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第 1 章 惑星はなぜあのように動くのか? — Newton 力学の誕生


前回までのあらすじ: プロローグで、私たちは 3 つのことを確認した。(1) 物理学のモデルは全て仮説に過ぎない。(2) 数式で書くからこそ定量的な予測ができ、反証可能になる。(3) モデルを生む動機は「実用的な必要性」と「純粋な好奇心」の 2 種類がある。この章から、その具体例を見ていく。最初の例は、人類史上最も成功したモデルの一つ——Newton の万有引力だ。

この章のゴール

  • 「一つのモデルから多くの現象を統一的に説明する」という物理学の方法論が確立された物語を追体験する
  • Newton の万有引力のモデルがどういう動機で生まれ、何を予測でき、何を説明できないのかを理解する

1.1 動機:惑星はなぜあのように動くのか?

🟡 リナ: さて、プロローグで「モデルは仮説」「数式で書くから検証できる」という話をしたわね。今日からは具体的なモデルを見ていく。最初の問いはこれ。惑星はなぜあのように動くのか?

🔵 カイ: 太陽の周りを回ってるんですよね。それは知ってます。

🟡 リナ: そう。でも「回っている」というのは観測事実であって、「なぜ回っているのか」の説明にはなっていない。この「なぜ」に、一つのモデルで統一的に答えたのが Isaac Newton なの。

⚪ メイ: Newton の前にも、惑星の運動を記述した人はいたわよね。Kepler とか。

🟡 リナ: いいところに気づいたわね。Newton のモデルを理解するには、まず Kepler の仕事を知っておく必要がある。二人の仕事の違いを整理しておくわね。

表 1.1: Kepler と Newton の仕事の対比

Kepler Newton
問い 何が起きているか? なぜそうなるのか?
手法 観測データからパターンを抽出 原理(モデル)から現象を導出
成果 3つの経験法則 万有引力の法則
説明範囲 惑星の軌道のみ 地上の落下から天体まで統一
比例定数 「こういう関係がある」 「定数の正体は太陽の質量」

🔵 カイ: この表で言う「説明範囲」の差がすごいですね。Kepler は惑星だけなのに、Newton は地上の現象まで含むんですか。

🟡 リナ: そう。一つのモデルで「より広い範囲を統一的に説明できる」——これが物理学のモデルの威力なの。この章全体を通してそれを見ていくわ。

✅ 理解度チェック: Kepler の仕事に対して、Newton が新たに答えた問いは何でしょうか?

答え

「惑星はなぜそのように動くのか」という、運動の原因(なぜ)に関する問い。Kepler は「何が起きているか」を記述しただけだった。


1.2 Kepler の 3 法則 — 「何が起きているか」の記述

🟡 リナ: 17 世紀初頭、Johannes Kepler は Tycho Brahe の膨大な天体観測データを分析して、惑星の運動に関する 3 つの規則性を見出した。

🔵 カイ: 高校で習いました! えーと……

🟡 リナ: 一つずつ見ていきましょう。図 1.1「ケプラーの3法則の図解」に 3 法則の全体像を図にしておいたから、各法則の説明を聞きながら対応する部分を確認してみて。

ケプラーの3法則の図解

図 1.1: ケプラーの3法則の図解。第 1 法則:楕円軌道と焦点の位置。第 2 法則:面積速度一定(太陽に近いほど速い)。第 3 法則:\(T^2 \propto a^3\) の関係。

第 1 法則:楕円軌道

🟡 リナ: 惑星は太陽を一つの焦点とする楕円(ellipse)の上を動く。

🔵 カイ: 円じゃなくて楕円なんですよね。

🟡 リナ: そう。当時は「天体は完全な円運動をする」というのが常識だった。Kepler はデータに忠実に、楕円だと結論づけた。これは大きな知的勇気だったの。

第 2 法則:面積速度一定

🟡 リナ: 惑星と太陽を結ぶ線分が、単位時間に掃く面積は一定。つまり、太陽に近いときは速く動き、遠いときは遅く動くの。

🔵 カイ: なんで近いと速くなるんですか?

🟡 リナ: 大まかなイメージで言うと、三角形の面積は「底辺×高さ÷2」でしょう? 太陽に近いと底辺にあたる距離が短くなるから、同じ面積を稼ぐには高さにあたる速さで補う必要があるの。厳密には速度の向きも関係するけど、「近いほど速い」という定性的な結論は正しいわ。

🔵 カイ: あ、底辺が短い分だけ高さ——つまり速さ——で稼がないと面積が足りなくなるってことか。でも、なんで面積速度が一定になるんですか? たまたま? 他の法則——たとえば「面積速度が距離に比例する」とか——でも辻褄が合いそうな気がするんですけど。

⚪ メイ: 今の段階では「こういう規則性がある」という記述よね。「なぜ一定なのか」は Newton のモデルで初めて説明される、ということね。

🟡 リナ: その通り。面積速度一定の「なぜ」は、Newton のモデルから導かれる結論なの。今は「こういうパターンがある」という事実だけ押さえておいて。

🟡 リナ: 数式で書くと、ごく短い時間 \(dt\) の間に惑星と太陽を結ぶ線分が掃く微小な面積を \(dA\) とするわ(\(d\) は「微小な」を意味する記号で、\(dA/dt\) は「\(A\) の時間変化率」——高校で習った \(dx/dt\) が速度を表すのと同じ記法よ)。\(\frac{dA}{dt}\) は「単位時間あたりに掃く面積」——これを面積速度と呼ぶの。第 2 法則は、この面積速度がどの瞬間でも同じ値だと言っている:

\[\frac{dA}{dt} = \text{const}\]

第 3 法則:調和法則

🟡 リナ: 惑星の公転周期 \(T\) の 2 乗は、軌道の長半径 \(a\) の 3 乗に比例する。長半径というのは、楕円の中で最も長い直径(長軸)の半分の長さよ。楕円が円に近づくと、長半径は円の半径と一致する。

\[T^2 \propto a^3\]

🔵 カイ: これ、すごくきれいな関係ですよね。

🟡 リナ: そう。でもここで大事なのは、Kepler の 3 法則は「何が起きているか」を記述しているだけで、「なぜそうなるのか」は説明していないということ。

🔵 カイ: 確かに、「楕円を描く」って言われても、なぜ楕円なのかは分からないですよね。

⚪ メイ: そう。なぜ面積速度が一定なのか、なぜ \(T^2 \propto a^3\) なのかも。Kepler の法則は「何が起きているか」の記述であって、理由は別の話ということね。

🟡 リナ: その「なぜ」に答えたのが Newton。

✅ 理解度チェック: Kepler は誰の観測データを分析して 3 法則を見出したでしょうか?

答え

Tycho Brahe の膨大な天体観測データ。

✅ 理解度チェック: Kepler の第 3 法則を数式で書くとどうなるでしょうか?

答え

\(T^2 \propto a^3\)(公転周期の 2 乗が軌道の長半径の 3 乗に比例する)。


1.3 Newton の万有引力 — 「なぜそうなるか」のモデル

🟡 リナ: Newton のアイデアは、驚くほどシンプルだった。全ての物体は、互いに引き合う力を及ぼし合う。その力の大きさは:

\[F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\]

ここで \(m_1\), \(m_2\) は二つの物体の質量、\(r\) は二つの物体の間の距離、\(G\) は万有引力定数(\(G \approx 6.67 \times 10^{-11}\;\mathrm{m^3\,kg^{-1}\,s^{-2}}\))。

🔵 カイ: 高校で習いましたけど、こうやって見ると改めてシンプルですね。

🟡 リナ: そう。でも、このたった一つの式から、Kepler の 3 法則が全て導出できるの。実際にやってみましょう。

Kepler の第 3 法則の導出(円軌道近似)

🔵 カイ: え、本当に? あのシンプルな式だけで?

