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第 3 章 古典場の理論 — Lagrangian と Noether の定理

前回までのあらすじ:

第 2 章では、特殊相対論の基本構造を復習した。Lorentz 変換、4 元ベクトル、Minkowski 計量 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\)、そして物理法則が Lorentz 共変であるべきだという要請を確認した。自然単位系 \(\hbar = c = 1\) の導入と、4 元微分 \(\partial_\mu\)、Einstein の縮約記法にも慣れた。

この章のゴール

  • 場の Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi)\) を導入し、最小作用の原理から場の Euler-Lagrange 方程式を導出する
  • さらに Noether の定理を証明し、「連続対称性があれば保存量がある」ことを具体例(時空並進 → エネルギー・運動量保存、内部位相変換 → 電荷保存)で確認する
  • 最後に、Klein-Gordon 場・Dirac 場・Maxwell 場の Lagrangian を提示し、次章以降の量子化への準備を整える

3.1 粒子の力学から場の力学へ

🟡 リナ: さて、前章で特殊相対論の道具立てが揃ったわね。今日はいよいよ「場の力学」の言葉を整備していくわ。「量子力学」編 第 26 章で対称性と保存則の深い関係を学んだでしょう? 今日はあれを「場」の世界に拡張するの。

🔵 カイ: 量子力学では粒子の波動関数 \(\psi(\mathbf{x}, t)\) を扱ってましたけど、「場の力学」って何が違うんですか?

🟡 リナ: いい質問ね。量子力学では、粒子の位置 \(q_i(t)\) が力学変数だった。自由度は有限個——3 次元なら 3 個。でも「場」は空間のすべての点で値を持つ量よ。つまり自由度が連続無限個あるの。たとえば温度分布 \(T(\mathbf{x}, t)\) のように、空間の各点にひとつの数値(大きさだけで方向を持たない量)が対応しているものが「スカラー場」——各点にスカラー(ただの数)が対応する場ね。一方、電場 \(\mathbf{E}(\mathbf{x}, t)\) のように各点にベクトル(大きさと方向を持つ量)が対応するものは「ベクトル場」と呼ぶわ。

⚪ メイ: なるほど。場にはスカラー場とベクトル場の区別があるのね。温度はスカラー場、電場はベクトル場。

🟡 リナ: その通り。粒子力学と場の理論の対応を表にまとめておくわ。

表 3.1: 粒子力学と場の理論の基本対応

粒子力学 場の理論
力学変数 \(q_1(t), q_2(t), \ldots, q_N(t)\) \(\phi_a(\mathbf{x}, t)\)
自由度の数 有限個(\(N\) 個) 連続無限個
ラベル 離散的な添え字 \(i = 1, \ldots, N\) 連続的な空間座標 \(\mathbf{x}\) と離散的な \(a\)

🔵 カイ: 空間の各点にひとつずつ自由度があるから、無限個になるんですね。ゴムのシートの各点が独立に上下に振動できるようなイメージですか? でも「無限個の自由度」って、計算が破綻しそうで怖いんですけど……。

🟡 リナ: いい懸念ね。実際、無限個の自由度を扱うことで「発散」という問題が後々出てくるの——それは第 8 章以降で正面から取り組むわ。でも今は大丈夫。Lagrangian の枠組みが有限個でも無限個でも同じように使えるのが、この形式の強みなの。イメージとしては、粒子力学はシートの上に乗った「ビー玉」の運動を追うようなもの。場の理論はシート自体の振動を記述するのよ。図 3.1「離散系から連続場への極限」を見て——離散的なバネ-質点系から連続場への極限を図示しているわ。

✅ 理解度チェック: 粒子力学と場の理論で、力学変数の自由度の数はどのように異なるでしょうか?

答え

粒子力学では力学変数 \(q_i(t)\) の自由度は有限個(\(N\) 個)だが、場の理論では場 \(\phi(\mathbf{x}, t)\) が空間の各点で値を持つため、自由度は連続無限個になる。離散的な添え字 \(i\) が連続的な空間座標 \(\mathbf{x}\) に置き換わる。

離散系から連続場への極限

図 3.1: 離散系から連続場への極限。離散系(バネで繋がった質点、自由度 \(N\) 個)から連続場 \(\phi(x, t)\)(自由度が連続無限個)への極限。離散的な添え字 \(i\) が連続的な座標 \(x\) に置き換わる様子を示している。


Lagrangian 密度の導入

🟡 リナ: 粒子力学では、Lagrangian \(L(q, \dot{q}) = T - V\) を定義して、作用 \(S = \int dt \, L\) を最小化する(正確には停留させる)ことで運動方程式を導いたわね。場の理論でも同じ発想を使うの。

まず、場の理論の Lagrangian は次のように書かれるわ:

\[ L(t) = \int d^3x \; \mathcal{L}(\phi_a, \, \partial_\mu \phi_a) \tag{3.1} \]

ここで添え字 \(a\) は場の種類(成分)を区別するラベルよ。たとえばスカラー場が 1 つだけなら \(a\) は 1 つの値しか取らないから省略できるわ。複数の実スカラー場 \(\phi_1, \phi_2, \ldots\) があれば \(a = 1, 2, \ldots\) と番号をつける。電磁場のポテンシャル \(A_\mu\) のように 4 成分ある場の場合も、形式的には \(a\) が 4 つの値を取ると見なせるの——ただしこの場合の \(a\) は時空の方向(Lorentz 添字)と結びついているから、Lorentz 変換で成分が混ざり合うという点で、単なる「番号」とは性質が違う。今は「\(a\) は場の成分を区別するラベル」とだけ覚えておいて。その区別は Maxwell 場を詳しく扱うときに改めて説明するわね。

🔵 カイ: \(\mathcal{L}\) って何ですか? \(L\) とは違うんですか?

🟡 リナ: \(\mathcal{L}\)Lagrangian 密度 (ラグランジアン密度) と呼ばれるもので、「単位体積あたりの Lagrangian」よ。質量密度 \(\rho\) が「単位体積あたりの質量」であるのと同じ発想。空間全体で積分すると全体の Lagrangian \(L\) になる。

⚪ メイ: つまり \(L\)\(\mathcal{L}\) の関係は、質量 \(M\) と質量密度 \(\rho\) の関係 \(M = \int d^3x \, \rho\) と同じ構造ね。

🟡 リナ: そう。ただし、物理学者は面倒くさがりだから、\(\mathcal{L}\) のことも単に「Lagrangian」と呼んでしまうことが多いの。文脈で判断してね。

そして 作用 (action) \(S\) は、Lagrangian 密度を 4 次元時空全体で積分したもの:

\[ S = \int dt \, L = \int dt \int d^3x \; \mathcal{L} = \int d^4x \; \mathcal{L}(\phi_a, \, \partial_\mu \phi_a) \tag{3.2} \]

ここで \(d^4x = dt \, d^3x\) は 4 次元の体積要素よ。

🔵 カイ: \(\mathcal{L}\)\(\phi_a\)\(\partial_\mu \phi_a\) だけに依存するんですか? 2 階微分 \(\partial_\mu \partial_\nu \phi\) とかは入らないんですか?

🟡 リナ: 鋭いわね。ここでは \(\mathcal{L}\) は場とその 1 階微分まで にしか依存しないと仮定するの。粒子力学で \(L(q, \dot{q})\)\(\ddot{q}\) に依存しないのと同じ精神。2 階以上の微分を入れると、Ostrogradsky (オストログラドスキー) の不安定性と呼ばれる問題が生じて、エネルギーが下に有界でなくなってしまう——つまり系がいくらでも低いエネルギー状態に落ち込めるから、安定な「基底状態」が存在しなくなるの。ボールが底のない穴に永遠に落ち続けるようなもので、物理的に破綻するわ。

✅ 理解度チェック: Lagrangian 密度が場の 2 階以上の微分に依存してはならない物理的理由は何でしょうか?

答え

2 階以上の微分を含む Lagrangian では Ostrogradsky の不安定性が生じ、エネルギーが下に有界でなくなる(いくらでも低いエネルギー状態が存在してしまう)。これは物理的に不安定な理論を意味するため、\(\mathcal{L}\) は場とその 1 階微分までにしか依存しないと仮定する。

⚪ メイ: 粒子力学との対応をまとめると:

表 3.2: Lagrangian と作用の粒子・場対応

粒子力学 場の理論
Lagrangian \(L(q, \dot{q})\) \(L = \int d^3x \, \mathcal{L}(\phi, \partial_\mu \phi)\)
作用 \(S = \int dt \, L\) \(S = \int d^4x \, \mathcal{L}\)
依存する微分 \(\dot{q}\)(1 階)まで \(\partial_\mu \phi\)(1 階)まで

🟡 リナ: 完璧な整理ね。もう一つ大事なことを言っておくと、場の量子論では Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}\) を Lorentz スカラー(Lorentz 変換で値が変わらない量)として構成する のが基本方針よ。こうすれば、どの慣性系から見ても同じ形の理論が得られる。これが第 2 章で学んだ Lorentz 不変性の要請を満たす方法なの。

✅ 理解度チェック: Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}\) と Lagrangian \(L\) の関係を、質量密度のアナロジーを使って説明してみましょう。

答え

質量密度 \(\rho\) を空間全体で積分すると全質量 \(M = \int d^3x\,\rho\) になるのと同様に、Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}\) を空間全体で積分すると Lagrangian \(L = \int d^3x\,\mathcal{L}\) になる。\(\mathcal{L}\) は「単位体積あたりの Lagrangian」である。


3.2 最小作用の原理と場の Euler-Lagrange 方程式

🟡 リナ: 粒子力学では、作用 \(S\) を停留させる経路 \(q(t)\) が物理的に実現される運動だった。場の理論でもまったく同じ発想を使うわ。場の配位 \(\phi_a(x)\) を微小に変形して、\(\delta S = 0\) を要求するの。図 3.2「変分原理のイメージ:粒子力学(左)と場の理論(右)」に粒子力学と場の理論の変分を並べて描いたから、見比べてみて。

変分原理のイメージ

図 3.2: 変分原理のイメージ:粒子力学(左)と場の理論(右)。粒子力学では経路 \(q(t)\) を微小に変形し端点は固定する。場の理論では場の配位 \(\phi(x)\) を微小に変形し、時空の境界では \(\delta\phi = 0\) とする。いずれも \(\delta S = 0\) を要求して運動方程式を導く。

🔵 カイ: 「場を微小に変形する」って、具体的にどういうことですか?

🟡 リナ: 場 \(\phi_a(x)\)\(\phi_a(x) + \delta\phi_a(x)\) に少しだけずらすの。ただし、時空の境界(無限遠や初期・終端時刻)では \(\delta\phi_a = 0\) とする。つまり端点は固定したまま、途中の形だけを変えるのよ。

では導出していくわね。作用の変分は:

\[ \delta S = \int d^4x \left[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi_a} \, \delta\phi_a + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)} \, \delta(\partial_\mu \phi_a) \right] \tag{3.3} \]

⚪ メイ: これは多変数関数の全微分の公式ね。\(\mathcal{L}\)\(\phi_a\)\(\partial_\mu \phi_a\) という「二つの変数」に依存しているから、それぞれの変化に対する寄与を足し合わせている。

🔵 カイ: ちょっと待って。\(\partial_\mu\phi\)\(\phi\) から計算できるのに、なぜ「独立な変数」として扱えるんですか?

🟡 リナ: いい質問。これは粒子力学で \(L(q, \dot{q})\) の偏微分を計算するときと同じ考え方よ。\(\dot{q}\)\(q(t)\) の時間微分だから \(q\) で決まるはずだけれど、偏微分 \(\frac{\partial L}{\partial q}\) を計算するときは「\(\dot{q}\) を固定して \(q\) だけ動かす」と約束するの。同じように、\(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi_a}\) を計算するときは「\(\partial_\mu\phi_a\) を固定して \(\phi_a\) だけ動かす」。これは計算の手続き上の約束であって、最終的に Euler-Lagrange 方程式に代入した後は \(\partial_\mu\phi\)\(\phi\) の関係がちゃんと復活するから心配しないで。

🟡 リナ: その通り。ここで重要なのは、変分 \(\delta\) と微分 \(\partial_\mu\) の順序は交換できるということ:

\[ \delta(\partial_\mu \phi_a) = \partial_\mu(\delta\phi_a) \tag{3.4} \]

これは「微小変化を取ってから微分する」のと「微分してから微小変化を取る」のが同じだということよ。

🔵 カイ: なるほど、\(\delta\) は「ちょっとずらす」操作で、\(\partial_\mu\) は「微分する」操作だから、どっちを先にやっても結果は同じと。

🟡 リナ: そう。では式 (3.3) の第 2 項に部分積分を施すわ。1 変数の部分積分 \(\int u \, dv = uv - \int v \, du\) の 4 次元版ね。

考え方はこう。積の微分公式(Leibniz 則)\(\partial_\mu(fg) = (\partial_\mu f)g + f(\partial_\mu g)\) を使って \(f(\partial_\mu g) = \partial_\mu(fg) - (\partial_\mu f)g\) と変形するの。ここで \(f = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi_a)}\)\(g = \delta\phi_a\) とすると:

\[ \int d^4x \, \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)} \, \partial_\mu(\delta\phi_a) = -\int d^4x \, \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)}\right) \delta\phi_a + \int d^4x \, \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)} \, \delta\phi_a\right) \tag{3.5} \]

🔵 カイ: 最後の項は何ですか?

