式 由来
Gauss の法則 \(\nabla \cdot \mathbf{E} = 0\) \(\nu = 0\) \(\partial_\mu F^{\mu 0} = 0\) 運動方程式 (6.5)
Ampère-Maxwell \(\frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} = \nabla \times \mathbf{B}\) \(\nu = i\) \(\partial_\mu F^{\mu i} = 0\) 運動方程式 (6.5)
\(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\) Bianchi 恒等式 (6.6) \(F_{\mu\nu}\) の定義から自動
Faraday \(\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}\) Bianchi 恒等式 (6.6) \(F_{\mu\nu}\) の定義から自動
\[ \partial_\lambda F_{\mu\nu} + \partial_\mu F_{\nu\lambda} + \partial_\nu F_{\lambda\mu} = 0 \tag{6.6} \]

偏微分の順序が交換可能だから、代入すれば全ての項が相殺する。

🔵 カイ: 4 つの Maxwell 方程式が、たった 1 つの Lagrangian と定義式から全部出てくるんですね。

✅ 理解度チェック: \(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\) が反対称(\(F_{\mu\nu} = -F_{\nu\mu}\))であることを、定義から直接示してみましょう。

答え

\(\mu\)\(\nu\) を入れ替えると \(F_{\nu\mu} = \partial_\nu A_\mu - \partial_\mu A_\nu = -(\partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu) = -F_{\mu\nu}\)。引き算の順序が逆になるだけなので、符号が反転する。

📝 練習問題:


6.2 U(1) ゲージ対称性——記述の冗長性

🟡 リナ: さて、ここからがこの章の核心よ。Lagrangian (6.1) には、スカラー場や Dirac 場にはなかった巨大な対称性がある。それがゲージ対称性 (gauge symmetry) よ。

4 元ポテンシャルに対して、次の変換を行っても物理は一切変わらない:

\[ A_\mu(x) \to A_\mu(x) + \partial_\mu \lambda(x) \tag{6.7} \]

ここで \(\lambda(x)\) は時空の任意の関数。これをゲージ変換 (gauge transformation) と呼ぶわ。

🔵 カイ: 「任意の関数」ですか? それはものすごく大きな自由度ですね。なぜ物理が変わらないんですか?

🟡 リナ: 場の強さテンソル \(F_{\mu\nu}\) を計算してみて。

\[ F_{\mu\nu} \to \partial_\mu(A_\nu + \partial_\nu \lambda) - \partial_\nu(A_\mu + \partial_\mu \lambda) = F_{\mu\nu} + \partial_\mu \partial_\nu \lambda - \partial_\nu \partial_\mu \lambda \]

偏微分の順序は交換できるから \(\partial_\mu \partial_\nu \lambda = \partial_\nu \partial_\mu \lambda\)。したがって

\[ F_{\mu\nu} \to F_{\mu\nu} \tag{6.8} \]

\(F_{\mu\nu}\) が不変なら、\(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) も不変。電場 \(\mathbf{E}\) も磁場 \(\mathbf{B}\) も変わらない。

⚪ メイ: つまり、\(A_\mu\)\(A_\mu + \partial_\mu \lambda\)同じ物理を記述しているのね。

🟡 リナ: まさにそう。\(A_\mu\) には「本質的な曖昧さ」があるの。ここで非常に重要な点を強調しておくわ。

ゲージ対称性は、通常の意味での「対称性」ではない。 空間回転のように「異なる物理的状態を結びつける」のではなく、同じ物理的状態の異なる記述を結びつける。つまり、我々の記述に含まれる冗長性 (redundancy) を表しているの。

🔵 カイ: 冗長性……。地図の座標系を変えても、東京は東京のまま、みたいなことですか?

🟡 リナ: 素晴らしい例えね。まさにその通り。\(A_\mu\) は「座標」のようなもので、物理的に意味があるのは \(F_{\mu\nu}\)(つまり \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\))という「座標に依存しない量」なの。図 6.1「ゲージ変換の概念図」 を見て。ゲージ変換で \(A_\mu\) は変わるけれど、物理量 \(F_{\mu\nu}\) は不変——この構造を図にまとめたわ。

ゲージ変換の概念図

図 6.1: ゲージ変換の概念図。ゲージ変換は同じ物理の異なる記述を結びつける。ポテンシャル \(A_\mu\) は変わるが、物理量 \(F_{\mu\nu}\)(電場・磁場)は不変。

✅ 理解度チェック: ゲージ変換 \(A_\mu \to A_\mu + \partial_\mu \lambda\) のもとで \(F_{\mu\nu}\) が不変であることを、式 (6.2) の定義に代入して示してみましょう。

答え

\(F_{\mu\nu}' = \partial_\mu(A_\nu + \partial_\nu \lambda) - \partial_\nu(A_\mu + \partial_\mu \lambda) = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu + \partial_\mu \partial_\nu \lambda - \partial_\nu \partial_\mu \lambda\)。偏微分の順序は交換可能なので \(\partial_\mu \partial_\nu \lambda = \partial_\nu \partial_\mu \lambda\)。よって \(F_{\mu\nu}' = F_{\mu\nu}\)

🔵 カイ: でも、冗長性があるなら、なぜわざわざ \(A_\mu\) を使うんですか? 最初から \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) だけで記述すればいいのでは?

🟡 リナ: 実は \(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) だけでは Lagrangian をうまく書けないの。Lorentz 共変な Lagrangian を書くには \(A_\mu\) が必要。しかも量子力学では、Aharonov-Bohm (アハラノフ-ボーム) 効果のような現象で、\(A_\mu\) 自体が物理的な役割を果たす場面がある。Aharonov-Bohm 効果とは、磁場 \(\mathbf{B} = 0\) の領域を通る電子の干渉パターンが、その領域を囲む磁束(つまり \(\mathbf{A}\) の線積分)に依存するという驚くべき現象よ。\(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) がゼロでも \(\mathbf{A}\) が物理的効果を持つ——ポテンシャルが単なる計算の道具ではないことの証拠なの。冗長性を含んでいても、\(A_\mu\) を使うことには深い理由があるの。


ゲージ対称性と局所 U(1) 変換

🟡 リナ: ゲージ変換 (6.7) を、物質場(荷電粒子の場)の側から見てみましょう。電磁場 \(A_\mu\) は「力を伝える場」だけど、力を受ける側——電荷を持つ粒子の場——も必要よね。ここでは話を最もシンプルにするために、第 4 章で学んだ複素スカラー場を「荷電粒子の場」の代表として使うわ。第 4 章ではモード展開の式で \(\hat{\psi}\) と書いたけれど、ここでは Dirac スピノルとの混同を避けるために \(\phi\) と書くわね。その Lagrangian は

\[ \mathcal{L}_{\text{matter}} = \partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi - m^2 \phi^* \phi \tag{6.9} \]

だった。複素スカラー場は 1 成分だから、複素共役 \(*\) とエルミート共役 \(\dagger\) は同じ意味よ。この Lagrangian は大域的 U(1) 変換

\[ \phi(x) \to e^{i\alpha} \phi(x) \tag{6.10} \]

\(\alpha\) は定数)のもとで不変よ。第 3 章の Noether の定理から、この対称性に対応する保存量が電荷だった。

🔵 カイ: 大域的というのは、宇宙のどこでも同じ \(\alpha\) だけ回す、ということですよね。

🟡 リナ: そう。でも、ここで野心的な問いを立ててみる。各時空点で独立に位相を変えても不変にできないか? つまり

\[ \phi(x) \to e^{i\alpha(x)} \phi(x) \tag{6.11} \]

という局所的 (local) な変換のもとでの不変性を要求するの。

⚪ メイ: \(\alpha(x)\)\(x\) に依存するから、微分したとき余計な項が出てくるわね。

🟡 リナ: その通り。\(\partial_\mu \phi \to e^{i\alpha(x)}(\partial_\mu \phi + i(\partial_\mu \alpha)\phi)\) となって、余計な \(i(\partial_\mu \alpha)\phi\) が生き残る。Lagrangian の不変性が壊れてしまう。

🔵 カイ: じゃあ、局所的な不変性は無理なんですか?

🟡 リナ: いいえ。ここが天才的なアイデアなの。問題は \(\partial_\mu(e^{i\alpha}\phi)\) に余計な \(i(\partial_\mu \alpha)\phi\) が出てくること。これを打ち消すには、微分するたびに \(-i(\partial_\mu \alpha)\) を補償してくれる「何か」が必要よね。

逆算してみましょう。\(D_\mu \phi\)\(\phi\) と同じ変換則 \(D_\mu \phi \to e^{i\alpha} D_\mu \phi\) に従ってほしい。通常の微分 \(\partial_\mu\) だけでは余計な \(i(\partial_\mu \alpha)\phi\) が出てしまう。だから、微分に「補正項」を加えて、その補正項が変換時にちょうど \(-i(\partial_\mu \alpha)\phi\) を生み出して相殺してくれればいい。そこで新しい場 \(A_\mu\) を導入して、通常の微分を「共変微分」(covariant derivative) に置き換えるの。

\[ D_\mu = \partial_\mu + iq A_\mu(x) \tag{6.12} \]

ここで \(q\) は結合定数で、物理的には粒子の電荷に対応する量よ(電子なら \(q = -e\))。素粒子物理の自然単位系では \(c = \hbar = 1\) に加えて、電磁気の単位も \(\varepsilon_0 = 1\) と選ぶの(Heaviside-Lorentz 単位系と呼ばれるわ)。SI 単位系では Coulomb 力が \(F = q^2/(4\pi\varepsilon_0 r^2)\) だから、\(\varepsilon_0\) が消えると \(q^2\) が力×距離\(^2\) の次元を持つ。さらに \(\hbar = c = 1\) で長さ・時間・エネルギーの次元がすべて統一されると、\(q^2/(4\pi)\) が無次元量になるの。実際、微細構造定数 \(\alpha = q^2/(4\pi) \approx 1/137\) が無次元であることからも分かるわね。つまりこの単位系では電荷 \(q\) 自体が無次元量なの。

🔵 カイ: なぜ \(+iq\) なんですか? \(+q\) とか \(+iA_\mu\) じゃダメなんですか?

