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プロローグ 練習問題 解答

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Basic(基礎)

B-1. 自然単位系での次元解析

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方針: \(\hbar = c = 1\) で全ての物理量の次元を \([\text{mass}]^n\) で統一。\([\hbar] = [E][t] = 1 \Rightarrow [t] = [E]^{-1}\)\(c = [\ell]/[t] = 1 \Rightarrow [\ell] = [t]\)。基準は \([E] = [\text{mass}]\)

質量次元 \(n\) 理由
(a) \(E\) \(+1\) \([E] = [\text{mass}]\)(定義)
(b) \(\ell\) \(-1\) \([\ell] = [t] = [E]^{-1}\)
(c) \(t\) \(-1\) \([\hbar] = [E][t] = 1\) より
(d) \(p\) \(+1\) \([p] = [E]/c = [E] \cdot [\text{mass}]^0 = [\text{mass}]\)
(e) \(S\) \(0\) \([S] = [\hbar] = 1\) なので無次元

検算: \([d^4x] = [t][\ell]^3 = [\text{mass}]^{-4}\) なので \([\mathcal{L}] = [\text{mass}]^4\) が必要(A2 で使用)。


B-2. 4 元ベクトルの内積

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\(\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1)\)(mostly minus)。

(a) \(p_\mu = \eta_{\mu\nu}p^\nu\):

\(p_0 = +E, \quad p_1 = -p_x, \quad p_2 = -p_y, \quad p_3 = -p_z\)

(b) 不変量:

\(p^\mu p_\mu = \eta_{\mu\nu}p^\mu p^\nu = (p^0)^2 - |\mathbf{p}|^2 = E^2 - |\mathbf{p}|^2\)

(c) 通常単位系への復元:

自然単位系で \(p^\mu p_\mu = m^2\)\([E] \to [E]/c\)(c で割った形で成分を揃える)と \([m] \to mc^2\) の次元を入れると:

\(\frac{E^2}{c^2} - |\mathbf{p}|^2 = m^2 c^2 \quad\Rightarrow\quad E^2 = |\mathbf{p}|^2 c^2 + m^2 c^4\)

これが通常の相対論的エネルギー-運動量関係。\(\boxed{E^2 = |\mathbf{p}|^2 c^2 + m^2 c^4}\)

検算: 静止状態 \(\mathbf{p} = 0\)\(E = mc^2\) になる。\(m = 0\)(光子)で \(E = |\mathbf{p}|c\) になる。両極限で既知結果と整合。


B-3. 粒子生成の閾値

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(a) 不変質量 \(\sqrt{s}\):

\(p_1^\mu = (E, \mathbf{p}_1), \quad p_2^\mu = (M, \mathbf{0})\)(標的静止)

\(s = (p_1 + p_2)^\mu(p_1 + p_2)_\mu = (E + M)^2 - |\mathbf{p}_1|^2\)

\(|\mathbf{p}_1|^2 = E^2 - m^2\) を代入:

\(s = (E + M)^2 - (E^2 - m^2) = E^2 + 2EM + M^2 - E^2 + m^2 = m^2 + M^2 + 2EM\)

\(\boxed{\sqrt{s} = \sqrt{m^2 + M^2 + 2EM}}\)

(b) Higgs 生成の閾値:

\(p + p \to p + p + H\) で閾値は \(\sqrt{s} = 2m_p + m_H\)\(m = M = m_p\)\(E = m_p + T\) を代入:

\((2m_p + m_H)^2 = 2m_p^2 + 2(m_p + T)m_p = 2m_p^2 + 2m_p^2 + 2m_p T = 4m_p^2 + 2m_p T\)

\(T = \frac{(2m_p + m_H)^2 - 4m_p^2}{2m_p} = \frac{4m_p^2 + 4m_p m_H + m_H^2 - 4m_p^2}{2m_p} = 2m_H + \frac{m_H^2}{2m_p}\)

数値代入(\(m_p = 0.938\ \mathrm{GeV}\), \(m_H = 125\ \mathrm{GeV}\)):

\(T_{\mathrm{thr}} = 2(125) + \frac{125^2}{2 \times 0.938} = 250 + \frac{15625}{1.876} \approx 250 + 8329 \approx 8579\ \mathrm{GeV}\)

\(\boxed{T_{\mathrm{thr}} \approx 8.58\ \mathrm{TeV}}\)

