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Appendix C ガウス積分と Grassmann 積分

前回までのあらすじ:

Appendix B では Lorentz 群のスピノル表現と Dirac 方程式を整理し、スピン 1/2 のフェルミオンを場の量子論にどう組み込むかを見た。

この章のゴール

  • 場の量子論の計算で繰り返し登場するガウス積分(1 変数・多変数)と、Grassmann 数の代数および Berezin 積分を整理する
  • ガウス積分はボソンの経路積分(第 10〜11 章)の、Grassmann 積分はフェルミオンの経路積分(第 12 章)の、それぞれ数学的基盤となる
  • 「ボソンの \((\det A)^{-1/2}\)」と「フェルミオンの \(\det A\)」の対比を押さえれば、経路積分における 2 種類の粒子の扱いの違いがクリアに見える
  • この Appendix はガウス積分・Grassmann 積分の基礎に集中する
  • 次元解析・Feynman パラメータ・Wick 回転・ループ積分公式といった「ループ計算の道具箱」は、続く Appendix D にまとめてある

C.1 1 変数ガウス積分

🟡 リナ: この Appendix は「道具箱」よ。経路積分の章(第 10〜12 章)やループ計算の章(第 13〜14 章)で何度も参照することになるから、まずはすべての出発点——ガウス積分から始めましょう。


C.1.1 基本公式

🟡 リナ: 場の量子論の計算は、突き詰めるとすべてガウス積分に帰着すると言っても過言ではないの。基本公式はこれよ。

\[ \int_{-\infty}^{\infty} dq \; e^{-\frac{a}{2}q^2} = \sqrt{\frac{2\pi}{a}} \qquad \bigl(\mathrm{Re}(a) > 0\bigr) \tag{C.1} \]

🔵 カイ: パラメータ \(a\) は実数じゃなくてもいいんですか?

🟡 リナ: いい質問。\(a\) は複素数でもよいわ。ただし \(\mathrm{Re}(a) > 0\)——つまり \(a\) の実部が正——という条件がつく。なぜかというと、\(a = \alpha + i\beta\) と書くと

\[ e^{-\frac{a}{2}q^2} = e^{-\frac{\alpha}{2}q^2} \cdot e^{-\frac{i\beta}{2}q^2} \]

となって、第 2 因子 \(e^{-i\beta q^2/2}\) は振動するだけで大きさは 1 のまま。積分が収束するためには第 1 因子 \(e^{-\alpha q^2/2}\)\(q \to \pm\infty\) でゼロに向かう必要があるから、\(\alpha > 0\) が必要なの。

⚪ メイ: つまり \(\mathrm{Re}(a) > 0\) は「積分が発散しない」ための条件ね。

✅ 理解度チェック: ガウス積分 \(\int_{-\infty}^{\infty} dq\; e^{-aq^2/2}\) においてパラメータ \(a\) が複素数の場合、積分が収束するために \(a\) に課される条件は何でしょうか? その理由も述べてください。

答え

\(\mathrm{Re}(a) > 0\) が必要。\(a = \alpha + i\beta\) と書くと、\(e^{-aq^2/2} = e^{-\alpha q^2/2} \cdot e^{-i\beta q^2/2}\) となり、第2因子は振動するだけで大きさ1のまま。積分が \(q \to \pm\infty\) で収束するには第1因子 \(e^{-\alpha q^2/2}\) がゼロに向かう必要があり、そのためには \(\alpha = \mathrm{Re}(a) > 0\) でなければならない。


C.1.2 証明——2 乗のトリック

🟡 リナ: この公式の証明は美しいから、きちんと見ておきましょう。積分の値を \(I\) とおくわ。

\[ I = \int_{-\infty}^{\infty} dq \; e^{-\frac{a}{2}q^2} \]

直接求めるのは難しいから、\(I^2\) を考えるの。

\[ I^2 = \int_{-\infty}^{\infty} dq_1 \int_{-\infty}^{\infty} dq_2 \; e^{-\frac{a}{2}(q_1^2 + q_2^2)} \]

🔵 カイ: 2 つの独立な変数 \(q_1, q_2\) を使って、2 次元の積分に持ち込むんですね。

🟡 リナ: そう。ここで 2 次元極座標に変換するわ。\(q_1 = r\cos\theta\), \(q_2 = r\sin\theta\) とおくと、\(q_1^2 + q_2^2 = r^2\) ね。面積要素は \(dq_1\,dq_2 = r\,dr\,d\theta\) になるの。これは直感的には、半径 \(r\) の位置で角度 \(d\theta\) だけ回ると弧の長さが \(r\,d\theta\) になるから、微小面積が「\(dr\) × \(r\,d\theta\)」= \(r\,dr\,d\theta\) になるということよ。高校で習う扇形の弧の長さ \(r\theta\) を思い出してね——微小角度 \(d\theta\) に対応する弧の長さが \(r\,d\theta\) だから、微小な「短冊」の面積は幅 \(dr\) × 長さ \(r\,d\theta\) になるの。原点に近い(\(r\) が小さい)ところでは短冊が短く、遠い(\(r\) が大きい)ところでは長くなる——だから面積要素に \(r\) がかかるのよ。一般に変数変換で面積要素がどう変わるかは「ヤコビアン」という概念で整理できるの——これは C.2.1 で改めて説明するわ。今は「極座標では \(r\) が余分にかかる」ということだけ覚えておいてね。

\[ I^2 = \int_0^{2\pi} d\theta \int_0^{\infty} dr \; r \, e^{-\frac{a}{2}r^2} \]

\(\theta\) 積分は被積分関数に \(\theta\) が含まれないから単に \(2\pi\) を与える。

\[ I^2 = 2\pi \int_0^{\infty} dr \; r \, e^{-\frac{a}{2}r^2} \]

⚪ メイ: 角度に依存しないから、\(\theta\) 積分は即座に \(2\pi\) を与えて消えてくれるのね。

🟡 リナ: \(r\) の積分は \(u = \frac{a}{2}r^2\) と置換すれば処理できるわ。\(du = ar\,dr\) だから \(r\,dr = du/a\)。代入すると

\[ \int_0^{\infty} dr \; r \, e^{-\frac{a}{2}r^2} = \frac{1}{a}\int_0^{\infty} du \; e^{-u} = \frac{1}{a}\left[-e^{-u}\right]_0^{\infty} = \frac{1}{a} \]

🔵 カイ: おお、置換で \(r\) の因子がちょうど吸収されて、シンプルな指数関数だけの積分になるんですね。

🟡 リナ: その通り。まとめると

\[ I^2 = 2\pi \cdot \frac{1}{a} = \frac{2\pi}{a} \]
\[ \therefore \quad I = \sqrt{\frac{2\pi}{a}} \]

これで式 (C.1) が証明できたわ。

🔵 カイ: \(a\) が複素数のとき、平方根の符号はどうなるんですか?

🟡 リナ: 鋭いわね。複素数の平方根は「どちらの符号を取るか」に注意が必要なの。\(a = |a|e^{i\theta}\) と極形式で書くわ。ここで \(\mathrm{Re}(a) = |a|\cos\theta\) だから、\(\mathrm{Re}(a) > 0\)\(\cos\theta > 0\)、つまり \(-\pi/2 < \theta < \pi/2\) を意味するの。このとき \(\sqrt{a} = \sqrt{|a|}\,e^{i\theta/2}\) と定義すれば(\(\theta/2\) の範囲が \(-\pi/4 < \theta/2 < \pi/4\) だから \(\mathrm{Re}(\sqrt{a}) = \sqrt{|a|}\cos(\theta/2) > 0\) が保証される)、\(\sqrt{2\pi/a} = \sqrt{2\pi}/\sqrt{a}\) として

\[ I = \sqrt{\frac{2\pi}{a}} = \frac{\sqrt{2\pi}}{\sqrt{a}} = \sqrt{\frac{2\pi}{|a|}} \; e^{-i\theta/2} \tag{C.2} \]

\(\theta = 0\)\(a\) が正の実数)のとき \(I\) は明らかに正の実数だから、この符号の取り方で正しいの。経路積分(第 10 章)で \(a\) が純虚数に近い場合(Wick 回転の前)に使うことになるわ。

🔵 カイ: つまり \(\mathrm{Re}(a) > 0\) の範囲なら、平方根の符号の取り方が一通りに決まるということですね。


C.1.3 1 次の項を加えた拡張公式(ソース付きガウス積分)

🟡 リナ: 次に、指数の肩に \(q\) の 1 次の項を加えた公式を導くわ。これは経路積分でソース \(J\) を導入するときに必ず使うの。

\[ \int_{-\infty}^{\infty} dq \; e^{-\frac{a}{2}q^2 - Jq} = \sqrt{\frac{2\pi}{a}} \; e^{\frac{J^2}{2a}} \tag{C.3} \]

(符号の注意:文献によっては \(e^{-aq^2/2 + Jq}\)\(+Jq\) で定義するものもある。その場合は \(J \to -J\) の置き換えで式 (C.3) に帰着する。本書では 第 11 章 の生成汎関数でも同じ符号規約を使う。)

🔵 カイ: 右辺に \(e^{J^2/(2a)}\) が「おまけ」としてつくんですね。どうやって導くんですか?

🟡 リナ: キーテクニックは平方完成よ。高校で 2 次関数の頂点を求めるときに使ったのと同じ。

指数の肩を変形するわ。

\[ -\frac{a}{2}q^2 - Jq = -\frac{a}{2}\left(q + \frac{J}{a}\right)^2 + \frac{J^2}{2a} \tag{C.4} \]

⚪ メイ: 確認するわね。右辺を展開すると

\[ -\frac{a}{2}\left(q^2 + \frac{2J}{a}q + \frac{J^2}{a^2}\right) + \frac{J^2}{2a} = -\frac{a}{2}q^2 - Jq - \frac{J^2}{2a} + \frac{J^2}{2a} = -\frac{a}{2}q^2 - Jq \]

確かに元に戻る。

🟡 リナ: あとは \(z \equiv q + J/a\) と変数変換するだけ。\(dz = dq\) で積分範囲も \((-\infty, +\infty)\) のまま変わらないから、

\[ \int_{-\infty}^{\infty} dq \; e^{-\frac{a}{2}q^2 - Jq} = e^{\frac{J^2}{2a}} \int_{-\infty}^{\infty} dz \; e^{-\frac{a}{2}z^2} = e^{\frac{J^2}{2a}} \cdot \sqrt{\frac{2\pi}{a}} \]

🔵 カイ: おお、きれいに出ますね! \(e^{J^2/(2a)}\)\(z\) に依存しない定数だから積分の外に出せるわけか。

🟡 リナ: このパターン——「平方完成 → 変数変換 → ガウス積分に帰着」——は経路積分で何十回も使うから、体に染み込ませてね。

✅ 理解度チェック: ソース付きガウス積分 \(\int dq\; e^{-aq^2/2 - Jq}\) を導出する際の「平方完成」とは具体的にどのような操作でしょうか? また、なぜ変数変換後も積分範囲が変わらないのでしょうか?

