第 7 章 波動関数と Schrödinger 方程式¶
前回までのあらすじ:
Part II(第 4〜6 章)では、有限次元の 2 状態系を舞台に確率振幅のルール、Hilbert 空間の萌芽、そして時間発展と量子振動を学んだ。2 状態系のハミルトニアン \(H\)(エネルギーを表す行列)が状態ベクトルの時間発展を支配し、エネルギー固有状態が定常状態であること、異なるエネルギー成分の位相差が物理的な振動を生むことを確認した。しかし、粒子が「空間のどこにいるか」という問いには、まだ答えられていない。
この章のゴール
- 離散的な 2 状態系から連続的な位置空間へ移行し、波動関数 \(\Psi(x,t) = \langle x|\phi(t)\rangle\) を「位置で粒子を見つける確率振幅」として導入する
- de Broglie 波と古典的エネルギーの関係から自由粒子の Schrödinger 方程式を物理的動機に基づいて導出し、ポテンシャルを加えた一般形へ拡張する
- 定常状態と時間に依存しない Schrödinger 方程式を導き、確率密度 \(|\Psi|^2\) の保存(連続の方程式)を証明して、波動関数の規格化条件と物理的要請を確立する
- これにより、量子力学の基本方程式を「使える」形で手に入れ、次章以降で具体的な問題を解く準備が整う
7.1 離散状態から連続空間へ¶
🟡 リナ: 第 4〜6 章では、スピンの「上」と「下」やアンモニア分子の 2 つの配置のように、有限個の基本状態で系を記述してきたわね。でも、電子が空間を飛んでいるとき、「どこにいるか」を記述するには——
🔵 カイ: 基本状態が無限にいりますよね。空間の各点が一つの基本状態になる?
🟡 リナ: その通り。第 5 章で導入した Dirac 記法を使うと、「粒子が位置 \(x\) にある」という状態を \(|x\rangle\) と書ける。\(x\) は連続的な値を取るから、基本状態の集合は無限個——しかも連続無限個になるの。
⚪ メイ: 第 5 章では有限個の基本状態 \(|i\rangle\) の完全性関係 \(\sum_i |i\rangle\langle i| = \hat{1}\) を使ったわよね。
🟡 リナ: そう。そして連続の場合はどうなるか——離散的な場合の
が、連続的な位置の場合は
に置き換わる。これが位置表示の出発点よ。
🔵 カイ: \(|x\rangle\) 同士の直交性はどうなるんですか? 離散の場合は \(\langle i|j\rangle = \delta_{ij}\) でしたよね。
🟡 リナ: 連続の場合は Kronecker のデルタ \(\delta_{ij}\) の代わりに、Dirac のデルタ関数 \(\delta(x - x')\) を使う:
デルタ関数の詳しい性質は Appendix C で扱うけれど、今はイメージだけ掴んでおいて。\(x'\) を中心に幅 \(\epsilon\)、高さ \(1/\epsilon\) の長方形を想像して——面積は常に \(\epsilon \times (1/\epsilon) = 1\) よね。\(\epsilon \to 0\) にすると、幅がゼロに縮み高さが無限大に伸びるけれど、面積(積分値)は 1 のまま。これがデルタ関数 \(\delta(x - x')\) のイメージ——\(x'\) から離れた場所(幅の外)では値が 0、\(x = x'\) の近くだけ鋭いピークを持ち、全体を積分すると 1 になる。
🔵 カイ: 幅ゼロで高さ無限大なのに面積が 1……不思議ですね。
🟡 リナ: そしてもう一つ大事な性質——任意の関数 \(f(x)\) に対して \(\int f(x)\,\delta(x - x')\,dx = f(x')\) が成り立つの。直感的には、\(\delta(x - x')\) は \(x = x'\) 以外ではゼロだから、積分の中で \(f(x)\) のうち \(x = x'\) の値だけを「拾い出す」——ふるいにかけるように \(f(x')\) だけを取り出すのよ。この 3 つの性質——「\(x \neq x'\) でゼロ」「積分すると 1」「関数の値を拾い出す」——を覚えておけば十分よ。
🔵 カイ: 物理的にはどういう意味ですか? \(\langle x|x'\rangle = 0\)(\(x \neq x'\))って。
🟡 リナ: 離散の場合の \(\langle i|j\rangle = 0\)(\(i \neq j\))と同じ意味よ。「位置 \(x\) にいる状態」と「位置 \(x'\) にいる状態」は完全に区別できる——つまり互いに排他的ということ。粒子が \(x'\) にいるなら、\(x \neq x'\) で見つかる確率はゼロ。当たり前に聞こえるけれど、これが数学的に \(\delta(x - x')\) で表現されるの。
⚪ メイ: つまり、離散→連続で「和→積分」「\(\delta_{ij}\)→\(\delta(x-x')\)」に置き換わるだけで、構造は同じなのね。
🟡 リナ: そう。この対応関係をまとめておくわ。
表 7.1: 離散系と連続系の対応
| 離散系(第 5–6 章) | 連続系(位置表示) |
|---|---|
| 基本状態 $ | i\rangle$(有限個) |
| 直交性 $\langle i | j\rangle = \delta_{ij}$ |
| 完全性 $\sum_i | i\rangle\langle i |
| 確率振幅 $C_i = \langle i | \phi\rangle$(複素数) |
| 確率 $P_i = | C_i |
| 規格化 $\sum_i | C_i |
この移行を 図 7.1「離散状態から連続空間への移行」 に視覚的に描いたわ。左が第 5–6 章の 2 状態系、右が格子間隔を 0 にした連続空間の波動関数よ。中央の格子モデルは Feynman が考えた離散→連続の橋渡しで、この章の後半(7.8「Feynman の視点 — 格子から連続空間へ」)で詳しく扱うから、今は「離散(左)→連続(右)への橋渡しがある」ということだけ掴んでおいてね。
図 7.1: 離散状態から連続空間への移行。左: 2 状態系(第 5–6 章)、中: 格子上の \(N\) 状態(第 7 章 §8 の Feynman モデル)、右: 格子間隔 \(b \to 0\) で連続空間の波動関数 \(\Psi(x,t)\) が現れる。
🟡 リナ: そして、任意の状態 \(|\phi\rangle\) を位置の基本状態で展開すると:
これは離散の場合の \(|\phi\rangle = \sum_i |i\rangle\langle i|\phi\rangle\)(各基本状態に「その成分の大きさ \(\langle i|\phi\rangle\)」を掛けて足し合わせる)の連続版。和が積分に変わっただけよ。そして、この展開係数 \(\langle x|\phi\rangle\) こそが、これから主役になる波動関数なの。
✅ 理解度チェック: 離散的な基本状態の完全性関係 \(\sum_i |i\rangle\langle i| = \hat{1}\) は、連続的な位置の基本状態ではどのような式に置き換わるでしょうか? また、直交性の条件はどう変わるでしょうか?
答え
完全性関係は \(\int_{-\infty}^{+\infty} |x\rangle\langle x|\,dx = \hat{1}\) に、直交性は Kronecker のデルタ \(\delta_{ij}\) から Dirac のデルタ関数 \(\langle x|x'\rangle = \delta(x - x')\) に置き換わる。離散→連続の移行で「和→積分」「\(\delta_{ij}\)→\(\delta(x-x')\)」という対応がある。
7.2 de Broglie 波の重ね合わせと波動関数¶
🟡 リナ: 第 2 章で、運動量 \(p\) を持つ粒子には de Broglie (ド・ブロイ) 波長 \(\lambda = h/p\) が対応することを学んだわね。ここで波数 \(k\) を \(k = 2\pi/\lambda\) と定義するわ。これは「1 メートルあたりに波が何ラジアン分の位相を進めるか」を表す量よ。(時間方向にも同様の量——角振動数 \(\omega\)——があるけれど、それは次の 7.3「自由粒子の Schrödinger 方程式 — 物理的動機からの導出」 で導入するわ。)さて、波長 \(\lambda\) の波を数学的にどう表すか——実は \(e^{ikx}\) という複素指数関数で表現できるの。「\(e\) の肩に虚数が乗っているのに波?」と思うわよね。これは Euler の公式を使うと \(\cos\) と \(\sin\) に分解できるから波になるの。すぐ後で詳しく説明するわね。
🔵 カイ: \(e^{ikx}\) って複素数ですよね? 複素数が「波」ってどういうことですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。第 4 章で紹介したEuler (オイラー) の公式を思い出して:
これは「\(e\) の肩に虚数 \(i\theta\) を乗せると、\(\cos\) と \(\sin\) の組み合わせになる」という公式だったわね。直感的には、複素平面(横軸が実部、縦軸が虚部)上で原点から距離 1 の円周上の点を角度 \(\theta\) で指定する表現よ——\(\theta = 0\) なら \(e^{i\cdot 0} = 1\)(実軸上の点)、\(\theta = \pi/2\) なら \(e^{i\pi/2} = i\)(虚軸上の点)という具合にね。厳密な証明は Appendix B に譲るけれど、今は「\(\cos\) と \(\sin\) を一つの指数関数にまとめる便利な書き方」として受け入れてね。これを使うと \(e^{ikx} = \cos(kx) + i\sin(kx)\) と書ける。つまり、実部が \(\cos(kx)\)、虚部が \(\sin(kx)\) ——どちらも波長 \(\lambda\) の波よ。\(\cos(kx)\) は \(kx\) が \(2\pi\) 増えるごとに 1 周期——つまり \(x\) が \(2\pi/k\) 進むと 1 周期。\(k = 2\pi/\lambda\) の定義から \(2\pi/k = \lambda\) だから、確かに波長 \(\lambda\) の波を表しているの。\(\lambda = h/p\) を代入すれば \(k = 2\pi/(h/p) = 2\pi p/h = p/\hbar\) となる(\(\hbar = h/(2\pi)\) は 第 2 章 で導入した換算 Planck 定数ね)。つまり \(e^{ikx} = e^{ipx/\hbar}\) は「運動量 \(p\) の粒子に対応する de Broglie 波を、\(\cos\) と \(\sin\) を一つの複素指数関数にまとめて表現したもの」なの。ここで、7.1「離散状態から連続空間へ」で \(|x\rangle\) を「位置 \(x\) にいる状態」と定義したのと同じ発想で、\(|p\rangle\) を「運動量が確定した値 \(p\) を持つ状態」を表すケットと定義するわ。そして \(\langle x|p\rangle\) は「運動量 \(p\) の状態にある粒子を位置 \(x\) で見つける確率振幅」——これが平面波になるの。つまり、確定した運動量 \(p\) を持つ粒子の「位置に対する確率振幅」は
という平面波の形になる。比例定数(規格化)については、平面波は全空間で \(|e^{ikx}|^2 = 1\) だから積分が発散して通常の意味では規格化できない——これは 「規格化条件」 で改めて議論するわ。
🔵 カイ: でも \(|e^{ikx}|^2 = 1\) で、どこでも一様ですよね。粒子がどこにいるか全く分からない。
🟡 リナ: そう。運動量が確定していると、位置は完全に不確定になる——これは 第 8 章で扱う不確定性原理の表れよ。現実の粒子は「ある程度の位置の範囲にいる」から、異なる運動量の平面波を重ね合わせて波束を作る必要がある。
🔵 カイ: 波束って、いろんな波長の波を足し合わせて「山」を作るイメージですか?