🟡 リナ: 話を簡単にするために、まず惑星の軌道が円だと近似するわ。質量 \(m\) の惑星が質量 \(M\) の太陽の周りを半径 \(r\) の円軌道で回っているとする。

🔵 カイ: 楕円じゃなくて円でいいんですか?

🟡 リナ: 一般の楕円で証明するには大学レベルの微分方程式が必要なの。でも円は楕円の特殊な場合だし、結論の \(T^2 \propto a^3\) は楕円でも厳密に成り立つ。まずは本質を掴むことが大事よ。

🟡 リナ: この状況を図 1.2「円軌道における万有引力と向心力の関係」に示しておくわ。円運動を維持するには、向心力(中心に向かう力)が必要よね。高校で習ったように、速さ \(v\) で半径 \(r\) の円運動をする質量 \(m\) の物体に必要な向心力は:

円軌道における力の釣り合い

図 1.2: 円軌道における万有引力と向心力の関係。惑星は速度 \(v\) で円軌道上を運動し、太陽からの万有引力 \(F = GMm/r^2\) が向心力を提供する。

\[F_{\text{向心}} = \frac{mv^2}{r}\]

🔵 カイ: で、その向心力を提供しているのが万有引力ってことですね。

🟡 リナ: その通り。万有引力が向心力を提供するから、二つを等しく置く:

\[\frac{mv^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\]

両辺を \(m\) で割ると:

\[\frac{v^2}{r} = \frac{GM}{r^2}\]

整理すると:

\[v^2 = \frac{GM}{r}\]

⚪ メイ: ここまでは高校の範囲ね。

🟡 リナ: 次に、円軌道の周期 \(T\) を使って速さ \(v\) を書き換える。円周は \(2\pi r\) だから:

\[v = \frac{2\pi r}{T}\]

これを \(v^2 = GM/r\) に代入すると:

\[\left(\frac{2\pi r}{T}\right)^2 = \frac{GM}{r}\]

左辺の 2 乗を計算すると:

\[\frac{4\pi^2 r^2}{T^2} = \frac{GM}{r}\]

\(T^2\) を左辺に集めたいから、両辺に \(T^2\) を掛けて(左辺の分母が消える):

\[4\pi^2 r^2 = \frac{GM \cdot T^2}{r}\]

右辺の分母の \(r\) を消すために、さらに両辺に \(r\) を掛けて(右辺の分母が消える):

\[4\pi^2 r^3 = GM \cdot T^2\]

\(T^2\) について解くと:

\[\boxed{\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}}\]

🔵 カイ: おお! 右辺は全部定数じゃないですか。ってことは \(T^2 \propto r^3\) が出てきた! でも待ってください、これって円軌道の場合ですよね。楕円でも本当に成り立つんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。一般の楕円軌道でも \(T^2 \propto a^3\) は厳密に成り立つの——ただし証明には微分方程式の知識が必要だから、今は「円は楕円の特殊ケースで、結論は楕円でも同じ」と受け入れて。円軌道では半径 \(r\) が長半径 \(a\) に等しいから、これはまさに Kepler の第 3 法則 \(T^2 \propto a^3\) よ。導出全体の流れを図 1.3「Kepler 第3法則の導出ステップ」にまとめておくわ。

Kepler第3法則の導出フロー

図 1.3: Kepler 第3法則の導出ステップ。万有引力を出発点に、円運動の条件と速度の書き換えだけで \(T^2 \propto r^3\) が得られる。ステップ(3)で惑星の質量 \(m\) が消えることが、「全惑星に共通の比例定数」の鍵。

🟡 リナ: しかも、比例定数 \(4\pi^2/(GM)\) が太陽の質量 \(M\) だけで決まることも分かった。つまり、全ての惑星に共通の比例定数が Newton のモデルから自動的に出てくるの。

🔵 カイ: 「全ての惑星に共通」って、惑星の質量 \(m\) が消えたからですか?

🟡 リナ: その通り。最初に両辺を \(m\) で割った時点で惑星の質量が消えたでしょう? だから比例定数は太陽の質量 \(M\) だけで決まるの。

⚪ メイ: Kepler は「\(T^2 \propto a^3\) が成り立つ」と言っただけだけど、Newton は「なぜ成り立つか」と「比例定数が何か」まで教えてくれるのね。

🟡 リナ: これが「モデルの威力」なの。個別の現象を一つずつ覚えるのではなく、一つの原理から論理的に多くの現象を導き出せる

📝 練習問題:

✅ 理解度チェック: Newton の万有引力の式を書いてください。各記号の意味は何でしょうか?

答え

\(F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\)\(m_1, m_2\) は二つの物体の質量、\(r\) は物体間の距離、\(G\) は万有引力定数。

✅ 理解度チェック: Newton のモデルが Kepler の 3 法則に対して持つ意義は何でしょうか?

答え

3 つの独立した規則性(Kepler の 3 法則)が、万有引力という 1 つのモデルから全て導出できること。さらに比例定数の物理的意味(太陽の質量で決まる)まで分かる。


1.4 Newton の砲弾 — 地上と天上の統一

🟡 リナ: Newton のモデルのもう一つの革命的な点は、地上の現象と天上の現象を統一したこと。

🔵 カイ: リンゴが落ちるのと月が回るのが同じ力?

🟡 リナ: そう。Newton は有名な思考実験を行った(図 1.4「ニュートンの砲弾の思考実験」)。山の頂上から砲弾を水平に発射する。弱く撃てば放物線を描いて地面に落ちる。もっと強く撃てば、もっと遠くに落ちる。さらに強く撃てば——

ニュートンの砲弾の思考実験

図 1.4: ニュートンの砲弾の思考実験。山頂から水平に発射された砲弾の初速を上げると、軌道はすぐ落下→遠方に落下→円軌道(一周して戻る)と変化する。右上は発射点付近の拡大図。

🔵 カイ: えっと……地球は丸いから、地面のほうも下がっていきますよね。もしかして、落ち続けてるのに地面に届かない?

🟡 リナ: その通り! 十分な速さで撃てば、砲弾は地球の丸みに沿って落ち続けて、一周して戻ってくる。つまり「軌道に乗る」の。月はまさにそれをやっている——「落ち続けている」のよ。ただ、横方向の速度があるから、地球の表面に到達する前に地面が曲がっていく。結果として、月は地球の周りを回り続ける。

⚪ メイ: 落下と軌道運動が同じ現象の違う見え方だということね。

🔵 カイ: 落ちてるのに落ちない……不思議な感覚だな。でも、どのくらいの速さで撃てば「落ち続けるけど地面に届かない」状態になるんですか? 感覚的にはとんでもない速さが必要な気がするんですけど。

🟡 リナ: いい疑問ね。地表付近で軌道に乗るには約 7.9 km/s(第一宇宙速度)が必要——音速の約 23 倍よ。さっき導いた \(v^2 = GM/r\) は円軌道の条件だから、\(M\) を地球の質量、\(r\) を地球の半径 \(R_E\) に置き換えれば出てくる値ね。