🟡 リナ: いい疑問。逆算すれば分かるわ。\(\partial_\mu(e^{i\alpha}\phi)\) を展開すると余計な項 \(+i(\partial_\mu \alpha)\phi\) が出てくる。これを打ち消すには、\(D_\mu\) の中に \(-i(\partial_\mu \alpha)\phi\) を生む項が必要よね。もし \(A_\mu\) が変換時に \(\Delta A_\mu\) だけシフトするなら、\(D_\mu\) の補正項 \(iq A_\mu\) からの寄与は \(iq \cdot \Delta A_\mu \cdot \phi\)。これが \(-i(\partial_\mu \alpha)\phi\) に等しくなるには \(iq \cdot \Delta A_\mu = -i(\partial_\mu \alpha)\)、つまり \(\Delta A_\mu = -\frac{1}{q}\partial_\mu \alpha\) であればいい。逆に言えば、\(D_\mu\) の係数が \(iq\)\(i\)\(q\) の積)でなければこの相殺は成立しないの。

⚪ メイ: つまり \(i\) は位相変換の \(e^{i\alpha}\) に由来していて、\(q\) はさっき梨奈先生が言った結合定数——電荷の大きさね。

🟡 リナ: そう。式 (6.7) のゲージ関数 \(\lambda\) と物質場の位相 \(\alpha\) の関係は \(\lambda = -\alpha/q\) よ。これを式 (6.7) に代入すれば

\[ A_\mu \to A_\mu + \partial_\mu \lambda = A_\mu - \frac{1}{q}\partial_\mu \alpha(x) \tag{6.13} \]

となる。マイナスが付くのは、\(D_\mu \phi\) の変換で余計な項 \(+i(\partial_\mu \alpha)\phi\) を打ち消すために、\(A_\mu\)\(-\frac{1}{q}\partial_\mu \alpha\) だけシフトする必要があるからよ。この対応のもとで、\(D_\mu \phi\)\(\phi\)同じ変換則に従う:

\[ D_\mu \phi \to e^{i\alpha(x)} D_\mu \phi \tag{6.14} \]

🔵 カイ: ちょっと待ってください。なぜそうなるんですか? 計算で確認したいです。

🟡 リナ: いいわね。やってみましょう。変換後の \(D_\mu' \phi'\) を計算する。

\[ D_\mu' \phi' = \left(\partial_\mu + iq A_\mu'\right) \phi' = \left(\partial_\mu + iq\left(A_\mu - \frac{1}{q}\partial_\mu \alpha\right)\right) e^{i\alpha} \phi \]
\[ = \left(\partial_\mu + iq A_\mu - i\partial_\mu \alpha\right)(e^{i\alpha} \phi) \]

\(\partial_\mu(e^{i\alpha}\phi)\) を積の微分で展開すると

\[ = e^{i\alpha}(i\partial_\mu \alpha)\phi + e^{i\alpha}\partial_\mu \phi + iq A_\mu e^{i\alpha}\phi - i(\partial_\mu \alpha) e^{i\alpha}\phi \]

第 1 項と第 4 項が打ち消し合って

\[ = e^{i\alpha}(\partial_\mu \phi + iq A_\mu \phi) = e^{i\alpha} D_\mu \phi \quad \checkmark \]

⚪ メイ: なるほど。\(A_\mu\) の変換が、\(\partial_\mu \alpha\) の余計な項をちょうど吸収してくれるのね。\(D_\mu \phi\)\(\phi\) と同じ変換則に従うなら、Lagrangian の運動項もゲージ不変になるはず。

🟡 リナ: その通り。実際、Lagrangian の運動項を \(\partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi\) から \((D^\mu \phi)^\dagger (D_\mu \phi)\) に置き換えれば、\(D_\mu\phi \to e^{i\alpha}D_\mu\phi\)\((D_\mu\phi)^\dagger \to (D_\mu\phi)^\dagger e^{-i\alpha}\) から位相が相殺して自動的にゲージ不変になるの。

🟡 リナ: そう。そして \(A_\mu\) 自身の Lagrangian として、ゲージ不変な \(-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) を加えれば、理論全体がゲージ不変になる。

ここで驚くべきメッセージが浮かび上がる:

局所 U(1) 対称性を要求しただけで、電磁場 \(A_\mu\) の存在と、その物質場との結合の形が一意的に決まってしまう。 対称性が力を生むのよ。

🔵 カイ: すごい……。「なぜ電磁気力があるのか」に対する答えが「局所的な位相の自由度を認めたから」ってことですか。

🟡 リナ: その通り。そしてこの原理は電磁気力に限らない。局所 SU(2)×U(1) 対称性からは弱い力が、局所 SU(3) 対称性からは強い力が導かれる。これは第 17 章の Yang-Mills (ヤン-ミルズ) 理論で詳しく学ぶわ。

✅ 理解度チェック: 通常の微分 \(\partial_\mu\) を共変微分 \(D_\mu = \partial_\mu + iqA_\mu\) に置き換える必要が生じるのは、どのような対称性を要求したときでしょうか? また、その結果何が導かれるでしょうか?

答え

局所 U(1) 対称性(各時空点で独立に位相を変えても Lagrangian が不変であること)を要求したとき。通常の微分では \(\partial_\mu(e^{i\alpha(x)}\psi)\) に余計な \(\partial_\mu \alpha\) の項が現れるため、それを吸収する新しい場 \(A_\mu\) を導入し共変微分に置き換える必要がある。この結果、電磁場の存在とその物質場との結合の形が一意的に決まる。


6.3 ゲージ対称性が量子化を妨げる——共役運動量の消失

🟡 リナ: ゲージ対称性の美しさを確認したところで、いよいよ困難に直面するわ。電磁場を正準量子化しようとしてみましょう。

第 4 章でスカラー場を量子化したとき、最初のステップは何だった?

🔵 カイ: えっと……場に対する共役運動量を定義して、交換関係を課す、でしたよね?

🟡 リナ: そう。共役運動量 \(\pi = \partial \mathcal{L}/\partial \dot{\phi}\) を定義して、等時刻交換関係 \([\phi(\mathbf{x},t),\, \pi(\mathbf{y},t)] = i\delta^3(\mathbf{x} - \mathbf{y})\) を課した。では同じことを \(A_\mu\) に対してやってみましょう。\(A_\mu\) の共役運動量は

\[ \pi^\mu = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_0 A_\mu)} \tag{6.15} \]

Lagrangian \(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) を展開して \(\partial_0 A_\mu\) で微分すると、空間成分 \(\mu = i\) に対しては

\[ \pi^i = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_0 A_i)} = -F^{0i} = E^i \tag{6.16} \]

(計算を確認しておくわ。\(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) に対して \(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\rho A_\sigma)} = -F^{\rho\sigma}\) が成り立つ(\(-1/4\) の係数と反対称性の因子 2×2 が相殺する)。\(\rho = 0\), \(\sigma = i\) を取ると \(\pi^i = -F^{0i}\)。式 (6.4) で確認したように \(F^{0i} = -E^i\) だから、\(\pi^i = -(-E^i) = E^i\)。つまり \(\mathbf{A}\) の共役運動量は電場 \(\mathbf{E}\) になるの。)ここまでは良い。問題は時間成分 \(\mu = 0\) よ。

\[ \pi^0 = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_0 A_0)} = 0 \tag{6.17} \]

🔵 カイ: ゼロ!? なぜですか?

🟡 リナ: \(F_{\mu\nu}\) の定義を見て。\(F_{00} = \partial_0 A_0 - \partial_0 A_0 = 0\)(反対称性から)。そして \(F_{0i} = \partial_0 A_i - \partial_i A_0\) には \(\partial_0 A_0\) が含まれていない。つまり Lagrangian の中に \(\dot{A}_0 = \partial_0 A_0\)一切現れないの。

⚪ メイ: \(\dot{A}_0\) がどこにも現れないなら、\(A_0\) の「速度」に当たる項がゼロ……。スカラー場のときは \(\dot{\phi}\) が運動エネルギーを作っていたのに。

🟡 リナ: そう。\(A_0\) には運動エネルギーに相当する項がないから、独立な力学変数として扱えないの。\(\pi^0 = 0\) ということは、正準交換関係

\[ [A_0(\mathbf{x},t),\, \pi^0(\mathbf{y},t)] = i\delta^3(\mathbf{x} - \mathbf{y}) \]

が書けない。左辺は \([A_0, 0] = 0\) だけど、右辺は \(i\delta^3(\mathbf{x} - \mathbf{y}) \neq 0\)矛盾が生じるの。

🔵 カイ: うわ……。スカラー場や Dirac 場のときはこんな問題なかったのに。

🟡 リナ: そう。これはゲージ対称性に固有の問題よ。物理的に言えば、\(A_\mu\) の 4 成分のうち、すべてが独立な物理的自由度ではないことの反映なの。ゲージ変換で \(A_\mu \to A_\mu + \partial_\mu \lambda\) と変えても物理が変わらないということは、\(A_\mu\) の配置の中に「本物の物理」と「冗長な記述」が混ざっているということ。

🔵 カイ: じゃあ、4 成分のうち本当に物理的な自由度はいくつなんですか?

🟡 リナ: まず \(A_0\) が力学変数でないから 4 → 3。さらにゲージ変換の自由度 \(\lambda(x)\) が 1 つあるから 3 → 2。物理的自由度は 2 つ。これは光の偏光が 2 つ(例えば水平偏光と垂直偏光)であることに対応するわ。

🔵 カイ: 4 成分の場なのに、物理的には 2 自由度しかない……。残りの 2 つはゲージの冗長性なんですね。

🟡 リナ: そう。この冗長性を処理しないと量子化が進まない。処理の方法をゲージ固定 (gauge fixing) と呼ぶわ。図 6.2「電磁場の物理的自由度の数え方」 にこの自由度の減少を図示したわ。

電磁場の物理的自由度

図 6.2: 電磁場の物理的自由度の数え方。\(A_\mu\) の 4 成分から、\(\pi^0 = 0\)\(A_0\) が力学変数でない)で 1 つ減り、ゲージ固定条件でさらに 1 つ減って、物理的自由度は光子の 2 つの横偏光のみ。

✅ 理解度チェック: 電磁場 \(A_\mu\) は 4 成分を持つが、物理的自由度は 2 つしかない。4 から 2 に減る理由を説明してみましょう。

答え

まず \(A_0\) は Lagrangian に \(\dot{A}_0\) が含まれないため独立な力学変数ではなく、4 → 3 に減る。さらにゲージ変換 \(A_\mu \to A_\mu + \partial_\mu \lambda\) の自由度が 1 つあり、任意関数 \(\lambda(x)\) を選んで 1 成分を固定できるため 3 → 2 に減る。残る 2 自由度が光子の 2 つの横偏光に対応する。

✅ 理解度チェック: Maxwell 場の Lagrangian \(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\)\(\dot{A}_0\) が含まれないことを、\(F_{\mu\nu}\) の定義から説明してみましょう。

答え

\(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\) において、\(\partial_0 A_0\) を含みうるのは \(F_{0\nu}\) の形だが、\(F_{00} = \partial_0 A_0 - \partial_0 A_0 = 0\)\(F_{0i} = \partial_0 A_i - \partial_i A_0\)\(\partial_0 A_i\) を含むが \(\partial_0 A_0\) は含まない。したがって \(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) にも \(\dot{A}_0\) は現れず、\(\pi^0 = \partial\mathcal{L}/\partial\dot{A}_0 = 0\) となる。


6.4 Coulomb ゲージでの量子化——物理的自由度が見える方法

🟡 リナ: ゲージ固定の最初のアプローチとして、Coulomb ゲージ (クーロンゲージ) を紹介するわ。条件は

\[ \nabla \cdot \mathbf{A} = 0 \tag{6.18} \]

つまりベクトルポテンシャル \(\mathbf{A}\) の発散がゼロ。

🔵 カイ: なぜこの条件を選ぶんですか?