答え

平方完成とは、指数の肩 \(-\frac{a}{2}q^2 - Jq\)\(-\frac{a}{2}(q + J/a)^2 + J^2/(2a)\) と書き直す操作。\(z = q + J/a\) と変数変換すると \(dz = dq\) で、\(q\)\(-\infty\) から \(+\infty\) を動くとき \(z\) も同じ範囲を動くため積分範囲は変わらない。定数因子 \(e^{J^2/(2a)}\) を外に出せば、残りは基本ガウス積分 \(\sqrt{2\pi/a}\) に帰着する。

理解度チェック C.1

\(\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty} dq\; e^{-\frac{a}{2}q^2 + bq}\) を求めよ(\(\mathrm{Re}(a) > 0\))。

答え: 式 (C.3) の指数の肩は \(-\frac{a}{2}q^2 - Jq\) で、今の問題の指数の肩は \(-\frac{a}{2}q^2 + bq\)。両者を比較すると \(-Jq = +bq\) だから \(J = -b\)。式 (C.3) に \(J = -b\) を代入すると \(\sqrt{2\pi/a}\;e^{J^2/(2a)} = \sqrt{2\pi/a}\;e^{(-b)^2/(2a)} = \sqrt{2\pi/a}\;e^{b^2/(2a)}\)。あるいは、直接平方完成しても同じ結果が得られる:\(-\frac{a}{2}q^2 + bq = -\frac{a}{2}(q - b/a)^2 + b^2/(2a)\)


C.1.4 \(q^n\) を含むガウス積分

🟡 リナ: もう一つ頻出する公式を紹介するわ。ガウス積分の被積分関数に \(q^n\) がかかった場合よ。

\[ I_n(a) \equiv \int_{-\infty}^{\infty} dq \; q^n \, e^{-\frac{a}{2}q^2} \tag{C.5} \]

結果:

\[ I_n(a) = \begin{cases} \displaystyle \sqrt{\frac{2\pi}{a}} \;\frac{(2m-1)!!}{a^m} & (n = 2m: \text{偶数}) \\[10pt] 0 & (n = 2m+1: \text{奇数}) \end{cases} \tag{C.6} \]

ここで \((2m-1)!! = (2m-1)(2m-3)\cdots 3 \cdot 1\)二重階乗 (double factorial) と呼ばれる記号よ。1 つおきにかけ算していくの。

🔵 カイ: 二重階乗って初めて見ます。具体的にはどんな値になるんですか?

🟡 リナ: 例えば \(m = 1\) なら \((2 \cdot 1 - 1)!! = 1!! = 1\)\(m = 2\) なら \(3!! = 3 \cdot 1 = 3\)\(m = 3\) なら \(5!! = 5 \cdot 3 \cdot 1 = 15\)。普通の階乗 \(n!\) が全部かけるのに対して、二重階乗は 1 つ飛ばしでかけるの。

ちなみに公式 (C.6) が \(m = 0\)(つまり \(n = 0\))のときも正しく働くか確認してみましょう。\(m = 0\) を代入すると \(\sqrt{2\pi/a} \cdot (-1)!!/a^0 = \sqrt{2\pi/a} \cdot (-1)!!\) を与えるわ。一方、\(I_0 = \int dq\; e^{-aq^2/2} = \sqrt{2\pi/a}\) は既に知っている(式 (C.1) そのもの)。この 2 つが一致するためには \((-1)!! = 1\) でなければならない。つまり「公式が \(m = 0\) でも正しく働くように」\((-1)!! = 1\) と定義するの。これは \(0! = 1\) と同じ発想よ。\(0!\) も「\(n! = n \cdot (n-1)!\)\(n = 1\) を代入すると \(1! = 1 \cdot 0!\) だから \(0! = 1\)」と整合性から決まるわよね。直感的には「かける数が 1 つもないとき、積の値は 1」という約束——何も掛け合わせなければ結果は 1 のまま——と思えばいいわ。同じように \((2m-1)!!\) は「\(m\) 個の奇数を掛ける」操作だから、\(m = 0\) なら「0 個の数を掛ける」= 1 ね。

🔵 カイ: 奇数のときゼロになるのは、被積分関数が奇関数だからですよね。

🟡 リナ: そう。\(e^{-aq^2/2}\) は偶関数、\(q^n\)\(n\) が奇数)は奇関数。積は奇関数だから、\(-\infty\) から \(+\infty\) の積分で正負が打ち消し合ってゼロになるの。

⚪ メイ: 偶数の場合はどうやって導くの?

🟡 リナ: 漸化式を使うのが一番楽よ。部分積分で示せる漸化式がこれ。

\[ I_n(a) = \frac{n-1}{a}\,I_{n-2}(a) \tag{C.7} \]

証明: \(I_n(a)\) の被積分関数を \(q^{n-1} \cdot q\,e^{-aq^2/2}\) と分ける。ここで \(\frac{d}{dq}e^{-aq^2/2} = -aq\,e^{-aq^2/2}\)(合成関数の微分)だから、\(q\,e^{-aq^2/2} = -\frac{1}{a}\frac{d}{dq}e^{-aq^2/2}\) と書ける。部分積分 \(\int u\,dv = [uv] - \int v\,du\)

  • \(u = q^{n-1}\)\(du = (n-1)q^{n-2}\,dq\)
  • \(v = -\frac{1}{a}e^{-aq^2/2}\)\(dv = q\,e^{-aq^2/2}\,dq\)

とおくと

\[ I_n(a) = \left[-\frac{q^{n-1}}{a}e^{-\frac{a}{2}q^2}\right]_{-\infty}^{\infty} + \frac{n-1}{a}\int_{-\infty}^{\infty} dq\; q^{n-2}\,e^{-\frac{a}{2}q^2} \]

\(\mathrm{Re}(a) > 0\) なので境界項はゼロ。残った積分は \(I_{n-2}(a)\) そのもの。

🔵 カイ: なるほど、\(I_0 = \sqrt{2\pi/a}\) から出発して、\(I_2 = (1/a)\sqrt{2\pi/a}\), \(I_4 = (3/a^2)\sqrt{2\pi/a}\), ... と芋づる式に求まるわけですね。ところで \(I_4\) の係数が \(3\) なのは何か意味があるんですか? 4 つの \(q\) を 2 つずつペアにする組み合わせの数とか……?

🟡 リナ: その通り! 4 つの \(q\) を 2 つずつのペアに分ける方法は、\((q_1 q_2)(q_3 q_4)\), \((q_1 q_3)(q_2 q_4)\), \((q_1 q_4)(q_2 q_3)\) の 3 通り——まさに \((2m-1)!! = 3!! = 3\) に一致するの。これは偶然ではなくて、Wick の定理(第 7 章)と直結しているわ。

⚪ メイ: ペアリングの組み合わせ数がそのまま二重階乗になっている——だから Wick の定理と直結するのね。

🟡 リナ: 具体的な値を表にまとめておくわね。

表 C.1: ガウス積分 \(I_n(a)\) の具体的な値

\(n\) \(I_n(a)\)
0 \(\sqrt{2\pi/a}\)
2 \(\sqrt{2\pi/a}\cdot a^{-1}\)
4 \(\sqrt{2\pi/a}\cdot 3a^{-2}\)
6 \(\sqrt{2\pi/a}\cdot 15a^{-3}\)

係数 \(1, 3, 15\) がそれぞれ \((2m-1)!!\) に対応していることを確認してね。

✅ 理解度チェック: ガウス積分 \(I_n(a) = \int dq\; q^n e^{-aq^2/2}\)\(n\) が奇数のときゼロになる理由を説明してみましょう。また偶数の場合に漸化式 \(I_n = \frac{n-1}{a} I_{n-2}\) が成り立つことはどのような手法で示されるでしょうか?

答え

\(n\) が奇数のとき、\(q^n\) は奇関数で \(e^{-aq^2/2}\) は偶関数なので、積は奇関数となり \((-\infty, +\infty)\) の対称区間で積分するとゼロになる。漸化式は部分積分で示される。被積分関数を \(q^{n-1} \cdot q e^{-aq^2/2}\) と分け、\(q e^{-aq^2/2} = -\frac{1}{a}\frac{d}{dq}e^{-aq^2/2}\) を利用して部分積分すると、境界項はゼロになり \(I_{n-2}\) に帰着する。

📝 練習問題:


C.2 多変数ガウス積分

🟡 リナ: 場の量子論では、積分変数が 1 つじゃなくて無限個ある。だから多変数への拡張が不可欠なの。


C.2.1 基本公式

🟡 リナ: \(n\) 個の実変数 \(q_1, q_2, \ldots, q_n\) をまとめてベクトル \(\mathbf{q}\) と書くわ。\(A\)\(n \times n\)実対称正定値行列とする。「対称」は \(A_{ij} = A_{ji}\)(転置しても同じ)ということ。「正定値」の正式な定義は「任意の \(\mathbf{q} \neq \mathbf{0}\) に対して \(\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q} > 0\) が成り立つ」ことだけど、直感的には「1 変数のとき \(aq^2 > 0\) になるために \(a > 0\) が必要だったのと同じで、どの方向に引っ張っても 2 次形式が正になる」という条件よ。

🔵 カイ: 「すべての固有値が正」とも聞いたことがあるんですが、固有値って何ですか?

🟡 リナ: 固有値というのは、\(\mathbf{v} \neq \mathbf{0}\) なるベクトル \(\mathbf{v}\) が存在して \(A\mathbf{v} = \lambda\mathbf{v}\) を満たすようなスカラー \(\lambda\) のこと——行列が特定の方向のベクトル \(\mathbf{v}\)(これを固有ベクトルと呼ぶ)を「伸縮するだけ」にする倍率よ。例えば \(2 \times 2\) の対角行列 \(\begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & 5 \end{pmatrix}\) なら、\(x\) 方向のベクトルは 3 倍、\(y\) 方向は 5 倍に伸びるから、固有値は 3 と 5 ね。

🔵 カイ: つまり行列をかけても方向が変わらないベクトルがあって、そのときの「伸び率」が固有値ということですね。

🟡 リナ: その通り。正定値であることは「\(A\) のすべての固有値が正」と同値なの。なぜ同値かというと、実対称行列は必ず直交行列で対角化できる——つまり、ある直交行列 \(O\) が存在して \(O^T A\,O = \mathrm{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n)\) と対角行列に変換できるの(これは線形代数でスペクトル定理と呼ばれる結果よ。名前は覚えなくていいけれど、「実対称行列は必ず直交行列で対角化できる」という事実をこの章では道具として使うわ。証明は線形代数の教科書に譲るわね)。対角化すると何が嬉しいかは、すぐ下で具体的に見せるわね。

🔵 カイ: 「実対称」じゃない行列だと対角化できないこともあるんですか?