🔵 カイ: 音速の 23 倍……やっぱりとんでもない速さだ。

🟡 リナ: でも今ここでは、もっと大事なことを確認したい。「地上の重力」と「月を軌道に保つ力」が本当に同じ法則に従っているか、定量的にチェックしてみましょう。月は地球から約 \(r = 3.84 \times 10^8\;\mathrm{m}\) の距離にあり、公転周期は約 \(T = 27.3\)\(\approx 2.36 \times 10^6\;\mathrm{s}\)。月の軌道速度は:

\[v = \frac{2\pi r}{T} = \frac{2\pi \times 3.84 \times 10^8}{2.36 \times 10^6} \approx 1022\;\mathrm{m/s}\]

月が受けている向心加速度は:

\[a_{\text{月}} = \frac{v^2}{r} = \frac{1022^2}{3.84 \times 10^8} \approx 0.00272\;\mathrm{m/s^2}\]

🔵 カイ: 地表の \(g = 9.8\;\mathrm{m/s^2}\) よりずっと小さいですね。月が遠いから弱くなってるってことですか? どのくらい弱くなるはずなんだろう。

🟡 リナ: いい疑問ね。もし重力が距離の 2 乗に反比例するなら、月の位置での加速度を計算できる。地球の半径は約 \(R_E \approx 6.4 \times 10^6\;\mathrm{m}\) だから、月までの距離 \(3.84 \times 10^8\;\mathrm{m}\) は地球半径の約 \(60\) 倍。したがって:

\[a = \frac{g}{60^2} = \frac{9.8}{3600} \approx 0.00272\;\mathrm{m/s^2}\]

🔵 カイ: うわ、ぴったり一致する!

⚪ メイ: 月の軌道から計算した値と、地表の重力を距離の 2 乗で割った値が一致する……これは偶然とは考えにくいわね。

🟡 リナ: この一致は偶然ではありえない。整理すると、二つの全く独立な計算——「月の軌道データから求めた加速度」と「地表の \(g\) を逆2乗則で外挿した加速度」——がどちらも \(0.00272\;\mathrm{m/s^2}\) になる。リンゴを落とす力と月を軌道に保つ力は、同じ万有引力だということ。それまで「天上の世界」と「地上の世界」は別の法則で動いていると考えられていた。Newton はそれを一つのモデルで統一したの。

✅ 理解度チェック: Newton の砲弾の思考実験が示す「統一」とは何でしょうか?

答え

リンゴを落とす力(地上の重力)と月を軌道に保つ力(天上の力)が同じ万有引力であるということ。地上と天上の現象を一つのモデルで統一した。


1.5 モデルの予測力 — 海王星の発見

🟡 リナ: Newton のモデルの威力を最も劇的に示したのが、海王星の発見よ。

🔵 カイ: 海王星?

🟡 リナ: 19 世紀半ば、天文学者たちは天王星の軌道が Newton のモデルの予測からわずかにずれていることに気づいた。

⚪ メイ: モデルが間違っている可能性もあるわね。

🟡 リナ: そう、二つの可能性がある。(1) Newton のモデルが間違っている。(2) まだ発見されていない天体が天王星に影響を与えている。

🟡 リナ: フランスの Urbain Le Verrier とイギリスの John Couch Adams は、(2) を仮定して、未知の惑星の位置を Newton のモデルから逆算した図 1.5「海王星発見の概念図」)。そして 1846 年、Le Verrier が予測した位置に望遠鏡を向けたところ——

海王星発見の概念図

図 1.5: 海王星発見の概念図。天王星の実際の軌道(実線)が Newton のモデルによる予測軌道(破線)からずれている。このずれの原因を「未発見の惑星の重力」と仮定し、その位置を逆算して海王星が発見された。

🔵 カイ: 本当にあった!?

🟡 リナ: あったの。海王星が。予測した位置からわずか 1 度以内の場所に。

📝 練習問題:

⚪ メイ: これが「定量的な予測」の威力ね。「どこかに惑星があるかも」ではなく、「この方向のこの位置にある」と数式が教えてくれた。

🟡 リナ: プロローグで「数式で書くからこそ定量的に検証できる」と言ったのを覚えてる? 海王星の発見は、まさにその実例なの。

✅ 理解度チェック: 海王星の発見が Newton のモデルの何を示したでしょうか?

答え

モデルの定量的な予測力。未知の惑星の位置を数式から逆算し、予測した位置に実際に海王星が発見された。

✅ 理解度チェック: 天王星の軌道のずれに対して、考えられた二つの可能性は何でしょうか?

答え

(1) Newton のモデルが間違っている。(2) まだ発見されていない天体が天王星に影響を与えている。


1.6 重力ポテンシャルと Poisson 方程式

🟡 リナ: ここで、Newton のモデルをもう少し現代的な形で書き直しておきましょう。後の章で必要になるから。

🟡 リナ: 空間の各点に「重力的な高さ」を表す数値——重力ポテンシャル \(\Phi(\mathbf{r})\)——を割り当てるの。\(\mathbf{r}\) は空間の位置を表すベクトルよ(太字はベクトルを表す慣習で、高校で使う \(\vec{r}\) と同じ意味)。\(\Phi\) はその位置ごとに決まるただの数(スカラー)。

🔵 カイ: 「重力的な高さ」って、山の標高みたいなイメージですか?

🟡 リナ: いい直感ね。標高が高いほど位置エネルギーが大きいでしょう? それと同じで、\(\Phi\) が大きい場所ほど重力的なエネルギーが高い。そして物体は \(\Phi\) が低い方へ——つまり「坂を下る方向」に——力を受ける。

🟡 リナ: 数式で書くと、質量 \(m\) の粒子に働く力は

\[\mathbf{F} = -m\,\nabla\Phi\]

ここで \(\nabla\Phi\)(「ナブラ \(\Phi\)」と読む)は勾配(gradient)と呼ばれる量よ。地形図の等高線を思い浮かべて——図 1.6「重力ポテンシャルの等高線図」を見てほしいの。等高線が密なところほど坂が急でしょう? 勾配は「最も急に登る方向を向いていて、その傾きの大きさを持つベクトル」なの。マイナス符号がついているから、力は \(\Phi\)減少する方向——坂を下る方向——に働く。勾配の正確な定義は「一般相対論」編 第 1 章で扱うけど、今は「等高線に垂直に坂を下る方向と、その急さ」だと思ってくれれば大丈夫。

重力ポテンシャルの等高線と勾配

図 1.6: 重力ポテンシャルの等高線図。青い曲線が等ポテンシャル線(\(\Phi\) が一定の線)、赤い矢印が力 \(\vec{F} = -m\nabla\Phi\) の方向を示す。等高線が密なほど「急な坂」で力が強い。力は常に等高線に垂直で、\(\Phi\) が低い方向(中心)を向く。

⚪ メイ: つまり、力を直接書く代わりに、まず「高さの地図」を作って、そこから力を読み取るということね。

🟡 リナ: その通り。では \(\mathbf{F} = -m\nabla\Phi\) が万有引力を再現するには、\(\Phi\) がどんな形でなければならないか考えてみましょう。球対称な場合——つまり \(\Phi\) が中心からの距離 \(r\) だけで決まる場合——を考えるわ。「\(r\) だけで決まる」というのは、同じ距離 \(r\) にいる限り、どの方向にいても \(\Phi\) の値が同じということ。等高線の地図で言えば、等高線が同心円になっている状態ね。

🔵 カイ: 同心円の等高線なら、坂を登る方向は中心から外に向かう方向しかないですよね。横に動いても高さは変わらないから。

🟡 リナ: その通り。中心からの距離を変えずに横方向に動いても \(\Phi\) は変化しない——横方向の傾きはゼロ。だから「最も急に登る方向」は \(r\) 方向(中心から外向き)しかない。結果として、勾配は \(r\) 方向の傾きだけになる。だから勾配の大きさは \(|\nabla\Phi| = \frac{d\Phi}{dr}\) と書ける(方向は \(r\) が増える向き)。

🔵 カイ: ここまでは分かります。で、この勾配が万有引力と一致するように \(\Phi\) を決めるんですよね?