🟡 リナ: 2 つの利点があるの。第一に、\(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\)\(\mathbf{A}\)横波 (transverse) であることを意味する。Fourier 変換すると \(\mathbf{k} \cdot \tilde{\mathbf{A}}(\mathbf{k}) = 0\)、つまり \(\mathbf{A}\) は波の進行方向 \(\mathbf{k}\) に垂直な成分しか持たない。物理的な偏光が直接見えるのよ。

⚪ メイ: 直感的に「余計なもの(縦波)を最初から落とす」戦略ね。

🟡 リナ: 第二に、真空中では \(A_0 = 0\) とできる。式 (6.3) から \(\nabla \cdot \mathbf{E} = -\nabla^2 A_0 - \partial_t(\nabla \cdot \mathbf{A})\) だけど、Coulomb ゲージ \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) のもとでは第 2 項が消えて、Gauss の法則 \(\nabla \cdot \mathbf{E} = 0\)\(\nabla^2 A_0 = 0\) になる。境界条件(無限遠で \(A_0 \to 0\))を課せば、解は \(A_0 = 0\) しかないの。これは Laplace 方程式の一意性定理による結果よ。直感的には、\(\nabla^2 A_0 = 0\) を満たす関数(調和関数と呼ばれる)は「どの点の値も、その周囲の値の平均に等しい」という性質を持つの。もし \(A_0\) がどこかで正の値を取れば、その周囲の平均も正でなければならず、さらにその周囲も……と正の値が無限遠まで伝播してしまう。これは \(A_0 \to 0\)(無限遠で消える)という境界条件と矛盾する。したがって \(A_0 \equiv 0\) しかないの。

🔵 カイ: なるほど、\(A_0\) が消えるのは単なる「選択」じゃなくて、方程式と境界条件から必然的に出てくるんですね。

⚪ メイ: つまり Coulomb ゲージでは、\(A_0\) が消えて、さらにゲージ条件 \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\)\(\mathbf{A}\) の縦波成分を排除してくれる。残る力学変数は横波の 2 成分だけね。

🟡 リナ: 完璧な整理よ。では具体的に量子化を進めましょう。


Fourier 展開と偏極ベクトル

🟡 リナ: 運動方程式 (6.5) \(\partial_\mu F^{\mu\nu} = 0\) を Coulomb ゲージ (\(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\), \(A_0 = 0\)) で書いてみましょう。ゴールは「\(\mathbf{A}\) の各成分が波動方程式 \(\Box A^i = 0\) を満たす」ことを示すこと——つまり光が波として伝わることの数学的表現よ。\(\nu = i\) の成分を取ると

\[ \partial_\mu F^{\mu i} = \partial_0 F^{0i} + \partial_j F^{ji} = 0 \]

Coulomb ゲージでは \(A_0 = 0\) だから式 (6.3) より \(E^i = -\dot{A}^i\)。式 (6.4) で確認したように \(F^{0i} = -E^i\) だから、\(F^{0i} = -(-\dot{A}^i) = \dot{A}^i\)

🔵 カイ: つまり \(\partial_0 F^{0i} = \ddot{A}^i\) ですね。

🟡 リナ: そう。次に \(\partial_j F^{ji}\) を計算するわ。\(F^{ji} = \eta^{j\alpha}\eta^{i\beta}F_{\alpha\beta}\) だけど、対角計量では \(\eta^{j\alpha}\)\(\alpha = j\) のときだけ非ゼロ、同様に \(\eta^{i\beta}\)\(\beta = i\) のときだけ非ゼロ。だから \(\alpha\), \(\beta\) の和の中で生き残るのは \(\alpha = j\), \(\beta = i\) の項だけで、\(F^{ji} = \eta^{j\alpha}\eta^{i\beta}F_{\alpha\beta}\big|_{\alpha=j,\,\beta=i} = \eta^{jj}\eta^{ii}F_{ji}\)\(j\), \(i\) は自由添字で固定されており和を取らない。対角計量だから \(\alpha \neq j\)\(\beta \neq i\) の項はゼロ)\(= (-1)(-1)F_{ji} = F_{ji} = \partial_j A_i - \partial_i A_j\) よ。ここで \(\partial^j = \eta^{jk}\partial_k = -\partial_j\) かつ \(A^i = -A_i\) だから \(\partial^j A^i = (-\partial_j)(-A_i) = \partial_j A_i\)。したがって添字を上げた形で書いても \(F^{ji} = \partial^j A^i - \partial^i A^j\) と同じ値になるの。これを使うと

\[ \partial_j F^{ji} = \partial_j(\partial^j A^i - \partial^i A^j) = \partial_j \partial^j A^i - \partial^i(\partial_j A^j) \]

ここで添字を上げる操作を思い出して。第 2 章で学んだように、QFT 流の計量 \(\eta^{jk} = -\delta^{jk}\)(空間成分)だから \(\partial^j = \eta^{jk}\partial_k = -\partial_j\) よ。したがって \(\partial_j \partial^j\)\(j\) について和を取る)\(= \sum_{j=1}^3 \partial_j \partial^j = \sum_{j=1}^3 \partial_j(-\partial_j) = -(\partial_1^2 + \partial_2^2 + \partial_3^2) = -\nabla^2\) となるわ。

🔵 カイ: 計量のマイナスが効いて \(\partial_j \partial^j = -\nabla^2\) になるんですね。

🟡 リナ: そう。第 2 項は \(-\partial^i(\partial_j A^j)\) だけど、ここで物理的な発散 \(\nabla \cdot \mathbf{A}\) と添字の縮約 \(\partial_j A^j\) の関係を整理しておくわ。物理的なベクトルポテンシャルの発散は \(\nabla \cdot \mathbf{A} = \sum_j \frac{\partial A^j}{\partial x^j} = \sum_j \partial_j A^j\) よ(\(A^j\) は反変成分)。Coulomb ゲージ条件 \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) はそのまま \(\partial_j A^j = 0\) を意味するの。したがって第 2 項 \(-\partial^i(\partial_j A^j) = 0\) で消えて、\(\partial_j F^{ji} = -\nabla^2 A^i\) となるわ。

2 つを合わせると \(\ddot{A}^i - \nabla^2 A^i = 0\)、すなわち

\[ \Box A^i = \left(\frac{\partial^2}{\partial t^2} - \nabla^2\right) A^i = 0 \tag{6.19} \]

各成分が波動方程式を満たす。解を平面波で展開するわ。

\[ \mathbf{A}(\mathbf{x}, t) = \int \frac{d^3k}{(2\pi)^3} \frac{1}{\sqrt{2\omega_{\mathbf{k}}}} \sum_{\lambda=1}^{2} \boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, \lambda) \left[ a(\mathbf{k}, \lambda)\, e^{-ikx} + a^\dagger(\mathbf{k}, \lambda)\, e^{ikx} \right] \tag{6.20} \]

ここで \(\omega_{\mathbf{k}} = |\mathbf{k}|\)(光子は質量ゼロだから \(\omega = |\mathbf{k}|c\)、自然単位系 \(c = 1\)\(\omega = |\mathbf{k}|\))、\(kx = \omega_{\mathbf{k}} t - \mathbf{k} \cdot \mathbf{x}\)

\(\boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, \lambda)\)偏極ベクトル (polarization vector) で、\(\lambda = 1, 2\) の 2 つ。

🔵 カイ: 偏極ベクトルって何ですか?

🟡 リナ: 光の振動方向を表すベクトルよ。Coulomb ゲージの条件 \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) を Fourier 空間で書くと

\[ \mathbf{k} \cdot \boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, \lambda) = 0 \tag{6.21} \]

つまり偏極ベクトルは波数ベクトル \(\mathbf{k}\)(波の進行方向)に垂直でなければならない。3 次元空間で \(\mathbf{k}\) に垂直な平面は 2 次元だから、独立な偏極ベクトルは \(\lambda = 1, 2\) の 2 つが取れるの。

⚪ メイ: なるほど、垂直な面が 2 次元だから基底が 2 つ。それが物理的な偏光の数に対応しているのね。

🟡 リナ: そう。例えば \(\mathbf{k}\)\(z\) 方向を向いているなら

\[ \boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, 1) = (1, 0, 0), \qquad \boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, 2) = (0, 1, 0) \tag{6.22} \]

と取れる。これが直線偏光の基底。円偏光の基底にしたければ

\[ \boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, +) = \frac{1}{\sqrt{2}}(1, i, 0), \qquad \boldsymbol{\epsilon}(\mathbf{k}, -) = \frac{1}{\sqrt{2}}(1, -i, 0) \tag{6.23} \]

とすればいい。これはヘリシティ (helicity) \(\pm 1\) の状態に対応するわ。

🔵 カイ: 「ヘリシティ」って?

🟡 リナ: 粒子の進行方向を軸にして、スピン(自転のようなもの)が右回りか左回りかを表す量よ。もう少し正確に言うと、スピン角運動量の進行方向成分のこと。光子はスピン 1 の粒子だけど、質量ゼロだからヘリシティは \(+1\)(右回り円偏光)と \(-1\)(左回り円偏光)の 2 つしか取れない。\(0\)(縦偏光)は質量ゼロの粒子には存在しないの。

🔵 カイ: なぜ質量ゼロだと \(0\) が取れないんですか? スピン 1 なら \(-1, 0, +1\) の 3 つがあるはずでは?

🟡 リナ: いい疑問ね。質量のある粒子なら確かに 3 つ。でも質量ゼロの粒子は光速で運動するから、「静止系」が存在しない。静止系がないと、進行方向に垂直な面内での回転(横偏光)しか物理的に定義できないの。イメージとしては、光速で飛ぶ粒子を「追い越して前から見る」ことができないから、進行方向の振動(縦偏光)を物理的に区別する方法がないのよ。そして数学的には、縦偏光に対応する \(0\) の状態はゲージ変換で消せてしまう——つまりゲージ対称性の冗長性の一部なの。これがゲージ対称性の帰結。

⚪ メイ: 「追い越せないから縦方向の振動を見分けられない」——物理的な直感と数学的なゲージ対称性の話がつながっているのね。


正準交換関係

🟡 リナ: さて、量子化のステップ。式 (6.16) で見たように、\(A_i\) に対する共役運動量は \(\pi^i = -F^{0i} = E^i\) よ。Coulomb ゲージでは \(A_0 = 0\) だから、式 (6.3) の \(\mathbf{E} = -\nabla A_0 - \dot{\mathbf{A}}\)\(\mathbf{E} = -\dot{\mathbf{A}}\) に簡略化される。つまり Coulomb ゲージでは \(E^i = -\dot{A}^i\) であり、式 (6.16) の \(\pi^i = E^i\) と合わせて \(\pi^i = -\dot{A}^i\) ね。(添字の上下を整理しておくわ。式 (6.16) で \(\pi^i = E^i\)(上付き)。空間成分の添字を下げるには \(\eta_{ji} = -\delta_{ji}\) を使って \(\pi_j = \eta_{ji}\pi^i = -\pi^j = -E^j\)。同様に \(A_i = \eta_{ij}A^j = -A^j\) だから \(\dot{A}_i = -\dot{A}^i\)。Coulomb ゲージでは \(E^i = -\dot{A}^i\) なので \(\pi^i = E^i = -\dot{A}^i = \dot{A}_i\) と整合するわ。式 (6.24) の交換関係では添字を下げた \([A_i, \pi_j]\) の形を使うの。射影演算子 \(\delta_{ij}^\perp\) との対応が見やすいからよ。)

正準交換関係を課すわ。ただし、ここで注意が必要よ。式 (6.20) の \(\mathbf{A}\) は反変成分 \(A^i\) で書いているけれど、正準形式では共変成分 \(A_i = -A^i\) を使うのが標準的よ(冒頭で予告した通り)。もし普通に \([A_i(\mathbf{x}, t),\, \pi_j(\mathbf{y}, t)] = i\delta_{ij}\,\delta^3(\mathbf{x} - \mathbf{y})\) と書いてしまうと、右辺は \(A_i\) の全成分(縦波も横波も)を含んでいる。でも Coulomb ゲージでは \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) だから、\(A_i\) には縦波成分が存在しない。存在しない成分に対して交換関係を書くのは矛盾よね。だから交換関係の右辺にも「横波成分だけ」を選ぶ射影を入れる必要があるの:

\[ [A_i(\mathbf{x}, t),\, \pi_j(\mathbf{y}, t)] = i\delta_{ij}^{\perp}(\mathbf{x} - \mathbf{y}) \tag{6.24} \]