🟡 リナ: 最後の項は 全微分 (total divergence) よ。1 変数の場合を思い出して。\(\int_a^b \frac{d}{dx}[f(x)]\,dx = f(b) - f(a)\) で、全微分の積分は端点の値だけで決まるでしょう? 4 次元でも同じことが起きるの。4 次元の Gauss の定理(発散定理)を使うと、\(\int d^4x\,\partial_\mu(\cdots)\) は時空の「端」——つまり境界面上の面積分に変換できる。そして境界で \(\delta\phi_a = 0\) としているから、この項は消えるの。

したがって:

\[ \delta S = \int d^4x \left[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi_a} - \partial_\mu \left( \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)} \right) \right] \delta\phi_a \tag{3.6} \]

🔵 カイ: \(\delta S = 0\) ってことは、この積分全体がゼロになるんですよね。でも \(\delta\phi_a\) は任意なんだから……もしかして、角括弧の中身自体がゼロじゃないとダメってことですか?

🟡 リナ: その通り! もし角括弧の中がどこかの点でゼロでなかったら、その点の周りだけで \(\delta\phi_a \neq 0\) となるような変分を選べば \(\delta S \neq 0\) になってしまう——「任意の \(\delta\phi_a\) に対して \(\delta S = 0\)」に矛盾するわ。だから角括弧の中は各点でゼロでなければならない。こうして 場の Euler-Lagrange 方程式 が得られるわ:

最小作用の原理と場の運動方程式の導出

図 3.3: 最小作用の原理と場の運動方程式の導出。Lagrangian 密度 → 作用 → 変分原理 → Euler-Lagrange 方程式という導出の流れ。部分積分と表面項の消去が鍵となる。

\[ \boxed{\partial_\mu \left( \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)} \right) - \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi_a} = 0} \tag{3.7} \]

🔵 カイ: おお! 粒子力学の Euler-Lagrange 方程式 \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\) とそっくりですね!

🟡 リナ: まさにその自然な拡張なの。対応関係をまとめておくわ:

表 3.3: Euler-Lagrange 方程式の粒子・場対応

粒子力学 場の理論
\(\dfrac{d}{dt}\) \(\partial_\mu\)(時間微分 → 時空微分)
\(\dfrac{\partial L}{\partial \dot{q}}\) \(\dfrac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)}\)
\(\dfrac{\partial L}{\partial q}\) \(\dfrac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi_a}\)

⚪ メイ: 時間微分 \(d/dt\) が 4 次元の微分 \(\partial_\mu\) に置き換わって、\(\mu\) について和を取る(Einstein の縮約記法)ことで、時間方向だけでなく空間方向の微分も含めているのね。

✅ 理解度チェック: 場の Euler-Lagrange 方程式の導出で、部分積分後に現れる「表面項」が消える理由は何でしょうか?

答え

場の変分 \(\delta\phi_a\) が時空の境界(無限遠や初期・終端時刻)でゼロになるという境界条件を課しているため、Gauss の定理で表面積分に変換された項が消える。


具体例:Klein-Gordon 方程式の導出

🟡 リナ: さっそく Euler-Lagrange 方程式を使ってみましょう。実スカラー場 (real scalar field) \(\phi(x)\) に対する次の Lagrangian 密度を考えるわ:

\[ \mathcal{L} = \frac{1}{2} \partial_\mu \phi \, \partial^\mu \phi - \frac{1}{2} m^2 \phi^2 \tag{3.8} \]

🔵 カイ: この Lagrangian はどこから来たんですか? なぜこの形なんですか?

🟡 リナ: とてもいい質問。この Lagrangian を選ぶ理由は 3 つあるわ:

  1. Lorentz スカラーである\(\partial_\mu \phi \, \partial^\mu \phi\) は Lorentz 変換で値が変わらない
  2. 場とその 1 階微分だけを含む:2 階以上の微分は含まない
  3. 最もシンプル\(\phi\)\(\partial_\mu\phi\) で作れる Lorentz スカラーのうち、最も単純な組み合わせ

構造を見てみましょう。第 2 章で学んだ計量テンソル \(\eta^{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) を使って展開すると:

\[ \partial_\mu \phi \, \partial^\mu \phi = (\partial_0 \phi)^2 - (\partial_1 \phi)^2 - (\partial_2 \phi)^2 - (\partial_3 \phi)^2 = \dot{\phi}^2 - (\nabla\phi)^2 \]

だから:

\[ \mathcal{L} = \frac{1}{2}\dot{\phi}^2 - \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 - \frac{1}{2}m^2\phi^2 \tag{3.9} \]

🔵 カイ: あ、展開してみると \(T - V\) の構造が見えてきますね。\(\dot{\phi}^2\) が運動エネルギー的で、残りがポテンシャル的。

🟡 リナ: その通り。粒子力学の \(L = T - V\) と比較してみましょう。\(\frac{1}{2}\dot{\phi}^2\) は場の時間変化に関わる「運動エネルギー的な項」、\(\frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 + \frac{1}{2}m^2\phi^2\) は場の空間変化と場の値自体に関わる「ポテンシャルエネルギー的な項」に対応しているの。

⚪ メイ: なるほど、粒子力学の \(T - V\) 構造がそのまま場に拡張されているのね。

🟡 リナ: そう。では Euler-Lagrange 方程式に必要な偏微分を計算していくわ。

ステップ 1:\(\phi\) による偏微分

\(\mathcal{L}\) の中で \(\phi\) そのもの(微分がついていない \(\phi\))を含む項は \(-\frac{1}{2}m^2\phi^2\) だけ。だから:

\[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} = -m^2 \phi \tag{3.10a} \]

ステップ 2:\(\partial_\mu \phi\) による偏微分

\(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi \, \partial_\beta\phi - \frac{1}{2}m^2\phi^2\)\(\partial_\mu\phi\) で微分するの。これは \(\frac{d}{dv}\left(\frac{1}{2}v^2\right) = v\) と同じ要領で:

\[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} = \partial^\mu \phi \tag{3.10b} \]

🔵 カイ: なぜ添え字が上に上がるんですか?

🟡 リナ: \(\frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi \, \partial_\beta\phi\)\(\partial_\mu\phi\) で微分すると、計量テンソルが添え字を上げてくれるの。具体的に書くと:

\[ \frac{\partial}{\partial(\partial_\mu\phi)} \left[\frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi \, \partial_\beta\phi\right] = \frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}(\delta^\mu_\alpha \, \partial_\beta\phi + \partial_\alpha\phi \, \delta^\mu_\beta) = \frac{1}{2}(\eta^{\mu\beta}\partial_\beta\phi + \eta^{\alpha\mu}\partial_\alpha\phi) = \frac{1}{2}(\partial^\mu\phi + \partial^\mu\phi) = \partial^\mu\phi \]

途中の計算を補足するわね。ここで \(\delta^\mu_\alpha\) は Kronecker (クロネッカー) のデルタ——\(\mu = \alpha\) のとき 1、それ以外は 0——よ。\(\partial_\beta\phi\)\(\partial_\mu\phi\) で微分するというのは、こう考えて。\(\partial_0\phi, \partial_1\phi, \partial_2\phi, \partial_3\phi\) を 4 つの独立な変数だと思うの。たとえば \(x, y, z, w\) という 4 つの変数があるとき、\(\frac{\partial y}{\partial x} = 0\)\(\frac{\partial y}{\partial y} = 1\) でしょう? それと同じで、\(\frac{\partial(\partial_\beta\phi)}{\partial(\partial_\mu\phi)}\) は「\(\beta = \mu\) のときだけ 1、それ以外は 0」——つまり \(\delta^\mu_{\;\beta}\) になるの。

⚪ メイ: つまり計量テンソルが Kronecker デルタで残った添字を上げてくれる、という仕組みね。

🟡 リナ: その通り。この \(\delta^\mu_{\;\beta}\)\(\mu\) が上付きになっている理由は、第 2 章で学んだ「添字を上げる操作」と整合するためよ。具体的に見てみましょう。第1項では \(\delta^\mu_\alpha\)\(\alpha = \mu\) を選び出すから \(\eta^{\alpha\beta} \to \eta^{\mu\beta}\)、そして \(\eta^{\mu\beta}\partial_\beta\phi = \partial^\mu\phi\)(これが「計量で添字を上げる」操作よ)。第2項も同様に \(\delta^\mu_\beta\)\(\beta = \mu\) を選び出して \(\eta^{\alpha\mu}\partial_\alpha\phi = \partial^\mu\phi\)。2つの項が同じ \(\partial^\mu\phi\) になるのは、計量テンソルの対称性 \(\eta^{\alpha\beta} = \eta^{\beta\alpha}\) のおかげよ。

要するに、\(\frac{\partial}{\partial(\partial_\mu\phi)}\) で微分すると、計量テンソルが残りの添字を上に持ち上げてくれて、結果が \(\partial^\mu\phi\)(上付き添字)になるの。今は「この計算規則で \(\partial^\mu\phi\) が出てくる」ということを押さえておけば大丈夫よ。

ステップ 3:Euler-Lagrange 方程式に代入

式 (3.7) に代入すると:

\[ \partial_\mu(\partial^\mu \phi) - (-m^2\phi) = 0 \]
\[ \boxed{\partial_\mu \partial^\mu \phi + m^2 \phi = 0} \tag{3.11} \]

🔵 カイ: これ、「量子力学」編 第 27 章で見た Klein-Gordon 方程式ですね!

🟡 リナ: その通り! 「量子力学」編 第 27 章では相対論的なエネルギー-運動量関係 \(E^2 = |\mathbf{p}|^2 + m^2\) から出発して「演算子に置き換える」ことで導いたわね。今回は Lagrangian から自動的に導出されたの。もう少し馴染みのある形で書いてみましょう。\(\partial_\mu\partial^\mu = \frac{\partial^2}{\partial t^2} - \nabla^2\) だから:

\[ \frac{\partial^2 \phi}{\partial t^2} - \nabla^2 \phi + m^2 \phi = 0 \tag{3.12} \]

この \(\partial_\mu\partial^\mu\) をまとめて \(\Box\) と書いて、d'Alembertian (ダランベルシアン) と呼ぶの。これを使えば Klein-Gordon 方程式は \((\Box + m^2)\phi = 0\) とコンパクトに書けるわ。そして \(m = 0\) とすれば \(\Box\phi = 0\) ——普通の波動方程式に戻るの。


分散関係の読み取り

🟡 リナ: Klein-Gordon 方程式の平面波解を試してみましょう。\(\phi \propto e^{-iEt + i\mathbf{p}\cdot\mathbf{x}}\) という形を仮定するの。ここで \(E\)\(\mathbf{p}\) はまだ未知の定数パラメータ——これが何に対応するかは、方程式に代入すれば分かるわ。

\[ \partial_0^2 \phi = (-iE)^2 \phi = -E^2\phi, \qquad \nabla^2\phi = (i\mathbf{p})^2\phi = -|\mathbf{p}|^2\phi \]

代入すると:

\[ (-E^2 + |\mathbf{p}|^2 + m^2)\phi = 0 \]

\(\phi \neq 0\) とすれば:

\[ E^2 = |\mathbf{p}|^2 + m^2 \tag{3.13} \]

🔵 カイ: Einstein のエネルギー-運動量関係そのものだ! Lagrangian に \(m^2\phi^2\) の項を入れたことが、粒子に質量 \(m\) を与えることに対応しているんですね。

🟡 リナ: その通り。もし \(m = 0\) なら \(E = |\mathbf{p}|\) となって、光子のような質量ゼロの粒子の分散関係になるわ。\(m \neq 0\) なら \(|\mathbf{p}| = 0\) でも \(E = m \neq 0\) ——静止エネルギー \(E = mc^2\)(自然単位系では \(E = m\))が存在する。

✅ 理解度チェック: Lagrangian 密度 \(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi\)\(m^2\) 項なし)から導かれる運動方程式と、その分散関係を書いてください。

答え

運動方程式は \(\partial_\mu\partial^\mu\phi = 0\)(波動方程式)。分散関係は \(E^2 = |\mathbf{p}|^2\)、すなわち \(E = |\mathbf{p}|\)。これは質量ゼロの粒子に対応する。


3.3 Noether の定理 — 対称性から保存則を導く

🟡 リナ: さて、ここからがこの章の核心部分よ。「量子力学」編 第 26 章で「対称性があれば保存量がある」ということを学んだわね。あのとき具体的に見た対応は:

表 3.4: 対称性と保存量の対応

対称性 保存量
空間並進不変性 運動量
回転不変性 角運動量
時間並進不変性 エネルギー

今日はこの関係を、場の理論の文脈で数学的に証明するわ。これが Noether の定理 (ネーターの定理) よ。

Noetherの定理による対称性と保存量の対応

図 3.4: Noetherの定理による対称性と保存量の対応。Noether の定理が結ぶ対称性と保存量の対応 — 時空並進 → エネルギー・運動量、回転 → 角運動量、\(U(1)\) 位相変換 → 電荷(\(U(1)\) については本章後半で詳しく扱う)。

🔵 カイ: Emmy Noether (エミー・ネーター) さんが証明した定理ですね。

🟡 リナ: そう。1918 年に発表された定理で、物理学で最も美しく、最も実用的な定理の一つと言われているわ。図 3.4「Noetherの定理による対称性と保存量の対応」に対称性と保存量の対応を図示しておいたから、全体像を把握しながら聞いてね。定理の主張を先に述べておくわね:

Noether の定理: Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}\) が、ある連続的な変換に対して不変であるならば、その変換に対応する 保存カレント (conserved current) \(j^\mu\) が存在し、\(\partial_\mu j^\mu = 0\) を満たす。

🔵 カイ: 「保存カレント」って何ですか? 「カレント」って電流のことですよね? なんで対称性から電流が出てくるんですか?