検算: 非対称衝突では閾値エネルギーが対称衝突(重心系)に比べ桁違いに大きくなる現象を定量的に確認。LHC の 13 TeV 重心系衝突は対称衝突方式なので、Higgs(125 GeV)生成に必要な 8.58 TeV 固定標的よりはるかに低いエネルギーで同じ物理が可能。これが対向ビーム衝突の利点。


B-4. Lorentz ブーストの行列操作

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(a) \(\gamma\) の計算:

\(\beta = 3/5, \quad \beta^2 = 9/25, \quad 1 - \beta^2 = 16/25\)

\(\gamma = \frac{1}{\sqrt{1 - \beta^2}} = \frac{1}{\sqrt{16/25}} = \frac{5}{4}\)

\(\boxed{\gamma = 5/4}\)

(b) ブースト後の 4 元運動量:

\(\gamma = 5/4, \quad \gamma\beta = (5/4)(3/5) = 3/4\)

\(p^\mu = (5m, 3m, 0, 0)\) に作用:

\(p'^0 = \gamma p^0 - \gamma\beta p^1 = (5/4)(5m) - (3/4)(3m) = 25m/4 - 9m/4 = 16m/4 = 4m\)

\(p'^1 = -\gamma\beta p^0 + \gamma p^1 = -(3/4)(5m) + (5/4)(3m) = -15m/4 + 15m/4 = 0\)

\(p'^2 = 0, \quad p'^3 = 0\)

\(\boxed{p'^\mu = (4m, 0, 0, 0)}\)

(c) Lorentz 不変量の保存:

\(p^\mu p_\mu = (5m)^2 - (3m)^2 - 0 - 0 = 25m^2 - 9m^2 = 16m^2\)

\(p'^\mu p'_\mu = (4m)^2 - 0 - 0 - 0 = 16m^2\)

両者が一致:\(\boxed{p^\mu p_\mu = p'^\mu p'_\mu = 16m^2}\)

物理的意味: \(p'^\mu = (4m, 0, 0, 0)\) は静止系での 4 元運動量。つまりこのブーストは粒子の静止系への変換(粒子の速度 \(v = p^1/p^0 \cdot c = 3c/5\) に等しい)。静止質量は \(4m\) で、\(m_{\mathrm{rest}}^2 = 16m^2\) は不変量と一致。


B-5. 電子-陽電子対生成の運動学

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(a) 不変質量:

光子 \(k^\mu = (E_\gamma, E_\gamma, 0, 0)\)(質量ゼロ)、原子核 \(P_N^\mu = (M, \mathbf{0})\)

\(s = (k + P_N)^\mu(k + P_N)_\mu = (E_\gamma + M)^2 - E_\gamma^2\)

展開:\(E_\gamma^2 + 2E_\gamma M + M^2 - E_\gamma^2 = 2E_\gamma M + M^2\)

\(\boxed{\sqrt{s} = \sqrt{M^2 + 2E_\gamma M}}\)

(b) 閾値条件 \(\sqrt{s} = M + 2m_e\):

\(M^2 + 2E_\gamma M = (M + 2m_e)^2 = M^2 + 4Mm_e + 4m_e^2\)

\(E_\gamma^{\min} = \frac{4Mm_e + 4m_e^2}{2M} = 2m_e + \frac{2m_e^2}{M}\)

\(M \gg m_e\) の近似:\(\boxed{E_\gamma^{\min} \approx 2m_e}\)

(c) 数値:

\(M \to \infty\) の極限で \(E_\gamma^{\min} = 2m_e = 2 \times 0.511 = 1.022\ \mathrm{MeV}\)

\(\boxed{E_\gamma^{\min} \approx 1.022\ \mathrm{MeV}}\)

物理的意味: 原子核は「反跳相手」として運動量保存を満たすためだけに存在する。質量が十分大きいと実質的にエネルギーを持って行かないため、光子のエネルギーがちょうど電子-陽電子の静止エネルギー \(2m_e c^2\) で対生成が起こる。真空中(相手なし)では運動量保存の要請で対生成できない。


B-6. 添字の縮約練習

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(a) \(\eta^{\mu\nu}\eta_{\mu\nu}\):

\(\eta^{\mu\nu}\eta_{\mu\nu} = \delta^\mu{}_\mu = 4\)(時空の次元)