ここで

\[ \delta_{ij}^{\perp}(\mathbf{x} - \mathbf{y}) = \int \frac{d^3k}{(2\pi)^3} \left(\delta_{ij} - \frac{k_i k_j}{|\mathbf{k}|^2}\right) e^{i\mathbf{k}\cdot(\mathbf{x}-\mathbf{y})} \tag{6.25} \]

🔵 カイ: 普通の \(\delta_{ij}\,\delta^3(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) じゃなくて、\(k_i k_j/|\mathbf{k}|^2\) を引いているんですね。

🟡 リナ: そう。\(\delta_{ij} - k_i k_j/|\mathbf{k}|^2\) は「\(\mathbf{k}\) 方向の成分を除く」射影演算子よ。具体的に言うと、任意のベクトル \(v_j\) にこれを掛けると \(v_i - k_i(\mathbf{k}\cdot\mathbf{v})/|\mathbf{k}|^2\) となって、\(\mathbf{k}\) 方向の成分がきれいに引かれる。\(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\)(Fourier 空間で \(\mathbf{k} \cdot \tilde{\mathbf{A}} = 0\))という拘束条件と整合するために、縦波成分を交換関係から排除しているの。

これを生成・消滅演算子の言葉に翻訳すると

\[ [a(\mathbf{k}, \lambda),\, a^\dagger(\mathbf{k}', \lambda')] = (2\pi)^3 \delta^3(\mathbf{k} - \mathbf{k}')\,\delta_{\lambda\lambda'} \tag{6.26} \]
\[ [a(\mathbf{k}, \lambda),\, a(\mathbf{k}', \lambda')] = 0, \qquad [a^\dagger(\mathbf{k}, \lambda),\, a^\dagger(\mathbf{k}', \lambda')] = 0 \tag{6.27} \]

⚪ メイ: スカラー場のときと同じ形の交換関係ね。ただし偏光の添字 \(\lambda\) が加わっている。前章と同じ構造なら、\(a^\dagger(\mathbf{k}, \lambda)\) が「運動量 \(\mathbf{k}\)、偏光 \(\lambda\) の光子を 1 つ生成する」演算子ということね。

🟡 リナ: そう。Hamiltonian(エネルギー演算子)も計算できて

\[ H = \int \frac{d^3k}{(2\pi)^3} \sum_{\lambda=1}^{2} \omega_{\mathbf{k}}\, a^\dagger(\mathbf{k}, \lambda)\, a(\mathbf{k}, \lambda) \tag{6.28} \]

(ゼロ点エネルギーは正規順序で除去)。これは「各モード \((\mathbf{k}, \lambda)\) の光子が \(\omega_{\mathbf{k}} = |\mathbf{k}|\) のエネルギーを持つ」ことを表している。

🔵 カイ: Planck の \(E = \hbar\omega\) が自然に出てきた!(自然単位系で \(\hbar = 1\) だから \(E = \omega\))。つまり、Planck が 1900 年に「仮定」として導入した量子化が、場を量子化すれば自動的に出てくるんですね。でも待ってください——「正規順序で除去」ってさらっと言いましたけど、各モードに \(\frac{1}{2}\omega\) のゼロ点エネルギーがあって、モードは無限個あるから、合計は無限大になりますよね。無限大を捨てているように聞こえるんですが……。

⚪ メイ: そうね、第 4 章でスカラー場のときにも同じ問題が出たわ。

🟡 リナ: いい疑問ね。実はゼロ点エネルギーの問題は深い話題で、第 4 章でスカラー場のときにも触れたわ。正規順序は「エネルギーの基準点をずらす」操作で、相対的なエネルギー差だけが物理的に意味を持つ限り正当化できる。ただし、重力を考えると宇宙定数の問題に繋がる未解決問題でもあるの。ここでは「自由場のエネルギー基準を定める処方」として受け入れておいて。

🔵 カイ: なるほど……。つまり「エネルギーの差」だけが物理的ということですね。でも待ってください。重力はエネルギーの絶対値に反応するんですよね? じゃあ、正規順序で「捨てた」はずの無限大が、重力を考えた途端に復活してしまうんですか?

🟡 リナ: まさにそう。それが宇宙定数問題の核心よ。量子場理論の真空エネルギーと宇宙論的観測値の間に \(10^{120}\) 倍もの食い違いがある——現代物理学最大の未解決問題の一つなの。でも今は自由場の量子化に集中しましょう。

🔵 カイ: 分かりました。未解決問題として頭の片隅に置いておきます。

🟡 リナ: そうしてね。さて、大事なことを確認しておくわ。光の量子——光子——が場の量子化から生まれたの。

✅ 理解度チェック: Coulomb ゲージでの電磁場の量子化において、生成演算子 \(a^\dagger(\mathbf{k}, \lambda)\) が生成する状態は物理的に何を表すでしょうか?

答え

運動量 \(\mathbf{k}\)、偏光 \(\lambda\)\(\lambda = 1\) または \(2\))を持つ光子 1 つを真空に加えた状態を表す。Hamiltonian (6.28) から、この光子のエネルギーは \(\omega_{\mathbf{k}} = |\mathbf{k}|\) であり、これは Planck の関係 \(E = \hbar\omega\)(自然単位系で \(E = \omega\))に対応する。

光子の偏光モード

図 6.3: 光子の偏光モード。横波条件 \(\mathbf{k} \cdot \boldsymbol{\epsilon} = 0\) により、物理的な偏光は進行方向に垂直な 2 つ(\(\lambda = 1, 2\))のみ。後述する Lorenz ゲージ(6.6「Lorenz ゲージでの量子化——共変的だが幽霊が出る」)では縦偏光やスカラー偏光も形式的に導入されるが、これらは非物理的であり最終的に排除される。

図 6.3「光子の偏光モード」 に光子の偏光モードをまとめたわ。

✅ 理解度チェック: Coulomb ゲージで光子の物理的偏光が 2 つであることを、条件 \(\mathbf{k} \cdot \boldsymbol{\epsilon} = 0\) から説明してみましょう。

答え

\(\boldsymbol{\epsilon}\) は 3 次元ベクトルだが、条件 \(\mathbf{k} \cdot \boldsymbol{\epsilon} = 0\) により \(\mathbf{k}\) 方向の成分が禁止される。\(\mathbf{k}\) に垂直な平面は 2 次元なので、独立な偏極ベクトルは 2 つ。これが光子の 2 つの物理的偏光に対応する。

📝 練習問題:


6.5 Coulomb ゲージの問題点

🟡 リナ: Coulomb ゲージは物理的自由度が明示的に見えるという大きな利点がある。でも重大な欠点もあるの。

🔵 カイ: 何ですか?

🟡 リナ: Lorentz 共変性が明示的でない。条件 \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) は空間微分だけを含んでいて、時間と空間を対等に扱っていないでしょう? つまり、ある慣性系で \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) が成り立っても、別の慣性系にブーストすると一般にはこの条件が崩れる。

⚪ メイ: 特殊相対論との整合性が見えにくいということね。計算の途中で Lorentz 不変性が保たれているか確認しづらい。

🟡 リナ: その通り。実際の散乱振幅の計算では、Lorentz 共変な形式の方が圧倒的に便利なの。そこで登場するのが Lorenz ゲージ (ローレンツゲージ) よ。

用語の注意: Lorenz ゲージの「Lorenz」は Ludvig Lorenz (ルドヴィ・ローレンツ) というデンマークの物理学者の名前で、Lorentz 変換の Hendrik Lorentz (ヘンドリック・ローレンツ) とは別人よ。紛らわしいけれど、歴史的にそうなっているの。

✅ 理解度チェック: Coulomb ゲージの条件 \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) が Lorentz 共変でないとはどういう意味か?

答え

\(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) は空間微分のみを含み、時間と空間を対等に扱っていない。そのため、ある慣性系でこの条件が成り立っていても、別の慣性系に Lorentz ブーストすると一般にはこの条件が崩れる。計算の途中で Lorentz 不変性が保たれているか確認しづらいという欠点がある。


6.6 Lorenz ゲージでの量子化——共変的だが幽霊が出る

Lorenz ゲージ条件

🟡 リナ: Lorenz ゲージの条件は

\[ \partial_\mu A^\mu = 0 \tag{6.29} \]

これは 4 元的に書かれているから、Lorentz 共変よ。ある慣性系でこの条件が成り立てば、すべての慣性系で成り立つ。

🔵 カイ: Coulomb ゲージの \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) と比べると、時間成分 \(\partial_0 A^0\) も含まれていますね。

🟡 リナ: そう。\(\partial_\mu A^\mu = \partial_0 A^0 + \nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) だから、時間と空間を対等に扱っている。

Lorenz ゲージのもとで運動方程式 (6.5) は簡単な形になるわ。式 (6.5) を \(A_\nu\) で書くと

\[ \partial_\mu(\partial^\mu A^\nu - \partial^\nu A^\mu) = \Box A^\nu - \partial^\nu(\partial_\mu A^\mu) = 0 \]

Lorenz ゲージ条件 \(\partial_\mu A^\mu = 0\) を使うと第 2 項が消えて

\[ \Box A^\nu = 0 \tag{6.30} \]

各成分が独立に波動方程式を満たす! これは非常にシンプルね。

⚪ メイ: Coulomb ゲージでは添字の上下や Laplacian の処理が複雑だったけれど、Lorenz ゲージだと一発で \(\Box A^\nu = 0\) になるのは確かに便利ね。


ゲージ固定項の追加

🟡 リナ: しかし、Lorenz ゲージで正準量子化を行うには工夫が必要よ。元の Lagrangian (6.1) のままでは \(\pi^0 = 0\) の問題が残っている。そこで、Lagrangian にゲージ固定項 (gauge-fixing term) を追加するの。

アイデアはこう。Lorenz ゲージ条件 \(\partial_\mu A^\mu = 0\) を「ハードに」課す代わりに、\(\partial_\mu A^\mu \neq 0\) の配位に「エネルギーのペナルティ」を与える項を加える。ちょうどバネのポテンシャル \(\frac{1}{2}kx^2\)\(x = 0\) からのずれにペナルティを与えるように、\((\partial_\mu A^\mu)^2\) は Lorenz 条件からのずれにペナルティを与えるの:

\[ \mathcal{L}_{\text{gf}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} - \frac{1}{2\xi}(\partial_\mu A^\mu)^2 \tag{6.31} \]

ここで \(\xi\) は任意のパラメータ(ゲージパラメータ)で、ペナルティの「強さ」を制御する。\(\xi = 1\) の選択を Feynman ゲージ (ファインマンゲージ) と呼ぶわ。

🔵 カイ: ゲージ固定項を加えると、ゲージ対称性は壊れませんか?

🟡 リナ: 鋭い質問。確かに、\((\partial_\mu A^\mu)^2\) はゲージ変換 (6.7) のもとで不変ではない。だからゲージ対称性は明示的に破れる。しかし、最終的な物理的観測量(散乱断面積など)は \(\xi\) に依存しないことが示せるの。これは非常に深い結果で、ゲージ対称性の「残り香」が物理的な結果を守っているのよ。

⚪ メイ: つまり、計算の途中ではゲージを固定して対称性を壊すけれど、最終結果はゲージの選び方に依存しない。

✅ 理解度チェック: ゲージ固定項 \(-\frac{1}{2\xi}(\partial_\mu A^\mu)^2\) を Lagrangian に加える目的は何でしょうか? また、ゲージ対称性を破っているにもかかわらず問題がない理由は?