🟡 リナ: \(\partial_\mu j^\mu = 0\) という式の意味を、成分で書き下してみると分かるわ:

\[ \partial_\mu j^\mu = \partial_0 j^0 + \partial_1 j^1 + \partial_2 j^2 + \partial_3 j^3 = \frac{\partial j^0}{\partial t} + \nabla \cdot \mathbf{j} = 0 \tag{3.14} \]

🔵 カイ: あ、これは連続の方程式 (continuity equation) ですね! 電磁気学で電荷密度 \(\rho\) と電流密度 \(\mathbf{j}\)\(\frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla \cdot \mathbf{j} = 0\) を満たすのと同じ形だ。

🟡 リナ: まさにそう。\(j^0\) は「何かの密度」、\(\mathbf{j} = (j^1, j^2, j^3)\) は「何かの流れ」と解釈できるの。そして、全空間で \(j^0\) を積分した量:

\[ Q = \int d^3x \; j^0(\mathbf{x}, t) \tag{3.15} \]

時間的に変化しない——つまり保存量なの。

🔵 カイ: \(Q\) が保存するって、\(\frac{dQ}{dt} = 0\) ってことですよね。でも \(Q = \int d^3x\,j^0\) の時間微分を取ったら \(\frac{dQ}{dt} = \int d^3x\,\frac{\partial j^0}{\partial t}\) になりますけど、これがゼロになる理由がまだ見えないです。

🟡 リナ: 連続の方程式 \(\frac{\partial j^0}{\partial t} = -\nabla\cdot\mathbf{j}\) を代入すると \(\frac{dQ}{dt} = -\int d^3x\,\nabla\cdot\mathbf{j}\) になるわね。そしてこれを Gauss の定理で表面積分に変換できるの。\(\int d^3x\,\nabla\cdot\mathbf{j}\) は、十分大きな球面上での \(\mathbf{j}\) の面積分に等しいでしょう? ここで物理的な境界条件を使うの。場の理論では「系の全エネルギーが有限」という条件を課すわ。直感的に言えば、もし場 \(\phi\) が無限遠でもゼロに近づかなかったら、エネルギー密度 \(T^{00} \sim \phi^2\) が空間のどこまでも広がっていて、全空間で積分すると無限大になってしまう——物理的にありえないわよね。だから「エネルギーが有限」という条件は、場 \(\phi\) とその微分が無限遠で十分速くゼロに近づくことを要求するの。すると \(j^\mu\)\(\phi\) とその微分で構成されているから、無限遠で減衰する。したがって球面を十分大きく取れば表面積分はゼロになって、\(\frac{dQ}{dt} = 0\) が示せるわ。

⚪ メイ: つまり「有限エネルギーの物理的な場」→「無限遠で場が減衰」→「表面積分がゼロ」→「\(Q\) が保存」という論理の流れね。


Noether の定理の証明

🟡 リナ: では証明に入るわ。場 \(\phi(x)\) が微小な連続変換を受けて:

\[ \phi(x) \to \phi(x) + \delta\phi(x) \tag{3.16} \]

と変化するとしましょう。このとき Lagrangian 密度の変分は:

\[ \delta\mathcal{L} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi}\,\delta\phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)}\,\delta(\partial_\mu \phi) \tag{3.17} \]

🔵 カイ: これは式 (3.3) と同じ形ですね。

🟡 リナ: そう。ここで式変形のトリックを使うわ。まず、\(\delta(\partial_\mu\phi) = \partial_\mu(\delta\phi)\) を使う。次に、積の微分公式 (Leibniz 則) \(\partial_\mu(fg) = (\partial_\mu f)g + f(\partial_\mu g)\) を変形して \(f(\partial_\mu g) = \partial_\mu(fg) - (\partial_\mu f)g\) とするの。これを使って第 2 項を書き換えると:

\[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \partial_\mu(\delta\phi) = \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi\right) - \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)}\right) \delta\phi \tag{3.18} \]

⚪ メイ: なるほど、高校で習った積の微分公式を移項しただけの操作ね。

🟡 リナ: その通り。式 (3.18) を式 (3.17) に代入すると:

\[ \delta\mathcal{L} = \left[\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} - \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)}\right)\right]\delta\phi + \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi\right) \tag{3.19} \]

🔵 カイ: 最初の角括弧の中は……あ! Euler-Lagrange 方程式の左辺だ!

🟡 リナ: そう! ここが Noether の定理のポイントよ。少し整理させてね。さっきと今で、何が違うかを明確にしておくわ。

  • Euler-Lagrange 方程式の導出(さっきやったこと):\(\phi(x)\) はまだ何でもいい未知の場。「任意の \(\delta\phi\) に対して \(\delta S = 0\)」を要求した。\(\delta\phi\) が何でもいいから、被積分関数自体がゼロでなければならない——こうして運動方程式が導かれた
  • Noether の定理(今やっていること):\(\phi(x)\) はすでに運動方程式を満たしている——つまり物理的に実現されている場の配位。その上で、特定の変換(対称性変換)\(\delta\phi\) を施している。

⚪ メイ: 同じ式 (3.19) を使っていても、前提が全然違うのね。前は「方程式を導くために任意の \(\delta\phi\) を考えた」、今は「方程式が成り立つ場の上で特定の \(\delta\phi\) を考えている」と。

🟡 リナ: その通り。運動方程式が成り立っている場の上では、角括弧の中(= Euler-Lagrange 方程式の左辺)は \(\delta\phi\) が何であろうと恒等的にゼロ——なぜなら、角括弧の中身自体が \(\delta\phi\) に依存しない量(\(\phi\) とその微分だけで書かれている)で、それが運動方程式によりゼロになっているから。したがって:

\[ \delta\mathcal{L} = \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi\right) \tag{3.20} \]

ここで、対称性の条件を使うわ。「\(\mathcal{L}\) がこの変換に対して不変」とは \(\delta\mathcal{L} = 0\) ということ。したがって:

\[ \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi\right) = 0 \tag{3.21} \]

🔵 カイ: おお、これだけで保存則が出てくるんですか! 括弧の中身がそのまま保存カレントになるんですね。

🟡 リナ: つまり、括弧の中身を \(j^\mu\) と名付ければ:\(j^\mu \equiv \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi\)\(\partial_\mu j^\mu = 0\) を満たす——これが保存カレントよ。

⚪ メイ: 対称性の条件 \(\delta\mathcal{L} = 0\) と運動方程式を組み合わせただけで、保存則が自動的に出てくるのね。

🟡 リナ: まさにそう。ここで、微小変換を「大きさ」と「方向」に分解して書くと便利なの。たとえば位相変換 \(\delta\phi = i\alpha\,\phi\) を考えると、\(\alpha\) が「どれだけ回すか」という大きさで、\(i\phi\) が「どの方向に変化するか」という型を表しているでしょう? これを一般的に \(\delta\phi = \epsilon \, D\phi\) と書くの。\(\epsilon\) は「どれだけ変換するか」を表す小さな定数パラメータ、\(D\phi\) は「\(\epsilon\) を括り出した残り」——つまり「場がどういう形で変化するか」を表す量よ。

🔵 カイ: \(D\) って微分の \(d\) とは関係ないんですか?

🟡 リナ: いい質問。ここでの \(D\) は微分演算子ではなくて、単に「\(\delta\phi\) から定数パラメータ \(\epsilon\) を括り出した残り」を表す記号よ。つまり \(\delta\phi = \epsilon \times D\phi\) という分解の定義式から \(D\phi \equiv \delta\phi / \epsilon\) と決まるの。

位相変換の例で確認すると:\(\delta\phi = i\alpha\,\phi\) だから、\(\epsilon = \alpha\)\(D\phi = \delta\phi/\epsilon = i\phi\)。つまり \(D\phi\) は「\(\phi\)\(i\) を掛けたもの」——場の値そのものに定数を掛けた量ね。変換の種類が変われば \(D\phi\) の形も変わるの。次の節で時空並進を扱うとき、\(D\phi = \partial_\nu\phi\) という別の形が出てくるから、そのとき改めて確認しましょう。

なぜわざわざ \(\epsilon\)\(D\phi\) に分けるかというと、式 (3.21) の \(\partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \cdot \epsilon\,D\phi\right) = 0\) で、\(\epsilon\) は定数だから \(\partial_\mu\) の外に出せるの。\(\epsilon \neq 0\) で両辺を割ると、保存カレントの表式が \(\epsilon\) の値に依存しない普遍的な形になる——つまり「どれだけ変換したか」に関係なく、対称性の種類だけで保存量が決まるのよ。

こう書くと、式 (3.21) の \(\delta\phi\)\(\epsilon\,D\phi\) に置き換えて \(\partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \cdot \epsilon\,D\phi\right) = 0\) となる。\(\epsilon\)\(x\) に依存しない定数だから \(\partial_\mu\) の外に出せて:

\[ \epsilon\,\partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, D\phi\right) = 0 \]

\(\epsilon \neq 0\) で両辺を割ると、保存カレント \(j^\mu\) を次のように定義できるわ:

\[ \boxed{j^\mu = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, D\phi, \qquad \partial_\mu j^\mu = 0} \tag{3.22} \]

これが Noether の定理 の結論よ(\(\delta\mathcal{L} = 0\) の場合)。

注意: この式 (3.22) は、\(\delta\mathcal{L} = 0\)(Lagrangian 密度が完全に不変)かつ変換パラメータが定数 1 つの場合にそのまま使える形よ。次の節で扱う \(U(1)\) 位相変換(\(\delta\phi = i\alpha\,\phi\)、パラメータは \(\alpha\) ひとつ、\(\delta\mathcal{L} = 0\))がまさにこの場合に当たるわ。一方、時空並進では \(\delta\mathcal{L} \neq 0\)(ただし全微分になる)かつパラメータが 4 成分あるから、次の「一般化:\(\delta\mathcal{L}\) が全微分の場合」で導く式 (3.25) の一般化を使うことになる——具体的にはその節で見るから、今は「式 (3.22) が \(\delta\mathcal{L} = 0\) の場合の基本形」とだけ覚えておいて。

\(\delta\mathcal{L} \neq 0\) だが全微分になる場合の一般化は、すぐ後の「一般化:\(\delta\mathcal{L}\) が全微分の場合」で扱うわ。

🔵 カイ: すごい……対称性(\(\delta\mathcal{L} = 0\))と運動方程式(Euler-Lagrange 方程式)の 2 つを組み合わせるだけで、保存カレントが出てくるんですね。

🟡 リナ: そうなの。この証明の美しさは、「対称性」と「運動方程式」という 2 つの独立な条件が、保存則という 1 つの結論に合流するところにあるわ。


一般化:\(\delta\mathcal{L}\) が全微分の場合

🟡 リナ: 実は、\(\delta\mathcal{L} = 0\) でなくても Noether の定理は使えるの。次の節で時空並進を考えるとき、Lagrangian 密度自体は変化する(\(\delta\mathcal{L} \neq 0\))けれど、その変化が特別な形をしていれば保存則が導ける——そういう状況が実際に出てくるの。

具体的には、\(\delta\mathcal{L}\) が何かの 4 次元発散(全微分)の形:

\[ \delta\mathcal{L} = \partial_\mu K^\mu \tag{3.23} \]

になっていれば十分よ。

🔵 カイ: \(\delta\mathcal{L} \neq 0\) なのに「対称性」と呼べるんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。ポイントは「作用 \(S\) が変わるかどうか」なの。\(\delta S = \int d^4x\,\delta\mathcal{L} = \int d^4x\,\partial_\mu K^\mu\) を Gauss の定理で変換すると、時空の境界上の面積分になる。1 変数の積分で例えると、\(\int_a^b \frac{df}{dx}dx = f(b) - f(a)\) のように、全微分の積分は端点の値だけで決まるでしょう? 同じことが 4 次元でも起きるの。境界で場を固定する(\(\delta\phi = 0\))条件のもとでは、この表面項は運動方程式の導出に寄与しない。つまり \(\delta\mathcal{L}\) が全微分なら、Lagrangian 密度の値は変わっても物理(運動方程式)は変わらないの。これを 準対称性 (quasi-symmetry) と呼ぶこともあるけれど、名前は覚えなくて大丈夫。大事なのは「\(\delta\mathcal{L}\) が全微分なら Noether の定理が使える」ということよ。

⚪ メイ: なるほど。\(\delta\mathcal{L} = 0\) は「密度が変わらない」、\(\delta\mathcal{L} = \partial_\mu K^\mu\) は「密度は変わるけど作用(全体の積分)は変わらない」——どちらも物理としては等価なのね。

🟡 リナ: この場合、式 (3.20) の左辺と式 (3.23) の右辺はどちらも \(\delta\mathcal{L}\) に等しいから:

\[ \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi\right) = \partial_\mu K^\mu \]

両辺の差を取って \(\partial_\mu\) でくくると:

\[ \partial_\mu\!\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \delta\phi - K^\mu\right) = 0 \tag{3.24} \]

だから保存カレントは:

\[ j^\mu = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, D\phi - K^\mu \tag{3.25} \]

⚪ メイ: 時空並進の場合は \(\delta\mathcal{L} \neq 0\) だけど全微分にはなるから、この一般化が必要になるのね。

🟡 リナ: その通り。では具体例を見ていきましょう。

✅ 理解度チェック: Noether の定理の証明で、Euler-Lagrange 方程式が果たす役割を一言で述べてください。

答え

Euler-Lagrange 方程式が成り立つことにより、\(\delta\mathcal{L}\) の表式から「運動方程式の項」がゼロになり、残った全微分項が保存カレントの発散ゼロ条件 \(\partial_\mu j^\mu = 0\) を与える。


3.4 具体例① — 時空並進不変性とエネルギー・運動量テンソル

🟡 リナ: 最初の具体例として、時空並進に対する不変性を考えるわ。時空座標を \(x^\mu \to x^\mu + \epsilon^\mu\)\(\epsilon^\mu\) は微小な定ベクトル)とずらす変換よ。