🟡 リナ: 一般にはそうよ。でも物理で出てくる 2 次形式 \(\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q}\)\(A\) は対称行列に取れるから(非対称部分は \(\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q}\) に寄与しない)、この章では常に対角化できる状況だけを扱うの。対角化した座標系では \(\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q} = \sum_i \lambda_i z_i^2\) になる。これがすべての \(\mathbf{z} \neq \mathbf{0}\) で正になるには、各 \(\lambda_i > 0\) が必要十分——1 変数の \(a > 0\) と同じ理屈ね。

⚪ メイ: つまり「対角化して各方向に分離すれば、結局は 1 変数の条件に帰着する」ということね。

🟡 リナ: その通り。すると、

\[ \int_{-\infty}^{\infty} d^n q \; e^{-\frac{1}{2}\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q}} = \frac{(2\pi)^{n/2}}{(\det A)^{1/2}} \tag{C.8} \]

ここで \(d^n q = dq_1\,dq_2\cdots dq_n\) よ。\(\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q}\) は「行ベクトル × 行列 × 列ベクトル」の積で、成分で書くと \(\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q} = \sum_{i,j} q_i A_{ij} q_j\) となるの。例えば \(n = 2\) なら

\[ \mathbf{q}^T A\,\mathbf{q} = (q_1, q_2)\begin{pmatrix} A_{11} & A_{12} \\ A_{21} & A_{22} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} q_1 \\ q_2 \end{pmatrix} = A_{11}q_1^2 + (A_{12}+A_{21})q_1 q_2 + A_{22}q_2^2 \]

となるわ。\(A\) が対称(\(A_{12} = A_{21}\))なら交差項は \(2A_{12}q_1 q_2\) ね。

🔵 カイ: 1 変数のとき \(\sqrt{2\pi/a}\) だったのが、\(n\) 変数になると \(a\) が行列 \(A\) に、\(1/\sqrt{a}\)\(1/\sqrt{\det A}\) に置き換わるんですね。

🟡 リナ: まさにそう。直感的には、\(A\) が対角化できるとき各固有値 \(\lambda_i\) について独立にガウス積分ができて、

\[ \prod_{i=1}^n \sqrt{\frac{2\pi}{\lambda_i}} = \frac{(2\pi)^{n/2}}{\sqrt{\lambda_1 \lambda_2 \cdots \lambda_n}} = \frac{(2\pi)^{n/2}}{\sqrt{\det A}} \]

となるの。

⚪ メイ: 対称行列は直交行列で対角化できるから、各変数が独立な 1 変数ガウス積分に分離するのね。

🔵 カイ: ちょっと待って、変数変換したら……極座標のときみたいに、面積要素に余計な因子がかかるんじゃないですか?

🟡 リナ: いい指摘。多変数の変数変換では、ヤコビアンと呼ばれる因子が体積要素にかかるわ。一般に、変数 \(\mathbf{q}\) から新しい変数 \(\mathbf{z}\) に変換するとき、体積要素は

\[ d^n q = \left|\det\frac{\partial q_i}{\partial z_j}\right| d^n z \]

と変わるの。この \(\left|\det\frac{\partial q_i}{\partial z_j}\right|\) がヤコビアンよ。ここで \(\frac{\partial q_i}{\partial z_j}\)偏微分——「他の変数 \(z_k\)\(k \neq j\))を固定したまま \(z_j\) だけを少し変えたとき、\(q_i\) がどれだけ変わるか」の割合のこと。1 変数の微分 \(dq/dz\) の多変数版ね。これらを行列の形に並べて行列式を取ったものがヤコビアンなの。C.1.2 の極座標の例では、\(q_1 = r\cos\theta\), \(q_2 = r\sin\theta\) だから

\[ \det\frac{\partial(q_1, q_2)}{\partial(r, \theta)} = \det\begin{pmatrix} \cos\theta & -r\sin\theta \\ \sin\theta & r\cos\theta \end{pmatrix} = r\cos^2\theta + r\sin^2\theta = r \]

これが極座標で \(r\) が余分にかかる理由ね。

🔵 カイ: なるほど、さっき「直感的に短冊の長さが \(r\) に比例する」と説明してくれたのと、ヤコビアンの計算がちゃんと一致するんですね。

🟡 リナ: さて、今の問題では直交行列 \(O\) による変数変換 \(\mathbf{q} = O\mathbf{z}\) を考えている。この場合 \(\partial q_i/\partial z_j = O_{ij}\) だから、ヤコビアンは \(|\det O|\) よ。直交行列というのは \(O^T O = I\)(転置が逆行列に等しい)を満たす行列で、幾何学的には「回転と鏡映」を表す。\(\det(O^T O) = (\det O)^2 = \det I = 1\) だから \(\det O = \pm 1\)、つまり \(|\det O| = 1\)。回転や鏡映は図形の面積や体積を変えないでしょう? だからヤコビアンが 1 になるのよ。

🔵 カイ: なるほど、回転しても面積は変わらないから、余計な因子が出ないんですね。だから安心して対角化できると。

✅ 理解度チェック: 多変数ガウス積分の結果 \((2\pi)^{n/2}/(\det A)^{1/2}\) において、行列式 \(\det A\) が現れる物理的・数学的理由を説明してみましょう。

答え

実対称正定値行列 \(A\) は直交変換で対角化でき、固有値を \(\lambda_1, \ldots, \lambda_n\) とすると各変数について独立に1変数ガウス積分 \(\sqrt{2\pi/\lambda_i}\) が実行できる。これらの積は \(\prod_i \sqrt{2\pi/\lambda_i} = (2\pi)^{n/2}/\sqrt{\lambda_1 \cdots \lambda_n} = (2\pi)^{n/2}/\sqrt{\det A}\) となる。直交変換のヤコビアンは1なので変数変換による追加因子は生じない。


C.2.2 ソース付き多変数ガウス積分

🟡 リナ: 1 次の項(ソース \(\mathbf{J}\))を加えた場合はこうなるわ。

\[ \int d^n q \; e^{-\frac{1}{2}\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q} - \mathbf{J}^T \mathbf{q}} = \frac{(2\pi)^{n/2}}{(\det A)^{1/2}} \; e^{\frac{1}{2}\mathbf{J}^T A^{-1}\mathbf{J}} \tag{C.9} \]

🔵 カイ: 1 変数のとき \(e^{J^2/(2a)}\) だったのが、\(e^{\frac{1}{2}\mathbf{J}^T A^{-1}\mathbf{J}}\) に置き換わるんですね。\(1/a\) が逆行列 \(A^{-1}\) になっている。でも多変数の平方完成って、行列の場合でも同じようにできるんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。できるわ。導出も 1 変数のときと同じよ。平方完成して

\[ -\frac{1}{2}\mathbf{q}^T A\,\mathbf{q} - \mathbf{J}^T\mathbf{q} = -\frac{1}{2}(\mathbf{q} + A^{-1}\mathbf{J})^T A\,(\mathbf{q} + A^{-1}\mathbf{J}) + \frac{1}{2}\mathbf{J}^T A^{-1}\mathbf{J} \]

変数変換 \(\mathbf{z} = \mathbf{q} + A^{-1}\mathbf{J}\) でヤコビアンは 1 だから、式 (C.8) に帰着する。

⚪ メイ: 1 変数で「\(q\)\(q + J/a\) にずらす」だったのが、多変数では「\(\mathbf{q}\)\(\mathbf{q} + A^{-1}\mathbf{J}\) にずらす」——構造がまったく同じね。

🟡 リナ: この公式が場の経路積分(第 11 章)で生成汎関数 \(Z[J]\) を計算するときの核心になるの。\(n \to \infty\) の極限で離散的な和が連続的な積分に置き換わり、\(A^{-1}\) が Feynman 伝播関数になる。

⚪ メイ: つまり、1 変数で \(1/a\) だったものが多変数で \(A^{-1}\) になったのと同じ構造が、無限変数の場の理論にもそのまま引き継がれるのね。

✅ 理解度チェック: ソース付き多変数ガウス積分の結果に現れる \(A^{-1}\) は、場の量子論の経路積分において何に対応するでしょうか?

答え

\(n \to \infty\) の極限で離散的な変数が連続的な場に置き換わるとき、逆行列 \(A^{-1}\) は Feynman 伝播関数(プロパゲーター)に対応する。ソース付き公式の指数部分 \(\frac{1}{2}\mathbf{J}^T A^{-1} \mathbf{J}\) が生成汎関数 \(Z[J]\) の構造を与え、\(A^{-1}\) の各成分が2点間の伝播を記述する。

理解度チェック C.2

式 (C.9) で \(n = 1\), \(A = (a)\), \(\mathbf{J} = (J)\) とおくと式 (C.3) が再現されることを確認せよ。

答え: \(\det A = a\), \(A^{-1} = 1/a\), \(\mathbf{J}^T A^{-1}\mathbf{J} = J^2/a\)。代入すると \(\sqrt{2\pi/a}\;e^{J^2/(2a)}\) で、式 (C.3) に一致する。


C.3 Grassmann 数の代数と積分

🟡 リナ: ここからはフェルミオンの経路積分(第 12 章)で不可欠な Grassmann (グラスマン) 数の話よ。ボソンの経路積分では「普通の数」を積分変数に使えたけど、フェルミオンでは反交換する数が必要になるの。


C.3.1 なぜ Grassmann 数が必要か

🔵 カイ: なぜ普通の数じゃダメなんですか?

🟡 リナ: フェルミオンの場の演算子は反交換関係を満たすわよね。

\[ \hat{\psi}(x)\hat{\psi}(y) = -\hat{\psi}(y)\hat{\psi}(x) \]

経路積分では演算子を使わず「古典的な場の値」を積分変数にするのが利点だった。でも、積分変数が普通の可換な数だと、この反交換性を再現できない。だから反交換する新しい種類の数——Grassmann 数——を導入するの。

✅ 理解度チェック: フェルミオンの経路積分で、積分変数として普通の実数や複素数ではなく Grassmann 数を使わなければならない理由は何でしょうか?