🟡 リナ: そう。ちょうど、いろんな周波数の音を重ねると短いパルス音が作れるのと同じ。これは第 4 章で学んだ「確率振幅の重ね合わせ」の連続版なの。有限個の波数 \(k_1, k_2, \ldots, k_N\) の平面波を足し合わせる場合は \(\Psi(x) = c_1 e^{ik_1 x} + c_2 e^{ik_2 x} + \cdots = \sum_{n=1}^{N} c_n e^{ik_n x}\) と書ける。各 \(c_n\) は「波数 \(k_n\) の成分がどれだけ含まれるか」を表す重みよ。7.1「離散状態から連続空間へ」で学んだ「和→積分」の対応を使えば、連続的に分布する波数の重ね合わせは \(\Psi(x) = \int \phi(k)\,e^{ikx}\,dk\) と書ける。\(\phi(k)\) は「波数 \(k\) の成分がどれだけ含まれるか」を表す重み関数よ。\(\phi(k)\) が広い範囲の \(k\) を含むほど波束は狭く局在する——直感的には、波長の異なる多くの波を重ねるほど「山」が鋭くなるけれど、少数の波長だけでは広がった波しか作れないの。この数学的構造(Fourier 変換)は 第 8 章 で詳しく扱うから、今は「いろんな \(k\) の波を足し合わせると局在した波束が作れる」というイメージだけ持っておいてね。そして、この重ね合わせで作られた状態を「各位置 \(x\) での確率振幅」として表現したものが波動関数よ。一般の状態 \(|\phi\rangle\) に対して:
これは「時刻 \(t\) に、状態 \(|\phi(t)\rangle\) にある粒子を位置 \(x\) で見つける確率振幅」よ。
🔵 カイ: 確率振幅だから、複素数ですよね。
🟡 リナ: そう。\(\Psi(x,t)\) は一般に複素数値の関数。そして、第 4 章のルール——「確率は振幅の絶対値の 2 乗」——を連続の場合に適用すると:
\(|\Psi(x,t)|^2\) を確率密度と呼ぶ。
🔵 カイ: \(\Psi\) そのものじゃなくて、\(|\Psi|^2\) が確率を与えるんですね。\(\Psi\) が複素数だから、そのままでは確率にならない。
🟡 リナ: 正確にはね、\(|\Psi|^2 = \Psi^*\Psi\) よ。ここで \(\Psi^*\) は \(\Psi\) の複素共役(complex conjugate)——虚数部分の符号を反転させたもの。例えば \(z = a + bi\) なら \(z^* = a - bi\) で、\(|z|^2 = z^*z = (a-bi)(a+bi) = a^2 + b^2\) になる。\(e^{i\theta}\) の場合は \((e^{i\theta})^* = e^{-i\theta}\) で、\(|e^{i\theta}|^2 = e^{-i\theta}e^{i\theta} = e^0 = 1\) ね。
🔵 カイ: なるほど、だから \(|e^{ikx}|^2 = 1\) になるんですね。
🟡 リナ: そう。平面波と波束の違いを 図 7.2「平面波と波束の比較」 で視覚的に確認しておいてね。
図 7.2: 平面波と波束の比較。上:運動量が確定した平面波 \(\Psi\propto e^{ikx}\)。\(|\Psi|^2\) は全空間で一定で、位置が完全に不確定。下:異なる運動量の平面波を重ね合わせた波束。位置がある程度局在化する代わりに、運動量にも幅が生じる——これが現実の粒子の状態。
✅ 理解度チェック: 運動量 \(p\) が確定した粒子の波動関数 \(\Psi(x) \propto e^{ipx/\hbar}\) に対して、確率密度 \(|\Psi|^2\) はどうなるでしょうか? それは物理的に何を意味するでしょうか?
答え
\(|\Psi|^2 = |e^{ipx/\hbar}|^2 = 1\)(定数)。位置がどこでも等しい確率密度を持つ、つまり位置が完全に不確定であることを意味する。運動量が確定すると位置が不確定になるのは不確定性原理の表れ。
7.3 自由粒子の Schrödinger 方程式 — 物理的動機からの導出¶
🟡 リナ: さて、波動関数 \(\Psi(x,t)\) がどのように時間発展するかを決める方程式を求めたい。第 6 章で 2 状態系の時間発展が
で記述されることを学んだわね。これを位置表示に翻訳していくの。
🔵 カイ: \(\hat{H}\) はハミルトニアン——系のエネルギーを表す演算子でしたね。
🟡 リナ: そう。まず最も単純な場合——力が働かない自由粒子から始めましょう。自由粒子のエネルギーは運動エネルギーだけ:
ここで、確定した運動量 \(p\) とエネルギー \(E\) を持つ粒子の波動関数を考える。de Broglie の関係 \(p = \hbar k\) と、第 2 章で学んだ Planck-Einstein の関係 \(E = h\nu\) を使うわ。ここで \(\nu\)(ニュー)は 1 秒あたりの振動回数(振動数)ね。波数 \(k\) のときに \(2\pi\) を吸収して \(p = \hbar k\)(\(\hbar = h/2\pi\))と書いたのと同じように、振動数 \(\nu\) にも \(2\pi\) を吸収した量を導入すると便利なの。これを \(\omega\)(オメガ)と書いて角振動数と呼ぶ:\(\omega = 2\pi\nu\)。意味は「1 秒あたりに進む位相(ラジアン)」——振動回数 \(\nu\) に \(2\pi\) を掛けて角度に換算したものよ。こうすると \(E = h\nu = (2\pi\hbar)\cdot(\omega/2\pi) = \hbar\omega\) と綺麗に書ける。つまり \(k\) と \(\hbar\) の関係が \(p = \hbar k\) であるのと全く同じ構造で、\(\omega\) と \(\hbar\) の関係が \(E = \hbar\omega\) になるの。\(h\) と \(2\pi\) が常にセットで現れるから、最初から \(\hbar\) と \(\omega\) を使う方が自然なの。すると:
ここで \(A\) は波動関数の全体的な大きさを決める定数(一般には複素数)で、\(x\) にも \(t\) にも依存しないから、微分するときは \(A\) を前に出して残りだけ微分すればいいの。平面波の場合は \(|e^{ikx}|^2 = 1\) で全空間の積分が発散するため通常の意味では規格化できない——この点は 「規格化条件」 で改めて議論するわ。今は \(A\) の値を気にせず、微分の計算に集中してね。
🔵 カイ: 空間部分の \(e^{ikx}\) は de Broglie 波ですよね。時間部分の \(e^{-i\omega t}\) はどこから来るんですか? なんで \(e^{+i\omega t}\) じゃなくて、マイナスなんですか?
🟡 リナ: 第 6 章で、エネルギー \(E\) の固有状態は時間とともに位相因子 \(e^{-iEt/\hbar}\) が掛かることを学んだわね。あのときは 2 状態系の係数 \(C_i(t)\) に \(e^{-iE_n t/\hbar}\) が掛かったけれど、位置表示でも全く同じ——波動関数 \(\Psi(x,t)\) の時間依存性もエネルギー固有状態なら \(e^{-iEt/\hbar}\) の形になるの。マイナス符号は Schrödinger 方程式の左辺が \(i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\) であること——つまり \(+i\) が付いていること——から来ているの。\(e^{-iEt/\hbar}\) を \(t\) で微分すると \(-iE/\hbar\) が出て、左辺の \(i\hbar\) と掛け合わさると \(i\hbar \cdot (-iE/\hbar) = E\) になる。もし \(e^{+iEt/\hbar}\) だったら \(E\) ではなく \(-E\) が出てしまう。つまりマイナス符号は方程式の構造から決まるのよ。\(E = \hbar\omega\) だから \(e^{-iEt/\hbar} = e^{-i\omega t}\)。運動量 \(p\) が確定した粒子はエネルギー \(E = p^2/(2m)\) も確定しているから、空間部分 \(e^{ikx}\) に時間の位相因子 \(e^{-i\omega t}\) を掛けたものが完全な波動関数になる。直感的には、\(e^{ikx}\) が「空間的にどこで振動しているか」を、\(e^{-i\omega t}\) が「時間的にどのくらいの速さで振動しているか」を表していて、両方を掛け合わせた \(e^{i(kx - \omega t)}\) が「時空を伝わる波」を表すの。つまり式 (7.8) の形ね。
⚪ メイ: 空間的には \(e^{ikx}\) で、時間的には \(e^{-i\omega t}\) で振動する——合わせて式 (7.8) の形になるのね。
🟡 リナ: ちなみに、\(e^{i(kx - \omega t)}\) は「右に進む波」を表す。位相が一定の点(\(kx - \omega t = \text{const}\))を追いかけると、\(x = \omega t/k + \text{const}\) で速度 \(v = \omega/k\) で右に進むの。
🟡 リナ: さて、この平面波を Schrödinger 方程式に結びつけるために、\(\Psi(x,t)\) を \(t\) や \(x\) で微分する必要がある。ここで偏微分を復習しておくわ。偏微分というのは、2 つ以上の変数を持つ関数で「他の変数を固定して、1 つの変数だけで微分する」こと。\(\Psi(x,t)\) は \(x\) と \(t\) の両方に依存するから、普通の \(\frac{d}{dt}\) ではなく \(\frac{\partial}{\partial t}\)(\(\partial\) は「ラウンド」や「パーシャル」と呼ばれる記号)を使って「\(x\) を固定して \(t\) で微分」を表す。同様に \(\frac{\partial}{\partial x}\) は「\(t\) を固定して \(x\) で微分」を意味する。計算方法は普通の微分と全く同じ——ただ「他の変数は定数だと思って無視する」だけよ。例えば \(f(x,t) = x^2 t\) なら、\(\frac{\partial f}{\partial t} = x^2\)(\(x^2\) を定数扱い)、\(\frac{\partial f}{\partial x} = 2xt\)(\(t\) を定数扱い)。簡単でしょう?