\(\boxed{\eta^{\mu\nu}\eta_{\mu\nu} = 4}\)

(b) \(\partial_\mu x^\mu\):

\(\partial_\mu x^\mu = \partial_\mu x^\nu \cdot \delta^\mu_\nu = \delta^\mu_\mu = 4\)

あるいは書き下し:\(\partial_0 x^0 + \partial_1 x^1 + \partial_2 x^2 + \partial_3 x^3 = 1 + 1 + 1 + 1 = 4\)

\(\boxed{\partial_\mu x^\mu = 4}\)

(c) d'Alembert 演算子 \(\Box\phi\):

\(\eta^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu = \eta^{00}\partial_0^2 + \eta^{11}\partial_1^2 + \eta^{22}\partial_2^2 + \eta^{33}\partial_3^2 = \partial_0^2 - \partial_1^2 - \partial_2^2 - \partial_3^2\)

\(\boxed{\Box\phi = \frac{\partial^2\phi}{\partial(x^0)^2} - \frac{\partial^2\phi}{\partial(x^1)^2} - \frac{\partial^2\phi}{\partial(x^2)^2} - \frac{\partial^2\phi}{\partial(x^3)^2}}\)

または \(\Box = \partial_t^2 - \nabla^2\)(自然単位系 \(c = 1\)\(x^0 = t\))。

検算: Klein-Gordon 方程式 \((\Box + m^2)\phi = 0\) は平面波 \(\phi = e^{-ip \cdot x}\)\((-p^\mu p_\mu + m^2) = 0\) すなわち \(p^\mu p_\mu = m^2\)(質量殻条件)に帰着する。


B-7. スケール感覚

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スケール eV 換算
(a) \(m_e c^2\) \(0.511\ \mathrm{MeV}\) \(5.11 \times 10^5\ \mathrm{eV}\)
(b) \(m_H c^2\) \(125\ \mathrm{GeV}\) \(1.25 \times 10^{11}\ \mathrm{eV}\)
(c) CMB 光子 \(k_B T \approx 8.617 \times 10^{-5} \times 2.725\) \(\approx 2.35 \times 10^{-4}\ \mathrm{eV}\)
(d) LHC \(13\ \mathrm{TeV}\) \(1.3 \times 10^{13}\ \mathrm{eV}\)

大きい順:

\(\boxed{\text{LHC}\ (10^{13}) > m_H\ (10^{11}) > m_e\ (10^{5.7}) > \text{CMB}\ (10^{-3.6})}\)

スパン: 最高 \(10^{13}\) eV と最低 \(10^{-4}\) eV で 約 17 桁 の差。これでも本文で言及された「40 桁」には及ばない。40 桁の差は、例えば Planck スケール(\(10^{28}\) eV、S4 参照)と中性子の崩壊定数(\(10^{-25}\) eV 程度のエネルギー分解能)を含めると到達する。


Medium(標準)

M-1. 不確定性原理と粒子数変化

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(a) 臨界長さ \(\Delta x_c\):

相対論的に考えると、運動量の不確定性は \(\Delta p \gtrsim \hbar/\Delta x\)。これによるエネルギーの不確定性は \(\Delta E \gtrsim c\Delta p \gtrsim \hbar c/\Delta x\)(超相対論領域)。

エネルギーが \(mc^2\) を超える条件:

\(\frac{\hbar c}{\Delta x} \gtrsim mc^2 \quad\Rightarrow\quad \Delta x \lesssim \frac{\hbar}{mc}\)

右辺は Compton 波長 \(\lambda_C = \hbar/(mc)\) そのもの:

\(\boxed{\Delta x_c = \lambda_C = \frac{\hbar}{mc}}\)

(b) 粒子数変化の必然性:

\(\Delta x < \lambda_C\) では \(\Delta E > mc^2\) となり、エネルギー不確定性の範囲内で質量 \(m\) の粒子-反粒子ペアを仮想的に生成できる(\(E = mc^2\) 分のエネルギーが揺らぎとして許される)。これが「真空の揺らぎ」であり、真空が場の基底状態として動的にゆらぐ姿。

1 粒子の量子力学(Schrödinger 方程式)では粒子の数は保存する定数として扱われるが、\(\Delta x < \lambda_C\) の領域ではこの前提が破綻し、新たな粒子対の生成・消滅を記述できる枠組みが必要 → 場の量子論