🟡 リナ: そう。万有引力の大きさは \(F = GMm/r^2\) で中心向き(\(r\) が減る方向)。ここで \(r\) 方向(中心から外向き)を正とすると、力の \(r\) 成分は \(F_r = -GMm/r^2\)(中心向きだから負)。一方 \(\mathbf{F} = -m\nabla\Phi\)\(r\) 成分は \(F_r = -m\frac{d\Phi}{dr}\)。この二つを等しく置くと \(-m\frac{d\Phi}{dr} = -\frac{GMm}{r^2}\)。両辺を \(-m\) で割ると \(\frac{d\Phi}{dr} = \frac{GM}{r^2}\)

⚪ メイ: 「\(\Phi\)\(r\) で微分したら \(GM/r^2\) になる」——だからその逆操作で \(\Phi\) が求まるわけね。

🟡 リナ: その通り。これを \(r\) で積分すると——つまり「微分したら \(GM/r^2\) になる関数 \(\Phi(r)\) は何か?」を逆に求めるの。高校で習った公式 \(\int r^n\,dr = \frac{r^{n+1}}{n+1}\)\(n \neq -1\))を使うわ。「積分する」というのは「微分の逆操作」——つまり「微分したら \(GM/r^2 = GM \cdot r^{-2}\) になる関数 \(\Phi(r)\) は何か?」を求めること。\(GM\) は定数だから積分の外に出せて、\(\int GM \cdot r^{-2}\,dr = GM \int r^{-2}\,dr\) よ。\(n = -2\) を公式に代入すると、\(n+1 = -2+1 = -1\) だから \(\int r^{-2}\,dr = \frac{r^{-1}}{-1} = -\frac{1}{r}\)。確認してみて——\(-1/r = -r^{-1}\)\(r\) で微分すると \(-(-1)r^{-2} = r^{-2} = 1/r^2\) で、確かに元に戻るわね。したがって \(\Phi = GM \times (-1/r) + C = -GM/r + C\) となる。ここで \(C\)積分定数——不定積分には「定数を足しても微分すれば同じ」という自由度があるから、必ず未定の定数が一つ残るの(確認:\(d(-GM/r + C)/dr = GM/r^2\) で、\(C\) は微分すると消える)。この \(C\) は「無限遠で \(\Phi = 0\)」とする条件から決まるの。\(r \to \infty\) のとき \(-GM/r \to 0\) だから、\(\Phi(\infty) = 0 + C = C\)。これがゼロになるためには \(C = 0\) ね。

🔵 カイ: なんで無限遠でゼロって決めていいんですか?

🟡 リナ: ポテンシャルは「差」だけが物理的に意味を持つの——力は \(\Phi\) の傾き(微分)で決まるから、\(\Phi\) 全体に定数を足しても力は変わらない。だから基準点をどこに置いてもいいんだけど、「質量から無限に離れたら影響ゼロ」が自然だから、無限遠をゼロと約束するのが慣習よ。

🔵 カイ: マイナスがつくんですね。\(\Phi\) は負の値になる?

🟡 リナ: そう。マイナス符号がついているのは、質量に近づくほど \(\Phi\) が低くなる——つまり「谷底に向かって坂を下る」形になるから。物体が引き寄せられることと整合しているでしょう?

🔵 カイ: あ、ちゃんと計算で出るんですね。

🟡 リナ: まとめると、\(\frac{d\Phi}{dr} = \frac{GM}{r^2}\) を積分して無限遠で \(\Phi = 0\) とすると:

\[\Phi(r) = -\frac{GM}{r}\]

🔵 カイ: マイナスだから、質量に近づくほど \(\Phi\) が深くなるんですね。

🟡 リナ: その通り。図 1.7「重力ポテンシャル \(\Phi(r) = -GM/r\) のグラフ」のグラフを見て——\(r\) が小さいほど \(\Phi\) が深くなる「谷底に向かう坂」の形ね。

重力ポテンシャルのグラフ

図 1.7: 重力ポテンシャル \(\Phi(r) = -GM/r\) のグラフ。質量 \(M\) に近づくほど \(\Phi\) は深くなる(谷底)。力 \(F = -m\,d\Phi/dr\)\(r\) が小さくなる方向——つまり坂を下る方向——を向く。接線の傾きが力の大きさに対応する。

🟡 リナ: ここで一つ先に進むわ。さっき求めた \(\Phi = -GM/r\) は「質量 \(M\) が 1 点にある場合」のポテンシャルだった。では、質量が空間に広がって分布しているとき、\(\Phi\) はどう決まるのか? その答えを書くために、まず新しい道具を導入させて。Laplacian(ラプラシアン)\(\nabla^2\)(「ナブラ二乗」と読む)という演算よ。これはポテンシャルの空間的な「曲がり具合」を測る量。1次元で言えば \(d^2\Phi/dx^2\)——つまり「2階微分」の3次元版よ。

🔵 カイ: 2 階微分って、関数の「凹凸」を表すやつですよね?

🟡 リナ: そうよ。2階微分の符号を思い出して。\(y = x^2\) のグラフは下に凸(谷底の形)で \(d^2y/dx^2 = 2 > 0\)(正)。\(y = -x^2\) は上に凸(山頂の形)で \(d^2y/dx^2 = -2 < 0\)(負)。つまり下に凸(谷底)なら2階微分は正、上に凸(山頂)なら負。 たとえば谷底では、その点の \(\Phi\) は左右の値より低い——つまり「周囲の平均値より小さい」でしょう? 逆に山の頂上では周囲より高い。大雑把に言えば、Laplacian は「ある点の \(\Phi\) が、周囲の平均値からどれだけずれているか」を測る量なの。

🔵 カイ: なるほど、「周囲より凹んでいるか、出っ張っているか」を数値化したものですね。

🟡 リナ: そう。この道具を使うと、質量分布とポテンシャルの関係がきれいに書ける。結論を先に言うと、「各点での Laplacian は、その点の質量密度に比例する」。これを数式にしたのが Poisson 方程式

\[\nabla^2 \Phi = 4\pi G \rho\]

ここで \(\rho\)(ロー)は質量密度——単位体積あたりの質量よ。\(4\pi\) という係数は球対称の幾何学から来るもので、導出は「一般相対論」編 第 1 章で行うわ。

⚪ メイ: 「物質があるところでポテンシャルが凹む」——これが Poisson 方程式の言っていることね。

🔵 カイ: 「3次元版」って、具体的にはどういう形になるんですか?