答え

フェルミオンの場の演算子は反交換関係 \(\hat{\psi}(x)\hat{\psi}(y) = -\hat{\psi}(y)\hat{\psi}(x)\) を満たす。経路積分では演算子を「古典的な場の値」(積分変数)に置き換えるが、普通の可換な数ではこの反交換性を再現できない。そこで、交換すると符号が変わる Grassmann 数を積分変数として導入する必要がある。


C.3.2 基本的な反交換性と \(\eta^2 = 0\)

🟡 リナ: 定義は驚くほどシンプルよ。2 つの Grassmann 数 \(\eta\), \(\zeta\)

\[ \eta\zeta = -\zeta\eta \tag{C.10} \]

を満たす。これが反交換性 (anticommutativity)。

ここから直ちに、\(\zeta = \eta\) とおくと

\[ \eta\eta = -\eta\eta \]

両辺に \(\eta\eta\) を加えると \(2\eta^2 = 0\)。係数は普通の実数や複素数だから 2 で割れて

\[ \boxed{\eta^2 = 0} \tag{C.11} \]

🔵 カイ: \(\eta^2 = 0\) だけど \(\eta \neq 0\)! 普通の数では考えられないですね。

🟡 リナ: これがパウリの排他原理の数学的表現だと思えばいいわ。同じフェルミオン状態を 2 回占有しようとするとゼロになる——まさに排他原理そのものでしょう?

そして \(\eta^2 = 0\) だから、Grassmann 数の関数はテイラー展開が有限項で打ち切れるの。1 変数なら

\[ f(\eta) = a + b\eta \tag{C.12} \]

がもっとも一般的な形。2 次以上の項はすべてゼロよ。例えば \(e^\eta = 1 + \eta + \eta^2/2! + \cdots = 1 + \eta\)\(\eta^2 = 0\) で打ち切り)。同様に \(\sin\eta = \eta - \eta^3/3! + \cdots = \eta\)\(\cos\eta = 1 - \eta^2/2! + \cdots = 1\)

⚪ メイ: テイラー展開がたった 2 項で終わるから、どんな関数でも \(a + b\eta\) の形に収まるのね。扱いやすい。

✅ 理解度チェック: Grassmann 数 \(\eta\) について \(\eta^2 = 0\) が成り立つことは、物理的にはどのような原理に対応するでしょうか? また、この性質から Grassmann 数の関数にはどのような制約が生じるでしょうか?

答え

\(\eta^2 = 0\) はパウリの排他原理の数学的表現に対応する。同じフェルミオン状態を2回占有しようとするとゼロになることを反映している。この性質により、1変数 Grassmann 数の関数はテイラー展開が \(f(\eta) = a + b\eta\) の2項で打ち切られ、2次以上の項はすべてゼロとなる。


C.3.3 Grassmann 数の微分

🟡 リナ: 微分の定義は自然なもの。

\[ \frac{\partial}{\partial\eta}\eta = 1, \qquad \frac{\partial}{\partial\eta}(\text{定数}) = 0 \tag{C.13} \]

だから \(f(\eta) = a + b\eta\) を微分すると

\[ \frac{\partial f}{\partial\eta} = b \tag{C.14} \]

🔵 カイ: ここまでは普通ですね。

🟡 リナ: 重要なのは、微分演算子自体も Grassmann 的(奇数的)に振る舞うこと。具体的には、Grassmann 微分は左微分として定義するわ。\(\frac{\partial}{\partial\zeta}\) は「積の中で \(\zeta\) を一番左に持ってきてから取り除く」操作よ。2 変数 \(\eta, \zeta\) があるとき、\(\eta\zeta\)\(\zeta\) で微分してみて。

まず \(\zeta\) を左端に持ってくる:\(\eta\zeta = -\zeta\eta\)(反交換性)。次に左端の \(\zeta\) を取り除く:\(-\eta\)。つまり

\[ \frac{\partial}{\partial\zeta}(\eta\zeta) = -\eta \tag{C.15} \]

🔵 カイ: マイナスが出た! \(\zeta\) を左に持ってくるときに \(\eta\) と入れ替えるから符号が変わるんですね。

🟡 リナ: その通り。一般に、\(\frac{\partial}{\partial\zeta}\) を作用させるには、微分したい変数 \(\zeta\) を左端まで移動させる。途中で他の Grassmann 変数を 1 つ飛び越えるたびに符号が 1 回変わるの。

⚪ メイ: つまりさっきの例では、\(\eta\) を 1 つ飛び越えたから符号が 1 回変わって \(-\eta\) になったのね。変数が増えても同じルールを繰り返すだけ。


C.3.4 Berezin 積分

🟡 リナ: ここが Grassmann 数の最も驚くべき部分。積分を次のように定義するの。

\[ \int d\eta\; \eta = 1, \qquad \int d\eta\; 1 = 0 \tag{C.16} \]

これを Berezin (ベレジン) 積分と呼ぶわ。

🔵 カイ: えっ、普通の積分と全然違いますよね! \(\int dx\; 1 = x + C\) じゃないんですか?

🟡 リナ: Grassmann 積分は普通の Riemann 積分とは別物なの。この定義は平行移動不変性から要請されるわ。普通の定積分 \(\int_{-\infty}^{\infty} dx\; f(x)\)\(x \to x + a\) でも値が変わらない(被積分関数が十分速く減衰する場合)。Grassmann 積分にも同じ性質を要求してみましょう。

一般の関数は \(f(\eta) = \alpha + \beta\eta\) だから、積分にも普通の積分と同じく線形性を要請するわ。つまり \(\int d\eta\; f(\eta) = \alpha\int d\eta\; 1 + \beta\int d\eta\; \eta = c_0 \alpha + c_1 \beta\) と書ける。ここで \(c_0 = \int d\eta\; 1\), \(c_1 = \int d\eta\; \eta\) が決めるべき定数よ。

平行移動 \(\eta \to \eta + \xi\) で不変であることを要求するわ。ここで \(\xi\) は別の Grassmann 数よ。なぜ普通の数ではなく Grassmann 数で平行移動するかというと、\(\eta\) は反交換する変数だから、平行移動後の \(\eta + \xi\) も Grassmann 数としての性質を保つ必要がある。具体的に見てみましょう。もし \(\xi\) が普通の数 \(c\) だったら、\((\eta + c)^2 = \eta^2 + 2c\eta + c^2 = 2c\eta + c^2\) で、\(c \neq 0\) ならゼロにならない。つまり \(\eta + c\)\(\theta^2 = 0\) という Grassmann 数の基本性質を失ってしまうの。一方 \(\xi\) が Grassmann 数なら \((\eta + \xi)^2 = \eta^2 + \eta\xi + \xi\eta + \xi^2 = 0 + \eta\xi - \eta\xi + 0 = 0\) で、ちゃんと Grassmann 数のまま。同じ種類の数で平行移動するのが自然なのよ。

🔵 カイ: なるほど、普通の数でずらすと「2 乗がゼロ」という性質が壊れてしまうから、Grassmann 数でずらさないとダメなんですね。

🟡 リナ: \(f(\eta) = \alpha + \beta\eta\)\(\eta \to \eta + \xi\) を代入すると

\[ f(\eta + \xi) = \alpha + \beta(\eta + \xi) = (\alpha + \beta\xi) + \beta\eta \]

ここで \(\alpha, \beta\) は普通の数(Grassmann 数ではない)だから \(\beta\xi\)\(\beta\eta\) の順序は問題にならないわ。この式を見ると、\(\eta\) に関しては「\(\eta\) を含まない部分(\(\eta\) にとっての定数)\(= \alpha + \beta\xi\)」と「\(\eta\) の 1 次の係数 \(= \beta\)」に分かれている。\(\beta\xi\) は Grassmann 数だけど \(\eta\) とは別の変数だから、\(\eta\) で積分するときは定数扱いよ。線形性を使って \(\eta\) で積分すると

\[ \int d\eta\; f(\eta + \xi) = (\alpha + \beta\xi)\underbrace{\int d\eta\;1}_{= c_0} + \beta\underbrace{\int d\eta\;\eta}_{= c_1} = c_0(\alpha + \beta\xi) + c_1\beta \]

これが \(\int d\eta\; f(\eta) = c_0\alpha + c_1\beta\) と等しくなるためには、\(c_0\beta\xi = 0\) が任意の \(\beta, \xi\) で成り立つ必要がある。よって \(c_0 = 0\)、つまり \(\int d\eta\; 1 = 0\)\(c_1\) は規格化の約束で \(c_1 = 1\) と定めるの。

🔵 カイ: なるほど、\(\int d\eta\; 1 = 0\) は「平行移動で値が変わらない」という要請から出てくるんですね。

⚪ メイ: 確認するわ。\(f(\eta) = \alpha + \beta\eta\)\(\eta \to \eta + \xi\) で置き換えると \(f(\eta + \xi) = (\alpha + \beta\xi) + \beta\eta\)。これを積分すると

\[ \int d\eta\; f(\eta + \xi) = \beta \]

元の関数を積分しても \(\int d\eta\; f(\eta) = \beta\)。確かに一致する。

🟡 リナ: そして驚くべきことに、式 (C.14) と比べてみて。

\[ \frac{\partial f}{\partial\eta} = b, \qquad \int d\eta\; f(\eta) = b \]

Grassmann 数の世界では、微分と積分は同じ操作なの。

🔵 カイ: うわ、本当だ。普通の数では微分と積分は逆の操作なのに……。

🟡 リナ: \(\eta\) の関数は \(f(\eta) = a + b\eta\) しかないから、「\(\eta\) を取り除いて係数 \(b\) を取り出す」操作は一通りしかない。微分も積分もその同じ操作をやっているの。

✅ 理解度チェック: Berezin 積分の定義 \(\int d\eta\; \eta = 1\), \(\int d\eta\; 1 = 0\) において、\(\int d\eta\; 1 = 0\) という一見奇妙な規則はどのような要請から導かれるでしょうか? また、Grassmann 数の微分と積分の関係はどうなっているでしょうか?

答え

\(\int d\eta\; 1 = 0\) は「平行移動不変性」の要請から導かれる。\(\eta \to \eta + \xi\) と平行移動しても積分値が変わらないことを要求すると、定数項の積分はゼロでなければならない。また、Grassmann 数の世界では微分と積分は同じ操作になる。\(f(\eta) = a + b\eta\) に対して \(\partial f/\partial\eta = b\) であり \(\int d\eta\; f(\eta) = b\) で、どちらも「\(\eta\) の係数を取り出す」同一の操作である。


C.3.5 Grassmann ガウス積分

🟡 リナ: フェルミオンの経路積分で核心となる公式を導くわ。ボソンのガウス積分では \(e^{-aq^2/2}\) のように変数の 2 乗が指数に入っていたわよね。でも Grassmann 数では \(\eta^2 = 0\) だから、同じ変数の 2 乗を使った「\(e^{-a\eta^2/2}\)」は \(e^0 = 1\) になってしまって意味がない。だから 2 次形式を作るには別の Grassmann 変数が必要なの。フェルミオンの経路積分(第 12 章)では、Dirac 場 \(\psi\)\(\bar{\psi} = \psi^\dagger\gamma^0\)独立な積分変数として扱う。それに対応して、ここでも 2 つの独立な Grassmann 変数 \(\bar{\eta}, \eta\) を考えるわ。

🔵 カイ: \(\bar{\eta}\) って \(\eta\) の複素共役ですか?