🔵 カイ: あ、片方を定数だと思えばいいだけなんですね。普通の微分と同じ計算で。
🟡 リナ: そう。では次に進むわ。高校の数学 III で \(e^x\) の微分が \(e^x\) であることを学んだわね(\(e^x\) は「微分しても自分自身に戻る」唯一の関数よ)。合成関数の微分(連鎖律)——「外側の関数を微分して、中身の微分を掛ける」というルール——を使うと、\(e^{\alpha t}\) を \(t\) で微分すると \(\alpha e^{\alpha t}\) になる。実は \(\alpha\) が複素数でもこの公式はそのまま成り立つの——Euler の公式で \(e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta\) と書けることを思い出すと、\(\cos\) と \(\sin\) の微分公式から確認できるわ(詳しくは Appendix B)。簡単に確認しておくと、\(e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta\) を \(\theta\) で微分すると \(-\sin\theta + i\cos\theta = i(\cos\theta + i\sin\theta) = ie^{i\theta}\)——確かに「肩の係数が前に降りてくる」という実数のときと同じルールが成り立っているわね。今は「複素数の指数関数も実数のときと同じ微分公式に従う」ことを認めて進みましょう。
🔵 カイ: つまり \(e^{i\theta}\) を \(\theta\) で微分しても、実数のときと同じように \(ie^{i\theta}\) になるんですね。
🟡 リナ: その通り。ここでは \(\Psi = Ae^{i(px - Et)/\hbar}\) の \(t\) に関する偏微分だから、\(x\) を固定して \(t\) だけで微分する。\(x\) を固定するということは、\(e^{ipx/\hbar}\) の部分は定数扱いね。指数を展開すると \(\frac{i(px - Et)}{\hbar} = \frac{ipx}{\hbar} - \frac{iEt}{\hbar}\) で、\(t\) に掛かっている係数は \(-\frac{iE}{\hbar}\) ね。\(e^{\alpha t}\) を \(t\) で微分すると \(\alpha e^{\alpha t}\) だから、\(\alpha = -iE/\hbar\) として:
次に空間微分。\(x\) で 1 回微分すると \(\frac{\partial\Psi}{\partial x} = \frac{ip}{\hbar}\Psi\)。もう 1 回微分すると:
🔵 カイ: あ、式 (7.10) から \(p^2\Psi = -\hbar^2\frac{\partial^2\Psi}{\partial x^2}\) が出ますね。
⚪ メイ: 微分するたびに「肩の係数が降りてくる」だけだから、2 回微分で係数の 2 乗が出るのね。
🟡 リナ: そう! これをエネルギーの関係式 (7.7) に代入してみて。\(E = p^2/(2m)\) だから:
左辺に式 (7.9) から \(E\Psi = i\hbar\frac{\partial\Psi}{\partial t}\) を、右辺に式 (7.10) から \(p^2\Psi = -\hbar^2\frac{\partial^2\Psi}{\partial x^2}\) を代入すると:
🔵 カイ: おお! これが自由粒子の Schrödinger 方程式ですか! でも、これって特定の平面波から導いたんですよね? 他の波動関数にも成り立つんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。実は、式 (7.11) は線形の偏微分方程式よ。「線形」とは、\(\Psi\) やその微分が 1 次(掛け算されていない)で現れるということ。\(\Psi^2\) や \(\Psi \cdot \frac{\partial\Psi}{\partial x}\) のような項がない。このとき、\(\Psi_1\) と \(\Psi_2\) がそれぞれ解なら、\(c_1\Psi_1 + c_2\Psi_2\) を代入しても各項がばらけるから、やっぱり解になる。これが重ね合わせの原理よ。
🔵 カイ: あ、だから特定の平面波で導いても問題ないんですね。どんな波束も平面波の足し合わせだから、各成分が方程式を満たせば全体も満たす。
⚪ メイ: つまり、異なる運動量の平面波をいくら足し合わせても、全体としてやはり式 (7.11) を満たすのね。
🔵 カイ: でも逆に、もし方程式が非線形だったら——例えば \(\Psi^2\) みたいな項があったら——重ね合わせが成り立たなくなるんですか?
🟡 リナ: その通り。非線形の場合は \((\Psi_1 + \Psi_2)^2 \neq \Psi_1^2 + \Psi_2^2\) だから、個々の解を足しても解にならない。Schrödinger 方程式が線形であることは、量子力学の重ね合わせの原理と直結しているの。だから、任意の波束——異なる運動量の平面波の重ね合わせ——も式 (7.11) を満たす。特定の平面波だけでなく、あらゆる自由粒子の波動関数が従う方程式なの。
🔵 カイ: ちょっと待ってください。式 (7.9) で時間の 1 階微分から \(E\) が出て、式 (7.10) で空間の 2 階微分から \(p^2\) が出る。1 階と 2 階で非対称なのはなぜですか?
🟡 リナ: 鋭い質問ね。これは \(E = p^2/(2m)\) という古典的なエネルギーと運動量の関係——\(E\) は \(p\) の 2 次関数——を反映しているの。もし \(E\) と \(p\) が 1 次の関係(\(E = cp\) のような)なら、空間も 1 階微分になる。実際、光子の場合はそうなって、異なる方程式が出てくる。Schrödinger 方程式は非相対論的な(光速に比べて遅い)粒子のための方程式なのよ。
✅ 理解度チェック: 自由粒子の Schrödinger 方程式 (7.11) の導出で、「\(E = p^2/(2m)\)」「\(E = \hbar\omega\)」「\(p = \hbar k\)」の 3 つの関係をどのように使ったか、自分の言葉で説明してみましょう。
答え
\(p = \hbar k\) と \(E = \hbar\omega\) により、平面波 \(e^{i(kx-\omega t)}\) の空間 2 階微分から \(p^2\) が、時間 1 階微分から \(E\) が取り出せる。これらを古典的関係 \(E = p^2/(2m)\) で結ぶと、時間 1 階微分と空間 2 階微分を含む偏微分方程式が得られる。
📝 練習問題:
- 平面波 \(\Psi = Ae^{i(kx - \omega t)}\) が式 (7.11) を満たすことを直接代入で確認し、\(\omega\) と \(k\) の分散関係を求めよ → 問題 B-1. 平面波 を自由粒子の Schrödinger (シュレーディンガー) 方程式
7.4 ポテンシャルの導入と一般の Schrödinger 方程式¶
🟡 リナ: 現実の粒子は力を受けるわね。力を受ける粒子のエネルギーは:
ここで \(V(x)\) はポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)。高校物理で習った重力の位置エネルギー \(mgh\) や、バネの弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) と同じ概念よ。
🔵 カイ: 運動エネルギーにポテンシャルが加わるだけですね。
🟡 リナ: そう。自由粒子の導出では \(E\Psi = \frac{p^2}{2m}\Psi\) の両辺を微分演算子で書き換えたわね。ポテンシャルがある場合は \(E = \frac{p^2}{2m} + V(x)\) だから、\(E\Psi = \frac{p^2}{2m}\Psi + V(x)\Psi\)。左辺は同じく \(i\hbar\frac{\partial\Psi}{\partial t}\)、右辺の \(\frac{p^2}{2m}\Psi\) は \(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2\Psi}{\partial x^2}\) に置き換わる。\(V(x)\Psi\) はそのまま——\(V(x)\) は \(x\) の関数で、微分演算子ではないから、単に掛け算するだけ。結果として:
これが1 次元の時間に依存する Schrödinger 方程式——量子力学の基本方程式よ。
⚪ メイ: 左辺が時間発展、右辺がエネルギー演算子の作用——第 6 章の式と同じ構造ね。
🟡 リナ: まさにそう。これは 第 6 章の \(i\hbar\frac{d}{dt}|\psi\rangle = \hat{H}|\psi\rangle\) を位置表示で具体的に書き下したものなの。位置表示でのハミルトニアン演算子は:
第 1 項が運動エネルギー演算子 \(\hat{T} = \hat{p}^2/(2m)\)、第 2 項がポテンシャルエネルギーよ。ここで運動量演算子は:
🔵 カイ: なんで運動量が微分演算子になるんですか?
🟡 リナ: 式 (7.10) を思い出して。平面波 \(e^{ipx/\hbar}\) に \(-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\) を作用させると:
つまり、\(-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\) は「運動量 \(p\) の平面波に作用すると、\(p\) 倍を返す」——固有値方程式 \(\hat{p}\,\psi_p = p\,\psi_p\) の形になっているの。\(\psi_p = e^{ipx/\hbar}\) が固有関数で、\(p\) が固有値よ。
⚪ メイ: 第 5 章で学んだ固有値方程式と同じ構造ね。演算子を作用させると、元の関数の定数倍が返ってくる。
🟡 リナ: そう。そして \(\hat{p}^2 = (-i\hbar\frac{\partial}{\partial x})^2 = -\hbar^2\frac{\partial^2}{\partial x^2}\) だから、運動エネルギー演算子は \(\hat{T} = -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\) になる。
✅ 理解度チェック: 自由粒子の Schrödinger 方程式にポテンシャル \(V(x)\) を加えるとき、方程式の右辺にはどのような項が追加されるでしょうか? その項が微分演算子ではなく単なる掛け算である理由は何でしょうか?
答え
右辺に \(V(x)\Psi\) が追加される。\(V(x)\) は位置 \(x\) の関数であり、波動関数に対する微分操作を含まないため、単に \(\Psi\) に \(V(x)\) を掛けるだけの演算になる。運動エネルギー項が微分演算子なのとは対照的。
✅ 理解度チェック: 運動量演算子 \(\hat{p} = -i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\) を波動関数 \(\Psi(x) = Ae^{ip_0 x/\hbar}\)(\(p_0 = 3\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\))に作用させると何が得られるでしょうか?