🟡 リナ: 各方向(\(x\), \(y\), \(z\))の 2 階微分を足し合わせたもの——\(\nabla^2\Phi = \frac{\partial^2\Phi}{\partial x^2} + \frac{\partial^2\Phi}{\partial y^2} + \frac{\partial^2\Phi}{\partial z^2}\) よ。\(\partial\)(丸い d)は偏微分の記号で、「他の変数を固定して一つの方向だけで微分する」という意味。たとえば \(\frac{\partial^2\Phi}{\partial x^2}\) は「\(y\)\(z\) を固定して \(x\) 方向だけの曲がり具合を見る」ということ。それを 3 方向分足し合わせたのが Laplacian ね。偏微分の詳しい扱いは「一般相対論」編 第 1 章で学ぶけど、今は「各方向の曲がり具合を全部足したもの」と思ってくれれば大丈夫。

🟡 リナ: ここで一つ確認しておきたいことがある。さっき求めた \(\Phi = -GM/r\) のグラフは明らかに曲がっているわよね。「じゃあ Laplacian はゼロじゃないのでは?」と思うかもしれない。でも、ここで言う「曲がり具合」は 1 次元のグラフの曲がり(\(d^2\Phi/dr^2\))ではなく、3 次元空間での Laplacian \(\nabla^2\Phi\)——全方向の曲がりを合計したもの。\(r\) 方向には確かに曲がっているけど、横方向(角度方向)の効果と打ち消し合って、原点以外ではちょうどゼロになるの。

🔵 カイ: え、曲がっているのに Laplacian がゼロ? それって不思議ですね。

🟡 リナ: なぜ打ち消し合うかの直感を一つだけ言うと——原点から離れるほど球面の面積が \(4\pi r^2\) で増えていくでしょう? 同じ「力の総量」がより広い面積に分散するから、\(r\) 方向の変化率(曲がり)が薄まる。この薄まり効果と \(r\) 方向の曲がりがちょうど打ち消し合って、原点以外では Laplacian がゼロになるの。厳密な計算は「一般相対論」編 第 1 章で行うけど、今は「3次元では \(r\) 方向の曲がりだけ見ても Laplacian は分からない」ということを覚えておいて。つまり、点質量の場合、質量がない場所(原点以外)では \(\nabla^2\Phi = 0\)——Poisson 方程式で \(\rho = 0\) とした場合と整合しているの。質量がある場所(原点)でだけ \(\nabla^2\Phi \neq 0\) になる。

🟡 リナ: 図 1.8「Laplacian \(\nabla^2\Phi\) の直感的な意味」に1次元の例で Laplacian の意味を図解しておくわ。

Laplacianの1次元イメージ

図 1.8: Laplacian \(\nabla^2\Phi\) の直感的な意味。左:谷底では \(\Phi\) が周囲の平均より小さい → \(d^2\Phi/dx^2 > 0\)(Laplacian 正)。右:山頂では \(\Phi\) が周囲の平均より大きい → \(d^2\Phi/dx^2 < 0\)(Laplacian 負)。Poisson 方程式は「物質があるところで谷ができる」ことを表す。

🔵 カイ: うーん……1次元だと「谷底なら2階微分が正」って分かるんですけど、3次元で「\(r\) 方向の曲がりと角度方向が打ち消し合う」っていうのは、正直まだモヤモヤします。でも、とりあえず結論としては「物質がある場所では Laplacian が正——つまり谷底になる」ということですか?

🟡 リナ: その通り。今の段階では「物質がない場所では \(\nabla^2\Phi = 0\)、物質がある場所では \(\nabla^2\Phi > 0\)」という結論だけ持っておけば十分よ。打ち消し合いの仕組みが気になるなら、一つだけ具体的なイメージを出すわね。原点に質量がある場合、ある点 \(P\) の周囲を小さな球で囲んでみて。\(P\) が原点の外にあれば、その小さな球の中に質量はない。\(\Phi\) は球の「太陽側」で深く、「反対側」で浅い——つまり偏っているけど、平均すると \(P\) での値とちょうど一致するの。「平均値と一致する=周囲からのずれがない=Laplacian がゼロ」。一方、\(P\) が原点(質量のある場所)にあれば、\(\Phi\)\(P\) より周囲のほうが高い——平均値が \(P\) の値を上回る——だから Laplacian が正。厳密な計算は「一般相対論」編 第 1 章に譲るけど、「周囲の平均値と比べる」というイメージで覚えておいて。

🔵 カイ: 「平均値と一致するかどうか」で判定するっていうのは分かりました。でも、なぜ原点の外では平均値とちょうど一致するんですか? 太陽側が深くて反対側が浅いなら、平均は \(P\) の値より少しずれそうな気がするんですけど……。

🟡 リナ: いい疑問ね。直感的に言うと、球の「太陽側」は \(P\) より深いけど面積が小さく、「反対側」は \(P\) より浅いけど面積が大きい——この非対称性がちょうど打ち消し合うの。\(1/r\) という関数の特別な性質なのよ。一般の関数ではこうはならない。厳密な証明は「一般相対論」編 第 1 章で Gauss の法則を使って行うから、今は「\(\Phi = -GM/r\) という特別な形だからこそ、原点以外で Laplacian がゼロになる」と覚えておいて。

🔵 カイ: なるほど、\(1/r\) の特別な性質なんですね。今は結論だけ受け入れておきます。

🟡 リナ: その通り。物質がある場所では \(\rho > 0\) だから \(\nabla^2\Phi > 0\)、つまりポテンシャルが周囲より低い「谷」になる。物体はその谷に向かって落ちていく——これが重力の正体よ。

🔵 カイ: さっきの \(\Phi = -GM/r\) もこの方程式を満たしているんですか?

🟡 リナ: いい質問。質量 \(M\) が原点 1 点に集中している場合、原点以外では \(\rho = 0\) だから \(\nabla^2 \Phi = 0\) を満たす必要がある。実際 \(\Phi = -GM/r\) は原点以外でこれを満たすの。厳密な確認と導出——勾配・偏微分の解説、Gauss の発散定理から出発して Poisson 方程式を導く手順——は「一般相対論」編 第 1 章で丁寧に扱っているから、そちらを参照してね。

🔵 カイ: なるほど。じゃあ Poisson 方程式の物理的な意味をまとめると、「物質が存在するところでは、ポテンシャルの曲がり具合がゼロにならない——物質が多いほど曲がりも大きい」ということですか?

🟡 リナ: その通り。

🟡 リナ: 一つ重要な注意。Poisson 方程式の左辺には時間微分が含まれていない。これは、質量分布 \(\rho\) が変化した瞬間に、ポテンシャル \(\Phi\) が空間全体で瞬時に変化することを意味する。つまり、重力の変化が無限大の速さで伝わることを暗黙に仮定しているの。これは後で特殊相対論(第 5 章)と矛盾することが分かる——第 6 章で一般相対論が必要になる理由の一つよ。

🔵 カイ: 瞬時に伝わるって……光より速いってことですか? さっき海王星のところでは問題にならなかったけど。

🟡 リナ: そして、この「場」の考え方は、後で電磁気学(第 2 章)や一般相対論(第 6 章)でも繰り返し登場する。Newton のモデルを場の言葉で書き直しておくことで、後の章との繋がりが見えやすくなるの。

⚪ メイ: だから「後の章で必要になる」と最初に言ったのね。

📝 練習問題:

✅ 理解度チェック: Poisson 方程式 \(\nabla^2 \Phi = 4\pi G \rho\) は何を表しているでしょうか?

答え

物質(質量密度 \(\rho\))が存在するところで重力ポテンシャルに曲がりが生じることを表す。物質分布がポテンシャルを決める関係式。時間微分を含まないため、重力の変化が瞬時に伝わることを暗黙に仮定している。


1.7 もう一つの定式化 — 最小作用の原理

🟡 リナ: ここで、Newton 力学のもう一つの定式化を紹介しておくわね。これは第 8 章の場の量子論、第 13 章の弦理論で繰り返し登場する、物理学で最も重要な原理の一つ。

🟡 リナ: Newton の \(F = ma\) は「力が加速度を決める」という因果的な記述。でも、同じ物理を全く違う視点で記述できる。最小作用の原理(principle of least action)よ。

🔵 カイ: 「最小作用」って何ですか?