🟡 リナ: いい質問だけど、違うの。\(\bar{\eta}\) にバーがついているのは Dirac 場の \(\bar{\psi}\) に対応させるための記号の約束で、\(\eta\) の複素共役ではないわ。\(\bar{\eta}\)\(\eta\) は完全に独立な別の Grassmann 変数よ。名前にバーがついているだけで、数学的には何の関係もない 2 つの変数だと思ってね。そして重要なのは、すべての Grassmann 変数は互いに反交換するということ。\(\bar{\eta}\)\(\eta\) の間も \(\bar{\eta}\eta = -\eta\bar{\eta}\) だし、多変数の場合は \(\bar{\eta}_i\)\(\eta_j\)\(\bar{\eta}_i\)\(\bar{\eta}_j\)\(\eta_i\)\(\eta_j\) のどの組み合わせでも反交換するの。

\[ \int d\bar{\eta}\,d\eta\; e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta} \tag{C.17} \]

を計算するわよ。\(\eta^2 = 0\) だから指数関数を展開すると

\[ e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta} = 1 + (-\bar{\eta}\,a\,\eta) = 1 - a\,\bar{\eta}\eta \]

2 次以上の項は \(\eta^2 = 0\)\(\bar{\eta}^2 = 0\) でゼロになる。

🔵 カイ: テイラー展開が 2 項で終わるのは Grassmann 数ならではですね。

🟡 リナ: あとは Berezin 積分の定義を使うだけ。\(\int d\bar{\eta}\,d\eta\) は「まず \(\eta\) で積分し、次に \(\bar{\eta}\) で積分する」と約束するわ。これは普通の多重積分と同じ読み方——被積分関数に一番近い積分記号から順に実行する——よ。つまり \(\int d\bar{\eta}\bigl(\int d\eta\;(\cdots)\bigr)\) という入れ子構造ね。この約束はこの章を通じて常に同じよ——以降の多変数やソース付きの場合も、右端の \(d\eta\) から順に実行するの。Grassmann 数では積分の順序を入れ替えると符号が変わるの。なぜかというと、C.3.4 で見たように Berezin 積分は微分と同じ操作だったわよね。微分演算子 \(\frac{\partial}{\partial\eta}\) は Grassmann 的(奇数的)に振る舞うから(C.3.3 で左微分のとき符号が変わったのを思い出して)、積分測度 \(d\bar{\eta}\)\(d\eta\) も同じく反交換する——つまり \(d\bar{\eta}\,d\eta = -d\eta\,d\bar{\eta}\)——の。順序を入れ替えるとマイナスが 1 つ出るのよ。この約束を守ることが大事。

⚪ メイ: 積分の順序を入れ替えるだけで符号が変わる——普通の積分では起こらないことが、Grassmann の世界では自然な帰結なのね。

🟡 リナ: では計算していくわね。

\[ \int d\bar{\eta}\,d\eta\;(1 - a\,\bar{\eta}\eta) = \int d\bar{\eta}\,d\eta\;1 - a\int d\bar{\eta}\,d\eta\;\bar{\eta}\eta \]

第 1 項:内側の \(\int d\eta\; 1 = 0\) の時点でゼロになるから、外側の \(\bar{\eta}\) 積分を実行するまでもなく、この項全体がゼロ。

第 2 項:C.3.4 の最後で確認したように、Grassmann 数では微分と積分は同じ操作だったわよね。つまり Berezin 積分 \(\int d\eta\) は C.3.3 で定義した左微分と同じことをしているの。つまり \(\int d\eta\) は「\(\eta\) を左端に持ってきてから取り除く」操作。\(\bar{\eta}\eta\) に対して \(\eta\) で積分するには、まず \(\eta\) を左端に移動させる必要がある。\(\bar{\eta}\eta = -\eta\bar{\eta}\)(反交換性)だから

\[ \int d\eta\;\bar{\eta}\eta = \int d\eta\;(-\eta\bar{\eta}) = -\int d\eta\;\eta\bar{\eta} \]

ここで \(\bar{\eta}\)\(\eta\) とは独立な Grassmann 変数だから、\(\eta\) に関する積分では「\(\eta\) を含まない因子」として扱えるわ。ただし注意点があるの。普通の数の定数なら \(\int dx\; x \cdot c = c\int dx\; x\) のように自由に前に出せるけれど、Grassmann 数の「定数」\(\bar{\eta}\) は他の Grassmann 変数と反交換するから、位置を動かすと符号が変わる可能性がある。今の場合 \(\int d\eta\;\eta\bar{\eta}\) では、\(\eta\) がすでに左端にあるわ。Berezin 積分の線形性から、\(\eta\) に依存しない因子は積分の外に出せるの。\(\bar{\eta}\)\(\eta\) とは別の変数だから、\(\eta\) に関しては「定数」扱い。ここで Berezin 積分 \(\int d\eta\) は「左端の \(\eta\) を取り除いて、残りをそのまま返す」操作よ。\(\int d\eta\;\eta\bar{\eta}\) では、\(\eta\) がすでに左端にあるから、それを取り除くと右に \(\bar{\eta}\) だけが残る。つまり \(\int d\eta\;\eta\bar{\eta} = 1 \cdot \bar{\eta} = \bar{\eta}\)\(\bar{\eta}\)\(\eta\) の右側にあって \(\eta\) を飛び越えていないから、追加の符号変化は生じないわ。よって

\[ \int d\eta\;\bar{\eta}\eta = -\bar{\eta} \]

次に \(\bar{\eta}\) で積分して \(\int d\bar{\eta}\;(-\bar{\eta}) = -1\)

まとめると \(\int d\bar{\eta}\,d\eta\;\bar{\eta}\eta = -1\)

🔵 カイ: \(\eta\) を左端に持ってくるときに \(\bar{\eta}\) を 1 つ飛び越えるから符号が 1 回変わる——C.3.3 の左微分のルールそのままですね!

🟡 リナ: その通り。Berezin 積分と左微分が同じ操作だということを思い出せば、符号で迷わないわ。

よって第 2 項は \(-a \cdot (-1) = a\)。第 1 項はゼロだったから、合計して

\[ \boxed{\int d\bar{\eta}\,d\eta\; e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta} = 0 + a = a} \tag{C.18} \]

🔵 カイ: 結果がシンプルにただの \(a\)! ボソンの \(\sqrt{2\pi/a}\) とは全然違う形ですね。

🟡 リナ: ここで注目してほしいのは、ボソンのガウス積分 (C.1) では \(\sqrt{2\pi/a}\)分母\(a\) が来たのに、Grassmann の場合は結果が \(a\) そのもの——分子に来ること。これが本質的な違いよ。

⚪ メイ: 逆数になっているのね。ボソンでは \(a\) が大きいほど積分値が小さくなるのに、フェルミオンでは大きくなる——完全に逆の振る舞い。

🟡 リナ: その通り。多変数に拡張すると

\[ \int \prod_i d\bar{\eta}_i\,d\eta_i \; e^{-\bar{\boldsymbol{\eta}}^T A\,\boldsymbol{\eta}} = \det A \qquad (\det A \neq 0) \tag{C.19} \]

ここで \(\bar{\boldsymbol{\eta}}^T A\,\boldsymbol{\eta} = \sum_{i,j} \bar{\eta}_i A_{ij} \eta_j\) よ(\(\bar{\eta}_i\) が左、\(\eta_j\) が右——Grassmann 数では順序が大事だから明示しておくわ)。積分測度の順序は \(\prod_i d\bar{\eta}_i\,d\eta_i \equiv d\bar{\eta}_1\,d\eta_1\,d\bar{\eta}_2\,d\eta_2\cdots d\bar{\eta}_n\,d\eta_n\) と約束するわ(\(i = 1\) のペアが一番左)。実行順序は右端から——つまり \(d\eta_n \to d\bar{\eta}_n \to \cdots \to d\eta_1 \to d\bar{\eta}_1\) の順よ。\(A\)\(n \times n\) の行列で、実行列でも複素行列でもよい。実は \(\det A = 0\) のときも両辺がゼロで等式は成り立つけれど、ソース付き版 (C.21) では \(A^{-1}\) が必要だから \(\det A \neq 0\)(正則)を仮定しておくわ。対称性や正定値性は不要——Grassmann 積分はテイラー展開が有限項で終わるから収束の心配がないの。ボソンの場合は \((\det A)^{-1/2}\) だったのに対し、フェルミオンでは \(\det A\) が分子に来る。

🔵 カイ: ボソンのときは「対角化して各固有値で独立に積分」で説明してくれましたよね。Grassmann の場合はどう理解すればいいんですか?

🟡 リナ: 同じ発想よ。証明の方針を説明するわね。Grassmann 積分はテイラー展開が有限項で終わるから、\(e^{-\bar{\boldsymbol{\eta}}^T A\boldsymbol{\eta}}\) を展開して「\(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\cdots\bar{\eta}_n\eta_n\) の係数」だけが積分で生き残ることを使うの。なぜかというと、Berezin 積分の定義 \(\int d\eta_i\;1 = 0\), \(\int d\eta_i\;\eta_i = 1\) を思い出して。もし展開のある項で \(\eta_i\) が含まれていなければ、\(\int d\eta_i\) を実行した時点でゼロになる。逆に \(\eta_i\) が 2 回以上含まれていれば \(\eta_i^2 = 0\) でその項自体がゼロ。だから各 \(\eta_i\) と各 \(\bar{\eta}_i\) がちょうど 1 回ずつ現れる項だけが生き残るの。

🔵 カイ: 各変数がちょうど 1 回ずつ——多すぎても少なすぎてもダメ。パウリの排他原理みたいですね。

🟡 リナ: まさにそう。(別の方法として、ボソンのときのように対角化する手もあるわ。正則行列 \(P\)\(A = P\,\mathrm{diag}(\lambda_1, \ldots, \lambda_n)\,P^{-1}\) と書いて変数変換する方法ね。Grassmann 変数の変数変換ではヤコビアンが通常と逆に出る——つまり変換行列の行列式がそのまま(逆数ではなく)かかるの。この点はすぐ下で 1 変数の例を使って説明するわ。結果として各ペアについて式 (C.18) を独立に適用できて \(\lambda_1\lambda_2\cdots\lambda_n = \det A\) が得られる。でも今は展開による方法で見てみましょう。)

これから \(n = 2\) の具体例で 2 つのことを確認するわ。(1) 展開の中で Grassmann 変数を標準順序に並べ替えると行列式の符号が自然に出ること、(2) Berezin 積分を実行すると確かに \(\det A\) が得られること。

🔵 カイ: 展開して係数を拾うって、具体的にはどうやるんですか?