答え

目的は、元の Lagrangian では \(\pi^0 = 0\) となり正準量子化ができない問題を解消すること。ゲージ固定項が \(\dot{A}_0\) を含む項を追加し、$\pi^0

eq 0$ にする。ゲージ対称性は明示的に破れるが、最終的な物理的観測量(散乱振幅など)はゲージパラメータ \(\xi\) に依存しないことが示せるため、物理的結論に影響しない。

🟡 リナ: その通り。では、ゲージ固定項を加えたことで何が変わるか見てみましょう。\(A^0\) に対する共役運動量を計算すると(式 (6.17) で見たように \(-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) からの寄与はゼロなので、ゲージ固定項のみが寄与する)

\[ \pi^0 = \frac{\partial \mathcal{L}_{\text{gf}}}{\partial(\partial_0 A_0)} = -\frac{1}{\xi}\partial_\mu A^\mu \tag{6.32} \]

🔵 カイ: ゼロじゃなくなった! ゲージ固定項が \(\dot{A}_0\) を「復活」させてくれたんですね。

🟡 リナ: 計算を確認しておくわ。\(\partial_\mu A^\mu = \partial_0 A^0 + \partial_1 A^1 + \partial_2 A^2 + \partial_3 A^3\) だから、\(\dot{A}_0 \equiv \partial_0 A_0 = \partial A_0/\partial t\) を含んでいる(添字の上げ下げは \(A^\mu = \eta^{\mu\nu}A_\nu\)\(\nu\) について和を取る)で行うけれど、対角計量だから \(A^0 = \eta^{0\nu}A_\nu = \eta^{00}A_0 = (+1)A_0 = A_0\) よ。時間成分は上下で符号が変わらないの。したがって \(\partial_0 A_0 = \partial_0 A^0\) ね。ただし空間成分は \(A^i = \eta^{i\nu}A_\nu\)\(\nu\) について和を取る)\(= \eta^{ii}A_i\)(対角計量だから \(\nu = i\) の項のみ非ゼロ)\(= (-1)A_i = -A_i\) で符号が変わるから注意してね)。ゲージ固定項 \(-\frac{1}{2\xi}(\partial_\mu A^\mu)^2\)\(\partial_0 A_0\) で微分すると、合成関数の微分(連鎖律)で

\[ \pi^0 = \frac{\partial}{\partial(\partial_0 A_0)}\left[-\frac{1}{2\xi}(\partial_\mu A^\mu)^2\right] = -\frac{1}{\xi}(\partial_\mu A^\mu) \cdot \frac{\partial(\partial_\mu A^\mu)}{\partial(\partial_0 A_0)} = -\frac{1}{\xi}(\partial_\mu A^\mu) \cdot 1 = -\frac{1}{\xi}\partial_\mu A^\mu \]

(ここで \(\partial_\mu A^\mu = \partial_0 A^0 + \partial_1 A^1 + \partial_2 A^2 + \partial_3 A^3\) のうち、\(\partial_0 A_0\) を含むのは第 1 項 \(\partial_0 A^0 = \partial_0 A_0\) だけ(\(A^0 = A_0\) だから)。残りの \(\partial_i A^i\) は空間微分なので \(\partial_0 A_0\) とは独立。したがって \(\partial(\partial_\mu A^\mu)/\partial(\partial_0 A_0) = 1\) よ。)

となる。ゲージ固定項が \(\dot{A}_0\) を含む項を Lagrangian に追加してくれたおかげで、\(\pi^0\) が恒等的にゼロではなくなったの。逆に解けば \(\dot{A}_0 = -\xi\pi^0 - \partial_i A^i\) と書けるから、\(A_0\)\(\pi^0\) は独立な正準変数のペアとして扱える。これで 4 つの成分すべてに対して正準交換関係が書ける:

\[ [A_\mu(\mathbf{x}, t),\, \pi^\nu(\mathbf{y}, t)] = i\delta_\mu^{\ \nu}\, \delta^3(\mathbf{x} - \mathbf{y}) \tag{6.33} \]

⚪ メイ: これでスカラー場と同じ「型」にはまったわね。4 つの成分が対等に量子化できる。


4 つの偏極と Fourier 展開

🟡 リナ: Feynman ゲージ (\(\xi = 1\)) での運動方程式を導いてみましょう。式 (6.31) の Lagrangian \(\mathcal{L}_{\text{gf}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} - \frac{1}{2}(\partial_\mu A^\mu)^2\) に Euler-Lagrange 方程式を適用するわ。\(\mathcal{L}_{\text{gf}}\)\(A_\sigma\) 自体を含まないから、Euler-Lagrange 方程式 \(\partial_\rho \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\rho A_\sigma)} - \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial A_\sigma} = 0\) の第 2 項はゼロ。第 1 項を 2 つの部分に分けて計算するわ。

まず \(-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) からの寄与。式 (6.5) の導出と同じく \(\frac{\partial(-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu})}{\partial(\partial_\rho A_\sigma)} = -F^{\rho\sigma}\) で、\(\partial_\rho\) を作用させると \(-\partial_\rho F^{\rho\sigma}\)\(F^{\rho\sigma} = \partial^\rho A^\sigma - \partial^\sigma A^\rho\) を代入すると \(\partial_\rho F^{\rho\sigma} = \partial_\rho(\partial^\rho A^\sigma - \partial^\sigma A^\rho) = \Box A^\sigma - \partial^\sigma(\partial_\rho A^\rho)\) だから、結局 \(-(\Box A^\sigma - \partial^\sigma(\partial_\mu A^\mu))\) と書けるわ。

🔵 カイ: 次はゲージ固定項の方ですね。

🟡 リナ: そう。\(-\frac{1}{2}(\partial_\mu A^\mu)^2\) からの寄与を計算するわ。\(\partial_\mu A^\mu = \eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha A_\beta\) と書くと、\(\frac{\partial}{\partial(\partial_\rho A_\sigma)}(\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha A_\beta) = \eta^{\alpha\beta}\delta^\rho_\alpha\delta^\sigma_\beta = \eta^{\rho\sigma}\) だから

\[ \frac{\partial}{\partial(\partial_\rho A_\sigma)}\left[-\frac{1}{2}(\partial_\alpha A^\alpha)^2\right] = -(\partial_\mu A^\mu)\eta^{\rho\sigma} \]

\(\partial_\rho\) を作用させると \(-\partial^\sigma(\partial_\mu A^\mu)\)

🔵 カイ: これで両方の寄与が出ましたね。合わせるとどうなるんですか?

🟡 リナ: では足し合わせてみましょう。添字 \(\sigma\)\(\nu\) に書き換えて合わせると

\[ -(\Box A^\nu - \partial^\nu(\partial_\mu A^\mu)) - \partial^\nu(\partial_\mu A^\mu) = 0 \]
\[ -\Box A^\nu + \partial^\nu(\partial_\mu A^\mu) - \partial^\nu(\partial_\mu A^\mu) = 0 \]

\(\partial^\nu(\partial_\mu A^\mu)\) の項が相殺して

\[ \Box A^\nu = 0 \tag{6.34} \]

🔵 カイ: おお、きれいに消えた! Feynman ゲージだと 2 つの項がちょうど打ち消し合うんですね。

🟡 リナ: になるの。各成分が独立に質量ゼロの Klein-Gordon 方程式を満たすから、展開は

\[ A^\mu(\mathbf{x}, t) = \int \frac{d^3k}{(2\pi)^3} \frac{1}{\sqrt{2\omega_{\mathbf{k}}}} \sum_{\lambda=0}^{3} \epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda) \left[ a(\mathbf{k}, \lambda)\, e^{-ikx} + a^\dagger(\mathbf{k}, \lambda)\, e^{ikx} \right] \tag{6.35} \]

ここで \(\lambda = 0, 1, 2, 3\)4 つの偏極ベクトル \(\epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda)\) が登場する。

🔵 カイ: 4 つ? さっき物理的自由度は 2 つだと言ったのに……。

🟡 リナ: いい着眼点。Lorenz ゲージでは、Lorentz 共変性を保つために \(A_\mu\) の 4 成分すべてを対等に扱って量子化するの。\(A_\mu\) は 4 成分のベクトルだから、各 Fourier モードの「振動方向」も 4 次元空間の中で指定する必要がある——ちょうど 3 次元の波なら振動方向を 3 つの基底ベクトルで展開するように、4 次元では 4 つの基底(偏極ベクトル)が必要なの。Lorenz ゲージ条件 \(\partial_\mu A^\mu = 0\) は、演算子の恒等式としてではなく、後で物理的状態に対する条件(Gupta-Bleuler 条件)として課す。だから展開の段階では 4 つの偏極すべてが必要で、非物理的な成分は後から「取り除く」処方を使うわ。

4 つの偏極を具体的に見てみましょう。\(\mathbf{k} = (0, 0, k)\)\(z\) 方向)の場合:

表 6.2: 光子の4つの偏極ベクトルの分類(\(\mathbf{k} = (0,0,k)\) のとき)

\(\lambda\) 名称 \(\epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda)\) 性質
1 横偏光 (transverse) \((0, 1, 0, 0)\) 物理的
2 横偏光 (transverse) \((0, 0, 1, 0)\) 物理的
3 縦偏光 (longitudinal) \((0, 0, 0, 1)\) 非物理的
0 スカラー偏光 (scalar) \((1, 0, 0, 0)\) 非物理的

⚪ メイ: \(\lambda = 1, 2\) が物理的な光の偏光で、\(\lambda = 3\)(波の進行方向)と \(\lambda = 0\)(時間方向)は非物理的。Coulomb ゲージでは最初から排除していた成分を、ここでは一旦全部残しているのね。

🟡 リナ: 1 つ注意しておくわ。この表では \(\mathbf{k}\) 方向を \(z\) 軸に取った簡略化した形を書いている。横偏光 (\(\lambda = 1, 2\)) は \(k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda) = 0\) を満たすけれど、スカラー偏光 (\(\lambda = 0\)) と縦偏光 (\(\lambda = 3\)) は個別には満たさない(6.7「Gupta-Bleuler の方法——幽霊を封じ込める」で具体的に \(k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, 0) = \omega \neq 0\) 等を確認するわ)。これは問題ではないの——Lorenz ゲージ条件 \(\partial_\mu A^\mu = 0\) は、演算子の恒等式としてではなく Gupta-Bleuler 条件(6.7「Gupta-Bleuler の方法——幽霊を封じ込める」)として物理的状態に課されるから、個々の偏極ベクトルが \(k_\mu \epsilon^\mu = 0\) を満たす必要はないわ。厳密な定式化では \(k^\mu\) に依存した線形結合で偏極ベクトルを再定義することもあるけれど、Gupta-Bleuler 条件の本質的な構造はこの基底でも理解できるわ。


負ノルム問題——幽霊の出現

🟡 リナ: ここで深刻な問題が現れるわ。交換関係 (6.33) を生成・消滅演算子の言葉に翻訳すると

\[ [a(\mathbf{k}, \lambda),\, a^\dagger(\mathbf{k}', \lambda')] = -\eta_{\lambda\lambda'}\,(2\pi)^3 \delta^3(\mathbf{k} - \mathbf{k}') \tag{6.36} \]