🟡 リナ: まず Lagrangian(ラグランジアン)\(L\) を定義するわ。運動エネルギーを \(T\)、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)を \(V\) として、

\[L = T - V\]

🔵 カイ: \(T + V\) じゃなくて \(T - V\)? なぜ引き算なんですか?

🟡 リナ: いい疑問ね。今は「\(T - V\) と定義すると、正しい運動方程式が出てくる」と受け入れて。理由は「一般相対論」編 第 1 章で変分法を学ぶと自然に分かるわ。

🟡 リナ: 次に、作用(action) \(S\) を定義する。Lagrangian \(L\) を時刻 \(t_1\) から \(t_2\) まで時間で積分したもの:

\[S = \int_{t_1}^{t_2} L\,dt\]

これは「各瞬間の \(L\) の値を、出発から到着まで全部足し合わせた量」よ。高校で定積分を計算したのと同じ操作——横軸が時間、縦軸が \(L\) の値のグラフを描いて、その符号付き面積を求めるイメージね。ここで「経路」という言葉を使うわね。物体が時刻 \(t_1\) に位置 \(q_1\) にいて、時刻 \(t_2\) に位置 \(q_2\) にいるとする。その間の動き方——途中でどんな速度で進むか——には無数の可能性があるでしょう? それぞれの動き方を「経路」と呼ぶの。

🔵 カイ: 「経路が違う」って、たとえば同じ始点と終点を結ぶのに、途中で加速したり減速したりするパターンが色々あるってことですか?

🟡 リナ: そう、まさにそれ。\(L = T - V\) だから、経路が違えば各瞬間の速度や位置が違い、\(T\)\(V\) も変わる。結果として \(L\) の時間変化も変わり、作用 \(S\) の値も変わる。最小作用の原理は、「全ての可能な経路の中で、この作用 \(S\)停留値にする経路が、物理的に実現される経路だ」と主張するの。

🔵 カイ: 「停留値」って何ですか? 最小値とは違うんですか?

🟡 リナ: 停留値というのは、経路をほんの少しだけ変えたとき、\(S\) がほとんど変化しない、という意味よ。高校で習った「微分=0 が極値の条件」と同じ発想——放物線 \(y = x^2\) の底(\(x = 0\))では、\(x\) を少しずらしても \(y\) の変化は \(x\) のずらし幅の2乗に比例するから、1次の変化がゼロでしょう? 経路についても同じで、「経路をほんの少し変えたときの \(S\) の1次の変化がゼロ」が停留値の条件。多くの場合は最小値だから「最小作用の原理」と呼ばれるけど、厳密には最小とは限らない——山道の峠のように、東西方向には一番高いけど南北方向には一番低い、という点もあるでしょう? そういう「極小でも極大でもない停留点」が鞍点。でも今の段階では「ほぼ最小値のこと」と思っておけば大丈夫よ(図 1.9「最小作用の原理と経路比較」)。

最小作用の原理と経路比較

図 1.9: 最小作用の原理と経路比較。始点 \((t_1, q_1)\) から終点 \((t_2, q_2)\) への様々な経路のうち、作用 \(S\) を極値にする経路(実線)が物理的に実現される経路である。

⚪ メイ: 「瞬間ごとに力を考える」のではなく、「経路全体を見渡して最適なものを選ぶ」という発想ね。

🟡 リナ: 図 1.10「作用積分の可視化」で、異なる経路に対して \(L(t)\) がどう変わり、作用 \(S\)(面積)がどう変わるかを見てみましょう。

作用積分の可視化

図 1.10: 作用積分の可視化。左:同じ始点・終点を結ぶ様々な経路。右:各経路に対する \(L(t)\) のグラフ。曲線と横軸の間の面積が作用 \(S = \int L\,dt\) に対応する。物理的経路(赤実線)は \(S\) が極値になる経路。

🟡 リナ: この原理から、実現される経路が満たすべき方程式が導かれる。それが Euler-Lagrange(オイラー=ラグランジュ)方程式

\[\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\]

見慣れない記号が出てきたわね。一つずつ説明するから安心して。まず \(q\) は物体の位置を表す記号よ——さっきまで使っていた \(x\) と同じもの。物理学では位置を一般的に \(q\) と書く慣習があるの(「一般化座標」と呼ばれる)。\(\dot{q}\)\(q\) の時間微分 \(dq/dt\)——つまり速度よ。物理学ではこのドット記法をよく使うの。

🔵 カイ: ドットが時間微分を表すんですね。\(\dot{q}\) が速度で、\(\ddot{q}\) が加速度か。

🟡 リナ: その通り。次に \(\partial\)(「偏」と読む丸い d)の意味。\(L\)\(q\)\(\dot{q}\) の両方に依存する関数だから、「片方だけ変えたときの変化率」を考える必要がある。\(\partial L / \partial \dot{q}\)偏微分と呼ばれる操作で、「\(q\) を固定したまま \(\dot{q}\) だけを変化させたときの \(L\) の変化率」を意味する。普通の微分 \(d/dt\) が「時間とともに全てが変わる」のを追いかけるのに対して、偏微分は「他の変数を止めて一つだけ動かす」操作ね。簡単な例を出すと、\(f(x, y) = x^2 + 3y\) という2変数の関数があったとき、\(\partial f/\partial x\) は「\(y\) を定数だと思って \(x\) で微分する」から \(2x\)\(\partial f/\partial y\) は「\(x\) を定数だと思って \(y\) で微分する」から \(3\)。やっていることは普通の微分と同じで、「動かさない変数を定数扱いする」だけよ。偏微分の詳しい扱いは「一般相対論」編 第 1 章で学ぶわ。

🔵 カイ: 記号が多くて圧倒されますけど……これで本当に \(F = ma\) が出るんですか? 特に \(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\) って、\(L\) を速度で微分するってことですよね。\(L\) の中に位置も速度も入ってるのに、片方だけで微分するってどうやるんだろう。

🟡 リナ: いい疑問ね。まず一つ補足しておくと、Euler-Lagrange 方程式は「経路をほんの少しだけずらしたときに作用 \(S\) が変化しない」という条件を数式に翻訳したものなの。その翻訳の具体的な計算(変分法)は「一般相対論」編 第 1 章で丁寧にやるけど、結果だけ使えば \(F = ma\) が出ることを今確認しましょう。記号は多く見えるけど、一つずつ順番に代入していけば大丈夫よ。具体的に 1 次元の運動を考えて、\(q = x\)(位置)とするわ。\(L = \frac{1}{2}m\dot{x}^2 - V(x)\) を代入してみましょう。

🔵 カイ: はい。で、どこから手をつければ?