🔵 カイ: 「物理法則は宇宙のどこでも、いつでも同じ」という仮定ですね。

🟡 リナ: そう。この変換のもとで場はどう変化するか? 場 \(\phi(x)\) は時空の関数だから、座標が \(x^\mu + \epsilon^\mu\) にずれると:

\[ \phi(x) \to \phi(x + \epsilon) \approx \phi(x) + \epsilon^\nu \partial_\nu \phi(x) \tag{3.26} \]

Taylor 展開の 1 次の項よ。したがって:

\[ \delta\phi = \epsilon^\nu \partial_\nu \phi \tag{3.27} \]

さっきの一般的な分解 \(\delta\phi = \epsilon\,D\phi\) と見比べると、時空並進では \(\epsilon^\nu\) がパラメータで \(D\phi = \partial_\nu\phi\) に相当するわ。

⚪ メイ: なるほど、\(U(1)\) のときは \(D\phi = i\phi\) だったけれど、時空並進では \(D\phi = \partial_\nu\phi\) になるのね。変換の種類で \(D\phi\) の形が変わるという話がここで具体的に見えたわ。

🟡 リナ: 次に、Lagrangian 密度の変化を考えるわ。\(\mathcal{L}\) は座標 \(x^\mu\) に陽には依存しない——つまり \(\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi)\) という形で、\(x\) が直接引数に入っていないの。でも \(\phi(x)\) 自体が \(x\) の関数だから、\(\mathcal{L}\) も間接的に \(x\) の関数になっている。

ここで \(\delta\mathcal{L}\) を 2 通りの方法で計算してみるわ。

座標が \(x^\mu \to x^\mu + \epsilon^\mu\) とずれたとき、\(\mathcal{L}\) の値はどう変わるか? \(\mathcal{L}\)\(x\) を直接の引数には持たないけれど、\(\phi(x)\)\(x\) の関数だから間接的に \(x\) に依存しているわ。連鎖律(合成関数の微分)で計算すると:\(\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi)\) の引数 \(\phi\)\(\partial_\mu\phi\) がそれぞれ \(\delta\phi = \epsilon^\nu\partial_\nu\phi\)\(\delta(\partial_\mu\phi) = \epsilon^\nu\partial_\nu(\partial_\mu\phi)\) だけ変化するから。2 つ目の式を確認しておくわ。\(\delta\phi = \epsilon^\nu\partial_\nu\phi\) の両辺を \(\partial_\mu\) で微分すると \(\partial_\mu(\delta\phi) = \partial_\mu(\epsilon^\nu\partial_\nu\phi) = \epsilon^\nu\partial_\mu\partial_\nu\phi\)\(\epsilon^\nu\) は定数だから \(\partial_\mu\) の外に出せる)。そして偏微分の順序は交換できる(\(\partial_\mu\partial_\nu\phi = \partial_\nu\partial_\mu\phi\)、これは関数が十分滑らかなら常に成り立つ性質よ)から、\(\epsilon^\nu\partial_\mu\partial_\nu\phi = \epsilon^\nu\partial_\nu(\partial_\mu\phi)\)。一方、式 (3.4) で確認したように \(\delta(\partial_\mu\phi) = \partial_\mu(\delta\phi)\) だから、結局 \(\delta(\partial_\mu\phi) = \epsilon^\nu\partial_\nu(\partial_\mu\phi)\) が得られるの。以上をまとめると:

\[ \delta\mathcal{L} = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi}\,\epsilon^\nu\partial_\nu\phi + \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\,\epsilon^\nu\partial_\nu(\partial_\mu\phi) = \epsilon^\nu\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi}\partial_\nu\phi + \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\partial_\nu(\partial_\mu\phi)\right) \]

右辺の括弧の中は、まさに \(\mathcal{L}\)\(x^\nu\) の合成関数として見たときの全変化率 \(\partial_\nu\mathcal{L}\) そのものよ。これは連鎖律(合成関数の微分)の結果:\(\partial_\nu\mathcal{L} = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi}\partial_\nu\phi + \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\partial_\nu(\partial_\mu\phi)\) と一致しているわ。したがって:

\[ \delta\mathcal{L} = \epsilon^\nu \partial_\nu \mathcal{L} \tag{3.28a} \]

🔵 カイ: つまり「\(\mathcal{L}\)\(x\) に陽に依存しない」と言いつつ、\(\phi(x)\) を通じて間接的には \(x\) の関数だから、\(\partial_\nu\mathcal{L} \neq 0\) になりうるんですね。

🟡 リナ: その通り。ここで \(\partial_\nu\mathcal{L}\) は「\(\mathcal{L}\)\(x^\nu\) の関数として見たときの全変化率」——\(\phi\)\(\partial_\mu\phi\)\(x\) に依存することを通じた間接的な微分よ。「\(\mathcal{L}\)\(x\) に陽に依存しない」と言ったのに \(\partial_\nu\mathcal{L} \neq 0\) なのは矛盾に見えるかもしれないけれど、\(\phi(x)\) 自体が \(x\) の関数だから、\(\mathcal{L}(\phi(x), \partial_\mu\phi(x))\)\(x\) を通じて間接的に変化するの。上の連鎖律の計算がまさにその間接的な依存を追ったものよ。

さて、式 (3.25) に代入するには \(\delta\mathcal{L} = \partial_\mu K^\mu\) の形にしたいの。ここで積の微分公式を使うと \(\partial_\nu(\epsilon^\nu\mathcal{L}) = (\partial_\nu\epsilon^\nu)\mathcal{L} + \epsilon^\nu\partial_\nu\mathcal{L}\) だけれど、\(\epsilon^\nu\) は定数(\(x\) に依存しない)だから \(\partial_\nu\epsilon^\nu = 0\)。したがって \(\epsilon^\nu\partial_\nu\mathcal{L} = \partial_\nu(\epsilon^\nu\mathcal{L})\) と書けるの。\(\partial_\nu(\epsilon^\nu\mathcal{L})\)\(\nu\) は上と下に 1 回ずつ現れて和を取るダミー添字だから、名前を \(\mu\) に変えても値は同じ:

\[ \delta\mathcal{L} = \partial_\mu(\epsilon^\mu \mathcal{L}) \tag{3.28b} \]

これで \(\delta\mathcal{L} = \partial_\mu K^\mu\) の形になったわ。\(K^\mu = \epsilon^\mu\mathcal{L}\) ね。

ただし、次のステップ(式 (3.29))で \(\epsilon^\nu\) を共通因子として括り出したいの。\(\delta\phi = \epsilon^\nu \partial_\nu\phi\) の方にはすでに \(\epsilon^\nu\) が付いているでしょう? \(K^\mu\) の方にも同じ添え字 \(\nu\) を持つ \(\epsilon^\nu\) を出しておきたいのよ。

そこで恒等的な書き換え \(\epsilon^\mu = \epsilon^\nu\delta^\mu_\nu\) を使うの。これは「\(\nu\) について和を取るけれど、\(\delta^\mu_\nu\)\(\nu = \mu\) だけを選び出すから結局 \(\epsilon^\mu\) に戻る」という、値を一切変えない書き換えよ。具体例で確認すると、\(\mu = 2\) のとき \(\epsilon^\nu\delta^2_\nu = \epsilon^0 \cdot 0 + \epsilon^1 \cdot 0 + \epsilon^2 \cdot 1 + \epsilon^3 \cdot 0 = \epsilon^2\) ——確かに元と同じね。

こうして \(K^\mu = \epsilon^\nu\delta^\mu_{\ \nu}\mathcal{L}\) と書き直せば、\(\delta\phi\)\(K^\mu\) の両方に \(\epsilon^\nu\) が共通因子として現れ、式 (3.29) できれいに括り出せるようになるの。

🔵 カイ: \(\delta\mathcal{L} \neq 0\) だけど全微分の形になっているから、式 (3.25) の一般化が使えるんですね。

🟡 リナ: その通り。式 (3.25) に代入するわ。\(\delta\phi = \epsilon^\nu \partial_\nu\phi\) だから:

\[ j^\mu = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \epsilon^\nu \partial_\nu\phi - \epsilon^\nu \delta^\mu_{\ \nu} \, \mathcal{L} = \epsilon^\nu \left[\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \partial_\nu\phi - \delta^\mu_{\ \nu} \, \mathcal{L}\right] \tag{3.29} \]

保存則 \(\partial_\mu j^\mu = 0\)\(j^\mu = \epsilon^\nu[\cdots]\) を代入すると \(\epsilon^\nu\,\partial_\mu[\cdots] = 0\) になるわ(\(\epsilon^\nu\) は定数だから \(\partial_\mu\) の外に出せる)。ここで大事なのは、\(\epsilon^\nu\) は「どの方向にどれだけずらすか」を表す任意のパラメータだということ。時間方向にずらしても、\(x\) 方向にずらしても、どの方向にずらしても物理法則は変わらないはず——だから上の等式はどんな \(\epsilon^\nu\) を選んでも成り立たなければならないの。\(\epsilon^\nu\)\((1,0,0,0)\) に選べば \(\nu = 0\) の括弧がゼロ、\((0,1,0,0)\) に選べば \(\nu = 1\) の括弧がゼロ、……というように、各 \(\nu\) について独立に括弧の中身の発散がゼロでなければならない。

🔵 カイ: なるほど、\(\epsilon^\nu\) は「どの方向にずらすか」を選ぶパラメータで、どの方向を選んでも保存則が成り立つべきだから、4 つの方向それぞれについて独立に保存則が出てくるんですね。

🟡 リナ: その通り。そこで エネルギー・運動量テンソル (energy-momentum tensor) \(T^\mu_{\ \nu}\) を定義するわ:

\[ \boxed{T^\mu_{\ \nu} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \partial_\nu\phi - \delta^\mu_{\ \nu} \, \mathcal{L}} \tag{3.30} \]

保存則は:

\[ \partial_\mu T^\mu_{\ \nu} = 0 \tag{3.31} \]

⚪ メイ: \(\nu\) は 4 つの値を取れるから、保存則が 4 本あるのね。この 4 本はそれぞれ何の保存則に対応するの?

🟡 リナ: いい質問ね。「量子力学」編 第 26 章で学んだ対応を思い出して——時間並進がエネルギー保存、空間並進が運動量保存だったわね。ここでも同じで、\(\nu = 0\) が時間並進に対応するエネルギー保存、\(\nu = 1, 2, 3\) が空間並進に対応する運動量保存よ。式 (3.30) の添え字 \(\nu\) を計量テンソル \(\eta^{\nu\alpha}\) で上げて、両方上添字のテンソル \(T^{\mu\nu} = \eta^{\nu\alpha}T^\mu_{\ \alpha}\) を定義すると:

具体的に各項を見ていくわ。第 1 項は \(\eta^{\nu\alpha}\partial_\alpha\phi = \partial^\nu\phi\)(添え字を上げる定義そのもの)。第 2 項は \(\eta^{\nu\alpha}\delta^\mu_{\ \alpha} = \eta^{\nu\mu}\)。計量テンソルは対称(\(\eta^{\nu\mu} = \eta^{\mu\nu}\))だから、結局 \(\eta^{\mu\nu}\) になるの。したがって:

\[ T^{\mu\nu} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, \partial^\nu\phi - \eta^{\mu\nu}\mathcal{L} \tag{3.32} \]

🔵 カイ: 1 つの Lagrangian からエネルギーと運動量の保存が 4 本まとめて出てくるのか……。

🟡 リナ: なお、この正準エネルギー・運動量テンソルは一般には対称(\(T^{\mu\nu} = T^{\nu\mu}\))とは限らないわ。Klein-Gordon 場では式 (3.36) を見れば \(T^{\mu\nu} = \partial^\mu\phi\,\partial^\nu\phi - \eta^{\mu\nu}\mathcal{L}\) で、第 1 項は \(\mu\)\(\nu\) を入れ替えても同じ(スカラーの積は順序によらない)、第 2 項も \(\eta^{\mu\nu} = \eta^{\nu\mu}\) だから対称になるの。でもスピンを持つ場では非対称になることがある。対称化の手続き(Belinfante の方法)については後の章で必要に応じて触れるわね。

具体的に:

  • \(\nu = 0\) のとき\(\partial_\mu T^{\mu 0} = 0\) → エネルギー保存

Klein-Gordon 場(式 (3.8))で \(\mu = \nu = 0\) とすると、式 (3.32) は \(T^{00} = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)}\,\partial^0\phi - \eta^{00}\mathcal{L}\) になるわ。ここで \(\partial^0 = \eta^{00}\partial_0 = (+1)\partial_0 = \frac{\partial}{\partial t}\) だから \(\partial^0\phi = \dot{\phi}\)。また式 (3.10b) から \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)} = \partial^0\phi = \dot{\phi}\)、そして \(\eta^{00} = +1\)。したがって:

\[ \text{エネルギー密度} = T^{00} = \dot{\phi}\cdot\dot{\phi} - \mathcal{L} = \dot{\phi}^2 - \mathcal{L} \tag{3.33} \]

式 (3.9) の \(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\dot{\phi}^2 - \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 - \frac{1}{2}m^2\phi^2\) を代入すると \(T^{00} = \frac{1}{2}\dot{\phi}^2 + \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 + \frac{1}{2}m^2\phi^2\) になるわ。すべて二乗の形だからエネルギー密度が非負であることが分かるわね。

  • \(\nu = i\) (\(i = 1,2,3\)) のとき\(\partial_\mu T^{\mu i} = 0\) → 運動量保存
\[ \text{運動量密度} = T^{0i} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)} \, \partial^i\phi - \eta^{0i}\mathcal{L} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{\phi}} \, \partial^i\phi \tag{3.34} \]

2 つ目の等号では \(\eta^{0i} = 0\)(Minkowski 計量の非対角成分はゼロ)を使ったわ。

ここで添え字を上げる操作を確認しておくわ。\(\partial^i\phi = \eta^{i\mu}\partial_\mu\phi\) で、右辺は \(\mu\) について和を取るの(\(\mu\) が上と下に 1 回ずつ現れているから Einstein の縮約規則が適用される)。展開すると \(\mu = 0\) の項は \(\eta^{i0}\partial_0\phi = 0\)(計量の非対角成分はゼロ)、\(\mu = j\) (\(j \neq i\)) の項も \(\eta^{ij} = 0\) で消える。残るのは \(\mu = i\) の項だけで \(\eta^{ii}\partial_i\phi = (-1)\partial_i\phi = -\partial_i\phi\)

つまり、私たちの符号規約 \(\eta^{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) では、空間成分の添字を上げると符号が反転する\(\partial^i = -\partial_i\)。時間成分は \(\partial^0 = \eta^{00}\partial_0 = +\partial_0\) で符号が変わらないの。この非対称性は計量の符号規約から来ているだけで、物理的な意味はないわ。

ここで「\(\eta^{ii}\) って \(i\) で和を取らないの?」と思うかもしれないわね。\(T^{0i}\)\(i\) は自由添字(「この成分を求めたい」と指定している添字)だから和は取らないの。\(\eta^{ii}\) は「計量テンソルの \((i, i)\) 対角成分をそのまま読む」という意味——たとえば \(i = 1\) なら \(\eta^{11} = -1\) よ。

したがって Klein-Gordon 場では \(T^{0i} = \dot{\phi}\,\partial^i\phi = \dot{\phi}\cdot(-\partial_i\phi) = -\dot{\phi}\,\partial_i\phi\) よ(\(\partial^i = -\partial_i\) を使った)。全運動量は \(P^i = \int d^3x\,T^{0i} = -\int d^3x\,\dot{\phi}\,\partial_i\phi\) となるわ。

🔵 カイ: マイナス符号がついていますけど、運動量が負ってことですか?