(c) 電子の Compton 波長:

\(\lambda_C = \frac{\hbar c}{m_e c^2} = \frac{197\ \mathrm{MeV}\cdot\mathrm{fm}}{0.511\ \mathrm{MeV}} \approx 386\ \mathrm{fm} = 3.86 \times 10^{-13}\ \mathrm{m}\)

\(\boxed{\lambda_C \approx 386\ \mathrm{fm}}\)

比較と結論:

  • 原子スケール\(\sim 10^5\ \mathrm{fm} = 0.1\ \mathrm{nm}\)): \(\Delta x \gg \lambda_C\) なので粒子数の揺らぎは無視可能 → 通常の量子力学で記述できる
  • 原子核スケール\(\sim\) 数 fm): \(\Delta x \lesssim \lambda_C\) なので粒子数の揺らぎが本質的 → 場の量子論が必要

この境界が、量子力学から場の量子論への乗り換えが必然となる物理的な閾値である。

検算: \(\lambda_C\) は「電子と電磁波が同じエネルギーを持つ長さスケール」とも言える。COMPTON 散乱の公式 \(\Delta\lambda = \lambda_C(1 - \cos\theta)\)\(\lambda_C\) をそのまま使うことから、実験と直結している量であることが分かる。


M-2. 弦の振動と「粒子」

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(a) d'Alembert 方程式:

\(\mu\partial_t^2\phi = T\partial_x^2\phi \quad\Rightarrow\quad \partial_t^2\phi - \frac{T}{\mu}\partial_x^2\phi = 0\)

\(v = \sqrt{T/\mu}\) とおくと:

\(\partial_t^2\phi - v^2\partial_x^2\phi = 0\)

1+1 次元の d'Alembert 演算子 \(\Box = \partial_t^2 - v^2\partial_x^2\)\(c\)\(v\) に置き換えたもの)を用いて:

\(\boxed{\Box\phi = 0}\)

(b) 両端固定弦の解:

\(\phi(0,t) = \phi(L,t) = 0\) の境界条件から、空間方向は \(\sin(n\pi x/L)\) 型:

\(\phi(x,t) = \sum_{n=1}^\infty q_n(t)\sin\!\left(\frac{n\pi x}{L}\right)\)

\(\Box\phi = 0\) に代入すると各モードは調和振動子:

\(\ddot{q}_n(t) + \omega_n^2 q_n(t) = 0, \qquad \omega_n = \frac{n\pi v}{L}\)

\(\boxed{\omega_n = \frac{n\pi v}{L}, \quad n = 1, 2, 3, \ldots}\)

(c) 場の量子論の原型としての類推:

弦の各振動モード \(n\) は、独立な 1 次元調和振動子である。調和振動子を量子化すると、第 \(n\) モードのエネルギー準位は \(E_n = \hbar\omega_n(N_n + 1/2)\) で、\(N_n\) は「そのモードに存在する励起量子の数」。

場の量子論では、場 \(\phi(x,t)\) を「弦」、振動モード \(n\) を「運動量 \(\mathbf{k}\)」の 1 対 1 対応と見る:

場の量子論
弦全体 \(\phi(x,t)\) スカラー場 \(\phi(x)\)
振動モード \(n\) 運動量モード \(\mathbf{k}\)
モード振動数 \(\omega_n = n\pi v/L\) $\omega_\mathbf{k} = \sqrt{
モード量子数 \(N_n\) 粒子数 \(N_\mathbf{k}\)
モードのエネルギー \(\hbar\omega_n(N_n + 1/2)\) モードのエネルギー \(\omega_\mathbf{k}(N_\mathbf{k} + 1/2)\)

本文への対応: 「場の振動モードが粒子である」というリナの説明は、まさに弦の各振動モードが調和振動子であり、その励起量子(\(N_n\))が粒子に対応するということ。弦理論(「量子重力問題への挑戦」編)では、さらにこの振動モードが「さまざまな粒子種(質量・スピンが異なる粒子)」に対応するという大胆な拡張を行う。


M-3. 反証可能性と精密一致

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(a) 最低次項の数値:

\(\frac{\alpha}{2\pi} = \frac{1}{2\pi \times 137.036} = \frac{1}{861.02} \approx 1.1614 \times 10^{-3}\)