🟡 リナ: ここで行列式の「中身」を思い出しておきましょう。\(2 \times 2\) 行列なら \(\det A = A_{11}A_{22} - A_{12}A_{21}\) よね。この「\(-\)」はどこから来るかというと、列の添字を \((1,2) \to (2,1)\) と入れ替えたから。一般の \(n \times n\) 行列では、行列式はすべての列の並べ替え方について、各行から 1 つずつ成分を取って掛け合わせたものの和になるの。これを Leibniz (ライプニッツ) の公式と呼ぶわ。

\[ \det A = \sum_{\sigma} \mathrm{sgn}(\sigma)\,A_{1\sigma(1)}A_{2\sigma(2)}\cdots A_{n\sigma(n)} \]

ここで \(\sigma\)\(1, 2, \ldots, n\)置換——つまり \(n\) 個の数字をどう並べ替えるかを指定する対応——で、全部で \(n!\) 通りある。

🔵 カイ: 置換って、要するに「\(1, 2, \ldots, n\) を別の順番に並べ替える」ということですか?

🟡 リナ: その通り。例えば \(n = 3\) なら \((1,2,3)\)\((2,3,1)\) に並べ替えるのも 1 つの置換、\((2,1,3)\) に並べ替えるのも別の置換。全部で \(3! = 6\) 通りあるわ。\(\mathrm{sgn}(\sigma)\) は「隣同士の入れ替え(隣接互換)を偶数回で実現できれば \(+1\)、奇数回なら \(-1\)」という符号よ。入れ替えの仕方は何通りもあるけれど、偶数回か奇数回かは置換ごとに一意に決まることが証明できるの(証明は線形代数の教科書に譲るわ)。\(n = 2\) の例で確認すると、\(\det A = A_{11}A_{22} - A_{12}A_{21}\) の第 2 項のマイナスは、列の添字 \((2,1)\) が 1 回の入れ替えで得られるから \(\mathrm{sgn} = -1\) ということ。\(n = 3\) なら \((1,2,3) \to (2,1,3)\) は「1 と 2 を入れ替え」の 1 回だから \(\mathrm{sgn} = -1\)\((1,2,3) \to (2,3,1)\) は「まず 2 と 3 を入れ替えて \((1,3,2)\)、次に 1 と 3 を入れ替えて \((3,1,2)\)」……あれ、これだと \((2,3,1)\) にならないわね。正しくは「まず 1 と 2 を入れ替えて \((2,1,3)\)、次に 1 と 3 を入れ替えて \((2,3,1)\)」——隣接互換 2 回で実現できるから \(\mathrm{sgn} = +1\) よ。

🔵 カイ: なるほど、\(2 \times 2\) の行列式のマイナス符号が、一般の場合に「置換の符号」として拡張されるんですね。

🟡 リナ: Grassmann 変数との対応を \(n = 2\) で具体的に見てみましょう。\(e^{-(\bar{\eta}_1 A_{11}\eta_1 + \bar{\eta}_1 A_{12}\eta_2 + \bar{\eta}_2 A_{21}\eta_1 + \bar{\eta}_2 A_{22}\eta_2)}\) を展開して、\(\bar{\eta}_1, \eta_1, \bar{\eta}_2, \eta_2\) がすべて 1 回ずつ現れる項を拾うの(それ以外は Berezin 積分でゼロになるから)。そういう項は 2 つあるわ。

1 つ目は \((-\bar{\eta}_1 A_{11}\eta_1)(-\bar{\eta}_2 A_{22}\eta_2) = A_{11}A_{22}\,\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\)

2 つ目は \((-\bar{\eta}_1 A_{12}\eta_2)(-\bar{\eta}_2 A_{21}\eta_1) = A_{12}A_{21}\,\bar{\eta}_1\eta_2\bar{\eta}_2\eta_1\)

🔵 カイ: 1 つ目はもう標準順序 \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) になっているけど、2 つ目は \(\bar{\eta}_1\eta_2\bar{\eta}_2\eta_1\) で順番が違いますね。これを並べ替えると符号が変わる?

🟡 リナ: その通り。2 つ目を標準順序 \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) に並べ替えてみましょう。出発点は \(\bar{\eta}_1\eta_2\bar{\eta}_2\eta_1\)。各ステップで隣接する 2 つの Grassmann 変数を入れ替えるたびに符号が 1 回変わるわ。累積符号を追跡していくわね。

  1. \(\eta_2\)\(\bar{\eta}_2\) を入れ替え(隣接交換 1 回目):\(\bar{\eta}_1\eta_2\bar{\eta}_2\eta_1 \to -\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_2\eta_1\)(累積符号 \(-1\)
  2. \(\eta_2\)\(\eta_1\) を入れ替え(隣接交換 2 回目):\(-\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_2\eta_1 \to +\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_1\eta_2\)(累積符号 \(+1\)
  3. \(\bar{\eta}_2\)\(\eta_1\) を入れ替え(隣接交換 3 回目):\(+\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_1\eta_2 \to -\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\)(累積符号 \(-1\)

ステップ 3 を確認しておくわ。\(\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_1\eta_2\) を見ると、左から 2 番目の \(\bar{\eta}_2\) と 3 番目の \(\eta_1\) が隣り合っているわよね。この隣接する 2 つを入れ替えると符号が 1 回変わって \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) になる——つまり \(\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_1\eta_2 = -\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) ね。

合計 3 回の隣接交換で符号は \((-1)^3 = -1\)。つまり元の \(\bar{\eta}_1\eta_2\bar{\eta}_2\eta_1 = -\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) よ。よって 2 つ目の項は \(A_{12}A_{21} \cdot (-\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2) = -A_{12}A_{21}\,\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) となる。

⚪ メイ: 3 回の隣接交換で \((-1)^3 = -1\)——Grassmann 変数の並べ替えが自動的にマイナス符号を生み出すのね。

🟡 リナ: 合わせると \((A_{11}A_{22} - A_{12}A_{21})\,\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\)。反交換のたびにマイナスが 1 つ出て、それが置換の符号 \(\mathrm{sgn}(\sigma) = -1\) を自動的に再現しているの。つまり Grassmann 変数の反交換性がまさに行列式の符号構造を生み出すのよ。あとは Berezin 積分で \(\int d\bar{\eta}_1 d\eta_1 d\bar{\eta}_2 d\eta_2\;\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2 = 1\) が示せれば(すぐ下で確認するわ)、積分値は \(A_{11}A_{22} - A_{12}A_{21} = \det A\) になるの。

⚪ メイ: なるほど、Grassmann 変数の並べ替えで出る符号が、行列式の Leibniz 公式の \(\mathrm{sgn}(\sigma)\) とぴったり対応しているのね。

🔵 カイ: \(\int d\bar{\eta}_1 d\eta_1 d\bar{\eta}_2 d\eta_2\;\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2 = 1\) って、具体的にどう計算するんですか? 4 つも積分があると順番が分からなくなりそうで……。

🟡 リナ: 実行順序を説明するわね。普通の多重積分 \(\int dx\int dy\; f(x,y)\) が「内側の \(\int dy\) を先に実行する」のと同じで、被積分関数に一番近い(右端の)積分記号から順に実行するの。つまり被積分関数 \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) に一番近い積分記号が \(d\eta_2\) だから、まず \(\eta_2\) で積分し、次に \(d\bar{\eta}_2\), \(d\eta_1\), \(d\bar{\eta}_1\) の順に外側へ向かって実行するの。

C.3.4 で確認したように、Berezin 積分は左微分と同じ操作よ。だから \(\int d\eta_2\) は「被積分関数の中で \(\eta_2\) を左端に持ってきてから取り除く」操作。各ステップで符号を累積的に追跡していくわね。

ステップ 1: \(\int d\eta_2\;\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2\) を計算する。\(\eta_2\) を左端に持ってくるために \(\bar{\eta}_1, \eta_1, \bar{\eta}_2\) の 3 つを飛び越えるから \((-1)^3 = -1\) で、\(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2 = -\eta_2\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\)\(\int d\eta_2\;\eta_2 = 1\) だから、残りは \((-1)\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2 = -\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\)

ステップ 2: \(\int d\bar{\eta}_2\;(-\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2)\) を計算する。被積分関数は \(-\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\) よ(ステップ 1 の結果の前にマイナスがついている)。まず \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\) の中で \(\bar{\eta}_2\) を左端に持ってくるわ。C.3.2 で述べたように、すべての Grassmann 変数は互いに反交換する——\(\bar{\eta}\) 同士でも \(\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2 = -\bar{\eta}_2\bar{\eta}_1\) よ。バーがついていようがいまいが、Grassmann 変数であることに変わりはないから、隣接する 2 つを入れ替えるたびに必ず符号が 1 回変わるの。1 ステップずつ隣接交換するわよ。

  • 交換 1 回目:\(\eta_1\)\(\bar{\eta}_2\) を入れ替え → \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2 = -\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_1\)
  • 交換 2 回目:\(\bar{\eta}_1\)\(\bar{\eta}_2\) を入れ替え → \(-\bar{\eta}_1\bar{\eta}_2\eta_1 = +\bar{\eta}_2\bar{\eta}_1\eta_1\)

合計 2 回の隣接交換で \((-1)^2 = +1\)。つまり \(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2 = +\bar{\eta}_2\bar{\eta}_1\eta_1\)\(\int d\bar{\eta}_2\;\bar{\eta}_2 = 1\) だから \(\bar{\eta}_1\eta_1\) が残る。被積分関数の前についていたマイナスと合わせて、ステップ 2 の結果は \(-\bar{\eta}_1\eta_1\)

🔵 カイ: 飛び越える数を数えて符号を追跡する——リズムが掴めてきました。

🟡 リナ: いい調子ね。

ステップ 3: \(\int d\eta_1\;(-\bar{\eta}_1\eta_1)\) を計算する。被積分関数は \(-\bar{\eta}_1\eta_1\) よ。\(\bar{\eta}_1\eta_1\) の中で \(\eta_1\) を左端に持ってくると、\(\bar{\eta}_1\) を 1 つ飛び越えるから \(\bar{\eta}_1\eta_1 = -\eta_1\bar{\eta}_1\)。よって \(-\bar{\eta}_1\eta_1 = -(-\eta_1\bar{\eta}_1) = +\eta_1\bar{\eta}_1\)\(\int d\eta_1\;\eta_1\bar{\eta}_1 = \bar{\eta}_1\)\(\bar{\eta}_1\)\(\eta_1\) とは別の変数だから定数扱い)。