🟡 リナ: いい質問。結論を先に言うと、符号は正しいの。混乱の原因は「添字が上か下か」なのよ。

式 (3.32) から \(T^{0i} = \dot{\phi}\,\partial^i\phi\) で、\(\partial^i = -\partial_i\) だから \(T^{0i} = -\dot{\phi}\,\partial_i\phi\) と書ける。マイナスが出るのは計量の符号規約(\(\eta^{ii} = -1\))の反映であって、物理的な問題ではないわ。

1 次元で具体的に確認しておくわ。\(\phi = A\cos(Et - px)\) なら \(\dot{\phi} = -AE\sin(Et - px)\)\(\partial_1\phi = Ap\sin(Et - px)\) だから \(T^{01} = -\dot{\phi}\,\partial_1\phi = A^2 Ep\sin^2(Et - px)\)。時間平均すると \(\langle T^{01}\rangle = \frac{1}{2}A^2 Ep > 0\)。波は \(+x\) 方向に進んでいるから、運動量密度 \(T^{01}\) が正——物理的に正しい方向を向いているわ。

🔵 カイ: なるほど、\(T^{0i}\) の式にマイナスがついていても、具体的に計算すると波の進行方向に正の値が出るんですね。計量の符号規約が途中で帳尻を合わせてくれると。

⚪ メイ: 反変成分 \(P^i\) で物理的な方向を読み取ればいいのね。

🟡 リナ: 符号の話はこのくらいにして、式 (3.32) の構造をもう少し見てみましょう。\(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\partial^\nu\phi - \eta^{\mu\nu}\mathcal{L}\)\(\mu = \nu = 0\) とすると \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}}\dot{\phi} - \mathcal{L}\) になるわね。この形、見覚えない?

🔵 カイ: あ! それって \(p\dot{q} - L\) という Hamiltonian の定義と同じ構造ですね! 量子力学で Hamiltonian を学んだとき、\(H = p\dot{q} - L\) って出てきましたよね。

🟡 リナ: 鋭い! まさにその通りで、\(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}}\) が粒子力学の「運動量 \(p = \frac{\partial L}{\partial\dot{q}}\)」に対応するの。だから \(T^{00} = \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}}\dot{\phi} - \mathcal{L}\)\(p\dot{q} - L\) の場版ね。\(T^{00}\) を全空間で積分したものが系の全エネルギー(Hamiltonian)に対応するの。一般に:

\[ H = \int d^3x \; T^{00} = \int d^3x \left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{\phi}} \, \dot{\phi} - \mathcal{L}\right) \tag{3.35} \]

Klein-Gordon 場では \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\phi}} = \dot{\phi}\) だから、\(T^{00} = \dot{\phi}^2 - \mathcal{L}\) になるわ。


Klein-Gordon 場のエネルギー・運動量テンソル

🟡 リナ: 式 (3.8) の Klein-Gordon Lagrangian で具体的に計算してみましょう。\(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \partial^\mu\phi\) だったから、先ほどの式 (3.32) に代入すると:

\[ T^{\mu\nu} = \partial^\mu\phi \, \partial^\nu\phi - \eta^{\mu\nu}\mathcal{L} \tag{3.36} \]

エネルギー密度 \(T^{00}\) は式 (3.33) で既に計算したわね:

\[ T^{00} = \frac{1}{2}\dot{\phi}^2 + \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2 + \frac{1}{2}m^2\phi^2 \tag{3.37a} \]
\[ T^{0i} = -\dot{\phi}\,\partial_i\phi \tag{3.37b} \]

🔵 カイ: 3 つの項が全部二乗の形になっていますね。これって何か意味があるんですか?

🟡 リナ: いい着眼点ね。すべて二乗だから、エネルギー密度 \(T^{00}\) は常に非負——つまりエネルギーが下に有界なの。これは理論の安定性にとって非常に重要よ。さっき Ostrogradsky の不安定性の話をしたでしょう? あのとき問題だったのはエネルギーが下に有界でないことだった。Klein-Gordon 場ではちゃんと \(T^{00} \geq 0\) になっていて、物理的に健全な理論になっているわ。

⚪ メイ: エネルギー密度が非負であることが理論の安定性を保証している——底のない穴に落ちる心配がないということね。

✅ 理解度チェック: 時空並進不変性から Noether の定理で導かれる保存量は何でしょうか? また、対応する保存カレントの添え字構造を述べてください。

答え

エネルギー・運動量テンソル \(T^\mu_{\ \nu}\) が保存カレントで、\(\partial_\mu T^\mu_{\ \nu} = 0\)\(\nu = 0\) がエネルギー保存、\(\nu = 1,2,3\) が運動量保存に対応する。保存量は \(P_\nu = \int d^3x \, T^{0}_{\ \nu}\) で、\(P_0\) が全エネルギー、\(P_i\) が全運動量。

📝 練習問題:


3.5 具体例② — 内部対称性と電荷保存

🟡 リナ: 次は、時空の変換ではなく、場自体の変換——内部対称性 (internal symmetry)——を考えるわ。

🔵 カイ: 「内部対称性」って何ですか?

🟡 リナ: 時空座標はそのままにして、場の「値」だけを変換する対称性のこと。最も簡単な例は、複素スカラー場の位相回転よ。

複素スカラー場の Lagrangian

🟡 リナ: 複素スカラー場 (complex scalar field) \(\phi(x)\) を考えるわ。これは実部と虚部を持つ場で、\(\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 + i\phi_2)\) と書ける。Lagrangian 密度は:

\[ \mathcal{L} = \partial_\mu \phi^* \, \partial^\mu \phi - m^2 \phi^* \phi \tag{3.38} \]

ここで \(\phi^*(x)\)\(\phi(x)\) の複素共役 (complex conjugate)——つまり各時空点で \(\phi(x) = a(x) + ib(x)\) の虚部の符号を反転させた \(\phi^*(x) = a(x) - ib(x)\) よ。

⚪ メイ: 実スカラー場の Lagrangian (3.8) と比べると、\(\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi\)\(\partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi\) に、\(\frac{1}{2}m^2\phi^2\)\(m^2\phi^*\phi\) に置き換わっているのね。\(\frac{1}{2}\) が消えているのはなぜ?

🟡 リナ: いい質問ね。\(\frac{1}{2}\) が消えている理由は、実場 2 つ分に分解すると分かるわ。\(\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 + i\phi_2)\) を代入してみましょう。まず質量項を計算するわ。\(\phi^*\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 - i\phi_2) \cdot \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 + i\phi_2) = \frac{1}{2}(\phi_1^2 + \phi_2^2)\)。微分項も同様に \(\partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi = \frac{1}{2}(\partial_\mu\phi_1\,\partial^\mu\phi_1 + \partial_\mu\phi_2\,\partial^\mu\phi_2)\)(交差項 \(\phi_1\phi_2\)\(i\)\(-i\) で打ち消し合う)。したがって:

\[ \mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi_1\,\partial^\mu\phi_1 + \frac{1}{2}\partial_\mu\phi_2\,\partial^\mu\phi_2 - \frac{1}{2}m^2\phi_1^2 - \frac{1}{2}m^2\phi_2^2 \]

同じ質量 \(m\) を持つ 2 つの実スカラー場の Lagrangian になるわ。つまり複素スカラー場 1 つは、実スカラー場 2 つ分の自由度を持っているの。

🔵 カイ: なるほど、\(\frac{1}{2}\) がないのは「中に実場が 2 つ入っている」からなんですね。

\(U(1)\) 位相変換

🟡 リナ: さて、この Lagrangian は次の変換に対して不変よ。図 3.5「\(U(1)\) 位相変換の幾何学的イメージ」に位相回転の幾何学的イメージを描いたから見て——複素平面上で「大きさを変えずに角度だけ回す」操作だと分かるわ。

U(1)位相変換の幾何学的イメージ

図 3.5: \(U(1)\) 位相変換の幾何学的イメージ。複素平面上で場 \(\phi\)\(e^{i\alpha}\) をかけると、大きさ \(|\phi|\) を保ったまま位相だけが角度 \(\alpha\) だけ回転する。Lagrangian は \(|\phi|^2 = \phi^*\phi\) にしか依存しないため、この変換のもとで不変であり、Noether の定理から電荷保存が導かれる。

\[ \phi(x) \to e^{i\alpha}\phi(x), \qquad \phi^*(x) \to e^{-i\alpha}\phi^*(x) \tag{3.39} \]

ここで \(\alpha\) は定数の実パラメータ。

🔵 カイ: \(\phi\) の大きさは変えずに、位相だけを回す変換ですね。\(|\phi|^2 = \phi^*\phi\) は変わらないから、\(m^2\phi^*\phi\) の項は不変。\(\partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi\) も……あ、でも微分がついている項は \(\partial_\mu\)\(e^{i\alpha}\) に作用しないか心配です。

🟡 リナ: いい注意ね。でも \(\alpha\) は定数(\(x\) に依存しない)だから \(\partial_\mu(e^{i\alpha}\phi) = e^{i\alpha}\partial_\mu\phi\) と、\(e^{i\alpha}\) は微分の外に出せるの。したがって \(\partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi \to e^{-i\alpha}\partial_\mu\phi^* \cdot e^{i\alpha}\partial^\mu\phi = \partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi\)。確かに不変ね。

この変換は \(U(1)\) 対称性 と呼ばれるわ。\(U(1)\) というのは「絶対値 1 の複素数 \(e^{i\alpha}\) の集まり」のこと。これらは掛け算について閉じている(\(e^{i\alpha_1} \times e^{i\alpha_2} = e^{i(\alpha_1 + \alpha_2)}\) でまた絶対値 1 の複素数になる)し、逆元もある(\(e^{-i\alpha}\) を掛ければ 1 に戻る)し、単位元(何もしない変換 \(e^{i \cdot 0} = 1\))もある。こういう「演算について閉じていて(2 つの要素を組み合わせても集まりの外に出ない)、何もしない操作(単位元)があり、どの操作にも元に戻す操作(逆元)がある集まり」を数学では (group) と呼ぶの。第 2 章で出てきた Lorentz 群も同じ意味——Lorentz 変換を 2 回続けてもまた Lorentz 変換になる(閉じている)、何もしない変換がある(単位元)、どの変換にも逆変換がある(逆元)、という構造よ。\(U(1)\)\(U\) は unitary(ユニタリ)の頭文字で、\((1)\)\(1 \times 1\) 行列——つまりただの複素数——を意味しているわ。

保存カレントの導出

🟡 リナ: Noether の定理を適用しましょう。微小変換(\(\alpha\) が小さい)では \(e^{i\alpha} \approx 1 + i\alpha\) だから:

\[ \delta\phi = i\alpha\,\phi, \qquad \delta\phi^* = -i\alpha\,\phi^* \tag{3.40} \]

複素場の場合、\(\phi\)\(\phi^*\) を独立な場として扱うの。「\(\phi^*\)\(\phi\) で決まるのに独立?」と思うかもしれないけれど、\(\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 + i\phi_2)\) と書いたとき、実部 \(\phi_1\) と虚部 \(\phi_2\) は確かに独立な 2 つの実場でしょう? \(\phi\)\(\phi^*\)\(\phi_1\)\(\phi_2\) の一次結合だから、「\(\phi\)\(\phi^*\) で変分を取る」のは「\(\phi_1\)\(\phi_2\) で変分を取る」のと同じ情報を与えるの——変数の取り方が違うだけで、独立な自由度の数は同じ 2 つよ。保存カレントは式 (3.22) の一般化よ。式 (3.22) は場が 1 つ(\(\phi\) だけ)の場合だったけれど、今は \(\phi\)\(\phi^*\) という 2 つの独立な場があるわね。場が複数ある場合を考えてみましょう。式 (3.17) の多変数版を書くと、\(\delta\mathcal{L} = \sum_a\left[\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi_a}\delta\phi_a + \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi_a)}\delta(\partial_\mu\phi_a)\right]\) になるの——各場からの寄与を全部足し合わせるだけよ。これは多変数関数の全微分で、変数が \(\phi_1, \phi_2, \ldots\) と複数あるときに各変数の偏微分×変化量を足すのと同じ。たとえば 2 変数関数 \(f(u, v)\) の全微分が \(df = \frac{\partial f}{\partial u}du + \frac{\partial f}{\partial v}dv\) と書けるのと全く同じ構造よ——\(u\)\(v\)\(\phi\)\(\phi^*\) に対応しているの。