🟡 リナ: まず Euler-Lagrange 方程式の第 1 項、\(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\) から。\(\partial L / \partial \dot{x}\) を求めるには、\(x\) を固定して \(\dot{x}\) だけの関数と見る——さっきカイが聞いた「片方だけで微分する」というのがまさにこれよ。\(V(x)\)\(\dot{x}\) を含まないから、\(\dot{x}\) で偏微分するとゼロになって消える。残るのは \(\frac{1}{2}m\dot{x}^2\) だけ。ここで \(\dot{x}\) を一つの変数 \(u\) だと思えば、\(\frac{1}{2}mu^2\)\(u\) で微分するのと同じ——\(\frac{d}{du}\left(\frac{1}{2}mu^2\right) = \frac{1}{2}m \cdot 2u = mu\) だから、\(\frac{\partial}{\partial \dot{x}}\left(\frac{1}{2}m\dot{x}^2\right) = m\dot{x}\)

⚪ メイ: つまり \(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}} = m\dot{x}\) ね。運動量 \(p = mv\) と同じ形だわ。

🔵 カイ: あ、偏微分って言っても、やってることは「\(\dot{x}\) 以外を定数扱いして普通に微分する」だけなんですね。思ったより怖くない。

🟡 リナ: その通り。\(m\) は定数だから、これを時間で微分すると \(\frac{d}{dt}(m\dot{x}) = m\ddot{x}\)(ドット2つは時間の2階微分、つまり加速度)。次に第 2 項、\(\frac{\partial L}{\partial x}\) を求める。今度は \(\dot{x}\) を固定して \(x\) だけの関数と見る。\(\frac{1}{2}m\dot{x}^2\)\(x\) を含まないから消えて、残るのは \(-V(x)\)\(x\) で偏微分したもの。\(V\)\(x\) だけの関数だから、偏微分と普通の微分は同じ結果を与えて、\(\partial L / \partial x = -dV/dx\)

🔵 カイ: あ、第 1 項が加速度で、第 2 項が力に関係するものになりそうですね。

🟡 リナ: そう! Euler-Lagrange 方程式に入れると:

\[m\ddot{x} - \left(-\frac{dV}{dx}\right) = 0 \quad \Longrightarrow \quad m\ddot{x} = -\frac{dV}{dx}\]

右辺の \(-dV/dx\) は「ポテンシャルエネルギーが急に下がる方向に力が働く」ことを表していて、これが力 \(F\) そのもの——高校で習った「保存力はポテンシャルエネルギーの傾きの符号を変えたもの」と同じことよ。だからこれは \(F = ma\) ね。

🔵 カイ: おお、本当に \(F = ma\) が出た! 回り道したように見えたけど、ちゃんと同じところに着くんですね。

🟡 リナ: 変分法から Euler-Lagrange 方程式を導く全ステップ——変分の計算、部分積分、境界項の消去——は「一般相対論」編 第 1 章で詳しく扱っているから、そちらを参照してね。今は「Lagrangian を決めれば運動方程式が自動的に出る」ということを掴んでおけば十分よ。

📝 練習問題:

🔵 カイ: 同じ答えが出るなら、わざわざ別の定式化をする意味は?

🟡 リナ: 3 つの理由がある。第一に、対称性が見えやすい——「対称性があると保存量が出てくる」という強力な定理(Noether の定理)と直結するの。これはすぐ後で説明するわ。

🔵 カイ: 対称性から保存量が出る……? まだピンと来ないですけど、具体例を聞けば分かりそうです。

🟡 リナ: 第二に、座標系を選ばない——直交座標でも極座標でも、同じ Lagrangian から正しい方程式が出る。一般相対論(第 6 章)では座標系に依存しない記述が本質的に重要になるの。第三に、場の理論と弦理論への拡張が自然——第 8 章の場の量子論では「場の Lagrangian」から出発し、第 13 章の弦理論では「弦の作用(世界面の面積)を最小にする」という形でそのまま使われる。

⚪ メイ: つまり、\(F = ma\) は Newton 力学専用だけど、最小作用の原理は物理学全体で使える汎用的な枠組みということね。

対称性とは — 「変えても変わらない」こと

物理学で「対称性がある」とは、ある操作をしても物理法則が変わらないことを言う。

操作 対称性の名前 導かれる保存量
実験する場所をずらす 空間並進の対称性 運動量
実験する時刻をずらす 時間並進の対称性 エネルギー
実験装置を回転させる 回転の対称性 角運動量

「対称性が一つあるたびに、保存量が一つ出てくる」——これが Noether (ネーター) の定理(「場の量子論」編 「場の量子論」編 第 3 章で詳しく扱う)。対称性が多いほど系の振る舞いが制約され、計算が楽になる。

第 9 章では、もっと抽象的な対称性(ゲージ対称性)が登場する。「波動関数の位相を変えても物理が変わらない」という対称性から、電磁気力が自動的に導かれる。今は「対称性=ある操作をしても物理が変わらないこと」と覚えておけば十分。

注意: 対称性は「自然が必ず持っていなければならないもの」ではない。「この対称性があると仮定したら、実験と合う結果が出た」という形で検証される仮説の一部。実際、第 9 章では対称性が「自発的に破れる」ことすらある(ヒッグス機構)——Lagrangian は対称性を持つのに、実現される状態がその対称性を持たない、という微妙な状況。物理学者は対称性のある理論を「美しい」と感じ、好む傾向がある。対称性が多いほど計算が制約され、予測力が増すから。しかし「美しいから正しい」とは限らない——この点は第 22 章(弦理論への批判)で再び問うことになる。

✅ 理解度チェック: Noether の定理は何を主張しているでしょうか? 具体例を 1 つ挙げてください。

答え

対称性が一つあるたびに保存量が一つ出てくることを主張する。例えば、時間並進の対称性(実験する時刻をずらしても物理法則が変わらない)からエネルギー保存が導かれる。

🟡 リナ: 二つの定式化の違いを表にまとめておくわね。

表 1.2: Newton の定式化と Lagrangian の定式化の比較

Newton の定式化 Lagrangian の定式化
基本方程式 \(F = ma\) \(\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0\)
出発点 力(ベクトル)を指定 Lagrangian \(L = T - V\)(スカラー)を指定
視点 瞬間ごとの因果関係 経路全体を俯瞰
座標系 直交座標が基本 任意の座標系で同じ形
対称性 → 保存量 個別に確認 Noether の定理で自動的
拡張性 力学のみ 電磁気・場の理論・弦理論に共通

🔵 カイ: つまり、\(F = ma\) だと Newton 力学でしか使えないけど、最小作用の原理なら他の分野でもそのまま使えるってことですか? でも、Lagrangian の形が分野ごとに違うなら、結局それぞれ別の話になりません?

🟡 リナ: いい疑問ね。形は違っても、「Lagrangian を書いて作用を極値にする → 運動方程式が出る」という枠組みは全て共通なの。物理学の全ての基本的なモデルは、この同じ手続きで定式化できる。これがこの先ずっと使う道具よ。

🔵 カイ: あ、中身は違っても「レシピの手順」は同じってことか。でも、そのレシピが正しいっていう保証はどこから来るんですか? たまたま今まで上手くいっただけかもしれないですよね?

🟡 リナ: 鋭いわね。保証はないの。「最小作用の原理で書けるモデルが、今のところ全て実験と合っている」という経験的事実があるだけ。もし合わないモデルが見つかれば、この枠組み自体を見直す必要が出てくる。でも今のところ、素粒子物理から宇宙論まで、全ての基本モデルがこの形で書けている。

⚪ メイ: つまり、\(F = ma\) は Newton 力学専用の言葉だけど、「Lagrangian を決めて作用を極値にする」は電磁気学でも場の量子論でも弦理論でも使える共通言語になっている、ということね。

🟡 リナ: そして大事なのは、Lagrangian 自体が「仮説」だということ。物理学者の仕事は「正しい Lagrangian を見つけること」なの。Newton 力学では \(L = T - V\)、電磁気学では別の形(第 2 章)、弦理論ではまた別の形(第 13 章)——それぞれの分野で Lagrangian の中身は違うけど、「それを見つけて作用を極値にする」という手続きが物理学の共通の方法論なの。

⚪ メイ: つまり、プロローグで言っていた「モデルは仮説」というのは、具体的には「どの Lagrangian を選ぶかが仮説」ということなのね。

🔵 カイ: ……ということは、もし実験と合わなかったら、Lagrangian を書き換えるんですか?