\(\boxed{\alpha/(2\pi) \approx 0.001161}\)(有効数字 4 桁)

実験値 \(a_e \approx 0.001160\) と一致する部分:

最低次項 \(0.001161\) と実験値 \(0.001160\) は、1 桁目の \(1.16 \times 10^{-3}\) まで一致する。Schwinger (1948) が手計算で出したこの最低次項だけで、実験値の 99.9% 以上を再現。

(b) より高次の項を計算する意義(反証可能性の観点):

最低次項だけで既に実験値の大部分を説明できているが、それで「QED が正しい」と確定したわけではない。実験測定の精度が上がれば、より高次の項(\(\alpha^2\)\(\alpha^3\)、…)の寄与が小数点以下のより深い桁に現れる。もし高次項の予測が実験値とずれれば、QED モデルが何らかの未知の物理効果(例えば未発見の粒子のループ寄与)を取りこぼしている証拠となり、モデルの修正や拡張が必要になる。反対に全次数で一致し続ければ、QED の信頼度はその精度の桁まで保証される。「計算できる→予測できる→検証できる→モデルの信頼度が上がるか棄却される」——この反証可能性こそが、QED を単なる哲学的主張ではなく科学として成立させている。

(c) 仮想シナリオ(15 桁目で不一致)への応答:

「間違っている」ではなく「適用限界が見えた」と解釈するべき。Newton 力学が相対論や量子力学の登場後も低速・巨視的スケールで完全に有効であるように、QED も測定された桁の範囲では有効。15 桁目で不一致が出たとしても、それは QED 全体の棄却ではなく、「より深い理論(例えば標準模型、さらにその先の大統一理論、さらに量子重力)の効果がその精度で見え始めた」ことを意味する。本文の科学哲学的スタンスは「モデルは常に有効範囲付きの仮説であり、精度が上がるごとにより基礎的な理論への階梯が見えてくる」というもので、15 桁目での不一致はまさにそのプロセスの一環。


M-4. Planck スケールの次元解析

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(a) Planck 質量の導出:

\(M_P = G^a \hbar^b c^d\) とおき、次元 \([M_P] = \mathrm{kg}\) から指数を決める。

次元表:

\([G] = \mathrm{m^3\,kg^{-1}\,s^{-2}}, \quad [\hbar] = \mathrm{kg\,m^2\,s^{-1}}, \quad [c] = \mathrm{m\,s^{-1}}\)

\([G^a \hbar^b c^d] = \mathrm{m}^{3a+2b+d}\,\mathrm{kg}^{-a+b}\,\mathrm{s}^{-2a-b-d}\)

\(\mathrm{kg}\) のみの次元:\(3a + 2b + d = 0\), \(-a + b = 1\), \(-2a - b - d = 0\)

第 2 式から \(b = 1 + a\)。第 1 式に代入:\(3a + 2(1 + a) + d = 0 \Rightarrow d = -5a - 2\)。第 3 式に代入:\(-2a - (1 + a) - (-5a - 2) = 0 \Rightarrow 2a + 1 = 0 \Rightarrow a = -1/2\)。よって \(b = 1/2\), \(d = 1/2\)

\(\boxed{M_P = \sqrt{\frac{\hbar c}{G}}}\)

(b) Planck 長と Planck 時間:

同様の手順で(もしくは次元関係から直接導出):

\(\boxed{\ell_P = \sqrt{\frac{\hbar G}{c^3}}, \qquad t_P = \sqrt{\frac{\hbar G}{c^5}}}\)

関係式:\(\ell_P = c \cdot t_P\)\(\ell_P = \hbar/(M_P c)\)(Planck 質量の Compton 波長)、\(t_P = \ell_P/c\)

(c) 数値:

  • \(M_P = \sqrt{\frac{1.055 \times 10^{-34} \times 3.0 \times 10^8}{6.674 \times 10^{-11}}} = \sqrt{\frac{3.165 \times 10^{-26}}{6.674 \times 10^{-11}}} = \sqrt{4.74 \times 10^{-16}} \approx 2.18 \times 10^{-8}\ \mathrm{kg}\)