この多変数版に対して式 (3.18)〜(3.21) と全く同じ手順を繰り返すわ。各場 \(\phi_a\) について部分積分を行い、Euler-Lagrange 方程式(各場ごとに独立に成り立つ)で消去する。ポイントは、\(\phi\) の Euler-Lagrange 方程式は \(\phi\) の変分から出て、\(\phi^*\) の方程式は \(\phi^*\) の変分から出る——それぞれ独立に消えるから、残るのは各場の全微分項の和だけ。結果として保存カレントは各場の寄与の和になるの:\(j^\mu = \sum_a \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi_a)} D\phi_a\)。今の場合は \(\phi_a = \phi, \phi^*\) の 2 つだから:

\[ j^\mu = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} \, D\phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi^*)} \, D\phi^* \tag{3.40a} \]

ここで \(D\phi = \delta\phi/\alpha = i\phi\)\(D\phi^* = \delta\phi^*/\alpha = -i\phi^*\)(それぞれ式 (3.40) の \(\delta\phi\)\(\delta\phi^*\) から共通のパラメータ \(\alpha\) を割った残り)。

🟡 リナ: では式 (3.40a) に具体的な偏微分を代入していくわ。\(\mathcal{L} = \partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi - m^2\phi^*\phi\) で、\(\phi\)\(\phi^*\) を独立に扱うのだったわね。

まず \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\) を求めるわ。ここで大事なのは、\(\phi\) で微分するときは \(\phi^*\) を「固定された別の変数」として扱うということ——ちょうど \(f(x, y) = xy\)\(x\) で偏微分するとき \(y\) を定数扱いして \(\partial f/\partial x = y\) とするのと同じよ。

🔵 カイ: でも \(\phi^*\)\(\phi\) の複素共役なんだから、\(\phi\) が決まれば \(\phi^*\) も決まりますよね? 本当に「独立」なんですか?

🟡 リナ: いい質問。さっき確認したように、\(\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 + i\phi_2)\) と書けば \(\phi^* = \frac{1}{\sqrt{2}}(\phi_1 - i\phi_2)\) で、実質的には \(\phi_1\)\(\phi_2\) という 2 つの独立な実変数で変分を取っているのと同じなの。「\(\phi\)\(\phi^*\) で独立に微分する」というのは、「\(\phi_1\)\(\phi_2\) で独立に微分する」ことを、変数を取り替えて書き直しただけ——数学的に完全に等価な操作よ。だから安心して \(\phi^*\) を定数扱いして \(\phi\) で微分していいの。

計量テンソルを明示すると \(\partial_\alpha\phi^*\,\partial^\alpha\phi = \eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi^*\,\partial_\beta\phi\) よ。\(\partial_\mu\phi\) で微分するとき、\(\partial_\alpha\phi^*\) は「別の変数」だから定数扱い。実スカラー場のとき(式 (3.10b))と同じ要領で、\(\partial_\beta\phi\)\(\partial_\mu\phi\) で微分すると Kronecker デルタ \(\delta^\mu_\beta\) が出て:

\[ \frac{\partial}{\partial(\partial_\mu\phi)}\left[\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi^*\,\partial_\beta\phi\right] = \eta^{\alpha\mu}\partial_\alpha\phi^* = \partial^\mu\phi^* \]

実スカラー場のとき(式 (3.10b))は \(\frac{1}{2}\eta^{\alpha\beta}\partial_\alpha\phi\,\partial_\beta\phi\)\(\frac{1}{2}\) がついていたから、\(\phi\)\(\phi\) が同じ変数で 2 回現れて \(\frac{1}{2} \times 2 = 1\) になったの。今回は \(\phi^*\)\(\phi\)別の変数だから、\(\partial_\mu\phi\) で微分すると \(\partial_\beta\phi\) の方だけが反応して 1 回分しか出ない——でも最初から \(\frac{1}{2}\) がないから、結果は同じく係数 1 で \(\partial^\mu\phi^*\) になるのよ。

同様に \(\partial_\mu\phi^*\) で微分すると \(\partial^\mu\phi\) が残る:

\[ \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi)} = \partial^\mu\phi^*, \qquad \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu \phi^*)} = \partial^\mu\phi \tag{3.41} \]

🔵 カイ: 実スカラー場のとき(式 (3.10b))は \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)} = \partial^\mu\phi\) だったのに、今度は \(\partial^\mu\phi^*\) が出てくるんですね。「相方」の場が残るのが面白い。

🟡 リナ: いい気づきね。複素場では \(\phi\)\(\phi^*\) が「ペア」になっているから、一方で微分すると他方が残るの。では式 (3.40a) に代入するわ。\(D\phi = i\phi\)\(D\phi^* = -i\phi^*\) だったわね:

\[ j^\mu = \underbrace{\partial^\mu\phi^*}_{\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}} \cdot \underbrace{(i\phi)}_{D\phi} + \underbrace{\partial^\mu\phi}_{\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi^*)}} \cdot \underbrace{(-i\phi^*)}_{D\phi^*} = i\phi\,\partial^\mu\phi^* - i\phi^*\,\partial^\mu\phi = i(\phi \, \partial^\mu\phi^* - \phi^* \, \partial^\mu\phi) \tag{3.42} \]

(2 つ目の等号では、スカラー同士の積の順序を入れ替えただけよ——\(\partial^\mu\phi^* \cdot i\phi = i\phi \cdot \partial^\mu\phi^*\) ね。)

最後の等号では \(i\) を共通因子として括り出しただけよ。

なお、慣習によっては全体に \(-1\) を掛けた \(j^\mu = i(\phi^*\partial^\mu\phi - \phi\,\partial^\mu\phi^*)\) を保存カレントとして採用し、粒子の電荷が正になるようにすることもあるわ。Noether カレントの全体的な規格化(全体に定数を掛けること)は任意だから、どちらも正しいの。第 4 章で量子化するとき、粒子の電荷が \(+1\) になるように規格化を選び直すから、今は「符号の選び方に自由度がある」とだけ覚えておいて。

⚪ メイ: 計算が追えたわ。2 つの場からの寄与を足して、\(i\) でまとめるとこの形になるのね。

🔵 カイ: これが電荷に対応する保存カレントですか? でも \(j^0\) の中に \(\dot{\phi}^*\)\(\dot{\phi}\) が入っていて、符号が逆になっているのが気になります。正の電荷と負の電荷の両方が出てくるってことですか?

🟡 リナ: その通り! この \(j^\mu\)\(\partial_\mu j^\mu = 0\) を満たし、対応する保存量:

\[ Q = \int d^3x \; j^0 = i\int d^3x \; (\phi\,\dot{\phi}^* - \phi^*\,\dot{\phi}) \tag{3.43} \]

電荷 (electric charge) に対応するの。「量子力学」編 第 26 章で学んだ「\(U(1)\) 対称性 → 電荷保存」の場版がまさにこれよ。量子力学では波動関数の位相変換 \(\psi \to e^{i\alpha}\psi\) が確率保存と結びついていたけれど、場の理論ではそれが電荷保存として現れるの。

✅ 理解度チェック: 複素スカラー場の \(U(1)\) 対称性から導かれる保存カレント \(j^\mu\) の物理的意味は何でしょうか?

答え

\(j^\mu\) は電磁気学における電荷密度と電流密度に対応する保存カレントである。\(j^0\) を全空間で積分した保存量 \(Q = \int d^3x\,j^0\) が電荷に対応し、\(\partial_\mu j^\mu = 0\)(連続の方程式)が電荷保存則を表す。

⚪ メイ: なるほど、量子力学のときと同じ構造が場の言葉で再現されたのね。\(U(1)\) 対称性があるから保存量が存在し、それが電荷だと。

🟡 リナ: 素晴らしい接続ね。そして重要なのは、実スカラー場には \(U(1)\) 対称性がないということ。実場は \(\phi = \phi^*\) だから位相回転ができない。だから実スカラー場が記述する粒子は電荷を持たない。複素場が必要なの。

🔵 カイ: なるほど! 反粒子の存在と関係していますか? 「量子力学」編 第 27 章で「相対論的な方程式には必ず反粒子が出てくる」と習いましたけど……

🟡 リナ: 鋭い直感ね。実際、複素場は粒子と反粒子の両方を記述できるの。\(Q > 0\) の状態が粒子、\(Q < 0\) の状態が反粒子に対応する。古典論の段階では「\(Q\) が正にも負にもなれる」ということしか言えないけれど、第 4 章で量子化すると、正の電荷を持つ粒子と負の電荷を持つ反粒子が明確に区別される——そこで改めて詳しく見ていくわ。

🔵 カイ: 楽しみです。ということは、もし宇宙に \(U(1)\) 対称性がなかったら、電荷という概念自体が存在しないってことですか? でも逆に、「なぜ宇宙は \(U(1)\) 対称性を持っているのか」は誰が決めたんですか?

🟡 リナ: その直感は本質を突いているわ。実際、標準模型では \(U(1)\) だけでなく \(SU(2)\)\(SU(3)\) といったより大きな対称性群が、弱い力や強い力に対応する「荷」を定義しているの。対称性が物質の分類と相互作用の構造を決めている——これは現代物理学の中心的な考え方よ。詳しくは第 19 章以降で見ていくわ。

🔵 カイ: 対称性が「力の種類」を決めているんですね……。でも、なぜ自然界は \(U(1)\) とか \(SU(2)\) とか \(SU(3)\) という特定の対称性を「選んでいる」んですか? それを説明する、さらに深い理論があるんですか?

🟡 リナ: そう。それは現代物理学の最前線の問いのひとつよ。大統一理論や弦理論がその答えを目指しているけれど、まだ決着はついていないの。今は「対称性を仮定すれば保存量と力の構造が決まる」という枠組みを使いこなすことに集中しましょう。

🔵 カイ: つまり、今の物理学は「対称性があるとこうなる」は分かっているけど、「なぜその対称性なのか」はまだ分かっていない——入力と出力の片方だけが分かっている状態なんですね。

✅ 理解度チェック: 実スカラー場の Lagrangian \(\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi - \frac{1}{2}m^2\phi^2\)\(U(1)\) 対称性を持つでしょうか? 理由を述べてください。

答え

持たない。\(U(1)\) 変換 \(\phi \to e^{i\alpha}\phi\) を施すと \(\phi\) は複素数になってしまい、実スカラー場という前提に矛盾する。実場では \(\phi = \phi^*\) だから位相回転の自由度がない。したがって \(U(1)\) 対称性がなく、対応する保存電荷も存在しない。

📝 練習問題:


3.6 代表的な場の Lagrangian カタログ

🟡 リナ: ここまでで Euler-Lagrange 方程式と Noether の定理という 2 つの強力な道具を手に入れたわね。最後に、場の量子論で主役を務める 3 つの場の Lagrangian を一覧にしておくわ。量子化は次章以降で行うから、今日は「こういう Lagrangian から出発する」ということだけ確認しておいて。図 3.6「代表的な場のLagrangianカタログ」に全体像をまとめてあるわ。

代表的な場のLagrangianカタログ

図 3.6: 代表的な場のLagrangianカタログ。Klein-Gordon 場(スピン 0)、Dirac 場(スピン 1/2)、Maxwell 場(スピン 1)の Lagrangian カタログ。自然界の基本粒子はこの 3 種類のいずれかで記述される。


Klein-Gordon 場(スピン 0)

🟡 リナ: まずは今日すでに使った Klein-Gordon 場。スピン 0 の粒子(スカラー粒子)を記述するわ。

実スカラー場:

\[ \mathcal{L}_{\text{KG}} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi - \frac{1}{2}m^2\phi^2 \tag{3.44} \]

運動方程式:\((\partial_\mu\partial^\mu + m^2)\phi = 0\)(Klein-Gordon 方程式)

複素スカラー場:

\[ \mathcal{L}_{\text{complex}} = \partial_\mu\phi^*\,\partial^\mu\phi - m^2\phi^*\phi \quad \text{(式 (3.38) の再掲)} \]

🔵 カイ: Higgs (ヒッグス) 粒子がスカラー粒子ですよね。

🟡 リナ: そう。Higgs 場は複素スカラー場の一種で、この Lagrangian の拡張版で記述されるわ。正確にはもっと大きな対称性(\(SU(2)\) という群)のもとで変換する構造を持っているの——詳しくは第 19 章で扱うわね。


Dirac 場(スピン 1/2)

🟡 リナ: 次は Dirac (ディラック) 場。スピン 1/2 の粒子——電子、クォークなどの fermion (フェルミオン) を記述するわ。

\[ \mathcal{L}_{\text{Dirac}} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi \tag{3.45} \]

🔵 カイ: うわ、記号がいっぱい……。\(\psi\) は何ですか? \(\bar{\psi}\) は? \(\gamma^\mu\) は?