答え
\(\hat{p}\Psi = -i\hbar \cdot \frac{ip_0}{\hbar}Ae^{ip_0 x/\hbar} = p_0\,Ae^{ip_0 x/\hbar} = p_0\Psi\)。運動量の固有値 \(p_0 = 3\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) が取り出される。\(\hat{p}\) が運動量の固有関数に作用すると、固有値(運動量の値)を係数として返すことが確認できる。
📝 練習問題:
- ポテンシャル \(V(x) = \frac{1}{2}m\omega^2 x^2\)(調和振動子)の場合のハミルトニアン演算子を書き下し、Schrödinger 方程式を具体的に書け → 問題 B-2. 運動量演算子 を次の各波動関数に作用させ、結果を求めよ。固有関数であれば固有値を答えよ
7.5 定常状態と時間に依存しない Schrödinger 方程式¶
🟡 リナ: 第 6 章で、エネルギー固有状態は時間とともに位相因子 \(e^{-iE_n t/\hbar}\) が掛かるだけで、物理的には変化しない「定常状態」だと学んだわね。位置表示でも同じことが起きる。
🔵 カイ: 定常状態の波動関数はどんな形になるんですか?
🟡 リナ: 第 6 章で、エネルギー \(E\) の固有状態は時間因子 \(e^{-iEt/\hbar}\) が掛かるだけだったわね。位置表示でも同じことを期待して、波動関数を「空間部分」と「時間部分」の積の形——これを変数分離と呼ぶの——に書いてみましょう:
ここで \(\psi(x)\) は空間部分だけの関数。この形が本当に Schrödinger 方程式を満たすか、代入して確認してみましょう。左辺は:
右辺は:
両辺を \(e^{-iEt/\hbar}\) で割ると:
⚪ メイ: 時間が完全に消えた! \(\psi\) は \(x\) だけの関数だから、偏微分 \(\partial\) ではなく常微分 \(d\) で書けるのね。\(x\) だけの常微分方程式になっている。
🟡 リナ: これが時間に依存しない Schrödinger 方程式(time-independent Schrödinger equation)。エネルギー固有値 \(E\) と固有関数 \(\psi(x)\) を求める方程式よ。演算子の言葉で書けば:
ハミルトニアンの固有値方程式そのものね。
🔵 カイ: これを解けば、許されるエネルギーの値が分かるんですか?
🟡 リナ: そう。一般に、境界条件(波動関数が物理的に意味を持つための条件)を満たす解は、特定のエネルギー値 \(E_1, E_2, E_3, \ldots\) に対してのみ存在する。これがエネルギーの量子化——第 1 章で見た原子の安定性の謎に対する答えよ。
🔵 カイ: おお、ようやく量子化の起源が方程式の中に見えてきた……!
図 7.3: 定常状態の波動関数。エネルギー固有状態 \(\psi_n(x)\) は時間とともに位相因子 \(e^{-iE_n t/\hbar}\) が掛かるだけで、確率密度 \(|\Psi|^2 = |\psi_n|^2\) は時間変化しない——これが「定常」の意味。
🟡 リナ: 各 \(E_n\) に対応する固有関数を \(\psi_n(x)\) と書くと、一般の波動関数はこれらの重ね合わせで書ける:
これは 第 6 章の 2 状態系の一般化よ。
⚪ メイ: 有限個の \(c_1, c_2\) だったのが、無限個の \(c_n\) になっただけ——構造は同じね。
🟡 リナ: その通り。各エネルギー成分は固有の振動数 \(\omega_n = E_n/\hbar\) で位相が回転する。異なるエネルギー成分の位相差が時間とともに変化することで、確率密度 \(|\Psi|^2\) が時間変化する——これが量子系のダイナミクスの源泉なの。
🔵 カイ: 定常状態は「何も変わらない」けれど、重ね合わせ状態は「動く」。でも不思議ですね——各成分は \(|e^{-iE_n t/\hbar}|^2 = 1\) で確率密度に影響しないはずなのに、足し合わせると動くのはなぜですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。具体的に見てみましょう。2 つのエネルギー固有状態の重ね合わせ \(\Psi = c_1\psi_1 e^{-iE_1 t/\hbar} + c_2\psi_2 e^{-iE_2 t/\hbar}\) の確率密度を計算するわ。\(|\Psi|^2 = \Psi^*\Psi\) だから、まず \(\Psi^* = c_1^*\psi_1^* e^{iE_1 t/\hbar} + c_2^*\psi_2^* e^{iE_2 t/\hbar}\) を作って、\(\Psi\) と掛けて展開する。
🔵 カイ: \((A + B)(C + D)\) みたいに 4 つの項が出てくるんですね。
🟡 リナ: そう。具体的には:
- \(c_1^*c_1\,\psi_1^*\psi_1 = |c_1|^2|\psi_1|^2\)(時間因子が \(e^{i(E_1-E_1)t/\hbar} = 1\) で消える)
- \(c_2^*c_2\,\psi_2^*\psi_2 = |c_2|^2|\psi_2|^2\)(同様に時間因子が消える)
- \(c_1^*c_2\,\psi_1^*\psi_2\,e^{i(E_1-E_2)t/\hbar}\)(交差項 1)
- \(c_2^*c_1\,\psi_2^*\psi_1\,e^{i(E_2-E_1)t/\hbar}\)(交差項 2)
🔵 カイ: 最初の 2 つは時間に依存しないけど、交差項は時間が残ってる——これが振動の原因ですか?
🟡 リナ: その通り! 交差項 2 は交差項 1 の複素共役になっている(\(e^{i(E_2-E_1)t/\hbar} = (e^{i(E_1-E_2)t/\hbar})^*\) だから)。ここで便利な公式を使うわ——複素数 \(z = a + bi\) に対して \(z + z^* = (a+bi) + (a-bi) = 2a = 2\,\text{Re}(z)\)。つまり「ある複素数とその複素共役を足すと、実部の 2 倍になる」の。これを使って交差項 1 を \(z\) として 2 つをまとめると \(2\,\text{Re}[c_1^*c_2\,\psi_1^*\psi_2\,e^{i(E_1-E_2)t/\hbar}]\)。ここで \((E_1 - E_2) = -(E_2 - E_1)\) だから \(e^{i(E_1-E_2)t/\hbar} = e^{-i(E_2-E_1)t/\hbar}\)。\(E_2 > E_1\) と番号を付けておけば、振動数 \(\omega_{21} \equiv (E_2-E_1)/\hbar > 0\) を定義できて:
⚪ メイ: 最後の項は 2 つの成分が「混ざる」ことで初めて生まれる項ね。振動数 \((E_2 - E_1)/\hbar\) で振動する。
🟡 リナ: その通り。これを干渉項と呼ぶの。高校物理で学んだ波の干渉と同じ構造——2 つの波が重なるとき、個々の強度の和だけでなく「混合項」が現れるのと同じよ。第 6 章のアンモニアメーザーで見た量子振動を、位置空間で表現したものよ。Bohr (ボーア) の振動数条件 \(\nu = (E_2 - E_1)/h\) は、まさにこの干渉項の振動数に対応している。図 7.4「重ね合わせ状態の確率密度の時間変化」 で、2 つの固有状態の重ね合わせの確率密度がどう時間変化するか見てみて。
図 7.4: 重ね合わせ状態の確率密度の時間変化。2 つの定常状態の等しい重ね合わせ \(\Psi = \frac{1}{\sqrt{2}}(\psi_1 e^{-iE_1 t/\hbar} + \psi_2 e^{-iE_2 t/\hbar})\) における \(|\Psi(x,t)|^2\) の時間変化。破線は確率分布の「重心」位置で、これが周期 \(T = 2\pi\hbar/(E_2 - E_1)\) で振動する。
🔵 カイ: 確率の山が振動してる! これって 第 6 章の Rabi 振動と同じ仕組みですか? 位置空間で見るとこうなるんだ。
🟡 リナ: その通り。第 6 章では 2 状態間の確率が振動したけれど、今度は「位置空間のどこで見つかるか」の確率が振動している——仕組みは全く同じよ。
🔵 カイ: じゃあ、3 つ以上のエネルギー固有状態を重ね合わせたら、振動はもっと複雑になるんですか?
🟡 リナ: そう。3 つ以上の成分があると、異なる振動数 \(\omega_{21}, \omega_{31}, \omega_{32}, \ldots\) の干渉項が全部重なるから、単純な往復運動ではなくなる。でも基本的な仕組みは同じ——異なるエネルギー成分の位相差が時間変化を生むの。\(N\) 個の成分があれば、干渉項は「2 つの成分の組み合わせ」の数——\(_NC_2 = N(N-1)/2\) 個になる。
⚪ メイ: 2 成分なら 1 個で単振動、3 成分なら 3 個で複雑な振動——成分が増えるほど干渉項が急増するのね。
🟡 リナ: そう。そしてどの干渉項も「2 つの成分のエネルギー差」で振動数が決まるという構造は同じ——式 (7.20) の \(\omega_{21} = (E_2 - E_1)/\hbar\) が、任意のペア \((n, m)\) に対して \(\omega_{nm} = (E_n - E_m)/\hbar\) になるだけよ。
🔵 カイ: でも一つ気になるんですけど——確率の山が振動しているということは、粒子が実際に左右に動いているんですか? それとも「測定したら見つかる場所の確率が変わっている」だけ?
🟡 リナ: 鋭い質問ね。正確には後者よ。粒子が古典的な軌道を描いて動いているわけではない。「もし今測定したら、ここで見つかる確率が高い」という分布が時間とともに変化しているの。測定するまでは粒子に確定した位置はない——これが古典力学との根本的な違いよ。
🔵 カイ: うーん、「動いている」のではなく「見つかる場所の確率が変わっている」……。頭では分かるけど、直感的にはまだ気持ち悪いですね。確率の山が左右に振動しているなら、「粒子が動いている」って言いたくなるじゃないですか。じゃあ測定する前、粒子は一体「何をしている」んですか?