となるの。ここで \(\eta_{\lambda\lambda'}\) は偏極の添字 \(\lambda, \lambda' = 0, 1, 2, 3\) に対する量で、数値的には時空の計量 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) と同じパターンだけれど、意味は別物よ——偏極ベクトルの Minkowski 内積から来る符号パターンを便宜的にこう書いているの。結論を先に言うわ\(-\eta_{\lambda\lambda'}\)\(\lambda = 1, 2, 3\) のとき \(+1\)(正常)、\(\lambda = 0\) のとき \(-1\)(異常!)になる。つまりスカラー偏光だけ交換関係の符号が反転するの。なぜそうなるか、段階を追って説明するわね。

まず、なぜ偏極ベクトルの内積が現れるのか。Fourier 展開 (6.35) を正準交換関係 (6.33) に代入する計算の骨格を示すわ。\([A_\mu(\mathbf{x}), \pi^\nu(\mathbf{y})] = i\delta_\mu^{\ \nu}\delta^3(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) の左辺に式 (6.35) を代入すると、\(a\)\(a^\dagger\) の交換関係が偏極ベクトルの係数とともに現れるの。スカラー場のときを思い出して——第 4 章\(\phi(\mathbf{x}) = \int \frac{d^3k}{(2\pi)^3}\frac{1}{\sqrt{2\omega}}(a_\mathbf{k} e^{i\mathbf{k}\cdot\mathbf{x}} + a^\dagger_\mathbf{k} e^{-i\mathbf{k}\cdot\mathbf{x}})\)\([\phi, \pi] = i\delta^3\) に代入して \([a, a^\dagger] = \delta^3\) を導いたわね。今回も同じ構造だけど、場に偏極ベクトル \(\epsilon_\mu\) が掛かっているの。代入すると \(\epsilon_\mu(\mathbf{k},\lambda)\,\epsilon^\nu(\mathbf{k},\lambda')\,[a(\mathbf{k},\lambda), a^\dagger(\mathbf{k}',\lambda')]\) のような項が出てきて、右辺の \(\delta_\mu^{\ \nu}\) と比較することで \([a, a^\dagger]\) が決まる。この「比較」の際に、偏極ベクトルの添字 \(\mu\) を縮約する必要があり、そこで Minkowski 内積 \(\eta_{\mu\nu}\,\epsilon^\mu(\mathbf{k},\lambda)\,\epsilon^\nu(\mathbf{k},\lambda')\) が自然に現れるの。

🔵 カイ: なるほど、偏極ベクトルが場に掛かっているから、交換関係を「読み取る」ときに内積が出てくるんですね。

🟡 リナ: 表の偏極ベクトルで具体的に計算してみましょう。\(\lambda = \lambda'\) の場合:\(\lambda = 0\) なら \(\epsilon^\mu = (1,0,0,0)\) だから \(\eta_{\mu\nu}\epsilon^\mu\epsilon^\nu = \eta_{00}(1)(1) = (+1)(1)(1) = +1\)\(\lambda = 1\) なら \(\epsilon^\mu = (0,1,0,0)\) だから \(\eta_{\mu\nu}\epsilon^\mu\epsilon^\nu = \eta_{11}(1)(1) = (-1)(1)(1) = -1\)。同様に \(\lambda = 2, 3\) でも \(-1\)。つまり偏極ベクトルの内積は \(\mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) という符号パターンを持つの。

この符号パターンは \(\mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) で、たまたま時空の計量 \(\eta_{\mu\nu}\) と同じ形をしているの。これは偏極ベクトルを座標軸方向に選んだからよ。

注意: 式 (6.36) では便宜的にこの符号パターンを \(\eta_{\lambda\lambda'}\) と書いているけれど、これは偏極の添字 \(\lambda = 0,1,2,3\) に対する量であって、時空の添字 \(\mu, \nu\) に対する計量とは別物よ。記号が同じだけど意味が違う——文脈で区別してね。

この内積が交換関係の右辺に \(-\eta_{\lambda\lambda'}\) として現れるの。したがって \(-\eta_{\lambda\lambda'}\)\(\lambda = 1, 2, 3\) のとき \(-(-1) = +1\)\(\lambda = 0\) のとき \(-(+1) = -1\) になるわ。

🔵 カイ: なぜ計量の符号が交換関係に入ってくるんですか?

🟡 リナ: 核心的な疑問ね。一言で言えば、\(A_0\) の共役運動量にマイナスが付いているからよ。順を追って説明するわ。

スカラー場のときを思い出して。\(\pi = \dot{\phi}\) で、交換関係 \([\phi, \pi] = i\delta^3\) から \([a, a^\dagger] = +\delta^3\) が出た。\(\pi\)\(\dot{\phi}\) が同じ符号だったから、プラスが出たの。

ところが \(A_0\) の場合、式 (6.32) で見たように \(\pi^0 = -\frac{1}{\xi}\partial_\mu A^\mu\)。Feynman ゲージ (\(\xi = 1\)) では \(\pi^0 = -\partial_\mu A^\mu\)。このマイナスが決定的なの。正準交換関係 \([A_0(\mathbf{x}), \pi^0(\mathbf{y})] = i\delta^3(\mathbf{x}-\mathbf{y})\) は変わらないけれど、\(\pi^0\) にマイナスが付いているせいで、Fourier 展開を代入して \(a\)\(a^\dagger\) の交換関係に翻訳すると、右辺にマイナス符号が現れるの。

⚪ メイ: つまり根本原因は、Minkowski 計量の \(\eta_{00} = +1\)\(\eta_{ii} = -1\) の符号差が、\(A_0\)\(A_i\) の力学構造に異なる「味付け」をしている、ということね。

🟡 リナ: そしてこのマイナスの根本原因は Minkowski 計量の符号よ。\(\eta_{00} = +1\)\(\eta_{ii} = -1\) の違いが、\(A_0\)\(A_i\) の共役運動量の構造を異なるものにし、最終的に \(\lambda = 0\) の交換関係だけ符号が反転するの。結果として

\[ [a(\mathbf{k}, 0),\, a^\dagger(\mathbf{k}', 0)] = -(2\pi)^3 \delta^3(\mathbf{k} - \mathbf{k}') \]

となる。一方、空間成分 \(\lambda = 1, 2, 3\) では計量のマイナスと共役運動量の定義のマイナスが相殺して、通常の正の符号が得られるわ。

結果として、\(-\eta_{\lambda\lambda'}\)\(\lambda = 1, 2, 3\)\(+1\)\(\lambda = 0\)\(-1\) になる。横偏光 (\(\lambda = 1, 2\)) と縦偏光 (\(\lambda = 3\)) に対しては

\[ [a(\mathbf{k}, \lambda),\, a^\dagger(\mathbf{k}', \lambda)] = +(2\pi)^3 \delta^3(\mathbf{k} - \mathbf{k}') \qquad (\lambda = 1, 2, 3) \tag{6.37} \]

しかしスカラー偏光 (\(\lambda = 0\)) に対しては

\[ [a(\mathbf{k}, 0),\, a^\dagger(\mathbf{k}', 0)] = -(2\pi)^3 \delta^3(\mathbf{k} - \mathbf{k}') \tag{6.38} \]

🔵 カイ: マイナス!? これはまずくないですか?

🟡 リナ: まずいわ。1 粒子状態のノルムを計算してみて。\(|1_{\mathbf{k},0}\rangle = a^\dagger(\mathbf{k}, 0)|0\rangle\) とすると

\[ \langle 1_{\mathbf{k},0} | 1_{\mathbf{k},0} \rangle = \langle 0| a(\mathbf{k}, 0)\, a^\dagger(\mathbf{k}, 0) |0\rangle \propto -1 \tag{6.39} \]

ノルムがになる。

⚪ メイ: ノルムが負ということは、確率が負になりうるということ……。物理的にあり得ない。

🟡 リナ: そう。この負ノルム状態を「幽霊」(ghost) と呼ぶことがある。Lorentz 共変性を保つために 4 成分すべてを量子化した代償として、非物理的な「幽霊」が紛れ込んでしまったの。

🔵 カイ: どうすればいいんですか?

🟡 リナ: ここで登場するのが Gupta-Bleuler (グプタ-ブロイラー) の方法よ。


6.7 Gupta-Bleuler の方法——幽霊を封じ込める

🟡 リナ: アイデアはこう。「すべての状態が物理的なわけではない。物理的状態に対して追加の条件を課し、負ノルム状態を物理的な状態空間から排除する」。

具体的には、Lorenz ゲージ条件 \(\partial_\mu A^\mu = 0\)演算子の方程式としてではなく、物理的状態に対する条件として課すの。

\[ \partial_\mu A^{\mu(+)}(x)\, |\psi_{\text{phys}}\rangle = 0 \tag{6.40} \]

ここで \(A^{\mu(+)}\)\(A^\mu\)正振動数部分よ。式 (6.35) のモード展開を見返してみて。\(A_\mu\)\(a(\mathbf{k},\lambda)\,e^{-ikx}\) を含む項と \(a^\dagger(\mathbf{k},\lambda)\,e^{+ikx}\) を含む項の 2 種類からなるわね。前者(消滅演算子 \(a\) が掛かる部分)を \(A^{\mu(+)}\)、後者(生成演算子 \(a^\dagger\) が掛かる部分)を \(A^{\mu(-)}\) と書くの。条件 (6.40) では正振動数部分 \(A^{\mu(+)}\) だけを使うわ。

🔵 カイ: なぜ \(e^{-i\omega t}\) の方が「正振動数」なんですか? \(e^{+i\omega t}\) の方が正に見えるんですが。

🟡 リナ: 「量子力学」編 第 7 章で学んだように、エネルギー \(E_n\) の定常状態の時間因子は \(e^{-iE_n t/\hbar}\) だったわね。自然単位系 \(\hbar = 1\) では \(e^{-iEt}\)。だから \(e^{-i\omega t}\)\(\omega > 0\))は「正のエネルギー \(\omega\) を持つモード」に対応する。これを「正振動数部分」と呼ぶの。そしてモード展開 (6.35) を見ると、\(e^{-ikx} = e^{-i\omega t + i\mathbf{k}\cdot\mathbf{x}}\) の項には消滅演算子 \(a\) が掛かっている。だから \(A^{\mu(+)}|0\rangle = 0\)(真空を消滅させる)という性質を持つわ。

🔵 カイ: なぜ「正振動数部分だけ」なんですか? 全体に \(\partial_\mu A^\mu = 0\) を課さないのは?

🟡 リナ: もし演算子の恒等式として \(\partial_\mu A^\mu = 0\) を課すと、交換関係 (6.33) と矛盾してしまうの。理由を簡単に言うと、\(\pi^0 = -\partial_\mu A^\mu\)(式 (6.32))だから、\(\partial_\mu A^\mu = 0\)\(\pi^0 = 0\) を意味する。でも交換関係 (6.33) は \([A_0, \pi^0] = i\delta^3 \neq 0\) を要求している——\(\pi^0 = 0\)\([A_0, \pi^0] \neq 0\) は両立しないわ。

そこで妥協案として、「演算子の恒等式」ではなく「物理的状態に対する条件」として課すの。正振動数部分 \(A^{\mu(+)}\) だけを使えば、\(A^{\mu(+)}|0\rangle = 0\)(消滅演算子が真空を消す)という性質のおかげで矛盾が避けられる。そして物理的な期待値に対しては

\[ \langle \psi_{\text{phys}} | \partial_\mu A^\mu | \psi_{\text{phys}} \rangle = 0 \tag{6.41} \]

が成り立つ。つまり「物理的状態の間では Lorenz ゲージ条件が弱い意味で成立する」ということ。

⚪ メイ: 条件 (6.40) を Fourier モードで書くとどうなるの?