🟡 リナ: 一つずつ説明するわね。

  • \(\psi(x)\)Dirac スピノル (spinor):4 成分の列ベクトル(複素数値)。スカラー場が各点にひとつの数を割り当てるのに対し、スピノル場は各点に 4 つの複素数を割り当てる。「量子力学」編 第 27 章で学んだように、4 成分はスピンの上下(2 成分)× 粒子・反粒子(2 組)に対応しているの
  • \(\bar{\psi} \equiv \psi^\dagger \gamma^0\)Dirac 共役 (Dirac adjoint):ここで \(\psi^\dagger\)\(\psi\)エルミート共役——4 成分の列ベクトル \(\psi\) を横に倒して行ベクトルにし(これを「転置」と呼ぶ)、さらに各成分の複素共役を取ったもの——よ。たとえば \(\psi = \begin{pmatrix} a \\ b \\ c \\ d \end{pmatrix}\) なら \(\psi^\dagger = (a^*, b^*, c^*, d^*)\) ね。それに \(\gamma^0\) を右から掛けたのが \(\bar{\psi}\)。なぜ単なる \(\psi^\dagger\) ではなく \(\psi^\dagger\gamma^0\) を使うかというと、こうすることで \(\bar{\psi}\psi\) が Lorentz スカラーになるの(\(\psi^\dagger\psi\) だと Lorentz 変換で値が変わってしまう)
  • \(\gamma^\mu\) (\(\mu = 0,1,2,3\)) は ガンマ行列 (gamma matrices):\(4 \times 4\) の行列。普通の数なら \(ab = ba\) だけれど、行列は一般に \(AB \neq BA\)。ガンマ行列は 反交換関係 (anticommutation relation) を満たすの。記号を定義しておくわね:2 つの行列 \(A\), \(B\) に対して \(\{A, B\} \equiv AB + BA\) と書き、これを反交換関係と呼ぶの。量子力学で学んだ交換関係 \([A, B] = AB - BA\) は「差」を取ったけれど、反交換関係は「和」を取る。なぜ「和」なのかは、すぐ下で確認するわ——Dirac 方程式から Klein-Gordon 方程式を導くとき、\(\gamma^\mu\gamma^\nu\partial_\mu\partial_\nu\) の計算で対称部分(= 反交換関係)だけが生き残るの。つまり反交換関係は「Dirac 方程式が正しい分散関係を再現するための条件」として自然に要請されるのよ。ガンマ行列が満たす条件は:\(\{\gamma^\mu, \gamma^\nu\} = \gamma^\mu\gamma^\nu + \gamma^\nu\gamma^\mu = 2\eta^{\mu\nu}I_4\)。左辺は \(4\times 4\) 行列同士の積の和だから \(4\times 4\) 行列になるわね。右辺の \(\eta^{\mu\nu}\) はただの数(計量テンソルの \(\mu\nu\) 成分)で、それに \(4\times 4\) 単位行列 \(I_4\) を掛けることで行列の等式にしているの。たとえば \(\mu = \nu = 0\) なら \(\eta^{00} = +1\) だから \((\gamma^0)^2 = I_4\)\(\gamma^0\) を 2 回掛けると単位行列)。\(\mu = 0, \nu = 1\) なら \(\eta^{01} = 0\) だから \(\gamma^0\gamma^1 + \gamma^1\gamma^0 = 0\)\(\gamma^0\)\(\gamma^1\) は「反交換する」——掛ける順番を入れ替えると符号が反転する)。この条件がなぜ必要かを確認しておくわ。

⚪ メイ: つまりガンマ行列の反交換関係は、Dirac 方程式が相対論的な分散関係 \(E^2 = |\mathbf{p}|^2 + m^2\) を再現するための整合性条件なのね。

初読ガイド: 以下の計算は技術的な確認よ。初読では「反交換関係 \(\{\gamma^\mu, \gamma^\nu\} = 2\eta^{\mu\nu}\) がないと、Dirac 方程式から Klein-Gordon 方程式に帰着できない」というポイントだけ押さえて、第 5 章に進んでも大丈夫。

🟡 リナ: Dirac 方程式 \((i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0\) の両辺に左から \((i\gamma^\nu\partial_\nu + m)\) を掛けてみるの。展開すると \((i\gamma^\nu\partial_\nu + m)(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = (i\gamma^\nu\partial_\nu)(i\gamma^\mu\partial_\mu)\psi + m(i\gamma^\mu\partial_\mu)\psi - (i\gamma^\nu\partial_\nu)(m)\psi - m^2\psi\)。第2項と第3項は \(im\gamma^\mu\partial_\mu\psi - im\gamma^\nu\partial_\nu\psi\) だけれど、\(\mu\)\(\nu\) もダミー添字(0〜3で和を取る)だから同じ値——打ち消し合ってゼロになるの。残るのは \((-\gamma^\nu\gamma^\mu\partial_\nu\partial_\mu - m^2)\psi = 0\) よ。

ここでポイントは、\(\partial_\nu\partial_\mu\)\(\nu\)\(\mu\) の入れ替えに対して対称(\(\partial_\nu\partial_\mu = \partial_\mu\partial_\nu\))だということ。対称なものと掛けて和を取るとき、反対称な部分は消えるの。簡単な例で確認しておくわ。\(a_{12} = -a_{21}\)(反対称)で \(b_{12} = b_{21}\)(対称)のとき、\(\sum_{i,j} a_{ij}b_{ij} = a_{12}b_{12} + a_{21}b_{21} = a_{12}b_{12} + (-a_{12})b_{12} = 0\) になるでしょう?

🔵 カイ: なるほど、対称なものと反対称なものを掛けて足すとゼロになる——だからガンマ行列の反対称部分は \(\partial_\nu\partial_\mu\) と縮約するとき消えるんですね。

🟡 リナ: その通り。だから \(\gamma^\nu\gamma^\mu\partial_\nu\partial_\mu\) を計算するとき、\(\gamma^\nu\gamma^\mu\) の「反対称な部分」は対称な \(\partial_\nu\partial_\mu\) と掛けて和を取ると消えて、「対称な部分」だけが生き残るの。任意の量は対称部分と反対称部分に分解できるわ:\(\gamma^\nu\gamma^\mu = \frac{1}{2}\underbrace{(\gamma^\nu\gamma^\mu + \gamma^\mu\gamma^\nu)}_{\text{対称部分}} + \frac{1}{2}\underbrace{(\gamma^\nu\gamma^\mu - \gamma^\mu\gamma^\nu)}_{\text{反対称部分}}\)。反対称部分は上の理屈で消えるから、残るのは対称部分だけ——つまり \(\gamma^\nu\gamma^\mu\partial_\nu\partial_\mu = \frac{1}{2}(\gamma^\nu\gamma^\mu + \gamma^\mu\gamma^\nu)\partial_\nu\partial_\mu = \frac{1}{2}\{\gamma^\nu, \gamma^\mu\}\partial_\nu\partial_\mu\) と書けるわ。

ここで \(\{\gamma^\nu, \gamma^\mu\} = 2\eta^{\nu\mu}\) を使えば \(\eta^{\nu\mu}\partial_\nu\partial_\mu = \Box\) が出てくるの。すると \(-(\Box + m^2)\psi = 0\) ——Klein-Gordon 方程式が再現されるの。「量子力学」編 第 27 章で確認した通りね。

つまり、ガンマ行列の反交換関係は「Dirac 方程式の各成分が Klein-Gordon 方程式を満たす」ことを保証するための条件なのよ。第 5 章で Dirac 場を本格的に扱うとき、改めて丁寧に確認するわ。

🔵 カイ: 「量子力学」編 第 27 章で見た Dirac 方程式 \((i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0\) って、この Lagrangian から出てくるんですか?

🟡 リナ: 出てくるわ。確認してみましょう。複素スカラー場で \(\phi\)\(\phi^*\) を独立に扱ったのと同じ精神で、\(\psi\)\(\bar{\psi}\) を独立な場として扱うの。式 (3.45) の \(\mathcal{L}_{\text{Dirac}} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi\) をよく見て。\(\partial_\mu\)\(\psi\) にだけかかっていて、\(\bar{\psi}\) には微分がついていないわね(\(\bar{\psi}\) は左から掛かっているだけ)。

だから \(\bar{\psi}\) を「力学変数」として Euler-Lagrange 方程式 (3.7) を立ててみるわ。式 (3.7) で \(\phi_a\) の代わりに \(\bar{\psi}\) を入れると:

\[ \partial_\mu\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\bar{\psi})}\right) - \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\bar{\psi}} = 0 \]

第 1 項を見て。\(\mathcal{L}\) の中に \(\partial_\mu\bar{\psi}\) は一切現れないから、\(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\bar{\psi})} = 0\)。つまり第 1 項は消えて、方程式は単に \(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\bar{\psi}} = 0\) になるの。

🔵 カイ: Lagrangian に \(\bar{\psi}\) の微分が入っていないから、Euler-Lagrange 方程式がすごくシンプルになるんですね。

🟡 リナ: そう。そして \(\mathcal{L} = \bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi\)\(\bar{\psi}\) で微分するの。これは \(f = ax\) という式を \(a\) で微分すると \(x\) が残るのと同じ構造よ——\(\bar{\psi}\)\(\mathcal{L}\) の中で微分を受けずに 1 次で掛かっているだけだから、\(\bar{\psi}\) で微分すると残りの \((i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi\) がそのまま出てくるの。正確に言うと、\(\bar{\psi}\) は 4 成分の行ベクトルだから、各成分 \(\bar{\psi}_\alpha\) で微分する操作を行っているの。\(\mathcal{L} = \sum_{\alpha,\beta}\bar{\psi}_\alpha\, M_{\alpha\beta}\,\psi_\beta\)\(M = i\gamma^\mu\partial_\mu - m\))と書けば、\(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\bar{\psi}_\alpha} = \sum_\beta M_{\alpha\beta}\psi_\beta = [(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi]_\alpha\) ——つまり各成分ごとに「\(f = ax\)\(a\) で微分すると \(x\) が残る」のと同じことが起きて、結果は行列の形のまま \((i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0\) と書けるの:

\[ \frac{\partial \mathcal{L}_{\text{Dirac}}}{\partial \bar{\psi}} = (i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0 \tag{3.46} \]

これが Dirac 方程式よ。逆に \(\psi\) で変分を取ると \(\bar{\psi}\) に関する方程式が出るけれど、それは第 5 章で詳しく扱うわ。

🔵 カイ: Lagrangian が 1 階微分しか含んでいないのが特徴的ですね。Klein-Gordon 場は \((\partial_\mu\phi)^2\) だから実質 2 階の運動方程式になるけど、Dirac 場は最初から 1 階。

🟡 リナ: いい観察ね。Dirac が「1 階の方程式を作りたい」と考えたことが、スピノルとガンマ行列の発見につながったの。「量子力学」編 第 27 章で学んだ通りよ。


Maxwell 場(スピン 1)

🟡 リナ: 最後は Maxwell (マクスウェル) 場——電磁場よ。スピン 1 の質量ゼロの粒子(光子)を記述するわ。

\[ \mathcal{L}_{\text{Maxwell}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} \tag{3.47} \]

ここで \(F_{\mu\nu}\)電磁場テンソル (electromagnetic field tensor):

\[ F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu \tag{3.48} \]

\(A^\mu = (\Phi, \mathbf{A})\)4 元ポテンシャル (four-potential) の反変成分よ。\(\Phi\) は電磁気学で馴染みのスカラーポテンシャル、\(\mathbf{A}\) はベクトルポテンシャル。なぜ電場 \(\mathbf{E}\) や磁場 \(\mathbf{B}\) を直接使わずにポテンシャルで書くかというと、ポテンシャルの方が Lagrangian を自然に構成できるからよ——\(\mathbf{E}\)\(\mathbf{B}\) は 6 成分あるけれど、\(A^\mu\) は 4 成分で済むし、\(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\) という定義から Maxwell 方程式の半分が自動的に満たされるの。そして \(\Phi\)\(\mathbf{A}\) を 4 成分にまとめるのは、第 2 章で学んだ Lorentz 共変性を保つため——時間成分 \(\Phi\) と空間成分 \(\mathbf{A}\) は Lorentz 変換で混ざり合うから、別々に扱うと共変性が見えにくくなるわ。共変成分は \(A_\mu = \eta_{\mu\nu}A^\nu = (\Phi, -\mathbf{A})\) になるわ。

🔵 カイ: \(F_{\mu\nu}\) って電場と磁場をまとめたものですか?