🟡 リナ: その問いは量子力学の最も深い部分に触れているわ。今の段階で正直に答えると——量子力学は「測定する前に粒子が何をしているか」については何も言わないの。言えるのは「もし測定したら、こういう確率でここに見つかる」ということだけ。この気持ち悪さは正常な反応よ——Einstein も同じことを感じたの。今は「気持ち悪いけど、計算は合う」という態度で先に進みましょう。7.9「全体のまとめ — Schrödinger 方程式の構造」で、Newton 力学との対比の中で「何が決定論的で何が確率的か」を整理するわ。
🔵 カイ: ……正直まだ納得はしてないですけど、「計算は合う」っていうのは強い根拠ですよね。じゃあ今は保留にして、まずは方程式を使えるようになることに集中します。後で絶対また聞きますからね。
✅ 理解度チェック: 定常状態 \(\Psi(x,t) = \psi(x)e^{-iEt/\hbar}\) の確率密度 \(|\Psi(x,t)|^2\) は時間に依存するでしょうか? 理由とともに答えてください。
答え
依存しない。\(|\Psi|^2 = |\psi(x)|^2|e^{-iEt/\hbar}|^2 = |\psi(x)|^2 \cdot 1 = |\psi(x)|^2\)。位相因子の絶対値は常に 1 なので、確率密度は時間に依存しない。だから「定常状態」と呼ばれる。
📝 練習問題:
- 変数分離 \(\Psi(x,t) = \psi(x)T(t)\) を Schrödinger 方程式 (7.13) に代入し、\(x\) だけの方程式と \(t\) だけの方程式に分離する過程を自分で実行せよ → 問題 M-1. 変数分離法による時間に依存しない Schrödinger 方程式の導出
7.6 確率密度と確率流 — 確率の保存¶
🟡 リナ: 波動関数の最も重要な物理的要請は「確率の保存」よ。粒子は消えたり湧いたりしない。だから、全空間で粒子を見つける確率の合計は常に 1 でなければならない:
🔵 カイ: でも \(\Psi\) は時間とともに変化するんですよね? この積分が本当にずっと 1 のままなんですか?
🟡 リナ: いい疑問ね。これを証明してみましょう。積分の時間微分を計算する。直感的に言えば、「全体の確率の変化率」は「各点での確率密度の変化率を全部足し合わせたもの」よね——全体が変わるのは、どこかの部分が変わっているからだもの。ここで一つ技術的な点を確認しておくわ。「\(t\) で微分してから \(x\) で積分する」のと「\(x\) で積分してから \(t\) で微分する」のは、いつでも入れ替えてよいわけではないの。でも、波動関数が \(x \to \pm\infty\) で十分速く 0 に近づく場合——これは 7.7「波動関数の規格化と物理的要請」 で正式に要請する条件だけれど——積分範囲を十分大きな有限区間 \([-L, L]\) で打ち切っても結果はほとんど変わらない。有限区間上の積分なら、被積分関数が滑らかである限り微分と積分の順序は自由に入れ替えられる——直感的には、積分は「無限に細かい足し算」だから、「足し算の各項を微分してから足す」のと「足してから微分する」のは同じ、ということね。なお、左辺の \(\frac{d}{dt}\) は「\(x\) で積分した後に残る \(t\) だけの関数」の普通の微分、右辺の \(\frac{\partial}{\partial t}\) は「\(x\) と \(t\) の両方に依存する関数」の偏微分よ。つまり:
まず \(\frac{\partial}{\partial t}|\Psi|^2\) を計算するわ。\(|\Psi|^2 = \Psi^*\Psi\) だから:
⚪ メイ: 積の微分法則ね。
🟡 リナ: Schrödinger 方程式 (7.13) から \(\frac{\partial\Psi}{\partial t}\) を取り出したい。両辺を \(i\hbar\) で割ればいい——\(i\hbar\) で割るのは \(\frac{1}{i\hbar} = \frac{-i}{\hbar}\) を掛けるのと同じよ。なぜかというと、\(\frac{1}{i}\) の分子分母に \(-i\) を掛けると \(\frac{1}{i} = \frac{-i}{-i^2} = \frac{-i}{1} = -i\) だから。左辺は \(i\hbar\frac{\partial\Psi}{\partial t} \cdot \frac{1}{i\hbar} = \frac{\partial\Psi}{\partial t}\) になる。右辺は:
🔵 カイ: \(-\frac{i}{\hbar}\) を掛けると \(i\hbar\) が消えるんですね。\(-\frac{i}{\hbar} \cdot (-\frac{\hbar^2}{2m})\) は、マイナス×マイナスでプラス、\(\hbar\) が約分されて \(\frac{i\hbar}{2m}\) になる。確かに式が出る。
🟡 リナ: そう。次に、この式の複素共役を取る。\(V\) は実数なので \(V^* = V\)、そして \(i^* = -i\) だから:
🔵 カイ: \(i\) の符号が全部反転するんですね。
🟡 リナ: これらを式 (7.23) に代入すると:
\(V\) を含む項は打ち消し合って:
🔵 カイ: あれ、ポテンシャル \(V\) の項が消えましたね!
🟡 リナ: そう。\(V\) が実数だから、\(\Psi^*\) の式と \(\Psi\) の式で \(V\) を含む項が正確に打ち消し合うの。これは重要なポイントよ——確率保存は \(V\) が実数であることに依存している。もし \(V\) が複素数だったら打ち消しが崩れて、確率が保存されなくなるの。
⚪ メイ: つまり、確率保存の条件がポテンシャルの性質(実数であること)に直結しているのね。
🟡 リナ: その通り。ここで、式 (7.26) の右辺をよく見て。\(\Psi^*\frac{\partial^2\Psi}{\partial x^2}\) と \(\frac{\partial^2\Psi^*}{\partial x^2}\Psi\) という 2 つの項がある。これを「\(x\) の微分」の形にまとめられないか試してみましょう。\(\frac{\partial}{\partial x}\left(\Psi^*\frac{\partial\Psi}{\partial x}\right)\) を積の微分法則で展開すると:
同様に:
この 2 つの差を取ると、\(\frac{\partial\Psi^*}{\partial x}\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) の項が打ち消し合って:
まさに式 (7.26) の右辺が残る。左辺をまとめると \(\frac{\partial}{\partial x}\left(\Psi^*\frac{\partial\Psi}{\partial x} - \frac{\partial\Psi^*}{\partial x}\Psi\right)\) だから:
🔵 カイ: なるほど、「\(x\) の微分の形に書けないか?」と試してみたら、うまくいったんですね。
🟡 リナ: そう。なぜこの形を探すかというと、もし \(\frac{\partial\rho}{\partial t} = \frac{\partial(\text{何か})}{\partial x}\) と書ければ、全空間で積分したとき右辺が境界値だけになって、確率の保存が示せるから。物理的な動機が先にあるの。
⚪ メイ: 「どういう形にまとめたいか」をゴールから逆算しているのね。
🟡 リナ: 式 (7.27) の右辺を見ると、\(\frac{i\hbar}{2m}\left(\Psi^*\frac{\partial\Psi}{\partial x} - \frac{\partial\Psi^*}{\partial x}\Psi\right)\) の \(x\) 微分の形になっている。つまり \(\frac{\partial}{\partial t}|\Psi|^2 = \frac{\partial}{\partial x}(\text{何か})\) という構造ね。これは流体力学の質量保存と同じ形——「密度の時間変化 = 流れの空間変化」。流体力学では \(\frac{\partial\rho}{\partial t} + \frac{\partial j}{\partial x} = 0\) と書いて、\(j\) を「流れ」と呼ぶの。この形に合わせるために、右辺を \(-\frac{\partial j}{\partial x}\) と書きたい。式 (7.27) は \(\frac{\partial}{\partial t}|\Psi|^2 = \frac{\partial}{\partial x}\left[\frac{i\hbar}{2m}(\cdots)\right]\) だから、\(\frac{\partial}{\partial t}|\Psi|^2 = -\frac{\partial j}{\partial x}\) にするには \(j = -\frac{i\hbar}{2m}(\cdots)\) と定義すればいい。\(-\frac{i\hbar}{2m}\) は \(\frac{\hbar}{2mi}\) と書いても同じよ。確認すると、\(\frac{1}{i} = \frac{1}{i}\cdot\frac{-i}{-i} = \frac{-i}{1} = -i\) だから、\(\frac{\hbar}{2mi} = \frac{\hbar}{2m}\cdot\frac{1}{i} = \frac{\hbar}{2m}\cdot(-i) = -\frac{i\hbar}{2m}\)。教科書によって表記が異なるので、ここでは \(\frac{\hbar}{2mi}\) の形を採用して確率流密度(probability current density)\(j(x,t)\) を定義するわ:
こう定義すれば、式 (7.27) は \(\frac{\partial}{\partial t}|\Psi|^2 = -\frac{\partial j}{\partial x}\) という綺麗な形になる。確認してみて——式 (7.27) の右辺は \(\frac{\partial}{\partial x}\left[\frac{i\hbar}{2m}(\cdots)\right]\) で、\(j = -\frac{i\hbar}{2m}(\cdots)\) だから、右辺 \(= \frac{\partial}{\partial x}\left[-j\right] = -\frac{\partial j}{\partial x}\)。
🔵 カイ: なるほど、\(\frac{i\hbar}{2m}\) と \(j\) の符号が逆だから、\(x\) 微分すると \(-\frac{\partial j}{\partial x}\) になるんですね。
🟡 リナ: その通り。マイナス符号の物理的意味は「確率密度が増える場所では確率流が流れ込んでいる」——流入と密度増加が同じ符号になるように定義しているの。
🔵 カイ: 確率流 \(j\) の定義式 (7.28) って、何か物理的なイメージはあるんですか? 式だけ見ると複雑で……。
🟡 リナ: いい質問ね。物理的には、\(\hat{p} = -i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\) だから \(\frac{\hat{p}}{m} = \frac{-i\hbar}{m}\frac{\partial}{\partial x}\) で、これは古典力学の「速度 = 運動量/質量」の量子版ね。別の書き方として \(j = \text{Re}\left[\Psi^*\frac{-i\hbar}{m}\frac{\partial\Psi}{\partial x}\right]\) とも表せる。ここで注意してほしいのは、\(\frac{\partial}{\partial x}\) は「その右隣にある関数を微分する」という意味で、\(\Psi^*\) はすでに微分の左側にあるから微分されない——つまり \(\Psi^* \times \frac{-i\hbar}{m}\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) という掛け算を計算してから実部を取る、という順番よ。実際に確認してみると、\(z = \Psi^*\frac{-i\hbar}{m}\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) と置いたとき、\(\text{Re}(z) = \frac{z + z^*}{2}\) を使えば \(z^* = \Psi\frac{i\hbar}{m}\frac{\partial\Psi^*}{\partial x}\)(\(i\) の符号が反転し、\(\Psi\) と \(\Psi^*\) が入れ替わる)だから、\(\frac{z + z^*}{2} = \frac{-i\hbar}{2m}\!\left(\Psi^*\frac{\partial\Psi}{\partial x} - \frac{\partial\Psi^*}{\partial x}\Psi\right) = \frac{\hbar}{2mi}\!\left(\Psi^*\frac{\partial\Psi}{\partial x} - \frac{\partial\Psi^*}{\partial x}\Psi\right)\) となって式 (7.28) と一致する——練習問題 問題 M-3. 確率流密度の計算 で自分の手で確認してみてね。つまりこれは「速度演算子 \(\hat{v} = \hat{p}/m\) を \(\Psi^*\) と \(\Psi\) で挟んだものの実部」で、古典的な「密度 × 速度 = 流れ」の量子版と解釈できるわ。
🔵 カイ: 古典力学の「流れ = 密度 × 速度」が、量子力学では演算子を使った形になるんですね。
🟡 リナ: そう。したがって式 (7.27) は \(\frac{\partial}{\partial t}|\Psi|^2 = -\frac{\partial j}{\partial x}\) と書ける。移項すると:
🟡 リナ: この形の方程式は連続の方程式(continuity equation)と呼ばれるの。流体力学で「質量が湧いたり消えたりしない」ことを表す式と全く同じ構造よ。確率密度 \(\rho = |\Psi|^2\) が「確率の密度」、\(j\) が「確率の流れ」を表す。確率が湧いたり消えたりしない——つまり確率が局所的に保存されることを意味しているの。図 7.5「確率流と確率保存」 で波束が移動しながらも全確率が保たれるイメージを見ておいて。なお、一般には波束は移動しながら時間とともに広がる(分散する)けれど、全確率 \(\int|\Psi|^2 dx = 1\) は常に保たれる——これが連続の方程式の意味よ。
⚪ メイ: 流体の質量保存と同じ形で確率の保存が表現されるのね。形が変わっても「総量」は変わらない。
図 7.5: 確率流と確率保存。波束が時間とともに移動する様子(ここでは分散を無視した模式図)。波束の形は一般には時間とともに広がるが、全空間での積分 \(\int|\Psi|^2 dx = 1\) は常に保たれる。確率流 \(j(x,t)\) が「確率の流れ」を表す。
🔵 カイ: で、全空間の積分が一定になることは?