ステップ 4: \(\int d\bar{\eta}_1\;\bar{\eta}_1 = 1\)

確かに全体で \(1\) ね。つまり、各ステップで「左端に持ってくる → 飛び越えた数だけ符号が変わる → 取り除く」を繰り返すだけよ。まとめると:

  1. \(\int d\eta_2\)\(\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\eta_2 \to -\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2\)
  2. \(\int d\bar{\eta}_2\)\(-\bar{\eta}_1\eta_1\bar{\eta}_2 \to -\bar{\eta}_1\eta_1\)
  3. \(\int d\eta_1\)\(-\bar{\eta}_1\eta_1 \to \bar{\eta}_1\)
  4. \(\int d\bar{\eta}_1\)\(\bar{\eta}_1 \to 1\)

⚪ メイ: パターンが見えたわ。変数が増えても同じ機械的操作の繰り返しで処理できるのね。

🟡 リナ: Grassmann 変数の反交換性がまさに置換の符号を自動的に生み出すから、展開の結果が \(\det A\) に一致するのよ。詳しい証明は練習問題に回すけれど、結果だけ述べると:各ペア \(\bar{\eta}_i, \eta_i\) について式 (C.18) を独立に使えるのは \(A\) が対角行列の場合で、そのとき \(\lambda_1\lambda_2\cdots\lambda_n = \det A\) になる。一般の正則行列の場合は変数変換で対角化するの——ただし Grassmann 変数の変数変換ではヤコビアンの出方が普通の積分と逆になるから注意が必要よ。この点はすぐ下で説明するわ。ボソンのときは \(A\) が実対称正定値でないと積分が収束しなかったけれど、Grassmann 積分はテイラー展開が有限項で終わるから収束の心配がない。実は \(\det A = 0\) のときも式 (C.19) の両辺はともにゼロで等式自体は成り立つの。でもソース付き版 (C.21) では \(A^{-1}\) が必要だから、\(\det A \neq 0\)(正則)を仮定しておくわ。

🔵 カイ: 普通の積分だと変数変換するとヤコビアンの絶対値で割りますよね? Grassmann ではそうならないんですか?

🟡 リナ: いいところに気づいたわね。普通の積分では \(dx = |\partial x/\partial y|\,dy\) だから、変換行列の行列式の逆数が出る。Grassmann ではどうなるか、簡単な例で確認してみましょう。\(\eta' = c\eta\)\(c\) は普通の数で \(c \neq 0\))と変数変換するとき、\(\eta = \eta'/c\) よ。

普通の積分なら \(d\eta = d\eta'/c\) を使って \(\int d\eta\;\eta = \int (d\eta'/c)\;(\eta'/c) = (1/c^2)\int d\eta'\;\eta'\) となる。

でも Berezin 積分では定義から \(\int d\eta\;\eta = 1\) であり、変数 \(\eta'\) についても \(\int d\eta'\;\eta' = 1\) よ。ここで辻褄を合わせてみましょう。\(\eta = \eta'/c\) を代入すると \(\int d\eta\;\eta = \int d\eta\;(\eta'/c) = (1/c)\int d\eta\;\eta'\)。この値が 1 になるためには \(\int d\eta\;\eta' = c\) でなければならない。一方 \(\int d\eta'\;\eta' = 1\) だから、\(\int d\eta = c\int d\eta'\) という関係が必要ね。つまり Grassmann では \(d\eta = c\,d\eta'\) となって、通常の \(d\eta = d\eta'/c\)なの。

🔵 カイ: えっ、逆! 普通の積分と Grassmann 積分で変数変換のルールが真逆になるのか……。

🟡 リナ: 一般に変換行列の行列式がそのまま(逆数ではなく)かかるわ。これが「Berezin 積分は微分と同じ操作」であることの帰結——微分の連鎖律 \(\partial/\partial\eta' = (\partial\eta/\partial\eta')\,\partial/\partial\eta = (1/c)\,\partial/\partial\eta\) と同じ変換則に従うのよ。

🔵 カイ: じゃあ、正則行列で変数変換したとき、そのヤコビアンの影響は?

🟡 リナ: 多変数の場合も同じ原理が働くの。結論だけ述べると、\(\boldsymbol{\eta}' = P\boldsymbol{\eta}\)\(\bar{\boldsymbol{\eta}}' = \bar{\boldsymbol{\eta}}\,(P^T)^{-1}\) という変換を組み合わせると、\(\bar{\boldsymbol{\eta}}'^T\boldsymbol{\eta}' = \bar{\boldsymbol{\eta}}^T\boldsymbol{\eta}\) が保たれるの。そして Grassmann のヤコビアンルール(変換行列の行列式がそのまま、逆数ではなくかかる)を \(\boldsymbol{\eta}\)\(\bar{\boldsymbol{\eta}}\) それぞれに適用するの。\(\boldsymbol{\eta}' = P\boldsymbol{\eta}\) の変換行列は \(P\) だから \(\prod_i d\eta'_i\) には \(\det P\) がかかる。一方 \(\bar{\boldsymbol{\eta}}' = \bar{\boldsymbol{\eta}}(P^T)^{-1}\) の変換行列は \((P^T)^{-1}\) だから、その行列式 \(\det(P^T)^{-1} = (\det P)^{-1}\) がそのままかかる。合わせると \(\det P \cdot (\det P)^{-1} = 1\) で追加因子は 1 になる。だから安心して変数変換できるの。詳しい計算は練習問題で確認してね。

⚪ メイ: Grassmann のヤコビアンが通常と逆なのに、\(\eta\)\(\bar{\eta}\) の両方に変換をかけると結局キャンセルして 1 になる——うまくできているわね。

🔵 カイ: ボソンとフェルミオンで行列式が分母に来るか分子に来るかが逆転する……これって何か物理的な意味があるんですか?

🟡 リナ: まさにそう! 素晴らしい直感ね。直感的に言うと、ボソンの \(\log Z \propto -\tfrac{1}{2}\log\det A\) とフェルミオンの \(\log Z \propto +\log\det A\) で対数の符号が逆転するから、ループ 1 つあたりの寄与に相対的なマイナス符号が生まれるの。第 13 章 で Feynman ダイアグラムのフェルミオンループにマイナス符号がつく理由を詳しく議論するけれど、その根源がこの式 (C.19) にあるのよ。

🔵 カイ: 積分の定義が違うだけで、ループ計算に符号の差が出てくるのか……。数学的な構造が物理の結果を決めているんですね。じゃあ、具体的にどういう計算をすると「ループ 1 つにつきマイナス 1 つ」が出てくるんですか?

🟡 リナ: それは 第 13 章 で Feynman 規則を導出するときに詳しくやるわ。今は「\(\det A\) が分子に来ること」が符号の根源だ、という対応関係だけ押さえておいてね。

🔵 カイ: 分かりました、第 13 章を楽しみにしておきます。……あ、でもそうすると別の疑問が湧いてきた。符号が逆ってことは、もしボソンとフェルミオンで同じ行列 \(A\) が出てきたら、足し合わせると打ち消し合ったりしないんですか? 単純な疑問なんですけど。

🟡 リナ: 鋭い着眼点ね。実際、もしボソンとフェルミオンが同じ質量・同じ自由度を持っていたら、符号が逆だから量子補正が劇的にキャンセルするの。これはまさに超対称性 (supersymmetry) と呼ばれるアイデアの出発点よ。この本の範囲を超えるから深入りはしないけれど、「ボソンとフェルミオンの対称性があれば発散の問題が緩和される」という発想は、まさに今の \(\det A\) の符号の違いから来ているのよ。

🔵 カイ: たった 1 つの積分公式の符号の違いが、そんな大きな話につながるんですね……。

⚪ メイ: つまり、ボソンの \(-\frac{1}{2}\log\det A\) とフェルミオンの \(+\log\det A\) が同じ \(A\) で打ち消し合う——そういう対称性が存在すれば、発散の問題が劇的に緩和される。積分公式の符号 1 つが、理論の紫外構造を根本から変えうるのね。

✅ 理解度チェック: ボソンの多変数ガウス積分の結果は \((\det A)^{-1/2}\) であるのに対し、フェルミオン(Grassmann)の場合は \(\det A\) となる。この「行列式が分母に来るか分子に来るか」の違いは、場の量子論のどのような現象と関係しているでしょうか?

答え

この違いは、Feynman ダイアグラムにおいてフェルミオンループに追加のマイナス符号がつくことの根源となっている。ボソンでは \(\log Z \propto -\frac{1}{2}\log\det A = -\frac{1}{2}\mathrm{Tr}\log A\) であるのに対し、フェルミオンでは \(\log Z \propto +\log\det A = +\mathrm{Tr}\log A\) となり、符号が逆転する。これが1ループ計算でフェルミオンループに相対的なマイナス符号を生む。

理解度チェック C.3

\(\displaystyle\int d\bar{\eta}\,d\eta\; (\bar{\eta}\eta)\,e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta}\) を計算せよ。

答え: \(e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta} = 1 - a\bar{\eta}\eta\) だから、\(\bar{\eta}\eta \cdot (1 - a\bar{\eta}\eta) = \bar{\eta}\eta - a(\bar{\eta}\eta)(\bar{\eta}\eta)\)。ここで \((\bar{\eta}\eta)^2 = \bar{\eta}\eta\bar{\eta}\eta\) を計算する。まず真ん中の \(\eta\bar{\eta}\) を反交換性で入れ替えると \(\eta\bar{\eta} = -\bar{\eta}\eta\) だから、\(\bar{\eta}(\eta\bar{\eta})\eta = \bar{\eta}(-\bar{\eta}\eta)\eta = -\bar{\eta}\bar{\eta}\eta\eta = -\bar{\eta}^2\eta^2 = 0\)\(\bar{\eta}^2 = 0\) を使った)なので、\(\bar{\eta}\eta \cdot (1 - a\bar{\eta}\eta) = \bar{\eta}\eta\)\(\int d\bar{\eta}\,d\eta\;\bar{\eta}\eta\) を計算する。\(\bar{\eta}\eta = -\eta\bar{\eta}\) だから \(\int d\eta\;(-\eta\bar{\eta}) = -\bar{\eta}\)、次に \(\int d\bar{\eta}\;(-\bar{\eta}) = -1\)。よって \(\int d\bar{\eta}\,d\eta\;\bar{\eta}\eta = -1\) で、答えは \(-1\)。あるいは、式 (C.18) の結果 \(\int d\bar{\eta}\,d\eta\; e^{-\bar{\eta}a\eta} = a\) の両辺を \(a\) で微分すると \(\int d\bar{\eta}\,d\eta\;(-\bar{\eta}\eta)e^{-\bar{\eta}a\eta} = 1\) となり、\(\int d\bar{\eta}\,d\eta\;\bar{\eta}\eta\,e^{-\bar{\eta}a\eta} = -1\) が得られる。


C.3.6 ソース付き Grassmann ガウス積分

🟡 リナ: ボソンのソース付き公式 (C.3) に対応するフェルミオン版も導くわ。新たに Grassmann ソース \(\bar{\xi}, \xi\) を導入するの。これらも Grassmann 数だから、\(\bar{\eta}, \eta\) を含むすべての Grassmann 変数と反交換するわ(\(\bar{\xi}\eta = -\eta\bar{\xi}\) など)。計算したいのは

\[ \int d\bar{\eta}\,d\eta\; e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta + \bar{\xi}\eta + \bar{\eta}\xi} \]

よ。ボソンのときと同じく平方完成で攻めるわ。指数の肩を変形すると

\[ -\bar{\eta}\,a\,\eta + \bar{\xi}\eta + \bar{\eta}\xi = -a\left(\bar{\eta} - \bar{\xi}a^{-1}\right)\left(\eta - a^{-1}\xi\right) + \bar{\xi}\,a^{-1}\,\xi \]

🔵 カイ: Grassmann 数でも平方完成ができるんですね!