🟡 リナ: 式 (6.35) の正振動数部分 \(A^{\mu(+)}\)\(e^{-ikx}\) を含む項、つまり \(\int \frac{d^3k}{(2\pi)^3} \frac{1}{\sqrt{2\omega_{\mathbf{k}}}} \sum_\lambda \epsilon^\mu(\mathbf{k},\lambda)\, a(\mathbf{k},\lambda)\, e^{-ikx}\) よ。これに \(\partial_\mu\) を作用させると \(e^{-ikx}\) から \(-ik_\mu\) が出てくるから、\(\partial_\mu A^{\mu(+)} \propto \sum_\lambda k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda)\, a(\mathbf{k}, \lambda)\, e^{-ikx}\) となるの。条件 (6.40) を各 Fourier モードに対して課すと、\(\sum_\lambda k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda)\, a(\mathbf{k}, \lambda)\, |\psi_{\text{phys}}\rangle = 0\) が各 \(\mathbf{k}\) で成り立つ必要がある。横偏光 (\(\lambda = 1, 2\)) については \(k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, \lambda) = 0\) が成り立つの。確認してみましょう。\(\mathbf{k}\)\(z\) 方向なら \(k_\mu = (\omega, 0, 0, -\omega)\)\(k^\mu = (\omega, 0, 0, \omega)\) の空間成分に \(-1\) を掛けたもの)。\(\epsilon^\mu(\mathbf{k}, 1) = (0, 1, 0, 0)\) だから \(k_\mu \epsilon^\mu = \omega \cdot 0 + 0 \cdot 1 + 0 + (-\omega) \cdot 0 = 0\)\(\epsilon^\mu(\mathbf{k}, 2) = (0, 0, 1, 0)\) でも同様にゼロ。

🔵 カイ: 横偏光は自動的に条件を満たすから、実質的な制約はスカラー偏光と縦偏光にだけかかるんですね。

🟡 リナ: その通り。したがって実質的に残るのは \(\lambda = 0, 3\) の項だけ:

\[ \left[ k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, 0)\, a(\mathbf{k}, 0) + k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, 3)\, a(\mathbf{k}, 3) \right] |\psi_{\text{phys}}\rangle = 0 \tag{6.42} \]

\(\mathbf{k}\)\(z\) 方向のとき \(k^\mu = (\omega, 0, 0, \omega)\) だから、添字を下げると \(k_\mu = \eta_{\mu\nu}k^\nu = (\omega, 0, 0, -\omega)\)(空間成分は符号反転)。これを使って \(k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, 0) = \omega \cdot 1 + 0 + 0 + (-\omega) \cdot 0 = \omega\)\(k_\mu \epsilon^\mu(\mathbf{k}, 3) = \omega \cdot 0 + 0 + 0 + (-\omega) \cdot 1 = -\omega\) となるわ。これを式 (6.42) に代入すると

\[ \omega\, a(\mathbf{k}, 0)|\psi_{\text{phys}}\rangle - \omega\, a(\mathbf{k}, 3)|\psi_{\text{phys}}\rangle = 0 \]

\(\omega \neq 0\) で割れるから、\(a(\mathbf{k}, 0)|\psi_{\text{phys}}\rangle = a(\mathbf{k}, 3)|\psi_{\text{phys}}\rangle\) を意味するの。これは「\(\lambda = 0\) の光子を 1 つ消す操作」と「\(\lambda = 3\) の光子を 1 つ消す操作」が物理的状態に対して同じ結果を与えるということ。直感的に言えば、物理的状態の中ではスカラー光子と縦光子が常にペアで現れ、片方だけが存在する状態は許されないの。 (一般の \(\mathbf{k}\) 方向でも、横偏光は定義により \(\mathbf{k}\) に垂直かつ時間成分ゼロだから \(k_\mu \epsilon^\mu = 0\) が成り立つの。)

この条件の帰結として、物理的状態の中ではスカラー光子 (\(\lambda = 0\)) と縦光子 (\(\lambda = 3\)) が常にペアで現れ、互いに相殺するの。

🔵 カイ: 相殺するって、具体的にはどういうことですか?

🟡 リナ: 直感的に言えばこう。スカラー光子は負のノルムを持ち、縦光子は正のノルムを持つ。Gupta-Bleuler 条件は、これらが常に「同数」現れることを強制する。結果として、物理的な状態空間のノルムは

\[ \langle \psi_{\text{phys}} | \psi_{\text{phys}} \rangle \geq 0 \tag{6.43} \]

正定値性が回復するの。

🔵 カイ: うーん、「同数だから相殺する」というのは直感的には分かるんですけど……。でも「ゼロ以上」ということは、ちょうどゼロになる状態もあるんですか? ノルムがゼロの状態って、物理的にはどういう意味なんですか?

🟡 リナ: まさにその通り。スカラー光子と縦光子のペアだけからなる状態はノルムがちょうどゼロになる。これらは物理的に「何も観測されない」状態——つまり真空と区別できない状態なの。物理的な状態空間の構成は二段階よ。まず Gupta-Bleuler 条件を満たす部分空間に制限する。次に、ノルムゼロの状態は「真空と区別できない」のだから、これらを「物理的に同じ」とみなして無視する。こうして、正のノルムを持つ横偏光の状態だけが残るの。

🔵 カイ: なるほど……。つまり「ノルムゼロ=観測しても何も見えない=真空と同じ」ということか。

⚪ メイ: そうね。まず条件で物理的状態を選び、さらにノルムゼロの状態を「真空と同じ」として無視する——この二段階で負ノルム問題を回避しているのね。最終的に物理的な光子は \(\lambda = 1, 2\) の横偏光だけ。

🔵 カイ: つまり、幽霊は「出てくるけど物理的な舞台には上がれない」ように封じ込められているんですね。でも、ちょっと気持ち悪いな……。「非物理的な状態が理論の中に存在するけど無視する」って、本当に大丈夫なんですか? 計算の途中で幽霊が悪さをしたりしないんですか?

🟡 リナ: いい懸念ね。実は、散乱振幅の計算では \(\lambda = 0, 3\) の寄与が必ず相殺することが数学的に証明できるの。それを保証するのが Ward 恒等式——第 9 章で学ぶ関係式よ。だから「無視する」というよりは「相殺が保証されている」と言う方が正確ね。

Coulomb ゲージでは最初から 2 つの横偏光だけを量子化したから負ノルム問題は起きなかった。Lorenz ゲージでは Lorentz 共変性を保つために 4 つの偏光すべてを量子化し、後から Gupta-Bleuler 条件で非物理的な状態を排除する。どちらのアプローチでも最終的な物理的結論は同じ——光子は 2 つの横偏光を持つ。図 6.4「Gupta-Bleuler の方法による状態空間の構造」 にこの構造をまとめたわ。

Gupta-Bleuler の状態空間

図 6.4: Gupta-Bleuler の方法による状態空間の構造。全 Fock 空間の中から Gupta-Bleuler 条件 \(\partial_\mu A^{\mu(+)}|\psi_{\rm phys}\rangle = 0\) を満たす物理的状態空間を選別する。スカラー光子(負ノルム)と縦光子が相殺し、物理的状態ではノルムが正定値に回復する。

🔵 カイ: 2 つの方法で同じ答えが出るのは安心しますね。

🟡 リナ: そう。これが「ゲージの選び方は物理的結果に影響しない」というゲージ不変性の本質よ。

✅ 理解度チェック: Lorenz ゲージでの量子化で負ノルム状態が現れる理由と、Gupta-Bleuler 条件がそれを解決する仕組みを、2〜3 文で説明してみましょう。

答え

Lorentz 共変性を保つために \(A_\mu\) の 4 成分すべてを量子化すると、Minkowski 計量の符号 \(\eta_{00} = +1\) のせいでスカラー偏光 (\(\lambda = 0\)) の状態が負のノルムを持つ。Gupta-Bleuler 条件 \(\partial_\mu A^{\mu(+)}|\psi_{\text{phys}}\rangle = 0\) は、物理的状態の中でスカラー光子と縦光子が相殺することを強制し、物理的な状態空間では正定値ノルムが回復する。結果として物理的な光子は 2 つの横偏光のみとなる。


6.8 光子の伝播関数——ゲージパラメータ \(\xi\)

🟡 リナ: 後の章(第 8 章の Feynman ダイアグラム)で必要になるので、光子の伝播関数 (propagator) を導いておきましょう。伝播関数とは、ある時空点 \(x\) で生成された粒子が別の時空点 \(y\) に伝わる確率振幅を表す量よ。数学的には場の演算子の時間順序積の真空期待値 \(\langle 0|T\{A_\mu(x)A_\nu(y)\}|0\rangle\) として定義される。\(T\) は時間順序積——「時間的に後に起きた出来事を左に並べる」操作——で、直感的には「\(x\) で光子が生まれ、\(y\) で吸収される(または逆)」という因果的な順序を自動的に選んでくれる道具よ。第 7 章で正式に学ぶわ。ここでは結果だけ示しておくわね。Feynman ゲージ (\(\xi = 1\)) での光子伝播関数は

\[ \langle 0 | T\{A_\mu(x)\, A_\nu(y)\} | 0 \rangle = \int \frac{d^4k}{(2\pi)^4} \frac{-i\eta_{\mu\nu}}{k^2 + i\varepsilon}\, e^{-ik(x-y)} \tag{6.44} \]

つまり運動量空間では

\[ D_{\mu\nu}^F(k) = \frac{-i\eta_{\mu\nu}}{k^2 + i\varepsilon} \tag{6.45} \]

ここで \(i\varepsilon\)\(\varepsilon > 0\) は無限小の正数)は、分母がゼロになる点(\(k^2 = 0\)、つまり光子が質量殻上にある点)を避けるための処方箋よ。物理的には「因果的な伝播」——原因が結果より先に起きる——を選び出す役割を果たすの。詳しくは第 7 章で学ぶわ。

🔵 カイ: スカラー場の伝播関数 \(i/(k^2 - m^2 + i\varepsilon)\) に似ていますね。\(m = 0\) にして \(\eta_{\mu\nu}\) を掛けた形。でも、\(\xi\) の値が違うと伝播関数の形が変わるのに、物理的な結果が同じになるって、どうやって保証されるんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。直感的には、\(k_\mu k_\nu\) の項はゲージ不変な物理量の計算で必ず消えることが示せるの。一般の \(\xi\) では

\[ D_{\mu\nu}^F(k) = \frac{-i}{k^2 + i\varepsilon}\left[\eta_{\mu\nu} - (1-\xi)\frac{k_\mu k_\nu}{k^2}\right] \tag{6.46} \]

になる。\(\xi = 1\) (Feynman ゲージ) では第 2 項が消えてシンプルになるから、実際の計算では Feynman ゲージが最もよく使われるわ。

⚪ メイ: \(\xi\) の値が違っても物理的な散乱振幅は同じになる——これがゲージ不変性の帰結ね。

🟡 リナ: そう。\(k_\mu k_\nu\) の項が消えることを保証するのが Ward 恒等式 (ウォード恒等式) と呼ばれる関係式で、第 9 章で詳しく学ぶわ。

📝 練習問題:


6.9 光子に質量がない理由——ゲージ対称性の保護

🟡 リナ: 最後に、非常に深いメッセージを伝えておきたいの。なぜ光子は質量ゼロなのか?