🟡 リナ: 連続の方程式 (7.29) の両辺を \(-\infty\) から \(+\infty\) まで \(x\) で積分すると、左辺は \(\frac{d}{dt}\int|\Psi|^2 dx\)、右辺は \(-\int_{-\infty}^{+\infty}\frac{\partial j}{\partial x}\,dx\) になる。高校で学んだ微積分の基本定理 \(\int_a^b f'(x)dx = f(b) - f(a)\) を使うわ。ここでは \(\int_{-\infty}^{+\infty}\left(-\frac{\partial j}{\partial x}\right)dx\) だから、\(-j\) を「\(x\) で微分する前の関数」と見なして:
ここで \(\int_{-\infty}^{+\infty}\frac{\partial j}{\partial x}dx = [j]_{-\infty}^{+\infty} = j(+\infty) - j(-\infty)\) は微積分の基本定理そのもの。全体にマイナスが付いているから、\(-(j(+\infty) - j(-\infty)) = j(-\infty) - j(+\infty)\) と符号が反転するの。
物理的に意味のある波動関数は \(x \to \pm\infty\) で十分速く 0 に近づくから、\(j(\pm\infty, t) = 0\) で右辺は 0:
🔵 カイ: すごい! 一度規格化すれば、ずっと規格化されたまま。
🟡 リナ: これは Schrödinger 方程式の内部整合性を示す重要な結果よ。もしこの性質がなかったら、確率解釈そのものが破綻してしまう。
⚪ メイ: つまり、方程式の数学的構造から確率保存が出てくるのね。後付けで条件を加えたわけじゃなく。
🟡 リナ: そう。もっと言えば、第 6 章で確率保存(\(|C_1|^2 + |C_2|^2 = 1\) が時間に依存しないこと)を確認したわよね。あれの位置表示での表現がこれなの。状態ベクトルの「長さ」——位置表示では \(\int|\Psi|^2\,dx\)——が時間発展で保存される。この性質をユニタリー性と呼ぶの。
✅ 理解度チェック: 確率保存の証明(式 7.26)で、ポテンシャル \(V(x)\) を含む項が打ち消し合うのはなぜでしょうか? もし \(V(x)\) が複素数だったらどうなるでしょうか?
答え
\(V(x)\) が実数であるため、\(\Psi^*(-\frac{i}{\hbar}V\Psi)\) と \((\frac{i}{\hbar}V\Psi^*)\Psi\) が正確に打ち消し合う。もし \(V(x)\) が複素数なら打ち消しが不完全になり、確率が保存されなくなる。つまり、ポテンシャルが実数であることは確率保存の必要条件である。
✅ 理解度チェック: 連続の方程式 (7.29) の物理的意味を、「ある領域内の確率の増減」と「確率流」の関係として説明してみましょう。
答え
区間 \([a, b]\) 内の確率 \(P_{ab} = \int_a^b |\Psi|^2 dx\) の時間変化率は \(\frac{dP_{ab}}{dt} = j(a,t) - j(b,t)\)。つまり、区間内の確率が増えるのは、左端から流入する確率流が右端から流出する確率流より大きいときだけ。確率は「どこからともなく湧く」ことはなく、必ず隣接領域から流れ込む。
📝 練習問題:
- 平面波 \(\Psi = Ae^{i(kx - \omega t)}\) に対して確率流密度 \(j\) を計算し、古典的な「粒子の流れ」\(\rho v\)(\(\rho\) は確率密度、\(v\) は速度)と比較せよ → 問題 M-3. 確率流密度の計算
7.7 波動関数の規格化と物理的要請¶
🟡 リナ: 確率保存の議論から、波動関数が満たすべき物理的条件をまとめておきましょう。
規格化条件¶
🟡 リナ: まず最も基本的な条件:
これは「粒子は必ずどこかにいる」ことの数学的表現よ。
🔵 カイ: もし Schrödinger 方程式を解いて得た \(\Psi\) の積分が 1 にならなかったら?
🟡 リナ: 線形方程式だから、解に定数を掛けても解のまま。積分が有限値 \(N\) になるなら、\(\Psi/\sqrt{N}\) に置き換えれば規格化できる。ただし、積分が発散する(無限大になる)場合は規格化できない——そのような関数は物理的な状態を表さないの。
⚪ メイ: 平面波 \(e^{ikx}\) はまさにそうね。\(\int_{-\infty}^{+\infty}|e^{ikx}|^2 dx = \int_{-\infty}^{+\infty}1\,dx = \infty\)。
🟡 リナ: そう。平面波は「確定した運動量の状態」という理想化で、物理的には波束として重ね合わせて使う必要がある。数学的には便利な道具だけれど、単独では規格化できない。
連続性と滑らかさ¶
🟡 リナ: 次に、波動関数が満たすべき滑らかさの条件:
- \(\Psi(x,t)\) は連続でなければならない
- \(\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) も連続でなければならない(ポテンシャルが有限の場合)
🔵 カイ: なぜ滑らかでないといけないんですか?
🟡 リナ: 2 つの理由があるわ。第一に、確率流 \(j\)(式 7.28)には \(\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) が含まれるから、これが不連続だと確率流が定義できない。第二に、Schrödinger 方程式の右辺に \(\frac{\partial^2\Psi}{\partial x^2}\) があるから、\(\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) が不連続だと 2 階微分が定義できない。
⚪ メイ: つまり、Schrödinger 方程式が意味を持つためには、波動関数は少なくとも 2 回微分可能でなければならないのね。
🟡 リナ: ただし例外がある。ポテンシャルが無限大に跳ぶ点(無限に高い壁)では、\(\frac{\partial\Psi}{\partial x}\) の連続性は要求されない。これは 第 9 章で具体的に見るわ。
境界条件のまとめ¶
🟡 リナ: 物理的に許される波動関数の条件をまとめると:
表 7.2: 波動関数の境界条件一覧
| 条件 | 数学的表現 | 物理的理由 |
|---|---|---|
| 規格化可能 | $\int | \Psi |
| 連続 | \(\Psi\) に不連続点なし | 確率密度が一意に定まる |
| 滑らかな接続 | \(\partial\Psi/\partial x\) 連続 | 確率流が保存される |
| 無限遠で 0 | \(\Psi \to 0\) (\(x \to \pm\infty\)) | 粒子は無限遠にいない |
🔵 カイ: この条件が、エネルギーの量子化を生むんですよね? 「どんな \(E\) でも解がある」わけじゃなくて、これらの条件を満たせる \(E\) だけが許される。
🟡 リナ: その通り! それが量子力学の核心。第 9 章で井戸型ポテンシャルや調和振動子を具体的に解くとき、境界条件がどのようにエネルギーを選別するかを見ていくわ。
✅ 理解度チェック: 波動関数に対する4つの物理的要請(規格化可能・連続・滑らかな接続・無限遠で0)のうち、エネルギーの量子化を生む原因となるのはどれでしょうか?
答え
これらの条件すべてが組み合わさってエネルギーの量子化を生む。特に、規格化可能性(\(\Psi \to 0\) at \(x \to \pm\infty\))と連続性・滑らかさの条件を同時に満たす解は、任意のエネルギー \(E\) では存在せず、特定の離散的な \(E_n\) に対してのみ存在する。境界条件が解の存在を制限することで、許されるエネルギーが選別される。
✅ 理解度チェック: 波動関数 \(\Psi(x) = A\) (定数)は規格化可能でしょうか? 理由を述べてください。
答え
規格化不可能。\(\int_{-\infty}^{+\infty}|A|^2 dx = |A|^2 \cdot \infty = \infty\) で発散するため。
7.8 Feynman の視点 — 格子から連続空間へ¶
🟡 リナ: ここで、Schrödinger 方程式がどこから来るのかについて、もう一つ別の視点を紹介しておくわ。Feynman (ファインマン) が『ファインマン物理学』で示した美しいアプローチよ。
🔵 カイ: さっきの導出とは違うんですか?