  • \(\ell_P = \sqrt{\frac{1.055 \times 10^{-34} \times 6.674 \times 10^{-11}}{(3.0 \times 10^8)^3}} = \sqrt{\frac{7.04 \times 10^{-45}}{2.7 \times 10^{25}}} = \sqrt{2.61 \times 10^{-70}} \approx 1.62 \times 10^{-35}\ \mathrm{m}\)

  • \(t_P = \ell_P/c = \frac{1.62 \times 10^{-35}}{3.0 \times 10^8} \approx 5.39 \times 10^{-44}\ \mathrm{s}\)

\(\boxed{M_P \approx 2.18 \times 10^{-8}\ \mathrm{kg}, \quad \ell_P \approx 1.62 \times 10^{-35}\ \mathrm{m}, \quad t_P \approx 5.39 \times 10^{-44}\ \mathrm{s}}\)

(d) GeV 換算と LHC との比較:

\(M_P c^2 = 2.18 \times 10^{-8} \times (3.0 \times 10^8)^2 = 2.18 \times 10^{-8} \times 9.0 \times 10^{16} = 1.96 \times 10^9\ \mathrm{J}\)

\(\frac{1.96 \times 10^9}{1.602 \times 10^{-10}} \approx 1.22 \times 10^{19}\ \mathrm{eV} = 1.22 \times 10^{10}\ \mathrm{GeV}\)

\(\boxed{M_P c^2 \approx 1.22 \times 10^{19}\ \mathrm{GeV} = 1.22 \times 10^{16}\ \mathrm{TeV}}\)

LHC(13 TeV)との比:

\(\frac{M_P c^2}{\sqrt{s}_{\mathrm{LHC}}} = \frac{1.22 \times 10^{16}}{13} \approx 10^{15}\)

論考(100 字程度):

Planck スケールは LHC の約 \(10^{15}\) 倍。場の量子論に重力を素朴に組み込んだ場合、重力の結合強度はエネルギーが上がるに従って強くなり、Planck スケール付近で摂動展開が破綻する。このエネルギー帯に実験で直接到達できる見込みはなく、理論自身の無矛盾性から辿るしかない。


Advanced(発展)

A-1. 同種粒子の不可弁別性(場の量子論では帰結)

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(a) 量子力学での扱い(公理):

量子力学では、同種粒子(例えば 2 個の電子)の波動関数は「粒子 1 と 2 の位置を交換しても物理的に区別できない」という要請から、ボソンは対称、フェルミオンは反対称でなければならないとされる。これは 対称化公理 (symmetrization postulate) として、波動関数の構成レベルで手で課される。すなわち量子力学では、2 粒子波動関数を構築する際に \(|\psi_1\rangle \otimes |\psi_2\rangle + \epsilon |\psi_2\rangle \otimes |\psi_1\rangle\)\(\epsilon = +1\) ボソン、\(\epsilon = -1\) フェルミオン)と対称化/反対称化することが公理的に要求される。

(b) ボソンの不可弁別性の自動的な導出:

交換関係 \([\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1}, \hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2}] = \hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1}\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2} - \hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2}\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1} = 0\) より:

\(\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1}\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2} = \hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2}\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1}\)

真空に作用させて:

\(|\mathbf{p}_1, \mathbf{p}_2\rangle = \hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1}\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2}|0\rangle = \hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_2}\hat{a}^\dagger_{\mathbf{p}_1}|0\rangle = |\mathbf{p}_2, \mathbf{p}_1\rangle\)

\(\boxed{|\mathbf{p}_1, \mathbf{p}_2\rangle = |\mathbf{p}_2, \mathbf{p}_1\rangle}\)

(c) フェルミオンの反対称性と Pauli 排他原理:

反交換関係 \(\{\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1}, \hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2}\} = \hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1}\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2} + \hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2}\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1} = 0\) より:

\(\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1}\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2} = -\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2}\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1}\)

よって 2 フェルミオン状態:

\(|\mathbf{p}_1 s_1, \mathbf{p}_2 s_2\rangle = \hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1}\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2}|0\rangle = -\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_2,s_2}\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p}_1,s_1}|0\rangle = -|\mathbf{p}_2 s_2, \mathbf{p}_1 s_1\rangle\)

交換に対して反対称。さらに \(\mathbf{p}_1 = \mathbf{p}_2\), \(s_1 = s_2\) の場合、反交換関係 \(\{A, A\} = 2A^2 = 0 \Rightarrow A^2 = 0\) より:

\((\hat{b}^\dagger_{\mathbf{p},s})^2|0\rangle = 0\)

\(\boxed{\text{同じ量子状態に 2 つのフェルミオンは存在できない(Pauli 排他原理)}}\)

(d) 世界観の転換(300 字程度):

量子力学では、2 粒子波動関数を作る際に対称化 / 反対称化を「手で課す」ことが要求されていた。これが対称化公理で、公理とは「そう仮定することで実験と合う」という暫定的な要請である。場の量子論では、粒子は独立な実体ではなく場の量子的励起であり、同じ場の同じモードから生成された励起量子は、生成された瞬間から区別の仕方がない。生成演算子の交換関係(ボソン)/ 反交換関係(フェルミオン)という代数的構造を場の量子化の枠組みに組み込むだけで、対称性・反対称性・Pauli 排他原理が帰結として自動的に導出される。公理が定理に格下げされるこの転換は、「粒子が本質的実体」から「場が本質的実体」への世界観の変化を定量的に示している。さらにスピン-統計定理により、どの場を交換関係で量子化し、どれを反交換関係で量子化するかも場の Lorentz 性から決定される。


A-2. 重力結合定数の次元解析とくりこみ不可能性

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(a) QED の結合定数 \(e\) の次元:

\(\mathcal{L}_{\mathrm{int}} = -e\,\bar{\psi}\gamma^\mu\psi\,A_\mu\) の各因子:

  • \([\bar{\psi}\psi] = [\psi]^2 = [\text{mass}]^{3}\)
  • \([\gamma^\mu] = [\text{mass}]^0\)(無次元の定数行列)
  • \([A_\mu] = [\text{mass}]^1\)

よって \([\bar{\psi}\gamma^\mu\psi A_\mu] = [\text{mass}]^{3+0+1} = [\text{mass}]^4\)\([\mathcal{L}] = [\text{mass}]^4\) なので:

\([e] = [\text{mass}]^{4-4} = [\text{mass}]^0\)

\(\boxed{[e] = 0 \quad(\text{無次元})}\)

(b) 重力定数 \(G\)\(\kappa\) の次元:

Einstein-Hilbert 作用 \(S_{\mathrm{EH}} = \frac{1}{16\pi G}\int d^4x\sqrt{-g}\,R\) で、\([d^4x] = [\text{mass}]^{-4}\), \([R] = [\text{mass}]^2\), \([\sqrt{-g}] = [\text{mass}]^0\), \([S] = 0\)

\(0 = [G]^{-1} \cdot [\text{mass}]^{-4} \cdot [\text{mass}]^2 \quad\Rightarrow\quad [G]^{-1} = [\text{mass}]^{2}\)

\(\boxed{[G] = [\text{mass}]^{-2}}\)

\(\kappa = \sqrt{32\pi G}\)

\(\boxed{[\kappa] = [G]^{1/2} = [\text{mass}]^{-1}}\)

(c) くりこみ分類:

結合定数 質量次元 \(\delta\) 分類
\(e\)(QED) \(0\) くりこみ可能 (renormalizable)
\(G\)(重力) \(-2\) くりこみ不可能 (non-renormalizable)
\(\kappa\)(重力の線形化結合) \(-1\) くりこみ不可能

(d) なぜ重力の量子化に場の量子論を超える枠組みが必要か(300 字程度):

くりこみ不可能な理論(\(\delta < 0\))では、各ループ次数ごとに新しいタイプの発散(より高い運動量次数の発散)が現れ、それを吸収するために無限種類の反項(counterterm)が必要になる。有限個のパラメータでは制御できないため、予測力が失われる。量子重力で \([G] = [\text{mass}]^{-2}\) となる根本原因は、重力が「時空そのものの幾何学」を記述するため、高次元の量(Ricci テンソルの高階微分)が結合定数と合わさって発散を量産することにある。本文でリナが「点粒子を有限の広がりを持つ弦に置き換える」と説明した弦理論のアイデアは、この UV 発散そのものを構造的に緩和する。弦の広がり (\(\sim \ell_s\)) が高運動量 (\(\mathbf{k} \gg 1/\ell_s\)) での相互作用を softening し、くりこみ不可能性という場の量子論の壁を迂回する。これが重力の量子化に場の量子論を超える枠組みが必要とされる核心的な理由である。