🟡 リナ: そう。電磁気学で馴染みのある電場 \(\mathbf{E}\) と磁場 \(\mathbf{B}\)\(F_{\mu\nu}\) の成分として含まれているの。導出を丁寧にやるわね。

まず、電磁気学で学んだ電場の定義を思い出して。スカラーポテンシャル \(\Phi\) とベクトルポテンシャル \(\mathbf{A}\) を使うと、電場の各成分は \(E^i = -\partial_i\Phi - \frac{\partial A^i}{\partial t}\) と書けるの(高校物理では \(\mathbf{E} = -\nabla\Phi\) だけだったけれど、時間変化するベクトルポテンシャルがあると \(-\dot{\mathbf{A}}\) の項が加わるのよ)。ここで \(A^i\) は反変成分(電磁気学で通常使う \(\mathbf{A}\) の成分)で、\(\partial_i = \partial/\partial x^i\) は通常の空間偏微分よ。3 次元ユークリッド空間では上下の添字の区別がないから \(E_i = E^i\) と同一視できるわ。

一方、\(F_{\mu\nu}\) の定義 (3.48) で \(\mu = 0\), \(\nu = i\) とすると:

\[ F_{0i} = \partial_0 A_i - \partial_i A_0 \]

ここで \(A_0 = \Phi\)、そして共変成分と反変成分の関係は \(A_i = \eta_{ij}A^j = -A^i\)(空間成分は符号が反転する)。代入すると:

\[ F_{0i} = \partial_0(-A^i) - \partial_i\Phi = -\dot{A}^i - \partial_i\Phi = E^i = E_i \]

つまり \(F_{0i} = E_i\) よ。

🔵 カイ: あれ、最初に \(F_{0i} = -E_i\) と書いてある教科書も見かけますけど……

🟡 リナ: それは計量の符号規約が逆(\(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(-1,+1,+1,+1)\))の場合ね。私たちの規約 \(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) では \(F_{0i} = E_i\) になるの。まとめると:

  • \(F_{0i} = E_i\)(時間-空間成分が電場に対応)
  • \(F_{ij} = \partial_i A_j - \partial_j A_i = -(\partial_i A^j - \partial_j A^i)\)(空間-空間成分が磁場に対応)。ここで電磁気学の磁場の定義 \(\mathbf{B} = \nabla \times \mathbf{A}\) を成分で書くと \(B_k = \epsilon_{kij}\partial_i A^j\)\(\epsilon_{kij}\)「量子力学」編 第 15 章で学んだ Levi-Civita 記号)。具体的に \(k = 3\) とすれば \(B_3 = \partial_1 A^2 - \partial_2 A^1\) よ。一方 \(F_{12} = -(\partial_1 A^2 - \partial_2 A^1) = -B_3\)\(B_3 = \partial_1 A^2 - \partial_2 A^1\) だから)。同様に \(F_{13} = -(\partial_1 A^3 - \partial_3 A^1) = -(- B_2) = B_2\)\(B_2 = \partial_3 A^1 - \partial_1 A^3\) だから \(\partial_1 A^3 - \partial_3 A^1 = -B_2\))、\(F_{23} = -(\partial_2 A^3 - \partial_3 A^2) = -B_1\)\(B_1 = \partial_2 A^3 - \partial_3 A^2\) だから)。一般に \(F_{ij} = -\epsilon_{ijk}B_k\) と書けるわ

という構造よ。

🔵 カイ: 電場と磁場がひとつのテンソルにまとまっているのは、第 2 章で学んだ「Lorentz 変換で電場と磁場が混ざり合う」ことと関係しているんですね。

🟡 リナ: その通り。添字の上げ下げで符号が変わるから最初は混乱しやすいけれど、大事なのは「\(F_{\mu\nu}\) の中に電場と磁場が入っている」ということ。さて、\(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) を具体的に計算してみましょう。\(F_{\mu\nu}\) は反対称(\(F_{\mu\nu} = -F_{\nu\mu}\))だから、\(\mu = \nu\) の項はゼロ。残る独立な成分は \(F_{0i}\)(電場)と \(F_{ij}\)(磁場)の部分よ。ポイントは添字を上げるときの符号変化。たとえば \(F^{0i} = \eta^{0\alpha}\eta^{i\beta}F_{\alpha\beta}\) を計算するわ。\(\eta^{0\alpha}\)\(\alpha = 0\) のときだけ非ゼロ(\(\eta^{00} = +1\))だから、和は \(\alpha = 0\) だけ生き残って \(F^{0i} = \eta^{i\beta}F_{0\beta}\)。次に \(\eta^{i\beta}\)\(\beta = i\) のときだけ非ゼロ(\(\eta^{ii} = -1\))だから \(F^{0i} = (-1)F_{0i} = -E_i\) となるの(空間添字を上げると \(-1\) がかかる)。だから \(F_{0i}F^{0i} = E_i \times (-E_i) = -\mathbf{E}^2\)\(i\) について和を取る)。

⚪ メイ: 添字を上げるたびに空間成分に \(-1\) がかかる——これは計量の署名 \(\mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\) の直接的な効果ね。

🟡 リナ: \(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} = \sum_{\mu}\sum_{\nu}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) の二重和では、\(\mu\)\(\nu\) はそれぞれ独立に 0〜3 を走るから、\((\mu, \nu) = (0, i)\) の 3 項と \((\mu, \nu) = (i, 0)\) の 3 項は別々に現れるわ(二重カウントではないの——\(\mu\)\(\nu\) を独立に走らせているから)。\((\mu, \nu) = (i, 0)\) の寄与は反対称性 \(F_{i0} = -F_{0i}\)\(F^{i0} = -F^{0i}\) を使うと \(F_{i0}F^{i0} = (-F_{0i})(-F^{0i}) = F_{0i}F^{0i} = -\mathbf{E}^2\) で、\((0, i)\) の場合と同じ値になるの。合わせて時間-空間部分の寄与は \((-\mathbf{E}^2) + (-\mathbf{E}^2) = -2\mathbf{E}^2\)。一方、空間-空間部分を見てみましょう。添字を上げると \(F^{ij} = \eta^{i\alpha}\eta^{j\beta}F_{\alpha\beta} = (-1)(-1)F_{ij} = F_{ij}\) よ(空間添字を上げるたびに \(-1\) がかかるけれど、2回かかるから打ち消し合う)。だから \(F_{ij}F^{ij} = F_{ij}F_{ij}\)。具体的に \(i < j\) の独立成分を数えると \((i,j) = (1,2), (1,3), (2,3)\) の 3 つで、\(F_{12} = -B_3\), \(F_{13} = B_2\), \(F_{23} = -B_1\)。二重和では \(i \neq j\) の組が \((i,j)\)\((j,i)\) の 2 通りずつ現れるから \(F_{ij}F^{ij} = 2(B_3^2 + B_2^2 + B_1^2) = 2\mathbf{B}^2\) になるの。合計すると \(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} = -2\mathbf{E}^2 + 2\mathbf{B}^2 = 2(\mathbf{B}^2 - \mathbf{E}^2)\) よ。したがって Lagrangian は:

\[ \mathcal{L} = -\frac{1}{4} \times 2(\mathbf{B}^2 - \mathbf{E}^2) = \frac{1}{2}(\mathbf{E}^2 - \mathbf{B}^2) \]

という形になるわ。Klein-Gordon 場のときと同じ \(L = T - V\) の構造が見えるでしょう? 電場 \(\mathbf{E}\) はポテンシャルの時間微分を含むから「運動エネルギー的な項」、磁場 \(\mathbf{B}\) は空間微分だけだから「ポテンシャル的な項」に対応しているの。

⚪ メイ: なるほど、\(\frac{1}{2}\dot{\phi}^2 - \frac{1}{2}(\nabla\phi)^2\) と同じ構造が、電磁場では \(\frac{1}{2}\mathbf{E}^2 - \frac{1}{2}\mathbf{B}^2\) として現れるのね。

🟡 リナ: その通り。そしてこの Lagrangian から Euler-Lagrange 方程式を導くと、真空中の Maxwell 方程式(の残り半分)が得られるの。具体的には:

\[ \partial_\mu F^{\mu\nu} = 0 \tag{3.49} \]

これは真空中(電荷も電流もない場合)の \(\nabla \cdot \mathbf{E} = 0\)\(\nabla \times \mathbf{B} - \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} = 0\) をまとめたものよ。電荷がある場合は Lagrangian に相互作用項を追加する必要があるの——それは第 7 章で扱うわ。Maxwell 方程式のもう半分(\(\nabla \cdot \mathbf{B} = 0\)\(\nabla \times \mathbf{E} + \frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t} = 0\))は \(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\) という定義自体から自動的に従うの。

🔵 カイ: すごい……Maxwell 方程式全体が、たった一つの Lagrangian \(-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) から出てくるんですね。

初読ガイド: \(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} = 2(\mathbf{B}^2 - \mathbf{E}^2)\) という結果と、Lagrangian が \(\frac{1}{2}(\mathbf{E}^2 - \mathbf{B}^2)\) になることだけ覚えておけば、上の添字計算の詳細は後で戻って確認すれば十分よ。

🟡 リナ: そう。これが Lagrangian 形式の威力よ。量子化は第 6 章で行うけれど、そこでは「ゲージ自由度」という厄介な問題に直面することになるわ。

✅ 理解度チェック: Maxwell 場の Lagrangian \(\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) において、Maxwell 方程式の「もう半分」(\(\nabla\cdot\mathbf{B}=0\) と Faraday の法則)はどのようにして成り立つか?

答え

これらは Euler-Lagrange 方程式からではなく、電磁場テンソルの定義 \(F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\) 自体から自動的に(恒等式として)従う。Lagrangian から導かれるのは \(\partial_\mu F^{\mu\nu} = 0\)\(\nabla\cdot\mathbf{E}=0\) と Ampère の法則)の方である。

📝 練習問題:


3 つの Lagrangian の比較

🟡 リナ: 3 つの場を表にまとめておくわね。

表 3.5: 代表的な場の Lagrangian 比較

スピン Lagrangian 密度 運動方程式 記述する粒子の例
Klein-Gordon 0 \(\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi - \frac{1}{2}m^2\phi^2\) \((\Box + m^2)\phi = 0\) Higgs 粒子、\(\pi\) 中間子
Dirac 1/2 \(\bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi\) \((i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0\) 電子、クォーク
Maxwell 1 \(-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\) \(\partial_\mu F^{\mu\nu} = 0\) 光子

⚪ メイ: 自然界の基本粒子はスピン 0、1/2、1 のどれかで、それぞれに対応する Lagrangian がある。そして Lagrangian を書き下せば、運動方程式も対称性も保存量も、すべてが自動的に決まるのね。

🟡 リナ: そう。場の量子論では、「Lagrangian を選ぶ」ことが「理論を定義する」ことなの。標準模型だって、突き詰めればひとつの Lagrangian を書き下したもの。次章からは、これらの Lagrangian を出発点にして量子化を進めていくわ。

🔵 カイ: Lagrangian さえ書ければ、あとは機械的に計算が進むってことですか。でも逆に言えば、「正しい Lagrangian」をどうやって見つけるかが一番難しい問題ですよね?

🟡 リナ: まさにそこが物理学者の腕の見せどころよ。「どの Lagrangian を選ぶべきか」を決めるのは対称性の要請と実験データなの。対称性が Lagrangian の形を強く制約する——これが Noether の定理の逆向きの使い方なの。「この保存則が成り立つべきだから、Lagrangian はこの対称性を持たなければならない」と推論できるわ。

✅ 理解度チェック: 場の量子論で「理論を定義する」とは、具体的に何を指定することでしょうか?

答え

Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}(\phi_a, \partial_\mu\phi_a)\) を指定すること。Lagrangian が決まれば、Euler-Lagrange 方程式から運動方程式が、Noether の定理から保存量が、そして(次章以降で学ぶ)量子化の手続きから粒子の散乱振幅が、すべて導かれる。


3.7 この章のまとめ

🟡 リナ: 今日学んだことを整理しておきましょう。

  1. Lagrangian 密度 \(\mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi)\) を定義し、作用 \(S = \int d^4x\,\mathcal{L}\) を停留させることで 場の Euler-Lagrange 方程式 を導いた

  2. Noether の定理 を証明した:連続対称性 → 保存カレント \(j^\mu\)\(\partial_\mu j^\mu = 0\))→ 保存量 \(Q = \int d^3x\,j^0\)

  3. 具体例

  4. 時空並進不変性 → エネルギー・運動量テンソル \(T^{\mu\nu}\) → エネルギー・運動量保存
  5. \(U(1)\) 位相変換不変性 → 電流 \(j^\mu\) → 電荷保存

  6. 3 つの代表的 Lagrangian(Klein-Gordon、Dirac、Maxwell)を提示し、それぞれの運動方程式を確認した

🔵 カイ: 「量子力学」編 第 26 章で学んだ「対称性と保存則」が、場の言葉でこんなにきれいに定式化されるんですね。でも一つ気になるのは、今日は全部「古典的な」場の話でしたよね。量子化したら、この保存カレントとかエネルギー・運動量テンソルはどうなるんですか?

🟡 リナ: いい質問ね。古典的な保存量は量子論でも基本的に保持されるの——ただし「演算子の順序」という新しい問題が出てくる。それは次章以降で見ていくわ。

🔵 カイ: 「演算子の順序」……量子力学でも \(\hat{x}\hat{p} \neq \hat{p}\hat{x}\) で順序が大事でしたもんね。場の量子論だと、場 \(\phi(x)\) が演算子になるわけだから……古典論では \(\phi(x)\phi(y) = \phi(y)\phi(x)\) で当たり前でしたけど、量子化したら順序が問題になるんですか? たとえばエネルギー密度 \(T^{00}\)\(\dot{\phi}^2\) が入っていましたけど、演算子になったら \(\hat{\dot{\phi}}\hat{\dot{\phi}}\) の順序をどう決めるんだろう……。

🟡 リナ: いい疑問ね。実際、ナイーブに演算子の積を書くと無限大が出てくるの。それを「正規順序」という処方箋で処理する——次章で具体的に見ていくわ。

⚪ メイ: そして Lagrangian を書き下すだけで、運動方程式も保存量もすべて決まる。この統一的な枠組みが、場の量子論の出発点になるのね。

🟡 リナ: その通り。次章では、この古典的な枠組みの上に量子力学の構造を載せる——つまり Klein-Gordon 場の量子化に進むわ。場の振動モードが「粒子」として現れる瞬間を見届けましょう。


次章予告

第 4 章 スカラー場の量子化 — 粒子が場から生まれる

古典場 \(\phi(x)\) を演算子に昇格させ、交換関係を課す——第二量子化の手続きを実行する。場のフーリエ展開から生成・消滅演算子が現れ、「粒子」が場の励起として自然に出現する瞬間を目撃する。


参考文献

  • Quantum Field Theory for the Gifted Amateur (Lancaster & Blundell) 第 2 章「Lagrangians」、第 6 章「A first stab at canonical quantization」、第 8 章「Examples of Lagrangians, or how to build a theory」、第 11 章「Symmetry」
  • Quantum Field Theory and the Standard Model (Schwartz) 第 3 章「Classical field theory」
  • 場の量子論 — 不変性と自由場を中心にして (坂本) 第 9 章「解析力学の復習と場のラグランジアン形式」
  • Classical Theory of Fields (Landau & Lifshitz) 第 2 章「Relativistic Mechanics」、第 4 章「The Electromagnetic Field Equations」
  • Quantum Field Theory (David Tong, Cambridge lecture notes) 第 1 章「Classical Field Theory」