🟡 リナ: さっきは「de Broglie 波の性質から方程式を読み取る」アプローチだった。Feynman のアプローチは「結晶格子の電子の方程式から、格子間隔を 0 にする極限で Schrödinger 方程式を導く」というもの。
🟡 リナ: 一直線上に間隔 \(b\) で並んだ原子の列を考える。\(n\) 番目の原子の位置を \(x_n = nb\) と書くわ。電子が時刻 \(t\) に \(n\) 番目の原子にいる確率振幅を \(C(x_n)\) と書く——第 6 章の \(C_1, C_2\) と同じものだけれど、原子が無限個あるから番号 \(n\) の代わりに位置 \(x_n\) で指定する方が、後で連続極限を取るときに便利なの(本当は \(t\) にも依存するけれど、簡潔に書くわね)。第 6 章のアンモニア分子では、2 つの配置の間を振幅 \(A\) で行き来したわね。あれと同じ考え方で、電子が隣の原子に「飛び移る」確率振幅を \(A\)(\(A > 0\))とする。すると、\(n\) 番目の原子にいる振幅の時間発展は、第 6 章の \(i\hbar\frac{dC_i}{dt} = \sum_j H_{ij}C_j\) と同じ構造で:
- 対角要素 \(H_{nn} = E_0\)(隣に飛び移らず \(n\) 番目に留まるときのエネルギー):\(E_0 C(x_n)\)
- 右隣 \((n+1)\) との結合(非対角要素 \(H_{n,n+1} = -A\)、第 6 章の \(H_{12} = -A\) と同じ構造):\(-A C(x_n + b)\)
- 左隣 \((n-1)\) との結合(非対角要素 \(H_{n,n-1} = -A\)):\(-A C(x_n - b)\)
これらを合わせると:
🔵 カイ: 第 6 章のアンモニアメーザーの一般化ですね! 2 つの状態の代わりに無限個の原子がある。
🟡 リナ: この構造を 図 7.6「Feynman の格子モデル」 に描いたから確認してみて。
図 7.6: Feynman の格子モデル。間隔 \(b\) で並んだ原子上の電子。\(n\) 番目の原子にいる振幅は自分自身のエネルギー \(E_0\) と左右の隣接原子への結合 \(-A\) によって時間発展する。格子間隔 \(b \to 0\) の極限で連続空間の Schrödinger 方程式が現れる。
🔵 カイ: 隣から「飛び込んでくる」のに、なぜ符号がマイナスなんですか?
🟡 リナ: 第 6 章のアンモニア分子の方程式を思い出して。あのとき \(i\hbar\frac{dC_1}{dt} = H_{11}C_1 + H_{12}C_2\) で、\(H_{12} = -A\)(\(A > 0\))と置いたわね。その結果、固有値が \(E_0 + A\) と \(E_0 - A\) に分裂して、低い方のエネルギーが \(E_0 - A\) になった——つまり結合があるとエネルギーが下がったの。ポイントは「\(-A\) のマイナスは単なる規約」ということ。\(A > 0\) と決めておいて非対角要素を \(-A\) と書けば、結合の結果としてエネルギーが \(E_0\) より下がる(\(E_0 - A < E_0\))。もし \(+A\) と書いたら逆にエネルギーが上がることになって、「隣に飛び移れると安定になる」という物理に合わない。高校化学で「共有結合を作ると安定になる(エネルギーが下がる)」と学んだわよね? それと同じで、隣の原子に飛び移れる電子は、1 つの原子に閉じ込められた電子よりエネルギーが低い。だから \(-A\) と書くの。
⚪ メイ: 符号の規約が「結合するとエネルギーが下がる」という物理を反映しているのね。
🟡 リナ: そう。右辺を少し整理するわ。目標は「隣との差」を 2 階微分の形に持っていくこと。2 階微分 \(\frac{d^2f}{dx^2}\) は「関数の曲がり具合」を表すけれど、離散的な格子では「真ん中の値と両隣の平均のずれ」で近似できるの。具体的には \(f''(x) \approx \frac{f(x+b) - 2f(x) + f(x-b)}{b^2}\)——分子に注目すると「両隣の値を足して、真ん中の 2 倍を引く」形ね。符号を反転すれば \(2f(x) - f(x+b) - f(x-b) \approx -b^2 f''(x)\)。式 (7.33) の右辺にこの形を作り出したいから、\(+2AC(x_n) - 2AC(x_n) = 0\) を加えてみる:
この 5 つの項を 2 グループに分けるの。\(E_0 C(x_n)\) と \(-2AC(x_n)\) を組にして \((E_0 - 2A)C(x_n)\)。残りの \(+2AC(x_n) - AC(x_n+b) - AC(x_n-b)\) からは \(A\) をくくり出して \(A[2C(x_n) - C(x_n+b) - C(x_n-b)]\)。合わせると:
🔵 カイ: あ、\(E_0 C - 2AC\) をまとめて \((E_0 - 2A)C\) にして、残りを大括弧に入れたんですね。大括弧の中身は「真ん中の値の 2 倍から両隣を引いたもの」——これが 2 階微分に化けるんですか?
🟡 リナ: その通り! まさにそこがポイント。でもその前に一つ片付けておくわ。\((E_0 - 2A)\) は定数のエネルギーシフトに過ぎない——高校物理で位置エネルギーの基準点を自由に選べたのと同じで、エネルギーの「ゼロ」をどこに置くかは物理に影響しないの。
🔵 カイ: えっ、でも \(E_0\) は原子に留まるエネルギーで、\(A\) は隣に飛び移る結合の強さですよね? それを消しちゃっていいんですか?
🟡 リナ: いい確認ね。ここで重要なのは「エネルギーの差」だけ。全体に定数を足し引きしても、時間発展の式では \(e^{-i(E_0-2A)t/\hbar}\) という共通の位相因子が掛かるだけで、確率密度 \(|\Psi|^2\) には影響しない——第 6 章で「全体の位相は物理に影響しない」と学んだのと同じ理屈よ。だからエネルギーの原点を \(E_0 - 2A = 0\) となるように選んで消してしまう。すると大括弧の中身だけが残る。さて、カイの質問に答えましょう。🟡 リナ: \(C(x)\) が滑らかな関数なら、Taylor 展開(テイラー展開)で近似できる。Taylor 展開とは、関数の値を「その点での微分係数」を使って近くの点の値を表す方法よ。直感的には、\(f(x+b)\) を \(b\) のべき級数で書くと \(f(x+b) = f(x) + bf'(x) + \frac{b^2}{2}f''(x) + \cdots\) となる(\(f'\) は 1 回微分、\(f''\) は 2 回微分の略記よ)。第 1 項は「元の値」、第 2 項は「傾き × ずれ幅」で 1 次の補正、第 3 項は「曲がり具合による 2 次の補正」ね。\(b\) が小さいほど高次の項は急速に小さくなるから、精度が良くなる。
🔵 カイ: 具体的にはどういうことですか?
🟡 リナ: 例えば \(f(x) = x^2\) で試してみて。\(f(x+b) = (x+b)^2 = x^2 + 2xb + b^2\)。一方、Taylor 展開の公式に当てはめると \(f(x) + bf'(x) + \frac{b^2}{2}f''(x) = x^2 + b(2x) + \frac{b^2}{2}(2) = x^2 + 2xb + b^2\)。ぴったり一致するわね。ここで \(\frac{b^2}{2}\) の \(\frac{1}{2}\) がどこから来るか気になるかもしれないけれど、\(x^2\) の例を見ると分かるわ——\((x+b)^2\) を展開すると \(b^2\) の項の係数は \(1\) よね。一方 \(f''(x) = 2\) だから、\(f''\) に \(\frac{b^2}{2}\) を掛けると \(\frac{b^2}{2} \times 2 = b^2\) で正しく再現される。つまり \(\frac{1}{2}\) は「2 回微分すると余分な 2 が出るのを打ち消す」ための係数なの。一般には \(n\) 次の項の係数は \(\frac{1}{n!}\)(\(n\) の階乗、\(n! = n \times (n-1) \times \cdots \times 2 \times 1\))になる。詳しくは Appendix B を参照してね。一般の関数では近似だけれど、\(b\) が小さければ非常に良い近似になる。
🔵 カイ: なるほど、\(x^2\) ではぴったり一致するけど、一般の関数では \(b\) が小さいほど精度が上がる近似なんですね。
🟡 リナ: これを使うと:
この 2 つを足すと、1 次の項(\(+b\frac{\partial C}{\partial x}\) と \(-b\frac{\partial C}{\partial x}\))が打ち消し合って:
⚪ メイ: \(+b\) と \(-b\) を足したから 1 次の項(\(\pm b\frac{\partial C}{\partial x}\))が打ち消し合って、2 階微分の項だけ残ったのね。
🔵 カイ: \(Ab^2\) を何かに置き換えるんですか?
🔵 カイ: でも、なぜ「隣の原子だけ」に飛び移るんですか? 2 つ先の原子に直接飛ぶことはないんですか?
🟡 リナ: いい質問ね。実は 2 つ先への飛び移りも原理的にはあり得るけれど、その振幅は隣への振幅 \(A\) よりずっと小さいの。量子トンネル効果は距離が離れるほど指数関数的に弱くなるから、最も近い隣だけを考えるのが良い近似になる。これを「最近接近似」と呼ぶわ。
🟡 リナ: さて、式 (7.35) を式 (7.34)(\(E_0 - 2A = 0\) とした後)に代入してみて:
これが自由粒子の Schrödinger 方程式 (7.11) と一致するためには、\(Ab^2 = \hbar^2/(2m)\) でなければならない。逆に言えば、格子モデルのパラメータ \(A\) と \(b\) から粒子の有効質量が \(m = \hbar^2/(2Ab^2)\) と決まるの。こうして:
🔵 カイ: 自由粒子の Schrödinger 方程式だ! 格子の離散的な方程式の連続極限として出てくるんですね。でも \(Ab^2 = \hbar^2/(2m)\) ということは、\(b \to 0\) にするとき \(A\) はどんどん大きくなるんですか?