🔵 カイ: えっと……実験的に光速が有限で、光子が質量を持つと光速より遅くなるから?

🟡 リナ: 実験的にはその通り。でも理論的な理由はもっと深い。もし光子に質量 \(m\) を与えたいなら、Lagrangian に質量項

\[ \frac{1}{2}m^2 A_\mu A^\mu \tag{6.47} \]

を加えることになる。第 4 章でスカラー場の質量項が \(\frac{1}{2}m^2\phi^2\) だったのと同じ構造ね——場の 2 次の項で、係数が \(m^2\) に比例する。でも、これがゲージ変換 (6.7) のもとでどう振る舞うか見てみて。

\[ A_\mu A^\mu \to (A_\mu + \partial_\mu \lambda)(A^\mu + \partial^\mu \lambda) = A_\mu A^\mu + 2A^\mu \partial_\mu \lambda + (\partial_\mu \lambda)(\partial^\mu \lambda) \]

余計な項が出てきて、ゲージ不変ではない

⚪ メイ: つまり、ゲージ対称性が質量項を禁止しているのね。ゲージ対称性を保つ限り、光子は質量ゼロでなければならない。

🟡 リナ: その通り。これは「対称性が物理法則を決める」という深い原理の一例よ。逆に言えば、もし光子に質量を与えたいなら、ゲージ対称性を何らかの形で破らなければならない。それが第 19 章で学ぶ Higgs (ヒッグス) 機構——\(W\) ボソンや \(Z\) ボソンが質量を獲得する仕組み——への伏線なの。

✅ 理解度チェック: 質量項 \(\frac{1}{2}m^2 A_\mu A^\mu\) がゲージ対称性と両立しない理由を説明してみましょう。

答え

ゲージ変換 \(A_\mu \to A_\mu + \partial_\mu \lambda\) のもとで \(A_\mu A^\mu \to A_\mu A^\mu + 2A^\mu \partial_\mu \lambda + (\partial_\mu \lambda)(\partial^\mu \lambda)\) となり、余計な項が現れて不変ではない。したがって質量項を Lagrangian に加えるとゲージ対称性が破れてしまい、ゲージ対称性を保つ限り光子の質量はゼロでなければならない。

🔵 カイ: ゲージ対称性って、本当にすごい。力の存在を要求し、光子の質量ゼロを保護し……。でも待ってください。弱い力を伝える \(W\) ボソンや \(Z\) ボソンは質量を持ちますよね? それもゲージ対称性から導かれるなら、質量ゼロのはずでは?

🟡 リナ: 素晴らしい疑問ね。その矛盾を解決するのが第 19 章で学ぶ Higgs 機構よ。ゲージ対称性を「自発的に破る」ことで、ゲージボソンに質量を与えることができるの。そして第 17 章で学ぶように、この原理を非可換群(SU(2) や SU(3))に拡張すると、弱い力や強い力が導かれる。ゲージ原理は現代素粒子物理学の全体を支える大黒柱なのよ。


まとめ——2 つの量子化法の比較

🟡 リナ: この章で学んだことを整理しましょう。

表 6.3: Coulombゲージと Lorenzゲージの量子化法比較

Coulomb ゲージ Lorenz ゲージ + Gupta-Bleuler
ゲージ条件 \(\nabla \cdot \mathbf{A} = 0\) \(\partial_\mu A^\mu = 0\)
Lorentz 共変性 非明示的 明示的
量子化する自由度 横偏光 2 つのみ 4 偏光すべて
負ノルム問題 起きない 起きる → Gupta-Bleuler で解決
物理的光子 2 偏光 2 偏光(条件で選別)
計算の便利さ 散乱計算には不向き Feynman 規則と相性が良い

⚪ メイ: どちらの方法でも最終的な物理は同じ。光子は質量ゼロ・スピン 1 で、2 つの横偏光(ヘリシティ \(\pm 1\))を持つ。そしてこの全てがゲージ対称性——局所 U(1) 不変性——から導かれている。

🔵 カイ: 最初は「冗長性」って聞いて厄介なだけかと思ったけど、むしろその冗長性が物理を支配しているんですね。

🟡 リナ: そう。ゲージ対称性は: 1. 電磁場 \(A_\mu\)存在を要求する(局所 U(1) → 共変微分 → \(A_\mu\)) 2. 物質場との結合の形を一意に決める\(\partial_\mu \to D_\mu\)) 3. 光子の質量ゼロを保護する(質量項がゲージ不変でない) 4. 物理的自由度を2 つに制限する(4 成分 → 2 偏光)

🔵 カイ: 1 つの原理からこれだけのことが出てくるなんて……。でも、U(1) は「位相を回す」だけの単純な群ですよね。SU(2) や SU(3) に拡張すると、何が本質的に変わるんですか?

🟡 リナ: 核心的な疑問ね。U(1) は可換群——変換の順序を入れ替えても結果が同じ。でも SU(2) や SU(3) は非可換群で、変換の順序が結果を変える。その帰結として、ゲージ場自身が「電荷」を持ち、ゲージ場同士が相互作用するようになるの。光子は電荷を持たないから光子同士は直接相互作用しないけれど、グルーオン(強い力を伝える粒子)は「色荷」を持つからグルーオン同士が相互作用する。これが Yang-Mills 理論の本質で、自然界の全ての力(重力を除く)を記述する。詳しくは第 17 章で学ぶわ。図 6.5「ゲージ固定法の比較」 に 2 つの量子化法の全体像をまとめたわ。

ゲージ固定法の比較

図 6.5: ゲージ固定法の比較。Coulomb ゲージと Lorenz ゲージ + Gupta-Bleuler の比較。アプローチは異なるが、最終結論は同じ——物理的光子は 2 つの横偏光。

✅ 理解度チェック: ゲージ対称性が光子に対して果たす 4 つの役割を列挙してみましょう。

答え

(1) 局所 U(1) 対称性の要請から電磁場 \(A_\mu\) の存在が導かれる。(2) 共変微分 \(D_\mu = \partial_\mu + iqA_\mu\) により物質場との結合の形が一意に決まる。(3) 質量項 \(m^2 A_\mu A^\mu\) がゲージ不変でないため、光子の質量ゼロが保護される。(4) ゲージ変換の冗長性により、4 成分ベクトル場の物理的自由度が 2 つの横偏光に制限される。


6.10 量子力学で学んだ Maxwell 場との接続

🟡 リナ: 最後に、「量子力学」編 第 27 章で学んだ内容との接続を確認しておきましょう。あの章では「場の振動モードが粒子である」という描像を予告したわね。

🔵 カイ: はい。「バイオリンの弦の振動モードが音のように、場の振動モードが粒子になる」という話でした。でも、古典的な電磁波が「多数の光子が揃って振動する状態」だとすると、光子 1 個の状態と古典的な波の状態は具体的にどう違うんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。光子 1 個の状態 \(|1_{\mathbf{k},\lambda}\rangle\) は電場の期待値がゼロで、測定するたびにランダムな値が出る——光子の数は確定しているけれど、電場の「振幅」は不確定なの。一方、古典的な電磁波に対応するのは「コヒーレント状態」(coherent state) と呼ばれる特殊な状態よ。イメージとしては、光子の数が不確定だけれど電場の振幅と位相がほぼ確定している状態——レーザー光がまさにこれに近いわ。

🔵 カイ: へえ、レーザー光が「コヒーレント状態」……。それって量子力学的には特別な状態なんですね。

🟡 リナ: 数学的には消滅演算子 \(a\) の固有状態(\(a|\alpha\rangle = \alpha|\alpha\rangle\)\(\alpha\) は複素数)として定義されるの。「量子力学」編 第 9 章で学んだ調和振動子では \(\hat{a}|n\rangle = \sqrt{n}|n-1\rangle\) だったわね——数状態 \(|n\rangle\)\(\hat{a}\) の固有状態ではなかった。コヒーレント状態は数状態の重ね合わせ \(|\alpha\rangle = e^{-|\alpha|^2/2}\sum_n \frac{\alpha^n}{\sqrt{n!}}|n\rangle\) で、\(\hat{a}\) を作用させても「形が変わらない」特別な状態なの。\(\hat{a}\) はエルミートではないから、固有値 \(\alpha\) は実数でなくて複素数になれる。

🔵 カイ: 「消滅演算子を作用させても状態の形が変わらない」って、光子を 1 個取り除いても同じ状態のままってことですか?

🟡 リナ: そう、直感的にはまさにそれ。バケツから水を 1 杯汲んでも水位がほとんど変わらないようなもの——光子が大量にあるから、1 個減っても全体の「形」が変わらないの。\(|\alpha|^2\) が光子数の平均を表し、\(\alpha\) の位相が電場の位相に対応するの。光子数の平均が非常に大きいとき、電場の期待値が古典的な波の形 \(E_0 \cos(\omega t - \mathbf{k}\cdot\mathbf{x})\) に近づく。詳しい数学的定義は量子光学で学ぶけれど、ここでは「光子が大量にある極限で古典電磁気学が再現される」ことを押さえておいて。

🔵 カイ: なるほど。光子 1 個の状態は「粒子数は確定だけど電場の値は不確定」、古典的な波は「電場の値はほぼ確定だけど粒子数は不確定」——ちょうど逆の関係なんですね。

⚪ メイ: 粒子数と位相が不確定性関係のような補完関係にあるのね。量子力学の「位置と運動量」に似た構造が、場の理論でも生きている。

🟡 リナ: この章で、場の量子化を電磁場に対して実現したの。古典的な Maxwell 場を Fourier モードに分解し、各モードを量子力学の調和振動子として量子化した。その結果:

  • 各モード \((\mathbf{k}, \lambda)\) の励起が「運動量 \(\mathbf{k}\)、偏光 \(\lambda\) の光子」
  • \(n\) 個の励起 → \(n\) 個の光子(Fock 空間)
  • 古典的な電磁波 → 多数の光子のコヒーレント状態

⚪ メイ: つまり、Maxwell の古典電磁気学は、光子が大量にある極限として再現される。

🟡 リナ: そう。これでスピン 0(第 4 章)、スピン 1/2(第 5 章)、スピン 1(この章)の自由場の量子化が完了した。次の章からは、いよいよこれらの場を混ぜる——相互作用を導入するわ。


次章予告

スピン 0・1/2・1 の自由場が揃ったところで、いよいよ場と場を「混ぜる」段階に入る。第 7 章では Lagrangian に相互作用項を加え、散乱過程を系統的に記述する S 行列を定式化する。Dyson 級数と時間順序積を武器に、摂動展開の構造を解き明かし、Feynman ダイアグラムという強力な計算道具への扉を開く。

参考文献

  • Quantum Field Theory for the Gifted Amateur (Lancaster & Blundell) 第 14 章「Gauge Invariance and the Electromagnetic Field」
  • David Tong, Quantum Field Theory Lecture Notes 第 7 章「Quantizing the Electromagnetic Field」
  • 場の量子論:不変性と自由場を中心にして(場上) 第 3 章「Maxwell 方程式の相対論的形式とゲージ不変性」
  • 場の量子論:不変性と自由場を中心にして(場上) 第 7 章「ゲージ原理 — 対称性から力が生まれる」
  • 場の量子論:不変性と自由場を中心にして(場上) 第 13 章「Maxwell 場の量子化 — ゲージ自由度との格闘」
  • Quantum Field Theory and the Standard Model (Schwartz) 第 6 章「Spin 1 and Gauge Invariance」
  • Quantum Field Theory and the Standard Model (Schwartz) 第 7 章「Scalar QED」