🟡 リナ: 確認してみて。ポイントは \(a^{-1}\) が普通の数だから Grassmann 変数と自由に交換できること——順序を気にするのは Grassmann 変数同士だけよ。

🔵 カイ: えっと、\(-a(\bar{\eta} - \bar{\xi}a^{-1})(\eta - a^{-1}\xi)\) を展開するんですよね。4 つの項が出る……最後の項は \(-a \cdot (-\bar{\xi}a^{-1})\cdot(-a^{-1}\xi)\) で、マイナスが 2 つあるから正になって……あれ、\(\bar{\xi}\)\(\xi\) の順序は大丈夫なんですか?

🟡 リナ: \(a^{-1}\) は普通の数だから Grassmann 変数を素通りできるわ。だから \(\bar{\xi}a^{-1} \cdot a^{-1}\xi = a^{-2}\bar{\xi}\xi\) で、それに \(-a\) をかけて \(-a^{-1}\bar{\xi}\xi\) よ。全部まとめると \(-a\bar{\eta}\eta + \bar{\eta}\xi + \bar{\xi}\eta - a^{-1}\bar{\xi}\xi\) になるわ。

⚪ メイ: \(a^{-1}\) は普通の数だから Grassmann 変数と自由に交換できて、各項の符号もそのまま追えるのね。

🔵 カイ: 4 つの項を 1 つずつ確認させてください。\(-a(\bar{\eta} - \bar{\xi}a^{-1})(\eta - a^{-1}\xi)\) を展開すると……第 1 項は \(-a \cdot \bar{\eta} \cdot \eta = -a\bar{\eta}\eta\)。第 2 項は \(-a \cdot \bar{\eta} \cdot (-a^{-1}\xi) = +\bar{\eta}\xi\)。第 3 項は \(-a \cdot (-\bar{\xi}a^{-1}) \cdot \eta = +\bar{\xi}\eta\)。第 4 項は \(-a \cdot (-\bar{\xi}a^{-1}) \cdot (-a^{-1}\xi) = -a \cdot a^{-2}\bar{\xi}\xi = -a^{-1}\bar{\xi}\xi\)。最後の \(-a^{-1}\bar{\xi}\xi\) のところで、\(\bar{\xi}a^{-1} \cdot a^{-1}\xi\) の Grassmann 数の順序は大丈夫なんですか?

🟡 リナ: \(a^{-1}\) は普通の数(Grassmann 数ではない)だから Grassmann 変数と自由に交換できるの。だから \(\bar{\xi}a^{-1} \cdot a^{-1}\xi = a^{-1} \cdot a^{-1} \cdot \bar{\xi}\xi = a^{-2}\bar{\xi}\xi\) よ。それに \(-a\) をかけて \(-a^{-1}\bar{\xi}\xi\)。Grassmann 変数同士の順序は \(\bar{\xi}\xi\) のまま保たれているから問題ないわ。

🔵 カイ: なるほど、普通の数は Grassmann 変数を素通りできるから順序の心配はないんですね。でも逆に、Grassmann 変数同士の順序を間違えたら符号がひっくり返るから、ソース項の \(\bar{\xi}\eta + \bar{\eta}\xi\) の順序も大事ってことですよね?

🟡 リナ: そう。快が展開してくれた結果に、平方完成の右辺にあった \(+\bar{\xi}\,a^{-1}\,\xi\) を加えるの。ここで \(a^{-1}\) は普通の数だから Grassmann 変数 \(\bar{\xi}, \xi\) と自由に交換できて、\(\bar{\xi}\,a^{-1}\,\xi = a^{-1}\bar{\xi}\xi\) と書ける。これを展開の最後の項 \(-a^{-1}\bar{\xi}\xi\) と合わせると \(+a^{-1}\bar{\xi}\xi - a^{-1}\bar{\xi}\xi = 0\) で相殺して、残るのは \(-a\bar{\eta}\eta + \bar{\eta}\xi + \bar{\xi}\eta\)。ソース項の順序が \(\bar{\xi}\eta + \bar{\eta}\xi\) で元の式と一致するわ。

⚪ メイ: つまり展開して足し合わせれば元に戻る——平方完成が正しいことが確認できたのね。

🟡 リナ: その通り。\(\bar{\eta}' = \bar{\eta} - \bar{\xi}a^{-1}\), \(\eta' = \eta - a^{-1}\xi\) と変数変換すると、Berezin 積分の平行移動不変性から積分値は変わらない。定数因子 \(e^{\bar{\xi}\,a^{-1}\,\xi}\) を外に出して、残りは式 (C.18) に帰着するから

\[ \int d\bar{\eta}\,d\eta\; e^{-\bar{\eta}\,a\,\eta + \bar{\xi}\eta + \bar{\eta}\xi} = a\; e^{\bar{\xi}\,a^{-1}\,\xi} \tag{C.20} \]

🔵 カイ: ボソンと同じ「平方完成 → 変数変換 → 基本公式に帰着」の 3 ステップで、Grassmann でもきれいに出るんですね。

🟡 リナ: 多変数版は

\[ \int \prod_i d\bar{\eta}_i\,d\eta_i \; e^{-\bar{\boldsymbol{\eta}}^T A\,\boldsymbol{\eta} + \bar{\boldsymbol{\xi}}^T\boldsymbol{\eta} + \bar{\boldsymbol{\eta}}^T\boldsymbol{\xi}} = (\det A)\; e^{\bar{\boldsymbol{\xi}}^T A^{-1}\boldsymbol{\xi}} \tag{C.21} \]

🟡 リナ: ボソン版 (C.9) と並べて比較してみましょう。

表 C.2: ボソンとフェルミオンのガウス積分の比較

ボソン フェルミオン
前因子 \((\det A)^{-1/2}\) \(\det A\)
ソース因子 \(e^{\frac{1}{2}\mathbf{J}^T A^{-1}\mathbf{J}}\) \(e^{\bar{\boldsymbol{\xi}}^T A^{-1}\boldsymbol{\xi}}\)

⚪ メイ: ボソンでは \(\det A\)\(-1/2\) 乗で分母に、フェルミオンでは \(+1\) 乗で分子に来る——さっきリナ先生が言っていた「行列式が分母か分子か」の違いが、ここでも同じ構造で現れているのね。

📝 練習問題:


まとめ:ガウス積分・Grassmann 積分の核心公式

🟡 リナ: この Appendix の主要公式を一覧にしておくわ。ボソンとフェルミオンの対比が一目で分かるはずよ。

表 C.3: 付録C主要公式一覧

番号 公式 条件・用途
(C.1) \(\int dq\;e^{-aq^2/2} = \sqrt{2\pi/a}\) ボソンの出発点
(C.3) \(\int dq\;e^{-aq^2/2 - Jq} = \sqrt{2\pi/a}\;e^{J^2/(2a)}\) ソース付き・平方完成
(C.6) \(I_n(a)\): 偶数 \(n=2m\)\(\sqrt{2\pi/a}\cdot(2m-1)!!/a^m\)、奇数でゼロ Wick の定理と直結
(C.8) \(\int d^nq\;e^{-\mathbf{q}^T A\mathbf{q}/2} = (2\pi)^{n/2}/\sqrt{\det A}\) 多変数・\(A\) 実対称正定値
(C.9) ソース付き多変数: \(\times\,e^{\mathbf{J}^T A^{-1}\mathbf{J}/2}\) 生成汎関数 \(Z[J]\)
(C.18) \(\int d\bar{\eta}\,d\eta\;e^{-\bar{\eta}a\eta} = a\) Grassmann
(C.19) 多変数 Grassmann: \(= \det A\) \(A\) 正則(\(\det A \neq 0\))・ボソンと逆!
(C.21) ソース付き Grassmann フェルミオンの \(Z[\bar{\xi},\xi]\)

🔵 カイ: ボソンは \((\det A)^{-1/2}\)、フェルミオンは \(\det A\)。この一点だけで、どうして 1 ループでフェルミオンループにマイナス符号がつくのか、理解のカギが手に入りますね。

⚪ メイ: ガウス積分(ボソン)と Grassmann ガウス積分(フェルミオン)の対比が、場の量子論の骨格を作っているのね。


次章予告

Appendix D: ループ計算の道具箱 — 次元解析・Feynman パラメータ・Wick 回転 — ここまでで「ボソンとフェルミオンの積分の基礎」が揃った。次の Appendix D では、具体的なループ積分を実行するための実用技法——自然単位系と質量次元、Feynman パラメータで分母を統合する技法、Wick 回転で Minkowski から Euclid 空間へ移す手順、そして次元正則化に必要な運動量積分公式——を一気に整理する。第 13〜14 章のくりこみ計算で「手が動く」レベルまで技法を磨き上げよう。



練習問題

📝 練習問題:


参考文献

  • 坂本眞人『場の量子論 II — ファインマングラフとくりこみを中心にして』 第 6 章「ガウス積分とフレネル積分」
  • Lancaster & Blundell "Quantum Field Theory for the Gifted Amateur" 第 28 章「Grassmann numbers」
  • Peskin & Schroeder "An Introduction to Quantum Field Theory" Appendix A(規約と公式集)