🟡 リナ: その通り。Newton 力学の Lagrangian では説明できない現象が見つかったら、新しい Lagrangian を探す。それが物理学の進歩の仕方よ。この章の最後で見る「Newton のモデルの限界」は、まさにそういう話に繋がるの。

✅ 理解度チェック: Lagrangian \(L\) の定義と、作用 \(S\) の定義をそれぞれ述べてください。

答え

Lagrangian は \(L = T - V\)(運動エネルギー引くポテンシャルエネルギー)。作用は \(S = \int_{t_1}^{t_2} L\,dt\)(Lagrangian を時間で積分したもの)。最小作用の原理は、物理的に実現される経路が \(S\) を極値にする経路だと主張する。

✅ 理解度チェック: 最小作用の原理が \(F = ma\) より優れている理由を 1 つ述べてください。

答え

(以下のいずれか 1 つ)(1) 対称性と保存量の関係が自動的に見える。(2) 座標系を選ばない。(3) 場の理論や弦理論への拡張が自然にできる。


1.8 Newton のモデルが説明できないこと — 伏線

🟡 リナ: さて、Newton のモデルは驚異的に成功した。惑星の軌道、潮の満ち引き、砲弾の弾道、海王星の位置——全て一つの式から説明できる。でも、説明できないことがある

🔵 カイ: え、何ですか?

🟡 リナ: 大きく三つ。

第一の限界:「なぜ引き合うのか」を説明していない

🟡 リナ: \(F = GMm/r^2\) は「力の大きさがどう決まるか」を教えてくれるけど、「なぜ質量を持つ物体が引き合うのか」は一切説明していない。Newton 自身もこの点を認めていて、「私は仮説を作らない(Hypotheses non fingo)」と述べている。

⚪ メイ: つまり、Newton のモデルは Kepler の法則の「なぜ」には答えたけど、万有引力そのものの「なぜ」にはさらに深いモデルが必要、ということね。

第二の限界:重力は瞬時に伝わる

🟡 リナ: 1.6「重力ポテンシャルと Poisson 方程式」で確認したように、Poisson 方程式 \(\nabla^2\Phi = 4\pi G\rho\) には時間微分が含まれていない。これは重力の変化が瞬時に伝わることを意味する。具体的に言うと、太陽が突然消えたら、Newton のモデルでは地球は瞬時に直線運動を始める。光でさえ太陽から地球まで約 8 分かかるのに。

🔵 カイ: それって、光より速く情報が伝わるってことですか?

🟡 リナ: そう。図 1.11「Newton のモデル(左)と特殊相対論の要求(右)の対比」で二つのモデルの違いを比べてみて。

瞬時伝播 vs 有限速度伝播

図 1.11: Newton のモデル(左)と特殊相対論の要求(右)の対比。Newton のモデルでは太陽が消えた瞬間に地球が影響を受けるが、相対論では情報は光速 \(c\) 以下でしか伝わらないため、約 8 分の遅延がある。

🟡 リナ: 「いかなる信号も光速を超えて伝わることはできない」という Einstein の特殊相対論(第 5 章)の原理と、Newton の重力は両立しないの。

第三の限界:水星の近日点移動

🟡 リナ: 水星の軌道は楕円だけど、その楕円がゆっくり回転する(近日点が移動する)。図 1.12「水星の近日点移動」を見て。他の惑星の影響を全て差し引いた後に、100 年あたり約 43 秒角の「説明できない」ずれが残る。Newton のモデルではこれを説明できない。

水星の近日点移動

図 1.12: 水星の近日点移動。周回ごとに楕円軌道がわずかに回転し、近日点の位置がずれていく。Newton のモデルでは他の惑星の影響を全て考慮しても 100 年あたり約 43 秒角の超過が説明できない(図では角度を大幅に誇張)。

🔵 カイ: 海王星のときは「未知の惑星がある」で解決したけど、今度はそれじゃダメだったんですか?

⚪ メイ: つまり、Newton のモデルは「近似」であって、より正確なモデルが必要になる。

🟡 リナ: その通り。その「より正確なモデル」が一般相対性理論(第 6 章)。でも、それはまだ先の話。今は、Newton のモデルがどれほど成功し、どこに限界があるかを押さえておけば十分よ。図 1.13「Newton重力の成果と限界」にこの章の全体像をまとめておくわ。水星の近日点移動については第 4 章で再び取り上げるわ。

%%{init: {"theme": "default", "themeCSS": ".edgePath .path, .flowchart-link { stroke-width: 2px !important; }"}}%%
flowchart TD
    N["Newton の万有引力<br>F = GMm/r²"] --> K["Kepler の3法則を導出"]
    N --> C["Newton の砲弾<br>地上と天上の統一"]
    N --> NP["海王星の発見<br>定量的予測"]
    N --> L1["❌ なぜ引き合うのか?<br>説明なし"]
    N --> L2["❌ 重力が瞬時に伝わる<br>特殊相対論と矛盾"]
    N --> L3["❌ 水星の近日点移動<br>43秒角/世紀"]
    L1 --> GR["一般相対性理論<br>(第6章)"]
    L2 --> GR
    L3 --> GR
    style N fill:#2196F3,color:#fff
    style GR fill:#FF9800,color:#fff
    style L1 fill:#ffcdd2
    style L2 fill:#ffcdd2
    style L3 fill:#ffcdd2
    style K fill:#c8e6c9
    style C fill:#c8e6c9
    style NP fill:#c8e6c9

図 1.13: Newton重力の成果と限界

✅ 理解度チェック: Newton のモデルが説明できない限界を 2 つ以上挙げてください。

答え

(1)「なぜ質量を持つ物体が引き合うのか」を説明していない。(2) 重力が瞬時に伝わることになっており、光速を超える情報伝達を許してしまう(特殊相対論と矛盾する)。(3) 水星の近日点移動(43 秒角/世紀)を説明できない。


次章予告

第 2 章 ——Newton が重力で「地上と天上」を統一したように、Faraday (ファラデー) と Maxwell は電気と磁気を一つのモデルに統一した。そしてそのモデルが予言した「光速」が、Newton の重力の限界を突破する鍵になる。


参考文献

この章の内容は以下の文献を参考に構成した。

  • David Tong, Lectures on General Relativity, Ch.1: "Geodesics in Spacetime" — Newton 力学の場の理論としての定式化、特殊相対論との矛盾
  • Carlo Rovelli, Reality Is Not What It Seems, Ch.2: "The Classics" — ピタゴラスから Newton に至る歴史的文脈
  • Barton Zwiebach, A First Course in String Theory, Ch.3: "Electromagnetism and gravitation in various dimensions" — 重力の次元依存性
  • David Tong, Lectures on General Relativity, Ch.2: "Introducing Differential Geometry" — 最小作用の原理、Lagrangian の導入、練習問題の素材
  • David Tong, Lectures on Quantum Field Theory, Ch.2: "Free Fields" — Noether の定理、対称性と保存量の関係
  • Barton Zwiebach, A First Course in String Theory, Ch.8: "World-sheet currents" — 対称性から保存量を導く具体的な計算
  • 須藤靖『解析力学・量子論』Ch.4 — 最小作用の原理の公理的導入、Lagrangian が \(T - V\) に限られないことの説明
  • 清水明『新版 量子論の基礎』Ch.4, Ch.7 — 有限自由度系と場の Lagrangian、最小作用の原理