⚪ メイ: \(A = \hbar^2/(2mb^2)\) だから、\(b\) が半分になると \(A\) は 4 倍——確かに \(b \to 0\) で \(A \to \infty\) ね。
🟡 リナ: そう。格子間隔 \(b\) が小さくなるほど、隣の原子に飛び移る振幅 \(A\) は大きくなる——隣が近いほど飛び移りやすいと思えば自然よね。\(A \propto 1/b^2\) で増えながら \(b \to 0\) にすることで、有限の質量 \(m\) を持つ粒子の連続空間での運動が再現されるの。ポテンシャルがある場合はどうなるかというと——
🟡 リナ: 格子モデルでは、各原子の位置に応じてエネルギー \(E_0\) が場所ごとに異なる——つまり \(E_0 \to E_0 + V(x_n)\) と置き換えれば、連続極限で \(V(x)\Psi\) の項が自然に現れるの。でも Feynman 自身が強調しているように、これは厳密な「導出」ではなく、Schrödinger 方程式の物理的動機を与える「手がかり」よ。最終的には、Schrödinger 方程式は実験と合致する仮説として受け入れられるもの。でも、離散系の量子力学(第 4〜6 章で学んだもの)と連続空間の量子力学が自然につながることを示す、美しい視点ね。
⚪ メイ: 第 5〜6 章の有限次元の話と、この章の連続空間の話が、格子モデルを通じて一本の線でつながるのね。
✅ 理解度チェック: Feynman の格子モデルで、格子間隔 \(b \to 0\) の極限を取る際に \(Ab^2\) を一定に保つ理由は何でしょうか?
答え
\(Ab^2 = \hbar^2/(2m)\) は粒子の質量を決める量。\(b \to 0\) で \(A\) だけを固定すると \(Ab^2 \to 0\) となり、運動エネルギー項が消えてしまう。物理的に意味のある連続極限を得るには、\(A\) を \(b^{-2}\) に比例して大きくしながら \(b \to 0\) とする必要がある。
7.9 全体のまとめ — Schrödinger 方程式の構造¶
🟡 リナ: この章で導入した体系を整理しましょう。メイ、まとめてくれる?
⚪ メイ: やってみるわ。
表 7.3: Schrödinger方程式の基本概念の整理
| 概念 | 数学的表現 | 物理的意味 |
|---|---|---|
| 波動関数 | \(\Psi(x,t) = \langle x\vert\phi(t)\rangle\) | 位置 \(x\) で粒子を見つける確率振幅 |
| 確率密度 | \(\rho(x,t) = \lvert\Psi(x,t)\rvert^2\) | 単位長さあたりの発見確率 |
| 時間発展 | \(i\hbar\frac{\partial\Psi}{\partial t} = \hat{H}\Psi\) | Schrödinger 方程式 |
| ハミルトニアン | \(\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2} + V(x)\) | エネルギー演算子 |
| 運動量演算子 | \(\hat{p} = -i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\) | 運動量を取り出す演算子 |
| 定常状態 | \(\hat{H}\psi_n = E_n\psi_n\) | エネルギー固有状態 |
| 確率保存 | \(\frac{\partial\rho}{\partial t} + \frac{\partial j}{\partial x} = 0\) | 連続の方程式 |
🔵 カイ: こうして並べると構造が見えてきた気がします。Newton 力学の \(F = ma\) みたいに、「方程式を解いて何かを求める」っていう構造は同じなんですか?
🟡 リナ: いい着眼点ね。まさにその通りで、対比を表にまとめておくわ。一つ注目してほしいのは「微分の階数」の違い。Newton の運動方程式は時間の 2 階微分(加速度)を含むから、初期条件として位置と速度の 2 つが必要。一方、Schrödinger 方程式は時間の 1 階微分だから、初期条件は \(\Psi(x,0)\) だけで十分——それだけで将来が決まるの。
表 7.4: Newton 力学と量子力学の構造比較
| Newton 力学 | 量子力学 | |
|---|---|---|
| 基本方程式 | \(F = ma\)(Newton の運動方程式) | \(i\hbar\frac{\partial\Psi}{\partial t} = \hat{H}\Psi\)(Schrödinger 方程式) |
| 求めるもの | 位置 \(x(t)\) | 波動関数 \(\Psi(x,t)\) |
| 意味 | 粒子の確定した軌道 | 確率振幅の分布 |
| 初期条件 | 位置 \(x(0)\) と速度 \(v(0)\) | 波動関数 \(\Psi(x,0)\) |
| 測定結果 | 決定論的(確定した位置が得られる) | 確率的(\(\|\Psi\|^2\) が確率密度を与える) |
| 時間発展 | 決定論的(初期条件から \(x(t)\) が一意に決まる) | 決定論的(初期条件から \(\Psi(x,t)\) が一意に決まる)※測定結果は確率的 |
| 微分の階数 | 時間 2 階 | 時間 1 階 |
🔵 カイ: でも \(\Psi\) は \(x(t)\) のように「粒子の位置そのもの」を教えてくれるわけじゃないですよね? 7.5「定常状態と時間に依存しない Schrödinger 方程式」でも聞いたけど、改めて全体像の中で確認したいんです。
🟡 リナ: そう。Newton 力学の \(x(t)\) は粒子の「確定した位置」を与える。一方、\(\Psi(x,t)\) は確率振幅であって、「粒子を見つける確率の分布」を与える。個々の測定で粒子がどこに見つかるかは予言できない。
🔵 カイ: 表には「時間発展は決定論的」って書いてあるけど、測定結果は確率的……ってことは、量子力学は決定論的なんですか、確率的なんですか? どっちなんでしょう?
🟡 リナ: 面白いことに、半分だけ決定論的なの。初期条件 \(\Psi(x, 0)\) を与えれば、Schrödinger 方程式は将来のすべての時刻の \(\Psi(x,t)\) を一意に決定する。その意味で波動関数の時間発展は決定論的。でも、「次に測定したら粒子がどこにいるか」は確率的にしか予言できない。
⚪ メイ: つまり、決定論的なのは \(\Psi\) の時間発展であって、個々の測定結果ではないのね。
🔵 カイ: でも、\(\Psi\) の時間発展は決定論的なのに、測定すると確率的になる——その「境目」はどこにあるんですか? 測定って物理的には何が起きているんでしょう?
🟡 リナ: それは量子力学の最も深い問題の一つで、「測定問題」と呼ばれている。この教科書の範囲を超えるけれど、重要な問いね。今の段階では、Schrödinger 方程式が実験と合致する最良の仮説であること——1926 年の提案以来、原子・分子・固体・素粒子のあらゆるスケールで反証されていないこと——を受け入れて先に進みましょう。
🔵 カイ: つまり、Schrödinger 方程式は「測定していない間の時間発展」を記述する方程式で、「測定そのもの」は別の話ということですね。正直まだ気持ち悪いけど……じゃあ逆に聞きたいんですけど、もし測定しなければ \(\Psi\) はずっと決定論的に発展し続けるんですか? 測定しない限り「確率」は出てこない?
🟡 リナ: その通り。測定しない限り、波動関数は Schrödinger 方程式に従って完全に決定論的に発展する。「確率」が顔を出すのは測定の瞬間だけ。この奇妙さは、まさに量子力学の核心にある問題よ。今はまず方程式を使いこなして、何が予測できて何が予測できないのかを体感していきましょう。
🔵 カイ: Newton力学なら \(F = ma\) を解けば「次の瞬間どこにいるか」が分かるのに、Schrödinger 方程式を解いても「次に測定したらどこにいるか」は分からない——同じ「基本方程式を解く」でも、得られるものの性質が根本的に違うんですね。でも、まずは使ってみないと分からないか。
⚪ メイ: 整理すると——Schrödinger 方程式が記述するのは「測定と測定の間」の時間発展で、それは決定論的。でも測定の瞬間に \(|\Psi|^2\) に従って確率的に結果が出る——その二段構えということね。
✅ 理解度チェック: 「量子力学は決定論的である」と「量子力学は確率的である」は矛盾しないでしょうか? どう両立するか説明してみましょう。
答え
波動関数の時間発展(Schrödinger 方程式)は決定論的——初期条件から未来の波動関数が一意に決まる。しかし、波動関数から得られるのは測定結果の確率分布であり、個々の測定結果は確率的にしか予言できない。「状態の発展は決定論的だが、測定結果は確率的」という形で両立する。
📝 練習問題:
- Gaussian 波束 \(\Psi(x, 0) = \left(\frac{2a}{\pi}\right)^{1/4}e^{-ax^2}\) が規格化条件 \(\int_{-\infty}^{+\infty}|\Psi|^2 dx = 1\) を満たすことを確認せよ(Gauss 積分 \(\int_{-\infty}^{+\infty}e^{-\alpha x^2}dx = \sqrt{\pi/\alpha}\) を使ってよい) → 問題 A-1. ガウス波束の時間発展と波束の広がり
次章予告¶
🟡 リナ: この章で Schrödinger 方程式という「舞台装置」が整ったわ。でも、まだ大事な道具が足りない。
🔵 カイ: 何が足りないんですか?
🟡 リナ: 「位置の期待値」「運動量の期待値」をどう計算するか。そして、位置と運動量を同時に正確に決められない——不確定性原理の定量的な表現。第 8 章では、演算子の期待値の計算法を整備し、位置演算子 \(\hat{x}\) と運動量演算子 \(\hat{p}\) の間の「交換関係」と呼ばれる関係式 \([\hat{x}, \hat{p}] = i\hbar\) から、Heisenberg (ハイゼンベルク) の不確定性原理 \(\Delta x\,\Delta p \geq \hbar/2\) を導出する。
⚪ メイ: 確率振幅から「平均」と「ばらつき」を取り出す方法ね。楽しみ。
🟡 リナ: さらに、Ehrenfest (エーレンフェスト) の定理——期待値が古典力学の運動方程式に従うこと——も証明する。量子力学と古典力学の橋渡しがどのように成り立つかが見えてくるわ。
参考文献¶
- D. J. Griffiths, Introduction to Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press (2018), Ch.1: 波動関数の統計的解釈、規格化の時間不変性、演算子の導入
- 広江克彦『趣味で量子力学』, Ch.5: 1 次元 Schrödinger 方程式の具体的な解法、井戸型ポテンシャルの境界条件
- 清水明『新版 量子論の基礎』, Ch.5: 閉じた系の時間発展、ユニタリー発展と確率保存、エネルギー固有状態の時間発展
- R. P. Feynman, R. B. Leighton, M. Sands, The Feynman Lectures on Physics, Vol. III, Ch.16: "The Dependence of Amplitudes on Position" — 格子モデルから連続空間の Schrödinger 方程式への移行、波動関数の確率密度解釈
- J. J. Sakurai, J. Napolitano, Modern Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press (2021), Ch.2: 時間発展演算子、Schrödinger 描像と Heisenberg 描像、エネルギー固有ケットの展開
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